説明

エプスタイン−バールウイルスに関連するペプチド及び核酸配列

【課題】エプスタイン−バーウイルス(EBV)を検出する方法を提供する。
【解決手段】エプスタイン−バーウイルス(EBV)に対する抗体と免疫化学的に反応性のペプチドであって、EBV読取枠BFRF3及びBdRF1の内部に夫々コードされたVCA−p18またはVCA−p40タンパク質の少なくとも一部を含むペプチドまたはその機能性変種、これらのペプチドをコードする核酸配列、これらのペプチドに対するモノクローナル抗体、モノクローナル抗体及び抗イディオタイプ抗体を産生し得る細胞系、該核酸配列を含む組換えベクター分子、これらのベクター分子によって形質転換もしくはトランスフェクトされた宿主細胞、EBV抗体または抗−EBV抗体を検出するための免疫試薬及び方法、並びにエプスタイン−バールウイルス核酸の増幅及び検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗エプスタイン−バールウイルス(EBV)抗体に対して免疫化学的に反応性のペプチド、これらのペプチドをコードする核酸配列、これらのペプチドに対するモノクローナル抗体、モノクローナル抗体を産生することが可能な細胞系及び抗イディオタイプ抗体に係る。本発明は更に、本発明の核酸配列を含む組換ベクター分子及びこれらのベクター分子で形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞に係る。本発明は更に、EBV又は抗EBV抗体を検出するための免疫学的試薬及び方法、並びにエプスタイン−バールウイルス核酸の増幅及び検出方法にも係る。
【背景技術】
【0002】
EBVは、アフリカ(地方病性即ちe)形のバーキットリンパ腫(BL)に関して最初に発見された偏在性ヒトヘルペスウイルスである。その後、該ウイルスは上咽頭癌(NPC)に関連することも発見され、感染性単核症(IM)の原因物質であることが示された。感染は通常、幼時期に行われ、一般には無症状であるが、軽度の症状を伴う場合もある。しかしながら、青年期又は成人期に感染すると、末梢における異型リンパ球の存在により特徴付けられるIMを生じる恐れがある。これらのリンパ球の大半はTリンパ球であるが、EBVに感染した少数のBリンパ球も含まれる。Bリンパ球の感染は、in vitroでも行われ得る。このような細胞は形質転換されて培養により無限に増殖し、「不滅化」、「潜伏感染」又は「増殖形質転換」細胞などと呼称されている。従来知られている限りでは、EBVに感染した全個体は一生潜伏感染したままである。これは、循環末梢血液リンパ球中に少数のEBV−ゲノム陽性形質転換B細胞が一生持続的に存在することと、ウイルスが中咽頭に連続的且つ周期的に放出されることにより立証された。
【0003】
大部分の症例ではEBV感染の結果、一時的に衰弱性であり得るが、常に良性且つ自己限定性なリンパ増殖性疾患を生じる。しかしながら、免疫抑制された個体では結果が完全に悪性になる場合もある。故意に免疫抑制した個体、特にシクロスポリンAで治療した臓器移植幼児、このごろではHIV感染個体の場合、又は昔からみられるような遺伝的にXLP(x連関増殖症候群)遺伝子を有する疾患男子の場合のような個体がこれに該当する。これらの場合、悪性結果はEBV感染B細胞のポリクローナル増殖に起因する。更に、このような患者では口腔白斑症の病変部にウイルスの無制御な上皮複製を検出することができる。従って、免疫応答はEBV感染の制御に中枢的な役割を果たす。
【0004】
上述のように、EBVはヘルペスウイルスの1員である。EBVは以下の構造特性を有する。
−EBVゲノムは直鎖状二重鎖DNA分子(173000塩基対)から構成される。
−ビリオンは20面体キャプシドに包囲されたコア(タンパク質及びDNA)とキャプシドを包囲する膜エンベロープとから構成される。20面体キャプシドは6量体又は5量体キャプソメアから構成される。膜エンベロープは外側表面にスパイクを有するタンパク質/脂質2重膜から構成される。キャプシドシェルとエンベロープとの間のスペースは、テグメントと呼称されるアモルファスタンパク質で充填されている。
−全ヘルペスウイルスと同様に、EBVは一次感染後に宿主中で一生潜伏感染を生じ得る。この潜伏は、EBVとそのヒト宿主との間で宿主免疫系により制御される完全な平衡を意味する。
【0005】
従来、ほとんどの生化学的及び生物学的研究は3種のEBV原型株、即ちB95−8(マーモセット細胞系で産生された形質転換ウイルス)、P3HR1(バーキットリンパ腫細胞系により産生された非形質転換ウイルス)及びRaji(バーキットリンパ腫細胞系における潜伏ウイルス)で実施されている。
【0006】
ここ数年間に原型ウイルス株B95−8の完全DNA配列が決定された。この配列の解析の結果、80以上のオープンリーディングフレームが同定された(Baerら, 1984, Nature 310, p.207−211)。
【0007】
EBVはその生物学的特性(潜伏感染)が従来のウイルス解析に適していないため、生物学的研究に特に問題がある。更に、細胞及び宿主範囲は一般にin vitroで培養することができないヒト(及び少数の高等霊長類)Bリンパ球及び上皮細胞に事実上制限される。更に、ウイルスが溶菌複製する完全に許容可能な細胞型が存在しないため、大量のウイルスの製造能力は非常に制限されている。
【0008】
B95−8,P3HR1及びRaji単離株のDNA分子は従来、詳細な制限エンドヌクレアーゼマッピング、大腸菌プラスミド及びバクテリオファージλへのクローニング、並びにヌクレオチド配列決定のための原型であった。
【0009】
EBV−ゲノムは、ユニークなタンデムに反復するDNA成分から構成される単一の二重鎖DNA分子から構成される。DNA分子の各末端は、ゲノムの共有結合及び循環を可能にする多重末端配列を含む。ウイルス粒子内では、EBVゲノムは直鎖形でしか検出することができない。他方、潜伏感染細胞の核の内側では円形エピソームとして存在する。
【0010】
内部反復配列IR1〜IR4は、EBVゲノムを5つのユニーク領域に分離する。U2及びU3領域はEBV単離株によって著しく異なり、U2はEBVのP3HR−1株ではほぼ完全に欠失されている。
【0011】
EBVリーディングフレームの名称はウイルスゲノムにおけるその位置に基づく。名称は、発現が開始されるBamH1又はEcoR1制限フラグメントの頭文字で始まる。名称の3番目の文字は、発現が標準地図上で左向きであるか右向きであるかに依存してL又はRである(例えば、BLLF2はBamH1制限フラグメントLで開始する第2番目の左向きのリーディングフレームである)。
【0012】
EBVの産生サイクルにおけるウイルス抗原の血清学的分類は、種々の蛍光法により行われる。
【0013】
固定した潜伏感染B細胞(例えばRaji細胞)の核中で抗補体免疫蛍光法により特異的に検出された抗原は、エプスタイン−バール核抗原(EBNA)として分類される。
【0014】
化学的因子又はウイルス因子によるウイルス遺伝子発現の活性化後、ウイルスDNA合成の阻害により合成が阻止されるような初期抗原(EA)の類が検出される。使用される固定液の型(メタノール又はアセトン)に応じて2種の異なるEA組即ちEAR及びEADが検出可能である。EAは誘導細胞の細胞質及び核中で間接免疫蛍光法により検出可能である。ウイルスDNA合成の開始後(この合成に依存して)、ウイルス産生細胞(例えばP3HR1細胞)の細胞質及び核中で間接免疫蛍光法により検出可能なウイルス構造タンパク質(VCA)が合成される。ウイルス産生のために誘導された生存可能な感染細胞の表面には、1組の抗原(MA)が間接的免疫蛍光法により検出可能である。これらの抗原はウイルスエンベロープ上にも検出することができ、ウイルス中和のための重要なターゲットである。ヒト血清中におけるEBV特異抗原の検出は、Menke及びHenle(Human Pathology, 5, 551−565, 1974)により記載されているような血清学的方法により定型的に実施することができる。
【0015】
生化学及び免疫蛍光データに基づき、5種の異なる抗原分子の型を区別することができる。種々のウイルスポリペプチドはその分子量により命名され、ウイルスエンベロープタンパク質以外は共通名称がついていない。5種の異なる抗原グループは以下の通りである。
A.潜伏状態中に発現される抗原グループ(EBNA及びLMP)。
B.ゲノム活性化及びウイルス増殖の初期誘導に関与する抗原グループ(IEA)。
C.IEA遺伝子産物により誘導され、ウイルスDNAの複製に必要な抗原グループ。これらの抗原は大部分がウイルス酵素である(EA)。
D.ウイルス粒子の構造成分であり、ウイルスDNA合成の開始後にウイルス増殖サイクルで後期に発現される抗原グループ(VCA)。
E.感染細胞の細胞膜中で発現される抗原グループ(MA)。
EBVのウイルスキャプシド抗原(VCA)。
【0016】
この抗原複合体については、使用されるポリアクリルアミドゲル系、細胞系及び化学的インデューサ並びに使用される血清が異なるため、種々の研究で同定されたEBV特異的タンパク質を比較するのは困難であるという問題もある。
【0017】
Dolyniukら(1979)は、精製ビリオンに関連する合計33個のタンパク質について記載している。洗浄剤による示差可溶化によると、ヌクレオキャプシドは少なくとも7個のタンパク質から構成されると考えられる。VCA複合体の主要成分は主要キャプシドタンパク質(MCP)である。EBV−MCPはウイルスゲノムのBcLF1リーディングフレームの内側でコードされ(Bearら,1984)、7.5〜9.0のpIを有するEBV産生細胞系で153〜160kDa非グリコシル化タンパク質として発現される。このタンパク質は細胞質中で可溶形態で合成された後、核に輸送され、キャプシドに封入され、もはや洗浄剤により可溶化されない。別の主要VCA成分は125kDaの分子量を有しており、グリコシル化されている。このタンパク質はウイルスゲノムのBALF4リーディングフレームの内側でコードされる。この糖タンパク質は最初はVCA成分として分類されたが、最近の知見によると、実際には細胞質及び核膜構造に関連するものと思われる。
【0018】
従来記載されている実験(J.M.Middeldorp及びP.Herbrink,J.Virol.Meth.,21,133−146,1988)は、種々のEBV疾患に関して診断上関連するEBVマーカータンパク質の同定及び特徴付けを目的としている。
【0019】
これは、VCA/EA又はEAの発現のために誘導されたウイルス産生細胞系HH514−C16(P3HR1の超誘導体)、並びにEBV陰性細胞系Ramos及びBjabから調製された抗原を含むイムノブロットストリップを使用することにより実施された。(完全な)潜伏状態でEBVゲノムを担持する細胞系即ちX50−7及びJC−5を使用して詳しくEBNA/LMPを研究することができる。
【0020】
健康な血清陽性供血者の血清と、IM患者及び慢性IM患者又は上咽頭癌のようなEBV関連腫瘍患者の血清とでEBV抗体応答のパターンが研究された。定義されたEBVゲノム産物に対して反応性のポリクローナル及びモノクローナル抗体を使用し、この実験系で検出されたタンパク質バンドのいくつかを特徴付けることができる。しかしながら、これらの研究は所定の分子量を有するポリペプチドのタンパク質についてしか記載していない。これらのタンパクのEBVゲノム上のコーディング配列については何ら記載されていない。イムノブロット上の免疫反応バンドが同一分子量の単一タンパク質との反応によるのか又は複数タンパクとの反応によるのかについては不明である。
【0021】
イムノブロット法を使用すると、18kDaの分子量を有するEBV抗原を検出することが可能である。このタンパク質はウイルスDNA合成を阻止するためにホスホノ酢酸(PAA)を使用する場合には発現されず、抗VCA抗体を含む全血清により検出されることから、VCA関連成分であると考えられる。別のVCA成分は40kDaの分子量を有するタンパク質である。ウイルスキャプシド抗原の多くは核ペレットに関連している。
【0022】
現在、EBV特異的血清診断は、かなり主観的な免疫蛍光試験により行われている。標準ウイルス産生細胞系を使用してウイルス抗原を大量生産及び精製することはできないので、より簡単で均質な診断法(例えばELISA)への発展は妨げられている。これを実現するための唯一の手段は、代替的に製造されたEBV抗原を使用することであると思われる。これらのEBV抗原は遺伝子工学法又は合成ペプチド法により製造することができる。
【0023】
EBV感染の種々の段階で確実な診断を実施できるように特異的且つ高感度の方法を開発するためには、免疫優性ウイルスタンパク質及びそのエピトープを同定することが極めて重要である。
【発明の開示】
【0024】
本発明は、夫々エプスタイン−バールウイルス(EBV)オープンリーディングフレームBFRF3及びBdRF1の内側でコードされたVCA−p18又はVCA−p40タンパク質の少なくとも一部を含み、抗エプスタイン−バールウイルス抗体に対して免疫化学的に反応性のペプチド又はそのフラグメントを提供する。従って、夫々176及び345個のアミノ酸、並びにEBV抗体に対して免疫化学的に反応性である配列番号2及び4に示すアミノ酸配列を有するペプチドが本発明に含まれる。
【0025】
本発明のペプチドは、試料中のEBV又はEBV抗体の存在を決定するための診断方法で使用するのに特に適していることも判明した。更に、本発明のペプチドのうちには、EBV関連疾患の治療に適切な製薬形態で使用できるものもある。こうして得られ、ペプチド又はそのフラグメントを有効成分として含有するワクチンの製造は当業者に公知である。
【0026】
天然EBVとは対照的に、本発明のペプチドは安全な非感染起源であるという大きな利点を有する。
【0027】
本発明は更に、抗エプスタイン−バールウイルス抗体に対して同様に免疫化学的に反応性である該ペプチドのフラグメントも包含する。
【0028】
本明細書で使用される「ペプチド」なる用語は、生物学的活性を有するアミノ酸の分子鎖を意味し、産物の特定長を表すものではない。従って、特にタンパク質、融合タンパク質又は融合ペプチド、オリゴペプチド及びポリペプチドが含まれる。必要に応じて本発明のペプチドは、例えばグリコシル化、アミド化、カルボキシル化又はリン酸化によりin vivo又はin vitroで修飾することができる。従って、本発明のペプチドの機能的変異体、例えば酸付加塩、アミド、エステル(特にC末端エステル)及びN−アシル誘導体も本発明の一部とみなされる。本発明に含まれる個々のタンパク質又はポリペプチドには天然(通常の)変異が存在するものと理解されよう。これらの変異は、例えば配列全体のアミノ酸変異又は該配列におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入、逆位もしくは付加により表される。生物学的及び免疫学的活性を本質的に変えないことが期待できるようなアミノ酸置換については既に報告されている。関連アミノ酸間のアミノ酸置換、又はしばしば進化中に生じた置換としては、特にSer/Ala、Ser/Gly、Asp/Gly、Asp/Asn、Ile/Valが挙げられる(Dayhof,M.D, Atlas of protein sequence and structure, Nat.Biomed.Res.Found., Washington D.C.,1978 vol.5 suppl.3参照)。この情報に基づき、Lipman及びPearsonは迅速且つ高感度でタンパク質を比較し(Science 227 1435−1441 1985)、相同タンパク質間の機能的類似性を決定するための方法を開発した。
【0029】
本明細書で使用される「フラグメント」なる用語は、本発明のペプチドのサブ配列を含むアミノ酸配列を意味する。該フラグメントは、VCA−p18又はVCA−p40タンパク質の1種以上の抗原決定基を有するペプチドである。フラグメントは特に、DNAの場合には制限エンドヌクレアーゼを使用し、ポリペプチドの場合にはプロテアーゼを使用して前駆物質分子の酵素切断により製造することができる。他の方法としては、フラグメントの化学的合成及びDNAフラグメントによるペプチドフラグメントの発現などがある。
【0030】
1つ以上のエピトープを含む本発明のペプチドの適当な免疫原フラグメントは、いわゆるペプスキャン(pepscsan)方法、即ち問題の完全ポリペプチドの部分的配列に対応する部分的に重複した一連のペプチドを合成し、抗体に対するこれらペプチドの反応性を調べる方法に基づく、特許出願WO86/06487号、Geysen、H.M.ら(Proc.Natl.Acad.Sci.81,3398−4002,1984)、Geysen,H.M.ら(J.Immunol.Meth.102,259−274,1987)の方法によって検出できる。また、これらペプチドの多くの領域は、理論的考察(これらの理論的考察の予測の価値(predictive value)は限定られているが)に基づく指定されたエピトープであり得る。これらの領域の決定は、Hopp及びWoodsの親水性基準(Proc.Natl.Acad.Sci.78,3824−3828,1981)とChou及びFasmanの二次構造アスペクト(Advances in Enzymology 47,45−148,1987)との組合わせに基づく。
【0031】
本発明の好ましいペプチドは、SEQ ID NO:5及びSEQ ID NO:6に示すようなアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含むペプチドである。最も好ましいのは、SEQ ID NO:6に示すようなアミノ酸配列に連結したSEQ ID NO:5に示すようなアミノ酸を含むペプチドである。このようなコンビペプチド(combi−peptide)は、EBV−VCAに対するIgG、IgA、IgM抗体の特異的検出に極めて有用であり、標準的な血清学的方法と同等かそれ以上の感度を有することが判明した。このようなIgM−EBVが急性一次EBV感染の有用な診断マーカー(diagnostic marker)であるのに対し、EBVに対するIgAは上咽頭癌の診断及び予後に有用である。EBV−IgGは総てのヒトEBVキャリヤーでは陽性であり、該ウイルスに感染していない個体では陰性である。また、特定のサブクラスの各抗体に関する抗体力価の変化も診断上の価値(diagnostic value)を有し得る。種々のサブクラスの抗体はEBV感染の種々の段階で特異的な診断価値を有するため、本発明のコンビペプチドを例えばELISAのような診断テストで使用すれば極めて有利であり得る。
【0032】
本発明のペプチド又はそのフラグメントの製造は、公知の有機化学的ペプチド合成方法の1つ又は組換えDNA技術を用いて行う。
【0033】
有機化学的ペプチド合成方法は、均質相中での又はいわゆる固相を用いる縮合反応による必要なアミノ酸の結合を含むとみなされる。前記縮合反応は下記のように実施し得る:
a)遊離カルボキシル基と別の保護された反応基とを有する化合物(アミノ酸、ペプチド)を、縮合剤の存在下で、遊離アミノ基と別の保護された反応基とを含む化合物(アミノ酸、ペプチド)と縮合させる;
b)活性化カルボキシル基と別の遊離もしくは保護された反応基とを含む化合物(アミノ酸、ペプチド)を、遊離アミノ基と別の遊離もしくは保護された反応基とを含む化合物(アミノ酸、ペプチド)と縮合させる。
カルボキシル基の活性化は特に、カルボキシル基を、酸ハロゲン化物、アジ化物、無水物、イミダゾリド(imidazolide)又は活性化エステル、例えばN−ヒドロキシ−スクシンイミド、n−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾールもしくはp−ニトロフェニルエステルに変換することによって実施し得る。
【0034】
前記縮合反応の最も一般的な方法は、カルボジイミド法、アジド法、混合無水物法、及び活性化エステルを用いる方法である。これらの方法は例えばPeptides,Analysis,Synthesis,Biology Vol.1−3(Gross,E.及びMeienhofer,J.編)1979,1980,1981(Academic Press,Inc.)に記載されている。
【0035】
前述のような本発明のペプチドの適当なフラグメントを「固相」を用いて製造する方法は、例えばJ.Amer.Chem.Soc.85,2149(1963)及びInt.J.Peptide Protein Res.35,161−214(1990)に記述されている。製造すべきペプチドのアミノ酸の結合は通常カルボキシル末端側から始まる。
【0036】
この方法には、反応基を担持しているか又は反応基の導入が可能な固相が必要とされる。これは例えば、反応性クロロメチル基を有するベンゼンとジビニルベンゼンとのコポリマー、又はヒドロキシメチルもしくはアミン官能基と反応するようにしたポリマー固相であり得る。特に適当な固相は例えば、Wang(1974),J.Am.Chem.Soc.95,1328に記述されているp−アルコキシベンジルアルコール樹脂(4−ヒドロキシ−メチル−フェノキシ−メチル−コポリスチレン−1%ジビニルベンゼン樹脂)である。ペプチドは合成後に緩和条件下で前記固相から分離し得る。
【0037】
所望のアミノ酸配列の合成後は、例えばトリフルオロメタンスルホン酸を用いて、又はトリフルオロ酢酸に溶解したメタンスルホン酸を用いて、樹脂からペプチドを分離する。ペプチドはまた、低級アルコール、好ましくはメタノール又はエタノールでのエステル交換(transesterification)により担体から除去することができる。この場合は、ペプチドの低級アルキルエステルが直接形成される。また、アンモニアを用いて分離すると本発明のペプチドのアミドが得られる。
【0038】
前記縮合反応に参加し得ない反応基は、既述のように、酸もしくは塩基を用いる加水分解又は還元によって極めて容易に再除去できる基により効果的に保護される。例えばカルボキシル基は、例えばメタノール、エタノール、第三ブタノール、ベンジルアルコール又はp−ニトロベンジルアルコール及び固体支持体に結合したアミンでのエステル化により効果的に保護することができる。
【0039】
アミノ基を効果的に保護できる基としては、エトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシ−カルボニル(t−boc)もしくはp−メトキシ−ベンジルオキシカルボニル基、又はスルホン酸から誘導された酸基、例えばベンゼンスルホニルもしくはp−トルエン−スルホニル基が挙げられるが、その他に、置換もしくは未置換アリールもしくはアラルキル基のような基、例えばベンジル及びトリフェニルメチル、又はオルト−ニトロフェニルスルフェニル及び2−ベンゾイル−1−メチル−ビニルのような基も使用できる。特に適当なα−アミノ保護基は例えば、塩基に敏感な9−フルオレニル−メトキシカルボニル(Fmoc)基[Carpino & Han(1970),J.Amer.Cehm.Soc.92,5748]である。
【0040】
使用可能な保護基は例えばThe Peptides,Analysis,Synthesis,Biology,Vol.1−9(Gross,Udenfriend及びMeienhofer編)1979−1987(Academic Press Inc.)に詳述されている。
【0041】
また、リシンのε−アミノ基を保護することも必要であり、アルギニンのグアニジン基に関しては適切なことである。この場合の一般的な保護基は、リシンの場合にはBoc基、アルギニンの場合にはPmc基、Pms基、Mbs基又はMtr基である。
【0042】
これらの保護基は、例えばトリフルオロ酢酸を用いて、又は例えば水素とパラジウムのような触媒もしくは氷酢酸中のHBrを用いる緩和還元により、個々の基の種類に応じて種々の一般的方法で除去できる。
【0043】
既述のように、本発明のペプチドは組換えDNA技術によって製造することもできる。この可能性は、ペプチドを反復配列に組込む(“in tandem”)場合、又はペプチドが(遥かに大きい)タンパク質もしくはポリペプチドの構成要素として、あるいは例えば〓−ガラクトシダーゼ(の一部分)との融合タンパク質として製造され得る場合には特に重要である。従って、この種のペプチドも本発明の範囲内に含まれる。そのためには、組換えDNAの構成要素として、本発明のペプチドをコードし且つ核酸セグメントを実質的に含まない核酸配列を使用する。前記核酸セグメントは天然のEBVゲノム中で前記核酸配列の側方に位置するものである。
【0044】
この方法は、宿主として適当な微生物中で、問題の1つ以上のペプチドをコードする核酸配列を含む組換えポリヌクレオチドを発現させることにより、所望のペプチドを製造する操作を含む。
【0045】
従って本発明は、本発明のペプチドをコードする核酸配列も包含する。この核酸配列は、SEQ ID NO:1及び/又は3に示すような核酸配列の少なくとも一部分を含むのが好ましい。
【0046】
本明細書中の「核酸配列」は、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを意味し、リボ核酸配列及びデオキシリボ核酸配列の両方にかかわる。原則として、この用語は分子の一次構造にかかわる。従ってこの用語には、二本鎖及び一本鎖DNAと、二本鎖及び一本鎖RNAと、これらを修飾したものとが含まれる。本発明の核酸配列は、天然の状態では該核酸配列と結合しない種々の複製実行DNAに連結でき、その結果適当な宿主の形質転換又はトランスフェクションに使用し得るいわゆる組換えベクター分子が得られる。有用な組換えベクター分子は、好ましくは、例えばプラスミド、バクテリオファージ、コスミド又はウイルスに由来する。本発明の核酸配列をクローンするのに使用できる特定のベクター又はクローニングビヒクルは当業者には公知であり、その具体例としては特にpBR322のようなプラスミドベクター、種々のpUC、pGEM及びBluescriptプラスミド、バクテリオファージ、例えばkgt−Wes、Charon 28及びM13由来ファージ又はウイルスベクター、例えばSV40、アデノウイルス又はポリオーマウイルスが挙げられる(Rodriquez,R.L.及びD.T.Denhardt編,Vectors:A survey of molecular cloning vector and their uses,Butterworths,1988;Lenstra,J.A.ら,Arch.virol.110,1−24,1990も参照のこと)。本発明の組換えベクター分子の構築に使用される方法は当業者には公知であり、特にManiatis,T.らの論文(Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版;Cold Spring Harbor Laboratory,1989)に記述されている。例えば、本発明の核酸配列をクローニングベクターに挿入する操作は、遺伝子及び所望のクローニングビヒクルの両方を同じ制限酵素で切断すると、相補DNA末端が形成されるために容易に実施できる。
【0047】
本発明の組換えベクター分子は更に、所望の形質転換体の選択に使用し得る1つ以上のマーカー活性、例えばpBR322中のアンピシリン及びテトラサイクリン耐性、例えばpUC8におけるアンピシリン耐性及びβ−ガラクトシダーゼのα−ペプチドを含み得る。
【0048】
本発明は、対応する核酸配列の発現によって本発明のペプチドを産生することができる、核酸配列又は前述の組換え発現ベクター分子で形質転換又はトランフェクションした宿主細胞も包含する。適当な宿主細胞は、ペプチドをコードする核酸配列によって、又はこのような核酸配列を含み且つ所望であれば前述の核酸配列によりコードされる前記ペプチドの発現に使用し得る組換えベクター分子によって形質転換できる微生物又は細胞である。この宿主細胞は原核生物由来のもの、例えば大腸菌(Escherichia coli)、Bacillus subtilis及びPseudomonas種のような細菌に由来するもの;又は真核生物由来のもの、例えばSaccharomyces cerevisiaeのような酵母あるいはより高等な真核細胞、例えば昆虫細胞、植物細胞、もしくはHeLa細胞及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む哺乳動物細胞に由来するものであり得る。一般的には、本発明で有用な組換えベクター分子の構築には真核細胞の方が好ましい。発現のためには、本発明の核酸配列を発現ベクター中に導入する。即ち、前記配列を発現制御配列に操作可能なように結合する。このような制御配列はプロモーター、エンハンサー、オペレーター、インデューサー、リボソーム結合部位等を含み得る。従って本発明は、形質転換又はトランフェクションした宿主細胞中で自分が含んでいるDNA配列を発現することができる、発現制御配列に作用可能なように結合し前述の特定したペプチドをコードする核酸配列を含む組換えベクター分子を提供する。勿論、クローニングベクターの選択された部位に挿入されるヌクレオチド配列は、形質転換又はトランフェクションされた宿主が少なくとも1つの免疫原性決定基を有するポリペプチドを産生する限り、本発明のペプチドをコードする完全核酸配列のフラグメントだけを含み得る。
【0049】
本発明のペプチドに対する抗体も本発明の範囲に含まれる。前述の方法で形成されたペプチド又はそのフラグメントはポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を産生するのに使用される。本発明のペプチドに対するモノクローナル抗体は当業者によって容易に産生できる。本発明のVCA−p18タンパク質の種々のエピトープに対する好ましい抗体は、Porton Down(UK)のEuropean Culture of Animal Cell Cultures(ECACC)に寄託番号93020413又は93020412で寄託去れたラット−マウスハイブリドーマ細胞系によって産生した抗体と同様の反応性をVCA−p18に対して示す抗体である。VCA−p40タンパク質のエピトープに対する好ましい抗体は、Porton Down(UK)のEuropean Culture of Animal Cell Cultures(ECACC)に暫定的寄託番号93020414で寄託されたマウス−マウスハイブリドーマ細胞系によって産生した抗体と同様の反応性をVCA−p40に対して示す抗体である。
【0050】
本発明のモノクローナル抗体を分泌できる無限増殖性化した細胞系も本発明の範囲に含まれる。モノクローナル抗体を産生する細胞系の形成は、例えばKohler及びMilsteinの方法(Kohler及びMilsteinはモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを形成する技術を創案した(G.Kohler及びC.Milstein,1975,Nature 256:495−497;1976,Eur.J.Immunol.6:511−519))、Epstein−Barrウイルスでの形質転換、腫瘍形成性DNAによるBリンパ球の直接形質転換方法、ヒトもしくはマウス−ヒトハイブリッド骨髄腫細胞系を融合相手とするヒトBリンパ球の直接融合、又はEBV形質転換B細胞と前記骨髄腫細胞系との直接融合によって実施し得る。
【0051】
本発明の好ましい細胞系は、Porton Down(UK)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)に寄託番号93020413、93020412、93020414で寄託された細胞系である。これらの細胞系は、1977年のブダペスト条約の条件に従い、1993年2月4日にECACCに寄託された。
【0052】
寄託番号93020413及び93020412の細胞系はどちらも、VCA−p18タンパク質の2つのエピトープに対するモノクローナル抗体(それぞれEBV.OT15E及びEBV.OT151)を産生することができる。これらの細胞系はラット−マウスハイブリドーマ細胞系である。暫定的寄託番号93020414の細胞系は、VCA−p40タンパク質のエピトープに対する抗体を産生することができ、マウス−マウスハイブリドーマ細胞系である。これらの細胞系によって産生された抗体は、それぞれのタンパク質のエピトープを同定するのに使用した(後述の実施例で説明する)。
【0053】
本発明のペプチドに対する抗体はモノクローナルでもポリクローナルでも、組織試料中でその場で検出するための診断及び免疫細胞化学で極めて有用であり、ニュートラライズしている抗体は受動免疫療法で極めて有用である。特にモノクローナル抗体は抗イディオタイプ抗体の産生に使用し得る。抗イディオタイプ抗体の産生方法は当業者には公知である。本発明のモノクローナル抗体と反応する抗イディオタイプ抗体は既述のように本発明の範囲に含まれる。
【0054】
抗−イディオタイプ抗体は、免疫グロブリンの種々の部分に対する抗体である。抗−イディオタイプ抗体の亜集団は、「抗−イディオタイプβ」または「内部像」として公知である。これらの抗−イディオタイプβ抗体は、抗原と構造的または三次元的に酷似している(Uytdehaag,F.G.C.Mら,Immunol.Rev;90;93−113;1986)。この種の抗−イディオタイプ抗体は、動物モデルでの感染病に特異的なワクチンとして広く使用されている(Hiernaux J.R.;Infect.Immun.;56;1407−1413;1988,Kennedy,R.C.ら:Science 232;220−223;1986)。アッセイで使用する場合には、抗−イディオタイプ抗体は多量に産生され得る。
【0055】
抗−イディオタイプ抗体の産生方法は当業界で公知である。例えば、本発明の抗−イディオタイプ抗体は、モノクローナル抗体でBALB/cマウスを免疫感作し、標準文献方法に従ってグルタルアルデヒドを用いてKLHに結合させ、フロイント完全アジュバントと混合することにより得られる。これらのマウスの脾臓細胞を不死化し、このようして得られたハイブリドーマを抗−イディオタイプ抗体産生に関してスクリーニングし得る。ハイブリドーマのスクリーニングは、例えば、本発明のモノクローナル抗体を固相(マイクロタイタープレートのウエル)に結合させ、次いで固相を成長ハイブリドーマの培養上清とインキュベートすることにより実施し得る。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合させたEBVペプチドを添加してもよい。培養上清中の抗−イディオタイプ抗体の存在は、このペプチド結合体と、固相上にコートしたモノクローナル抗体との結合阻害により表示される。
【0056】
抗−イディオタイプ抗体は、例えば、EBV−抗体を使用する免疫アッセイに於けるヒト及び/または動物EBV−抗原の結合を阻害するために使用し得る。あるいは、抗−イディオタイプ抗体は、以後記載する免疫試薬の模擬薬として使用してもよい。前記抗−イディオタイプ抗体は、EBVの診断及び治療並びに、EBV−抗原の重要なエピトープ領域の解明にも有用である。本発明の1種以上のペプチドまたは抗体を含む免疫化学試薬は、本発明の一部である。
【0057】
本発明の「免疫化学試薬」という用語は、通常本発明の1種以上のペプチド及び標識物質または好適な支持体からなる。本明細書中で使用し得る「支持体」という用語は、ミクロ試験ウエル若しくはキュベット、チューブ若しくはキャピラリー、膜、フィルタ、試験片の内壁、または、例えば、ラテックス粒子、赤血球、染料ゾル、金属ゾル若しくは、ゾル粒子などの金属化合物、キャリヤ蛋白質(例えば、BSAまたはKLHなど)の表面を指す。本明細書中で使用し得る「標識物質」とは、中でも、放射性同位体、蛍光性化合物、酵素、染料ゾル、金属ゾル、またはゾル粒子としての金属化合物を指す。サンプル中のEBVに対する抗体の検出方法に於いては、本発明の免疫化学試薬をサンプルと接触させる。その後、サンプル中のペプチドと抗体との間に形成した免疫複合体の存在を検出し、このように検出することによりサンプル中のEBV抗体の存在が知られ、定量的に測定され得る。
【0058】
免疫化学試薬の性質及び特徴に依存して、生起する免疫化学反応は、所謂サンドイッチ反応、凝集反応、拮抗反応または阻害反応である。
【0059】
サンプル中のEBVを検出するために、本発明の1種以上のペプチドを含む本発明の免疫化学試薬をサンプル及び抗−EBVと接触させ、その後、形成した免疫複合体の存在を検出し、次いでこれから、サンプル中のEBVの存在を決定し得る。
【0060】
サンプル中のEBVを検出するための特に好適な方法は、標識物質のついた本発明のペプチドとEBV抗原(サンプル中に存在する)との間の拮抗反応に基づいており、これによりペプチド及び抗原は、固体支持体に結合したEBVに対する抗体と競合する。
【0061】
本発明は、さらに、本発明の抗体をサンプルと接触させ、その後、サンプル中のエプスタイン−バーウイルスの存在の尺度である形成された免疫複合体の存在を検出することを特徴とする、サンプル中のエプスタイン−バーウイルスの検出方法も含む。本発明の試験キットは、必須の構成成分として上記記載の免疫化学試薬を含む。EBV抗体を検出するためにサンドイッチ反応を実施する場合、試験キットは、例えば、固体支持体(例えば、ミクロ試験ウエルの内壁)にコートされた本発明のペプチド及び本発明の標識ペプチドまたは標識抗−抗体のいずれかを含み得る。拮抗反応を実施する場合には、試験キットは、固体支持体にコートした本発明のペプチド及びEBVに対する標識抗体、好ましくは前記ペプチドに対するモノクローナル抗体を含み得る。凝集反応に於いては、試験キットは、粒子またはゾルにコートした本発明のペプチドを含有する免疫化学試薬を含み得る。試験キットのもう一つの態様としては、例えば、固体支持体にコートされているEBVに対する抗体上の結合部位を検出するためのEBVとの拮抗反応に於いて、免疫化学試薬として本発明の標識ペプチドを使用することである。
【0062】
欧州特許第201,814号及び同第329,822号に各々記載の、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または核酸配列をベースとする増幅(NASBA)などの核酸増幅方法によりEBV DNAまたはRNAを検出するために、試験に於いて配列番号1及び/または3に示される新規ヌクレオチド配列を使用することも本発明の範囲内である。前記エプスタイン−バールウイルス核酸配列の核酸増幅を実施し、増幅された配列を検出するために、本発明のプライマーの少なくとも1つの核酸配列またはそのフラグメントを使用する、サンプル中のエプスタイン−バーウイルス核酸配列を増幅及び検出するための方法は、本発明の一部である。上記記載の増幅方法を実施するための、本発明のヌクレオチド配列の少なくとも一部に対応する少なくとも1セットのプライマーを含む試験増幅キットも本発明の一部である。
【0063】
(実施例)
本発明を、以下の実施例によりさらに説明されよう。
【実施例1】
【0064】
EBV蛋白質をコードする新規DNA配列を単離且つ同定する方法。
【0065】
新規EBVマーカー分子中を同定するための通常の方法は、以下の段階に細分され得る。
1.EBVマーカー分子と特異的に反応性の抗体試薬の同定及び産生。
2.EBV発現細胞から単離されたポリ−A選択mRNA若しくは全細胞mRNAからのc−DNAバンクの調製または、好ましくはλgt11ファージ中でのウイルスゲノムのフラグメントからのゲノムDNA−バンクの調製、次いで上記抗体試薬を用いる、ファージによって合成された蛋白質のスクリーニング。
3.反応性ファージの精製及び、ファージのゲノム内に含まれるEBV−特異的なインサート配列の同定。
4.対応するEBV−特異的読み取り枠を配置するための、公知プロトタイプEBV−ゲノム配列とインサート配列との相関。
5.代替的宿主細胞(例えば、E.Coli、バキュロウイルス、酵母若しくは高等真核細胞)または代替的発現、cq.産生システム中での同定した読み取り枠のクローニング、発現及び産生。
【0066】
これらの方法は、以下詳細に概説され且つ図1に記載のスキームに示されている。
【0067】
(フェイズ1:)
細胞培養及び細胞抽出物
P3HR1−誘導細胞系HH514.c16をローラーボトル内で懸濁培養として増殖し、Middeldorp及びHerbrink(J.Virol.Meth.,21,113−146,1988)により記載の如く正確に20ng/ml 12−テトラデカノホルボール−13−アセテート(TPA)及び3mM 酪酸ナトリウムを使用する、VCA−及びEA−発現を誘導した。EA−抗原のみを選択的に発現するために、誘導した細胞培養に0.5mM ホスホノ酢酸を添加することにより、ウイルス性DNAポリメラーゼをブロックした。
【0068】
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体を産生するために、BALB/cマウスをVCA−誘導HH514細胞の核画分(F.Wielaardら.,J.Virol.Meth.,21,105−115,1988)または、これらの細胞若しくは代替的発現系由来の十分に精製した蛋白質で免疫感作した。ハイブリドーマが標準プロトコルにより産生し、上清を標準EBV免疫蛍光試験及び、VCA−誘導HH514細胞由来の抗原抽出物を含むイムノブロット片上で分析した(Middledorp及びHerbrink,J.Virol.Meth.,21,133−146,1988)。
【0069】
抗VCA−p18抗体のアフィニティー精製
抗VCA−p18抗体を、Robinson及びMillerの方法(The herpesviruses,vol.1,151−192,1991,Publ.Plenum Publishing Corp.New York)を少し変形することによりヒトEBV−陽性血清から精製した。概略すると、10%アクリルアミドゲル中で電気泳動分離後、蛋白質をPVDF−膜(Millipore Corporation,Bedford,USA)上にブロットし、VCA−p18に対応するPVDF−膜上の領域を切り出し、アフィニティーマトリックスとして使用した。ストリップへの抗体の非特異的な結合は、ブロッキング溶液[リン酸緩衝塩水pH7.4(PBS)中、5% 乾燥粉末ミルク、4% ウマ血清]中で一晩インキュベーションすることにより防止した。その後、希釈したヒト血清(ブロック溶液中1:25)中でストリップを2時間インキュベートした。0.05% Tween−20を含むPBSで3回洗浄後、連続2回のインキュベーションに於ける結合抗体を0.1M グリシン、pH2.7で溶離した。溶離液を1M Tris/HCl(pH9.0)の1/20容量で中和した。最後に、溶離液をPBSに対して透析し、アリコート中−20℃で貯蔵した。
(フェイズ2:)
HH514.c16細胞のRNA精製
Maniatisら(Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1982)により記載の如く、グアニジニウム/CsCl法により誘導したHH514.c16細胞から全RNAを単離した。ポリ(A)RNAの精製を、Ausubelら[Current protocols in molecular biology(1991)Greene Publishing Associates,John Wiely&Sons,New York]に記載の如くオリゴ(dT)クロマトグラフィー(Pharmacia,Inc.,Piscataway N.Y.)で実施した。
【0070】
ノーザンブロット分析
全RNA(10μg)をグリオキサール(P.S.Thomas,Methods in Enzymology,100,255−266,1983)により変性し、アガロースゲル上で電気泳動した。臭化エチジウム染色後、分離したRNAをニトロセルロース上に真空−ブロットした。3時間プレハイブリダイゼーション後、フィルタを、[α−32P]−標識(Amersham,Bristol,UK)されたランダムプライマー型の若しくはニックトランスレーションされたDNAプローブと42℃で一晩ハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション溶液は、50%ホルムアミド、5×SSPE、5×Denhardts溶液[0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1%(w/v)BSA、0.1%(w/v)Ficoll]、0.2mgの超音波処理サケ精子DNA/ml及び0.5% SDSからなる。続いて、ブロットを洗浄し、増感板を使用してX線フィルム(Eastman Kodak Co.,Rochester,N.Y.,USA)に対して露光した。
【0071】
λ−gt11に於けるcDNAライブラリーの構築
ポリ(A+)−選択RNA5μgを水酸化メチル水銀で変性した。cDNA合成ではオリゴ(dT)またはヘキサヌクレオチドのいずれかでプライマーを処理した。第1及び第2のストランド合成方法は、Gubler及びHoffman(Gene,25,263−269,1983)に記載の方法と同一であった。EcoRI−メチル化、EcoRI−リンカー付加及びEcoRI消化後、改質したcDNAを、Maniatisらに記載のセファロースCL4B(Pharmacia製)クロマトグラフィーによりサイズ選択した。0.5kB〜3.0kBの種々のサイズのcDNAを、ホスファターゼで処理したλgt11−アームに結合し、次いで、Packageneキット(Promega,San Diego,USA)を使用するin vitroパッケージングを実施した。
【0072】
λgt11ライブラリーの免疫スクリーニング
オリゴ(dT)プライマー処理ライブラリーの組換体ファージを全部で1×10及びヘキサヌクレオチドプライマー処理ライブラリーの組換体5×10を、アフィニティー精製したヒト抗p18抗体またはモノクローナル抗体EBV.OT41Aとの免疫学的反応性に関してスクリーニングした(Maniatisら参照)。免疫反応性のプラークを、製造業者(Promega)により記載の如く、各々アルカリホスファターゼ結合抗ヒトまたは抗マウスIgGで検出した。
【0073】
(フェイズ3:)
ヌクレオチド配列分析
反復プラークリフティング及び免疫スクリーニングにより精製した陽性プラークのインサートDNAを、その5’−末端に制限部位を含むλgt11フランキング配列のプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。好適な制限酵素で消化した後、DNA−フラグメントをpGEM−4Z中にサブクローン化し、Sangerら(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,74,5463−5467,1977)の方法の変形を使用する配列キット(Pharmacia,Uppsala,Sweden)を使用して両側から配列決定した。
【0074】
(フェイズ4:)
配列の配置
Wisconsin大学、遺伝学コンピュータグループのソフトウエアプログラム(Gribshovら,Nucl.Acid res.,14.327−334,1986)を使用して、配列を、EMBL−配列データベースに寄託してあるEBV−B95−8プロトタイプ(Baerら.,Nature 310,207−211,1984)の公知配列と一直線に配置した。
【0075】
(フェイズ5:)
E.coli中のBFRF3及びBdRF1のクローニング及び発現
EBVゲノムによってコードされる読み取り枠(ORFs)、BFRF3及びBdRF1を、ターゲットとしてHH514.c16培養上清から蔗糖密度勾配遠心分離により単離したウイルス粒子から精製したウイルスDNAを使用するPCRにより増幅した。その5’−末端に制限部位を含むプライマーの各セットを、LacZ遺伝子の5’末端の第5コドンに配置されている発現ベクターpMLB1113(PBR322の誘導体)(Zagurski及びBerman,Gene,27,183−101,1984)のEcoRI−HindIII部位の増幅フラグメントをクローニングするために使用した。これらの構築物から発現した蛋白質は、β−ガラクトシダーゼの最初の5アミノ酸、その後に続く、β−ガラクトシダーゼの残りに該蛋白質のC−末端で結合した組換体蛋白質からなる。非融合蛋白質を同様に構築したが、但し、挿入物の3’末端に停止コドンを挿入した。
【0076】
組換体蛋白質のE.coli発現
形質転換したE.coli培養物を、1mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加して誘導した。2時間で、誘導後の細菌細胞を遠心分離により収集し、SDS−PAGEサンプル緩衝液に懸濁させ、次いでイムノブロッティングにより分析した。
【実施例2】
【0077】
VCA−p18及びVCA−p40タンパク質の免疫反応性
実施例1に概説した手順で得られたタンパク質の免疫反応性をイムノブロット分析によって試験した。このために、VCAで誘導されたHH514.c16細胞、あるいは、BFRF3−もしくはBdRF1−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質またはβ−ガラクトシダーゼ単独を発現する大腸菌の全細胞タンパク質を、SDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロースにブロットした。これらのブロットから調製したストリップを個別の血清及び抗体の調製物と共にインキュベートした。
【0078】
イムノブロット手順
イムノブロット手順は基本的に、Middeldorp及びHerbrink(J.Virol.Meth.、21、p133〜159、1988)の記載の手順に従って行なった。この手順を以下に要約する。SDS−PAGEタンパク質をニトロセルロースフィルター(0.2μ、Schleicher & Schuell、Den Bosch、オランダ)に移した。ブロッキングバッファ(Tris緩衝塩水(TBS)中の4%粉末ドライミルク、5%ウマ血清)と共に室温(RT)で少なくとも1時間のインキュベーションを行なうことによって、フィルターに対する抗体の非特異的結合を阻害した。ヒト血清をブロッキングバッファによって適当な希釈度に希釈し、少なくとも1時間インキュベートした。ブロットまたはストリップをTBS+0.05% Tween−20(TBSt)で3回洗浄し、アルカリ性ホスファターゼ(AP)に結合した抗ヒトIgG抗体(Promega)、またはHRPに結合した抗マウスIgGもしくは抗ラットIgG(Organon Teknika Cappel、Boxtel、オランダ)をブロッキングバッファに適当に希釈した溶液に添加した。更にインキュベーション及び洗浄処理した後、APの基質としてニトロブルーテトラゾリウム(NBT)及び5−ブロモ−4−クロロ−インドリルホスフェート(BCIP)を用い、HRPの基質として4−クロロ−ナフトールを用いて、ブロットを発色させた。
【0079】
得られたブロットを図2のa〜dに示す。ブロットのレーン1〜12では以下の血清を夫々使用した:
1.β−Galに対するマウスモノクローナル抗体(Promega);
2.天然ウイルスキャプシドタンパク質(EBV.OT41A)で免疫感作することによって増強したVCA−P40に対するマウスモノクローナル抗体;
3.ウイルスVCA−P18の特異的イムノアフィニティ精製によって得られたウイルスVCA−P18に単一特異性のヒト抗体;
4−5.ヒトEBV−血清陰性の血清;
6−16.ウイルスVCA−P18及びVCA−P40に対して異なる相対反応性を有するヒトEBV−血清陽性の血清。
【0080】
図2のaは、12.5%アクリルアミド中の還元性SDS−PAGEによって分離した天然ウイルスポリペプチドの免疫反応性を示す。抗β−ガラクトシダーゼ抗体(1)は陰性であるが、VCA−p40に特異的な抗血清(2)及びVCA−p18に特異的な抗血清(3)は夫々のウイルスタンパク質と反応する。ヒトEBV−陰性血清で染色したストリップ4及び5は反応性を全く示さないが、健常な血清陽性血液のドナー(6〜15)または活性EBV疾患患者(16)中で観察したストリップ6〜16は、EBV−タンパク質に対して種々の免疫反応性を示す。VCA−p18及びVCA−p40のバンドの位置を右側に示す。
【0081】
図2のbは、10%アクリルアミド中の還元性SDS−PAGEによって分離されたVCA−p18 β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質(BFRF3−LacZ)を発現する大腸菌に由来の全細胞タンパク質の免疫反応性を示す。抗β−ガラクトシダーゼ抗体(1)及び抗VCA−p18抗体(3)は、134kDaの出発融合タンパク質が大腸菌中でタンパク質分解によって断片化されることによって生じた複数のタンパク質バンドと特異的に反応する。抗VCA−p40モノクローナル抗体(2)は、ヒトEBV−陰性の血清(4−5)と全く同様に陰性である。ウイルスVCA−p18に対して種々の反応性を示すヒト血清は、融合タンパク質に対しても同様の種々の反応性を示す。ここでも多数のバンドの染色は大腸菌中の融合タンパク質のタンパク質分解による分裂に起因する。
【0082】
図2のcは、大腸菌中のVCA−p40−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質を同様に分析した結果を示す。このタンパク質はタンパク質分解の作用を受け難いので156kDaに単一バンドを生じる。図2のcは図2のbと同様に解釈できる。
【0083】
図2のdは、β−ガラクトシダーゼ単独を発現する大腸菌を用いた対照ブロットを示す。
【0084】
上記の試験より、個々の大腸菌構築物が夫々の融合タンパク質を実際に発現することは明らかである。ヒト血清は、発現されたタンパク質に対して天然ウイルスタンパク質に対するときと同じ反応性を示す。
【実施例3】
【0085】
免疫吸着
本発明の代替ペプチド及び対応する天然ウイルスタンパク質の免疫化学的一致は、(1種または複数の)天然ウイルスタンパク質を含むイムノブロットに反応性のヒト血清に、種々の濃度の本発明のペプチドを予め吸収させると、このブロットにおいて対応天然ウイルスタンパク質に対する特異的抗体反応性が消失することによって証明できる。この方法によれば、免疫化学的一致を証明できるだけでなく、イムノブロット上のウイルスタンパク質の免疫反応性が単一種の(主要)タンパク質種に対する抗体結合によって媒介されるという確実な証拠も得られる。
【0086】
上記のごとき実験をVCA−p18マーカータンパク質に対して行なった。
【0087】
即ち、3人の健康なEBV−血清陽性のドナーから得られたヒト血清(血清92、血清214及び血清219)の免疫反応性を、10%アクリルアミドゲル中の還元性SDS−PAGEによって分離したVCA−誘導HH514細胞から得られた核抗原を含むニトロセルロースストリップ上のイムノブロット分析によって試験した。イムノブロット分析の前に、漸増量の精製BFRF3−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質またはβ−ガラクトシダーゼ単独を血清に予め吸収させるために、+4℃で一夜維持した。N−クロロ−ナフトールを沈降性基質として用い、ペルオキシダーゼ標識ヒツジ抗ヒトIgGを用いてIgG−反応性に関して染色した。
【0088】
この実験の結果を図3に示す。1:100に希釈した1mlの血清に予め吸収させるために使用した精製BFRF3−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質の量を、図3に示すようなイムノブロットの夫々のレーンで分析すると以下の結果が得られた:
レーン1:0μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;
レーン2:0.01μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;
レーン3:0.1μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;
レーン4:0.5μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;
レーン5:1μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ。
【0089】
β−ガラクトシダーゼ単独を予め吸収させたレーンをレーンβとして示す。
【0090】
図3より、予吸収処理中にVCA−p18を示すバンド(矢印)の反応性が、BFRF3−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質の濃度増加に伴って喪失されることが理解されよう。β−ガラクトシダーゼ単独を予め吸収させても全く効果がないこと、また、予吸収処理が別のEBV−タンパク質との反応性にも全く影響を与えないことが理解されよう。近縁でないタンパク質(例えば72kDのEBNAまたは40kDのVCA−p40)の染色は生じない。
【0091】
上記の実験から、ヒト血清抗体によるウイルスVCA−p18の免疫染色はこれらの血清にBFRF3融合タンパク質を予め吸収させることによって特異的に阻害され、これがVCA−p18とBFRF3読取枠によってコードされるタンパク質との免疫化学的一致を証明することが明らかである。これらの実験はまた、ヒト血清とVCA−p18との反応性が単一ウイルスタンパク質との相互作用によって生じることを示す。
【実施例4】
【0092】
PEPSCANによる免疫反応性エピトープの局在
ペプチド合成及びイムノスクリーニング(PEPSCAN)
12個のアミノ酸(AA)の長さを有し且つORF BFRF3及びBdRF1のアミノ酸配列の11個のアミノ酸がオーバーラップしたペプチドを、Geijsenらによって最初に記載された化学的に活性化したポリエチレンピン上に全自動固相ペプチド合成法(Proc.Nat.Acad.Sci.、アメリカ、83、3998〜4002、1984)によって合成した。健康なEBV血清陽性のドナーから採取した15の血清を用い、EBV特異的抗体に対する免疫反応性を、Middeldorp及びMeloenによって記載された方法(J.Virol.meth.、21、147〜159、1988)で決定した。VCA−p18配列に由来の12個のアミノ酸から成るペプチドのPEPSCAN分析の結果を図4に示す。X軸の数字は、分析した12量体(12−mer)ペプチドの各々のVCA−p18配列上の初期位置を示す。BFRF3読取枠にコードされたVCA−p18タンパク質の12量体ペプチドに対して反応性を有していたヒト血清のパーセンテージを図4のY軸に示す。同一組のピンに対するEBV−血清陰性のヒト血清の平均反応性を上回る標準偏差の3倍を陽性反応と定義する。図4から、3つの免疫支配性ドメインを定義できる:ドメインI;AA120〜140、ドメインII:AA152〜155、ドメインIII:AA159〜165(これらの数字はまたPEPSCANに使用した12量体ペプチドの初期位置を示す)。表1は、この試験に使用した個々の血清の各々に対して最も反応性の大きいペプチドを詳細に示している。表1の第1レーンは、個々の血清の番号を示す。第2レーンは、ドメインIの内部の最も反応性の大きいペプチドのPEPSCAN OD450値(450nmの光学密度)を示す。このペプチドはレーン3に示されている。レーン4及び5はドメインII及びIIIに対する同様のデータを示す。
【0093】
【表1】

【実施例5】
【0094】
BFRF3によってコードされたVCA−p18タンパク質またはBdRF1によってコードされたVCA−p40タンパク質に対するラット及びマウスのモノクローナル抗体によるPEPSCAN分析
実施例4に記載の手順と同様にしてヒト血清に対するPEPSCAN分析を行なって、モノクローナル抗体によって検出された直鎖状エピトープの位置を作図した。
【0095】
図5及び図6は、各々が異なる直鎖状エピトープを検出するVCA−p18に対する2つのラットモノクローナル抗体(夫々EBV.OT15E及びEBV.OT15I)を用いたかかる分析のPEPSCAN結果を示す。
【0096】
図7は、BdRF1読取枠によってコードされたVCA−p40に対するマウスモノクローナル抗体(EBV.OT41A)のPEPSCAN結果を示す。VCA−p40(BdRF1)配列に対する2つのラットモノクローナルの交差分析及びVCA−p18(BFRF3)配列に対するマウスモノクローナルの交差分析(vice−versa)は明白な陰性結果を示す。
【0097】
図7から、EBV.OT41AがVCA−p40タンパク質のC末端領域に明確な直鎖状エピトープを認識することが明らかである。
【実施例6】
【0098】
コンピュータ分析及びPEPSCANによるBFRF3にコードされたVCA−p18タンパク質に由来の合成ペプチドの選択、及びこれらのペプチドと正常ヒトドナー血清との免疫反応性の分析
t−BOC化学を用いた標準固相合成によって合成ペプチドを調製した。
【0099】
BFRF3によってコードされたVCA−p18タンパク質に由来のペプチドを、Jameson及びWolf(CABIOS 4、181〜186、1988)によって開発されたコンピュータプログラム「抗原性指数」を用いて予測された高い抗原性に基づいて、または実施例4に記載したようなPEPSCANにおける機能性の高抗原反応性に基づいて選択した(図8のペプチド1及び2は前者に基づいて選択され、図8のペプチド3及び4は後者に基づいて選択された。ペプチド3及び4は表1のドメインI+ドメインII及びドメインIIIを示す)。更に、PEPSCANによって同定された最も反応性の大きい3つのドメインを結合させ、PEPSCAN反応性の低いペプチド領域を除去した結合ペプチドを調製した(図8のペプチド5)。
【0100】
以下のアミノ酸配列を有するペプチド1〜5を、0.05MのNHCO3バッファ pH9.6中に1μg/mlの濃度で、固相、即ちポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルにコートし、4℃で一夜維持した。リン酸塩緩衝塩水(PBS)pH7.4で2回洗浄した後でウェルに100μlのヒト血清を充填し、0.05%Tween 20を含有するPBS(PBST)で1:100に希釈し、37℃で1時間インキュベートした。PBS−Tで3回洗浄した後で、PBS−T中に適当な希釈度で希釈したHRP標識ヒツジ抗ヒトIgG抗体を添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBS−Tで3回洗浄した後で、結合した酵素活性を、テトラメチルベンジジンを基質として用いることによって検出した。30分後に、100μlの1MのH2SO4を添加することによって反応を停止させた。Multiscanホトメータを使用して450nmの吸光度を測定した。標準免疫蛍光血清学または前述のイムノブロット分析を用いて血清中のEBV抗体を試験した。
【0101】
以下のペプチドを使用した:
ペプチド1:H2N−GVPRRQRAIDKRQRA−COOH;
ペプチド2:H2N−GQPHDTAPRGARKKQ−COOH;
ペプチド3:H2N−AVDTGSGGGGQPHDTAPRGARKKQ−COOH;
ペプチド4:H2N−STAVAQSATPSVSSSISSLRAATSGATAAA−COOH;
ペプチド5:ペプチド4のC末端及びペプチド3のN末端の外部(extra)システイン残基を用いS−S−架橋によって結合させたペプチド4と3との結合ペプチド。
【0102】
図8は、固相にコートしたペプチド1〜5及び標準手順に従って1:100の希釈度で使用した健康なヒト血液ドナーのランダムパネルとを用いたELISA実験の結果を示す。
【0103】
次にこれらの血清について、ウイルスVCA−p18との反応性をイムノブロットによって試験した。
【0104】
これらの実験によれば、自然感染した個体から得られた血清の場合、ほとんど全部の血清がペプチド1に対して陰性であり且つペプチド2は試験血清の約50%だけと反応したので、「抗原性指数」プログラムに基づいたコンピュータ予測では、これらの血清に対する免疫原性に関する予測値が全く得られないことは明らかである。PEPSCANに基づいて選択されたペプチドは試験血清の夫々に対して60〜80%の良好な反応性を示す。意外にも、ペプチド3と4とを結合させた結合ペプチドは、ヒト血清に対して95%の反応性を示す。P18イムノブロット陰性血清は選択されたペプチド類に対して反応性を全く示さない。
【実施例7】
【0105】
BFRF3によってコードされたVCA−p18タンパク質に由来の結合ペプチド5と種々のサブクラスのヒト血清抗体との反応性
実施例6に示すようなアミノ酸配列を有している結合ペプチド5を用い、種々のサブクラスのヒト血清免疫グロブリンに対す反応性をELISAによって試験した(実施例6に記載の手順)。全ての場合に、実施例6と全く同様に結合ペプチド5を固相に使用した。1:100に希釈した血清を使用して実施例6に記載したように抗体反応性を検出した。結果を図9〜11に示す。IgG反応性を阻害するために、製造業者の指示通りにGull−Sorb(Gull Laboratories Inc.、Salt Lake City、Utah、米国)をヒト血清に予め吸収させ、このヒト血清中でIgM反応性を検出した。ヒトIgMのH鎖に特異的なHRP標識ヒツジ抗ヒトIgM抗体によってIgM抗体を検出した。
【0106】
また、抗IgA特異的HRP標識第二抗体を使用し、Gull Sorbで処理した血清中のIgA反応性を検出した。図9の血清(IgG)は、標準血清学によってVCA−IgG陽性の76人の健康な血清陽性の血液ドナーとEBV抗体陰性の9人のドナーとから得られた。
【0107】
図10の血清(IgM)は、標準血清学によってVCA−IgM陽性の26人の単核細胞症患者とVCA−IgM陰性でVCA−IgG陽性の18人の健康なドナーとから得られた。
【0108】
図11の血清(IgA)は、IgA特異的データは入手できなかったがIgG−VCA陽性の35人の鼻咽頭癌患者とVCA−IgG陽性の7人の健康なドナーとから得られた。
【0109】
上記実験より、VCA−p18に由来の結合ペプチドがEBV−VCAに対するIgG、IgM及びIgA抗体の特異的検出に使用でき、標準血清学的方法と同様の感度またはより優れた感度を有することが理解されよう。すべての場合にEBV陰性血清は陰性である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】EBVによってコードされており且つVCA−p40及びVCA−p18タンパク質をコードする遺伝子を同定するために使用される方法の概略図である。
【図2】(a)EA及びVCAを発現させるように誘導されたウイルス産生細胞系HH514の核抗原抽出物のウェスタンブロットを示す。 (b)BFRF3−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質を発現する大腸菌の全細胞溶解物のウェスタンブロットを示す。 (c)BdRF1−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質を発現する大腸菌の全細胞溶解物のウェスタンブロットを示す。 (d)β−ガラクトシダーゼだけを発現する大腸菌の全細胞溶解物のウェスタンブロットを示す。 ブロットを1組のヒト血清によってプローブした。ブロットのレーン1〜16に以下の血清を夫々使用した:1.β−Galに対するマウスモノクローナル抗体(Promega);2.天然ウイルスキャプシドタンパク質(EBV.OT41A)で免疫感作することによって増強したVCA−P40に対するマウスモノクローナル抗体;3.ウイルスVCA−P18による特異的イムノアファニティ精製によって得られたウイルスVCA−P18に単一特異性のヒト抗体;4−5.ヒトEBV−血清陰性の血清;6−16.ウイルスVCA−P18及びVCA−P40に対して異なる相対反応性を有するヒトEBV−血清陽性の血清。
【図3】以下の量のBFRF3−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質を予め吸収させたニトロセルロースストリップ上の3つのヒト血清(血清92、血清214及び血清219)のイムノブロット:レーン1:0μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;レーン2:0.01μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;レーン3:0.1μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;レーン4:0.5μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ;レーン5:1μg BFRF3−β−ガラクトシダーゼ。 β−ガラクトシダーゼが単独に存在するレーンをレーンβとして示す。
【図4】PEPSCAN分析の結果:VCA−18配列に由来の12量体ペプチドと反応性の健康なEBV血清陽性ドナーに由来の15人のヒト血清のパーセンテージ。VCA−p18タンパク質のアミノ酸配列の内部の12量体ペプチドの初期位置をX軸に示す。
【図5】VCA−p18に対するラットモノクローナル抗体(EBV.OT15E)を用いたVCA−p18由来の12量体ペプチドの分析のPEPSCAN結果(450nmの光学密度)を示す。
【図6】VCA−p18に対するラットモノクローナル抗体(EBV.OT15I)を用いたVCA−p18由来の12量体ペプチドの分析のPEPSCAN結果(450nmの光学密度)を示す。
【図7】VCA−p40に対するマウスモノクローナル抗体(EBV.OT41A)によるVCA−p40タンパク質から誘導された12量体ペプチドの分析のPEPSCAN結果を示す。
【図8】健康な血液ドナーから得られた43人のヒト血清サンプルのELISA反応性(450nmの光学密度)を試験するために、BFRF3によってコードされたVCA−p18タンパク質に由来の選択された合成ペプチドに対するIgG−反応性を試験した結果を示す。△:標準血清学的分析による陰性血清を示す;□:標準血清学的分析による陽性血清を示す;◇:標準血清学的分析によってEBV抗体を特定できないがイムノブロットで陰性の血清を示す;*:標準血清学によって陽性であるがイムノブロット上の抗p18抗体に陰性血清を示す。ペプチド1:H2N−GVPRRQRAIDKRQRA−COOH;ペプチド2:H2N−GQPHDTAPRGARKKQ−COOH;ペプチド3:H2N−AVDTGSGGGGQPHDTAPRGARKKQ−COOH;ペプチド4:H2N−STAVAQSATPSVSSSISSLRAATSGATAAA−COOH;ペプチド5:S−S−架橋によって結合させたペプチド4と3との結合ペプチド。
【図9】結合ペプチド5と抗体(a)ヒトIgG(76 VCA−I.F.陽性血清)との免疫反応性の分析(ELISA)を示す。
【図10】結合ペプチド5と抗体(b)ヒトIgM(26 IgM 陽性血清)との免疫反応性の分析(ELISA)を示す。
【図11】結合ペプチド5と抗体(c)ヒトIgA(NPC患者の35血清)との免疫反応性の分析(ELISA)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液中のエプスタイン―バーウイルスを検出する方法であって、前記試料を、配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列を有するか、または配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列の1個もしくは数個のアミノ酸が欠失され、置換されもしくは倒置されているアミノ酸配列または配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列に1個もしくは数個のアミノ酸が付加されもしくは挿入されているアミノ酸配列を有し、配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドを認識する抗体に対して免疫化学的に反応するペプチドに対するポリクローナル抗体と接触させた後、前記試料中の前記エプスタイン―バーウイルスの存在の基準である形成された免疫複合体を検出することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列の連続した複数アミノ酸が欠失されたアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号5のアミノ酸配列が配列番号6のアミノ酸配列に連結されたアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に定義された抗体を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法を実施するためのテストキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−261851(P2008−261851A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89543(P2008−89543)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願平5−80099の分割
【原出願日】平成5年3月15日(1993.3.15)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】