説明

エポキシ化合物の製造方法

【課題】温和な条件で、安全に、副反応及び目的物の分解が十分に低減され効率的に、オレフィン置換イソシアヌレート類をエポキシ化してエポキシ置換イソシアヌレート類を製造する方法を提供する。
【解決手段】(1)周期律表第VI族元素の酸化物の塩、(2)界面活性剤、(3)リン酸類及び/又はホスホン酸類を含有する触媒系を用いてエポキシ化反応不活性有機溶媒中でオレフィン置換イソシアヌレートを過酸化水素水と酸化反応させて少なくとも1つ以上の炭素炭素二重結合をエポキシ化させることを特徴とするエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料として有用なエポキシ基を有するイソシアヌレート類の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ基を有するイソシアヌレートを高効率に製造する方法としては、シアヌール酸にエピクロルヒドリンを作用させたのち、アルカリで脱塩酸して生じるアルカリ金属塩化物を分離して1,3,5−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得る方法が知られているが、エピクロルヒドリンは過剰に反応し易く、アルカリで脱塩酸の前のクロロヒドリンと反応し含塩素化合物を生成する(特許文献1参照)。この含塩素化合物の低減には再結晶などの操作を必要し、しかも完全に除去することは困難である。当然、これらの含塩素化合物の残留は絶縁性能など電気材料用途にも有害であり、性能低下の原因となっている。また、この方法は化合物のバリエーションの点では窒素原子上に置換するエポキシドの種類が2,3−エポキシプロピル基のみという制限がある(特許文献2参照)。
【0003】
オレフィンを有するイソシアヌレートを酸化によってエポキシ化してエポキシ置換イソシアヌレートを製造する方法は、得られるエポキシ化合物のバリエーションを増やすことが可能で、しかも大量の無機塩を排出することがなく工業上有用と考えられる。この場合、イソシアヌレートに置換されているオレフィンを酸化してエポキシドを製造する方法が必要となる。
【0004】
オレフィンを酸化してエポキシドを製造する方法としては、m−クロロ過安息香酸を用いる方法や過酢酸を作用させる方法など過酸化物を酸化剤に用いる方法が一般的に良く知られている。しかしながらこれらは、生成物と当量の有機副生成物を排出するため工業的には必ずしも有効な方法とは言えない。また、過酸化物は安全性の面でも問題がある。
【0005】
これに対して、過酸化水素は、安価で腐食性がなく、反応後の副生物は無害な水であるために環境負荷が小さく、工業的に利用するのに優れた酸化剤ということができる。
【0006】
過酸化水素をエポキシ化剤としてオレフィン類からエポキシ化合物を製造する方法としては、(1)メチルトリオキソレニウム(CH3ReO3)と有機強塩基化合物を無機酸化物に担持した触媒を用いてエポキシ化する方法(特許文献3)、(2)チタン含有ゼオライト触媒及び3級アミン、3級アミンオキサイドもしくはそれらの混合物を含む添加剤の存在下エポキシ化する方法(特許文献4)、(3)フルオロアルキルケトン触媒によりエポキシ化する方法(非特許文献1)などが知られているが、これら(1)〜(3)の方法は触媒コストが高いうえ、触媒効率が悪く過剰の過酸化水素が必要であるなどの制約が多い方法である。
【0007】
過酸化水素をエポキシ化剤として、触媒コストが比較的安価な周期律表第VI族元素の酸化物の塩を触媒に用いるオレフィン類からエポキシ化合物を製造する方法としては、(4)塩化第4級アンモニウム、リン酸類、タングステン金属塩の存在下、エポキシ化する方法(特許文献5,6)、(5)ヘテロポリ酸セチルピリジニウム塩を触媒に用いてクロロホルム溶媒中でエポキシ化する方法(非特許文献2)が知られている。しかしながら、環境面及び労働衛生面で問題のあるハロゲン原子を含む相間移動触媒やハロゲン系溶媒を用いているためさらなる改善が望まれていた。
【0008】
過酸化水素をエポキシ化剤として、触媒コストが比較的安価な周期律表第VI族元素の酸化物の塩を触媒に用い、ハロゲン原子を含む相間移動触媒やハロゲン系溶媒を使用しない方法としては、(6)有機溶媒中、第4級アンモニウム塩のような相間移動触媒とタングステン酸類とα−アミノメチルホスホン酸を触媒に用いてエポキシ化する方法(特許文献7)、(7)アミン及び第4級アンモニウム塩の少なくとも1種、タングステン化合物
、α−アミノメチルホスホン酸を有機溶媒に混合し調整してエポキシ化する方法(特許文献8)、(8)トルエン溶媒中、タングステン化合物と過酸化水素とをあらかじめ反応せしめてなるタングステン酸化物、第4級アンモニウム硫酸水素塩及びリン酸類の存在下にエポキシ化する方法(特許文献9)、が知られている。(6)〜(8)のいずれの方法も分子内にアミド基を有する化合物のエポキシ化反応について適用が想定されておらず、(7)及び(8)は触媒自体の調整又は反応系中のpHの調整が煩雑であり、大量合成には不向きである。
【0009】
さらに、上記の各種方法では環状や直鎖状を含む各種脂溶性オレフィンからエポキシドを製造することは良く知られているが、オレフィンで置換されたイソシアヌレートのように極性が比較的高く、しかも生成するエポキシが加水分解し易い化合物のエポキシ化については知られていなかった。
したがって、簡便な操作で安全にオレフィン置換イソシアヌレートから高効率かつ高選択的にエポキシ置換イソシアヌレートを収率良く製造する方法の開発が強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭48−24039号公報
【特許文献2】特開2000−143661号公報
【特許文献3】特開2001−25665号公報
【特許文献4】特表2002−526483号公報
【特許文献5】特開2003−192679号公報
【特許文献6】特開2004−115455号公報
【特許文献7】特開平8−27136号公報
【特許文献8】特開2009−256217号公報
【特許文献9】特開2004−59573号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chem.Commun.,263−264(1999)
【非特許文献2】J.Org.Chem.,第53巻3587−3593(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術では製造が困難なエポキシ置換イソシアヌレートを合成することを目的になされたもので、温和な反応条件下で、高収率でエポキシ置換イソシアヌレートを得ることができると共に反応操作が簡便で、かつ環境や人体への影響・毒性がきわめて小さい、エポキシ置換イソシアヌレートの安全かつ簡便で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、エポキシ化反応不活性有機溶媒中でオレフィン置換イソシアヌレートをエポキシ化すること、詳細には、エポキシ化反応不活性有機溶媒中で、酸化剤として過酸化水素を採用し、周期律表第VI族元素の
酸化物の塩、界面活性剤、並びにリン酸類及び/又はホスホン酸類を含む混合触媒系を用いて該オレフィン置換イソシアヌレートの二重結合を酸化することにより、対応するエポキシ置換イソシアヌレートを高収率で安全かつ簡便に製造でき、しかも生成するエポキシドの加水分解を最小限に抑えられることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本出願は、以下の発明を提供するものである。
オレフィン置換イソシアヌレートをエポキシ化するエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法、詳細には、オレフィン置換イソシアヌレートと過酸化水素水溶液とを脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アミド、ケトン類、又はこれらの混合物からなるエポキシ化反応不活性有機溶媒中で、周期律表第VI族元素の酸化物の塩、界面活性剤、リン酸類及び/又はホスホン酸類の混合触媒の存在下で反応させることを特徴とするエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により提供されるエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法により、電子・光学材料向けとしてソルダーレジストインキやLED封止剤として幅広く用いられる有用なエポキシ置換イソシアヌレートの製造を、温和な条件下で、かつエポキシ基の導入を1か所から3か所まで任意の比率で高選択的かつ高収率に行うことができる。
また、本発明の製造方法は、過酸化水素を酸化剤に用いるために共生成物が水のみであり、環境や人体への影響・毒性がきわめて小さく、環境に対する負荷を軽減する効果も有し、安全かつ簡便で効率的にエポキシ置換イソシアヌレートを得ることができる。
以上のことから、本発明の製造方法は工業的に有利な効果をもたらす発明である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明はオレフィン置換イソシアヌレートをエポキシ化することによるエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法であって、詳細には、オレフィン置換イソシアヌレートを、(1)周期律表第VI族元素の酸化物の塩、(2)界面活性剤、及び(3)リン酸類及び/又はホスホン酸類を含有する混合触媒系の存在下で、過酸化水素水溶液と反応(酸化)させることを特徴とする。
【0017】
本発明の方法において原料として用いられるエポキシ置換イソシアヌレートは、下記一般式(I)で示されるオレフィン置換イソシアヌレート類である。
【化1】

〔式中、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わす。〕
【0018】
前記一般式(1)において、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、また、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わすことから、イソシアヌレート化合物のN原子に結合するアルケニル基の具体例としては、2−プロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ヘプテニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基、3−ヘキセニル基、3−ヘプテニル基、3−オクテニル基、4−ペンテニル基、4−ヘキセニル基、4−ヘプテニル基、4
−オクテニル基、4−ノネニル基、5−ヘキセニル基、5−ヘプテニル基、5−オクテニル基、5−ノネニル基、又は5−デセニル基等の直鎖状のアルケニル基が挙げられる。
【0019】
本発明においては、このような一般式(1)で示されるオレフィン置換イソシアヌレートとして、種々のものを用いることができるが、好ましくは、1,3,5−トリス−(2−ブテニル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(3−ブテニル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートを用いることが望ましい。
【0020】
本発明のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法において、酸化剤として過酸化水素の水溶液を用いる。過酸化水素水溶液の使用量は、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシアヌレート類のオレフィン(モル数)に対して、過酸化水素のモル換算で通常1.0乃至5.0モル倍、好ましくは1.0乃至2.2モル倍の範囲である。過酸化水素水溶液の濃度は特に制限はなく、例えば市販の30重量%過酸化水素水溶液を使用可能であり、またこれを希釈して用いてもよい。
【0021】
周期律表第VI族元素の酸化物の塩としては、たとえば、タングステン酸塩、モリブデン酸塩が挙げられ、なかでもタングステン酸塩が好ましい。
【0022】
タングステン酸塩としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物であり、例えばタングステン酸(三酸化タングステンの水和物)、三酸化タングステン、三硫化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物等が挙げられるが、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。これらのタングステン酸塩は単独で使用しても、2種類を混合使用してもよい。
【0023】
周期律表第VI族元素の酸化物の塩の使用量は、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシアヌレート類のオレフィン(モル数)に対して0.0001乃至20モル%、好ましくは0.01乃至10モル%の範囲から選ばれる。
【0024】
界面活性剤としてはアニオン系、カチオン系、両性イオン系、ノニオン系界面活性剤を例示することができる。本発明で好ましく使用される界面活性剤は、ハロゲン化物を含まない第4級アンモニウム塩であり、特に硫酸水素塩又はメチル硫酸塩であることが好ましい。
【0025】
ハロゲン化物を含まない第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラへキシルアンモニウム硫酸水素塩、テトラ−n−オクチルアンモニウム硫酸水素塩、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、エチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸水素塩、セチルピリジニウムアンモニウム硫酸水素塩、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩、テトラヘキシルアンモニウム硫酸メチル塩、硫酸ビス(メチルトリオクチルアンモニウム)等が挙げられるが、中でも、テトラへキシルアンモニウム硫酸水素塩、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸水素塩等が好ましい。これら第4級アンモニウム塩は単独で使用しても、2種類以上を混合使用しても良い。
【0026】
界面活性剤の使用量は、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシアヌレート類のオレフィン(モル数)に対して0.0001乃至20モル%、好ましくは0.01乃至10モル%の範囲から選ばれる。
【0027】
リン酸類としては、例えばリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム
、リン酸三ナトリウム、ポリリン酸等が挙げられ、またホスホン酸類としては、例えばフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、α−アミノメチルホスホン酸等が挙げられるが、中でも、リン酸、α−アミノメチルホスホン酸等が好ましい。これらリン酸類、ホスホン酸類は単独で使用しても、2種類以上を混合使用しても良い。
【0028】
リン酸類及び/又はホスホン酸類の使用量はオレフィン置換イソシアヌレート類のオレフィン(モル数)に対して0.0001乃至20モル%、好ましくは0.01乃至10モル%の範囲から選ばれる。
【0029】
本発明の製造方法は、実際には、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシアヌレートを、過酸化水素使用液と、周期律表第VI元素の酸化物の塩、界面活性剤及びリン酸又はホスホン酸類を含有する混合触媒系の存在下で、エポキシ化反応に対して不活性な有機溶媒中で反応させることにより実施される。
このとき使用するエポキシ化反応不活性有機溶媒にはとくに制限はないが、酸化・還元反応に対して比較的不活性な有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アミド、ケトン類等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0030】
具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,6−ジメチルシクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸エチルなどが挙げられる。これらのうち、トルエン、キシレンがさらに好ましい。
【0031】
エポキシ化反応不活性有機溶媒の使用量は、通常、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシアヌレートの質量数に対して0.01乃至200質量倍の範囲であり、反応性、操作性の観点からは0.1乃至30質量倍の範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、反応条件には、特に制約はないが、通常、反応は5乃至100℃、好ましくは30乃至90℃、より好ましくは30乃至80℃、最も好ましくは30乃至60℃の範囲で行われる。反応圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでも良いが、常圧で行うことが望ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、反応時間は、エポキシの加水分解反応等の副反応を所望する程度に抑制するために適宜、決定することができる。通常は40時間以内で、好ましくは20時間以内で行われる。
【0034】
本発明の製造方法により得られるエポキシ置換イソシアヌレートは、下記式(II)乃至式(IV)で表わされる化合物である。なお下記式中、m、p、q、並びにn、o、rは、先に式(I)で表わされる化合物において定義したものと同じ意味を表わす。
【化2】

【0035】
上記式(II)乃至式(IV)で表わされる化合物の具体例としては、1,3,5−トリス−(2,3−エポキシブチル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(3,4−エポキシブチル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレート、1−(2,3−エポキシブチル)−3,5−ビス−(2−ブテニル)−イソシアヌレート、1,3−ビス−(2,3−エポキシブチル)−5−(2−ブテニル)−イソシアヌレート、1−(3,4−エポキシブチル)−3,5−ビス−(3−ブテニル)−イソシアヌレート、1,3−ビス−(3,4−エポキシブチル)−5−(3−ブテニル)−イソシアヌレート、1−(4,5−エポキシペンチル)−3,5−ビス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレート、1,3−ビス−(4,5−エポキシペンチル)−5−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートなどが挙げられる。
これら式(II)乃至式(IV)で表わされる化合物は、酸化剤である過酸化水素水溶液の使用量、混合触媒系の各成分の使用量、並びに前述の反応条件(温度、圧力、反応時間等)を適宜調整する事により、夫々所望の割合にて得ることができる。
【0036】
このようにして得られたエポキシ化合物は、反応に用いた過剰な過酸化水素をクエンチさせるため、反応終了後に亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基で処理しておくことが望ましい。
得られた有機層中の界面活性剤、エポキシの加水分解生成物等の副生物、着色成分は、一般的な方法により除去することができる。例えば、シリカゲル等の金属酸化物や活性炭で吸着除去する方法が挙げられる。使用方法は吸着剤を溶液に分散させた後にろ過する方法、カラム等に敷き詰め溶液を通液させる方法、いずれも可能である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の分析に用いた装置は以下の通りである。
1H NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 JEOL−ECX400
・HPLC
装置:ジーエルサイエンス(株)製 GL−7400
【0038】
<実施例1>
タングステン酸ナトリウム二水和物(66.0mg、0.2mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩(48.0mg、0.1mmol)、トルエン、30重量%過酸化水素水溶液(1.077g、9.5mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるようにリン酸水溶液を加えて混合し、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレート(877.0mg、2.5mmol)を加え、6時間反応させた。
水層より分離した有機層を1H NMRで分析したところ、オレフィンの転化率は95
%、エポキシ化率は91%、HPLCでの分析から主に2種類の混合物であることが確認され、1,3,5−トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレートの収率は75%、1,3−ビス−(4,5−エポキシペンチル)−5−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は15%であることが確認された。
【0039】
<比較例1>
実施例1において、タングステン酸ナトリウム二水和物を用いずに、反応を行った。1
H NMRで分析したところ、エポキシ化率は0%であった。
【0040】
<比較例2>
実施例1において、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩を用いずに、反応を行った。1H NMRで分析したところ、エポキシ化率は0%であった。
【0041】
<比較例3>
実施例1において、反応温度を90℃にして反応を行った。1H NMRで分析したと
ころ、エポキシ化率は0%であった。
【0042】
<比較例4>
実施例1において、エポキシ化反応不活性有機溶媒を用いずに反応を行った。1H N
MRで分析したところ、エポキシ化率は0%であった。
【0043】
<実施例2>
タングステン酸ナトリウム二水和物(66.0mg、0.2mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩(48.0mg、0.1mmol)、トルエン、30重量%過酸化水素水溶液(0.283g、2.5mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるようにリン酸水溶液を加えて混合し、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレート(877.0mg、2.5mmol)を加え、4時間反応させた。
水層より分離した有機層をHPLCで分析したところ、1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの転化率は68%であり、主に3種類の混合物が得られていることが確認された。各成分の収率は、1−(4,5−エポキシペンチル)−3,5−ビス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は43%、1,3−ビス−(4,5
−エポキシペンチル)−5−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は21%、1,3,5−トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレートの収率は4%であることが確認された。
【0044】
<実施例3>
タングステン酸ナトリウム二水和物(66.0mg、0.2mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩(48.0mg、0.1mmol)、トルエン、30重量%過酸化水素水溶液(0.567g、5.0mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるようにリン酸水溶液を加えて混合し、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレート(877.0mg、2.5mmol)を加え、4時間反応させた。
水層より分離した有機層をHPLCで分析したところ、1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの転化率は86%であり、主に3種類の混合物が得られていることが確認された。各成分の収率は、1−(4,5−エポキシペンチル)−3,5−ビス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は36%、1,3−ビス−(4,5−エポキシペンチル)−5−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は36%、1,3,5−トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレートの収率は14%であることが確認された。
【0045】
<実施例4>
磁気攪拌子を備えた試験管にタングステン酸ナトリウム二水和物(39.6mg、0.12mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸水素塩(27.95mg、0.06mmol)、トルエン、30重量%過酸化水素水溶液(888.0g、7.83mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるようにリン酸水溶液を入れ、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(2−ブテニル)−イソシアヌレート(784.0g、2.61mmol)を加え、6時間反応させた。
水層より分離した有機層をHPLCで分析した結果、1,3,5−トリス−(2,3−エポキシブチル)−イソシアヌレートの収率は69%であることが確認された。
【0046】
<実施例5>
磁気攪拌子を備えた試験管にタングステン酸ナトリウム二水和物(39.6mg、0.12mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩(48.0mg、0.1mmol)、トルエン、30.0重量%過酸化水素水溶液(888.0g、7.83mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるようにリン酸水溶液を入れ、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(2−ブテニル)−イソシアヌレート(784.0g、2.61mmol)を加え、6時間反応させた。水層より分離した有機層を1
NMRで分析すると、エポキシ化率は92%、HPLCでの分析から1,3,5−トリス−(2,3−エポキシブチル)−イソシアヌレートの収率は69%、1,3−ビス−(2,3−エポキシブチル)−5−(2−ブテニル)−イソシアヌレートの収率は23%であることが確認された。
【0047】
<実施例6>
実施例5において、エポキシ化反応不活性有機溶媒にトルエンのかわりに酢酸エチルを用いて反応を行った。1H NMRで分析すると、エポキシ収率は49%であった。
【0048】
<実施例7>
タングステン酸ナトリウム二水和物(66.0mg、0.2mmol)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウム硫酸メチル塩(48.0mg、0.1mmol)、α−アミノメチルホスホン酸(11.23mg、0.1mmol)、トルエン、30重量%過酸化水素水溶液(1.077g、9.5mmol)、並びに水相のpHが2〜3程度になるよう
にリン酸水溶液を加えて混合し、温度を60℃としたのち1,3,5−トリス−(4−ペンテニル)−イソシアヌレート(877.0mg、2.5mmol)を加え、6時間反応させた。水層より分離した有機層を1H NMRで分析すると、オレフィンの転化率は9
5%、エポキシ化率は90%、HPLCでの分析から主に2種類の混合物であることが確認され、1,3,5−トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレートの収率は76%、1,3−ビス−(4,5−エポキシペンチル)−5−(4−ペンテニル)−イソシアヌレートの収率は12%であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる3つの炭素−炭素二重結合を有するオレフィン置換イソシアヌレート
【化1】

〔式中、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わす。〕
を脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、アミド、ケトン類、又はこれらの混合物からなるエポキシ化反応不活性有機溶媒中で30乃至80℃の反応温度でエポキシ化する工程を含む、下記一般式(II)、(III)及び(IV)で表わされるエポキシ置換イソシアヌレートを製造する方法。
【化2】

〔式中、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わす。〕
【化3】

〔式中、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わす。〕
【化4】

〔式中、m、p、qはそれぞれ独立して同一又は相異なって1乃至4の数を表わし、n、o、rはそれぞれ独立して同一又は相異なって0乃至4の数を表わす。〕
【請求項2】
前記エポキシ化する工程において、酸化剤として過酸化水素水溶液、並びに触媒として(1)周期律表第VI族元素の酸化物の塩、(2)界面活性剤、及び(3)リン酸類及び/又はホスホン酸類を含有する混合触媒系を用い、式(I)で表わされるオレフィン置換イソシヌレートにおける炭素−炭素二重結合の少なくとも1つをエポキシ化させることを特徴とする、請求項1記載のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。
【請求項3】
前記(1)周期律表第VI族元素の酸化物の塩がタングステン酸塩であることを特徴とする、請求項2に記載のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。
【請求項4】
前記(2)界面活性剤が第4級アンモニウム塩であることを特徴とする、請求項2に記載のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム塩が硫酸水素塩又はメチル硫酸塩であることを特徴とする、請求項4に記載のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。
【請求項6】
前記(3)リン酸類及び/又はホスホン酸類がリン酸又はα−アミノメチルホスホン酸であることを特徴とする、請求項2に記載のエポキシ置換イソシアヌレートの製造方法。