説明

エポキシ樹脂粉体塗料

【課題】 従来のものと比較して凹部への付着性が良好で、凹凸の膜厚差が少なく、エッジカバー性に優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂粉体塗料を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)、硬化剤(C)、オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料であって、オクチルシラン処理アルミナ微粒子の含有量が、粉体塗料全体に対して0.01〜2.0重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、電気的特性、機械的特性、熱的特性に優れており、従来の溶剤型塗料と比較して、塗料中に溶剤を含有しないため、低公害で作業環境性にも優れたものである。さらに塗装直後でも使用できることや多層の重ね塗りが可能で塗膜を厚くできること、比較的安価であること、塗装時に余過剰分の塗料が回収利用できることなどの利点から、電子部品、OA機器、家電製品、建材、自動車部品等の絶縁保護装飾用塗料として近年需要が高い。
【0003】
電子部品や電装モーターへエポキシ樹脂粉体塗料を塗装する際には、静電気を利用する静電塗装によって行われる。近年、小型化に伴い、均一な塗装が可能である摩擦帯電方式を利用した静電塗装機が使用されている。この塗装方式では粉体塗料の帯電はテフロン(登録商標)製の塗装機内壁との摩擦によって行う。高電圧を使用しないため、ファラデーケージ効果が起こらず、凹部への入り込み性に優れている。しかし,摩擦帯電方式は静電気の発生が粉体粒子と塗装機内壁との接触による帯電のみによるため、粉体塗料の帯電量が少なく、塗装の際に十分な付着量を確保できないという問題が生ずる。また粉体塗料の組成により帯電量が大きく異なるなどの問題も存在する。
【0004】
一方、従来からの粉体塗料の塗装方法としてコロナ式静電塗装がある。この塗装方法は高電圧を印加する事によりコロナ放電を起こし粉体に静電気を帯びさせる方法であり、高電圧を印可するため帯電部と被塗装物の間に電界が発生する。粉体付着または環境中の水分の影響を受けにくく、安定して粉体を付着させることができる。
【0005】
しかし、コロナ帯電方式では電圧の印加によってフリーイオンが大量に発生するため、ファラデーケージ効果の影響が非常に強くなり、被塗装物の凹部に粉体が入りにくく、逆に凸部には粉体が付着しすぎる傾向がある。このため、モーターのような複雑な形状をした塗装物に塗装した場合、モーター凹部が凸部に比べて極端に膜厚が薄くなる傾向があり、絶縁性の低下が懸念されている。一方、凹部の膜厚を増加させた場合、外側が極端に厚くなり、線積率(巻線回数)の低下を招く。
また、特許文献1には、成膜表面に粒状の凹凸が殆ど無く、しかも平滑性に優れた塗膜を形成することができる粉体塗料組成物とその流動化剤が記載されているが、複雑な形状をした塗装物に塗装した場合の効果は十分ではない。
【特許文献1】特開2004−210875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はコロナ帯電式の塗装機で塗装した時に、塗装物の凹凸部で膜厚の差が小さく、均一な塗膜を得ることができるエポキシ樹脂粉体塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(6)により達成される。
(1) エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)、硬化剤(C)及びオクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)を必須成分としてなることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
(2) 前記オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)の含有量がエポキシ樹脂粉体塗料全体に対して0.01〜2.0重量%である(1)項に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(3) 前記オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)の平均一次粒子径が1〜100nmである(1)又は(2)項に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(4) (1)、(2)又は(3)項記載のエポキシ樹脂粉体塗料で塗装された物品。
(5) 電子電気部品である(4)項記載の物品。
(6) コロナ帯電方式の塗装機で塗装されたものである(4)又は(5)項記載の物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、従来のエポキシ樹脂粉体塗料と比較して、コロナ帯電方式の塗装機で塗装した際に凹部への付着性が良好で、凹凸部の膜厚差が少なく、エッジカバー性に優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂粉体塗料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料について詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料(以下、単に「粉体塗料」ということがある)に配合されるエポキシ樹脂(A)としては特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。
一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるのものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。
【0010】
エポキシ樹脂(A)の配合量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)の合計量に対して30〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。エポキシ樹脂(A)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと塗膜の平滑性が低下することがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗装後の硬化工程である焼成時にタレやトガリといった外観不良を起こすことがある。
【0011】
本発明の粉体塗料に配合される無機充填材(B)としては特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
無機充填材(B)の配合量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)の合計量に対して30〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。無機充填材(B)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
また、無機充填材(B)の粒径は特に限定されないが、通常、平均粒径として30μm以下のものが用いられる。かかる平均粒径を有する無機充填材を用いることにより、粉体塗料に良好な流動性と塗膜の強度を付与することができる。
【0012】
本発明の粉体塗料に用いられる硬化剤(C)としては特に限定されず、一般にエポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている公知のものが使用できる。例えば、ジシアンジアミド、アジピン酸、イミダゾール化合物、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物、酸無水物を用いると、硬化性、密着性、耐熱性等が優れ好ましい。なお、硬化剤(C)の含有量についても特に限定されず、用いるエポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類などを考慮して適宜設定すればよい。
【0013】
本発明はオクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)を含有することを特徴とするが、本微粒子の添加によってコロナ帯電方式で塗装した際にファラデーケージ効果による塗装物凸部への付着量が抑制され、凹部への入り込みが相対的に高くなる。これにより塗装物の凹凸による膜厚差が小さくなり、均一な膜厚の塗装物を得ることができる。
オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)の配合量は特に限定されないが、前記粉体塗料全体に対して0.01〜2.0重量%であることが好ましく、さらには0.1〜0.5重量%であることが好ましい。
【0014】
これにより本粉体塗料をコロナ帯電方式の塗装機で塗装した場合でも、形状によらず均一な塗装膜厚を有する塗装物を得ることができる。
配合量が上記下限値未満では粉体塗料の付着抑制効果が不十分なため、均一な膜厚を有する硬化物を得ることが出来ないことがあり好ましくない。一方、上記上限値を越えるとレベリング性の低下とボイドの発生のため、塗膜を形成する際表面がきれいに仕上がらないことがある。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料が、均一な膜厚を有する硬化物を得ることができる理由としては、オクチルシラン処理アルミナ微粒子の疎水性が極めて高いために、粉体表面の水分量が低下し、凸部付着時に付着粉同士が凝集の原因となる粉体塗料に付着した水分量が少なく、さらに凹部への入り込みに必要な電荷量を有していることによるものと考えられる。また、本発明の粉体塗料硬化物は流れ率抑制効果があり、優れたエッジカバー性を有している。
【0016】
なお、本発明の粉体塗料には上記配合物のほかにも、本発明の目的を損なわない範囲内で酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、レベリング剤、硬化促進剤等を配合してもよい。
【0017】
本発明の粉体塗料は、例えば、所定の原材料組成としたものを分散混合する方法、あるいは、このようにして得られた原材料混合物をさらに溶融混練して粉砕する方法、などにより得ることができる。
所定の原材料組成としたものを分散混合する方法は、具体的には、所定の組成比で原材料成分を配合し、これをヘンシェルミキサー等の分散混合装置によって十分に均一混合するものである。
また、原材料混合物を溶融混練して粉砕する方法は、具体的には、上記の方法で得られた原材料混合物を、エクストルーダー、ロールなどの溶融混練装置により溶融混合し、これを、粉砕装置を用いて適当な粒度に粉砕した後、分級するものである。
【0018】
無機微粒子を添加する方法としては、粉砕時に微粉末を添加しながら混合する粉砕混合やヘンシェルミキサーなどによる乾式混合がある。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、表1に記載されている原材料の配合量は「重量部」を示す。
【0020】
<実施例1〜3>
原材料成分を表1で示す配合比でヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて粉砕して得た平均粒子径30〜50μmの粉体塗料を得た。無機微粒子はヘンシェルミキサーを使って混合を行った。
【0021】
<比較例1〜4>
原材料成分を表1で示す配合比で、実施例と同様の手法で粉体塗料を得た。
【0022】
実施例及び比較例の粉体塗料について、その配合を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
使用原材料
(1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製・エピコート1055、エポキシ当量850)
(2)硬化剤:
3,3'-4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
(3)硬化促進剤:2−フェニルイミダゾール
(4)無機充填材:炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製・タンカルN−35、平均粒径22μm)
【0025】
(5)無機微粒子:
(A) オクチルシラン処理アルミナ微粒子 平均一次粒子径13nm
一次粒子径13nmの未処理アルミナ微粒子をオクチルシラン1g、メタノール50g、水50gの混合溶液中で攪拌し、溶媒を留去して得た。
(B) オクチルシラン処理シリカ微粒子 平均一次粒子径13nm
一次粒子径13nmの未処理シリカ微粒子をオクチルシラン1g、メタノール50g、水50gの混合溶液中で攪拌し、溶媒を留去して得た。
(C) ヘキサメチルジシラザン処理アルミナ微粒子 平均一次粒子径13nm
一次粒子径13nmの未処理アルミナ微粒子をヘキサメチルジシラザン1g、メタノール50g、水50gの混合溶液中で攪拌し、溶媒を留去して得た。
(D) 未処理アルミナ微粒子 平均一次粒子径13nm
【0026】
粉体特性評価
(試験方法)
1.塗装条件:電装モーター(長65mm、直径60mm、スロット深さ15mm)にコロナ帯電式静電流動浸漬塗装機により60秒間塗装した。
2.硬化条件:300kHzの高周波により60秒で230℃まで加熱した。
エッジカバー率(%)=エッジ部皮膜厚さ/平坦部皮膜厚さ×100
3.流れ性:0.5gの粉体塗料を10mmφの金型に入れ成形後150℃の乾燥機中で30分間加熱、加熱前後の錠剤径の変化から次式により算出した。
流れ率(%)=加熱後の錠剤径/10×100
4.ゲル化時間:200℃、0.1g、針法で評価を行った。
5.電荷量:ファラデーケージを使用して電荷量を測定した。
6.膜厚差:塗装後のモーターを切断し、端面と中央膜厚を測定し、膜厚差から評価した。
7.塗膜外観:塗装後の試料の塗膜表面を観察し、塗膜表面の平滑性に優れているものを◎、平滑性はそれほど優れていないが問題ないレベルのものを○、細かな凹凸が見られるものを△で表記した。
8.エッジカバー性の評価:塗装物を切断して、平坦部、エッジ部の皮膜厚さを顕微鏡観察により測定し、次式によりエッジカバー率を算出した。
【0027】
実施例1〜3は、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を必須成分とし、無機微粒子がオクチルシラン処理したアルミナ微粒子である。本無機微粒子の使用により、粉体塗料の含水量が減少し、膜厚均一性と付着量の向上が確認された。また、十分な塗装外観を有しながら、エッジカバー性が高い塗膜を得ることができた。
特に、実施例1については、無機微粒子の配合量が最適であったので、特性バランスに最も優れたものとなった。
【0028】
一方、比較例1は耐湿性に劣る無機微粒子を使用したため(AEC)、均一性が十分ではないものとなった。比較例2はオクチル基修飾シリカ微粒子を使用したが、凸部への付着量は抑制できるものの、凹部への入り込みに劣る塗膜となった。さらに比較例3はヘキサメチルジシラザンで処理したアルミナ微粒子を使用したが、疎水性が十分でなく、均一性が十分でないものとなった。また、無機微粒子を添加しなかった比較例4は凸部への付着量が多く、一方凹部は少なく、不均一な塗膜が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は凸部への付着量が少なく、凹部への入り込みに優れ、硬化物が均一な膜厚を有する電気電子部品を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)、硬化剤(C)及びオクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)を必須成分としてなることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)の含有量がエポキシ樹脂粉体塗料全体に対して0.01〜2.0重量%である請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記オクチルシラン処理アルミナ微粒子(D)の平均一次粒子径が1〜100nmである請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載のエポキシ樹脂粉体塗料で塗装された物品。
【請求項5】
電子電気部品である請求項4記載の物品。
【請求項6】
コロナ帯電方式の塗装機で塗装されたものである請求項4又は5記載の物品。

【公開番号】特開2010−132794(P2010−132794A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310725(P2008−310725)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】