エレクトロウエッティングバルブ付き送液構造体、これを用いたマイクロ分析チップ及び分析装置
【課題】確実に液体の流れを制御可能なエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体を提供する。
【解決手段】流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、両電極に電圧が印加されていない状態において、作用電極上流端における流路に働く圧力を正とし、下流側においては流路に働く圧力を0又は負とする。
【解決手段】流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、両電極に電圧が印加されていない状態において、作用電極上流端における流路に働く圧力を正とし、下流側においては流路に働く圧力を0又は負とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の流れを制御することのできる送液構造体に関し、更には微量化学分析を行うマイクロ分析チップ及びマイクロ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫分析法は、医療分野、生化学分野、アレルゲンなどの測定分野等において、重要な分析・計測方法として知られている。しかし、従来の免疫分析法は、操作が煩雑である上に、分析に一日以上の時間を要するといった問題があった。
【0003】
このような中、基板にマイクロオーダーの流路を形成し、このマイクロ流路に抗体等を固定化することにより、分析時間の短縮化や分析操作の簡略化を図るマイクロ分析チップが提案されている。
【0004】
このようなマイクロ分析チップを用いて分析を行う場合、入口からマイクロ分析チップ内に溶液を導入し、該溶液をマイクロ分析チップ内で反応させ、出口からマイクロ分析チップ外に溶液を排出する必要がある。従来、マイクロ分析チップにおける溶液の移送には、ポンプなどの外部動力を用いていたが、ポンプはマイクロ分析チップに比べて大型であるため、装置全体の小型化が図りがたい。
【0005】
このため、化学分析装置に微細加工技術を用いてマイクロポンプを組み込む技術が提案されているが(例えば特許文献1)、マイクロポンプの組み込みには複雑で高度な加工技術を必要とする。また、マイクロポンプの容積に加え、ポンプを駆動するための周辺要素の組み込み容積が必要となるので、必ずしも十分なコンパクト化を図り難い。
【0006】
【特許文献1】特開2006−220606号公報
【0007】
他方、マイクロポンプを用いない送液方式として、毛細管力を利用した送液方式が知られている。毛細管力を利用した従来のマイクロ流路構造の基本を図24に示す。図24の符号110は主基板、符号111が蓋基板、符号114が流路、符号112が注入孔、符号113が排出孔である。注入孔112に液体を滴下すると、毛細管力によって溶液が流路114を移動し、排出孔113に移動する。よってポンプ等の外力を必要とせずに液体を112側から113側に移動させることができる。この方式はポンプを用いないので、簡便に微小な送液システムを構築することができるが、送液が不確かであるという問題点を抱えている。
【0008】
特許文献2には、微小な送液システムを制御する技術が記載されている。この文献には、毛細管力によって液体を移送するマイクロ分析チップにおいて、液体の移送を制御するために、エレクトロウエッティング技術を用いたバルブ(エレクトロウエッティングバルブ)を用いる方法が提案されている。
【0009】
【特許文献2】特開2005−199231号公報
【0010】
上記エレクトロウエッティングバルブの原理を、図16を用いて説明する。液体をチップに導入すると、液体は毛細管力によって流路114を流れ、参照電極131を超えて流れて作用電極132上に達するが、作用電極132の表面には疎水性膜が被覆されており、電圧が印加されていない場合は、液体との接触角が大きくなるように設計されている。更に当該部分の流路幅及び流路高さが、液体の流れを停止させるために、十分に小さく設計されている。このため、当該部分(作用電極部分)の表面張力と流れ抵抗とが相まって、液体は流路を通過することができない。すなわち、電圧印加がOFFのとき、バルブは閉じた状態となる。
【0011】
一方、電圧を印加した場合、参照電極131により液体は負に帯電する。また、作用電極132においては、作用電極132と液体との間で仮想的なキャパシタを形成するようになり、作用電極132に液体が引き寄せられる効果が小さくなる。つまり、見掛け上、作用電極132表面の親水性が強くなる。これにより、液体が当該流路を通過することができるようになる。すなわち、電圧印加ONのとき、バルブは開放された状態となる。
【0012】
エレクトロウエッティングバルブを用いる場合、液体を確実に停止させるためには、作用電極が設けられた部分の流路の疎水性と親水性とを調整して、電圧印加がOFFのときに確実に液体が停止するように設計する必要がある。他方、液体を流すためには、液体を介した1対の電極(参照電極131と作用電極132)間に電圧を印加して液体を帯電させ参照電極と作用電極との間で仮想キャパシタを形成させる必要があり、このためには、常に両電極に液体が接触している必要がある。両電極に液体が接触していないと、電圧印加の有無により流れを制御できないからである。
【0013】
しかし、毛細管力を利用して液を流す方式において、液の流れを円滑にするために作用電極の親水性を高めると、液の流れを停止させることが困難になる。その一方、液の流れを停止させ易くするために、作用電極の疎水性を高めると、液体が作用電極の手前(作用電極に接触する手前)で停止してしまうため、もはや毛細管力によって液体を前方に進めることができなくなる。
【0014】
それゆえ、駆動装置を備えない送液構造体において、液体の「前進」と「停止」を的確に制御することは容易ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、毛細管力を利用して液体を流すマイクロ流路において、液体の「前進」と「停止」とを確実に制御することのできる送液構造体およびこれを利用したマイクロ分析チップならびにマイクロ分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、作用電極の上流端を確実に液体と接触するために、上流端近傍を親水性とし、且つ上流端近傍より下流側に疎水性部分を設けた点に特徴を有する。その具体的手法としては、
(1)作用電極表面の上流端を親水性とする、
(2)作用電極上流端を含む流路断面において液体に発生する表面張力による圧力が正となるように、流路内壁面における親水材料比率を高める、
(3)作用電極が形成された部分の上流端以外の流路領域に、液体接触面を増やす疎水性構造物を設ける、
という手段を講じている。
【0017】
なお、上記(1)〜(3)は適宜組み合わせることができる。
【0018】
上記(1)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第1の発明、上記(2)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第2の発明、上記(3)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第3の発明とする。また、第1〜第3の発明にかかるエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体を用いたマイクロ分析チップ及び分析装置にかかる発明を、それぞれ第4〜第5の発明として、順次説明する。
【0019】
上記課題を解決するための第1の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも一部が疎水性であり、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であることを特徴とする。
【0020】
毛細管力を利用したマイクロ流路における液体の流れについて説明する。毛細管力による液体を流す力は、流路壁面と液体との接触角(図21参照)に大きく影響される。流路壁面が均一の材料で構成され、流路の流れ方向に垂直な断面形状が円である場合、液体に作用する圧力Pは、気液界面の界面張力をσ、流路壁面の接触角をθ、流路の半径をrとするとき、図23の式1で示される。つまり、cosθが正である場合には、液体は流路内を進むことができ、他方cosθが0又は負である場合には、液体は流路内を進むことができずに停止する。すなわち、毛細管力を利用して液を流すためには、cosθが正(親水性)である材料を用いることが必須となる。
【0021】
流路壁面が疎水性の場合は、cosθが0又は負であり、液体を流さない圧力Pが発生する。よって、親水性と疎水性の両方が存在する壁面においては、毛細管現象が生じる状態と毛細管現象が生じない状態を設計することができる。図22に示すような流路構造の場合、流路高さをh、幅をwとした流路形状において、主基板の接触角θ1、蓋基板の接触角をθ2、気液界面の界面張力をσ、としたとき、流路の上面で働く界面張力をF1、下面で働く界面張力をF2、左右両側面で働く界面張力をF3とするとき、これらはそれぞれ、図23の式2、式3、式4で示される。流路に働く圧力Pは、F1、F2、F3の和を断面積whで割ったものであるので、この場合の流路に働く圧力Pは図23の式5に示す関係となる。
【0022】
圧力Pが正の値になる場合は、毛細管現象が生じ液体が前進し、圧力Pが負の値になる場合は毛細管現象が生じず、液体の動きが停止する。この関係と、作用電極と蓋基板の親水性の程度の差を利用し、作用電極が形成された流路で液体に発生する表面張力による圧力を調整することができる。
【0023】
上記では流れ方向に直交する流路断面の形状が矩形である場合について説明したが、流路形状はこれに限定されるものではなく、円形状、楕円形状、半円状、逆三角形状等であってもよい。流路断面形状が矩形以外の場合であっても、断面の特定の領域ごとの界面張力を求め、構成比率に応じて界面張力を積算して流路全体に働く圧力Pを求めることができる(図23の式5参照)。
【0024】
この原理から、エレクトロウエッティングバルブにより液体の流れを制御(「前進」・「停止」)するには、電圧をかけない状態において作用電極131が設けられた流路領域における液体に作用する圧力Pを0又は負とし、電圧をかけた状態においては正となるように設計すればよいが(図16参照)、作用電極表面の全体が疎水性であると、作用電極表面に液体が接触することなくその前で停止するおそれがある。
【0025】
そこで本発明では、作用電極132が、疎水性の高い領域(Pが0又は負の領域)135と、上流端を含む親水性領域(Pが正の領域)134と共に備える構成としてある(図3参照)。
【0026】
この構成であると、電圧無印加の状態においては、液体が作用電極132の親水性領域(Pが正の領域)134に確実に接触し、更に疎水性の高い領域(Pが0又は負の領域)135の境界付近にまで前進し、疎水性の高い領域の手前又はそれよりも若干進んだところで停止することになる。すなわち、この構成であると、液体の流れが「停止」状態の場合においても作用電極と液体との接触が確保されているので、両電極に電圧を印加すると液体に電圧が印加されてキャパシタ効果が生じる。このキャパシタ効果により電極表面に対する液体の接触角が小さくなり、液体は作用電極上の疎水性領域135上を通過できるようになる。つまり、電圧印加の有無により液体の流れを制御することができる。
【0027】
ここで、親水性とは、比抵抗が18mΩ・cmよりも大きい純水(25℃)を用い、1気圧、25℃で測定した接触角が90°未満である場合をいい、疎水性とは、上記純水の接触角が90°以上である場合をいう。ただし、接触角の流れ方向に作用する成分である余弦(コサイン)は、90°付近で大きく変動する。本発明は毛細管力を利用して液を流す構造体に関するものであるので、上記構成における「親水性」としては、純水に対する接触角が85°以下が好ましく、より好ましくは75°以下、さらに好ましくは60°以下とするのがよい。そして、上記構成における「親水性」を60°以下とした場合には、上記作用電極表面の「疎水性」を65°以上とすることができる。
【0028】
ここで、エレクトロウエッティングバルブの電極構成としては、少なくとも1つの参照電極と、少なくとも1つの作用電極と、を有していればよい。よって、参照電極が2つ以上であってもよく、作用電極が2つ以上であってもよい。また、作用電極、参照電極に加えて、参照電極への電流の流れを抑制し、参照電極の電位を安定させるために1つ以上の対向電極を設けてもよい。
【0029】
上記本発明構成において、前記流路は、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造とすることができる。
【0030】
この構造であると、液体の流れをより確実に制御することができる。ここで、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造とは、流路内が疎水領域と親水領域とで構成されており、電圧が印加された状態においてもこの条件が満たされている構造を意味する。ただし、電圧が印加されると、見掛け上、親水領域が増えることになる。
【0031】
上記第1の発明構成において、前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである構成とすることができる。
【0032】
上記構成において、前記主基板は、疎水性材料からなり、前記蓋基板は、親水性材料からなる構成とすることができる。
【0033】
上記構成において、前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、前記蓋基板はガラスからなる構成とすることができる。
【0034】
これらの構成であると、第1の発明構造を容易に実現することができる。
【0035】
上記第1の発明構成において、前記作用電極の構成材料が疎水性であり、前記作用電極の上流端近傍表面に親水化処理が施されている、又は前記作用電極の構成材料が親水性であり、前記上流側端近傍表面を除く電極表面に疎水化処理されているとすることができる。
【0036】
これらの構成によっても、上記第1の発明を容易に実現することができる。
【0037】
なお、作用電極の構成材料が疎水性又は親水性とは、基本的には電極として機能させる導電性材料自体が疎水性又は親水性であることを意味するが、加工上の制約により導電性材料に被膜等が均質に形成される場合には、この被膜等の性質を意味する。
【0038】
親水化処理の方法としては、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種を採用することが簡便である。
【0039】
疎水化処理の方法としては、疎水処理剤処理、疎水性膜の形成、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種を採用することが簡便である。特に、導電性材料として金(接触角:60°〜85°)を用い、上流端を除く金の表面を疎水性膜で覆う手段が簡便な方法として例示できる。
【0040】
上記課題を解決するための第2の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極表面が疎水性であり、前記作用電極の上流端を含む流路の断面において液体に発生する表面張力による圧力が正であり、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在することを特徴とする。
【0041】
上記構成では、電圧印加がOFFのときに作用電極表面が疎水性であり、作用電極上流端の流路において液体に発生する表面張力による圧力が正であるため、毛細管現象により疎水性である作用電極の少なくとも上流端が液体と確実に接触するようになる。また、作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在するため、この領域では確実に液体が停止する。電圧印加がONのときは、上記第1の発明と同様の原理により液体が流れる。
【0042】
上記第2の発明構成において、前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである構成とすることができる。
【0043】
上記構成において、前記主基板は、疎水性材料からなり、前記蓋基板は、親水性材料からなる構成とすることができる。
【0044】
上記構成において、前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、前記蓋基板はガラスからなる構成とすることができる。
【0045】
これらの構成であると、第2の発明構造を容易に実現することができる。
【0046】
上記構成において、前記作用電極上流端における溝幅が、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝幅よりも大きい構成とすることができる。
【0047】
上記構成において、前記作用電極上流端における溝高さが、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝高さよりも小さい構成とすることができる。
【0048】
疎水性基板に流路用の溝を設け、電極が形成された親水性基板で蓋をする構成では、図6、図7に示すように、作用電極上流端における溝幅を大きくすると、その分親水性基板に起因する親水領域が大きくなり、作用電極上流端における流路の親水領域比率が高まる。また、図9、図10に示すように、作用電極上流端における溝高さを小さくすると、変動の無い親水性基板に起因する親水領域の比率が高まる。このため、上記構成を採用すると、作用電極上流端の流路において液体に発生する表面張力による圧力を正とし、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在するようにする設計が容易となる。
【0049】
上記課題を解決するための第3の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、前記作用電極の上流端以外の領域に、流路の液体接触面を増加させる構疎水性造物が設けられていることを特徴とする。
【0050】
上記構成では、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、且つ流路の液体接触面を増加させる疎水性構造物が設けられている領域においては、疎水性構造物により流路断面における疎水材料比率が高まる。これを利用して、電圧印加がOFFのとき、当該疎水性構造物形成領域で液体を停止させることができる。電圧印加がONのときは、上記第1の発明と同様の原理により液体が流れる。
【0051】
このような、液体接触面を増加させる疎水性構造物としては、ピラー、穴、溝の少なくとも一種が好適である。
【0052】
第3の発明においても、上記第1、第2の発明と同様の基板構成を採用できる。
【0053】
第4の発明は、上記したエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体の何れかを必須要素として備えたマイクロ分析チップである。
【0054】
第5の発明は、上記マイクロ分析チップを必須要素として備えた分析装置である。
【発明の効果】
【0055】
上記で説明したように、本発明によると、液の流れを確実に開閉できるエレクロロウエッティングバルブ付き流路構造体を実現することができる。本発明流路構造体は、簡素な構造であるのにもかかわらず、高い信頼性を持った送液制御が行うことができる。よって、それを用いたマイクロ分析チップ、分析装置の使い勝手性の向上とコンパクト化に顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0057】
(実施の形態1)
本実施の形態は、上記第1の発明に関するものである。
本実施の形態にかかる送液構造体を図1〜3に示す。図1(a)は送液構造体の全容を示す図であり、図1(b)は主基板、図1(c)は蓋基板を示す概念図である。図2は、図1の破線140での断面図である。図3は、作用電極近傍の流路を示す平面図である。
【0058】
図1(a)に示すように、本実施の形態にかかる送液構造体は、主基板111(ポリジメチルシロキサン(PDMS):接触角100°〜120°)と、蓋基板110(ガラス:接触角5°〜30°)とを、重ね合わされた構造である。
【0059】
主基板111には、液体をチップ内に注入するする注入孔112と、液体をチップ外に排出する排出孔113と、注入孔112と排出孔113とを繋ぐ流路114用の溝と、が形成されている(図1(c)参照)。
【0060】
蓋基板110には、エレクトロウエッティングバルブ用の参照電極131と、作用電極132と、各電極を延長する引き出し電極133と、外部接続端子用電極136と、が形成されている。ここで、参照電極131は全部が流路114と交わり(流路幅>参照電極幅)、作用電極132は流路114と一部が交わる(流路幅<作用電極幅)ように配置されている(図1(b)参照)。
【0061】
図1、2からわかるように、流路114は、流路幅(溝幅)、流路高さ(溝高さ)ともに一定である。
【0062】
また、図3に示すように、作用電極表面は、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135を有している。
【0063】
主基板111の厚みは0.1mm〜10mm程度あり、貫通孔112および貫通孔113の直径は10μm以上の貫通孔でよい。流路幅、流路高さは、本実施の形態ではともに50μmとしている。
【0064】
また、主基板111として疎水性のPDMS基板を用い、蓋基板110として親水性のガラス基板を用いているが、これに限定されるものではなく、送液構造体の利用用途に応じて適切な素材を選択するのがよい。例えば送液構造体に光学的検出を行う検出部を組み込む場合には、主基板111および蓋基板110の何れか一方または双方の材料として、励起光による発光が少ない透明または半透明の材質を用いることが望ましい。
【0065】
このような透明または半透明な材料としては、ガラス、石英、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フィルム等が挙げられる。なかでも、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂は、透明性、成型性の観点から好ましい。励起光による発光が少ないプラスチック材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレートの水素原子をフッ素原子に置換したフッ化ポリメチルメタクリレート等のフッ素系のプラスチック材料や、触媒や安定剤等の添加剤に蛍光を発しない部材を用いたポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
他方、送液構造体流路内で電気的な制御や電気的な測定を行うためには、蓋基板110及び/または主基板111表面に電極を形成する必要がある。このため、主基板111または蓋基板110の一方または両方が電極形成可能な材料であることが好ましい。電極形成可能な材料としては、生産性、再現性の観点からガラス、石英、シリコン等が好ましい。
【0067】
なお、凹凸のある部分に電極を形成することは難しいので、溝による凹凸のある主基板111ではなく、平坦な蓋基板110に電極を形成することが好ましい。
【0068】
(流路に働く圧力)
流路内壁面に親水性(ガラス基板に起因する内壁面)と疎水性(PDMS基板に起因する内壁面)の両方が存在する本実施の形態において、流路に働く圧力Pは次のように求めることができる。図22に示す流路断面図において、流路高さ161をh、流路幅162をwとし、主基板111の接触角をθ1、蓋基板110の接触角をθ2、気液界面の界面張力をσとしたとき、流路の上面で働く界面張力をF1、下面で働く界面張力をF2、左右面で働く界面張力をF3とするとき、これらはそれぞれ図23に示す式2、式3、式4で求められる。流路に働く圧力Pは、F1、F2、F3の和を断面積whで割ったものであるので、この場合の流路に働く圧力Pは図23の式5で求められる。圧力Pが正の値になる場合は、毛細管現象が生じて液体が進み、圧力Pが0又は負の値になる場合は毛細管現象が生ぜず、液体が停止する。
【0069】
上記では流れ方向に直交する流路断面の形状が矩形である場合について説明しているが、流路断面形状はこれに限定されるものではない。円形状、楕円形状、半円状、逆三角形状等であってもよい。流路断面形状が矩形以外の場合であっても、断面の特定の領域ごとの界面張力を求め、構成比率に応じて界面張力を積算して流路全体に働く圧力Pを求めればよい(図23の式2〜5参照)。
【0070】
(エレクトロウエッティングバルブの動作原理)
図4に本実施の形態にかかる送液構造体の流路における液体の流れを示す。図4(a)は電圧印加OFFの状態、図4(b)は電圧印加ONの状態を示している。
【0071】
図3、図4に示すように、作用電極132は、流路内壁面の1面を構成する親水性の蓋基板110の流路部分を覆うように形成されており、作用電極132の上流端近傍以外の領域135の表面は、疎水性膜(テトラフルオロエチレン膜)で被覆されている。よって、作用電極132の疎水性膜が形成された領域135において、流路全内壁面(4面)が疎水性となり、且つ作用電極132が設けられた流路114の溝幅および溝深さはそれぞれ50μmと狭い。よって、電圧印加がOFFの状態においては、液体はエレクトロウエッティングバルブ用作用電極132の領域135を通過することができない。
【0072】
他方、作用電極132と参照電極131との間に電圧が印加(0.8V〜1.5V程度)されると、作用電極132上を液体が通過することができるようになる(図4(b)参照)。
【0073】
このことを、図4を参照しつつ説明する。注入孔112から注液された液体はエレクトロウエッティングバルブ用参照電極131上に接しながら流路114を流れ、流路114の特定域(液を停止させたい領域)に設けられたエレクトロウエッティングバルブ用作用電極132部分に達する。エレクトロウエッティングバルブ用作用電極132は金(接触角:60°〜85°)で構成されており、且つ作用電極上流端近傍以外の領域135は疎水性膜又は親水性の低い近疎水性膜(接触角:60〜90°)で被覆されている。このため、電圧を印加していない場合は、液体との接触角が60°以上になる。その結果、表面張力により発生する圧力Pが0又はマイナスとなり、液体の流れが停止させられる(図4(a)参照)。すなわち、電圧印加がOFFのとき、バルブは閉じた状態となる。
【0074】
他方、引き出し電極133に電圧が印加されると、参照電極131上を通過した液体は負に帯電して、作用電極132と液体の間で仮想的なキャパシタが形成され、液体が作用電極132に引き寄せられる。この結果、液体の作用電極に対する接触角が小さくなる。例えば接触角が40°程度となる。つまり、見掛け上、作用電極表面全体にわたって親水性が強くなり、親水性の影響が大きくなるので、表面張力により発生する圧力(毛細管力)が正となる。これにより、液体が当該領域135を通過することができることになる(図4(b)参照)。すなわち、電圧印加がONのとき、バルブは開放された状態となる。
【0075】
このように、エレクトロウエッティングバルブを確実に動作させるためには、電圧印加がOFFのとき、作用電極の少なくとも一部が液体と接触している状態で液体が停止するように設計する必要がある。
【0076】
本実施の形態では、このような条件を満たすため、図3に示すように、作用電極の表面に、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135を設けている。すなわち、親水性領域134の接触角をD1、疎水性領域135の接触角をD2としたとき、D1<90°≦D2の関係がある。
【0077】
上記原理からして、エレクトロウエッティングバルブで液体の流れを的確にON,OFFさせるためには、電圧印加がOFFのときに、親水性部分と疎水性部分の影響が全体として打ち消しあうように調整しておく必要があるので、流路内壁面の少なくとも一部を疎水性、残余を親水性にする必要がある。蓋基板に親水性基板(ガラス基板)を用い、流路用の溝を形成する主基板に疎水性基板(PDMS基板)を用いる場合においては、流路幅を狭くすることにより疎水性の影響を大きくできるので(毛細管力が小さくなる方向に働く)、これと作用電極132表面の接触角の変化をバランスさせることにより、液体の流れを的確に制御できるようにする。そして、電圧印加がOFFの状態において、送液構造体において親水性領域134には毛細管力が働き、疎水性領域135には毛細管力が働かないように、図22の流路断面構造において、図23の式5の変数となる流路高さh(161)、流路幅w(162)を設定する。このためには、好ましくは流路114の流路幅、流路高さを、それぞれ10μm以上300μm以下とし、例えば流路幅、流路高さを、それぞれ100μm以下とする。
【0078】
さらに、作用電極132表面の疎水性膜または親水性の低い近疎水性膜の接触角を適正なものとし、電圧を印加し作用電極132表面の接触角が減少したときに、疎水性壁面の効果より親水性壁面の効果が大きくなるように設計する。疎水性または低い親水性の程度としては、例えば接触角60°〜145°、好ましくは90°〜120°である。
【0079】
ここで、作用電極132表面に親水性領域134と疎水性領域135とを設ける方法としては、(1)作用電極の構成材料として疎水性材料を用い、且つ領域134を親水性となるように処理する、(2)作用電極の構成材料として親水性材料を用い、且つ領域135を疎水性となるように処理する、という手法を用いることができる。本実施の形態では、作用電極自体に親水性の金(接触角:60°〜85°)を用い、領域135を疎水性となるようにテトラフルオロエチレン(接触角:100°〜120°)膜を形成している(上記(2)を採用)。
【0080】
例えば、上記(1)の方法として、作用電極の構成材料として疎水性の導電性高分子を用いることが好ましい。また、親水化処理として、酸素プラズマ処理やUV処理などを用いることができる。また、界面活性剤や親水性の官能基を持つ試薬を表面に塗布することによっても親水性を高めることができる。また、表面の粗さを制御することによって、親水性を高めることもできる。
【0081】
上記(2)の方法としては、作用電極の構成材料として導電性の金を用いることが好ましい。そして、作用電極の上流端近傍以外の表面に疎水性膜を形成することにより、疎水化処理することができる。具体的には、疎水性の材料を塗布するか、疎水性の官能基を有する膜を表面に形成する。また、表面の粗さを制御することによって疎水性を高めることもできる。
【0082】
疎水性膜としては、テトラフルオロエチレン膜や空気中に放置することにより形成される自然酸化膜(接触角:60〜85°の近い疎水性膜)を用いると、膜の厚みを容易に制御できるので好ましい。また、自然酸化膜の場合、上流端近傍領域のみこれを形成しないようにすることは難しいので、全面に膜を形成した後、上流端近傍領域を親水化処理することが好ましい。
【0083】
なお、上記では、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135と、の2つの領域からなる構成を例示しているが、疎水性領域135の下流側に親水性の領域が形成されていてもよい。
【0084】
図1に示される送液構造体の流路114の幅と高さは特に限定はしないが、液体の濡れと毛細管力よって液体が浸透していくことが可能な寸法に設定することが好ましい。流路高さは、好ましくは、1μm〜5mm程度に設定し、流路幅は、好ましくは1μm〜5mm程度に設定する。
【0085】
この送液構造体は、例えば作用電極の上流側領域を液を混合する領域として用い、作用電極よりも下流側の領域に抗体等を固定化し、この領域で抗原を含む液を流して抗原抗体反応させ、さらに蛍光色素を付けた標識抗体を含む液を流して抗原抗体反応させ、当該領域に励起光を照射してその蛍光の量により抗原の量を測定するというマイクロ分析チップとして利用できる。
【0086】
各流路の内壁面の「親水性」や「疎水性」は、基板材料が親水性の基板又は疎水性の基板を用いることにより容易に実現できるが、本発明でいう親水性や疎水性は基板材料自身の持つ性質に由来するものに限定されない。例えば、疎水性である流路の一部に親水性処理を施すことにより、「流路の内壁面の一部が疎水性」を実現することができる。また、親水性材料からなる基板表面の一部に疎水膜の形成等の疎水処理を施すことにより「流路の内壁面の一部が疎水性」としてもよい。親水化処理としては、例えば酸素プラズマ処理やUV処理などを用いることができる。また、界面活性剤や親水性の官能基を持つ試薬を表面に塗布することによっても親水性を高めてもよい。他方、疎水化処理としては、フッ酸処理や、テトラフルオロエチレン被膜を形成する等の方法がある。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態2は、上記第2の発明に関するものである。
本実施の形態にかかる送液構造体を、図5に示す。図5(a)は送液構造体の全容を示す図であり、図5(b)は主基板、図5(c)は蓋基板を示す概念図である。
【0088】
本実施の形態にかかる送液構造体は、図5(a)に示すように、主基板111(ポリジメチルシロキサン(PDMS):疎水性)と、蓋基板110(ガラス:親水性)とを、重ね合わせてなる構造である。
【0089】
実施の形態2は、作用電極132表面に上流端近傍の親水性領域と残余の疎水性領域とを設けずにすべて疎水性とし、その代わりに作用電極132が形成されている領域の流路の幅を上流端と下流側とで変化するようにした(上流端が下流側よりも広い)こと以外は、上記実施の形態1と同様である。よって、基板構成、流路、注入孔等は、上記実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0090】
なお、作用電極表面は、疎水性膜で全面が覆われており、作用電極の配置に関しては、上流端では流路幅>作用電極幅であり、下流側では流路幅<作用電極幅としている。
【0091】
(エレクトロウエッティングバルブの動作原理)
図6は、本実施の形態にかかる送液構造体の作用電極近傍を示す拡大図である。
【0092】
作用電極132の上流端において流路幅をw1(142)、下流部分において流路幅をw2(143)、作用電極幅をw3(144)、流路高さをhとする。
【0093】
このとき、作用電極上流端近傍の流路においては、疎水性基板111の内壁面が圧力に与える影響は(w1+2h)であり、親水性基板110の内壁面が圧力に与える影響は(w1−w3)であり、作用電極132の表面が圧力に与える影響は(w3)である。他方、下流側の流路幅がw2である領域の流路においては、疎水性基板111の内壁面が圧力に与える影響は(w2+2h)であり、作用電極132の表面が圧力に与える影響は(w2)である。このため、作用電極132の上流端において流路に働く圧力P1は、上記3成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。作用電極下流側の流路幅がw2である領域の流路に働く圧力P2は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。
【0094】
このとき、圧力P1は正となり、圧力P2は0又は負となるように設計すると、電圧印加がOFFのときに作用電極132の表面自体が疎水性であっても、流路に働く圧力P1によって作用電極上流端は確実に液体と接触するようになる。また、圧力P2が0又は負であるため、電圧印加がOFFのときには確実に液体が停止する(バルブが閉じた状態となる)。
【0095】
電圧印加がONのときには、上記実施の形態1で説明したのと同様の原理により、液体が流路幅w2である領域の作用電極上を通過して流れる(バルブが開放された状態となる)。
【0096】
また、図5に示すような流路構造の場合、作用電極の下流端が図中下方向に位置する流路幅が広い部分にまで延在している構成を採用してもよい。この場合、この流路幅が広い部分の流路に働く圧力は、正であってもよい。
【0097】
(実施の形態2の変形例1)
例えば、図7に示すように、作用電極132近傍の流路幅を急激に変化させる(流路の輪郭線の角度が90°である)構造を採用してもよい。
【0098】
(実施の形態2の変形例2)
主基板が親水性であり、蓋基板が疎水性である構成としてもよい。この場合は、以下のように設計する。
【0099】
この構成では、流路幅が小さいほど親水性の影響が大きくなるので、毛細管力が大きくなる。したがって、図8に示すように、液を停止させるためには、作用電極の上流端の流路幅w4(142)を、下流側の流路幅w5(143)よりも小さくする必要がある。なお、この形態においては、説明を簡略化するために、作用電極幅w6(144)を、下流側の流路幅w5よりも大きくしているが、w6≦w5としてもよい。
【0100】
この構成では、作用電極上流端近傍の流路においては、親水性基板の内壁面が圧力に与える影響は(w4+2h)であり、作用電極の表面が圧力に与える影響は(w4)である。他方、下流側の流路幅がw2である領域の流路においては、疎水性基板の内壁面が圧力に与える影響は(w5+2h)であり、作用電極の表面が圧力に与える影響はw5である。このため、作用電極上流端において流路に働く圧力P3は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。作用電極下流側の流路に働く圧力P4は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。
【0101】
このとき、圧力P3は正となり、圧力P4は0又は負となるように設計することにより、電圧印加がOFFのときに、作用電極上流端を確実に液体と接触させ、且つ作用電極上で確実に液体を停止させることができる。
【0102】
(実施の形態2の変形例3)
図9に示すように、流路高さを変更する構成を採用してもよい。
【0103】
主基板が疎水性であり、電極132を除く蓋基板が親水性である送液構造体においては、図9に示すように、作用電極132上流端の流路高さをh1(151)、下流部分の流路高さをh2(152)とする。このため、作用電極上流端において流路に働く圧力P5が正の値になるように設定し、下流側において流路に働く圧力P6が0又は負の値になるように設計すればよい。この構成では、h1<h2の関係が成り立つ。
【0104】
(実施の形態2の変形例4)
上記変形例3において、図10に示すように、流路高さを段階的に変化させる構造を採用してもよい。
【0105】
(実施の形態2の変形例5)
上記変形例3,4において、主基板が親水性、蓋基板が疎水性としてもよい。この場合は以下のように設計する。
【0106】
上記構成では、流路高さが大きいほど親水性の影響が大きくなり、毛細管力が大きくなる。したがって、図11に示すように、作用電極132の上流端の流路高さをh3(151)、下流部分の流路高さをh4(152)とするとき、このh3、h4を用いて作用電極上流端において流路に働く圧力P7、下流側において流路に働く圧力P8を算出し、圧力P7は正、圧力P8は0又は負となるようにする。このとき、h3>h4が成立する。
【0107】
(実施の形態2の変形例6)
また、流路幅や流路高さを変更せずに、作用電極上流端における流路内壁面を親水化処理及び/又は作用電極下流側における流路内壁面を疎水化処理してもよい。
【0108】
上記実施の形態2において説明した例(変形例含む)を適宜組み合わせてもよい。
【0109】
(実施の形態3)
本実施の形態は、上記第3の発明に関するものである。
図12に、実施の形態3にかかる送液構造体を示す。本実施の形態では、作用電極の下流側(疎水性基板111側)に、液体接触面を増加させる疎水性構造物149を設けている。このため、この疎水性構造物149が設けられた部分の流路では、流路内壁面にさらに疎水性構造物149による影響が加わり、疎水性が高くなる。電圧印加がOFFの時、作用電極上流端において流路に働く圧力が正であり、疎水性構造物149形成領域において流路に働く圧力が0又は負となるようにすれば(図23の式5を応用する)、液体は作用電極132上流端に接し、且つ疎水性構造物149形成領域で停止する。電圧印加がONのときには、液体が疎水性構造物149形成領域を通過して流れる。
【0110】
疎水性構造物149としては、ピラー、穴、溝などの液体接触面を増加させる構造を任意に採用することができる。この形態においては、液体と接触する分部の面積、構造物内の隙間空間と接触する部分の面積を設計することで、疎水性構造物149が設けられた領域で確実に液体を停止させることができる。
【0111】
(実施の形態4)
実施の形態4は、上記実施の形態1に示すエレクトロウエッティングバルブを2つ直列に配置したものである。
【0112】
図13に、実施の形態4にかかる送液構造体を示す。各部の構成や液体を停止させるための設計要件等の説明は省略する。
【0113】
この構成では、流路114で2段階に液を制御することが可能となる。なお、直列に3以上配置してもよい。
【0114】
(実施の形態5)
実施の形態5は、上記実施の形態2に示すエレクトロウエッティングバルブを2つ並列に配置したものである。
【0115】
図14に、本実施の形態にかかる送液構造体を示す。本実施の形態では、2つの注入孔112a,112bと、注入孔にそれぞれ連続する第2の流路151a,151bと、液溜め流路にそれぞれ連続する、液溜め流路よりも流路幅の狭い第3の流路152a,152bと、2つの第3の流路に連続する第1の流路114と、第1の流路に連続する排出孔113と、を有している。
【0116】
ここで、参照電極131a,131bは、それぞれ第2の流路151a,151b内に形成されており、作用電極132a,132bは、それぞれ第2の流路151a,151bと第3の流路152a,152bとが切り替わる領域に形成されている。基板構成は、上記実施の形態2と同様である。すなわち、作用電極の上流端は流路幅の大きい第2の流路(親水性基板の影響が大きい部分)に位置し、下流側領域は流路幅の小さい第3の流路(親水性基板の影響が小さい部分)に位置する。このため、実施の形態5にかかるエレクトロウエッティングバルブは、上記実施の形態2と同様の効果が得られるものが2つ並列に配置されたものである。
【0117】
この構成では、異なる溶液を順次第1の流路に送り込むことが可能となる。なお、並列に3以上配置してもよく、上記実施の形態4の構成と組み合わせて用いてもよい。
【0118】
(実施の形態6)
実施の形態6は本発明送液構造体を利用したマイクロ分析チップに関する。実施の形態3にかかるマイクロ分析チップは、図15に示すように、注入孔112と、流路114a〜eと、排出孔113と、を有している(図15参照)。
【0119】
更に、本実施の形態では、流路114bに作用電極が形成され、流路114aに参照電極が形成されている。このため、上記実施の形態2と同様の設計をすることにより、液の流れの制御を行うことができる。また、流路114dには、検出部が設けられている。また、検出部は目的物質を検出できる機能を有する部分であればよい。そして両者ともに特段の制約はないので、図15には反応部及び検出部を図示していない。
【0120】
また、検出部が幅の狭い流路114dに設けられている。この構造であると、流路114cより幅が狭い流路114dに入った液体は流れを速め、渋滞なく均一に流れるので、検出精度が高まる。また、検出目的物質の素通りが減少するので、この側面からも検出精度が高まる。
【0121】
なお、検出部における検出方法は、電極を用いて電気量を測定する方法(電気化学的方法)や、外部より光を照射しその反射光や透過光を測定する光学的方法などがあるが、いずれの方式であっても、液の流れが渋滞することがない効果(検出精度や検出再現性の向上効果)が得られる。
【0122】
以上から、実施の形態6によると、簡単な構造でもって簡便かつ迅速に目的物質の検出が行え、しかも検出精度に優れたマイクロ分析チップを実現することができる。
【0123】
(実施の形態7)
実施の形態7は、参照電極131の電位を安定にするため、対向電極137を設置したこと以外は、上記実施の形態1と同様である(図16参照)。対向電極137を設置することで、電位の基準になる参照電極131への電流の流れを防止することができ、参照電極の電位を安定させることができる。この効果により、より高精度にエレクトロウエットバルブを電気的に駆動することが可能となる。
【0124】
(実施の形態8)
実施の形態8は、実施の形態6にかかるマイクロ分析チップを更に発展させたものである。実施の形態8にかかるマイクロ分析チップの具体的構成の詳細を順次説明する。
【0125】
(全体構成)
実施の形態にかかるマイクロ分析チップの全体構成図を、図17に示す。図17に示すように、実施の形態8のマイクロ分析チップは、第1の液体用の第1注入孔2001と、第2の液体用の第2注入孔2002と、これらの注入孔に連続する第1液溜め部2003、第2液溜め部2004と、これらの液溜め部に連続する注入路2005、2006と、ミキサー部2007と、第1隘路2009と、第1の流路2008と、第2隘路2011と、第2の流路2010と、第3隘路2013と、第3の流路2016と、排出孔2014と、を有し、第1の流路2008には、反応部2017が設けられ、第2の流路2010には、検出部2012が設けられている。
【0126】
それぞれの注入路2005,2006には作用電極が形成され、更に、第1及び第2液溜め部2003,2004には、参照電極が形成されている。すなわち、この実施の形態は、上記実施の形態5を利用したものである。
【0127】
さらに、チップの端部に、外部接続端子2015が設けられている。
【0128】
第1注入孔2001から第1の液体が注入されると、第1液溜め部2003に第1の液体が注入される。第2注入孔2002も同様に、第2の液体が注入されると第2液溜め部2004に第2の液体が注入される。
【0129】
上記作用電極と参照電極とにより、注入された液体のミキサー部2007への流入を停止または開始することができる。ミキサー部2007は第1の液体と第2の液体を混合できる構造としてある。
【0130】
ミキサー部2007には、第1の流路2008が第1隘路2009を介して接続されている。第1の流路2008に設けられた反応部2017には、溶液に含まれる被検出物質と反応する物質が配置されている。
【0131】
なお、図17の例では、ミキサー部と反応部は第1隘路2009を介して接続されているが、第1隘路2009を介すことなく直接接続されていてもよい。
【0132】
第2の流路2010は、第2隘路2011を介して第1の流路2008と接続されており、第2の流路2010には検出部2012が設けられている。検出部は被検出物質を直接または間接的に検出することができるよう構成されている。なお、被検出物質を直接検出できる構成である場合には、第2の流路2010を有さない構成とすることができる。
【0133】
このマイクロ分析チップは、外部接続端子2015を要しており、当該端子を介して外部電源への接続、電気的制御信号の入力、検出信号の出力などを行えるようになっている。これにより、電源やICなどの制御回路を外付けとすることができるので、その分、チップのコンパクト化を図れる。
【0134】
実施の形態7にかかるマイクロ分析チップについて更に説明する。
【0135】
〈液体の注入〉
第1の液体用の注入孔2001および第2の液体用の注入孔2002より、それぞれ第1の液体および第2の液体を注入する。これにより、液溜め部2003、2004にそれぞれの液体を注入できる。
【0136】
注入孔2001・2002は、外部(大気)に開放された孔であって毛細管力が働かない程度の大きさ(例えば2mmΦ)としてある。毛細管力が働かない大きさである場合には、注入孔が疎水性であっても液体を円滑に注入することができる。注入孔2001・2002は、毛細管力の働く大きさであってもよいが、この場合には液体を円滑に注入できるように、注入孔に親水性処理を施す等する必要がある。
【0137】
なお、注入孔に液体を充填したカートリッジを接続する方法で液体を注入させることもできる。この場合にはカートリッジ内の液体が流路系に充分に流れ込むよう、注入孔に空気抜き用の隙間が確保できるようにするか、または別途空気抜き孔を設けるのが好ましい。
【0138】
図17の例は、2つの注入孔を有する構造であるが、注入孔は2つに限られず、3つ以上とすることもできる。例えば、第1の液体用の注入孔に被検出物質を含む試料を、第2の液体用の注入孔に試薬を、第3の液体用の注入孔に標準試料を、第4の液体用の注入孔に洗浄液を注入する等とすることができる。
【0139】
洗浄液を注入する第4注入孔を設けた構造であると、チップ内を洗浄し繰り返し使用することによって、チップのコストパフォーマンスを高めることができる。なお、検出処理前後に第1の液体用の注入孔等から洗浄液を注入して流路内を洗浄することにより、試料等の汚染を低減することもできる。これにより検出誤差を少なくすることができる。
【0140】
〈ミキサー部〉
ミキサー部は第1の液体と第2の液体を充分混合できるように構成する。例えば、ミキサー部に、第1開閉バルブおよび第2開閉バルブから流入して来た液体が自然混合されるように、マイクロピラー構造設けるのもよい。また、T字型ミキサー、Manzミキサー、3次元蛇行流路を用いたミキサーなどを設けることもできる。
【0141】
図17の例は2液を混合する場合であるが、3液以上の液体を混合するように構成してもよい。この場合、第3の液体の注入と、流入タイミングを制御するために、他の液溜め部、注入路と同様に電極を形成することが好ましい。
【0142】
〈第1の流路〉
第1の流路2008は、反応を行う反応領域として機能する。第1の流路2008に設けられる反応部2017は第1の流路2008の全部であってもよいし、その一部であってもよい。反応部2017には、例えばサンプル溶液に含まれる被検出物質を特異的に認識し反応する分子が配置される。被検出物質が抗原である場合は、抗体を反応部に固定化するとよい。被検出物質を検出するためには、酵素免疫反応のサンドイッチ法を用いることができ、この場合、抗原を酵素標識抗体(二次抗体)と反応させ、抗原と酵素標識抗体が結合した複合体とする。この複合体を反応部に予め固定化しておき抗体(一次抗体)と反応させる。次に基質を導入し、二次抗体に標識されている酵素と反応させ、反応により生成された電気化学的に活性のある物質を検出部の電極上で電気化学的に検出を行う。反応部では、検出部にて検出できる物質が被検出物質の量に応じて生成される。なお、反応部における検出手段が光学的な手段であってもよい。
【0143】
〈外部接続端子〉
外部接続端子2015は、外部よりチップに駆動電源や駆動情報を入力し、また外部に検出結果等を出力するためのものである。この端子の形成に金薄膜を用いると、外部接続端子の形成をエレクトロウエッティングバルブや検出電極などと同様に行うことができるので生産効率がよい。なお、金に代えて、銅や鉄またはアルミニウムなどの他の導電性材料を用いてもよいことは勿論である。
【0144】
〈2層構造体〉
実施の形態8にかかるマイクロ分析チップは第1基板(主基板)2101と第2基板(蓋基板)2102を重ね合わせた2層構造になっている。2層構造の各々の層構造について図18を用いて説明する。
【0145】
第1基板(主基板)2101は、透明性および加工性が高いものが良く、また液体の移動の制御を行うために疎水性を有するものがよい。このような基板としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるものがよい。他方、第2基板(蓋基板)は、電極が形成し易い材料が良く、第1基板を疎水性とした場合においては親水性とする必要がある。このような基板として、ガラス、石英、シリコン等からなる基板が好適である。
【0146】
第1基板及び/又は第2基板は上記親水性または疎水性の特性を有することに加え、蛍光やUV光を用いて検出目的物質を測定するために、励起光による発光が少ない透明または半透明の材質を用いることが望ましい。このような材質としては、実施の形態1に記載したものや、特開2003−149252号公報で提案される材質を用いることができる。
【0147】
各基板に対し次のような加工を行う。第1基板(主基板)に対しては、上部に第1の液体用の注入孔2001、第2の液体用の注入孔2002、排出孔を上向きに開口する。また、液溜め部2003・2004、注入路2005・2006、ミキサー部2007・第1の流路2008・第1隘路2009・第2の流路2010・第2隘路2011・第3隘路2013、第3の流路2016用の凹状溝を形成する。
【0148】
第2基板(蓋基板)2102に対しては、その表面に電極2105・電極2106、検出用電極2112を形成し、また第2基板の端部に外部接続端子2015を形成する。更に各電極を外部接続端子2015に接続する引き出し線を形成する。各電極の形成は、公知の方法を用いればよい。
【0149】
上記のように加工した両基板2101・2102を、加工面を内側にして張り合わせる。これにより実施の形態8にかかるマイクロ分析チップが完成する。
【0150】
(実施の形態9)
実施の形態9は、携帯可能なハンディ型のマイクロ分析装置に関する。実施の形態8の内容を図19に基づいて説明する。図19は、実施の形態9にかかる携帯可能なハンディ型のマイクロ分析装置の概要を説明するための概念図である。
【0151】
このハンディ型マイクロ分析装置は、マイクロ分析チップ2302と、このマイクロ分析チップを駆動制御する制御用ハンディ機器2301とで構成されている。マイクロ分析チップ2302は、上記実施の形態8で説明したと同じマイクロ分析チップである。よって、ここではマイクロ分析チップの詳細な説明は省略する。
【0152】
図19に示すように、制御用ハンディ機器2301の下部には、実施の形態7で説明したと同様なマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2015を挿入するチップ接続口2303が設けられており、このチップ接続口の奥には、外部接続端子2015と電気的に接続する外部入出力端子(図示せず)が設けられている。マイクロ分析チップの外部接続端子2015をチップ接続口2303に挿入すると、制御用ハンディ機器2301内の外部入出力端子とマイクロ分析チップ2302の外部接続端子とが電気的に接続される。
【0153】
制御用ハンディ機器2301には、分析チップの測定結果(被検出物質の量など)を表示することができる表示部2304、および、測定の開始、停止や、測定パラメータを特定するための様々なデータを入力することのできる入力部2305が設けられている。入力部2305としては、例えばタッチパネル構造が採用できる。
【0154】
更に制御用ハンディ機器2301には、図示しないが、データを処理することのできるCPUや入力情報および出力情報を処理するI/O論理回路などの情報処理システムが組み込まれている。
【0155】
マイクロ分析チップ2302を制御用ハンディ機器2301に接続し、各種データを入力し、測定開始ボタンを押す。これにより、予めマイクロ分析チップに備えられ、且つ開閉バルブにより流路内への流入が停止されていた試薬液や試料液(被検液)などの溶液が流路内内に順次進入する。これにより各流路内で所定の反応が行われて検出可能物質になり検出部に至り、ここで被検出物質の量に応じた電気信号が発せられる。この電気信号は外部接続端子2015から外部に出力される。
【0156】
外部接続端子2015から出力された信号は、外部接続端子2015と電気的に接続された制御用ハンディ機器の外部入力端子が受け取り、この信号を制御用ハンディ機器に予め格納されたソフト情報に基づいて分析する。これにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。
【0157】
上記制御用ハンディ機器しては、例えば携帯電話やPDAなどの携帯電子機器を活用することができる。ここでは携帯電話を例に挙げて説明する。例えばコンピュータ機能を備えた携帯電話に、上記したチップ接続口を設け、この携帯電話にマイクロ分析チップから発信されたデータを処理する分析ソフトを格納する。この携帯電話は通常は携帯電話として機能し、必要に応じて制御用ハンディ機器として機能させることができる。
【0158】
操作方法を例示する。携帯電話にマイクロ分析チップを接続し、携帯電話のボタンにより各種データを入力した後、測定開始ボタンとして設定されたボタンを押す。これにより、あらかじめマイクロ分析チップに準備され、かつ開閉バルブにより流路内への流入が停止されていた試薬液や被検液などが流路内へ進行する。この後、分析チップが順次動作して検出部において検出された被検出物質量に応じた電気信号を携帯電話に出力する。携帯電話のコンピュータがこの信号をソフト的に解析し被検出物質の量や種類などを特定する。これを携帯電話のディスプレイに表示する。また、オペレータの指示を受け、その電送機能を利用して解析情報を離れた場所にまで電送する。
【0159】
このように、携帯機器を利用することにより、コストパフォーマンスに優れ、かつ利便性・使い勝って性に優れたマイクロ分析装置を実現することができる。
【0160】
なお、分析チップと携帯電子機器との間の信号伝達方式は、両者間で電気信号がやり取りできる限りどのような方式・形態でもよく、必ずしも上記のようなチップ接続口を介する方式である必要はない。
【0161】
(実施の形態10)
実施の形態10のマイクロ分析装置は、試料(被検液)の採取、検出データの分析、分析結果の出力等、の各機能が複数の基板にそれぞれ形成され、これが積層され一体化された一体型マイクロ分析装置に関する。
【0162】
図20に一体型マイクロ分析装置の平面見取り図を示す。図20に示すように、この一体型マイクロ分析装置は、サンプル採取部2401、液体流路部2402、駆動分析処理部2403、入出力論理処理部2404および出入力部2405が、それぞれ1つの基板に形成されている。ただし、全ての要素を一つの基板に形成してもよいし、関連する要素ごとを1つの基板に形成する等してもよい。
【0163】
サンプル採取部2401には、内部に毛細管が有する針が配置されており、この針を人体又は試料体に針を刺す等することにより血液や試料を採取する。針は、低侵襲のマイクロプローブとすると人体等に針を刺し血液等の体液を抽出する際に痛みが緩和されるので好ましい。また、サンプル採取部2401に、針と共に、又は針の代わりに、非侵襲型の採取器具、例えば皮膚表面の汗、口腔内の唾液、涙や尿等を採取する吸液体を設けるのもよい。
【0164】
また、液体流路部2402としては、実施の形態1〜4の送液構造体およびマイクロ分析チップと同様な流路構造を使用する。このうち、好ましくは実施の形態3で説明した流路構造を用いる。サンプル採取部2401に配置されている針の毛細管は液体流路部2402の液溜め部2414と接続されており、針に設けられている毛細管の毛管現象によりサンプルが液溜め部に流入するように構成されている。
【0165】
また、液体流路部2402は、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、塩化ビニル等の基板を用いて作製される。液体流路部2402に、複数の検出部を配置してもよい。また、複数の流路系(マイクロ分析用送液構造体)が並存する構造としてもよい。
【0166】
駆動分析処理部2403は、CPU、メモリ、バッテリー(図示せず)等が設けられており、液体流路部2042の検出部や、後で説明するI/O論理回路などと接続されている。この実施の形態は、全ての要素を含む一体型であるので、各種測定に対応した開閉バルブコントロールや、測定データの処理等が可能となるように、駆動分析処理部2403にCPUやメモリが設けられており、メモリには、各種測定に対応したバルブコントロールシークエンス情報や、測定データの処理情報が格納されている。
【0167】
駆動分析処理部2403は、予め格納された上記情報に基づいて、測定開始時に開閉バルブを開き試薬液や試料液(被検液)などを流路内に流入させ、検出部が検出された電気信号を処理して、被検出物質の量または種類を特定する。このように、駆動分析処理部2403は、マイクロ分析チップを制御し、かつマイクロ分析チップで得た測定データをI/O論理回路(下記)に出力できる構成になっている。なお、駆動分析処理部2403は、上記実施の形態8における図18の蓋基板2102と同様に構成することができ、また実施の形態9で記載した駆動制御要素を盛り込むことができる。
【0168】
入出力論理処理部2404は、I/O論理回路を有し、このI/O論理回路は駆動分析処理部2403のCPUに接続されると共に、電気接続線を介して出入力部の各ボタン及び表示部に接続されている。入出力論理処理部2404は、駆動分析処理部2403のCPUと協働して、I/Oデータを処理し、出入力部のディスプレイ(LCD)に測定結果を表示すると共に、出入力部2405の入力ボタンで入力された電気信号に基づいてマイクロ分析チップを制御する。なお、この制御には、少なくとも開閉バルブの制御と検出部電極の制御が含まれる。
【0169】
出入力部2405には、CPUに指示を与える入力ボタンとディスプレイ(LCD)が設けられている。なお、ディスプレイはLCD(液晶ディスプレイ)に限られるものではなく、有機EL表示モジュール等であってもよい。
【0170】
ディスプレイは、駆動ドライバー回路をI/O論理回路とCPUが協働し駆動することにより表示動作を行う。表示形式としては、例えば数値表示、グラフ表示、「ある・なし」表示、更には経時変化表示など、多様な表示形式を採用することができる。
【0171】
さらに出入力部には、図20に図示しないが、外部との入出力を処理する端子、または、無線送受信機を設けることができる。そうすることにより、パソコンやPDA端末などと接続でき、またネットワーク接続が可能になり、利便性が高まる。
【0172】
実施の形態10のマイクロ分析チップ装置は、サンプルの採取からその測定と出力を一つの装置で行うことができる。特に外部との双方向の情報のやり取りを可能にする無線送受信機を組み込んだ実施の形態10のマイクロ分析チップ装置によると、例えば自宅で測定した人の健康に関する測定結果を直ちにネットワークを介して病院や健康管理センターなどに電送することができ、これにより、迅速かつ的確な診断や治療に関するアドバイスを受けることが可能になる。すなわち、実施の形態10によると、いつでも、どこでも、だれでも、が利用可能な、小型で利便性に優れたマイクロ分析チップ装置を提供することができる。
【0173】
(実施例)
次に、実施例により本発明の説明を行うが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0174】
上記送液構造体は、上記実施の形態1と同様の構成であり、2つの基板(主基板111と蓋基板110)とが重ね合わされて構成されている。
【0175】
主基板への流路114用の溝の形成には、金型による樹脂成型方法を用いた。金型は、シリコン基板にフォトリソ法でレジストパターンを形成後、ドライエッチングプロセス法によりエッチングを行って作製した。作製された金型型枠を設置し、シリコンゴム(ポリジメチルシロキサン、東レダウコーニング社製 ジルポット184)を厚みが2mmになるまで流し込み、100℃、15分の加熱を行い、硬化させた。硬化後、金型と硬化したシリコンゴムを分離させ、シリコンゴムを縦20mm、横10mm、厚み2mmに整形し、上部基板を作製した。流路幅を50μm、流路高さを50μmとした。
【0176】
蓋基板は、厚み600μmの石英基板をダイシングソーで縦25mm、横15mmに切断して作製した。参照電極131の寸法を800μm×300μm、作用電極132の寸法を1000μm×1000μm、外部接続端子用電極136引の寸法を1000mm×1000mm、引き出し電極133のライン幅を200μmに設計した。参照電極131、作用電極132の作製には、フォトリソ法によりレジストをパターニング後、スパッタ法によってチタン層(またはクロム層)50nm、金層100nmを形成し、リフトオフ法によってレジストおよびレジスト上に形成されたチタン層および金層を除去し、所望の形にパターニングされた電極を形成した。その後、作用電極132の表面の下流側領域(下流端から流れ方向100μmの領域)をテトラフルオロエチレンで被覆して疎水性膜を形成した。
【0177】
上記主基板と蓋基板とを張り合わせ、実施例にかかる送液構造体を作製した。
【0178】
(比較例)
テトラフルオロエチレン疎水性膜を作用電極全面に形成したこと以外は、上記実施例と同様にして送液構造体を作製した。
【0179】
実施例、比較例にかかる送液構造体に液を流す試験を行った。実施例では、注入孔に蛍光色素(フルオレセインイソシアネート:FITC)溶液を滴下すると、毛細管現象により送液構造体内に溶液が入った。この後、エレクトロウエッティングバルブの作用電極の上流端をぬらし、疎水性膜形成部分に液体が達した時点で液の流れが停止した。作用電極及び参照電極に電圧を印加すると、作用電極上を液が通過し、流路内の溶液が無くなるまで液を流すことができた。
【0180】
他方、比較例では、作用電極の上流端に達する直前で液の流れが停止し、電圧を印加したときには液の流れが再開しなかった。
【0181】
以上により、実施例の送液構造体では、液体の流れを確実に制御できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
以上説明したように、本発明によると、流路に参照電極と作用電極を配置し、電圧を印加していないときにおいても作用電極の上流端に液体が確実に接触できうるように構成するという簡便な手法で、流路内の液体の流れを制御することができる。このような流路構造体は、抗原の分析に用いるマイクロ分析チップ等として応用が可能であり、産業上の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる送液構造体の平面図である。
【図2】図2は、図1の断面図である。
【図3】図3は、実施の形態1にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図4】図4は、実施の形態1にかかる送液構造体の液体の流れを示す概念図である。
【図5】図5は、実施の形態2にかかる送液構造体の平面図である。
【図6】図6は、実施の形態2にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図7】図7は、実施の形態2の変形例1にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図8】図8は、実施の形態2の変形例2にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図9】図9は、実施の形態2の変形例3にかかる送液構造体を示す断面図である。
【図10】図10は、実施の形態2の変形例4にかかる送液構造体を示す断面図である。
【図11】図11は、実施の形態2の変形例5にかかる送液構造体を示す断面図であるある。
【図12】図12は、実施の形態3にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図13】図13は、実施の形態4にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図14】図14は、実施の形態5にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図15】図15は、実施の形態6にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図16】図16は、実施の形態7にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図17】図17は、実施の形態8にかかるマイクロ分析チップを示す図である。
【図18】図18は、実施の形態9にかかるマイクロ分析チップの2層構成を説明する図である。
【図19】図19は、実施の形態10にかかるマイクロ分析装置を示す図である。
【図20】図20は、実施の形態11にかかるマイクロ分析装置の積層構造を説明するための図である。
【図21】図21は、接触角を示す図である。
【図22】図22は、流路構造を示す断面図である。
【図23】図23は、圧力を算出する式である。
【図24】図24は、従来技術にかかる送液構造体の平面図である。
【符号の説明】
【0184】
110 蓋基板
111 主基板
112 注入孔
113 排出孔
114 流路
131 参照電極
132 作用電極
133 引き出し電極
134 親水性領域
135 疎水性領域
136 外部接続端子用電極
137 対向電極
149 疎水性構造物
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の流れを制御することのできる送液構造体に関し、更には微量化学分析を行うマイクロ分析チップ及びマイクロ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫分析法は、医療分野、生化学分野、アレルゲンなどの測定分野等において、重要な分析・計測方法として知られている。しかし、従来の免疫分析法は、操作が煩雑である上に、分析に一日以上の時間を要するといった問題があった。
【0003】
このような中、基板にマイクロオーダーの流路を形成し、このマイクロ流路に抗体等を固定化することにより、分析時間の短縮化や分析操作の簡略化を図るマイクロ分析チップが提案されている。
【0004】
このようなマイクロ分析チップを用いて分析を行う場合、入口からマイクロ分析チップ内に溶液を導入し、該溶液をマイクロ分析チップ内で反応させ、出口からマイクロ分析チップ外に溶液を排出する必要がある。従来、マイクロ分析チップにおける溶液の移送には、ポンプなどの外部動力を用いていたが、ポンプはマイクロ分析チップに比べて大型であるため、装置全体の小型化が図りがたい。
【0005】
このため、化学分析装置に微細加工技術を用いてマイクロポンプを組み込む技術が提案されているが(例えば特許文献1)、マイクロポンプの組み込みには複雑で高度な加工技術を必要とする。また、マイクロポンプの容積に加え、ポンプを駆動するための周辺要素の組み込み容積が必要となるので、必ずしも十分なコンパクト化を図り難い。
【0006】
【特許文献1】特開2006−220606号公報
【0007】
他方、マイクロポンプを用いない送液方式として、毛細管力を利用した送液方式が知られている。毛細管力を利用した従来のマイクロ流路構造の基本を図24に示す。図24の符号110は主基板、符号111が蓋基板、符号114が流路、符号112が注入孔、符号113が排出孔である。注入孔112に液体を滴下すると、毛細管力によって溶液が流路114を移動し、排出孔113に移動する。よってポンプ等の外力を必要とせずに液体を112側から113側に移動させることができる。この方式はポンプを用いないので、簡便に微小な送液システムを構築することができるが、送液が不確かであるという問題点を抱えている。
【0008】
特許文献2には、微小な送液システムを制御する技術が記載されている。この文献には、毛細管力によって液体を移送するマイクロ分析チップにおいて、液体の移送を制御するために、エレクトロウエッティング技術を用いたバルブ(エレクトロウエッティングバルブ)を用いる方法が提案されている。
【0009】
【特許文献2】特開2005−199231号公報
【0010】
上記エレクトロウエッティングバルブの原理を、図16を用いて説明する。液体をチップに導入すると、液体は毛細管力によって流路114を流れ、参照電極131を超えて流れて作用電極132上に達するが、作用電極132の表面には疎水性膜が被覆されており、電圧が印加されていない場合は、液体との接触角が大きくなるように設計されている。更に当該部分の流路幅及び流路高さが、液体の流れを停止させるために、十分に小さく設計されている。このため、当該部分(作用電極部分)の表面張力と流れ抵抗とが相まって、液体は流路を通過することができない。すなわち、電圧印加がOFFのとき、バルブは閉じた状態となる。
【0011】
一方、電圧を印加した場合、参照電極131により液体は負に帯電する。また、作用電極132においては、作用電極132と液体との間で仮想的なキャパシタを形成するようになり、作用電極132に液体が引き寄せられる効果が小さくなる。つまり、見掛け上、作用電極132表面の親水性が強くなる。これにより、液体が当該流路を通過することができるようになる。すなわち、電圧印加ONのとき、バルブは開放された状態となる。
【0012】
エレクトロウエッティングバルブを用いる場合、液体を確実に停止させるためには、作用電極が設けられた部分の流路の疎水性と親水性とを調整して、電圧印加がOFFのときに確実に液体が停止するように設計する必要がある。他方、液体を流すためには、液体を介した1対の電極(参照電極131と作用電極132)間に電圧を印加して液体を帯電させ参照電極と作用電極との間で仮想キャパシタを形成させる必要があり、このためには、常に両電極に液体が接触している必要がある。両電極に液体が接触していないと、電圧印加の有無により流れを制御できないからである。
【0013】
しかし、毛細管力を利用して液を流す方式において、液の流れを円滑にするために作用電極の親水性を高めると、液の流れを停止させることが困難になる。その一方、液の流れを停止させ易くするために、作用電極の疎水性を高めると、液体が作用電極の手前(作用電極に接触する手前)で停止してしまうため、もはや毛細管力によって液体を前方に進めることができなくなる。
【0014】
それゆえ、駆動装置を備えない送液構造体において、液体の「前進」と「停止」を的確に制御することは容易ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、毛細管力を利用して液体を流すマイクロ流路において、液体の「前進」と「停止」とを確実に制御することのできる送液構造体およびこれを利用したマイクロ分析チップならびにマイクロ分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、作用電極の上流端を確実に液体と接触するために、上流端近傍を親水性とし、且つ上流端近傍より下流側に疎水性部分を設けた点に特徴を有する。その具体的手法としては、
(1)作用電極表面の上流端を親水性とする、
(2)作用電極上流端を含む流路断面において液体に発生する表面張力による圧力が正となるように、流路内壁面における親水材料比率を高める、
(3)作用電極が形成された部分の上流端以外の流路領域に、液体接触面を増やす疎水性構造物を設ける、
という手段を講じている。
【0017】
なお、上記(1)〜(3)は適宜組み合わせることができる。
【0018】
上記(1)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第1の発明、上記(2)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第2の発明、上記(3)に関するエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体にかかる発明を第3の発明とする。また、第1〜第3の発明にかかるエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体を用いたマイクロ分析チップ及び分析装置にかかる発明を、それぞれ第4〜第5の発明として、順次説明する。
【0019】
上記課題を解決するための第1の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも一部が疎水性であり、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であることを特徴とする。
【0020】
毛細管力を利用したマイクロ流路における液体の流れについて説明する。毛細管力による液体を流す力は、流路壁面と液体との接触角(図21参照)に大きく影響される。流路壁面が均一の材料で構成され、流路の流れ方向に垂直な断面形状が円である場合、液体に作用する圧力Pは、気液界面の界面張力をσ、流路壁面の接触角をθ、流路の半径をrとするとき、図23の式1で示される。つまり、cosθが正である場合には、液体は流路内を進むことができ、他方cosθが0又は負である場合には、液体は流路内を進むことができずに停止する。すなわち、毛細管力を利用して液を流すためには、cosθが正(親水性)である材料を用いることが必須となる。
【0021】
流路壁面が疎水性の場合は、cosθが0又は負であり、液体を流さない圧力Pが発生する。よって、親水性と疎水性の両方が存在する壁面においては、毛細管現象が生じる状態と毛細管現象が生じない状態を設計することができる。図22に示すような流路構造の場合、流路高さをh、幅をwとした流路形状において、主基板の接触角θ1、蓋基板の接触角をθ2、気液界面の界面張力をσ、としたとき、流路の上面で働く界面張力をF1、下面で働く界面張力をF2、左右両側面で働く界面張力をF3とするとき、これらはそれぞれ、図23の式2、式3、式4で示される。流路に働く圧力Pは、F1、F2、F3の和を断面積whで割ったものであるので、この場合の流路に働く圧力Pは図23の式5に示す関係となる。
【0022】
圧力Pが正の値になる場合は、毛細管現象が生じ液体が前進し、圧力Pが負の値になる場合は毛細管現象が生じず、液体の動きが停止する。この関係と、作用電極と蓋基板の親水性の程度の差を利用し、作用電極が形成された流路で液体に発生する表面張力による圧力を調整することができる。
【0023】
上記では流れ方向に直交する流路断面の形状が矩形である場合について説明したが、流路形状はこれに限定されるものではなく、円形状、楕円形状、半円状、逆三角形状等であってもよい。流路断面形状が矩形以外の場合であっても、断面の特定の領域ごとの界面張力を求め、構成比率に応じて界面張力を積算して流路全体に働く圧力Pを求めることができる(図23の式5参照)。
【0024】
この原理から、エレクトロウエッティングバルブにより液体の流れを制御(「前進」・「停止」)するには、電圧をかけない状態において作用電極131が設けられた流路領域における液体に作用する圧力Pを0又は負とし、電圧をかけた状態においては正となるように設計すればよいが(図16参照)、作用電極表面の全体が疎水性であると、作用電極表面に液体が接触することなくその前で停止するおそれがある。
【0025】
そこで本発明では、作用電極132が、疎水性の高い領域(Pが0又は負の領域)135と、上流端を含む親水性領域(Pが正の領域)134と共に備える構成としてある(図3参照)。
【0026】
この構成であると、電圧無印加の状態においては、液体が作用電極132の親水性領域(Pが正の領域)134に確実に接触し、更に疎水性の高い領域(Pが0又は負の領域)135の境界付近にまで前進し、疎水性の高い領域の手前又はそれよりも若干進んだところで停止することになる。すなわち、この構成であると、液体の流れが「停止」状態の場合においても作用電極と液体との接触が確保されているので、両電極に電圧を印加すると液体に電圧が印加されてキャパシタ効果が生じる。このキャパシタ効果により電極表面に対する液体の接触角が小さくなり、液体は作用電極上の疎水性領域135上を通過できるようになる。つまり、電圧印加の有無により液体の流れを制御することができる。
【0027】
ここで、親水性とは、比抵抗が18mΩ・cmよりも大きい純水(25℃)を用い、1気圧、25℃で測定した接触角が90°未満である場合をいい、疎水性とは、上記純水の接触角が90°以上である場合をいう。ただし、接触角の流れ方向に作用する成分である余弦(コサイン)は、90°付近で大きく変動する。本発明は毛細管力を利用して液を流す構造体に関するものであるので、上記構成における「親水性」としては、純水に対する接触角が85°以下が好ましく、より好ましくは75°以下、さらに好ましくは60°以下とするのがよい。そして、上記構成における「親水性」を60°以下とした場合には、上記作用電極表面の「疎水性」を65°以上とすることができる。
【0028】
ここで、エレクトロウエッティングバルブの電極構成としては、少なくとも1つの参照電極と、少なくとも1つの作用電極と、を有していればよい。よって、参照電極が2つ以上であってもよく、作用電極が2つ以上であってもよい。また、作用電極、参照電極に加えて、参照電極への電流の流れを抑制し、参照電極の電位を安定させるために1つ以上の対向電極を設けてもよい。
【0029】
上記本発明構成において、前記流路は、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造とすることができる。
【0030】
この構造であると、液体の流れをより確実に制御することができる。ここで、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造とは、流路内が疎水領域と親水領域とで構成されており、電圧が印加された状態においてもこの条件が満たされている構造を意味する。ただし、電圧が印加されると、見掛け上、親水領域が増えることになる。
【0031】
上記第1の発明構成において、前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである構成とすることができる。
【0032】
上記構成において、前記主基板は、疎水性材料からなり、前記蓋基板は、親水性材料からなる構成とすることができる。
【0033】
上記構成において、前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、前記蓋基板はガラスからなる構成とすることができる。
【0034】
これらの構成であると、第1の発明構造を容易に実現することができる。
【0035】
上記第1の発明構成において、前記作用電極の構成材料が疎水性であり、前記作用電極の上流端近傍表面に親水化処理が施されている、又は前記作用電極の構成材料が親水性であり、前記上流側端近傍表面を除く電極表面に疎水化処理されているとすることができる。
【0036】
これらの構成によっても、上記第1の発明を容易に実現することができる。
【0037】
なお、作用電極の構成材料が疎水性又は親水性とは、基本的には電極として機能させる導電性材料自体が疎水性又は親水性であることを意味するが、加工上の制約により導電性材料に被膜等が均質に形成される場合には、この被膜等の性質を意味する。
【0038】
親水化処理の方法としては、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種を採用することが簡便である。
【0039】
疎水化処理の方法としては、疎水処理剤処理、疎水性膜の形成、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種を採用することが簡便である。特に、導電性材料として金(接触角:60°〜85°)を用い、上流端を除く金の表面を疎水性膜で覆う手段が簡便な方法として例示できる。
【0040】
上記課題を解決するための第2の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極表面が疎水性であり、前記作用電極の上流端を含む流路の断面において液体に発生する表面張力による圧力が正であり、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在することを特徴とする。
【0041】
上記構成では、電圧印加がOFFのときに作用電極表面が疎水性であり、作用電極上流端の流路において液体に発生する表面張力による圧力が正であるため、毛細管現象により疎水性である作用電極の少なくとも上流端が液体と確実に接触するようになる。また、作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在するため、この領域では確実に液体が停止する。電圧印加がONのときは、上記第1の発明と同様の原理により液体が流れる。
【0042】
上記第2の発明構成において、前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである構成とすることができる。
【0043】
上記構成において、前記主基板は、疎水性材料からなり、前記蓋基板は、親水性材料からなる構成とすることができる。
【0044】
上記構成において、前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、前記蓋基板はガラスからなる構成とすることができる。
【0045】
これらの構成であると、第2の発明構造を容易に実現することができる。
【0046】
上記構成において、前記作用電極上流端における溝幅が、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝幅よりも大きい構成とすることができる。
【0047】
上記構成において、前記作用電極上流端における溝高さが、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝高さよりも小さい構成とすることができる。
【0048】
疎水性基板に流路用の溝を設け、電極が形成された親水性基板で蓋をする構成では、図6、図7に示すように、作用電極上流端における溝幅を大きくすると、その分親水性基板に起因する親水領域が大きくなり、作用電極上流端における流路の親水領域比率が高まる。また、図9、図10に示すように、作用電極上流端における溝高さを小さくすると、変動の無い親水性基板に起因する親水領域の比率が高まる。このため、上記構成を採用すると、作用電極上流端の流路において液体に発生する表面張力による圧力を正とし、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在するようにする設計が容易となる。
【0049】
上記課題を解決するための第3の発明は、流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、前記作用電極の上流端以外の領域に、流路の液体接触面を増加させる構疎水性造物が設けられていることを特徴とする。
【0050】
上記構成では、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、且つ流路の液体接触面を増加させる疎水性構造物が設けられている領域においては、疎水性構造物により流路断面における疎水材料比率が高まる。これを利用して、電圧印加がOFFのとき、当該疎水性構造物形成領域で液体を停止させることができる。電圧印加がONのときは、上記第1の発明と同様の原理により液体が流れる。
【0051】
このような、液体接触面を増加させる疎水性構造物としては、ピラー、穴、溝の少なくとも一種が好適である。
【0052】
第3の発明においても、上記第1、第2の発明と同様の基板構成を採用できる。
【0053】
第4の発明は、上記したエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体の何れかを必須要素として備えたマイクロ分析チップである。
【0054】
第5の発明は、上記マイクロ分析チップを必須要素として備えた分析装置である。
【発明の効果】
【0055】
上記で説明したように、本発明によると、液の流れを確実に開閉できるエレクロロウエッティングバルブ付き流路構造体を実現することができる。本発明流路構造体は、簡素な構造であるのにもかかわらず、高い信頼性を持った送液制御が行うことができる。よって、それを用いたマイクロ分析チップ、分析装置の使い勝手性の向上とコンパクト化に顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0057】
(実施の形態1)
本実施の形態は、上記第1の発明に関するものである。
本実施の形態にかかる送液構造体を図1〜3に示す。図1(a)は送液構造体の全容を示す図であり、図1(b)は主基板、図1(c)は蓋基板を示す概念図である。図2は、図1の破線140での断面図である。図3は、作用電極近傍の流路を示す平面図である。
【0058】
図1(a)に示すように、本実施の形態にかかる送液構造体は、主基板111(ポリジメチルシロキサン(PDMS):接触角100°〜120°)と、蓋基板110(ガラス:接触角5°〜30°)とを、重ね合わされた構造である。
【0059】
主基板111には、液体をチップ内に注入するする注入孔112と、液体をチップ外に排出する排出孔113と、注入孔112と排出孔113とを繋ぐ流路114用の溝と、が形成されている(図1(c)参照)。
【0060】
蓋基板110には、エレクトロウエッティングバルブ用の参照電極131と、作用電極132と、各電極を延長する引き出し電極133と、外部接続端子用電極136と、が形成されている。ここで、参照電極131は全部が流路114と交わり(流路幅>参照電極幅)、作用電極132は流路114と一部が交わる(流路幅<作用電極幅)ように配置されている(図1(b)参照)。
【0061】
図1、2からわかるように、流路114は、流路幅(溝幅)、流路高さ(溝高さ)ともに一定である。
【0062】
また、図3に示すように、作用電極表面は、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135を有している。
【0063】
主基板111の厚みは0.1mm〜10mm程度あり、貫通孔112および貫通孔113の直径は10μm以上の貫通孔でよい。流路幅、流路高さは、本実施の形態ではともに50μmとしている。
【0064】
また、主基板111として疎水性のPDMS基板を用い、蓋基板110として親水性のガラス基板を用いているが、これに限定されるものではなく、送液構造体の利用用途に応じて適切な素材を選択するのがよい。例えば送液構造体に光学的検出を行う検出部を組み込む場合には、主基板111および蓋基板110の何れか一方または双方の材料として、励起光による発光が少ない透明または半透明の材質を用いることが望ましい。
【0065】
このような透明または半透明な材料としては、ガラス、石英、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フィルム等が挙げられる。なかでも、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂は、透明性、成型性の観点から好ましい。励起光による発光が少ないプラスチック材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレートの水素原子をフッ素原子に置換したフッ化ポリメチルメタクリレート等のフッ素系のプラスチック材料や、触媒や安定剤等の添加剤に蛍光を発しない部材を用いたポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
他方、送液構造体流路内で電気的な制御や電気的な測定を行うためには、蓋基板110及び/または主基板111表面に電極を形成する必要がある。このため、主基板111または蓋基板110の一方または両方が電極形成可能な材料であることが好ましい。電極形成可能な材料としては、生産性、再現性の観点からガラス、石英、シリコン等が好ましい。
【0067】
なお、凹凸のある部分に電極を形成することは難しいので、溝による凹凸のある主基板111ではなく、平坦な蓋基板110に電極を形成することが好ましい。
【0068】
(流路に働く圧力)
流路内壁面に親水性(ガラス基板に起因する内壁面)と疎水性(PDMS基板に起因する内壁面)の両方が存在する本実施の形態において、流路に働く圧力Pは次のように求めることができる。図22に示す流路断面図において、流路高さ161をh、流路幅162をwとし、主基板111の接触角をθ1、蓋基板110の接触角をθ2、気液界面の界面張力をσとしたとき、流路の上面で働く界面張力をF1、下面で働く界面張力をF2、左右面で働く界面張力をF3とするとき、これらはそれぞれ図23に示す式2、式3、式4で求められる。流路に働く圧力Pは、F1、F2、F3の和を断面積whで割ったものであるので、この場合の流路に働く圧力Pは図23の式5で求められる。圧力Pが正の値になる場合は、毛細管現象が生じて液体が進み、圧力Pが0又は負の値になる場合は毛細管現象が生ぜず、液体が停止する。
【0069】
上記では流れ方向に直交する流路断面の形状が矩形である場合について説明しているが、流路断面形状はこれに限定されるものではない。円形状、楕円形状、半円状、逆三角形状等であってもよい。流路断面形状が矩形以外の場合であっても、断面の特定の領域ごとの界面張力を求め、構成比率に応じて界面張力を積算して流路全体に働く圧力Pを求めればよい(図23の式2〜5参照)。
【0070】
(エレクトロウエッティングバルブの動作原理)
図4に本実施の形態にかかる送液構造体の流路における液体の流れを示す。図4(a)は電圧印加OFFの状態、図4(b)は電圧印加ONの状態を示している。
【0071】
図3、図4に示すように、作用電極132は、流路内壁面の1面を構成する親水性の蓋基板110の流路部分を覆うように形成されており、作用電極132の上流端近傍以外の領域135の表面は、疎水性膜(テトラフルオロエチレン膜)で被覆されている。よって、作用電極132の疎水性膜が形成された領域135において、流路全内壁面(4面)が疎水性となり、且つ作用電極132が設けられた流路114の溝幅および溝深さはそれぞれ50μmと狭い。よって、電圧印加がOFFの状態においては、液体はエレクトロウエッティングバルブ用作用電極132の領域135を通過することができない。
【0072】
他方、作用電極132と参照電極131との間に電圧が印加(0.8V〜1.5V程度)されると、作用電極132上を液体が通過することができるようになる(図4(b)参照)。
【0073】
このことを、図4を参照しつつ説明する。注入孔112から注液された液体はエレクトロウエッティングバルブ用参照電極131上に接しながら流路114を流れ、流路114の特定域(液を停止させたい領域)に設けられたエレクトロウエッティングバルブ用作用電極132部分に達する。エレクトロウエッティングバルブ用作用電極132は金(接触角:60°〜85°)で構成されており、且つ作用電極上流端近傍以外の領域135は疎水性膜又は親水性の低い近疎水性膜(接触角:60〜90°)で被覆されている。このため、電圧を印加していない場合は、液体との接触角が60°以上になる。その結果、表面張力により発生する圧力Pが0又はマイナスとなり、液体の流れが停止させられる(図4(a)参照)。すなわち、電圧印加がOFFのとき、バルブは閉じた状態となる。
【0074】
他方、引き出し電極133に電圧が印加されると、参照電極131上を通過した液体は負に帯電して、作用電極132と液体の間で仮想的なキャパシタが形成され、液体が作用電極132に引き寄せられる。この結果、液体の作用電極に対する接触角が小さくなる。例えば接触角が40°程度となる。つまり、見掛け上、作用電極表面全体にわたって親水性が強くなり、親水性の影響が大きくなるので、表面張力により発生する圧力(毛細管力)が正となる。これにより、液体が当該領域135を通過することができることになる(図4(b)参照)。すなわち、電圧印加がONのとき、バルブは開放された状態となる。
【0075】
このように、エレクトロウエッティングバルブを確実に動作させるためには、電圧印加がOFFのとき、作用電極の少なくとも一部が液体と接触している状態で液体が停止するように設計する必要がある。
【0076】
本実施の形態では、このような条件を満たすため、図3に示すように、作用電極の表面に、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135を設けている。すなわち、親水性領域134の接触角をD1、疎水性領域135の接触角をD2としたとき、D1<90°≦D2の関係がある。
【0077】
上記原理からして、エレクトロウエッティングバルブで液体の流れを的確にON,OFFさせるためには、電圧印加がOFFのときに、親水性部分と疎水性部分の影響が全体として打ち消しあうように調整しておく必要があるので、流路内壁面の少なくとも一部を疎水性、残余を親水性にする必要がある。蓋基板に親水性基板(ガラス基板)を用い、流路用の溝を形成する主基板に疎水性基板(PDMS基板)を用いる場合においては、流路幅を狭くすることにより疎水性の影響を大きくできるので(毛細管力が小さくなる方向に働く)、これと作用電極132表面の接触角の変化をバランスさせることにより、液体の流れを的確に制御できるようにする。そして、電圧印加がOFFの状態において、送液構造体において親水性領域134には毛細管力が働き、疎水性領域135には毛細管力が働かないように、図22の流路断面構造において、図23の式5の変数となる流路高さh(161)、流路幅w(162)を設定する。このためには、好ましくは流路114の流路幅、流路高さを、それぞれ10μm以上300μm以下とし、例えば流路幅、流路高さを、それぞれ100μm以下とする。
【0078】
さらに、作用電極132表面の疎水性膜または親水性の低い近疎水性膜の接触角を適正なものとし、電圧を印加し作用電極132表面の接触角が減少したときに、疎水性壁面の効果より親水性壁面の効果が大きくなるように設計する。疎水性または低い親水性の程度としては、例えば接触角60°〜145°、好ましくは90°〜120°である。
【0079】
ここで、作用電極132表面に親水性領域134と疎水性領域135とを設ける方法としては、(1)作用電極の構成材料として疎水性材料を用い、且つ領域134を親水性となるように処理する、(2)作用電極の構成材料として親水性材料を用い、且つ領域135を疎水性となるように処理する、という手法を用いることができる。本実施の形態では、作用電極自体に親水性の金(接触角:60°〜85°)を用い、領域135を疎水性となるようにテトラフルオロエチレン(接触角:100°〜120°)膜を形成している(上記(2)を採用)。
【0080】
例えば、上記(1)の方法として、作用電極の構成材料として疎水性の導電性高分子を用いることが好ましい。また、親水化処理として、酸素プラズマ処理やUV処理などを用いることができる。また、界面活性剤や親水性の官能基を持つ試薬を表面に塗布することによっても親水性を高めることができる。また、表面の粗さを制御することによって、親水性を高めることもできる。
【0081】
上記(2)の方法としては、作用電極の構成材料として導電性の金を用いることが好ましい。そして、作用電極の上流端近傍以外の表面に疎水性膜を形成することにより、疎水化処理することができる。具体的には、疎水性の材料を塗布するか、疎水性の官能基を有する膜を表面に形成する。また、表面の粗さを制御することによって疎水性を高めることもできる。
【0082】
疎水性膜としては、テトラフルオロエチレン膜や空気中に放置することにより形成される自然酸化膜(接触角:60〜85°の近い疎水性膜)を用いると、膜の厚みを容易に制御できるので好ましい。また、自然酸化膜の場合、上流端近傍領域のみこれを形成しないようにすることは難しいので、全面に膜を形成した後、上流端近傍領域を親水化処理することが好ましい。
【0083】
なお、上記では、上流端近傍の親水性領域134と、残余の疎水性領域135と、の2つの領域からなる構成を例示しているが、疎水性領域135の下流側に親水性の領域が形成されていてもよい。
【0084】
図1に示される送液構造体の流路114の幅と高さは特に限定はしないが、液体の濡れと毛細管力よって液体が浸透していくことが可能な寸法に設定することが好ましい。流路高さは、好ましくは、1μm〜5mm程度に設定し、流路幅は、好ましくは1μm〜5mm程度に設定する。
【0085】
この送液構造体は、例えば作用電極の上流側領域を液を混合する領域として用い、作用電極よりも下流側の領域に抗体等を固定化し、この領域で抗原を含む液を流して抗原抗体反応させ、さらに蛍光色素を付けた標識抗体を含む液を流して抗原抗体反応させ、当該領域に励起光を照射してその蛍光の量により抗原の量を測定するというマイクロ分析チップとして利用できる。
【0086】
各流路の内壁面の「親水性」や「疎水性」は、基板材料が親水性の基板又は疎水性の基板を用いることにより容易に実現できるが、本発明でいう親水性や疎水性は基板材料自身の持つ性質に由来するものに限定されない。例えば、疎水性である流路の一部に親水性処理を施すことにより、「流路の内壁面の一部が疎水性」を実現することができる。また、親水性材料からなる基板表面の一部に疎水膜の形成等の疎水処理を施すことにより「流路の内壁面の一部が疎水性」としてもよい。親水化処理としては、例えば酸素プラズマ処理やUV処理などを用いることができる。また、界面活性剤や親水性の官能基を持つ試薬を表面に塗布することによっても親水性を高めてもよい。他方、疎水化処理としては、フッ酸処理や、テトラフルオロエチレン被膜を形成する等の方法がある。
【0087】
(実施の形態2)
実施の形態2は、上記第2の発明に関するものである。
本実施の形態にかかる送液構造体を、図5に示す。図5(a)は送液構造体の全容を示す図であり、図5(b)は主基板、図5(c)は蓋基板を示す概念図である。
【0088】
本実施の形態にかかる送液構造体は、図5(a)に示すように、主基板111(ポリジメチルシロキサン(PDMS):疎水性)と、蓋基板110(ガラス:親水性)とを、重ね合わせてなる構造である。
【0089】
実施の形態2は、作用電極132表面に上流端近傍の親水性領域と残余の疎水性領域とを設けずにすべて疎水性とし、その代わりに作用電極132が形成されている領域の流路の幅を上流端と下流側とで変化するようにした(上流端が下流側よりも広い)こと以外は、上記実施の形態1と同様である。よって、基板構成、流路、注入孔等は、上記実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0090】
なお、作用電極表面は、疎水性膜で全面が覆われており、作用電極の配置に関しては、上流端では流路幅>作用電極幅であり、下流側では流路幅<作用電極幅としている。
【0091】
(エレクトロウエッティングバルブの動作原理)
図6は、本実施の形態にかかる送液構造体の作用電極近傍を示す拡大図である。
【0092】
作用電極132の上流端において流路幅をw1(142)、下流部分において流路幅をw2(143)、作用電極幅をw3(144)、流路高さをhとする。
【0093】
このとき、作用電極上流端近傍の流路においては、疎水性基板111の内壁面が圧力に与える影響は(w1+2h)であり、親水性基板110の内壁面が圧力に与える影響は(w1−w3)であり、作用電極132の表面が圧力に与える影響は(w3)である。他方、下流側の流路幅がw2である領域の流路においては、疎水性基板111の内壁面が圧力に与える影響は(w2+2h)であり、作用電極132の表面が圧力に与える影響は(w2)である。このため、作用電極132の上流端において流路に働く圧力P1は、上記3成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。作用電極下流側の流路幅がw2である領域の流路に働く圧力P2は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。
【0094】
このとき、圧力P1は正となり、圧力P2は0又は負となるように設計すると、電圧印加がOFFのときに作用電極132の表面自体が疎水性であっても、流路に働く圧力P1によって作用電極上流端は確実に液体と接触するようになる。また、圧力P2が0又は負であるため、電圧印加がOFFのときには確実に液体が停止する(バルブが閉じた状態となる)。
【0095】
電圧印加がONのときには、上記実施の形態1で説明したのと同様の原理により、液体が流路幅w2である領域の作用電極上を通過して流れる(バルブが開放された状態となる)。
【0096】
また、図5に示すような流路構造の場合、作用電極の下流端が図中下方向に位置する流路幅が広い部分にまで延在している構成を採用してもよい。この場合、この流路幅が広い部分の流路に働く圧力は、正であってもよい。
【0097】
(実施の形態2の変形例1)
例えば、図7に示すように、作用電極132近傍の流路幅を急激に変化させる(流路の輪郭線の角度が90°である)構造を採用してもよい。
【0098】
(実施の形態2の変形例2)
主基板が親水性であり、蓋基板が疎水性である構成としてもよい。この場合は、以下のように設計する。
【0099】
この構成では、流路幅が小さいほど親水性の影響が大きくなるので、毛細管力が大きくなる。したがって、図8に示すように、液を停止させるためには、作用電極の上流端の流路幅w4(142)を、下流側の流路幅w5(143)よりも小さくする必要がある。なお、この形態においては、説明を簡略化するために、作用電極幅w6(144)を、下流側の流路幅w5よりも大きくしているが、w6≦w5としてもよい。
【0100】
この構成では、作用電極上流端近傍の流路においては、親水性基板の内壁面が圧力に与える影響は(w4+2h)であり、作用電極の表面が圧力に与える影響は(w4)である。他方、下流側の流路幅がw2である領域の流路においては、疎水性基板の内壁面が圧力に与える影響は(w5+2h)であり、作用電極の表面が圧力に与える影響はw5である。このため、作用電極上流端において流路に働く圧力P3は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。作用電極下流側の流路に働く圧力P4は、上記2成分を足し合わせた後に、図23の式5を参考にして算出される。
【0101】
このとき、圧力P3は正となり、圧力P4は0又は負となるように設計することにより、電圧印加がOFFのときに、作用電極上流端を確実に液体と接触させ、且つ作用電極上で確実に液体を停止させることができる。
【0102】
(実施の形態2の変形例3)
図9に示すように、流路高さを変更する構成を採用してもよい。
【0103】
主基板が疎水性であり、電極132を除く蓋基板が親水性である送液構造体においては、図9に示すように、作用電極132上流端の流路高さをh1(151)、下流部分の流路高さをh2(152)とする。このため、作用電極上流端において流路に働く圧力P5が正の値になるように設定し、下流側において流路に働く圧力P6が0又は負の値になるように設計すればよい。この構成では、h1<h2の関係が成り立つ。
【0104】
(実施の形態2の変形例4)
上記変形例3において、図10に示すように、流路高さを段階的に変化させる構造を採用してもよい。
【0105】
(実施の形態2の変形例5)
上記変形例3,4において、主基板が親水性、蓋基板が疎水性としてもよい。この場合は以下のように設計する。
【0106】
上記構成では、流路高さが大きいほど親水性の影響が大きくなり、毛細管力が大きくなる。したがって、図11に示すように、作用電極132の上流端の流路高さをh3(151)、下流部分の流路高さをh4(152)とするとき、このh3、h4を用いて作用電極上流端において流路に働く圧力P7、下流側において流路に働く圧力P8を算出し、圧力P7は正、圧力P8は0又は負となるようにする。このとき、h3>h4が成立する。
【0107】
(実施の形態2の変形例6)
また、流路幅や流路高さを変更せずに、作用電極上流端における流路内壁面を親水化処理及び/又は作用電極下流側における流路内壁面を疎水化処理してもよい。
【0108】
上記実施の形態2において説明した例(変形例含む)を適宜組み合わせてもよい。
【0109】
(実施の形態3)
本実施の形態は、上記第3の発明に関するものである。
図12に、実施の形態3にかかる送液構造体を示す。本実施の形態では、作用電極の下流側(疎水性基板111側)に、液体接触面を増加させる疎水性構造物149を設けている。このため、この疎水性構造物149が設けられた部分の流路では、流路内壁面にさらに疎水性構造物149による影響が加わり、疎水性が高くなる。電圧印加がOFFの時、作用電極上流端において流路に働く圧力が正であり、疎水性構造物149形成領域において流路に働く圧力が0又は負となるようにすれば(図23の式5を応用する)、液体は作用電極132上流端に接し、且つ疎水性構造物149形成領域で停止する。電圧印加がONのときには、液体が疎水性構造物149形成領域を通過して流れる。
【0110】
疎水性構造物149としては、ピラー、穴、溝などの液体接触面を増加させる構造を任意に採用することができる。この形態においては、液体と接触する分部の面積、構造物内の隙間空間と接触する部分の面積を設計することで、疎水性構造物149が設けられた領域で確実に液体を停止させることができる。
【0111】
(実施の形態4)
実施の形態4は、上記実施の形態1に示すエレクトロウエッティングバルブを2つ直列に配置したものである。
【0112】
図13に、実施の形態4にかかる送液構造体を示す。各部の構成や液体を停止させるための設計要件等の説明は省略する。
【0113】
この構成では、流路114で2段階に液を制御することが可能となる。なお、直列に3以上配置してもよい。
【0114】
(実施の形態5)
実施の形態5は、上記実施の形態2に示すエレクトロウエッティングバルブを2つ並列に配置したものである。
【0115】
図14に、本実施の形態にかかる送液構造体を示す。本実施の形態では、2つの注入孔112a,112bと、注入孔にそれぞれ連続する第2の流路151a,151bと、液溜め流路にそれぞれ連続する、液溜め流路よりも流路幅の狭い第3の流路152a,152bと、2つの第3の流路に連続する第1の流路114と、第1の流路に連続する排出孔113と、を有している。
【0116】
ここで、参照電極131a,131bは、それぞれ第2の流路151a,151b内に形成されており、作用電極132a,132bは、それぞれ第2の流路151a,151bと第3の流路152a,152bとが切り替わる領域に形成されている。基板構成は、上記実施の形態2と同様である。すなわち、作用電極の上流端は流路幅の大きい第2の流路(親水性基板の影響が大きい部分)に位置し、下流側領域は流路幅の小さい第3の流路(親水性基板の影響が小さい部分)に位置する。このため、実施の形態5にかかるエレクトロウエッティングバルブは、上記実施の形態2と同様の効果が得られるものが2つ並列に配置されたものである。
【0117】
この構成では、異なる溶液を順次第1の流路に送り込むことが可能となる。なお、並列に3以上配置してもよく、上記実施の形態4の構成と組み合わせて用いてもよい。
【0118】
(実施の形態6)
実施の形態6は本発明送液構造体を利用したマイクロ分析チップに関する。実施の形態3にかかるマイクロ分析チップは、図15に示すように、注入孔112と、流路114a〜eと、排出孔113と、を有している(図15参照)。
【0119】
更に、本実施の形態では、流路114bに作用電極が形成され、流路114aに参照電極が形成されている。このため、上記実施の形態2と同様の設計をすることにより、液の流れの制御を行うことができる。また、流路114dには、検出部が設けられている。また、検出部は目的物質を検出できる機能を有する部分であればよい。そして両者ともに特段の制約はないので、図15には反応部及び検出部を図示していない。
【0120】
また、検出部が幅の狭い流路114dに設けられている。この構造であると、流路114cより幅が狭い流路114dに入った液体は流れを速め、渋滞なく均一に流れるので、検出精度が高まる。また、検出目的物質の素通りが減少するので、この側面からも検出精度が高まる。
【0121】
なお、検出部における検出方法は、電極を用いて電気量を測定する方法(電気化学的方法)や、外部より光を照射しその反射光や透過光を測定する光学的方法などがあるが、いずれの方式であっても、液の流れが渋滞することがない効果(検出精度や検出再現性の向上効果)が得られる。
【0122】
以上から、実施の形態6によると、簡単な構造でもって簡便かつ迅速に目的物質の検出が行え、しかも検出精度に優れたマイクロ分析チップを実現することができる。
【0123】
(実施の形態7)
実施の形態7は、参照電極131の電位を安定にするため、対向電極137を設置したこと以外は、上記実施の形態1と同様である(図16参照)。対向電極137を設置することで、電位の基準になる参照電極131への電流の流れを防止することができ、参照電極の電位を安定させることができる。この効果により、より高精度にエレクトロウエットバルブを電気的に駆動することが可能となる。
【0124】
(実施の形態8)
実施の形態8は、実施の形態6にかかるマイクロ分析チップを更に発展させたものである。実施の形態8にかかるマイクロ分析チップの具体的構成の詳細を順次説明する。
【0125】
(全体構成)
実施の形態にかかるマイクロ分析チップの全体構成図を、図17に示す。図17に示すように、実施の形態8のマイクロ分析チップは、第1の液体用の第1注入孔2001と、第2の液体用の第2注入孔2002と、これらの注入孔に連続する第1液溜め部2003、第2液溜め部2004と、これらの液溜め部に連続する注入路2005、2006と、ミキサー部2007と、第1隘路2009と、第1の流路2008と、第2隘路2011と、第2の流路2010と、第3隘路2013と、第3の流路2016と、排出孔2014と、を有し、第1の流路2008には、反応部2017が設けられ、第2の流路2010には、検出部2012が設けられている。
【0126】
それぞれの注入路2005,2006には作用電極が形成され、更に、第1及び第2液溜め部2003,2004には、参照電極が形成されている。すなわち、この実施の形態は、上記実施の形態5を利用したものである。
【0127】
さらに、チップの端部に、外部接続端子2015が設けられている。
【0128】
第1注入孔2001から第1の液体が注入されると、第1液溜め部2003に第1の液体が注入される。第2注入孔2002も同様に、第2の液体が注入されると第2液溜め部2004に第2の液体が注入される。
【0129】
上記作用電極と参照電極とにより、注入された液体のミキサー部2007への流入を停止または開始することができる。ミキサー部2007は第1の液体と第2の液体を混合できる構造としてある。
【0130】
ミキサー部2007には、第1の流路2008が第1隘路2009を介して接続されている。第1の流路2008に設けられた反応部2017には、溶液に含まれる被検出物質と反応する物質が配置されている。
【0131】
なお、図17の例では、ミキサー部と反応部は第1隘路2009を介して接続されているが、第1隘路2009を介すことなく直接接続されていてもよい。
【0132】
第2の流路2010は、第2隘路2011を介して第1の流路2008と接続されており、第2の流路2010には検出部2012が設けられている。検出部は被検出物質を直接または間接的に検出することができるよう構成されている。なお、被検出物質を直接検出できる構成である場合には、第2の流路2010を有さない構成とすることができる。
【0133】
このマイクロ分析チップは、外部接続端子2015を要しており、当該端子を介して外部電源への接続、電気的制御信号の入力、検出信号の出力などを行えるようになっている。これにより、電源やICなどの制御回路を外付けとすることができるので、その分、チップのコンパクト化を図れる。
【0134】
実施の形態7にかかるマイクロ分析チップについて更に説明する。
【0135】
〈液体の注入〉
第1の液体用の注入孔2001および第2の液体用の注入孔2002より、それぞれ第1の液体および第2の液体を注入する。これにより、液溜め部2003、2004にそれぞれの液体を注入できる。
【0136】
注入孔2001・2002は、外部(大気)に開放された孔であって毛細管力が働かない程度の大きさ(例えば2mmΦ)としてある。毛細管力が働かない大きさである場合には、注入孔が疎水性であっても液体を円滑に注入することができる。注入孔2001・2002は、毛細管力の働く大きさであってもよいが、この場合には液体を円滑に注入できるように、注入孔に親水性処理を施す等する必要がある。
【0137】
なお、注入孔に液体を充填したカートリッジを接続する方法で液体を注入させることもできる。この場合にはカートリッジ内の液体が流路系に充分に流れ込むよう、注入孔に空気抜き用の隙間が確保できるようにするか、または別途空気抜き孔を設けるのが好ましい。
【0138】
図17の例は、2つの注入孔を有する構造であるが、注入孔は2つに限られず、3つ以上とすることもできる。例えば、第1の液体用の注入孔に被検出物質を含む試料を、第2の液体用の注入孔に試薬を、第3の液体用の注入孔に標準試料を、第4の液体用の注入孔に洗浄液を注入する等とすることができる。
【0139】
洗浄液を注入する第4注入孔を設けた構造であると、チップ内を洗浄し繰り返し使用することによって、チップのコストパフォーマンスを高めることができる。なお、検出処理前後に第1の液体用の注入孔等から洗浄液を注入して流路内を洗浄することにより、試料等の汚染を低減することもできる。これにより検出誤差を少なくすることができる。
【0140】
〈ミキサー部〉
ミキサー部は第1の液体と第2の液体を充分混合できるように構成する。例えば、ミキサー部に、第1開閉バルブおよび第2開閉バルブから流入して来た液体が自然混合されるように、マイクロピラー構造設けるのもよい。また、T字型ミキサー、Manzミキサー、3次元蛇行流路を用いたミキサーなどを設けることもできる。
【0141】
図17の例は2液を混合する場合であるが、3液以上の液体を混合するように構成してもよい。この場合、第3の液体の注入と、流入タイミングを制御するために、他の液溜め部、注入路と同様に電極を形成することが好ましい。
【0142】
〈第1の流路〉
第1の流路2008は、反応を行う反応領域として機能する。第1の流路2008に設けられる反応部2017は第1の流路2008の全部であってもよいし、その一部であってもよい。反応部2017には、例えばサンプル溶液に含まれる被検出物質を特異的に認識し反応する分子が配置される。被検出物質が抗原である場合は、抗体を反応部に固定化するとよい。被検出物質を検出するためには、酵素免疫反応のサンドイッチ法を用いることができ、この場合、抗原を酵素標識抗体(二次抗体)と反応させ、抗原と酵素標識抗体が結合した複合体とする。この複合体を反応部に予め固定化しておき抗体(一次抗体)と反応させる。次に基質を導入し、二次抗体に標識されている酵素と反応させ、反応により生成された電気化学的に活性のある物質を検出部の電極上で電気化学的に検出を行う。反応部では、検出部にて検出できる物質が被検出物質の量に応じて生成される。なお、反応部における検出手段が光学的な手段であってもよい。
【0143】
〈外部接続端子〉
外部接続端子2015は、外部よりチップに駆動電源や駆動情報を入力し、また外部に検出結果等を出力するためのものである。この端子の形成に金薄膜を用いると、外部接続端子の形成をエレクトロウエッティングバルブや検出電極などと同様に行うことができるので生産効率がよい。なお、金に代えて、銅や鉄またはアルミニウムなどの他の導電性材料を用いてもよいことは勿論である。
【0144】
〈2層構造体〉
実施の形態8にかかるマイクロ分析チップは第1基板(主基板)2101と第2基板(蓋基板)2102を重ね合わせた2層構造になっている。2層構造の各々の層構造について図18を用いて説明する。
【0145】
第1基板(主基板)2101は、透明性および加工性が高いものが良く、また液体の移動の制御を行うために疎水性を有するものがよい。このような基板としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるものがよい。他方、第2基板(蓋基板)は、電極が形成し易い材料が良く、第1基板を疎水性とした場合においては親水性とする必要がある。このような基板として、ガラス、石英、シリコン等からなる基板が好適である。
【0146】
第1基板及び/又は第2基板は上記親水性または疎水性の特性を有することに加え、蛍光やUV光を用いて検出目的物質を測定するために、励起光による発光が少ない透明または半透明の材質を用いることが望ましい。このような材質としては、実施の形態1に記載したものや、特開2003−149252号公報で提案される材質を用いることができる。
【0147】
各基板に対し次のような加工を行う。第1基板(主基板)に対しては、上部に第1の液体用の注入孔2001、第2の液体用の注入孔2002、排出孔を上向きに開口する。また、液溜め部2003・2004、注入路2005・2006、ミキサー部2007・第1の流路2008・第1隘路2009・第2の流路2010・第2隘路2011・第3隘路2013、第3の流路2016用の凹状溝を形成する。
【0148】
第2基板(蓋基板)2102に対しては、その表面に電極2105・電極2106、検出用電極2112を形成し、また第2基板の端部に外部接続端子2015を形成する。更に各電極を外部接続端子2015に接続する引き出し線を形成する。各電極の形成は、公知の方法を用いればよい。
【0149】
上記のように加工した両基板2101・2102を、加工面を内側にして張り合わせる。これにより実施の形態8にかかるマイクロ分析チップが完成する。
【0150】
(実施の形態9)
実施の形態9は、携帯可能なハンディ型のマイクロ分析装置に関する。実施の形態8の内容を図19に基づいて説明する。図19は、実施の形態9にかかる携帯可能なハンディ型のマイクロ分析装置の概要を説明するための概念図である。
【0151】
このハンディ型マイクロ分析装置は、マイクロ分析チップ2302と、このマイクロ分析チップを駆動制御する制御用ハンディ機器2301とで構成されている。マイクロ分析チップ2302は、上記実施の形態8で説明したと同じマイクロ分析チップである。よって、ここではマイクロ分析チップの詳細な説明は省略する。
【0152】
図19に示すように、制御用ハンディ機器2301の下部には、実施の形態7で説明したと同様なマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2015を挿入するチップ接続口2303が設けられており、このチップ接続口の奥には、外部接続端子2015と電気的に接続する外部入出力端子(図示せず)が設けられている。マイクロ分析チップの外部接続端子2015をチップ接続口2303に挿入すると、制御用ハンディ機器2301内の外部入出力端子とマイクロ分析チップ2302の外部接続端子とが電気的に接続される。
【0153】
制御用ハンディ機器2301には、分析チップの測定結果(被検出物質の量など)を表示することができる表示部2304、および、測定の開始、停止や、測定パラメータを特定するための様々なデータを入力することのできる入力部2305が設けられている。入力部2305としては、例えばタッチパネル構造が採用できる。
【0154】
更に制御用ハンディ機器2301には、図示しないが、データを処理することのできるCPUや入力情報および出力情報を処理するI/O論理回路などの情報処理システムが組み込まれている。
【0155】
マイクロ分析チップ2302を制御用ハンディ機器2301に接続し、各種データを入力し、測定開始ボタンを押す。これにより、予めマイクロ分析チップに備えられ、且つ開閉バルブにより流路内への流入が停止されていた試薬液や試料液(被検液)などの溶液が流路内内に順次進入する。これにより各流路内で所定の反応が行われて検出可能物質になり検出部に至り、ここで被検出物質の量に応じた電気信号が発せられる。この電気信号は外部接続端子2015から外部に出力される。
【0156】
外部接続端子2015から出力された信号は、外部接続端子2015と電気的に接続された制御用ハンディ機器の外部入力端子が受け取り、この信号を制御用ハンディ機器に予め格納されたソフト情報に基づいて分析する。これにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。
【0157】
上記制御用ハンディ機器しては、例えば携帯電話やPDAなどの携帯電子機器を活用することができる。ここでは携帯電話を例に挙げて説明する。例えばコンピュータ機能を備えた携帯電話に、上記したチップ接続口を設け、この携帯電話にマイクロ分析チップから発信されたデータを処理する分析ソフトを格納する。この携帯電話は通常は携帯電話として機能し、必要に応じて制御用ハンディ機器として機能させることができる。
【0158】
操作方法を例示する。携帯電話にマイクロ分析チップを接続し、携帯電話のボタンにより各種データを入力した後、測定開始ボタンとして設定されたボタンを押す。これにより、あらかじめマイクロ分析チップに準備され、かつ開閉バルブにより流路内への流入が停止されていた試薬液や被検液などが流路内へ進行する。この後、分析チップが順次動作して検出部において検出された被検出物質量に応じた電気信号を携帯電話に出力する。携帯電話のコンピュータがこの信号をソフト的に解析し被検出物質の量や種類などを特定する。これを携帯電話のディスプレイに表示する。また、オペレータの指示を受け、その電送機能を利用して解析情報を離れた場所にまで電送する。
【0159】
このように、携帯機器を利用することにより、コストパフォーマンスに優れ、かつ利便性・使い勝って性に優れたマイクロ分析装置を実現することができる。
【0160】
なお、分析チップと携帯電子機器との間の信号伝達方式は、両者間で電気信号がやり取りできる限りどのような方式・形態でもよく、必ずしも上記のようなチップ接続口を介する方式である必要はない。
【0161】
(実施の形態10)
実施の形態10のマイクロ分析装置は、試料(被検液)の採取、検出データの分析、分析結果の出力等、の各機能が複数の基板にそれぞれ形成され、これが積層され一体化された一体型マイクロ分析装置に関する。
【0162】
図20に一体型マイクロ分析装置の平面見取り図を示す。図20に示すように、この一体型マイクロ分析装置は、サンプル採取部2401、液体流路部2402、駆動分析処理部2403、入出力論理処理部2404および出入力部2405が、それぞれ1つの基板に形成されている。ただし、全ての要素を一つの基板に形成してもよいし、関連する要素ごとを1つの基板に形成する等してもよい。
【0163】
サンプル採取部2401には、内部に毛細管が有する針が配置されており、この針を人体又は試料体に針を刺す等することにより血液や試料を採取する。針は、低侵襲のマイクロプローブとすると人体等に針を刺し血液等の体液を抽出する際に痛みが緩和されるので好ましい。また、サンプル採取部2401に、針と共に、又は針の代わりに、非侵襲型の採取器具、例えば皮膚表面の汗、口腔内の唾液、涙や尿等を採取する吸液体を設けるのもよい。
【0164】
また、液体流路部2402としては、実施の形態1〜4の送液構造体およびマイクロ分析チップと同様な流路構造を使用する。このうち、好ましくは実施の形態3で説明した流路構造を用いる。サンプル採取部2401に配置されている針の毛細管は液体流路部2402の液溜め部2414と接続されており、針に設けられている毛細管の毛管現象によりサンプルが液溜め部に流入するように構成されている。
【0165】
また、液体流路部2402は、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、塩化ビニル等の基板を用いて作製される。液体流路部2402に、複数の検出部を配置してもよい。また、複数の流路系(マイクロ分析用送液構造体)が並存する構造としてもよい。
【0166】
駆動分析処理部2403は、CPU、メモリ、バッテリー(図示せず)等が設けられており、液体流路部2042の検出部や、後で説明するI/O論理回路などと接続されている。この実施の形態は、全ての要素を含む一体型であるので、各種測定に対応した開閉バルブコントロールや、測定データの処理等が可能となるように、駆動分析処理部2403にCPUやメモリが設けられており、メモリには、各種測定に対応したバルブコントロールシークエンス情報や、測定データの処理情報が格納されている。
【0167】
駆動分析処理部2403は、予め格納された上記情報に基づいて、測定開始時に開閉バルブを開き試薬液や試料液(被検液)などを流路内に流入させ、検出部が検出された電気信号を処理して、被検出物質の量または種類を特定する。このように、駆動分析処理部2403は、マイクロ分析チップを制御し、かつマイクロ分析チップで得た測定データをI/O論理回路(下記)に出力できる構成になっている。なお、駆動分析処理部2403は、上記実施の形態8における図18の蓋基板2102と同様に構成することができ、また実施の形態9で記載した駆動制御要素を盛り込むことができる。
【0168】
入出力論理処理部2404は、I/O論理回路を有し、このI/O論理回路は駆動分析処理部2403のCPUに接続されると共に、電気接続線を介して出入力部の各ボタン及び表示部に接続されている。入出力論理処理部2404は、駆動分析処理部2403のCPUと協働して、I/Oデータを処理し、出入力部のディスプレイ(LCD)に測定結果を表示すると共に、出入力部2405の入力ボタンで入力された電気信号に基づいてマイクロ分析チップを制御する。なお、この制御には、少なくとも開閉バルブの制御と検出部電極の制御が含まれる。
【0169】
出入力部2405には、CPUに指示を与える入力ボタンとディスプレイ(LCD)が設けられている。なお、ディスプレイはLCD(液晶ディスプレイ)に限られるものではなく、有機EL表示モジュール等であってもよい。
【0170】
ディスプレイは、駆動ドライバー回路をI/O論理回路とCPUが協働し駆動することにより表示動作を行う。表示形式としては、例えば数値表示、グラフ表示、「ある・なし」表示、更には経時変化表示など、多様な表示形式を採用することができる。
【0171】
さらに出入力部には、図20に図示しないが、外部との入出力を処理する端子、または、無線送受信機を設けることができる。そうすることにより、パソコンやPDA端末などと接続でき、またネットワーク接続が可能になり、利便性が高まる。
【0172】
実施の形態10のマイクロ分析チップ装置は、サンプルの採取からその測定と出力を一つの装置で行うことができる。特に外部との双方向の情報のやり取りを可能にする無線送受信機を組み込んだ実施の形態10のマイクロ分析チップ装置によると、例えば自宅で測定した人の健康に関する測定結果を直ちにネットワークを介して病院や健康管理センターなどに電送することができ、これにより、迅速かつ的確な診断や治療に関するアドバイスを受けることが可能になる。すなわち、実施の形態10によると、いつでも、どこでも、だれでも、が利用可能な、小型で利便性に優れたマイクロ分析チップ装置を提供することができる。
【0173】
(実施例)
次に、実施例により本発明の説明を行うが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0174】
上記送液構造体は、上記実施の形態1と同様の構成であり、2つの基板(主基板111と蓋基板110)とが重ね合わされて構成されている。
【0175】
主基板への流路114用の溝の形成には、金型による樹脂成型方法を用いた。金型は、シリコン基板にフォトリソ法でレジストパターンを形成後、ドライエッチングプロセス法によりエッチングを行って作製した。作製された金型型枠を設置し、シリコンゴム(ポリジメチルシロキサン、東レダウコーニング社製 ジルポット184)を厚みが2mmになるまで流し込み、100℃、15分の加熱を行い、硬化させた。硬化後、金型と硬化したシリコンゴムを分離させ、シリコンゴムを縦20mm、横10mm、厚み2mmに整形し、上部基板を作製した。流路幅を50μm、流路高さを50μmとした。
【0176】
蓋基板は、厚み600μmの石英基板をダイシングソーで縦25mm、横15mmに切断して作製した。参照電極131の寸法を800μm×300μm、作用電極132の寸法を1000μm×1000μm、外部接続端子用電極136引の寸法を1000mm×1000mm、引き出し電極133のライン幅を200μmに設計した。参照電極131、作用電極132の作製には、フォトリソ法によりレジストをパターニング後、スパッタ法によってチタン層(またはクロム層)50nm、金層100nmを形成し、リフトオフ法によってレジストおよびレジスト上に形成されたチタン層および金層を除去し、所望の形にパターニングされた電極を形成した。その後、作用電極132の表面の下流側領域(下流端から流れ方向100μmの領域)をテトラフルオロエチレンで被覆して疎水性膜を形成した。
【0177】
上記主基板と蓋基板とを張り合わせ、実施例にかかる送液構造体を作製した。
【0178】
(比較例)
テトラフルオロエチレン疎水性膜を作用電極全面に形成したこと以外は、上記実施例と同様にして送液構造体を作製した。
【0179】
実施例、比較例にかかる送液構造体に液を流す試験を行った。実施例では、注入孔に蛍光色素(フルオレセインイソシアネート:FITC)溶液を滴下すると、毛細管現象により送液構造体内に溶液が入った。この後、エレクトロウエッティングバルブの作用電極の上流端をぬらし、疎水性膜形成部分に液体が達した時点で液の流れが停止した。作用電極及び参照電極に電圧を印加すると、作用電極上を液が通過し、流路内の溶液が無くなるまで液を流すことができた。
【0180】
他方、比較例では、作用電極の上流端に達する直前で液の流れが停止し、電圧を印加したときには液の流れが再開しなかった。
【0181】
以上により、実施例の送液構造体では、液体の流れを確実に制御できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
以上説明したように、本発明によると、流路に参照電極と作用電極を配置し、電圧を印加していないときにおいても作用電極の上流端に液体が確実に接触できうるように構成するという簡便な手法で、流路内の液体の流れを制御することができる。このような流路構造体は、抗原の分析に用いるマイクロ分析チップ等として応用が可能であり、産業上の意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる送液構造体の平面図である。
【図2】図2は、図1の断面図である。
【図3】図3は、実施の形態1にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図4】図4は、実施の形態1にかかる送液構造体の液体の流れを示す概念図である。
【図5】図5は、実施の形態2にかかる送液構造体の平面図である。
【図6】図6は、実施の形態2にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図7】図7は、実施の形態2の変形例1にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図8】図8は、実施の形態2の変形例2にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図9】図9は、実施の形態2の変形例3にかかる送液構造体を示す断面図である。
【図10】図10は、実施の形態2の変形例4にかかる送液構造体を示す断面図である。
【図11】図11は、実施の形態2の変形例5にかかる送液構造体を示す断面図であるある。
【図12】図12は、実施の形態3にかかる送液構造体の作用電極近傍の拡大図である。
【図13】図13は、実施の形態4にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図14】図14は、実施の形態5にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図15】図15は、実施の形態6にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図16】図16は、実施の形態7にかかる送液構造体を示す平面図である。
【図17】図17は、実施の形態8にかかるマイクロ分析チップを示す図である。
【図18】図18は、実施の形態9にかかるマイクロ分析チップの2層構成を説明する図である。
【図19】図19は、実施の形態10にかかるマイクロ分析装置を示す図である。
【図20】図20は、実施の形態11にかかるマイクロ分析装置の積層構造を説明するための図である。
【図21】図21は、接触角を示す図である。
【図22】図22は、流路構造を示す断面図である。
【図23】図23は、圧力を算出する式である。
【図24】図24は、従来技術にかかる送液構造体の平面図である。
【符号の説明】
【0184】
110 蓋基板
111 主基板
112 注入孔
113 排出孔
114 流路
131 参照電極
132 作用電極
133 引き出し電極
134 親水性領域
135 疎水性領域
136 外部接続端子用電極
137 対向電極
149 疎水性構造物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極表面の少なくとも一部が疎水性であり、前記作用電極表面の少なくとも上流側端部近傍が親水性である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において
前記流路は、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項4】
請求項3に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項5】
請求項4に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極の構成材料が疎水性であり、
前記作用電極の上流端近傍表面に親水化処理が施されている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項7】
請求項6に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記親水化処理は、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項8】
請求項1ないし5いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極の構成材料が親水性であり、
前記上流側端近傍表面を除く作用電極表面に疎水化処理されている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記疎水化処理が、疎水処理剤処理、疎水性膜の形成、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項10】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極が疎水性であり、
前記作用電極の上流端を含む流路断面において液体に発生する表面張力による圧力が正であり、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在する、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項11】
請求項10に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項12】
請求項11に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項13】
請求項12に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極上流端における溝幅が、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝幅よりも大きい、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項15】
請求項12ないし14いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極上流端における溝高さが、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝高さよりも小さい、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項16】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、
前記作用電極の上流端以外の領域に、流路の液体接触面を増加させる疎水性構造物が設けられている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項17】
請求項16に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記疎水性構造物が、ピラー、穴、溝の少なくとも一種である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項19】
請求項18に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項20】
請求項19に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項21】
請求項1ないし20いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体を必須要素として備えた分析チップ。
【請求項22】
請求項21に記載の分析チップを必須要素として備えた分析装置。
【請求項1】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極表面の少なくとも一部が疎水性であり、前記作用電極表面の少なくとも上流側端部近傍が親水性である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において
前記流路は、流れ方向に直交する断面視において常に疎水領域と親水領域とが存在する構造である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項4】
請求項3に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項5】
請求項4に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極の構成材料が疎水性であり、
前記作用電極の上流端近傍表面に親水化処理が施されている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項7】
請求項6に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記親水化処理は、親水処理剤処理、プラズマ処理、UV処理、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項8】
請求項1ないし5いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極の構成材料が親水性であり、
前記上流側端近傍表面を除く作用電極表面に疎水化処理されている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記疎水化処理が、疎水処理剤処理、疎水性膜の形成、表面粗さの制御からなる群より選択される少なくとも一種である
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項10】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極が疎水性であり、
前記作用電極の上流端を含む流路断面において液体に発生する表面張力による圧力が正であり、且つ作用電極が形成された領域の流路には、液体に発生する表面張力による圧力が0又は負である部分が存在する、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項11】
請求項10に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項12】
請求項11に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項13】
請求項12に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極上流端における溝幅が、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝幅よりも大きい、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項15】
請求項12ないし14いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記作用電極上流端における溝高さが、前記表面張力による圧力が0又は負である部分における溝高さよりも小さい、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項16】
流路内の液の流れを制御するエレクトロウエッティングバルブが配置されたエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブは、流路内の特定域に形成された作用電極と、前記作用電極の形成された特定域よりも上流側に形成された参照電極と、を有し、
前記両電極に電圧が印加されていない状態において、前記作用電極の少なくとも上流側端部近傍が親水性であり、
前記作用電極の上流端以外の領域に、流路の液体接触面を増加させる疎水性構造物が設けられている、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項17】
請求項16に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記疎水性構造物が、ピラー、穴、溝の少なくとも一種である、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記エレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体は、少なくとも前記流路用の溝が形成された主基板と、
前記参照電極と前記作用電極が形成された蓋基板と、を有し、
前記主基板と前記蓋基板とが重ね合わされてなるものである、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項19】
請求項18に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板は、疎水性材料からなり、
前記蓋基板は、親水性材料からなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項20】
請求項19に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体において、
前記主基板はポリジメチルシロキサンからなり、
前記蓋基板はガラスからなる、
ことを特徴とするエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体。
【請求項21】
請求項1ないし20いずれか1項に記載のエレクトロウエッティングバルブ付き流路構造体を必須要素として備えた分析チップ。
【請求項22】
請求項21に記載の分析チップを必須要素として備えた分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−85334(P2010−85334A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256873(P2008−256873)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
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