説明

エレクトロガスアーク溶接用の摺動当金

【課題】十分な量の溶融スラグを排出することができ、アーク不安定やスラグ跳ねの問題を好適に回避することができるエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金を提供する。
【解決手段】母材と対向する面が、湾曲した凹面からなる湾曲凹部2と、その左右両側において所定の幅をもってそれぞれ形成された平坦な垂直面からなる二つの摺動縁部3a,3bと、母材表面との間に所定幅の間隙を形成するための切欠部4とによって構成され、湾曲凹部2の上端付近には、前方へシールドガスを供給する開口部5が形成され、切欠部4は、二つの摺動縁部3a,3bのうち、一方の摺動縁部3aの下方に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロガスアーク溶接に用いられる摺動当金(摺動銅板、水冷銅壁)に関し、特に、溶接時において溶融金属上に滞留する溶融スラグを理想的な態様で溶融池から排出することができるエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロガスアーク溶接は、図2(2電極エレクトロガスアーク溶接の説明図であって、母材、摺動当金等の水平断面図)に示すように、母材(ウェブ側母材51、フランジ側母材52)の表面側に摺動当金53を配置して、母材51,52の端面、摺動当金53、及び、裏当金57によって囲まれた空間(溶融池54)内に、シールドガス(炭酸ガス等)を供給しつつ、一対の溶接トーチ55,55からそれぞれ溶接ワイヤ56,56を繰り出してアーク溶接を行う、というものである。
【0003】
図3は、エレクトロガスアーク溶接において用いられている従来の摺動当金53の斜視図である。摺動当金53は、一般に、銅板によって形成されていることが多く、また、冷却水を順次導入(及び排出)できるような構造となっており、母材及び溶接金属を冷却する機能を有している。このため、摺動当金53は、「摺動銅板」或いは「水冷銅壁」とも呼ばれている。
【0004】
図3に示されているように、この摺動当金53は、一方の面(図2において母材51,52と対向する面)が、湾曲凹部61と、二つの摺動縁部62,62とによって構成されている。湾曲凹部61は、垂直軸線周りに湾曲した凹面からなっている。摺動縁部62,62は、湾曲凹部61の左右両側において所定の幅をもって形成されており、凹凸のない平坦な垂直面によってそれぞれ構成されている。尚、摺動縁部62,62の構成面は、同一の仮想平面上にある。
【0005】
湾曲凹部61の上端付近には、開口部63が形成されている。この開口部63は、摺動当金53の背面側(湾曲凹部61の反対側)に突出したシールドガス導入口64と連通しており、シールドガスの供給源とシールドガス導入口64とを接続することによって、開口部63から、図2に示す溶融池54にシールドガスを供給できるように構成されている。また、摺動当金53の背面側には、図2に示すように、冷却水の導入口65、及び、排出口66が形成されている。
【0006】
エレクトロガスアーク溶接においては、溶接ワイヤ56として、一般にフラックス入りのものが使用され、フラックスに配合されているスラグ形成剤が溶接時に溶融し、ビードの外観を良好に保つ働きをする。この点についてより具体的に説明すると、図4(図2に示したx−x線による溶融池54(開先)及び摺動当金53等の垂直断面図)に示すように、溶融池54内に一対の溶接トーチ55,55を差し込み、各先端部から繰り出される溶接ワイヤ56,56間に電圧を印加すると、アーク放電によって溶接ワイヤ56,56が溶融し、溶融池54内において溶融金属59の層が形成される。また、溶接ワイヤ56に配合されているスラグ形成剤が溶融することによって、溶融金属59の層の上に、溶融スラグ60aの層が形成される。
【0007】
エレクトロガスアーク溶接における溶接作業は、溶接トーチ55,55と摺動当金53の相対位置関係及び姿勢を維持しつつ、それらを一定のスピードで上昇させていくことによって行われる。このとき摺動当金53は、湾曲凹部61が常に溶融池54に面した状態で、また、摺動縁部62,62(図3参照)をウェブ側母材51、及び、フランジ側母材52に対してそれぞれ当接、摺動させながら上昇させる。溶融金属59は、摺動当金53によって冷やされて下層側から順次硬化していき、溶接金属58の層が下方から上方へ向かって成長していく形となる。
【0008】
このとき、溶接金属58の表層側(母材51,52の表面側)には、ビード58aが形成されることになるが、溶接池54の最上層を形成する溶融スラグ60aが、摺動当金53の湾曲凹部61と、溶融金属59(或いはビード58a)との間隙から下方へ向かって流出し、ビード58aの外側に付着し、溶融金属59に先行して凝固して凝固スラグ60bとなり、溶融金属59のビード表面を滑らかに覆うことによって、ビード58aの外観性が向上する。
【0009】
尚、摺動当金53の湾曲凹部61と、溶融金属59との間に形成される間隙が大きすぎると、溶融金属59が下方へ流出してしまうことがあり、この場合、粗度が大きく、醜悪な形状のビード58aが形成されてしまう可能性がある。このため、摺動当金53は、通常、溶融スラグ60aのみを選択的に流出させることができるように、適切な大きさの間隙(溶融金属59よりも流動性が大きい溶融スラグ60aは流出するが、溶融スラグ60aよりも流動性が小さい溶融金属59は流出しない、というような大きさの間隙)が、湾曲凹部61と溶融金属59の間に、形成されるように設計されている。
【特許文献1】特開昭62−134180号公報
【特許文献2】特開2007−90398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら従来の摺動当金53は、溶融スラグ60aのみを選択的に流出させることができるように配慮されているものの、溶接ワイヤ56からの供給量との関係で十分な量の溶融スラグ60aを溶融池54から排出することができないものが多く、溶融池54からの溶融スラグ60aの排出量が供給量を下回ってしまうと、溶融スラグ60aの層が厚くなり過ぎて、アーク不安定が生じ、アークが消失してしまう、という問題がある。
【0011】
また、溶融スラグ60aの層が厚過ぎると、アークによって「スラグ跳ね」が生じ、溶融スラグ60aの小滴が溶接トーチ55に付着、堆積し、溶接トーチ55が肥大化して動作不良(例えば、狭い開先との干渉等)が生じたり、摺動当金53の開口部63(溶融池54へシールドガスを供給する吐出口)の周辺部分に溶融スラグ60aの小滴が付着して、開口部63の開口面積、ひいては、シールドガスの供給量が減じられ、シールド不良が生じるという問題がある。
【0012】
このため、従来の摺動当金53を用いたエレクトロガスアーク溶接における最大溶接長は1m程度であり、長尺の部材に適用することは困難であった。また、従来の摺動当金には、適用する母材の板厚に応じて、適切な溝形状のものを選択して用いるべきものなどもあり、このタイプの摺動当金は、選択を誤ると、ビード表面が凸凹になってしまう可能性があるという問題があった。本発明は、上記のような従来技術の問題を解決すべくなされたものであって、十分な量の溶融スラグを排出することができ、アーク不安定やスラグ跳ねの問題を好適に回避することができるほか、汎用性が高く、どのような板厚の母材に対しても好適に用いることができるエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金は、母材と対向する面が、湾曲した凹面からなる湾曲凹部と、当該湾曲凹部の左右両側において所定の幅をもってそれぞれ形成された平坦な垂直面からなる二つの摺動縁部と、母材表面との間に所定幅の間隙を形成するための切欠部とによって構成され、湾曲凹部の上端付近には、前方へシールドガスを供給する開口部が形成され、切欠部は、二つの摺動縁部のうち、一方の摺動縁部の下方に形成されていることを特徴としている。
【0014】
尚、一方の摺動縁部と切欠部の境界は、開口部の下縁の位置から10〜20mm下方の位置に設定されていることが好ましく、また、切欠部のオフセット量は、0.5〜1.5mmの範囲内に設定されていることが好ましい。更に、切欠部のオフセット量は、上方から下方へ向かって次第に大きくなるように設定することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金によれば、溶融池の溶融金属の層の上に滞留する溶融スラグが、湾曲凹部と、溶融金属(或いはビード)との間隙から下方へ向かって流出するとともに、切欠部と母材表面との間に形成される間隙から摺動当金の軌道の側方へも流出することになり、従来の摺動当金と比べ、溶融スラグの排出量を増加させることができる。その結果、溶融スラグの排出量が供給量を下回ってしまうというような問題や、それに起因して派生し得る様々な問題(アーク不安定、アーク消失、スラグ跳ね、溶接トーチの動作不良、シールド不良等の問題)を好適に回避することができる。
【0016】
尚、切欠部のオフセット量が、上方から下方へ向かって次第に大きくなるように構成した場合、切欠部と母材表面との間に形成される間隙の容量が大きくなることで、排出された溶融スラグがスムーズに下方へ流れ落ちやすくなり、溶融スラグの排出性そのものが向上するという効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に沿って本発明に係る「エレクトロガスアーク溶接用の摺動当金」の実施形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金1の斜視図である。図示されているように、この摺動当金1は、一方の面(母材と対向する面)が、湾曲凹部2と、二つの摺動縁部3a,3bと、切欠部4とによって構成されている。湾曲凹部2は、垂直軸線周りに湾曲した凹面からなっている。摺動縁部3a,3bは、湾曲凹部2の左右両側において所定の幅をもって形成された平坦な垂直面によってそれぞれ構成されている。尚、摺動縁部3a,3bの構成面は、同一の仮想平面上にある。
【0018】
湾曲凹部2の上端付近には、開口部5が形成されている。この開口部5は、摺動当金1の背面側(湾曲凹部2の反対側)に突出したシールドガス導入口6と連通しており、シールドガスの供給源とシールドガス導入口6とを接続することによって、開口部5から、前方へシールドガスを供給できるように構成されている。また、摺動当金1の背面側には、冷却水の導入口、及び、排出口が形成されている。
【0019】
本発明に係る摺動当金1において、図3に示した従来の摺動当金53と異なっている点は、湾曲凹部2の左右両側に一つずつ形成されている摺動縁部3a,3bのうち、一方の摺動縁部3a(図1において左側の方)が摺動当金1の下端まで達しておらず、切欠部4が形成されている、という点である。より具体的には、従来の摺動当金53では、左右両側の摺動縁部62,62はいずれも摺動当金53の上端から下端まで連続した状態となっているが、本発明の摺動当金1においては、一方の摺動縁部3aが、摺動当金1の上端部付近に限定され、摺動縁部3aの下側部分は、表面から一定の厚さ分が除去されて、切り欠かれた状態(切欠部4)となっている。
【0020】
摺動縁部3aと切欠部4の境界Bは、本実施形態においては、開口部5の下縁5aの位置(図1において一点鎖線で示す位置)から15mm下方の位置(図1において二点鎖線で示す位置)に設定されている。尚、切欠部4は、境界Bから摺動当金1の下端まで連続した状態で延在している。
【0021】
切欠部4の構成面は、摺動縁部3a,3bの構成面(図1において破線で示す位置)から、摺動当金1の背面側へ1mmずれた位置にある。つまり、摺動縁部3aの構成面から厚さ1mm分の肉を削り取った状態となっている。
【0022】
従って、この摺動当金1を用いてエレクトロガスアーク溶接を行うべく、母材の表面側に摺動当金1を配置した場合、摺動縁部3a,3bは、母材の表面に接触した状態となるが、切欠部4は母材表面から1mm離間した状態となり、母材表面と摺動当金1の間には、幅1mmの間隙が形成されることになる。
【0023】
この摺動当金1を用いてエレクトロガスアーク溶接を実施すると、溶融池の溶融金属の層の上に滞留する溶融スラグが、摺動当金1の湾曲凹部2と、溶融金属(或いはビード)との間隙から下方へ向かって流出するとともに、切欠部4と母材表面との間に形成される間隙から摺動当金1の軌道の側方へも流出することになり、従来の摺動当金53(図3参照)と比べ、溶融スラグの排出量を増加させることができる。その結果、溶融スラグの排出量が供給量を下回ってしまうというような問題や、それに起因して派生し得る様々な問題(アーク不安定、アーク消失、スラグ跳ね、溶接トーチの動作不良、シールド不良等の問題)を好適に回避することができる。
【0024】
尚、本実施形態においては、摺動縁部3aと切欠部4の境界Bは、開口部5の下縁5aの位置から15mm下方の位置に設定されているが、この境界Bと開口部5の下縁5aとの離間寸法H(図1参照)は、必ずしも15mmに限定されるものではない。しかしながら、この離間寸法Hを10mmよりも小さく設定すると、溶融金属の漏れが生じるという問題があるため、最低でも10mmは確保すべきである。また、この離間寸法Hを20mmよりも大きく設定した場合、溶融スラグの円滑な排出効果を期待できないということ、及び、20mm以内であれば、概ね良好な排出効果を期待できるということが、発明者らが行った実験により確認されている。従って、境界Bと開口部5の下縁5aとの離間寸法Hは、10〜20mmの範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0025】
また、切欠部4の構成面のオフセット量D(摺動縁部3a,3bの構成面から背面側へのずれ量、即ち、切欠部4において母材表面と摺動当金1の間に形成される間隙の大きさ)は、本実施形態においては1mmに設定されているが、必ずしもこの大きさに限定されるものではない。但し、このオフセット量Dを0.5mmよりも小さく設定した場合、溶融スラグの十分な排出効果を期待できないということ、及び、0.5以上とすれば、概ね良好な排出効果を期待できるということが、発明者らが行った実験により確認されており、また、このオフセット量Dを1.5mmよりも大きく設定した場合、溶融金属が溶融スラグと一緒に漏れやすくなるという問題がある。従って、切欠部4の構成面のオフセット量Dは、0.5〜1.5mmの範囲内で適宜設定することが好ましい。
【0026】
尚、本実施形態においては、図1において左側の摺動縁部3aの下方に切欠部4が形成されているが、左右を入れ替えて、切欠部4を右側の摺動縁部3bの下方に形成することもできる。この場合、右側の摺動縁部3aは、摺動当金1の上端から下端まで連続した状態とする。
【0027】
また、本実施形態においては、オフセット量Dは、境界Bから下端まで一定(1mm)であるが、上方から下方へ向かってオフセット量Dが次第に大きくなるように設定することもできる。但しこの場合も、溶融金属の漏れを回避する必要があり、かかる観点からは、境界Bから少なくとも30mmの範囲内においては、オフセット量Dは0.5〜1.5mmに設定されるべきである。それよりも下方の部位においては、溶融金属の漏れが生じるおそれは殆どなくなるため、オフセット量Dを1.5mm以下に限定する必要はなく、例えば、最大3.0mmまでの範囲内で適宜設定することができる。このように、上方から下方へ向かってオフセット量Dが次第に大きくなるように設定した場合、切欠部4と母材表面との間に形成される間隙の容量が大きくなることで、排出された溶融スラグがスムーズに下方へ流れ落ちやすくなり、溶融スラグの排出性そのものが向上するという効果を期待することができる。
【実施例】
【0028】
ここで、本発明の発明者らが行った実験の内容と結果を、本発明の実施例として説明する。図2に示したようなウェブ側母材51、フランジ側母材52、裏当金57からなる同一条件の試験体ア〜エを用意するとともに、本発明に係る摺動当金(実施例)と、そのほかに2種類の摺動当金(比較例1、2)を用意して、それぞれ試験体ア〜エに適用してエレクトロガスアーク溶接を実施した。尚、本発明の実施例としては、図1に示した摺動当金1(但し、離間寸法Hを10mm、オフセット量Dを1mmに設定)を用いた。また、比較例1として、図3に示した従来の摺動当金53(摺動縁部において切欠部が形成されていない)を使用し、比較例2としては、一方の摺動縁部において切欠部が形成されているが、開口部の下縁との離間寸法Hが5mmに設定され、オフセット量Dが1mmに設定された摺動当金を用いた。
【0029】
まず、試験体アに対して、比較例1として準備した図3の摺動当金53を、試験体アの母材表面に接触させるのではなく、母材表面から1mm離間した位置に配置し、その間隔がなるべく維持されるようにしながらエレクトロガスアーク溶接を行った。母材の下端から溶接を開始し、その後、溶接が進むにつれて摺動当金53と母材表面との間隔が拡がっていった。そこで、摺動当金53を母材表面に押し付ける力を強くしてみたが、拡がった間隔を狭めることはできなかった。摺動当金53を押し付ける力を弱めると、母材表面との間隔が一気に拡がり、溶融金属の漏れが生じた。このため、実験を中止した。
【0030】
次に、試験体イに対して比較例1として準備した図3の摺動当金53を、全体的に試験体イの母材表面に接触させるのではなく、上端のみを接触させ、下端は母材表面から2mm離間した位置となるように、僅かに傾斜させて配置し、その姿勢が維持されるようにしながらエレクトロガスアーク溶接を行った。溶接開始直後は、溶融スラグは溶融池から排出されなかったが、溶融金属の湯面高さを、摺動当金53の開口部63の下縁から5mm下方の位置まで下げたところ、溶融池からの溶融スラグの排出が始まった。その後は、溶接が終了するまで、スラグ溜まり(溶融金属59上に溶融スラグ60aが堆積するという現象)は生じなかった。但し、通常よりも、ビード表面にスラグが厚く付着した(通常は1〜1.5mmほどのところ、2mmの厚さで付着した)。また、若干溶融金属の漏れが生じた。
【0031】
次に、試験体ウに対して比較例2として準備した摺動当金を、いずれの摺動縁部も母材表面に接触するように配置して、その姿勢が維持されるようにしながらエレクトロガスアーク溶接を行った。溶接開始直後から、溶融スラグは、摺動当金の湾曲凹部と、溶融金属との間隙から下方へ向かって流出するとともに、切欠部と母材表面との間に形成された間隙から摺動当金の軌道の側方へも流出し、良好に排出された。但し、溶融金属の漏れが一箇所発生した。
【0032】
最後に、試験体エに対して本発明の実施例として準備した図1の摺動当金1を、いずれの摺動縁部3a,3bも母材表面に接触するように配置して、その姿勢が維持されるようにしながらエレクトロガスアーク溶接を行った。溶接開始直後は、溶融スラグは溶融池から排出されなかったが、溶融金属の湯面高さを、摺動当金の開口部の下縁から5mm下方の位置まで下げたところ、溶融池からの溶融スラグの排出が始まった。その後、溶融スラグは順調に排出された。また、溶融金属の漏れは生じなかった。但し、辛うじて漏れがくい止められているような状態であった。
【0033】
以上に説明した実験結果から、本発明の実施例として準備した図1の摺動当金1は、溶融金属の漏れを生じさせることなく、十分な量の溶融スラグを排出することができる、ということが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金1の斜視図。
【図2】エレクトロガスアーク溶接の説明図であって、母材51,52、摺動当金53等の水平断面図。
【図3】エレクトロガスアーク溶接において用いられている従来の摺動当金53の斜視図。
【図4】図2に示したx−x線による溶融池54(開先)及び摺動当金53等の垂直断面図。
【符号の説明】
【0035】
1:摺動当金、
2:湾曲凹部、
3a,3b:摺動縁部、
4:切欠部、
5:開口部、
5a:下縁、
6:シールドガス導入口、
51:ウェブ側母材、
52:フランジ側母材、
53:摺動当金、
54:溶融池、
55:溶接トーチ、
56:溶接ワイヤ、
57:裏当金、
58:溶接金属、
58a:ビード、
59:溶融金属、
60:スラグ、
60a:溶融スラグ、
60b:凝固スラグ、
61:湾曲凹部、
62:摺動縁部、
63:開口部、
64:シールドガス導入口、
65:冷却水導入口、
66:冷却水排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と対向する面が、湾曲した凹面からなる湾曲凹部と、当該湾曲凹部の左右両側において所定の幅をもってそれぞれ形成された平坦な垂直面からなる二つの摺動縁部と、母材表面との間に所定幅の間隙を形成するための切欠部とによって構成され、
前記湾曲凹部の上端付近には、前方へシールドガスを供給する開口部が形成され、
前記切欠部は、前記二つの摺動縁部のうち、一方の摺動縁部の下方に形成されていることを特徴とするエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金。
【請求項2】
前記一方の摺動縁部と前記切欠部の境界が、前記開口部の下縁の位置から10〜20mm下方の位置に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金。
【請求項3】
前記切欠部のオフセット量が、0.5〜1.5mmの範囲内に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金。
【請求項4】
前記切欠部のオフセット量が、上方から下方へ向かって次第に大きくなるように設定されていることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロガスアーク溶接用の摺動当金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−142814(P2010−142814A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319265(P2008−319265)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)