説明

エレクトロクロミック材料

【課題】エレクトロクロミック化合物およびこれらを使用した反射型表示素子のメモリ性能を向上させること。
【解決手段】分子中に少なくとも吸着基A,酸化還元発色団C,スペーサー部Xを有する下記一般式(1)で示されるエレクトロクロミック化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示素子に関し、詳しくは、酸化還元反応により色変化を繰り返し行なうことのできる発色性物質を用いたディスプレイの素子構成に関し、反射型ディスプレイ、電子ペーパーに応用される。
【背景技術】
【0002】
紙に代わる電子媒体として電子ペーパーの開発が盛んに行なわれている。従来のディスプレイであるCRTや液晶ディスプレイに対して電子ペーパーに必要な特性としては、反射型表示素子であり、かつ、高い白反射率・高いコントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。特に表示特性としては、紙と同等な白反射率・コントラスト比が要求されており、これらの特性を兼ね備えた表示デバイスを開発することは容易ではない。また、従来のディスプレイ、紙媒体は当然のごとくフルカラー表示をしており、電子ペーパーに対するカラー化の要望は非常に大きい。
【0003】
これまで提案されているカラー表示ができる電子ペーパーの技術としては、例えば反射型液晶素子にカラーフィルターを形成した媒体がすでに製品化されているが、偏光板を用いるため光利用効率が低く、暗い白色表示しかできていない。さらに黒色を表示することができないため、コントラスト比も悪い。
また、明るい反射型表示素子として帯電した白色粒子と黒色粒子を電場で動かすことを原理とする電気泳動方式があるが、この方式では、白色粒子と黒色粒子を完全に反転させることは現実的に難しく、高い白反射率、高いコントラスト比を同時に満たすことは難しい。特許文献1(特開2003−161964号公報)、特許文献2(特開2004−361514号公報)などは電気泳動素子にカラーフィルターを形成した反射型カラー表示媒体に関して開示しているが、低い白反射率、低いコントラスト比の表示媒体にカラーフィルターを形成しても良好な画質が得られないことは明白である。さらに、特許文献3(特表2004−520621号公報)、特許文献4(特表2004−536344号公報)では、複数の色にそれぞれ着色された粒子を動かすことによってカラー化を行なう電気泳動素子に関して開示しているが、これらの方法を用いても原理的には上記の課題の解決にはならず、高い白反射率と高いコントラスト比を同時に満たすことはできない。
【0004】
電圧を印加すると可逆的に電界酸化または電界還元反応が起こり可逆的に色変化する現象をエレクトロクロミズムという。このような現象を起こすエレクトロクロミック化合物の発色/消色を利用した表示素子は、反射型の表示素子であり高い白反射率が可能であること、メモリ効果があること、低電圧で駆動できることから、電子ペーパーの候補として挙げられる。特許文献5(特表2001−510590号公報)、特許文献6(特開2002−328401号公報)、特許文献7(特開2004−151265号公報)では、酸化チタンなどの半導体性微粒子の表面にエレクトロクロミック化合物を担持させた素子について報告している。この素子は、駆動に必要な電荷量を低減でき、また発色/消色反応を高速化できるため有用な構成であるが、これらの公報に例示しているエレクトロクロミック化合物は青色、緑色といった色を発色するものであり、フルカラー化に必要なイエロー、マゼンタ、シアンの3原色を発色するものではない。
【0005】
特許文献8(特開昭62−71934号公報)、特許文献9(特開2006−71767号公報)ではイエロー、マゼンタ、シアンの3原色を発色するエレクトロクロミック化合物である芳香族ジカルボン酸エステル誘導体について報告している。これらのエレクトロクロミック化合物は、3原色を発色できるがメモリ性がないため電圧印加をやめると1秒程度で消色してしまう。
電子ペーパーは常時電源に繋げて使用するのではなく、内蔵電池を使用することが想定され、低消費電力の表示素子が望まれる。ここで、表示素子にメモリ性がないと発色のための電力を常時印加していなければならないが、メモリ性があると発色状態を保っている間は電力が必要ない。従って、メモリ性が大きいほど消費電力が少なくなり、メモリ性の向上は重要な課題である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−161964号公報
【特許文献2】特開2004−361514号公報
【特許文献3】特表2004−520621号公報
【特許文献4】特表2004−536344号公報
【特許文献5】特表2001−510590号公報
【特許文献6】特開2002−328401号公報
【特許文献7】特開2004−151265号公報
【特許文献8】特開昭62−71934号公報
【特許文献9】特開2006−71767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の従来技術の状況および問題を鑑みてなされたものであり、エレクトロクロミック化合物およびこれらを使用した反射型表示素子のメモリ性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
(1)「分子中に少なくとも吸着基A,酸化還元発色団C,スペーサー部Xを有する下記一般式(1)で示されるエレクトロクロミック化合物;
【0009】
【化1】

」、
(2)「前記酸化還元発色団Cが下記一般式(2a)〜(4b)のいずれかの一価構造部分(2a)(3a)(4a)又は二価構造部分(2b)(3b)(4b)を含むものであることを特徴とする前記第(1)項に記載のエレクトロクロミック化合物;
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】


(XからX16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、Rは二価の有機基残基を示し、R、R、Rは一価又は二価の有機基残基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。YとYはそれぞれ酸素原子または窒素原子含有二価基を示す。)」、
(3)「前記吸着基Aがホスホン酸基又はホスホン酸基含有の有機基であることを特徴とする前記第(1)項又は第(2)項に記載のエレクトロクロミック化合物」、
(4)「前記吸着基Aがシリル基又はシリル基含有の有機基であることを特徴とする前記第(1)項又は第(2)項に記載のエレクトロクロミック化合物」、
(5)「導電性または半導体性微粒子に前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに示すエレクトロクロミック化合物が担持されたエレクトロクロミック組成物」、
(6)「少なくとも表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載したエレクトロクロミック化合物または前記第
(5)項に記載のエレクトロクロミック組成物のいずれかを少なくとも有することを特徴とする表示素子」。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の本発明により、アミン誘導体を付与したエレクトロクロミック化合物であり、メモリ性が向上した表示素子を作製することができる。
また、請求項2記載の本発明により、3原色を発色できるエレクトロクロミック化合物であり、メモリ性が向上したフルカラー表示素子を作製することができる。
また、請求項3記載の本発明により、耐久性が向上し、かつ、メモリ性が向上した表示素子を安価に作製することができる。
また、請求項4記載の本発明により、耐久性が大きく向上し、かつ、メモリ性が向上した表示素子を作製することができる。
また、請求項5記載の本発明により、メモリ性が向上し、かつ、高効率で発色、消色反応が起こる表示素子を作製することができる。
また、請求項6記載の本発明により、低消費電力の表示素子を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のエレクトロクロミック化合物の特徴は、分子中に少なくとも吸着基A、酸化還元発色団C、スペーサー部Xを有する下記一般式(1)に示す構造である。
【0018】
【化8】

【0019】
本発明における酸化還元発色団Cは、電子の授受による酸化還元反応により発色、消色する部位である。また、吸着基は電極に吸着または結合する役割をする。
本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた表示素子の例を図1に示す。エレクトロクロミック化合物は、電極に吸着基Aを介して吸着または結合する。この表示素子に電圧印加することで電極からエレクトロクロミック化合物に電子を注入すると、電子は吸着基、スペーサー部Xを移動して酸化還元発色団に達する。ここで酸化還元発色団の還元反応が起こり、色が変化する。また、逆電圧を印加すると、電子は酸化還元発色団からスペーサー部、吸着基を通じて電極に移動するため酸化還元発色団では酸化反応が起き、電圧印加の前の色に戻る。
【0020】
ここで、電圧を印加した後そのまま放置しておくと、酸化還元発色団は電子を保持しつづけ還元状態を保つ。これがエレクトロクロミック化合物のメモリ効果である。ただし、電子がスペーサー部、吸着基を通じて電極に移動したり周囲の電解質に拡散するなどの影響で、このメモリ効果は永久には持続しない。特に酸化還元発色団の還元状態が不安定な構造の化合物は、すぐに電極に電子が移動していまい、メモリ効果がほとんどなくなってしまう。
【0021】
エレクトロクロミック化合物のメモリ性を向上させるため、本発明者らは吸着基と酸化還元発色団の間に、脂肪族炭化水素または芳香族誘導体が結合した窒素原子含有基、すなわちアミン誘導体基を含むスペーサー部Xを導入した化合物を開発した。一般式(1)のうち、R、Rは脂肪族炭化水素または芳香族誘導体基を示し、また、Rは水素原子または一価の基を示す。一価の基としては、F、Cl、Br、I、NO、NHあるいはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が好ましいものとして挙げられる。
【0022】
ジフェニルアミン誘導体、トリエチルアミン誘導体、ジメチルアミン誘導体、トリメチルアミン誘導体などは一般的に正孔輸送材料として利用されており、電子をブロックする効果のある化学構造である。これらの構造を電極と酸化還元発色団の間に導入することで、還元状態の酸化還元発色団から電極への電子の流れがブロックされ、メモリ性能がおよそ2桁程度も向上することが分かった。
【0023】
吸着基Aとしては、電極に対する吸着性または結合性があればどのようなものでも構わないが、吸着性構造としては、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、サリチル酸基、リン酸基などの酸性構造が吸着性能がよい。また、シリル基やシラノール基は電極と化学結合を起こすのでより強固な結合ができる。したがって、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、サリチル酸基、リン酸基などの酸性構造、シリル基、及びこれら酸性構造部分又はシリル基部分を含むものが好ましい。
【0024】
酸化還元発色団Cとしては、一般的なエレクトロクロミック化合物残基であればどのような構造でもよく、例えばフタル酸系化合物、ビオロゲン系化合物、スチリル系化合物、フェノチアジン系化合物、アントラキノン系化合物、ピラゾリン系化合物、フルオラン系化合物、フタロシアニン系化合物の残基などが挙げられる。
スペーサー部Xのアミン誘導体残基の一部の例を以下に挙げる。ただし、本発明のスペーサー部の構造はこれに限定されるものではない。
【0025】
【化9】

【0026】
本発明において、吸着基A、スペーサー部X、酸化還元発色団Cは直接結合していてもよいし、各々の部位の間にアルキル基など別の構造、元素が含まれていても構わない。また、酸化還元発色団Cの末端以降に別の構造が結合されていても構わない。
【0027】
本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた一般的な表示素子の構成は、図1の例に示されるように表示電極と対向電極と両電極間の電解質からなる。
エレクトロクロミック化合物は、表示電極の対向電極側の表面に形成する。形成方法は浸漬、ディッピング法、蒸着法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などどのような方法を用いても構わない。本発明のエレクトロクロミック化合物は吸着基を有するので、表示電極に吸着基が吸着または結合する。
【0028】
表示電極としては、透明導電基板を用いることが望ましい。透明導電基板としてはガラス、あるいはプラスチックフィルムにITO、FTO、ZnOなどの透明導電薄膜をコーティングしたものが望ましい。特にプラスチックフィルムを用いれば軽量でフレキシブルな表示素子を作製することができる。
【0029】
対向電極としては、ITO、酸化錫、酸化亜鉛などの透明導電薄膜をコーティングしたもの、亜鉛や白金などの導電性金属膜をコーティングしたものなどを用いる。対向電極も一般的には基板上に形成する。対向電極基板もガラス、あるいはプラスチックフィルムが望ましい。
【0030】
電解質としては、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウムなどのリチウム塩をアセトニトリル、炭酸プロピレンなどの有機溶媒に溶解させた溶液系、パーフルオロスルフォン酸系高分子膜などの固体系などがある。溶液系はイオン伝導度が高いという利点がある。固体系は劣化がなく高耐久性の素子を作製することに適している。
【0031】
また、反射型表示素子として用いる場合、表示電極と対向電極の間に白色反射層を設けることが望ましい。白色反射層としては、白色顔料粒子を樹脂に分散させ対向電極上に塗布することが最も簡便な作製方法である。白色顔料微粒子としては、一般的な金属酸化物からなる粒子が適用でき、具体的には酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化セシウム、酸化イットリウムなどが挙げられる。
【0032】
また、表示素子の駆動方法としては、任意の電圧、電流を印加することができればどのような方法を用いても構わない。パッシブ駆動方法を用いれば安価な表示素子を作製することができる。また、アクティブ駆動方法を用いれば高精細、かつ高速な表示を行なうことができる。対向基板上にアクティブ駆動素子を設けることで容易にアクティブ駆動ができる。
【0033】
上述のとおり、酸化還元発色団Cはどのような構造でも構わないが、特に、以下に示す一般式(2a)〜(4b)のいずれかの一価構造部分(2a)(3a)(4a)又は二価構造部分(2b)(3b)(4b)の化合物由来の構造は、消色状態で透明であり、かつ、発色状態でそれぞれマゼンタ、イエロー、シアンの3原色を示すため、フルカラー表示素子への利用ができる。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
からX16は水素原子または一価の基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。一価の基としては、F、Cl、Br、I、NO、NHあるいはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が好ましいものとして挙げられる。R、R、Rは二価の有機基を示し、R、R、Rは一価の有機基又は二価の有機基残基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。一価の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基や、ベンジル基等のアラルキル基などが挙げられる。二価の有機基残基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、フエニレン等のアリーレン基やベンジニル基等のアリーニルキル基などが挙げられる。
とYはそれぞれ酸素原子または窒化物を示す。本発明者らが種々の構造について検討したところ、一般式(2)、一般式(3)に示す芳香族ジカルボン酸誘導体構造において、一方にエステル構造、残りの一方にエステル構造またはアミド構造がある場合のみエレクトロクロミック反応を起こすことがわかった。
【0041】
本発明のエレクトロクロミック化合物のもう1つの特徴は、吸着基Aがホスホン酸基、又はホスホン酸基含有基であることである。ホスホン酸基は水酸基と強い吸着反応を起こすため、電極によく吸着する。そのため、電極からの脱離がなくなり素子の耐久性が向上する。また、ホスホン酸基は化合物合成がしやすいため、材料コストを低減できる。
【0042】
本発明のエレクトロクロミック化合物のもう1つの特徴は、吸着基Aがシリル基又はシリル酸基含有基であることである。シリル基は水酸基と化学反応を起こしシラノール結合を形成する。化学結合であるため吸着反応より強固に電極に付着し、素子の耐久性が向上する。
このような本発明におけるエレクトロクロミック化合物は、前記特許文献9の特開2006−71767号公報記載の合成法と同様な合成法により、合成することができる。
【0043】
上述の通り本発明のエレクトロクロミック化合物は、化合物単体で電極に吸着または結合させることで表示素子として利用することができるが、導電性または半導体性微粒子に担持して用いることもできる。具体的には、粒径5nm〜50nm程度の導電性または半導体性微粒子の表面にエレクトロクロミック化合物を吸着または結合させた組成物構造である。微粒子は比表面積が大きいため、非常に多くのエレクトロクロミック化合物を担持でき、このエレクトロクロミック組成物を電極表面に塗布することで多くのエレクトロクロミック化合物を電極上に固定化することができ、効率よく発色、消色反応を行なうことで低消費電力化することができる。
【0044】
この微粒子は、導電性または半導体性であることから、電子は電極から微粒子を通って吸着基、スペーサー部、酸化還元発色団と流れる。従って、本エレクトロクロミック組成物も還元状態の酸化還元発色団から電極への電子の流れがスペーサー部によりブロックされ、メモリ性が向上する。
【0045】
導電性または半導体性微粒子としては、エレクトロクロミック化合物が吸着可能なものならその材質や形態は特に限定されるものではないが金属酸化物が好ましく用いられる。
導電性または半導体性微粒子の具体的な例としては、これらに限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、イットリア、ボロニア、マグネシア、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、カルシア、フェライト、ハフニア、三酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、チタン酸バリウム、アルミノケイ酸塩、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物が挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。好ましくは酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、アルミナ、ジルコニア、ジルコニア、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化タングステン、が挙げられるが、その電気的特性と物理的特性から酸化チタンが特に好ましく用いられる。本発明のエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子の構成例を図2に示す。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
以下に示す合成方法で式(7)に示すエレクトロクロミック化合物を合成した。
ビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミンに対して2当量の水素化ホウ素ナトリウムを用いてエタノール中で還元し、ビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)フェニルアミンを合成した。ビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)フェニルアミンに等モルのp−トルエンスルホニルクロリドを反応させることで片側のヒドロキシル基をトルエンスルホニル化し、さらに亜リン酸トリメチルを反応させることで、式(6)で示す中間化合物のトリフェニルアミンリン酸誘導体を合成した。
【0047】
【化16】

式(6)で示す化合物にTHF溶媒中でテレフタル酸モノメチルクロリド反応させた後、希塩酸でホスホン酸エステルを加水分解することで式(7)で示す化合物を合成した。
【0048】
【化17】

【0049】
(実施例2)
実施例1で合成した式(7)で示す化合物をエタノール中に0.2M溶解させ、この溶液に酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板を24時間浸漬させることで電極表面に式(7)の化合物を吸着させ、表示電極を作製した。
酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板をヘキサクロロ白金酸0.2wt%水溶液中に入れ、1mA/cmの定電流を30秒流すことで表面に白金膜を電着させることで対向電極を作製した。
表示電極と対向電極とを100μmのスペーサーを介して貼り合わせ、セルを作製した。このセル内に、テトラブチルアンモニウムクロリドをジメチルホルムアミドに0.2M溶解させて調製した電解質溶液を注入して表示素子を作製した。
この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はマゼンタを発色した。電圧印加後、約100秒間、発色状態が続いた。
【0050】
(比較例1)
エレクトロクロミック化合物をトリフェニルアミン構造のない式(8)で示す化合物に替えて、実施例2と同様に表示素子を作製した。
【0051】
【化18】

この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はマゼンタを発色した。しかしながら、電圧印加後、約1秒で消色した。
【0052】
(実施例3)
実施例1で合成した式(6)で示す化合物にTHF溶媒中で4、4−ビフェニルカルボン酸モノエチルクロリド反応させた後、希塩酸でホスホン酸エステルを加水分解することで式(9)で示す化合物を合成した。
【0053】
【化19】

エレクトロクロミック化合物を式(9)の化合物に替えて、実施例2と同様に表示素子を作製した。この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はイエローを発色した。電圧印加後、約100秒間、発色状態が続いた。
【0054】
(実施例4)
以下に示す合成方法で式(11)に示すエレクトロクロミック化合物を合成した。
ビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミンに対して2当量の水素化ホウ素ナトリウムをエタノール中で還元し、ビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)フェニルアミンを合成した。ビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)フェニルアミンに等モルテレフタル酸モノメチルクロリドをTHF溶媒中で反応させ式(10)に示す中間化合物を合成した。
【0055】
【化20】

Jones試薬を用いて式(10)の水酸基をカルボン酸にし、3−アミノプロピルトリメトキシシランとアミド反応を行ない、式(11)で示す化合物を合成した。
【0056】
【化21】

エレクトロクロミック化合物を式(11)の化合物に替えて、実施例2と同様に表示素子を作製した。この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はマゼンタを発色した。電圧印加後、約100秒間、発色状態が続いた。
【0057】
(比較例2)
エレクトロクロミック化合物をトリフェニルアミン構造のない式(12)の化合物に替えて、実施例2と同様に表示素子を作製した。
【0058】
【化22】

この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はマゼンタを発色した。しかしながら、電圧印加後、約1秒で消色した。
【0059】
(実施例5)
0.02M酢酸水溶液に式(11)の化合物を0.2M溶解させ、この溶液に対して20wt%の割合で一次粒径6nmの酸化チタン微粒子を入れ、5時間超音波分散することで酸化チタン微粒子表面に式(11)の化合物を結合させた。酢酸水溶液をろ別し、酸化チタン微粒子をエタノール中に再分散させ、このエタノール分散液を酸化スズ透明電極膜が全面に付いたガラス基板に回転塗布し、120℃で乾燥させることによって表示電極を作製した。実施例2と同様に表示素子を作製した。
この表示素子の表示電極に負極を、対向電極に正極を繋ぎ3Vの電圧を1秒印加したところ、表示素子はマゼンタを発色した。電圧印加後、約200秒間、発色状態が続いた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のエレクトロクロミック化合物を用いた表示素子の構成例を示す図である。
【図2】本発明のエレクトロクロミック組成物を用いた表示素子の構成例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に少なくとも吸着基A,酸化還元発色団C,スペーサー部Xを有する下記一般式(1)で示されるエレクトロクロミック化合物。
【化1】

【請求項2】
前記酸化還元発色団Cが下記一般式(2a)〜(4b)のいずれかの一価構造部分(2a)(3a)(4a)又は二価構造部分(2b)(3b)(4b)を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック化合物。
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】

(XからX16は水素原子または一価の置換基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R、R、Rは二価の有機基残基を示し、R、R、Rは一価又は二価の有機基残基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。YとYはそれぞれ酸素原子または窒素原子含有二価基を示す。)
【請求項3】
前記吸着基Aがホスホン酸基又はホスホン酸基含有の有機基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック化合物。
【請求項4】
前記吸着基Aがシリル基又はシリル基含有の有機基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック化合物。
【請求項5】
導電性または半導体性微粒子に請求項1乃至4のいずれかに示すエレクトロクロミック化合物が担持されたエレクトロクロミック組成物。
【請求項6】
少なくとも表示電極と、該表示電極に対して間隔をおいて対向して設けた対向電極と、両電極間に配置された電解質とを備え、該表示電極の対向電極側の表面に、請求項1乃至4のいずれかに記載したエレクトロクロミック化合物または請求項5に記載のエレクトロクロミック組成物のいずれかを少なくとも有することを特徴とする表示素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−217054(P2009−217054A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61622(P2008−61622)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】