説明

エレクトロクロミック素子

【課題】視覚的効果の高い表示を容易に得る。
【解決手段】酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を含んだ電解質5が一対の電極3,3の間に挟持され、この一対の電極3,3の間の電圧によって電解質5中の発色材料を発色又は消色させて表示に供するエレクトロクロミック素子1において、一対の電極3,3の間の距離を表示領域ごとに相対的に変えた。また、一対の電極3,3の間の距離を相対的に短くしてその表示領域における表示速度を速くし、一対の電極3,3の間の距離を相対的に長くしてその表示領域における表示速度を遅くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示材料を含んだ電解質が一対の電極の間に挟持され、電解質中の表示材料(発色材料)を発色又は消色させて表示に供するエレクトロクロミック素子に係り、表示領域ごとに表示速度を変えて視覚的効果を高めたエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
表示材料を含んだ電解質が一対の電極の間に挟持された表示装置として、酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を表示材料としたエレクトロクロミック素子が知られている。
【0003】
エレクトロクロミック素子は、一対の電極の間に印加される電圧によって電解質中の発色材料が光学的吸収や光学的反射を変化させて発色又は消色し、これを表示に供する表示装置であり、電子ペーパー、ペーパーライクディスプレイ、デジタルペーパーなどとも呼ばれている。
【0004】
図5(a)に示すように、従来のエレクトロクロミック素子21は、一定距離をあけて対向配置されている一対の基板22,22と、各基板22,22の対向した面に形成されている電極23,23とを有しており、一対の基板22,22の間、すなわち、一対の電極23,23の間には、スペーサとして例えば所定直径(50〜250μm程度)の絶縁性のビーズ24が挟持されている。ビーズ24は、一対の電極23,23の間の距離を保持するために、実際は一対の電極23,23の間に散在している。また、一対の電極23,23の間には、酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を表示材料として含んだゲル状の電解質25が挟持されている。
【0005】
上述したエレクトロクロミック素子21では、基板22が透明基板であるとともに、電極23が透明電極(ITO)であり、いずれか一方の電極23が表示画像の形状にパターニングされている。ここでは、電極23が図5(b)に示すような「ABCD」の文字にパターニングされている。
【0006】
また、一対の基板22,22は上下にずれて配置されており、一方の基板22の電極23のうち、他方の基板22に対面していない部分から外部導線26を引き出して電源27に接続されている。
【0007】
このような構成では、電源27から一対の電極23,23の間に電圧を印加すると、表示画像の形状にパターニングされた一方の電極23と他方の電極23の間の電解質中の発色材料が光学的吸収や光学的反射を変化させて発色又は消色し、表示部28に「ABCD」の文字が表れたり、消えたりする。
【0008】
一般に、エレクトロクロミック素子は、電解質中の発色材料に対して発色に十分なイオンを注入する必要があるため表示に時間がかかってしまう。そのため、通常は表示速度が要求されないようなディスプレイなどに適用される。また、エレクトロクロミック素子の発色濃度は、電圧の大きさとその印加時間によって制御可能である。
【0009】
下記特許文献1には、エレクトロクロミック薄膜に印加する対称性電圧の波高値、周波数、パルス数を制御することで表示態様(階調や表示速度)を制御する方法が開示されている。この制御方法によれば、エレクトロクロミック素子に波高値、周波数、パルス数が制御された電圧を電流方向限定素子及び電流計測システムを介して印加することで、階調制御した状態で高速表示が可能となる。
【特許文献1】特開2008−39873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5に示すような従来のエレクトロクロミック素子21における表示態様は、例えば表示画像「ABCD」の一文字を一つの表示領域とすると、図6に示すように、「A」、「B」、「C」、「D」の四つの表示領域が同等の表示速度で同時に発色又は消色するという単純なものであった。
【0011】
また、例えば表示領域ごとに表示速度を変えて表示するためには、各表示領域における一対の電極23,23の間の電圧の印加に時間差を設ければよいが、それを実現するには、エレクトロクロミック素子21が外部回路などを備え、表示領域ごとの電圧印加のタイミングを制御する必要がある。ところが、外部回路などを備えると素子21が大型化するうえ、電圧制御は非常に煩雑である。
【0012】
さらに、上記特許文献1においても同様に、表示領域ごとに表示速度を変えるためには表示領域ごとの電圧の印加に時間差を設けなければならず、その制御は煩雑である。
【0013】
そこで本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、且つ表示領域ごとの電圧印加タイミングの制御を必要とせずに視覚的効果の高い表示が容易に得られるエレクトロクロミック素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明による請求項1記載のエレクトロクロミック素子は、酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を含んだ電解質5が一対の電極3,3の間に挟持され、該一対の電極3,3の間の電圧によって前記電解質5を発色又は消色させて表示に供するエレクトロクロミック素子1において、
前記一対の電極3,3の間の距離を表示領域ごとに相対的に変えたことを特徴としている。
【0015】
請求項2記載のエレクトロクロミック素子は、前記一対の電極3,3の間の距離を相対的に短くしてその表示領域における表示速度を速くし、前記一対の電極3,3の間の距離を相対的に長くしてその表示領域における表示速度を遅くしたことを特徴としている。
【0016】
請求項3記載のエレクトロクロミック素子は、前記一対の電極3,3の間にサイズの異なる絶縁性のビーズ4a,4bを挟持させて該一対の電極3,3の間の距離を変えたことを特徴としている。
【0017】
請求項4記載のエレクトロクロミック素子は、前記一対の電極3,3の間に厚みの異なる絶縁シート9a,9bを挟持させて該一対の電極3,3の間の距離を変えたことを特徴としている。
【0018】
請求項5記載のエレクトロクロミック素子は、前記一対の電極3,3のうちの少なくとも一方の電極3が形成される基板2(2a)を削り込んで該一対の電極3,3の間の距離を変えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエレクトロクロミック素子によれば、一対の電極の間の距離が異なれば電解質中の発色材料の発色又は消色にかかる時間が異なるという特性を利用して、一対の電極の間の距離を表示領域ごとに変えることによって表示領域ごとの表示速度を可変することができる。具体的には、例えば縦、横、斜めなどに連続する複数の表示領域がある表示画像において、表示領域ごとに一対の電極の間の距離を段階的に変えることでグラデーション表示のような視覚的効果の高い表示が可能となる。つまり、一対の電極の間の距離を変えただけという簡素な構成で、且つ電圧印加タイミングの制御を必要とせずに視覚的効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。
図1(a)は本発明によるエレクトロクロミック素子の一実施の形態を示す断面図、(b)は同実施の形態を示す平面図、図2(a)〜(d)は同実施の形態の表示態様を示す図である。
【0021】
図1(a)に示すように、エレクトロクロミック素子1は、所定距離をあけて対向配置されている一対の基板2,2と、各基板2,2の対向した面に形成されている電極3,3とを有している。基板2はガラスフィルムなどの透明基板であり、電極3は透明電極(ITO)である。また、一対の基板2,2、すなわち、一対の電極3,3の間には、スペーサとしてガラスビーズなどの絶縁性のビーズ4(4a,4b)が挟持されている。これらのビーズ4a,4bは所定直径(50〜250μm程度)の範囲内で二つの異なるサイズからなる。このエレクトロクロミック素子1は、大小のビーズ4a,4bが挟持されることで一対の電極3,3の間の距離を相対的に変えている。これにより、図1では背面の基板2が傾斜し、一対の電極3,3の間の距離は、左側が最も短く、右側が最も長くなっている。なお、ビーズ4a,4bは、一対の電極3,3の間の両端部にサイズによって分かれて散在している。また、一対の基板2,2の外周部分は樹脂などで密封されている。
【0022】
さらに、一対の電極3,3の間には、酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を表示材料として含んだゲル状の電解質5が挟持されている。
【0023】
図1(b)に示すように、エレクトロクロミック素子1は、いずれか一方の電極3が表示画像の形状(「ABCD」の文字)にパターニングされている。なお、パターニングの他に、例えばいずれか一方の基板2と電極3の間に表示画像が型抜きされたシートが設けられて表示画像を形成するようにしてもよい。
【0024】
また、一対の基板2,2は上下にずれて配置されており、一方の基板2の電極3のうち、他方の基板2に対面していない部分から外部導線6を引き出して電源7に接続されている。
【0025】
エレクトロクロミック素子1では、電源7から一対の電極3,3の間に電圧を印加すると、「ABCD」の文字にパターニングされた一方の電極3と他方の電極3の間の電解質中の発色材料が光学的吸収や光学的反射を変化させて発色又は消色し、表示部8に「ABCD」の文字が表れたり、消えたりする。ここでは、「ABCD」の文字のうちの一文字を表示画像における一つの表示領域としている。
【0026】
さらに、エレクトロクロミック素子1では、図1(a)の矢印の順に発色材料が発色又は消色し、その表示態様(発色時)は、図2(a)〜(d)に示すように、まず、第一の表示領域「A」が表示され、次に第二の表示領域「B」、次に第三の表示領域「C」、最後に第四の表示領域「D」の順に段階的に表示、つまり、グラデーション表示されるようになる。
【0027】
上述した実施の形態によれば、一対の電極3,3の間の距離を表示領域ごとに変えることによって表示領域ごとの表示速度を可変することができる。これにより、まず、一対の電極3,3の間の距離が短い第一の表示領域「A」が表示され、第二の表示領域「B」、第三の表示領域「C」の順に表示され、最後に一対の電極3,3の間の距離が最も長い第四の表示領域「D」が表示されるようなグラデーション表示が可能となり、視覚的効果を高めることができる。
【0028】
また、一対の電極3,3の間にサイズの異なるビーズ4a,4bが挟持されているため、大小のビーズ4a,4bの間における一対の電極3,3の間の距離が連続的に変わり、グラデーション表示に有効となる。
【0029】
なお、上述した実施の形態では、一対の電極の間の距離をサイズの異なるビーズ4a,4bによって調整しているが、図3(a)に示すように、一対の電極3,3の間に厚さの異なる絶縁シート9a,9bが挟持されている構成としてもよい。これにより、上述した実施の形態と同様に一対の電極3,3の間の距離を連続的に変えることができ、グラデーション表示に有効となる。
【0030】
また、図3(b)に示すように、一対の電極3,3の間に同等の厚さの絶縁シート10が積層数を異にして挟持されている構成としてもよい。これにより、上述した実施の形態と同様に一対の電極3,3の間の距離を連続的に変えることができ、グラデーション表示に有効となる。
【0031】
さらに、図4に示すように、一対の電極3,3の間の距離を少なくともいずれか一方の基板2(2a)を削り込んでいる構成としてもよい。このような基板2aの削り込みは、背面の基板2aが着色処理された反射型のエレクトロクロミック素子11に適用可能となる。なお、電極3は、基板2aを削り込んだ後に蒸着などによって形成される。この構成によれば、従来のエレクトロクロミック素子21(図5(a)参照)と外形が変わることなく、一対の電極3,3の間の距離を変えて視覚的効果の高い表示が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)本発明によるエレクトロクロミック素子の実施の形態を示す断面図である。 (b)同実施の形態を示す平面図である。
【図2】(a)〜(d)同実施の形態の表示態様を示す説明図である。
【図3】(a),(b)他の実施の形態を示す断面図である。
【図4】他の実施の形態を示す断面図である。
【図5】(a)従来のエレクトロクロミック素子を示す断面図である。 (b)従来のエレクトロクロミック素子を示す平面図である。
【図6】(a),(b)従来のエレクトロクロミック素子の表示態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1…エレクトロクロミック素子
2…基板
3…電極
4a,4b…ビーズ
5…電解質
9a,9b…絶縁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化・還元により発色と消色を繰り返すことができる発色材料を含んだ電解質が一対の電極の間に挟持され、該一対の電極の間の電圧によって前記電解質を発色又は消色させて表示に供するエレクトロクロミック素子において、
前記一対の電極の間の距離を表示領域ごとに相対的に変えたことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記一対の電極の間の距離を相対的に短くしてその表示領域における表示速度を速くし、前記一対の電極の間の距離を相対的に長くしてその表示領域における表示速度を遅くしたことを特徴とする請求項1記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記一対の電極の間にサイズの異なる絶縁性のビーズを挟持させて該一対の電極の間の距離を変えたことを特徴とする請求項1又は2記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記一対の電極の間に厚みの異なる絶縁シートを挟持させて該一対の電極の間の距離を変えたことを特徴とする請求項1又は2記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極が形成される基板を削り込んで該一対の電極の間の距離を変えたことを特徴とする請求項1又は2記載のエレクトロクロミック素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−66585(P2010−66585A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233582(P2008−233582)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】