説明

エレクトロクロミック素子

【課題】 電極面内で可視光の透過率の連続した変化の表現が可能なエレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】 一対の電極と前記一対の電極の間に配置されたエレクトロクロミック層および電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記一対の電極は前記一対の電極間に電圧を印加するための給電部をそれぞれ有し、前記一対の電極の少なくとも一方は別の給電部をさらに有し、
前記別の給電部は前記電圧が印加されたときに前記電極の面内において可視光の透過率を変化させるための給電部であることを特徴とするエレクトロクロミック素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光の透過率の連続した変化が表現できるエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック現象とは、電圧印加時に起こる可逆的な電気化学反応により、物質の光の透過率が変化し、物質が着色又は消色する現象をいう。
【0003】
エレクトロクロミック現象を利用したエレクトロクロミック素子は、光の透過率が変化する調光素子として、応用が期待されている。
【0004】
エレクトロクロミック素子は、例えば、透明な第1の基板の上に透明な第1の電極、エレクトロクロミック層、電解質層、透明な第2の電極、透明な第2の基板が順次積層された構造が知られている。あるいは、上記電解質層を酸化着色エレクトロクロミック層と還元着色エレクトロクロミック層で挟んだ構成も知られている。
【0005】
特許文献1には、エレクトロクロミック素子を光学フィルタとして用いる例が記載されており、対向する電極がそれぞれ面内で分割され、これら分割された電極を個々に駆動する光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−301065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の光学フィルタでは、可視光の透過率の変化を表現するために電極を面内で分割し、複数の電極を用いている。しかし、電極を分割しているため、分割された領域間で不連続な透過率の変化を生じる。
【0008】
そこで本発明では、電極の分割を必要とせず、電極面内での可視光の透過率の連続した変化の表現が可能なエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、
一対の電極と前記一対の電極の間に配置されたエレクトロクロミック層および電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記一対の電極は前記一対の電極間に電圧を印加するための給電部をそれぞれ有し、前記一対の電極の少なくとも一方は別の給電部をさらに有し、
前記別の給電部は前記電圧が印加されたときに前記電極の面内において可視光の透過率を変化させるための給電部であることを特徴とするエレクトロクロミック素子を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極面内において電位勾配を形成することで、電極を分割することなく、可視光の透過率の連続した変化の表現が可能なエレクトロクロミック素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係るエレクトロクロミック素子の断面模式図である。
【図2】第1の本実施形態に係るエレクトロクロミック素子の上面模式図である。
【図3】第2の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の上面模式図である。
【図4】(A)は第3の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の上面模式図であり、(B)は前記素子の可視光の透過率の変化を示す概念図である。
【図5】(A)は第4の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の上面模式図であり、(B)は前記素子の可視光の透過率の変化を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、一対の電極と前記一対の電極の間に配置されたエレクトロクロミック層および電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記一対の電極は前記一対の電極間に電圧を印加するための給電部をそれぞれ有し、前記一対の電極の少なくとも一方は別の給電部をさらに有し、
前記別の給電部は前記電圧が印加されたときに前記電極の面内において可視光の透過率を変化させるための給電部であることを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
【0013】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子では、電極を複数に分割する必要がない、また電極をアレイ化して複数の素子を配置する必要がない。電極面内での可視光の透過率が連続的に変化できるので、カメラ等の撮像装置への利用に有利である。
【0014】
これは、複数の電極を用いる場合には、その分割する数または用いる電極の数に限界があるため、可視光の透過率の連続した変化を表現できない。なぜならば、複数の電極または電極の分割を用いる方法では、可視光の全透過率を表現できない。すなわち、0%以上100%以下の中で離散的な値を取らざるを得ないからである。
【0015】
可視光の透過率の連続した変化とは、可視光の透過率が滑らかに変化することを指し、透過率の変化が離散的にならないことを意味する。
【0016】
透過率の連続した変化が表現できれば、電極面内に透過率0%以上100%以下の全ての透過率を表現できる。
【0017】
図1は、本実施形態に係るエレクトロクロミック素子を模式的に示した断面図である。図1において、1は第1の基板、2は第1の電極、3はエレクトロクロミック層、4は電解質層、5は第2の電極、6は第2の基板である。このように各要素が積層されている。第1の基板1、第1の電極2、第2の電極5、第2の基板6はいずれも透明である。電極2および電極5である一対の電極間に3および4が配置される。
【0018】
図2は、この方形の素子の電極2および電極5を説明のために、ずらして図示したものである。電極の各辺を辺a、辺b、辺c、辺dと示す。各電極の辺aおよびcに給電部7、給電部9、給電部11、給電部13がそれぞれ設けられている。給電部7と9とは電極2の対向する辺にそれぞれ設けられている。給電部11および13も対向する辺に設けられている。また、電極面内の任意の位置をP(不図示)とすれば電極2と電極5との間の電位差はΔVとして表す。
【0019】
エレクトロクロミック素子は給電部7と給電部11との間に電位勾配を形成し、エレクトロクロミック層の酸化還元反応により電極面に対して垂直方向(紙面における表裏方向)の可視光の透過率を変化させる素子である。
【0020】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は給電部9をさらに有するため、給電部7と給電部9との間に電位勾配を形成できる。
【0021】
そのため、給電部7と給電部11との間の電位差と、給電部9と給電部13との間の電位差と、が異なる状態を形成できる。これにより、給電部7側から給電部9側に向かって可視光の透過率の変化を形成できる。
【0022】
電極間の電位差の大きさがエレクトロクロミック層の酸化還元反応の反応速度に影響を与える。電位差が大きい場合は反応速度が大きく、電位差が小さい場合は反応速度が小さい。酸化還元反応の進行が速い領域は透過率の変化が大きく、酸化還元反応の進行が遅い領域は透過率の変化が小さい。電極2の面内において給電部7および給電部9間で電位差を持てば、その電位差に基づいて電極面内において可視光の透過率が連続的に変化する。
【0023】
位置Pにおいて、透過率を保持するためには、その位置におけるエレクトロクロミック層の酸化還元反応が終了する前に電圧の印加を終了する必要がある。なぜならば、電位差ΔVpの大小に関わらずΔVpが生じると酸化還元反応が進む。この電位差を長時間維持すると酸化還元反応が全て進行する。その結果、完全に透過あるいは不透過になるからである。すると電極面内の透過率は均一となってしまうからである。
【0024】
電圧の印加は直流によって行われても交流によって行われてもよい。
【0025】
印加する電圧にはパルス電圧を用いることが好ましい。エレクトロクロミック素子の特徴であるメモリ性を利用することで、電極面内に可視光の透過率の変化を維持しつつ使用できるからである。
【0026】
そして本実施形態では他方の電極である電極5にも給電部13が設けられているので、給電部11と給電部13との間にも電位勾配を形成できる。この場合はさらに多様な階調の制御が可能となる。
【0027】
第1の基板および第2の基板の例としては、ガラス板が挙げられるが、プラスチック板、ポリイミドなどの合成樹脂板が挙げられる。
【0028】
エレクトロクロミック層の例としては、還元着色型にはWO、MoO、V,Nb、TiOが挙げられ、酸化着色型にはIrO、NiOOH、CoOOH、ヘプチルビオロゲン、Cr、チオフェン系化合物、スチリル系化合物、金属錯体などが挙げられる。
【0029】
電解質層の例としては、例えば酸化チタン、酸化タンタル、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ニオブ,酸化ジルコニウムなどが挙げられる。
【0030】
本実施形態におけるエレクトロクロミック素子の電極あるいは各層の形成方法は、例えば電子ビーム蒸着法、反応性イオンプレーティング法、反応性スパッタリング法、CVD法、陽極酸化法、スピナ−法等の薄膜形成法があげられるがこれらに限定されない。
【0031】
第1の電極および第2の電極の例としては、酸化インジウム錫(ITO)及びZnOやPEDOTなどが挙げられる。ここで、第1または第2の電極は、電極の厚みを薄くする、あるいはドープ量の調整などにより、所望の電位勾配を電極内に形成できる程度高抵抗に形成することが好ましい。電極の膜厚を薄くすることは、素子全体の可視光の透過率を向上させる観点からも好ましい。
【0032】
第1および第2の給電部は、前記電極よりも高い導電率を有する材料を用いることが好ましい。例えば、Pt、Au、Ni、W、Mo、Ag等の金属が挙げられる。さらに、電極よりも高い電気伝導率が得られれば、酸化インジウム錫(ITO)及びZnO、PEDOTなどの透明導電材料も使用可能である。
【0033】
また、給電部は電極のどの場所と接続してもよいが、電極の面内の辺に接続することが好ましい。
【0034】
給電部は電極の一部として一体となってもよいし、電極とは異なるものとして取り付けられてもよい。また、電極面の一端の辺が均一な電位になるのであれば、給電部は一点で電極に接するだけでも十分である。この場合は、給電部は電極との接点である。
【0035】
給電部の形状は、素子のある辺に平行な形状のものを電極に形成することが好ましい。
【0036】
電源の出力インピーダンスに比べて電極の抵抗が十分大きい場合、例えば図2中の給電部7および給電部11のみを使用し、給電部9および給電部13端子を電気的に開放しても、電極面内に可視光の透過率の変化を形成することができる。電気的に開放とは大気開放を指し、どこにも接続しないことを意味する。
【0037】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、図1で示す構成のエレクトロクロミック素子である。また、図2に示すように電極2および電極5が給電部7および9、給電部11および13を有する素子である。
【0038】
図2に示した矢印は電極面内垂直方向の可視光の透過率の変化を示す。矢印の方向にいくほどこの透過率が大きいことを示している。つまり、ΔVpの大きさが矢印の方向に沿って小さくなっていくことを示す。
【0039】
給電部7、給電部9、給電部11、給電部13の電位をそれぞれ1V、0.5V、−1V、−0.5Vと設定すると、給電部7と給電部11との間の電位差ΔVaは2V、給電部9と給電部13との間の電位差ΔVcは1Vとなる。このとき、素子面内の給電部a側から低透過率(濃い着色)、c側で高透過率(薄い着色)という可視光の透過率の変化を形成することができる。さらに、給電部7と給電部9、給電部11と給電部13との電圧をそれぞれ入れ替えて、給電部7、給電部9、給電部11、給電部13の電位を0.5V、1V、−0.5V、−1Vと設定する。この場合、電極面内の電極辺a側から高透過率(薄い着色)、電極辺c側で低透過率(濃い着色)という可視光の透過率の変化を形成することができる。
【0040】
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、光学レンズ等の撮像光学系を有する撮像装置に用いることができる。
【0041】
このとき、エレクトロクロミック素子の大きさは特に限定されない。撮像装置等に用いる場合には受光素子の前に設けて用いることができる。受光素子の前であれば、撮像装置が有する光学レンズの外側でも内側でもよい。受光素子とはCCDやCMOSセンサなどを指す。
【0042】
エレクトロクロミック層を酸化型から還元型へと変更すれば電極辺aと電極辺cとの透過率を入れ替えることができる。すなわち、辺a側が低透過率で、辺c側が高透過率である透過率の形状を形成することができる。
【0043】
[第2の実施形態]
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、電圧を印加する給電部の位置を変更する以外は、第1の実施形態に係るエレクトロクロミック素子と同様である。具体的には、給電部7および9に代わって、給電部8および10を使用する。
【0044】
図3に示すように、給電部8、給電部10、給電部11、給電部13を使用することで、素子の辺に対して斜め方向に可視光の透過率の変化を形成可能となる。
【0045】
給電部8、給電部10、給電部11、給電部13の電位をそれぞれ−0.5V、−1V、1V、0.5Vと設定すると図2に示した矢印の方向に光の透過率の変化を形成できる。
【0046】
このとき、電位勾配の向きまたはエレクトロクロミック材料の種類を酸化型から還元型へと変更することで、可視光の透過率の変化を逆向きにすることもできる。
【0047】
[第3の実施形態]
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、新たに電極を設けること以外は第2の実施形態に係るエレクトロクロミック素子と同様である。新たな電極とは、辺bと辺dとの間の給電部15および辺aと辺cとの間の給電部16である。
【0048】
図4(A)には、給電部15の一例として、電極2内の辺bおよび辺dから等距離の位置に、辺bと辺dとに平行な給電部15を示した。同様に、給電部16の一例を辺aと辺cとから等距離かつ辺aと辺cとに平行な給電部16を示した。
【0049】
図4には、図2や図3のように電位勾配の矢印を図示しないが、本実施形態に係る素子の電位勾配の方向は交差している。
【0050】
ここで、給電部8、給電部10、給電部15、給電部11、給電部13、給電部16の電位を0.5V、0.5V、1V、−0.5V、−0.5V、−1Vのように設定すると、素子の中央に近いほど、一対の電極間に生じる電位差を大きく形成できる。このとき、中心が薄い着色(高透過率)で外側が濃い着色(低透過率)が形成される。もちろん、印加する電圧を逆にする、またはエレクトロクロミック層を酸化型から還元型へと変更することで、可視光の透過率の変化(勾配)を逆転することも可能である。
【0051】
撮像装置に使用する場合には、本実施形態に係るエレクトロクロミック素子が好ましい。なぜならば、撮像装置に用いられる受光素子は方形であることが多いので、エレクトロクロミック素子も方形である方が好ましいからである。また、本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は特に電極面内の中央部分において、可視光の透過率を変化させる形態だからである。
【0052】
[第4の実施形態]
本実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、素子の上面図が図5(A)に示すように円盤型のエレクトロクロミック素子である。一方の基板は、中央に給電部17を有し、かつ円周部には給電部18を有する。他方の基板も同様に中央に給電部19を有し、円周部には給電部20を有する。
【0053】
給電部17と給電部19との電位差によって、エレクトロクロミック層の酸化還元反応を行う。さらに、給電部17と給電部18との電位差によって、可視光の透過率の変化を形成する。基板は給電部20を有することが好ましい。給電部18と給電部20との電位差を用いることによって、可視光の透過率の変化を多様に表現できるからである。
【0054】
もちろん、印加する電圧を逆転することまたはエレクトロクロミック層を酸化型から還元型へと変更することで、可視光の透過率の変化を反転させることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 第1の基板
2 第1の電極
3 エレクトロクロミック層
4 電解質層
5 第2の電極
6 第2の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置されたエレクトロクロミック層および電解質層とを有するエレクトロクロミック素子であって、
前記一対の電極は前記一対の電極間に電圧を印加するための給電部をそれぞれ有し、前記一対の電極の少なくとも一方は別の給電部をさらに有し、
前記別の給電部は、前記電圧が印加されたときに前記電極の面内において可視光の透過率を変化させるための給電部であることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記一対の電極の一方の電極に形成される電位勾配の方向と他方の電極に形成される電位勾配の方向とが互いに交差することを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
撮像光学系と前記撮像光学系を通った光を受光する受光素子と請求項1乃至2に記載のエレクトロクロミック素子とを有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−42814(P2012−42814A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185287(P2010−185287)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】