説明

エレクトロクロミック表示素子及びその製造方法

【課題】生産性に優れ、かつ、応答速度、反射効率に優れたエレクトロクロミック表示素子を提供すること。
【解決手段】本発明に係るエレクトロクロミック表示素子は、第1の電極102と、第1の電極102上に形成された誘電体層104と、誘電体層104上に形成された第2の電極103と、少なくとも誘電体層104及び第2の電極103を貫通するキャビティ120と、キャビティ120内部に形成され、第1の電極102と電気的に接続されたエレクトロクロミック層106と、エレクトロクロミック層106上に形成され、第2の電極103と電気的に接続された電解質層105とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック表示素子の製造法に関し、特に、キャビティを有するエレクトロクロミック表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータの普及により、文書の保存や伝達用に使用される紙の役割は減少してきたが、デジタル情報を閲覧する際、紙に印刷して読む傾向は依然として強い。そのため、一時的な使用のみで破棄される紙の量は、逆に増加する傾向にある。また、書籍・雑誌・新聞なども考慮すると、日々消費される紙の量は、資源・環境の面から極めて深刻な問題である。
【0003】
他方、人間の情報認識方法や思考方法を考慮すると、ブラウン管(CRT:Cathode Ray Tube)や透過型液晶に代表されるディスプレイに対する紙の優位性も無視することはできない。そこで、紙に代わる電子媒体として、紙の長所とディスプレイの長所とを兼ね備える電子ペーパーが期待されている。電子ペーパーに必要とされる特性としては、反射型の表示素子であること、高白反射率・高コントラスト比を有すること、高精細な表示ができること、表示にメモリ効果があること、低電圧で駆動できること、薄くて軽いこと、安価であることなどが挙げられる。
【0004】
電子ペーパーの表示方式には、反射型液晶方式、電気泳動方式、2色ボール方式、エレクトロクロミック方式などがある。反射型液晶方式では、旋光性を有する液晶及び複屈折性有する偏光板を使用するため、表示が暗い。また、金属反射板の性質上、白表示がぎらぎらした反射光となるため、長時間の使用は目に負担をかけるなどの欠点を有する。
【0005】
電気泳動方式は、白色顔料や黒色トナーなどが、電界の作用によって電極上に積層するものである。2色ボール表示方式は、半分が白色、半分が黒色などの2色に塗り分けられた球体からなり、電界の作用による回転を利用したものである。いずれの方式も粒状体が入り込む隙間が必要であり、最密に充填できないため、高コントラストが得難い。
【0006】
エレクトロクロミック方式は、電界印加によって可逆的な酸化還元反応が起こり、それに伴った発色/消色が起こることを利用したものである。他の表示方式に対して、電気的に発色/消色を繰り返す反射型の表示素子であるため、目に与える負担の点やコントラストの点などで有利である(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−287173号
【特許文献2】特開2006−208862号
【特許文献3】特開2006−058617号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のエレクトロクロミック表示素子では、少なくとも一方の電極が透明である必要がある。しかしながら、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)など透明導電材料の導電性は、通常の金属よりも低いオーダーであるため、応答速度に劣るという問題があった。また、ITOは、特定のエレクトロクロミック材料に対する化学的安定性に欠けるという問題があった。さらに、従来のエレクトロクロミック表示素子のような層構造では、ITOが内部素子の反射材料となり、外部に取り出される反射効率が低下してしまう。
【0008】
また、従来の素子構造では、表示電極と対向電極の間にエレクトロクロミック材料及び電解質を充填するためにスペーサーが必要であった。これによりコストが増加する。
【0009】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、かつ、応答速度、エレクトロクロミック材料に対する化学的安定性、反射効率に優れたエレクトロクロミック表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエレクトロクロミック表示素子は、第1の電極と、前記第1の電極上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された第2の電極と、少なくとも前記誘電体層及び第2の電極を貫通するキャビティと、前記キャビティ内部に形成され、前記第1の電極と電気的に接続されたエレクトロクロミック層と、前記エレクトロクロミック層上に形成され、前記第2の電極と電気的に接続された電解質層と、を備えるものである。
【0011】
ここで、前記エレクトロクロミック層が前記第1の電極上に形成されていることが好ましい。また、前記第1の電極が、可撓性を有する透明性高分子材料からなる絶縁基板上に形成されていることが好ましい。
【0012】
また、前記エレクトロクロミック層が、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、アリールアミン置換ポリアリーレンビニレン、ポリフルオレンポリマーよりなる群から選択される共役ポリマーを含有することが好ましい。
【0013】
また、前記第1の電極と前記エレクトロクロミック層との間に、電子又は正孔注入を増大させる材料からなる層をさらに備えることが好ましい。さらに、前記第1の電極及び第2の電極のいずれもが金属材料からなることが好ましい。
【0014】
本発明に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法は、第1の電極上に誘電体層と当該誘電体層上に第2の電極とを形成し、少なくとも前記誘電体層及び第2の電極を貫通するキャビティを形成する工程と、前記キャビティ内部に、前記第1の電極と電気的に接続されたエレクトロクロミック層と、当該エレクトロクロミック層上に前記第2の電極と電気的に接続された電解質層とを形成する工程と、を備えるものである。
【0015】
また、前記キャビティを形成する工程は、前記第2の電極上にレジスト層を形成し、前記キャビティを形成する領域上の当該レジスト層が除去されるようにパターニングする工程と、前記パターニングされたレジスト層に被覆されていない領域をエッチングする工程と、を備えることが好ましい。あるいは、前記キャビティを形成する工程は、前記第1の電極上にレジスト層を形成し、前記キャビティを形成する領域上の当該レジスト層が残留するようにパターニングする工程と、前記前記第1の電極及び前記パターニングされたレジスト層上に、前記誘電体層及び第2の電極を形成した後、前記パターニングされたレジスト層を除去する工程と、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産性に優れ、かつ、応答速度、反射効率に優れたエレクトロクロミック表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態に係る製造方法を用いて製造したエレクトロクロミック表示素子の一部を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明に係るエレクトロクロミック表示素子は、基板101、第1の電極102、第2の電極103、誘電体層104、電解質層105、エレクトロクロミック層106を備える。
【0019】
本実施の形態に係るエレクトロクロミック表示素子では、第1の電極102及び第2の電極103の間に順電圧・逆電圧をかけることによって、電解質層105を介してエレクトロクロミック層106にイオンがドープ・脱ドープされる。これにより、発色・消色の2つの状態が繰り返される。エレクトロクロミック材料はメモリ性を有するため、電圧を切っても発色・消色の状態は変化しない。
【0020】
基板101は透明である必要がないため、種々の絶縁基板を用いることができる。例えば、石英ガラス基板、白板ガラス基板などのガラス基板、セラミック基板、紙基板、木材基板を用いることが可能であるが、これらに限定されず、高分子材料基板として、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、酢酸セルロースなどのセルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(テトラフルオロエチレン−co−ヘキサフルオロプロピレン)などのフッ素ポリマー、ポリオキシメチレンなどのポリエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチルペンテンポリマーなどのポリオレフィン、及びポリイミド−アミドやポリエーテルイミドなどのポリイミドなどが挙げられる。これら高分子材料を基板として用いる場合には、容易に曲がらないような剛性基板とすることも可能であるが、可撓性や透明性を有するフィルム状の構造とすることも可能である。また、第1の電極102に十分な剛性がある場合には、基板101を設けなくてもよい。
【0021】
第1の電極102及び第2の電極103は、いずれも透明である必要がないため、金属材料を用いることができる。例えば、リチウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銀、金、銅、ニッケル、パラジウム、白金、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、コバルトやこれらを主成分とする合金などが挙げられるが、これらに限定されない。特に金、銀及び銅は高導電性を有し、化学的に不活性であるため、より好適である。また、視認性をよくするために第2の電極103上に高反射率の材料を積層してもよい。第1の電極102及び第2の電極103の厚さは、成膜を確実にするために、少なくとも20nm以上の厚さとする必要がある。よって、20〜1000nmさらには40〜200nmとするのが好ましい。また、両電極に順電圧及び逆電圧を負荷することにより、発色・消色させるため、いずれの電圧においてもエレクトロクロミック材料と電極との間の電子移動が容易となるような仕事関数を備えた材料を用いることが好ましい。
【0022】
誘電体層104は、電極間距離を保持し、短絡を防止する機能を有する。従って、誘電体層104は、実質的にピンホールを含まず、約10Ωcm以上、好ましくは約1012Ωcm以上の電気抵抗を有する高抵抗材料すなわち絶縁体から構成される。適切な高抵抗材料としては、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン及びパリレン(parylene)が例示できるが、これらに限定されない。また、誘電体層104を薄くすることにより、エレクトロクロミック表示素子全体の厚みを薄くすることができるとともに、エレクトロクロミック効率及び省電力性を向上させることができる。すなわち、電極間距離を小さくすることにより、エレクトロクロミックに必要な電圧を低減することができる。他方、絶縁破壊しやすくなるため、誘電体層104には作動電圧に応じた十分な絶縁耐力が要求される。
【0023】
電解質層105は、第2の電極103及び誘電体層104を貫通し、第1の電極102に至るキャビティ120内部において、エレクトロクロミック層106上にこれと接触して形成されている。その形態は特に限定されない。例えば、溶液状のものであれば、イオン伝導度が大きいため、応答速度、駆動電圧・電流を小さくすることができる。また、ゲル状及び固体状のものであれば、漏洩することがない信頼性の高い素子を提供することができる。溶液状の電解質としては、アセトニトリル、ブチロラクトン、炭酸プロピレンなどの有機溶媒に、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBFといったリチウム塩などを溶解させたものを用いることが一般的であるが、最近では、効率向上や安全性向上を目的にイオン液体を用いるものもあり、例えば、アニオンとしてテトラフルオロボレート、トリフルオロメチルスルフォニルイミド、ペンタフルオロエチルスルフォニルイミドなどを有する化合物が挙げられる。カチオンとして、エチルメチルイミダゾリウムやメチルブチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム系カチオン、ブチルメチルピロリジニウムやブチルピリジニウムなどのピロリジニウム系カチオン、ブチルトリメチルアンモニウムやジエチルメトキシエチルメチルアンモニウムなどのアンモニウム系カチオンなどを有する化合物が挙げられる。イオン液体としては、これらアニオン及びカチオンの、任意の組み合わせのものを用いることができる。
【0024】
また、固体状の電解質としては、Ta、MgFなどの固体電解質が用いられる。また、高分子固体電解質としては、マトリクス高分子材料中に支持電解質が分散されており、マトリクス高分子としては、主鎖単位がそれぞれ−(C−C−O)−、−(C−C−N)−、−(C−C−S)−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。これらを主鎖構造として、枝分かれがあってもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデンクロライド、ポリカーボネートなども好ましい。固体状電解質を形成する際には、前記マトリクス高分子に所要の可塑剤を加えるのが好ましい。好ましい可塑剤としては、マトリクス高分子が親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール及びこれらの混合物等が好ましく、疎水性の場合にはプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルフォルムアルデヒド、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン及びこれらの混合物が好ましい。前記固体高分子電解質には前記マトリクス高分子に支持電解質を分散せしめて形成されるが、その電解質としては、例えばLiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiClO、LiPF、LiCFSOなどのリチウム塩、例えばKCl、KI、KBrなどのカリウム塩、例えばNaCl、NaI、NaBrなどのナトリウム塩、あるいは、例えばホウフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライドなどのテトラアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。この4級アンモニウム塩のアルキル鎖長は不揃いでもよい。
【0025】
エレクトロクロミック層106は、第2の電極103及び誘電体層104を貫通し、第1の電極102に至るキャビティ120内部において、第1の電極102上に形成されている。また、電気活性を有し、かつ、電気化学的な酸化・還元により変色する。エレクトロクロミック層106を構成するエレクトロクロミック材料としては、エレクトロクロミックを呈する材料であれば、特に限定されない。例えば、無機系または非高分子系としては、IrOx、NiOx、WO、MoO、TiOなどが挙げられる。また、表示品位のよい変色を実現するためには、π共役系導電性高分子が好適であり、例えばポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリパラフェニレンオキシド、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェンビニレン、ポリペリナフタレン、ニッケルフタロシアニンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、エレクトロクロミック層106は界面活性剤を含有することができる。また、表示電極102とエレクトロクロミック層106との間に、電子又は正孔注入を増大させる材料の含有溶液又は分散液を噴射してバッファ層を形成してもよい。バッファ層を形成する電子又は正孔注入を増大させる材料としては、特に限定はないが、例えば、炭酸セシウム、炭酸リチウム等の炭酸塩がドーピングされた有機化合物、Alq3、LiF、トリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体等を用いることができるが、これに限られるものではない。
【0026】
次に、本発明に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法について説明する。当該製造工程は、第1の電極102上に誘電体層104とさらにその上に第2の電極103とを形成し、少なくとも誘電体層104及び第2の電極103を貫通するキャビティ120を形成する工程(A)と、そのキャビティ120内部に、第1の電極102と電気的に接続されたエレクトロクロミック層106と、さらにその上に第2の電極103と電気的に接続された電解質層105とを形成する工程(B)とを備える。以下に順に説明する。
【0027】
(A)基板101上に第1の電極層102を形成し、この第1の電極102上に誘電体層104、さらに誘電体層104上に第2の電極103を形成し、層構造を形成する。層構造の順序は逆であってもよく、基板101上に第2の電極103が形成され、その上に誘電体層104、さらにその上に第1の電極102が形成されてもよい。
【0028】
層構造の形成には様々な技術が用いられるが、例えばエバポレーション、スパッタリング、化学蒸着法、電気めっき、スピンコーティング及び半導体製造技術などが挙げられるが、これらに限定されない。各層の好ましい厚さを達成するためには、真空蒸着技術が一般的に好ましい。そのような真空プロセスとしては、カソードアーク物理蒸着法、電子ビームエバポレーション増強アーク物理蒸着法、化学蒸着法、マグネトロンスパッタリング、分子線エピタキシーなどのような技術及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
次に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、第2の電極103及び誘電体層104を貫通するキャビティ120の形成方法について、図2(a)〜図2(c)を用いて説明する。まず、図2(a)に示すように、第2の電極103上にレジスト層107を形成する。
【0030】
次に、図2(b)に示すように、キャビティ120が形成される領域のレジスト層107が除去されるように、レジスト層107をパターニングする。レジスト層107のパターニングにより、キャビティ120が形成される領域に、開口部110が形成される。
【0031】
次に、図2(c)に示すように、このレジスト層107に被覆されていない開口部110を、エッチングする。具体的には、第2の電極103のみ、誘電体層104のみを各々選択的にエッチングするエッチング剤を用いて順次エッチングする。これにより、開口部110において、第2の電極103及び誘電体層104を貫通し、第1の電極102に至るキャビティ120が形成される。
【0032】
図2(c)では、円筒状を有するキャビティ120が形成されているが、等方性エッチング剤又は異方性エッチング剤を適宜選択することによって他の形状のキャビティ120を形成することもできる。エッチング剤は、気体、液体、固体もしくはこれらの組み合わせであってもよく、また、電磁放射線や電子などのエネルギー供給源を必要としてもよい。すなわち、ドライエッチング又はウェットエッチングが行われる。
【0033】
図2(d)に示すように、エレクトロクロミック材料がキャビティ120内部の表面に塗布される前にレジスト層107を除去する。上記のパターニングプロセス及びエッチングプロセスは、公知のリソグラフィ技術を用いて実行できる。また、レジスト層107を除去後、エレクトロクロミック層106形成前に、酸化膜除去や汚染除去ために、キャビティ120内部の表面を、表面処理してもよい。表面処理の例としては、ドライクリーニング(例えば、プラズマへの曝露)、ウェットエッチング、溶媒クリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。これにより、第1の電極102とエレクトロクロミック層106との密着性を向上させることができる。また、第1の電極102とエレクトロクロミック層106との間に、電子注入や正孔注入を増大させる材料からなる層を形成してもよい。
【0034】
次に、図3を用いて、リフトオフ法による他のキャビティ形成方法について説明する。まず、図3(a)に示すように、第1の電極102上に、後工程で形成する誘電体層104と第2の電極103との積層構造よりも厚いレジスト層108を形成する。
【0035】
次に、図3(b)に示すように、キャビティ120が形成される領域にレジスト層108が残留するように、レジスト層108をパターニングする。ここで、パターニングされたレジスト層108の断面形状は台形形状であり、後工程においてリフトオフしやすいように第1の電極102に密着した下底が上底より短い形状とするのが好ましい。
【0036】
次に、図3(c)に示すように、第1の電極102及びレジスト層108上に、誘電体層104及び第2の電極103を形成する。
【0037】
そして、図3(d)に示すように、レジスト層108を除去することにより、第2の電極103及び誘電体層104を貫通し、第1の電極102に至るキャビティ120が形成される。
【0038】
上記リフトオフ法を用いた場合、エレクトロクロミック層106形成前に、キャビティ120内部の表面を表面処理する必要がない。
【0039】
上述の通り、キャビティ120は、公知のリソグラフィ技術やエッチング技術により形成できるが、レーザー切断や打ち抜きなどを利用してもよい。また、各層間の密着性を高めるため、あるいは、電気的特性を改善するために、各層間に他の層を形成してもよい。
【0040】
(B)エレクトロクロミック材料からなるエレクトロクロミック層106を、キャビティ120内部の第1の電極102の表面上に形成する。エレクトロクロミック材料は様々であるが、導電性高分子膜は、比較的強靭であり、かつ、耐久性に優れるため、好ましい。成膜方法としては、電解重合法やウェットコーティング法を例示できる。
【0041】
ウェットコーティングでは、導電性高分子を溶媒に分散又は溶解させ、所定膜厚に塗布した後、乾燥する。ここで、溶媒としては、水、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等を用いることができる。また、分散安定性のためにPH調整剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸、塩酸などを添加することができる。これらの溶媒に導電性高分子が1〜20質量%含有されるように調整する。この混合液を分散機又は攪拌機により均一な溶液にする。分散機としては、コロイドミル、ボールミル、サンドミルなどを用いることができる。攪拌機としては、バッチ式ミキサー、インライン式ミキサーなどを用いることができる。このようにして調整された塗布液を塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、インクジェット法などが例示できる。
【0042】
スピンコート法では、スピンナーと呼ばれる装置に基板101を真空吸引により固定し、基板101上に塗布液を滴下した後、高速で一定時間回転させることにより、所定の膜厚とする。スピンナーの回転数は、塗布液の濃度にもよるが、100〜5000rpmが好ましい。また、回転スピードは、最初の5〜60秒の間、100〜500rpmで回転させ、その後、5〜30秒で、1000〜5000に上げ、さらにその回転数で5〜60秒間回転させるという低速から高速へ切り替える2段階の速度での回転を行うことで、より均一な膜厚とすることができる。
【0043】
バーコート法では、基板101上に滴下された塗布液の上において、基板101との間隔を一定としたバーをスライドさせるか、所定の太さのワイヤーを巻き付けた丸棒を接触させた状態でスライドさせ、均一な膜厚とする。
【0044】
インクジェット法には、発熱体によって気泡を発生させ、その圧力によりインクを噴射するサーマルインクジェット方式と、電圧負荷により変形するピエゾ素子を用いてインクを押出すピエゾ方式の2種類ある。いずれも、ヘッドのノズルからインクを基板101上に噴射し、塗膜を形成する。本実施の形態では、ピエゾ方式のインクジェットを用いてキャビティ120内部の第1の電極102上にエレクトロクロミック材料からなる塗膜を形成した。
【0045】
この塗膜を乾燥装置にいれ、乾燥させるか、もしくはホットプレート上で加熱することにより乾燥させる。乾燥装置としては、特に限定されるものではなく、一般的な熱風乾燥装置や真空乾燥装置を用いることができる。このとき温度40〜140℃、時間10〜240分で乾燥すればよい。特に乾燥温度は、40℃未満では、残留溶媒が多くなり、酸化還元反応で膜内に気泡が発生したりすることがある。140℃を超えると高分子膜を劣化させるおそれがある。乾燥温度としては、80〜120℃がより好ましい。また、乾燥時間については、10分未満では残留溶媒が多くなり、膜劣化が起きやすいため30分以上がより好ましい。
【0046】
塗布膜厚は、乾燥後の膜厚が10〜2000nm、好ましくは50〜300nmである。あまり薄いと十分な色変化が得られず、また厚すぎると応答速度が悪くなる。また、膜厚は誘電体層104よりも薄い必要があり、これよりも厚いと、エレクトロクロミック層106が両電極102、103に直接接続され、色変化が起こらない。
【0047】
次に、キャビティ120内部に電解質を注入し、電解質層105を形成する。溶液状のものであれば、エレクトロクロミック材料のウェットコーティング法と同等の方法でキャビティ120内部に注入できるためより好ましい。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の好ましい実施例を比較例とともに記載するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
4インチの石英ウエハ上に、スパッタリングにより、第1の電極102用の厚さ150nmの銀層を形成した。次に、銀層上にフォトレジストを塗布した後、レジストパターンを形成した。レジストに被覆されていない銀層をエッチングし、第1の電極102を形成した。前記レジストパターンを除去した後、第1の電極102上にキャビティ形成用のレジスト層108を形成し、キャビティ形成領域のレジスト層108が残留するようにパターニングした。次に、第1の電極102及びレジスト層108上に、真空蒸着により、誘電体層104として厚さ5000nmの窒化ケイ素層を、さらにその上に、スパッタリングにより、第2の電極103として厚さ150nmの銀層を形成した。その後、リフトオフ法により、レジスト層108を除去して、深さ約5.2μm、直径100μmのキャビティ120を形成した。このキャビティ120内部に、インクジェット法により、ポリアニリン分散液(ポリアニリンスルホン酸20質量%、純水80質量%の分散液:Aqua−PASS三菱レイヨン社製)を注入した後、乾燥機により80℃で30分間乾燥し、厚さ200nmのエレクトロクロミック層106を成膜した。さらに、インクジェット法により、BF−及びブチルメチルイミダゾリウムカチオンからなる電解液(BMIM−BF、和光純薬製)を充填し、電解層105を形成した。そして、他の石英ウエハをキャビティ120上に重ね、電解液が漏れないようにその周囲をエポキシ樹脂でシールして、エレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0050】
作製したエレクトロクロミック表示素子において、順電圧・逆電圧を反転させると、ポリアニリン膜はエレクトロクロミック性を示し、紫色〜黄色〜緑色の色変化を示した。紫色での全光線反射率測定から反射率を評価したところ、75%であった。
【0051】
[比較例1]
4インチの石英ウエハ上に、スパッタリングにより、第1の電極102用の厚さ150nmのITO層を形成した。次に、ITO層上にフォトレジスト層を塗布した後、レジストパターンを形成した。レジストに被覆されていないITO層をエッチングし、第1の電極102を形成した。第1の電極102上に、実施例1と同一のポリアニリン分散液をスピンコート法で塗布し、乾燥機により80℃で30分間乾燥し、厚さ200nmのエレクトロクロミック層106を成膜した。一方、他の4インチ石英ウエハ上に、スパッタリングにより、第2の電極103として150nmの銀層を形成した。上記両石英ウエハを、5μmのスペーサー(ミクロパール、積水化学社製)を介し、電極を互いに対向させ、その間に実施例1と同じ電解液を充填した。そして、電解液が漏れないようにその周囲をエポキシ樹脂でシールして、エレクトロクロミック表示素子を作製した。
【0052】
作製したエレクトロクロミック表示素子において、順電圧・逆電圧を反転させると、ポリアニリン膜はエレクトロクロミック性を示し、紫色〜黄色〜緑色の色変化を示した。紫色での全光線反射率測定から反射率を評価したところ、25%であった。
【0053】
本発明では、電極間にエレクトロクロミック材料と電解質を保持するためのスペーサーを設ける必要がないため、生産性に優れる。また、反射層であるエレクトロクロミック材料が電極により遮蔽されていないため、高反射率、高コントラストのエレクトロクロミック表示素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態に係るエレクトロクロミック表示素子の一部を示す模式的断面図である。
【図2】実施の形態に係るエレクトロクロミック表示素子の製造方法を示す模式的断面図である。
【図3】実施の形態に係るエレクトロクロミック表示素子の他の製造方法を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0055】
101 基板
102 第1の電極
103 第2の電極
104 誘電体層
105 電解質層
106 エレクトロクロミック層
107、108 レジスト層
110 開口部
120 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
前記第1の電極上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に形成された第2の電極と、
少なくとも前記誘電体層及び第2の電極を貫通するキャビティと、
前記キャビティ内部に形成され、前記第1の電極と電気的に接続されたエレクトロクロミック層と、
前記エレクトロクロミック層上に形成され、前記第2の電極と電気的に接続された電解質層と、を備えるエレクトロクロミック表示素子。
【請求項2】
前記エレクトロクロミック層が前記第1の電極上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項3】
前記第1の電極が、可撓性を有する透明性高分子材料からなる絶縁基板上に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック層が、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、アリールアミン置換ポリアリーレンビニレン、ポリフルオレンポリマーよりなる群から選択される共役ポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項5】
前記第1の電極と前記エレクトロクロミック層との間に、電子又は正孔注入を増大させる材料からなる層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項6】
前記第1の電極及び第2の電極のいずれもが金属材料からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック表示素子。
【請求項7】
第1の電極上に誘電体層と当該誘電体層上に第2の電極とを形成し、少なくとも前記誘電体層及び第2の電極を貫通するキャビティを形成する工程と、
前記キャビティ内部に、前記第1の電極と電気的に接続されたエレクトロクロミック層と、当該エレクトロクロミック層上に前記第2の電極と電気的に接続された電解質層とを形成する工程と、を備えるエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記キャビティを形成する工程は、
前記第2の電極上にレジスト層を形成した後、前記キャビティを形成する領域上の当該レジスト層が除去されるようにパターニングする工程と、
前記パターニングされたレジスト層に被覆されていない領域をエッチングする工程と、を備えることを特徴とする請求項7に記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。
【請求項9】
前記キャビティを形成する工程は、
前記第1の電極上にレジスト層を形成した後、前記キャビティを形成する領域上の当該レジスト層が残留するようにパターニングする工程と、
前記前記第1の電極及び前記パターニングされたレジスト層上に、前記誘電体層及び第2の電極を形成した後、前記パターニングされたレジスト層を除去する工程と、を備えることを特徴とする請求項7に記載のエレクトロクロミック表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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