説明

エレクトロクロミック装置

【課題】極めて色純度が高く、精密な色制御が可能で、鮮鋭かつ明瞭なフルカラー画像表示が可能なエレクトロクロミック装置を提供する。
【解決手段】支持基板1、6上に少なくとも透明電極2、7が形成されている一対の電極構造体11、12が、透明電極2、7同士が対面するように、電解質層5を挟持して配置されており、一対の透明電極2、7のうちの、少なくとも一方の上に、二量化された構造のビピリジン化合物よりなる有機EC色素が吸着されている多孔質電極4が形成されているエレクトロクロミック装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応答速度、発色効率、表示色純度に優れ、明瞭で鮮鋭な画像形成が可能であり、繰り返し耐久性にも優れたエレクトロクロミック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、明るく色純度に優れ、かつ省消費電力で、フルカラー表示への応用が容易な表示色素材料への要望が高まってきている。
従来においては、CRT、LCD、PDP、ELD等の発光型素子は明るくて見やすいという特徴を有しており、多くの技術の提案がなされてきた。
しかしながら、上記各種発光型素子は、ユーザーが発光を直視する形式で使用するものであるため、長時間閲覧すると視覚的な疲労を引き起こすという問題がある。
また携帯電話等のモバイル機器は、屋外で使用される場合が多く、太陽光下では、発光が相殺されて視認性が悪化するという問題もあった。
またLCDは、発光型素子の中でも特に需要が拡大している技術であり、大型、小型の、様々なディスプレイ用途に用いられているが、LCDは視野角が狭く、見やすさの観点からは他の発光型素子に比較すると改善すべき課題を有している。
【0003】
ところで、反射型表示素子に関しては、電子ペーパーの需要向上により、様々な技術の提案がなされている。
例えば、反射型LCDや電気泳動方式が挙げられる。
反射型LCDとしては、従来、二色性色素を用いたG−H型液晶方式や、コレステリック液晶等が知られている。これらの方式は、従来の発光型LCDと比較して、バックライトを使用しないため、省消費電力であるという利点を有しているが、視野角依存性があり、また光反射効率も低いため、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
他方、電気泳動方式は、溶媒中に分散された電荷を帯びた粒子が、電界によって移動する現象を利用した方式であり、省消費電力で、視野角依存性がないという利点を有しているが、フルカラー化を行う場合には、カラーフィルターを利用する並置混合法を適用する必要があるため、反射率が低下し、必然的に画面が暗くなってしまうという問題がある。
【0004】
また、従来においては、自動車の調光ミラーや、時計等にエレクトロクロミック(以下、ECと略称する。)素子が用いられている。
このEC素子による発光は、偏光板等が不要であり、視野角依存性が無く、受光型で視認性に優れ、構造が簡易でかつ大型化も容易で、更には材料の選択によって多様な色調の発光が可能であるという利点を有している。
このようなEC素子を用いると、減法混色であるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の発色が可能な色素を適用してC、M、Y発色層を積層した構成とすることによって、フルカラー表示を実現できる。
また黒色は、C、M、Yを混色することにより表示でき、白色は、各色素を消色状態として透明にし、背景色を白色にすることにより表示できる。
【0005】
一方、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の発色が可能な色素を適用してR、G、B発色層を積層した構成とした場合には、白色・黒色表示は容易であるが任意の中間色表示を行うことはできない。また、R、G、Bを同一面内に並置する構成をした場合は、白色表示は容易であるが、黒色表示と任意の中間色表示を行うことはできない。
【0006】
ところで近年、EC素子を用いた表示装置として、対の透明電極の少なくとも一方に半導体ナノ多孔質層を設け、この半導体ナノ多孔質層にEC色素を担持させた構成の表示装置に関する提案がなされている(例えば、特許文献1、2参照。)。
この表示装置は、開回路を構成して電極間の電子の移動を遮断し酸化還元状態を保持するだけで表示状態を静止できるので、表示画像を維持する電力が不要であり、消費電力が極めて低いという点で特に優れている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−248242号公報
【特許文献2】特開2003−270670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来の公知文献は、フルカラー表示を行うことを前提としておらず、フルカラー化に必要なシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)に発色するEC色素についての開示はなされていなかった。
またこれらの表示装置は、色純度の低さや、精密かつ鮮明なカラー画像の表示を行うことが困難であるという問題を有していた。
【0009】
また、非特許文献(Display 20(1999)137)には、下記の式(2)、(3)に示す化合物により、ダイマーを形成させて、紫の発色を行うことについての技術が開示されている。但し式中Xは、ハロゲンであるものとする。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
しかしながら、上記式(2)、(3)の化合物の分子を凝集させて、青〜マゼンタの発色を行うことは一応において可能であると言えるが、これらの分子間の凝集や重なり合いを安定的に制御することは、実用的な観点からは極めて困難である。
更には、素子の作製条件や、色素化合物の電極への吸着密度等によって、上記式(2)、(3)の化合物よりなるダイマーの形成量が変化してしまうため、安定した発色スペクトルが得られないという問題を有していた。
また、これらを用いて作製した表示装置は、多数回繰り返して動作させると、ダイマー形成量が変化し、発色スペクトルの形状が変化してしまい、耐久性の点において実用上劣るという問題を有していた。
【0013】
そこで本発明においては、上述したような従来提案されているEC素子の問題点に鑑みて、特にマゼンタの発色が可能な、フルカラー化に寄与し得る有機エレクトロミック色素に関する提案を行うこととし、色純度が高く、鮮明な画像形成が可能であり、かつ電極への色素吸着量の依存性が低く、繰り返し耐久性にも優れたエレクトロクロミック装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明においては、支持基板上に、少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体が、前記透明電極同士が対面するように、電解質層を挟持して配置されており、前記一対の透明電極のうちの、少なくとも一方の上に、少なくとも下記一般式(1)で示されるビピリジン化合物が吸着されている多孔質電極が形成されており、前記一対の電極構造体に、電圧を印加することにより、マゼンタの可逆的な発消色を行うことエレクトロクロミック装置を提供する。
【0015】
【化3】

【0016】
但し、前記一般式(1)において、a、bはa×b=4を満たす整数であり、Xb−は適宜のb価アニオンを表している。
1〜Y4、Z1〜Z4は、水素原子か、あるいは、脂肪族炭化水素基、エーテル基、アシル基、ハロゲン基又はシアノ基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、芳香族炭化水素基を表し、Y1〜Y4、Z1〜Z4のうち少なくともひとつ以上は、多孔質電極へ吸着するための吸着基である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、応答速度、発色効率に優れ、色純度が高く、精密な画像制御が可能で、明瞭な色表示を多数回繰り返しても安定して形成可能なエレクトロクロミック装置が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のエレクトロクロミック装置と、これを用いた表示方法について、図を参照して具体的に説明する。
但し、本発明は、以下の例に限定されるものではなく、従来公知の構成を適宜付加することができ、本発明の要旨を何ら逸脱しないものとする。
【0019】
図1に本発明のエレクトロクロミック装置の一例の概略断面図を示す。
エレクトロクロミック装置10は、支持基板1上に、透明電極2と、後述するビピリジン化合物よりなる有機EC色素3が担持された多孔質電極4とを具備する構成の表示電極構造体11と、支持基板6上に、透明電極7と多孔質電極8とを具備する構成の対向電極構造体12とが、電解質層5を介して対向配置された構成を有している。
なお、図1においては、対向する透明電極2、7のいずれにも多孔質電極4、8が形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、必要に応じて一方の電極にのみ多孔質電極を形成させた構成としてもよい。以下、構成要素について順次説明する。
【0020】
支持基板1、6は、耐熱性に優れ、かつ平面方向の寸法安定性の高い材料が好適であり、具体的には、ガラス材料、透明性樹脂が適用できるが、これに限定されるものではない。
前記透明性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等が挙げられる。
【0021】
透明電極2、7は、所定の透明基板上に透明電極層が積層されたものとする。
透明電極層の形成用材料としては、例えば、In23とSnO2との混合物、いわゆるITO膜や、SnO2またはIn23をコーティングした膜等が挙げられる。
また、上記ITO膜や、SnO2 またはIn23をコーティングした膜にSn、Sb、F等をドーピングしても良く、その他MgOやZnO等も適用できる。
【0022】
多孔質電極4、8は、後述する色素の担持機能を高くするべく、表面積が大きい材料により構成する。例えば、表面及び内部に微細孔を有した多孔質形状、ロット形状、ワイヤ形状等となっているものが好ましい。
多孔質電極4、8の材料は、例えば、金属、真性半導体、酸化物半導体、複合酸化物半導体、有機半導体、カーボン等が適用できる。
金属としては、例えば、Au、Ag、Pt、Cu等が挙げられ、真性半導体としては、例えば、Si、Ge、Te等が挙げられる。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、SnO2、Fe23、SrTiO3、WO3、ZnO、ZrO2、Ta25、Nb25、V25、In23、CdO、MnO、CoO、TiSrO3、KTiO3、Cu2O、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等が挙げられる。また、複合体酸化物半導体としては、例えば、SnO2−ZnO、Nb25−SrTiO3、Nb25−Ta25、Nb25−ZrO2、Nb25−TiO2、Ti−SnO2、Zr−SnO2、Sb−SnO2、Bi−SnO2、In−SnO2等が挙げられ、特にTiO2、SnO2、Sb−SnO2、In−SnO2が好適である。また、有機半導体としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0023】
次に、有機EC色素3について説明する。
有機EC色素3は、多孔質電極4の表面及び内部の微細孔に担持されているものとし、本発明においては、特に、下記一般式(1)で示される二量体のビピリジン化合物であるものとする。
【0024】
【化4】

【0025】
但し、上記一般式(1)において、a、bはa×b=4を満たす整数であり、Xb-は適宜のb価アニオンを表している。これは、弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化燐酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、燐酸イオン、硼弗化水素酸イオン、四弗硼素酸イオン等の無機酸イオン、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオン、テトラシアノキノジメタンイオン等の有機酸イオンから選択されるものとする。
【0026】
1〜Y4、Z1〜Z4は、水素原子、脂肪族炭化水素基、エーテル基、アシル基、ハロゲン基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、芳香族炭化水素基のいずれかを表すものとし、Y1〜Y4、Z1〜Z4のうち少なくともひとつ以上は、多孔質電極へ吸着するための吸着基であるものとする。
多孔質電極へ吸着するための吸着基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性基、アミノ基、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)に示した有機EC色素のビピリジン化合物は、前述した従来技術で適用していた色素化合物(一般式(2)、(3))と異なり、分子中で、両端部の芳香環によってビピリジン構造が二量化された構造となっているので、安定したマゼンタ発色を容易に実現できる。
この一般式(1)においては、4価として表記されているが、マゼンタ発色を行う際には、還元反応により2価のラジカル状態となる。この化合物はこの2価の状態に安定化させることが可能であり、マゼンタ発色用の有機EC色素として極めて優れていることが確かめられた。
上記一般式(1)で表されるビピリジン化合物の具体例〔化5〕〜〔化13〕を下記に示す。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
前記ビピリジン化合物よりなる有機EC色素を、多孔質電極4に担持する方法としては、例えば、多孔質電極の表面に吸着させる方法や、多孔質電極表面と有機EC色素とを化学的に結合させる方法等、従来公知の技術を適用できる。
具体的には、真空蒸着法等のドライプロセス、スピンコート等の塗布法、電界析出法、電界重合法、担持させる化合物の溶液に浸す自然吸着法等を適宜選定でき、特に自然吸着法、及び多孔質電極表面への有機EC色素を化学結合させる方法が好適である。
【0038】
自然吸着法としては、所定の有機EC色素を溶解した溶液中に、予め乾燥処理を施した多孔質電極4を形成しておいた透明基板を浸漬する方法や、所定の有機EC色素を溶解した溶液を多孔質電極4に塗布する方法が挙げられる。
有機EC色素を多孔質電極4に自然吸着させるためには、有機EC色素の化学構造中に吸着性官能基を導入することが必要である。この吸着性官能基は、吸着させる多孔質電極の材料に応じて適宜選定するものとし、例えば、多孔質電極4が酸化物半導体により構成されている場合には、有機EC色素の化学構造中に、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基等の吸着性官能基を導入しておくことが好ましい。
前記吸着性官能基は、有機EC色素の骨格に直接、あるいはその他の所定の官能基を介して導入してもよい。前記のうち、所定の官能基を介して吸着基を導入する場合は、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド基等の官能基を介して吸着基を導入する方法が好適である。
なお、有機EC色素を溶解する溶媒としては、例えば、水、アルコール、アセトニトリル、プロピオニトリル、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素等が適用できる。これらは、単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0039】
また、多孔質電極4の表面に前記有機EC色素を化学結合させる際には、多孔質電極4の表面と有機EC色素骨格との間に、所定の官能基を介してもよい。例えば、アルキル基、フェニル基、エステル、アミド等の官能基が好適である。
また、多孔質電極4の表面をシランカップリング剤等によって改質した後に、有機EC色素を化学結合して形成させるようにしてもよい。
【0040】
なお、図1には、有機EC色素3を表示電極構造体11側の多孔質電極4のみに担持させた例について示したが、本発明のエレクトロクロミック装置はこの構成に限定されるものではない。
すなわち、対向電極構造体12側の多孔質電極8にも所定の有機EC色素を担持させた構成としてもよい。この場合には、発色反応と消色反応とが、酸化反応、還元反応のうち、それぞれ逆反応に応じて生じるように材料選定することが必要である。
例えば、多孔質電極4に担持させたビピリジン色素が還元反応によってラジカル状態となり発色する場合には、多孔質電極8には定常状態で多孔質電極4に担持させたビピリジン色素と同色調であり、酸化反応によって消色する有機EC色素を選定する。
このように、両電極構造体11、12において有機EC色素を担持させた構成とすることにより、最終的に得られるエレクトロクロミック装置において、発色が明瞭化し、画像の鮮明さを向上させることができる。
【0041】
電解質層5は、溶媒に支持電解質が溶解された構成を有している。
支持電解質としては、例えばLiCl、LiBr、LiI、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiCF3SO3等のリチウム塩や、例えばKCl、KI、KBr等のカリウム塩や、例えばNaCl、NaI、NaBr等のナトリウム塩や、例えば、ほうフッ化テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、ほうフッ化テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
電解質層5には、必要に応じて公知の酸化還元化合物を添加してもよい。酸化還元物質としては、例えばフェロセン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等が適用できる。
溶媒としては、支持電解質を溶解し、上述した有機EC色素を溶解しないものを選択する。
例えば、水、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等から適宜選定する。
【0042】
また、電解質層5には、いわゆるマトリックス材を適用してもよい。
マトリックス材は、目的に応じて適宜選択でき、例えば、骨格ユニットがそれぞれ、−(C−C−O)n−、−(CC(CH3)−O)n−、−(C−C−N)n−、若しくは−(C−C−S)n−で表されるポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィドが挙げられる。
なお、これらを主鎖構造として、適宜枝分かれ構造を有していてもよい。また、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等も好適である。
【0043】
電解質層5は、高分子固体電解質層としてもよい。
なお、この場合、マトリックス材のポリマーに所定の可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤としては、マトリックスポリマーが親水性の場合には、水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの混合物が好適であり、疎水性の場合には、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、スルフォラン、ジメトキシエタン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン、及びこれらの混合物が好適である。
【0044】
次に、上述したエレクトロクロミック装置10を用いた表示方法について説明する。
図1のエレクトロクロミック装置10において、多孔質電極4の表面には、定常状態において可視域に吸収をもたない有機EC色素である、一般式(1)に示すビピリジン化合物が担持されている。
エレクトロクロミック装置10を構成する対の電極構造体11、12に、所定のリード線を結線し表示装置として構成する。
所定のリード線を通じて所定の電圧を印加すると、多孔質電極4とこれに担持された有機EC色素材料との間に電子の授受がなされ、有機EC色素において電気化学的な還元反応が起き、マゼンダに発色する。
【0045】
なお、本発明のエレクトロクロミック装置は、図1に示した構成に限定されるものではなく、多色表示が可能な装置構成とすることもできる。
すなわち、図1に示すエレクトロクロミック構成と同様の構造であって、有機EC色素として、イエロー(Y)、シアン(C)に発色する材料を多孔質電極に担持させた電極構造体を積層させることにより、複数色の組み合わせやこれらの発消色表示を可逆的に行うことができるフルカラー表示のエレクトロクロミック装置が得られる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明のエレクトロクロミック装置についての具体的な実施例と、比較例を挙げて説明する。
【0047】
(表示電極構造体の作製)
厚さ1.1mmのガラス製の支持基板1上に、平面的に15Ω/□のFTO膜(透明電極2)を形成した。
次に、PH=約1.0の塩酸水溶液に1次粒径20nmの酸化チタンを15重量%分散させたスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を作製した。この塗料を、上記FTO膜上にスキージ法によって塗布した。
次に、ホットプレート上で80℃、15分間の乾燥処理を行い、さらに、電気炉で500℃、1時間焼結を行い、膜厚3μmの酸化チタン多孔質電極4が形成されたFTO基板が得られた。
【0048】
(有機EC色素の多孔質電極への吸着)
上記酸化チタン膜よりなる多孔質電極4が形成されたFTO基板を、ビピリジン化合物の0.02M水溶液に1時間、6時間、あるいは24時間浸漬させ、酸化チタン電極に色素(有機EC色素膜)を吸着させた。
その後、エタノール溶液で洗浄処理を行い乾燥処理を行った。
【0049】
(対向電極構造体の作製)
厚さ1.1mmのガラス製の支持基板6上に、平面的に15Ω/□のFTO膜(透明電極7)を形成した。
次に、酸性水溶液に1次粒径20nmのアンチモンドープされた酸化スズを20重量%分散させたスラリーに、ポリエチレングリコールを5重量%の割合で溶解させて塗料を作製した。この塗料を、上記FTO膜上にスキージ法によって塗布した。
次に、ホットプレート上で80℃、15分間の乾燥処理を行い、さらに、電気炉で500℃、1時間焼結を行い、膜厚7μmのアンチモンドープ酸化スズ多孔質電極8が形成されたFTO基板が得られた。
【0050】
(電解質層用の溶液の調製)
電解質層5形成用溶液は、ガンマブチロラクロンに、過塩素酸リチウムを0.1mol/L溶解させ、脱水、脱気したものを適用した。
【0051】
(電極構造体の貼り合わせ)
上述のようにして作製した表示電極構造体(色素吸着酸化チタン多孔質電極付き基板)と、対向電極構造体(アンチモンドープ酸化スズ多孔質電極付き基板)とを、厚さ50μmの熱可塑性フィルム接着剤を用いて、90℃で貼り合わせた。
この際、後述の工程により、電解液を注入できるように、一部分に注入口を形成した。
【0052】
(電解質溶液の注入)
前記電解液を、注入口から注入した。
その後、注入口をエポキシ系の熱硬化樹脂で封止することにより、電解質層を挟持した状態で対向した電極構造体を具備するエレクトロクロミック装置が完成した。
上述したエレクトロクロミック装置の製造工程に従い、多孔質電極に担持させる有機EC色素について異なるものを適用し、下記実施例、及び比較例のサンプルセルを作製した。
【0053】
(有機EC色素化合物の合成:前記〔化5〕)
クロロホルム40mlに3,4−ジメチル安息香酸0.03モル、N-ブロモスクシンイミド0.062モル、過酸化ベンゾイル0.001モルを加えて、100℃で3時間反応させた。溶媒を減圧除去して得られた白色粉末を、ジエチルエーテルと純水で良く洗浄し乾燥させると、3,4−ビス(ブロモメチル)安息香酸を得た。
1H-NMR(DMSO)δ:13.20(1H,s),8.06(1H,s),7.88(1H,d,J=7.8Hz),7.61(1H,d,J=8.0Hz),
4.89(4H,d,J=13.9Hz).
アセトニトリル50mlに4,4’−ビピリジンを0.05モル溶解させ還流した。そこへ0.02モルの1,2−ビス(ブロモメチル)ベンゼンを溶解させた40mlのアセトニトリルを滴下した。2時間後析出した固体をろ取しアセトニトリルで洗浄すると、1,1’’−[1,2−フェニレン−ビス(メチレン)]ビス−4,4’―ビピリジニウム−ジブロミドを得た。
1H-NMR(D20)δ:8.63(4H,d,J=5.6Hz),8.40(4H,d,J=2.7Hz),8.08(4H,d,J=5.6Hz),
7.65(4H,d,J=18.5Hz),7.49(4H,d,J=3.4Hz),5.97(4H,s).
IPA/水=1:1混合溶媒40mlに上記の方法で得られた2種の化合物を0.01モルずつ溶解させ、24時間還流した。析出した固体をろ取し、MeOHで再結晶することにより、有機EC色素(〔化5〕)を得た。
1H-NMR(D20)δ:9.18-9.09(3H,m),8.27(8H,m),8.07(2H,m),7.95(2H,m),7.82-7.77(8H,m),
6.24-5.91(8H,m).
なお、上記〔化6〕〜〔化13〕に示した化合物についても、上記〔化5〕と同様の手順で合成できる。
【0054】
〔実施例〕
有機EC色素として、上記のようにして合成した〔化5〕の化合物を適用し、表示電極構造体を構成する多孔質電極に吸着させて、エレクトロクロミック装置を作製した。
このエレクトロクロミック装置の、表示電極と対向電極の間に、−1.5Vの電圧を印加すると、直ちに鮮やかなマゼンタの発色を示した。表示変更の応答速度は約180msであった。
また、電極間に0.5Vを印加すると再び直ちに透明となった。表示変更の応答速度は約60msであった。
表示電極の有機EC色素溶液への浸漬時間を1時間、6時間、24時間と変更させて、それぞれ表示電極と対向電極の間に、−1.5Vを印加したときの発色の濃度について測定を行ったところ、図2の可視吸収スペクトルに示すように、スペクトル形状は変化しなかった。
図2に示すように、有機EC色素溶液への浸漬時間が長いと発色濃度も高くなる傾向にあったが、浸漬時間を1時間程度の短時間とした場合であっても、実用上充分な発色濃度が得られた。
また、この例におけるエレクトロクロミック装置の表示電極と対向電極の間に、−1.5Vと0.5Vを交互に1Hzで100万回印加した前後の可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図3に示す。これによると、100万回電圧印加を繰り返した後においても初期の状態とスペクトル形状の変化が殆ど見られなかった。
図2、3から明らかなように、本発明のエレクトロクロミック装置によれば、吸収波長幅が狭く、鮮やかなマゼンタの発消色を可逆的に行うことができた。
また、本発明において特有の、一般式(1)で示す構造のビピリジン化合物を有機EC色素として適用したことにより、電極への吸着量が少量であっても、実用上充分な発色濃度が得られ、さらには、多数回繰り返して発消色動作を行った場合においても極めて安定なマゼンタ発色の画像表示が実現できた。
【0055】
〔比較例1〕
有機EC色素として、上記一般式(2)に示した化合物を適用した。なお、この場合、一般式(2)中のX-は、Cl-であるものとする。
これを図1に示すエレクトロクロミック装置の表示電極構造体11を構成する多孔質電極4に吸着させた。
このエレクトロクロミック装置の、表示電極と対向電極の間に、−1.5Vの電圧を印加すると、紫の発色を示した。表示変更の応答速度は約180msであった。
また、表示電極と対向電極との間に0.5Vの電圧を印加すると、再び直ちに消色し、透明となった。表示変更の応答速度は約60msであった。
表示電極の有機EC色素溶液への浸漬時間を1時間、6時間、24時間と変更させて、それぞれ表示電極と対向電極の間に、−1.5Vの電圧を印加したときの発色の濃度について測定を行ったところ、図4の可視吸収スペクトルに示すように、浸漬時間に応じて発色の濃度の変化が見られ、かつスペクトル形状が変化した。
図4に示すように、吸収波長幅がブロードであり、鮮鋭な色表示を行うという点において、上記実施例の場合に劣っている。また、有機EC色素溶液への浸漬時間によって吸収波長にずれが生じており、安定した発色が得られないことが解った。
また、この例におけるエレクトロクロミック装置の表示電極と対向電極の間に、−1.5Vと0.5Vを交互に1Hzで100万回印加した前後の可視吸収スペクトルを測定した。その結果を図5に示す。
これによると、100万回電圧印加を繰り返した後においては、初期状態と明らかにスペクトル形状に変化が生じており、多数回使用により発色状態が不安定になることが確かめられた。
図4、5から明らかなように、有機EC色素として、一般式(2)に示した化合物を適用すると、紫の発色を示したが、フルカラー表示として要求されるマゼンタの発色は得られなかった。
また、多孔質電極への色素の吸着濃度が少ないと、上記実施例に比較すると発色濃度が薄くなり、多数回動作によって、発色濃度の低下が大きく、安定な表示を行うことができなかった。
【0056】
〔比較例2〕
有機EC色素として、上記一般式(3)に示した化合物を適用した。なお、この場合、一般式(3)中のX-は、Cl-であるものとする。
これを図1に示すエレクトロクロミック装置の表示電極構造体11を構成する多孔質電極4に吸着させた。
このエレクトロクロミック装置の、表示電極と対向電極の間に、−1.5Vを印加すると、マゼンタ〜紫の発色を示した。表示変更の応答速度は約180msであった。また、電極間に0.5Vを印加すると再び直ちに消色し、透明となった。表示変更の応答速度は約60msであった。
表示電極の有機EC色素溶液への浸漬時間を1時間、6時間、24時間と変更させて、それぞれ表示電極と対向電極の間に、−1.5Vの電圧を印加したときの発色の濃度について測定を行ったところ、図6の可視吸収スペクトルに示すように、浸漬時間に応じて発色の濃度の変化が見られ、かつスペクトル形状が変化した。
図6に示すように、吸収波長幅がブロードであり、鮮鋭な色表示を行うという点において、上記実施例の場合に劣っている。また、有機EC色素溶液への浸漬時間によって吸収波長にずれが生じており、安定した発色が得られなかったことが解った。
また、この例におけるエレクトロクロミック装置の表示電極と対向電極の間に、−1.5Vと0.5Vを交互に1Hzで100万回印加した前後の可視吸収スペクトルを測定し、その結果を図7に示す。
これによると、100万回電圧印加を繰り返した後においては、初期状態と明らかにスペクトル形状に変化が生じており、多数回使用により発色状態が不安定になることが確かめられた。
図6、7から明らかなように、有機EC色素として、一般式(3)に示した化合物を適用すると、マゼンタ〜紫の発色を示したが、フルカラー表示として要求される明瞭なマゼンタの発色は得られなかった。
また、多孔質電極への色素の吸着濃度が少ないと、上記実施例に比較すると発色濃度が薄くなり、多数回動作によって、発色濃度の低下が大きく、安定な表示を行うことができなかった。
【0057】
上述したことから明らかなように、本発明によれば、電極構造体を構成する多孔質電極に担持する有機EC色素として、一般式(1)に示す二量化されたビピリジン化合物を適用したことにより、極めて応答反応に優れ、鮮鋭な色調で、安定に可逆的な発消色を行うことができるマゼンタ発色のエレクトロクロミック装置を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のエレクトロクロミック装置の一例の概略断面図を示す。
【図2】実施例の装置の可視吸収スペクトルを測定した結果を示す。
【図3】実施例の装置の可視吸収スペクトル変化を測定した結果を示す。
【図4】比較例1の装置の可視吸収スペクトルを測定した結果を示す。
【図5】比較例1の装置の可視吸収スペクトル変化を測定した結果を示す。
【図6】比較例2の装置の可視吸収スペクトルを測定した結果を示す。
【図7】比較例2の装置の可視吸収スペクトル変化を測定した結果を示す。
【符号の説明】
【0059】
1,6……支持基板、2……透明電極、3……有機EC色素、4,8……多孔質電極、5……電解質層、10……エレクトロクロミック装置、11……表示電極構造体、12……対向電極構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に、少なくとも透明電極が形成されている一対の電極構造体が、前記透明電極同士が対面するように、電解質層を挟持して配置されており、
前記一対の透明電極のうちの、少なくとも一方の上に、少なくとも下記一般式(1)で示されるビピリジン化合物が吸着されている多孔質電極が形成されており、
前記一対の電極構造体に、電圧を印加することにより、マゼンタの可逆的な発消色を行うことを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【化1】


但し、前記一般式(1)において、a、bはa×b=4を満たす整数であり、Xb−は適宜のb価アニオンを表している。
1〜Y4、Z1〜Z4は、水素原子か、あるいは、脂肪族炭化水素基、エーテル基、アシル基、ハロゲン基又はシアノ基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、芳香族炭化水素基を表し、Y1〜Y4、Z1〜Z4のうち少なくともひとつ以上は、多孔質電極へ吸着するための吸着基である。
【請求項2】
前記多孔質電極が、メソポーラス形状、粒子状、ロット形状、ワイヤ形状の、金属、半導体材料、あるいは導電性高分子により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロクロミック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−121418(P2007−121418A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309901(P2005−309901)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】