説明

エレクトロスプレー器具及びエレクトロスプレーの方法

【課題】一定周波数で一定の体積のパルス流体を分配するエレクトロスプレー装置を提供する。
【解決手段】当該装置は、流体をスプレー可能なエミッタ(70)と、前記エミッタ(70)の内部、表面又は近傍の流体への電場(78)印加手段とを有する。使用時において、流体は静電力によりスプレー領域に移動し、電場(78)が印加される間、一定周波数でパルス状のエレクトロスプレーが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスプレー装置及びエレクトロスプレー方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロスプレーは、スプレーを生成する公知の方法であり、エレクトロスプレーイオン化は、質量分析装置内にイオンを供給する標準的な方法になっている。非特許文献1に記載されているように、かかる装置の感度は、出口径が1〜2μmとなるまで引き伸ばされたガラスキャピラリを用いることによって向上した。これにより、毎分約20nl以上の流速で、直径100nmの範囲内で液滴の連続流を発生させることができる。かかる装置は、ナノエレクトロスプレーイオン源として公知である。
【0003】
ナノエレクトロスプレーの特徴としては、流速が印加電圧及びチューブの形状、とりわけ出口径の影響を受け易いということが挙げられる。利点としては、貯蔵部から出口まで液体を圧送するポンプ又はバルブを使わずともエレクトロスプレーを達成しうることが挙げられる。欠点としては、流速の制御及び測定が困難であることが挙げられる。エレクトロスプレーの流速は、液滴の大きさ及び電荷、並びに液滴の粒度分布に影響を及ぼす。
【0004】
エレクトロスプレーが発生するのは、液体表面上の静電気力が表面張力を凌駕するときである。最も安定したエレクトロスプレーでは、静電圧力と表面張力との間でバランスがとれてテイラーコーンが形成され、そのコーンの頂点から放出される液体ジェットが、コーンジェットに相当するものである。安定したコーンジェットモードは、流速が最小である必要がある。また、安定したコーンジェットを形成するには、印加電圧が特定の範囲内にある必要がある。安定したコーンジェットに求められる値よりも電圧及び/又は流速が低いと、滴下、静電滴下(electrodripping)及びスピンドルモードを含む他の形態のスプレーが発生してしまう。
【0005】
非特許文献2により、電圧が安定したコーンジェットモードに求められる値よりも低いと、液体メニスカスが準安定コーンジェットから液滴変形までの振動を受けるおそれがあることが公知である。それにより、エレクトロスプレーのパルスが生じることになる。パルスの生成には、ポンプによって供給される流体の流速が一定である必要があった。
【非特許文献1】Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes 1994年、第136巻、167〜180頁
【非特許文献2】Mass Spectrom.Rev.2002年、第21巻、148〜162頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した公知のエレクトロスプレーは、エレクトロスプレーを開始及び停止するにはポンプを開始及び停止する必要があるという欠点を有している。ポンプの開始及び停止を正確に制御することは困難である。また、かかる装置では、たとえ電場がオフに切り替えられてもポンプによる管内への送液は続き、それによりドリッピングが生じる。すなわち、エレクトロスプレーの微妙な制御は不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、制御された体積の液体をパルス状に一定周期で分散させるためのエレクトロスプレー装置の提供に関する。当該装置は、液体をスプレーしうるスプレー領域を有するエミッタと、当該エミッタ内、上、又は近傍に存在する液体に電場を印加するための手段とを備え、それによって使用中に液体が静電気力によって当該スプレー領域まで引き寄せられ、当該電場が印加される間、エレクトロスプレーがパルス状に一定周期で発生する。
【0008】
本発明の装置は、前記エレクトロスプレー装置が、正確に開始及び停止されうるエレクトロスプレーの信頼性あるパルスを提供するという利点を有する。
【0009】
次に、本発明をさらに説明する。以下の説明では、本発明の様々な態様がより詳細に定義される。以下の如く定義される各態様は、それとは異なる旨が明瞭に示されない限り、他のいかなる態様と組み合わせてもよい。特に、好適又は有利であることを示す特徴はいずれも、好適又は有利であることを示す他のいかなる特徴と組み合わせてもよい。
【0010】
好適には、本発明の装置は、液体を加圧するための機械式ポンプ又は他のいかなる手段も含まない。
【0011】
好適には、前記エミッタは、液体を受け取るためのキャビティを備え、かつ前記スプレー領域は、当該キャビティと流体連通したアパーチャである。
【0012】
従って、当該キャビティは、エレクトロスプレーするための液体を貯蔵しうる。
【0013】
好適には、前記エミッタは管である。
【0014】
好適には、前記エミッタは隆起点を有する面であり、前記スプレー領域は1以上の当該隆起点の上に配置される。
【0015】
従って、個別の管を使用しなくともエレクトロスプレーを達成しうる。
【0016】
好適には、電場印加手段は、少なくとも2つの電極部と、当該電極部に接続された電圧電源とを備え、少なくとも1つの電極部が前記スプレー領域から間隔を置いてかつ前記スプレー領域と整列して配置され、少なくとも1つの電極部が前記液体に結合可能である。
【0017】
好適には、流路によって前記キャビティに連結され、液体を収容するための貯蔵部をさらに備える。
【0018】
好適には、貯蔵部からエミッタまでの液体の流れが流体測定デバイスによりモニタされ、好適には、当該デバイスは、間隔を置いて配置された1対の圧力センサ間の圧力降下を測定する。
【0019】
好適には、前記アパーチャは0.1〜500μmの直径を有する。
【0020】
好適には、前記アパーチャは0.1〜50μmの直径を有する。
【0021】
好適には、前記スプレー領域から間隔を置いて基板が設けられて、スプレーされた液体は基板表面上に堆積し、この面上に特徴を形成する。
【0022】
好適には、前記基板と前記スプレー領域との間で相対変位を生じさせる手段を含んでなる。
【0023】
このようにして、液体のパターンが構築されうる。
【0024】
好適には、基板とスプレー領域との間の距離が変更可能であり、これにより基板上に形成される特徴の大きさは変更されうる。
【0025】
好適には、基板とスプレー領域との間の相対変位は、基板面に平行な面内にある。
【0026】
好適には、基板は、事前形成された粒子又は分子の単一層で覆われ、及び/又は基板は、事前形成された粒子又は分子の準単一層で覆われている。
【0027】
好適には、基板は、絶縁体又は半導体又は導体である。
【0028】
好適には、液体は、基板の濡れ性を変えることが可能な表面改質材を含有する。
【0029】
好適には、基板表面は、多孔質又は非多孔質である。
【0030】
好適には、単一パルスによって吐出される液体の体積は、0.1fL(フェムトリットル)〜1fL、1fL〜1pL(ピコリットル)、又は1pL〜100pLである。
【0031】
好適には、複数パルスの連続放出により堆積する液体の全体積は、0.1fL〜0.1pL、0.1pL〜1nL、又は1nL〜1μLである。
【0032】
好適には、エレクトロスプレーは、1kHz〜10kHz、1Hz〜100Hz、10kHz〜100kHz、100Hz〜1000Hz、又は100kHz〜1MHzの周波数で発生する。
【0033】
好適には、スプレー領域は、エレクトロスプレーする液体と混合しない又は部分的に混合する第2の流体内に配置される。
【0034】
好適には、第2の流体は静止又は流動相である。
【0035】
好適には、スプレー領域は筐体内に配置され、この筐体は、大気、高圧ガス、真空、二酸化炭素、アルゴン又は窒素を含むが限定しない任意の気体を収容する。
【0036】
好適には、複数のエミッタを含んでなり、各エミッタはスプレー領域近傍にある液体に電場を印加するための手段を有する。
【0037】
好適には、エミッタはアレイ状に配列される。
【0038】
従って、アレイ状に並ぶ複数のエミッタを用いることによってより速くパターンが構築されうる。
【0039】
好適には、電場印加手段は、各スプレー領域で独立して電場を制御するよう動作可能である。
【0040】
好適には、電場印加手段に接続する高速スイッチを含んでなり、高速スイッチにより電圧をオフ又はオンして、エレクトロスプレー装置が液体を吐出する時間を精密に制御する。
【0041】
本発明は、エレクトロスプレー方法の提供に関し、当該方法は、液体のスプレーの起点となりうるスプレー領域を有し、液体を受容するためのエミッタを準備するステップと、選択された強度の電場を液体に印加して、液体を静電気力によりスプレー領域まで引き寄せるステップを含んでなり、電場強度、液体粘度及び導電率、並びにエミッタ形状を適宜選択するとにより、電場印加中に一定周期でパルス状のエレクトロスプレーが発生することを特徴とする。
【0042】
好適には、液体は、当該液体を加圧するための機械式ポンプ又は他の手段を使用しなくとも静電気力によって前記スプレー領域まで引き寄せられる。
【0043】
好適には、前記エミッタは、液体を受け取るためのキャビティを備え、かつ前記スプレー領域は、当該キャビティと流体連通したアパーチャである。
【0044】
好適には、前記エミッタはチューブである。
【0045】
好適には、前記エミッタは隆起点を有する面であり、前記スプレー領域は1以上の当該隆起点の上に配置される。
【0046】
好適には、複数のエミッタが設けられ、各エミッタへの印加電場は独立に制御される。
【0047】
好適には、前記スプレー領域から間隔を置いて基板が設けられ、基板はスプレーされた液体を受け取り、基板上にフィーチャー(feature)が形成される。
【0048】
好適には、液体は、基板の濡れ性を変化させることが可能な表面改質材を含有する。
【0049】
好適には、基板上にフィーチャーが形成された後、このフィーチャーから流体が蒸発し、当該フィーチャーの場所において、基板表面の濡れ性が、表面改質材により変化しうる。
【0050】
好適には、基板とスプレー領域との間の相対変位は、基板面に平行な面内で生じる。
【0051】
それにより、液体のパターンが構築されうる。
【0052】
好適には、基板とスプレー領域との間において相対変位が生じ、基板とスプレー領域との間の距離が変更される。
【0053】
それにより、基板上に堆積する液滴の直径が変えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
図1に、本発明に係るエレクトロスプレー装置1を示す。キャピラリエミッタ管2は、流体貯蔵部4と流体連通している。貯蔵部4及びエミッタ管2は、エレクトロスプレーする液体を収容する。エミッタ管2は、液体をスプレーしうる円形アパーチャ又は開口部を有する。
【0055】
引出電極部6は、エミッタ管2の開口部から約3〜4mmに位置する。引出電極部6の中心は、エミッタ管2の前後軸と整列配置する直径6mmの円形アパーチャを有する。この引出電極部6に、いずれかの極性の高電圧電源10を接続する。高電圧電源10は液体に定電圧を供給する。供給電圧は選択された値に変更しうる。
【0056】
コレクタ電極部12は、エミッタ管2及び引出電極部6の前後軸と整列する。コレクタ電極部12は、引出電極部6がコレクタ電極部12とエミッタ管2の間になるように配置する。コレクタ電極部12は接地される。
【0057】
エミッタ管2、引出電極部6及びコレクタ電極部12は、接地されたステンレス鋼真空チャンバ9内に収容され、周辺ガスの圧力は変更可能である。
【0058】
エレクトロスプレーは、冷光源18により照明され、高速電荷結合素子(CCD)カメラ16で観察されてもよい。CCDカメラ16及び冷光源18は、真空チャンバ9の外側に配置され、真空チャンバ9内にある窓20を通して動作する。
【0059】
液体を通過する電流を測定するために、エミッタ管2に接続された電流モニタ装置8によりエレクトロスプレーを測定してもよい。この液体との電気的接触は、エミッタ管2上の表面金属被膜(図示せず)によって達成されてもよい。あるいは、この電気的接触は、貯蔵部内の液体に接触している金属電極を介して直接液体に対して行われてもよい。
【0060】
貯蔵部4からエミッタ管2までの流体流れを計測するために、適切な流れ計測装置24を設けてもよい。例えば、流れ計測装置24は、水晶圧力変換器を用いて2点間の圧力降下を測定することにより動作してもよい。
【0061】
エレクトロスプレー装置1は、非圧送式システムであり、当該装置の使用時において、アパーチャと液体貯蔵部との間に連結されるポンプも弁もないことを意味する。液体は静電気力のみにより管を通じて貯蔵部から引き出される。この静電気力は高電圧電源10により発生する。
【0062】
パルス状エレクトロスプレーを発生するため、最小安定エレクトロスプレー流速に近い流速で液体を引っ張るのに必要とされる力が大きくなりすぎないように、液体粘度及び導電率、並びにエミッタ形状が選択される。また、電場強度は、液体粘度及び導電率、並びにエミッタ形状に基づいて選択される。この電場強度は、コロナ放電が一定でなくともエレクトロスプレーがパルス状に発生するように選択される。特定のエミッタのアパーチャ径又は流体力学的抵抗に対し、液体粘度が高い場合は導電率が高くなるように、液体の特性が選択される。液体粘度が低い場合は低い導電率を用いてもよい。エミッタのアパーチャ径が小さい場合、又は流体力学的抵抗が大きい場合は、特定の粘度に対して導電率を高くするか、又は特定の導電率に対して粘度を低くする。これらの関係は、記載した全ての実施形態にあてはまる。
【0063】
エレクトロスプレー装置1内においては多くの異なった液体が用いられうる。室温導電率は5S/mから下は10-6S/mの範囲でもよいが、これよりも高い導電率を有する液体金属を用いてもよい。1×10-4〜2×10-1Pa・sの粘度を用いうる。
【0064】
エレクトロスプレー装置1は、帯電した分析物を輸送するために質量分析装置内に用いうる。流速が非常に低いことは、非常に少ない量の分析物しか利用できない場合に特に有利である。また、エレクトロスプレー装置1は、チップ又は基板上にインクをスプレー又は印刷するプリンタとして用いてもよい。
【0065】
エレクトロスプレー装置1は、パルスの開始及び停止を非常に正確に制御しうるという特定の利点を有する。これは、電場が印加されるときにのみ管2から液体が放出されるためである。電場の開始及び停止は非常に正確に制御されうる。
【0066】
エレクトロスプレーの離散的パルスが生成される一方で、一定の、すなわち非パルス状の電場が印加される。各スプレーパルス内の液量は、電場が印加される時間長と無関係である。一定電場は離散的パルスの放出時間を制御するためにオン及びオフに切り替え可能であり、電場がオンに切り替えられている間、装置1は一連のエレクトロスプレーパルスを放出する。電場のオン及びオフ切り替えそれ自体が直接パルスを生じるのではない。本発明の装置は、一定電場が印加されると自動的にパルス生成モードとなるように構成される。エレクトロスプレーパルスは、いかなる機械的制御手段又は電場制御手段からも独立して形成される。これは、非常に安定かつ均一なエレクトロスプレーパルスを提供する。
【0067】
エレクトロスプレー装置1は、各エレクトロスプレーパルスが離散的なジェット、すなわち、それぞれが小さくかつ予測可能な体積の液体を含有するジェットとして発生するという利点をさらに有する。管とスプレー面との間に相対的な移動があれば、この面は一連の離散的なドットを受けることになり、ドットは互いに間隔を空けうる。一連のドット供給は、印刷又は他の用途に有利な場合がある。これは、好適には当該スプレー面の移動により行われるが、前記エミッタの移動により行ってもよい。
【0068】
本発明のエレクトロスプレー装置は、パルス状の電場を生成してもよい。電場の各パルスは、エレクトロスプレーの1個以上のパルスを含んでもよい。エレクトロスプレーパルスは、通常、電場パルスの開始時に開始せず、電場パルスが終了しても終了しない。エレクトロスプレーパルスは、印加電場のパルス長と無関係である。従って、エレクトロスプレーパルスにより放出される体積は、電場パルス内に発生するエレクトロスプレーパルスの数によって決まるものであって、電場パルス長とは直接関係はない。このため、エレクトロスプレーパルス内に放出される液量に影響を及ぼすことなく電場パルス長には許容誤差が認められる。
【0069】
例えば、1つのエレクトロスプレーパルス体積に等しい体積を繰り返しエレクトロスプレーすることが望ましい場合は、電場がパルス状にオンにされうる。電場がオンの間、エレクトロスプレーは所定周波数でパルス状に発生しうるが、通常、すぐに開始するものではない、すなわち、当該装置は、電場がオンにされるとすぐに自動的にスプレーするものではない。各電場パルスのオン時間は、1つのエレクトロスプレーパルスが放出されるのを可能にするほど十分長く、2つのエレクトロパルスが放出されるのを妨げるほど十分短くなければならない。連続したエレクトロスプレーパルスを基板上の異なった場所に印加するため、電場がオンでないときに電極部及び/又は基板が移動されうる。
【0070】
図6Aに、本発明に係るエレクトロスプレー装置の第2の実施形態を示す。キャピラリエミッタ管70は、スプレーされる液体74を収容する。
【0071】
高電圧電源79は、引出電極部78とエミッタ管70との間に接続する。導体付属品72によりエミッタ70の導電性表面に電位が印加されてもよい。高電圧電源79は、電極部78とエミッタ70との間に電位差をもたらす。
【0072】
引出電極部78は、エミッタチップから適切な距離に保持されている。エミッタ管70に対向している電極部78の一側面上には、ターゲット基板77が置かれうる。
【0073】
基板は、事前形成された粒子又は分子の単一層で覆われ、及び/又は基板は、事前形成された粒子又は分子の準単一層で覆われている。当該基板は、絶縁体又は半導体又は導体である。
【0074】
使用時には、液体がパルス状のスプレー76として管70から吐出されるように、電源79によって電位が生成される。スプレー76は基板77上に衝突する。コンピュータ化された高精度平行移動ステージ80は、基板77及び電極部78を支持しており、スプレー76の方向に対して垂直に電極部78を移動させることができる。
【0075】
当該システムは、前記エミッタ管と異なって貯蔵部を有さないため、図1の実施形態より単純である。管自体がスプレーする液体を貯蔵している。本実施形態は、電源79から電位を正確に印加することにより液体が基板77上に堆積するのを可能にする。
【0076】
基板77とエミッタ70との間の距離は、堆積面をより小さくしたりより大きくしたりするように変えうる。スプレー76は、エミッタ70から進むに従って広がるため、基板77とエミッタ70との間の距離が大きくなるほど、より大きな堆積面をもたらすことになる。電極部78及び/又は基板77は好適には平行移動ステージ80上に置かれ、ステージはコンピュータ制御してもよい。スプレー76が基板77の選択領域上に堆積するように、平行移動ステージ80は電極部78及び/又は基板77及びスプレー76の間の相対的な移動を提供する。
【0077】
図6Bに、図6Aに示した本発明に係るエレクトロスプレー装置の実施形態の変更例を示す。図6Aの実施形態は、2つのエミッタ81、70を備える。しかし、任意の数のエミッタが用いられてもよい。第2のエミッタ81は、スプレーする第2の液体82を収容する。電極部78とエミッタ81との間に第2の電源83が接続される。図6Bの他の特徴は、図6Aについて説明したとおりである。第2のエミッタ管81に電位が印加されると、第2のパルス化されたエレクトロスプレー84が生成される。
【0078】
別の方法として、2つの管70、81に単一電源が接続されうる。図6Bには2つのエミッタ管を示しているが、2つ以上の管が共に用いられうる。それらの管は2次元アレイ状に配列されてもよい。
【0079】
図8Aに、10個のエミッタ管のアレイを示す。エミッタ管70は、長さ200μmで、約200μmの間隔を空けて配置される。エミッタ管70の直径は30μmである。これらのエミッタ管は、深堀り反応性イオンエッチングプロセスを用いてシリコン及び二酸化シリコン内で微細加工されうる。各エミッタ管の開口端近傍に円形電極を配置することにより、このようなエミッタ管を、本発明に従って、独立してエレクトロスプレーさせうる。独立して各電極部に電圧をかけることにより、隣接エミッタ管のそれぞれをエレクトロスプレーさせうる。図8Bに、シリコン表面上にトリエチレングリコール90をスプレーした図8Aのエミッタ管の幾つかを示す。
【0080】
図6Cに、図6A又は図6Bに示した本発明に係るエレクトロスプレー装置の実施形態の変更例を示す。図6Cでは、前記エミッタは、キャピラリ管の形態ではなく、液体86を貯蔵するように貯蔵部を画定しうる任意の材料85から形成されている。貯蔵部内にはオリフィスが形成されており、そこから液体がエレクトロスプレーされてもよい。この実施形態は微細加工されてもよい。高電圧電源79は材料85に接続される。図6Cの実施形態は、図6A及び図6Bと同じ態様で機能する。
【0081】
上記実施形態のいずれも、実質的に空気を追い出した真空チャンバ内に少なくともエミッタと基板とを有する。
【0082】
図6Dに、図6A又は図6B又は図6Cに示した本発明に係るエレクトロスプレー装置の実施形態の変更例を示し、ここにエミッタ170は少なくとも部分的に第2の流体87内に配置される。第2の流体87は、エレクトロスプレーする液体と異なる。エミッタ170のオリフィス98は、第2の流体87内にある。第2の流体87は、液体又は気体のいずれかであってもよく、かつ容器88内に収容されている。容器88は密閉されていても、又は流体87の貯蔵部と連結されていてもよい。
【0083】
第2の流体87は、好適にはエレクトロスプレーする流体と混合しないが、エレクトロスプレーする流体と部分的に混合してもよい。第2の流体87は、静止状態又は流体であってもよい。
【0084】
第2の流体を通してエレクトロスプレーすると、エレクトロスプレーされた液滴は第2の流体内で制御可能に分散しうる。これにより、乳濁液、例えば油/水の乳濁液の形成が可能になる。また、第2の液体の凝固シェル内にエレクトロスプレーした液体を収容させる、粒子形成も提供する。さらに、揮発性の液体が不揮発性の第2の液体内にエレクトロスプレーされてもよい。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
図1に、直径50μmの開口部を有するステンレス鋼で形成したエミッタ管2を示す。この管は、直径が均一な円形断面を有している。
【0086】
エレクトロスプレー装置1は、液体としてトリエチレングリコール(TEG)と共に用いた。TEGには25g/L NaIをドープした。
【0087】
図4に、エレクトロスプレー電流の振動を示し、ライン60は電源により2.4kVのDC電圧を印加したとき、ライン62は2.2kVの電圧、ライン64は2.0kVの電圧のときを表す。これらの振動は安定しており、キロヘルツ範囲の低い周波数を有する。これはスプレー液体として水において観察される周波数より低かった。これらは電圧2.0kV〜2.9kVの間で発生した。この閾値を超えたところで安定したスプレー電流が測定され、安定した連続コーンジェットスプレーを示した。
【0088】
図4は、脈動スプレーモードではピークパルス電流は電圧と共に増加するように見える。さらに調べてみると、2.5kVを超える電圧では、電圧の増加に伴いピークパルス電流は減少することが分かった。脈動周波数は、脈動が支配的である範囲において電圧上昇に伴い上昇し続けた。
【0089】
単一パルス幅は、パルス電流がピーク電流レベルの25%を超える時間として定義すると、約50μsであった。各パルス期間に放出された電荷は6〜8×10-12Cの範囲であり、概ね電圧と無関係に維持された。
【0090】
印加電圧と液体の流速との関係は線形だった。感度は、1kVあたり0.39nL/sであることが分かった。2.0kVにおける時間平均流速は0.25nL/sであった。しかしながら、1つのパルス期間の流速に換算すると4.62nL/sと一桁大きい値になると推定された。つまり、−230fLの体積が各パルスにより吐出されていることになる。
【0091】
スプレー内の液滴の大きさはおよそ0.4μmであり、電圧が連続エレクトロスプレーモードの閾値まで上昇するのに伴って約0.26μmまで小さくなることが分かった。
【0092】
次に、エミッタ管2のチップにおけるコーンジェット構造の形成及び収縮について図5を参照しながら説明する。初めは、チップに流体が堆積する状態であり、ジェットは全く存在しない。これは、電流が検出されず、かつエレクトロスプレーがない状態に相当し、図中の領域Aに示す。流体メニスカスはコーン形状に広がり、約15μs後にジェットが検出された。これは、図中の領域Bに示した急激な電流増加の検出に相当する。液体ジェットは約40〜45μsに見られ、領域Cに示した各パルスの高電流期間に連続した準安定コーンジェットの放出が発生していることを示した。次いで、測定電流の急激な低下として図Dに示すようにジェットは弱まった。
【0093】
(実施例2)
次に、スプレーする液体として蒸留水を用いた本発明に係るエレクトロスプレー装置1の実施例を説明する。エミッタ管2はシリカから形成され、内径50μmを有して直径10又は15μmの開口部に向かって先細になっている。
【0094】
NaIを含有し約0.007S/mの導電率を有する蒸留水を調製した。アパーチャ直径は10μmであり、シリカで形成した。
【0095】
図2に示すように、連続した一定DC電圧を引出電極部に印加し、一定周波数での電流振動としてスプレー液のエレクトロスプレー電荷放出を観測した。これはキロヘルツレベルの低い範囲であった。ライン30に示すこの電流振動は、電圧1.3kV〜1.4kVで発生した。ライン30には、1.4kVにおける例を示す。これは、装置1が一定周波数でパルス化されたエレクトロスプレーを生成していることを示す。エレクトロスプレーの各パルスは、フェムトリットルのオーダーで液体体積を分配する。1.3kV未満の電圧ではエレクトロスプレーは全く発生せず、ポンプ又は圧力ヘッド(Int.J.Mass Spectrom.1998年、第177巻、1〜15頁の記載等)を用いてエレクトロスプレーをパルス化した場合、電圧が不十分だと滴下等の流体放出の他の形態が生じることになる。
【0096】
1.5kV〜1.9kVの電圧では、ライン32に示すように、やや異なる種類の振動が発生した。この振動周波数は、ライン30から1桁分跳ね上がっており、最小スプレー電流は、ライン30に見られるピーク電流よりも大きい。カメラにより、液体メニスカスから発生する弱いジェット(faint jet)の存在が明らかであった。これにより、装置1は依然として特定可能な周波数でパルス化されたエレクトロスプレーを生成している。
【0097】
電圧が1.9kVを超えた時点で、ライン34として示すカオス状態の酷いジェットが支配的になることが観察された。ライン34は2.0kVでの記録である。ライン34は定義可能な周波数を有しておらず、カメラにより2つの軸外位置の間でわずかに振動している不安定なジェットが明らかであった。
【0098】
図3に、液体内の平均電流と引出電極部の電圧との関係をライン42として示す。平均電流は、この範囲での電圧上昇に伴い増加することが分かる。電流周波数と引出電極部電圧との関係を、ライン40として示す。ライン40は、1.5kVより低い電圧における低周波数域と、1.5kV〜2kVの間の高周波数域との間の周波数に明確な差があることを示している。
【0099】
2kV以下の電圧におけるエレクトロスプレー振動では、本質的に信頼性のある体積流速が非常に小さいエレクトロスプレーがもたらされる。
【0100】
(実施例3)
エミッタ管70は、直径4μmに引かれたホウ珪酸ガラスで形成した。
【0101】
エレクトロスプレー装置2は、液体にトリエチレングリコール(TEG)を用いた。TEGには25g/L NaIをドープした。
【0102】
図6Aに、エミッタ70のチップから約50μm離れたアルミニウム電極部78上に保持した、研磨単結晶シリコン基板77を示す。電極部78は、電極部78を右に移動可能なコンピュータ制御の高精度平行移動ステージ80上に配置した。電源79により600V〜900Vの電位差を印加した。
【0103】
図7に、ステージ80を用いて数百μm分横に移動するまでエレクトロスプレーを一点上に約1〜5秒間パルス放出し続けた結果としての、表面に堆積した液体の顕微鏡画像を示す。エレクトロスプレーが基板上に長く居残るほど堆積する液体の体積は大きくなった。半球形状の液滴の直径は約10μm〜約50μmの範囲だった。これらの液滴は約200fL〜20pLの体積を有している。
【0104】
(実施例4)
次に、スプレー液体として室温でイオン液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(EMIBF4)を用いた、エレクトロスプレー装置1の一実施例を説明する。エミッタ管2は50μmのチップ径を有するステンレス鋼管であった。
【0105】
約1.3S/mの導電率及び43×10-2Pa・sの粘度を有する純EMIBF4溶液を用いた。図1において、連続した一定のDC電圧を引出電極部に印加し、スプレー液の定周波数電流振動としてエレクトロスプレー電荷放出を観察した。この電流振動は、数百ヘルツから低領域のキロヘルツ範囲まで変化することが分かった。エレクトロスプレーの各パルスは、フェムトリットルのオーダーで液体体積を分配する。
【0106】
(実施例5)
本発明のエレクトロスプレー装置を用い、少量の蛍光標識されたタンパク質(アルブミン)をエレクトロスプレーした。少量の酢酸アンモニウム緩衝液を含む水中にタンパク質を入れた。4μmのエミッタ管径を用いてシリコン基板上にスプレーした。
【0107】
図9A及び図9Bに、このエレクトロスプレーの結果を示す。各液滴は、約15fLを含有していた。液滴は部分的に重なり合い、約7〜8μmの最小線幅を有する線を形成した。
【0108】
これらの結果は、電場を規則的にオン及びオフして得た。電場がオンの周期に、単一エレクトロスプレーパルスが放出された。電場がオフの周期に、エレクトロスプレー電極部に対して基板を相対的に移動した。図9Aにおいては、長方形を描くように基板を移動させ、タンパク質の長方形を形成した。図9Bにおいては、基板を一方向に移動させ、タンパク質の線を形成した。各液滴の水分は次の液滴が堆積する前に蒸発した。
【0109】
(実施例6)
本発明のエレクトロスプレー装置は、材料の表面特性を修飾しうるフィブロネクチン等のタンパク質を水中に堆積させることもできる。図10A及び図10Bに、4μmのエミッタ管を用いた結果を示す。図10Aにおいては、基板は単純なシリコン表面であり、フィブロネクチンは基板上に全く堆積しなかった。次いで(従来の手段により)表面に置いた細胞94は増殖していないので、これらの細胞の生存率は低い。図10Bにおいては、基板表面上に約30μmの間隔で5μm幅の線状に、接着タンパク質であるフィブロネクチンの水平な平行線(図示せず)を堆積させた。図10Bは、従来とおりに置いた細胞94が表面によく接着し、増殖したことを示している。図10Bのスケールバーの長さは100μmである。
【0110】
(実施例7)
エレクトロスプレー装置1を、導電性銀インクと共に用いた。このインクは5000mPa・sの粘度を有し、銀ナノ粒子は40重量%である。エミッタ管は直径2〜300μmであった。基板から約500μm離れてエミッタ管を配置し、エミッタ管に対して基板を相対的に移動すると、約200μmの幅の線が形成された。より小さな径のエミッタ管をより基板に近い距離で用いると、より細い線が得られうる。
【0111】
エレクトロスプレー装置1は、従来のエレクトロスプレー装置に代わる用途を見いだしてもよい。具体的には、ディスプレイを製作するポリマーエレクトロニクス又はサーモジェットに代わるラピッドプロトタイピングに用いてもよい。接着剤を配置、電子部品をパターニング又は作製するための製造に用いてもよい。本発明のエレクトロスプレー装置は、塗装又は印刷、若しくは微量分注するために用いてもよい。溶液中に入りうる貴重なタンパク質、ペプチド、リボソーム、酵素、RNA、DNA、又は他の生体高分子を含有する、フェムトリットル以上の体積の溶液の堆積等、微生物学用途も見いだしうる。当該装置は、流体のオンデマンド液滴分注器として用いてもよい。
【0112】
エレクトロスプレーする液体は、水系でもよく、非水系でもよい。液体は、例えば、DNA、RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、リボソーム、及び酵素補因子からなる群から選ばれる生体高分子を含有するか、又は医薬品であってもよい。液体には色素を含んでもよく、蛍光性又は化学発光性であもよい。液体には、基板表面の濡れ性を変えることが可能な表面改質材を含んでもよい。液体を気化し、表面改質材が基板の濡れ性を変えられるようにしてもよい。
【0113】
非水系流体には、例えば、ハイドロカーボン、ハロカーボン、ハイドロハロカーボン、ハロエーテル、ハイドロハロエーテル、シリコーン、ハロシリコーン、及びハイドロハロシリコーンからなる群から選ばれる有機材料を含んでもよい。有機材料は、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、糖脂質、油、及びワックスからなる群から選ばれる脂質であってもよい。
【0114】
エレクトロスプレーする非水系液体は、ポリアクリル酸又はポリマーイオノマー(polymer ionomers)を含んでもよい。当該液体は、無機ナノ粒子を含有してもよい。
【0115】
スプレーする液体は、導電性ポリマー又はエレクトロルミネセンスポリマーを含有してもよい。導電性ポリマーは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)又はポリ(p−フェニレンビニレン)を含有してもよい。液体は、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコライド)を含有してもよく、又はポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコライド)であってもよく、若しくはゲル化剤を含有してもよい。
【0116】
本発明のエレクトロスプレー装置は、上記した以外の液体と共に、かつエミッタ管の開口部を様々な大きさにして用いられてもよい。前述の説明は、当業者がエレクトロスプレーのパルスを生成するために、管に印加する適切な電圧の選択を可能にする情報を提供している。
【0117】
エレクトロスプレーは、通常1kHzよりも高い周波数で発生する。あるいは、エレクトロスプレーの周波数は、1kHz〜10kHz、又は1Hz〜100Hz、又は10kHz〜100kHz、又は100Hz〜1000Hz、又は100kHz〜1MHz、若しくはこれらの範囲の数値を任意にわたってもよい。
【0118】
単一パルスにより吐出する液体の体積は、0.1〜1fL、又は1fL〜1pL、又は1pL〜100pLであってもよい。複数パルスの連続放出により堆積する液体の全体積は、0.1fL〜0.1pL、又は0.1pL〜1nL、又は1nL〜1μL、若しくはそれ以上であってもよい。
【0119】
エレクトロスプレーのパルスは、好適には0.5kV〜4kV、又は好適には1kV〜3kV、又は好適には2kV〜2.5kV、又は好適には約2kVの電圧を電極部に印加するときに発生してもよい。
【0120】
幾つかの実施形態で本発明に係るエミッタを管として説明してきた。別の方法として、異なった形状が用いられてもよい。当該エミッタは任意の形状でよく、液体がスプレー可能なアパーチャを有してもよい。当該エミッタは液体を貯蔵してもよく、及び/又は液体の貯蔵部に連結されてもよい。当該エミッタのアパーチャは、0.1〜500μm、さらに好適には0.1〜50μmの直径を有してもよい。
【0121】
あるいは、粗面からエレクトロスプレーを発生してもよい。鋭いピラミッド状の点を有する面を形成してもよい。このピラミッド状のチップ上でエレクトロスプレーを生成してもよい。この面はシリコンから形成してもよく、任意の粗い又は尖った形態をでもよい。このようなエレクトロスプレーは、外部接液式(externally wetted)エレクトロスプレーとして公知である。
【0122】
これまで電極部の特定形状を説明してきた。静電場によるイオン操作のために設計された他の電極部構成を代わりに用いてもよい。
【0123】
これまで本発明の装置を、液体加圧手段をもたない非圧送式システムとして説明してきた。代わりに、本発明の装置は、エレクトロスプレーする液体を加圧するポンプ又は他の手段を備えてもよい。
【0124】
次に、本発明の発明者らによって着手されたさらなる研究に関し、本発明のさらなる実施例及び実施形態を説明する。以下の説明は、例としてのみ提供されるものであり、本発明の基礎をなす可能な機構について理解を高めるのに役立つ。
【0125】
(実施例8)
(1−2 全般)
非圧送式ナノエレクトロスプレーには、多くの安定したスプレーモードが表れる。例として、低周波数パルス発振、高周波数パルス発振、及び安定コーンジェットが挙げられる。ここで、エチレングリコール、トリエチレングリコール、及び水から成る様々な食塩負荷溶液中に観察されたようなパルス発振に関して行なわれた実験について報告する。時間分解能1μsでスプレー電流を観察したところ、スプレー形態の特性はノズル径及び液体粘度に依存していた。パルス発振周波数は、液体の導電率が高く、かつノズル径が小さくなるに伴い高くなることが分かった。より小さいノズルで導電率がより高い液体をスプレーする場合、1つのパルス期間に放出される電荷はより小さくなる。水溶液では高周波数のパルス発振が起こるのを観察したが、このようなパルス発振はしばしばより低い周波数バースト内でも発生した。水のパルス発振周波数は635kHzであったが、各パルス発振によって放出された電荷は、トリエチレングリコール中に観察された電荷より1桁少なかった。水の非圧送式エレクトロスプレーは、これまで以上に高信頼性の安定コーンジェットモードにあることが確認された。エチレングリコール中に観察した安定パルス発振周波数及び放出電荷は、TEGと水との値の間だった。
【0126】
ESI−MSの用途では、通常、所謂「オフライン分析」チップを用いてナノエレクトロスプレーが実施される。一般に、これらのチップは内径500μm以上のキャピラリで作られ、チップ径は1〜4μmに縮小される。試料は、微細ピペットを用いて針内部に注入されている。
【0127】
本願明細書に記載の実験に用たエミッタの大半はESI−MS用に類似しているが、当該エミッタは内径75μmが出口径8μm、15μm、又は30μmのいずれかまで引っ張られたシリカキャピラリ(New Objective社、MA)である。テーパーを用いているため、当該エミッタチップにおける外径は内径とほぼ同じである。内径75μmのチップは、ピペットでは充填できない。代わりに、窒素を用いて100μLのプラスチック試料バイアルからチップへと液体を圧送した。これは、ステンレス鋼ユニオン(Valco社)を用いてスプレーキャピラリを最長50cm及び内径180μmの給送キャピラリに連結させることにより実施した。このユニオンは、液体連結部内に変形可能な気泡が発生する可能性を最小にするゼロ死容積タイプであった。給送キャピラリは、給送キャピラリに連結させるためにVepel社製フェルールを用い、試料バイアルに連結させるためにゴム製Oリングを用いたSwagelok社製T字部品を介して、試料バイアル内へ送り込んだ。Oリング部品を締め付ける前に、注入器により試料バイアル内に液体を注入した。給送キャピラリの出口を試料液体中に入れた。T字部品により、N2ガスの圧力がレギュレータから試料バイアルに印加され、かつデジタル圧力計を用いて測定可能とした。
【0128】
液体ユニオンは絶縁体内で保持され、接地配線がこのユニオンを高速電流センシング装置に接続した。この手法の結果、液体メニスカスは、チップ出口にある金属被覆よりもむしろ液体の導電率により接地電位レベルに保持される。これにより、特に水をスプレーする間の電位の問題であるコロナ放電の発生が低減する。
【0129】
スプレー開始に要する高電圧は、独立絶縁体上にあるエミッタから3mm離れて保持される研磨アルミニウム円盤に印加した。電極部の高さはマイクロメータで調整可能とした。ノイズ低減のために、当該エミッタアセンブリの大部分を接地金属シリンダによりシールドした。
【0130】
本発明のスプレー装置は、ガス圧力を印加して液体分をスプレーチップに強制送達及び排出させて初期化した。高電位差の印加により、流れる液体はチップ出口上には集中せず、チップから遠方にスプレーされた。いかなる目立った気泡も流出した後に、この背圧を除き、数分後に電圧をオフに切り替えた。続いて、液体をチップ出口に(表面張力により)保持した。液体膜に作用する正味の静水圧がないことを確認するために、液体バイアル内の流体表面は、液体チップ出口と同じ高さに保持された。エミッタ上のエレクトロスプレー電流は、可変利得高速電流増幅器(Laser Instruments社製英国仕様DHCPA−100)を帯域幅1.6MHz、利得106V/Aで用い、ナノアンペアのレベルから増幅した。この信号は、デジタルストレージオシロスコープ(Wavetek社製Wavesurfer422)により帯域幅20MHz、50ΩのDCカップリングにより測定した。全てのデータはアベレージングせずに単一走査から取得した。非接地型マルチメータを用い、引出電極部における平均電流の単独測定値をオンラインで得た。高速電流増幅器を経てエミッタが接地できるよう、高電圧はコレクタ電極部に印加した。これにより、電流収集よりもむしろ放出電流のモニタリングが高い時間精度で可能になった。
【0131】
高解像度顕微鏡で液体メニスカスの形状をモニタし、スプレー形態を計測した。この顕微鏡は、Thales Optem社製12.5×可変ズームレンズにMitatoyu社製10×無限遠補正対物レンズを搭載してなり、Sony社製V500型CCDカメラに結合させた。このビデオ顕微鏡の解像度は、最大約2μmであった。
【0132】
各データセットにおいて、所定の標準チップ径に対して2つの異なるエミッタを用いた。測定されたスプレー特性は、測定の不確かさの範囲内で一致することを期待したが、このような測定値は測定誤差外にあることが分かった。本発明者らが測定したデータはエミッタの内部及び外部特性に依存していると予想しているので、供給状態でのエミッタ、特にエミッタ内部の輪郭における微細な変動が原因であると考えられる。結果として、発明者らは、2組のエミッタについて周波数、ピーク電流等の測定値をグラフ化した。
【0133】
エチレングリコール(EG)、トリエチレングリコール(TEG)及び蒸留水を基礎溶媒として用いた。1nL/分オーダーの流速でナノエレクトロスプレーモードが安定するには、溶液の導電率は約10-2S/mよりも高い必要がある。このため、純粋溶媒はイオン化合物でドープする必要がある。本発明の実施形態においては、様々な濃度のNaIを含むEG、TEG、及び蒸留水溶液を調製した。EG及びTEG溶液への水蒸気の混入を防ぐため、これらの溶液はドライボックス内で調製した。導電率は新規な三角波法を用いて計測した。
【0134】
全てのエレクトロスプレー実験は、流体を強制流動する正味の圧力が全く流体に印加されない状態で行なった。本願明細書にて発明者らは、軸流モードIIと呼ばれる圧送式流体モードの変形としてこれまでに特定されているモードに、主に注目した。これらの結果を3.4項及び3.5項に記載する。尚、他のモードも観察されており、それらも3.4項及び3.5項に記載する。
【0135】
全ての溶液に対して使用した実験方法を以下に示す。引出電極部上の電圧は、ゼロから安定振動が観察されるまで、すなわち振動開始電圧UOまで上げた。多くのノズルでは、この点よりも先に、識別可能な周波数のない突発性の電流スパイクが発生していた。このような低電圧ではコロナ放電は発生しなかった。これらのスパイクは無視した。UOを超える測定のそれぞれにおいて、電流トレースを蓄積し、いかなる目立った特徴も識別するためにビデオ顕微鏡を用いてメニスカスの画像を撮影した。振動期間及びコレクタ電極部の時間平均電流を記録した。CCDの長露光時間を用い、高電場で得られるスプレーを観察することによってコロナ放電を除外した。
【0136】
(3.1 一般的なパルス発振特性)
TEG溶液T25が15μmのチップ径からスプレーされたときの典型的な電流波形を得た。凡例は、トレースが得られた時点の電圧を示している。わずかな数の波形だけが明瞭さを保持していることを示す。トレースは、電圧上昇に伴って振動と関連のある電流ピークがより密になることを示している。この場合、これらの曲線に表われているデータは、最大電流Ipeakもまた電圧上昇に伴って大きくなることを示している。
【0137】
マルチメータを用いて測定した時間平均電流Iaveは、パルス発振形態の間中、電圧に対してほぼ線形に増加した。エレクトロスプレーモードが定常状態のコーンジェット形態へ変わると、この平均電流は顕著に増加した。コーンジェットモードの間、平均電流は電圧に対して線形的に増加し続けた。
【0138】
TEG溶液を用いて行なったテストの大半(85%)で、パルス発振形態は安定コーンジェットモードの定常状態動作に切り替わった。電流パルスは、ある電圧閾値において、最大パルスピーク電流より低い値の定常電流に変化した。この状態では振動は全く観察されなかった。液体メニスカスの観察により、コーン頂点及びジェット(後者は粘度がより低いときにのみ見られる)に揺らぎがないことが明らかになった。
【0139】
水は、多くのエレクトロスプレー用途に共通した溶媒であるが、その特性はトリエチレングリコールと著しく異なり、とりわけ表面張力はより一層高くかつ粘度はより一層低い。TEG溶液において観察されたものと同じ形態のパルス発振が観察され、パルス発振モードの軸流IIもまた観察された。パルスデータを直接比較すると、水中ではパルス幅がTEG溶液より1桁以上短く、例えば最大約50μm続くTEGパルスと比較すると、水中におけるパルス幅は、一般に最大約2μmであることが明らかであった。また、パルス幅が短いほど、これに連動してパルス発振周波数が高くなった。
【0140】
水中のパルス発振周波数が印加電圧に対して変化する様子には、水をTEGと区別する別の特徴も見られた。例えば、水の場合、50kHzではあるが低い周波数から非常に高い周波数200kHzのパルス発振モードへの明瞭なステップがある。こうした急激な周波数の上昇は、本発明者らが過去の研究に示したものであるが、当時の研究に用いられたチップでは、コーンジェットモードは全く得られなかった。本願明細書の被験水溶液の3分の2において、パルス発振から安定したコーンジェットへの移行が、実際にVMES制御の下で発生した。コーンジェットモードに入った組み合わせのうち75%が広い電圧範囲にわたって当該モードを維持した。
【0141】
エチレングリコールは、粘度がTEGより最大約50%低いが、多くの点でTEGに似ている。伝導率の値の差が1桁に及ぶ2つのEG溶液を用いて、他の溶液より回数を少なくして実験を行なった。これらの溶液の流体特性は、表1でも確認される。EGパルス発振の一般特性は、高い周波数への移行がないTEG中に観察された特性に似ている。
【0142】
(3.2 印加電圧に依存した軸流モードIIのパルス発振)
TEG溶媒を用いると、より広範囲な結果を得た。これは、3つの液体のうち、この溶媒が最も表面張力が低く、その結果、所定の大きさのチップに対してより低い電圧で発振が生じるためである。電圧が低くなるほど、逆にコロナ放電が発生するおそれが低減することになる。
【0143】
観察されたパルス発振特性を基に、液体T1、T6、及びT25をエレクトロスプレーすることにより導電率の効果を検査した。この範囲の液体では導電率変化は1桁以上ある。安定したパルス発振の開始電圧は、液体/エミッタの組み合わせの関数であることが確認された。そのため、結果を比較するために、印加電圧Uaを用いるよりむしろ、この開始電圧を超える電圧Ua−Uoの関数として測定パラメータをグラフ化することの方が物理学的により洞察に満ちている。本発明者らは、これを電圧超過であると定義している。図11に、各溶液毎に電圧超過の関数としてパルス発振周波数の依存性を示す。データ群のそれぞれに用いたエミッタは、15μmの出口径を有するものであった。エラーバーは、振動の期間に幾らかのばらつきがある事実を反映している。この変動は、電圧がUOに近く、導電率の低い溶液中において顕著である。図示のように、電圧超過と共にパルス発振周波数は一定に増加し、その電圧範囲にわたってパルス発振モードが実際に軸流IIであることが示されている。
【0144】
これらの3つの溶液では、安定したスプレー振動の周波数は1桁以上にわたって変化した。周波数の増加は、印加電圧に対して線形であるように見えた。様々な液体におけるこれらのデータ群について、最良適合な線形傾向の勾配Δf/Δ(Ua−Uo)を比較すると、パルス発振周波数が印加電圧と共に上昇する割合には、流体の導電率の増加と似た増加があることが分かった。実際、このデータ群全体でも3つの勾配値のみから成るが、勾配値Δf/Δ(Ua−Uo)の最良適合と導電率Kとの間には、回帰係数0.98を有する線形傾向があり、良好な一致があるように見える。結果として、液体の導電率が高いほど、ある特定のチップに対して得られるパルス発振周波数は高くなるという結論に達した。
【0145】
電圧印加時の1つのパルス期間におけるピーク電流の感度も調べた。電圧超過を固定値とするパルス発振内において、ピーク電流Ipeakの値には幾らかの揺らぎが観察された。結果的に、この重要なパラメータの測定値を得るため、典型的には最大10パルスにおけるピーク電流Ipeakの値を用いた。図4に、このようにして得られた値をプロットし、測定値の変動をエラーバーにより示す。これらのデータは、直径15μmのチップから得られた。このデータからは、観察したIPeakの大きさが電圧依存であることはむしろ不明確である。例えば、導電率が最も高い被験液体(T25)では、データの回帰係数は0.991であり、電圧超過に対して電流の線形増加傾向があるように見えた。尚、電圧に対する電流の勾配は穏やかであり、この液体のピーク電流の全範囲が変化する量は平均値の25%未満である。導電率の低い他の溶液は印加電圧に対して識別しうる傾向が見られなかった。
【0146】
被験TEG溶液の場合、電圧に対するピーク電流の感度は弱く、パルス発振期間に電荷が除去される最大速度は印加電場に対してむしろ無関係であると結論付けられる。
【0147】
TEGのデータと同様、水及びEGの両実験からも、液体の導電率が低くなるとピーク電流は小さくなることが分かった。水についての特定の場合において、典型的にはW70溶液のピーク電流値は、W7000で見られた値のわずか25%であった。水及びEGの両者における印加電圧に対するIpeakの依存性は、TEGについて記載したものと似た特性であり、導電率の高い溶液では感度はより顕著だった。これは、Ipeakが印加電圧と共に増加することを示唆しているが、依存性を完全に解明するには現時点でのデータでは品質が不十分である。
【0148】
(3.3 軸流モードIIパルス発振のチップ径依存)
チップ径が、観察されたパルス発振の特性に及ぼす影響を明らかにするため、実験データも入手した。関心特性は、パルス発振周波数、ピーク電流、及び1つのパルス期間に抽出された全電荷である。前項から記載のように、各液体のパルス発振特性は、印加電圧及び溶液導電率の両者に依存する。従って、データセット間で比較を行なうには、特定の比較条件を明らかにしておく必要がある。調べた液体の全てにおいて、パルス発振の最高周波数は、パルス発振モードが他のスプレー形態に入れ替わる時点における電圧超過よりも電圧超過が低くなる時点で常に得られることが明らかだった。水について得られたデータを含む多くの場合、これは、安定コーンジェットモードへの移行と言える。幾つかの実施例では、エミッタチップが最も大きい状態で取得されたデータのように、スプレーモードは、マルチジェットモード又はコロナ放電のいずれにも変化可能だった。結果として、発明者らは、液体間で詳細に比較するにあたり、周波数依存を把握する適切な方法として最高周波数fmaxを選択した。このデータは、図12の溶液について、チップと液体の組み合わせのそれぞれに対して収集した。
【0149】
3つのTEG溶液のデータ全体について、液体及びチップサイズの全範囲にわたり、導電率増加とチップ径縮小との両者に対してfmaxが上昇した。各溶媒にこのような2つの傾向があり、水及びEGのデータセットにおいても明白だった。最高周波数の振動は、直径がより小さなチップからスプレーされた導電率の高い水溶液から得られることが明らかだった。観察された振動の最高周波数は、0.63MHzであった。水は最も粘度の低い被験溶媒であり、溶液粘度が低いほど高い振動周波数が観察されるという一般的な傾向がデータセット全体を通して見られた。
【0150】
発明者らは、最も導電率の高い被験TEG溶液において、特定チップから印加された印加電圧に対してピーク電流が幾らかの感度を示すことにすでに注目していた。しかしながら、図4に示したデータから、この感度は全体にわずかであるという結論に達した。結果的に当該データを近似には用いず、発明者らは、各溶液について、安定軸流モードIIのパルス発振が発生する全電圧範囲にわたり観察されたIpeakの平均値により、パルス発振中ピーク電流を特徴分析した。図13に、この平均値<Ipeak>をチップ径の関数としてTEGデータについてプロットして示す。これらのデータから、<Ipeak>は液体導電率とチップ径の両者と顕著に対応していた。すなわち所定のチップ上では、溶液の導電率が増加するに従い、<Ipeak>の増加が見られた。さらに、所定の溶液の場合、チップサイズが大きくなると<Ipeak>の値も増加した。
【0151】
TEG同様に水中でも、チップ径縮により、1つのパルス期間のピーク電流を低下する効果があった。W7000をスプレーしたときの平均ピーク電流は、30μm、15μm、及び8μmのチップに対し、それぞれ172nA、73nA、及び53nAであった。
【0152】
周波数感度データ及び電流感度データの組み合わせに関し、考慮すべき課題は2つある。抽出された5つの電荷が実際に溶媒和されると仮定した場合、当該メニスカスから引き出される全電荷、すなわちパルス全体の電流の積分は、パルス発振期間中に当該メニスカスから除去されうる物質量を示すのに対し、ピーク電流は流体メニスカスからの最大電荷抽出速度を画定する。電流パルスの波高は、導電率及びチップ径の両者に比例して大きくなるが、パルス間隔は導電率に対して短縮し、かつチップ径に対して延長することが観察された。
【0153】
全ての被験溶液についてパルス幅Tonのデータを得た。ここで、オン時間Tonは、電流が0.25*(Ipeak−Ibase)+Ibaseより大きいときのパルスピークの幅と定義した。最大パルス幅は30μmの針からスプレーされたT1について159μsであり、一方、TEGの最小パルス幅は、4μmのノズルからスプレーされたT25について16μsだった。
【0154】
次に、Ipeak*Tonによって与えられる1つの電流パルス発振期間に放出される電荷を概算することにする。測定した特定の波形についてパルス形状自体を数値積分することにより得られる値に対して、前記の値を比較することにより、この手法の有効性を確認した。T25に対して比較したところ、これらの2つの方法は10%以内の良好な一致を示した。パルス発振期間中に放出される電荷を、チップ径に対して計算した。これらの計算値に対してIpeakの平均値を用いたため、データは、安定したパルス発振が発生する全電圧範囲にわたって平均したパルス電荷であることを再度強調しておく。このデータをプロットしたところ、1つのパルス期間に放出される電荷はチップ径に対して増加する傾向が強いことが明らかになった。
【0155】
ほとんど全ての場合に、水溶液をスプレーするチップから放出される電荷は、TEG溶液をスプレーする同一径のチップより1桁少ない。この傾向はEG溶液にも見られ、1つのパルス期間に放出される電荷は水よりもTEG溶液と同等である。興味深いことに、EGのデータはTEGのデータと水のデータの間であった。このデータには多少のばらつきがあり、本明細書においては明瞭さを保つために最もノイズの多いデータ群についてのみエラーバーをプロットしているが、所定の溶媒では、放出された電荷は電導率と無関係であるように見える。これは、TEGのデータにおいて最も明らかだった。
【0156】
スプレーが安定したコーンジェットになった時点の電圧UCJは、液体の電導率からはいかなる識別可能な影響もなく、チップ径に依存していた。各ノズルチップ径毎の平均開始電圧超過ΔVave=<UCj−Uo>は、8μm、15μm、及び30μmのチップ全てに対し、それぞれ278V、495V、及び717Vであった。明らかに、パルス発振が発生する範囲は、チップ径が大きくなるほど広くなった。コーンジェットの開始もまた、チップが大きくなるほど高い電圧で起きた。これは、Smithによって世に広められた標準的なエレクトロスプレー開始電圧モデルと一致した。
【0157】
コーンジェットモードの開始はパルス発振デューティサイクルと相関があり、これはパルス幅をパルス発振周波数から求められる期間Tperiodで割ることにより定義される。安定したコーンジェット動作に近づくに従いスプレー周波数の安定性は低下するため、最大デューティサイクルを正確に得ることは困難である。但し、単純に観察することも可能である。あらゆる場合に最大デューティサイクルは常に40〜50%程度である。デューティサイクルが20%より低いと、パルス状のVMESが安定したコーンジェットに移行する証拠は見られなかった。同様に、デューティサイクルが59%より高いと、パルス発振のエレクトロスプレーは観察されなかった。パルス幅が振動の間の時間に非常に近くなると、パルス発振モードが不安定になるように思われる。
【0158】
パルス発振の開始電圧Uoはノズル径に対して変化した。TEGの場合、平均Uoは、8μm、15μm、及び30μmのチップ径に対し、それぞれ1044V、1443V、及び1753Vであった。EGの値はこれらの値に非常に近かった。水の平均Uoは、8μm、15μm、及び30μmのチップ径に対し、それぞれ1423V、1782V、及び2140Vであり、水の表面張力が他より高いことを示している。
【0159】
(3.4 VMESにおける軸Iモード)
これまで見てきたように、全ての液体が印加電圧の範囲にわたって同じパルス発振性を示すわけではなく、安定したパルス発振が観察されることもある。従って、導電率が低い水溶液を大きなチップでスプレーするときは特に、新しいパルス発振モードの出現によりデータの直接比較がより複雑になる。W70を30μmのチップでスプレーした際には2つのサンプル波形が得られた。両波形とも、より一層低い周波数群(〜3kHz)の中で非常に高い周波数パルス発振(〜100kHz)が発生しているという点で、Juraschek及びRollgenによって記載された軸Iパルス発振を想起させる。しかしながら、この類似は、a)Juraschek及びRollgenの所見は、非圧送式スプレー条件ではなく圧送式スプレー条件でのものであり、b)本発明者らの新しいデータでは、著しく高い周波数ではあるがパルスエンベロープを形成するパルス数はより少ないことから、恐らく見た目だけのものであろう。本願明細書は、非圧送式ナノエレクトロスプレー又はVMES期間の軸Iパルス発振に関する最初の報告である。当該スプレーモードはEG溶液でも観察されたが、チップ径150μmの最大エミッタのみに見られた。E5溶液はダブルピークのみを示したのに対し、E05溶液では20Hzの低周波数で非常に多くのパルス発振群が表れた。尚、TEG溶液では軸モードIのパルス発振は全く観察されなかった。
【0160】
このモードは液体及びノズルが適切に組み合わされた場合にのみ発生するもので、得られたデータから低い流体力学的抵抗値が必要であることが示唆された。低粘度の水をより大きなチップ径と組み合わせると、わずかな圧力変動でもコーンには比較的高い液体流速が発生しうる。軸モードIのパルス発振の背後にあるメカニズムは、液体コーン全体が欠乏して補充されることにあると考えられ、いかなる擾乱も液体メニスカス内に比較的広い範囲に及ぶ機械的な振動を招くおそれがある。
【0161】
(3.5 軸IIBモード)
3.3項におけるパルス発振期間に失われる電荷計算は、「オン時間」の間にのみ放出される電荷に基づく。データの周波数特性のうちのいずれとも特に関係のないある期間、例えば、データ取り込み時間にわたって電流波形を積分した後、先の電荷を捉えられたパルス数で割ることにより別の尺度、すなわち、この計算からパルスサイクル毎に放出される電荷ΔQが得られる。この手法では、パルスの立ち下りエッジで放出される全ての電荷が完全に含まれる。本明細書においてIDCとした電流の測定値は、この全電荷ΔQをパルスオン時間Tonで割って算出してもよい。30μmのチップ上のTEG溶液について、IDCと電圧超過の関係をプロットした。
【0162】
これらの溶液の場合、IDCは、最大値に達するまで電圧超過に対して増加する。このモードは、これまでの研究で軸モードIIBと名付けられてはいるが、必ずしも発生するとは限らない。今回行なった全ての実験期間で、当該モードは、導電率が高くなるほど、かつノズル径が大きくなるほど優勢であるように見える。当該軸IIBモードは、EGデータのいくつかに観察されたが、水溶液にはいずれも見られなかった。図11に示すように、液体メニスカスを撮影した低時間分解画像は、当該モードを説明しうる物理的メカニズムを示唆している。メニスカス形状における変化がはっきり見られるようにするため、より大きなノズルを用いた。
【0163】
この条件では液体の吐出が全くないにも係わらず、メニスカスは電気的ストレスにより変形した。画像ではジェットを確認することはできないが、メニスカスは、軸モードII又はIIBのいずれかで安定したパルス発振を受けている。
【0164】
電位上昇によりメニスカスがストレスを受けると、液体コーンの大きさは縮小した。放出される平均電荷はノズルの大きさに対して増加した。一般に、メニスカスの大きさは、キャピラリチップの大きさによって決まると仮定してもよい。従って、この依存性が液体メニスカスの大きさによるものであれば、放出される電荷の減少はコーン寸法の縮小によるものとも考えられる。これが正しければ、電圧の増加が液体コーンの収縮を引き起こす状況においてのみ軸モードIIBが発生すると予測できるであろう。IIBは、パルス発振形態の期間に必ずしも発生するとは限らず、多くの場合、安定したVMESコーンジェットモード期間に発生しており、いかなるときもマルチジェットモードに先行した。
【0165】
(4 考察)
安定したパルス発振のナノエレクトロスプレープロセスについて、多くの新しい特徴が観察された。あらゆるキャピラリシステムにおけるあらゆる液体中に、あらゆるパルス発振モードが観察されるわけではない、それゆえ、変更された流体特性及び形状パラメータの組み合わせは、その流体特性及び形状パラメータが互いに作用し合って様々な観察結果が生まれるようなものであると推論しうる。しかしながら、得られた結果は定義可能な特徴を示した。例えば、軸モードIIにおいて1つのパルス期間に放出される電荷量は、チップ径が大きくなると増加することが明らかだった。また、所定の液体では、この放出が液体導電率に依存することもデータが示した。パルス発振は準静的過程であることから、メニスカス頂点の体積収縮は、主として、表面移流効果とバルク対流効果との組み合わせによって電荷がメニスカスに供給されうるよりも速く、メニスカス頂点から電荷が除去されるためであると推論しうる。前述のように、電荷除去の割合は個別パルスの電流波形によって表される。1つのパルス期間のピーク電流が流体導電率及びキャピラリチップ寸法の両者に依存することも示したとおりである。さらに、図13に示したデータの最良最適線形回帰の勾配は、導電率の高い液体は、導電率が低いデータよりも急な勾配を有するという、液体導電率に対する明確な傾向を表した。これらの観察結果から、電荷損失Qpulseと、ピーク電流Ipeakの導電率Kに対する比率との組み合わせもチップ径の関数であることが示唆される。
【0166】
これらのデータプロットしたところ、実際に所定液体のQpulse*Ipeak/Kで得られる値とチップ径との間に大まかな相関があることが明らかだった。また、この点に関し、幾分異なった出発点から観察して物理的な文脈を加えてもよい。電荷の流れ(charge flux)をコーン及びメニスカスを通過して液体ジェット内へ駆動するのに必要とする電力について考察する。電荷の流れがバルク対流によって支配されるものであるなら、例えば、1つのパルス期間の電荷の表面移流及びバルク対流を無視して、必要とされる全エネルギーの概算が
【数1】

によりパルスオン時間Tonにわたって得られもよい。ここでRCONEは、流体コーンに発生する電気抵抗である。単純に、導電率をKとする溶液の底面の直径をDtとした直円錐について、RCONEの値を導き出してもよい。その結果、
【数2】

になることが分かる。従って、電荷を駆動するのに必要とするエネルギーは
【数3】

で近似してもよい。それゆえ、評価すべき潜在的に意味のあるパラメータは、
【数4】

の値であり、この値は所定の液体中のパルス発振と関連のある電気エネルギー量を表している。このエネルギー値は、3つのTEG溶液のみのデータから導き出され、図13にプロットして示す。
【0167】
図に見られるように、個々の溶液間には隔たりがあるように見える。当該データは、チップ径に対してエネルギーがうまく線形依存する特徴があるように見え、ここで最良適合傾向の勾配は溶液導電率の関数である。導電率の高い溶液は、1つのパルス当たりのエネルギー量が低いことを示しており、チップの大きさに対してエネルギーが増加する割合もまたTEGの導電率が高いほど低い。次に、本発明の実施形態における他の溶液について考察する。前述の説明から、液体導電率は、パルスエネルギーがチップ径に対して増加する割合に影響すると仮定すると、粘度が同様の溶媒溶液を比較することが最も適切になる。残念ながらこの時点では、同じ導電率の異種溶媒溶液は利用可能でなかった。しかしながら、TEG溶液16及び水溶液W70は導電率の近い2つの溶液である。これらの溶液について、パルスエネルギーデータを収集した。再度、水データにおいては、チップ径に対してエネルギーが増加するという似通った傾向があることが分かった。
【0168】
提示したこれら2つのデータセットについては、範囲がかなり限定されるが、粘度が高い溶液ほど1つのパルス当たりの要求エネルギーは高いことが明白だった。興味深いことに、この勾配が溶液導電率のみによって決まるとこの段階で断定するのは時期尚早と思われるが、最良適合傾向線の勾配は非常に似通った値だった。
【0169】
結論として、これらの結果から、粘度がより低い液体に比べてより高い粘度を有する液体の場合、パルス状のジェット内に液体を抽出するには、パルス駆動により多くのエネルギーが必要であることが示唆される。さらに、所定のチップ径の場合は、導電率がより低い液体の抽出により大きなエネルギーが必要である。これらの観察結果から、ナノエレクトロスプレーパルス発振モードの主要な特徴を把握するために開発されたモデルはいずれも、コーン構造自体の内で電荷の流れのバルク対流が果たす決定的役割と、メニスカス自体の形状及びその変形を規定する際に表面移流電荷が果たす役割とを必ず含まなければならないことが示唆される。
【0170】
(5 まとめ)
本研究では、2つの非常に似通った液体であるエチレングリコール及びトリエチレングリコール、並びに水に関する非圧送式VMESの特性について調べた。TEG溶液をスプレーした際に、液体導電率が高いほど、かつチップ径が小さいほどパルス発振の周波数が高くなることが分かった。電流パルスのピークの高さは導電率及びチップ径の両方対して増加する。パルス幅はチップ径に対して増加する。単一パルス期間に放出される全電荷を推定したところ、この値は、チップ径が小さくなるほど小さいことが分かった。これは、放出される電荷が液体メニスカスの寸法と関係があることに起因し、ある導電率の範囲において特定のチップの大きさに対してこの状況は固定される。導電率の高い液体ではパルス電流が大きくなり、全電荷がより速く放出されるため、結果としてパルス幅が短くなる。水溶液での結果から、TEG溶液と同様に、導電率が高いほどかつチップ径が小さいほど周波数が高い傾向があることが分かったが、これらの結果は、TEG溶液ほど決定的なものではなかった。尚、得られた最高周波数635kHzは、TEGで得られた最高周波数より31倍高かった。似通った導電率の液体W700及びT6の場合でさえ、水の周波数の方が著しく高い。これとは対照的に、水溶液のパルス発振によって放出される最小電荷は、TEG溶液よりも1桁少なかった。水において新規なVMESモードを記載し、当該モードは圧送フローについて記載した軸モードIに似ているが、本願明細書では非圧送フローについて観察したものである。水溶液は、広い電圧範囲にわたって非圧送VMESモードで安定したコーンジェット状にスプレーされた。本願明細書は、高速電流測定及び高速顕微鏡画像の器具を用いて、非圧送式エレクトロスプレーにおける水溶液の安定コーンジェットモードが安定し、電流発振のないことを証明した最初の報告である。
【0171】
パルス発振モードでは、一定電荷量及び一定と推定される液体体積が各パルスから吐出される。システムが電荷又は液体のいずれかを液体コーンに補給できなければ、パルス停止が発生すると考えられる。電場が電荷及び液体の両方を頂点領域まで引き寄せ、表面電荷及び湾曲部は、電気ストレスが表面張力に打ち勝ってジェットが形成されるような状態になる。電圧に対して電場が強くなると、電荷及び液体を補給するのに要する時間は減少するので、パルス発振周波数は上昇する。
【0172】
パルス発振の駆動に要する電気エネルギーを分析したところ、バルク対流は、電荷輸送過程に役割を有することが示唆された。パルス発振エネルギーは、液体導電率及び粘度の両方に依存した。
【0173】
(実施例9)
(1−2 全般)
液体試料をフェムトリットルの液滴へと噴霧し、それらの液滴を表面上に正確に堆積させる能力は、マイクロ流体工学及び化学分析における主な課題である。本願明細書において、発明者らはフェムトリットルの液滴を堆積させる高精度ドロップオンデマンド式方法としての、非圧送式エレクトロスプレーの安定発振制御を示す。短周期の静電場を用いて制御される不連続スプレーモードにおいて、35μsの間に形成される液体ジェットの実施例を示す。尚、液体ポンプは一切用いなかった。各過渡ジェットはフェムトリットル体積の物質を吐出し、これは近傍表面上に堆積した。ある範囲のノズルの大きさを基にパルス発振スプレーすることによって吐出される体積は、エレクトロスプレーのスケーリング則から予測される。発明者らは、改良したナノエレクトロスプレー法を用い、数マイクロメートルの配置精度でドロップオンデマンド式に1.4μm幅の特徴構造を表面印刷した。発明者らの技法によれば、生物のマイクロアレイを生成し、ラボチップ用極小試料を輸送可能と考えられる。
【0174】
VMESモードにおいて過渡ジェットの期間を極端に短く(マイクロ秒オーダーに)すると、他の技術と比べてより小さな体積の液体の吐出が可能になる。さらに、吐出の発生回数を制御することにより、当該モードはこれまでにない分解能のドロップオンデマンド技術として用いうる。本願明細書において、シリコン基板上への1〜2μmのドットパターニングによりこの分解能の向上を示す。この方法は、既存のドロップオンデマンド式直接描画技術に対し、特徴構造の大きさにおいて1桁以上の縮小をもたらす。
【0175】
液体メニスカスの変形を視覚化するために、高速カメラ(Lavision社製Ultraspeedstar)を照明用閃光ランプと共に用いた。高速電圧スイッチ(DEI社製PVX4130)に接続した高電圧電源(F.u.G.Electronik社製)により高電圧を引出電極部プレートに印加した。電圧モニタ出力をデジタルストレージオシロスコープ(Wavetek社製Wavesurfer422)に接続し、これはオシロスコープ及び閃光ランプのトリガー源として動作し得た。視覚化のために用いたスプレー針は、内径50μm、外径115μmのステンレス鋼テーパーチップ(New Objective社製)であり、この針に液体を充填した。この幾分大きなキャピラリは、単にスプレー過程の光学検査を容易にする目的で用いた。他の全ての実験については、4μmチップ径の金属被覆ガラスチップ(New Objective社製)を用い、ピペットで充填した。ガラススプレー針は導電性フェルールにより電気的に接触させ、1.6MHz可変利得増幅器を用いてnAレベルのスプレー電流を増幅した。引出電極部は3D平行移動ステージに固定し、2つの水平軸は分解能0.1μm及び最大速度1mm/秒のコンピュータ制御下にあり、垂直軸は手動ステージだった。堆積を調べるため、単結晶シリコン試料1cm2を引出電極部上に置き、これには検査及び残留分析を容易にするために位置決めマークをエッチングしておいた。
【0176】
尚、スプレー電流におけるピークが、一時的に存在する液体ジェットと一致することを示す非圧送式エレクトロスプレーを用いるいかなる研究についても、本発明者らの知るところではない。パルス発振のナノエレクトロスプレー動作期間のスプレー電流及び振動流体メニスカスの高速カメラ連続画像を捉えるため、実験を実施した。これらの試験のために、NaIをドープして導電率を0.033S/mとしたトリエチレングリコール(TEG)溶液を、ステンレス鋼針からスプレーした。この溶液を用いた理由は、表面張力が低いので比較的低電圧を用いてスプレー過程が開始可能になるためである。高電圧スイッチを用いて、周波数1Hzで500msの間、金属引出電極部に−1868Vの電位を印加した。この高速スイッチの電圧モニタ出力は、放出されたスプレー電流の取得を開始し、閃光ランプ及び高速カメラをトリガーするオシロスコープのためのトリガーとして動作した。電圧パルス開始から499.5ms後に閃光がトリガーされ、その閃光トリガーから100μs後にカメラがフレーム間時間を35μmとして16枚の画像の取り込みを開始した。このように、画像取り込みのタイミングは本発明に係るエミッタの電流波形と重ね合わせが可能であり、さらにフーリエ平滑化(Fourier smoothing)を用いて電流トレースからカメラノイズを除去した。図2bの画像は、電流パルスが液体ジェットの過渡的な形成と関連があることを示している。電流がゼロのとき、液体メニスカスは変形するがジェットは存在しない。このことは、質量はジェットの存続期間にのみ取り出されるという従来の仮説を支持するが、本発明者らは、低電荷による液滴の吐出又は表面からの気化等の他の質量損失のメカニズムが生じることがあることを認める。
【0177】
(3 パルスにより吐出される液体体積)
前述のデータは、個々のパルス期間に吐出される物質体積に着目するために再度評価しうる。この分析は、当技術分野の先行研究では示されていないが、新規な結果への注目に関係している。1つのパルスから吐出される体積を推定する方法は2つある。第1の方法では、1Hzで流速測定するインラインシステムを用いて上述のように液体流速を測定する必要がある。これらの測定値は、数千パルスの発振イベント全体に時間平均された流速を特定する。実際、ジェットが単なる質量損失のメカニズムであるにすぎないと仮定すれば、1つのパルス期間に吐出される体積Vpulse
【数5】

(1)になると断言することができる。ここでQaveは時間平均流速であり、fはパルス発振周波数である。
【0178】
別の方法は、一般に認められたスケーリング則を用いて1つのパルス発振期間の流速を推定することである。定常状態のエレクトロスプレーの場合、
【数6】

によりスプレー電流が流速と共に変化することが公知である。ここで、γは液体の表面張力である。関数f(ε)は、相対的な誘電率εに依存しており、10-5S/mより高い導電率Kを有する液体の場合に見られた。過渡的なエレクトロスプレージェットがτ=εεo/K(εoは自由空間の誘電率である)によって与えられる電荷緩和時間τよりも長く存在するならば、そのジェットは安定状態にあるとみなしてもよいことが証明されている。本実施例におけるTEG溶液の場合、K=0.033、及びε=23.7であるので、電荷緩和時間は観察されたジェット存続期間よりずっと短い6.4nsである。スケーリング則を適用するためのさらなる要件は、ジェット径がキャピラリ径よりずっと小さいことであり、この条件もまた観察された過渡ジェットにおいて満たされている。さらには、パルス期間に測定された電流から流速を推定するためにスケーリング則を再編することができる。スプレー電流はパルス幅の全体で変化するが、同じ幅の振幅Idcの矩形波で近似してもよい。この電流Idcは、1つのパルスサイクル当たりの放出電荷をτonで割ることにより導き出され、この放出電荷は、データ取り込み時間全体で電流波形を積分した後に、この電荷をパルス数で割ることにより得られる。これにより、1つのパルス期間に吐出される体積は
【数7】

(2)により推定しうる。
【0179】
式(1)を上述のデータに適用すると、各パルスにより吐出される体積は印加電圧の範囲において81fL〜297fLの範囲であることが分かった。式(2)を同じデータに適用すると、吐出される体積は電圧範囲において89fL〜131fLの範囲であると概算される。用いた液体の場合、γ=0.04N/m、及びf(ε)=12だった。測定した流速からの概算が最も正確であるならば、スケーリング則は吐出される体積を実際より少なく推定していることになる。インライン流速測定には複雑なシステムが必要であり、キャピラリパイピングシステムにより液送するアプリケーションには適していない場合もある。これらの場合、式(2)は1桁程度の誤差が認められる予測としては有用であり、必要なものは高速電流波形の取り込みのみである。ジェット形成及び流体吐出の周波数は静電場により決まり、TEG溶液の場合、ある範囲のノズルの大きさでは12〜160μsの継続的な吐出のそれぞれに対して−0.2〜20kHzまで変化した。同じ溶液について、パルス発振電流の振幅、パルス期間、これらからの1つのパルス期間に吐出される電荷の全ては、使用ノズルの大きさに対して減少した。スケーリング則による体積の推定を上述のデータに適用した結果、ある範囲のノズルの大きさからスプレーされたTEG(K=0.033S/m)についてデータが得られた。データ点は電圧範囲の平均値であり、エラーバーは各ノズル毎の電圧範囲で変動があることを表している。比較のため、式(1)からの結果を示す。図から、ノズル径が小さいほどパルス発振で吐出する液体の体積が少なくなることが予測される。4μm径のノズルの場合、1fL程度の体積が予測される。
【0180】
(4 スプレーパルス発振の分離)
パルス発振のナノエレクトロスプレー源をドロップオンデマンド装置として動作させるには、既定数の液体吐出を制御状態で分注する必要があった。これらの実験では、NaIをドープして導電率を0.01S/mとしたTEGを、4μmチップ径のガラスキャピラリからスプレーした。この小さなキャピラリの場合、スプレー電流パルス発振の一般形状はこれよりも大きなキャピラリに見られる形状に似ており、前述にて十分記載のように、使用ノズル径とは関係なく、ある範囲のTEG溶液から得られた全てのパルス発振の電流波形がこの形態に一致した。高速電圧スイッチを用いて、1Hzの周波数で1msの間、−500Vの電位差をスプレー針と基板電極の間に印加した。その結果、電圧パルス期間に印加する正確な電位を変えることにより、予め選択された数のパルス化された液体吐出がオンデマンドで得られた。印加電圧における数ボルトの変化により、1msパルス時間に1〜3の各周期内で得られるパルス数が変化した。電圧をさらに486Vまで上昇すると(図示せず)1msの印加電圧パルス内に5回のパルス発振が発生し、電圧が高くなるほど、電圧パルスの長さ分、スプレーは連続コーンジェットに入った。
【0181】
印加電圧のパルス発振特性に対する2つの主な効果を観察した。第一に、パルス発振周波数は印加電圧に対して上昇する。第二に、電圧パルスの開始及びパルス発振の開始もまた印加電圧の大きさの関数である。電圧が一定しており、パルス発振が固定周波数で安定して発生する状況よりも、これら2つの現象のうちの1つ目の方がより徹底した特徴となった。本実施例のデータは、短い期間にのみ電圧がオンに切り替えられてスプレーを強制的に開始した後、パルス発振スプレーモードを停止させる状況のものである。これは、4μmの針を基板から0.3mmの距離に保持した状態でTEGについて得られたデータである。このように距離を比較的長く取ることで、電場強度は低下し、電圧供給の設定誤差に対する感度が低くなる結果となった。電圧パルスは9.5msの間印加され、多くのスプレーパルスが得られた。図14から、パルス発振周波数は電圧に対して上昇し、例えば1msの電圧パルス等、限定された期間により多くのパルスが発生しうる。またこの図からは、電圧パルスが印加されてから第1のスプレーパルスが発生するまでの経過時間が電圧の影響を強く受け、電圧が上昇するのに伴ってこの経過時間が減少することも分かる。電圧が高いほど第1のスプレーパルスは早く発生するため、電圧がより高くなった時点で限られた時間内により多くのスプレーパルスが発生しうることになる。これらの相補的効果により、わずか数ボルトの上昇により、短い電圧パルス期間においてパルス発振回数が著しく増加することが説明できる。
【0182】
電荷緩和時間6.4nsは、第1の電位印加から電荷放出が開始するまでの時間よりずっと短い。これは、表面上に電荷が蓄積される以外にコーン形成を制限する過程があることを示唆している。そうした挙動が観察された理由として、電場が強いほど、帯電した液体表面上に作用する圧力が強くなり、この圧力が働いた結果、メニスカスがコーンへと変形することが考えられる。圧力は、メニスカスの表面張力に打ち勝ち、さらに液体の慣性、及びキャピラリを通過する液体流れの粘性抵抗に反発して作用しなければならない。次に、電場が強くなるほどコーン形成がより速くなると予想された。液体金属イオン源について行なった研究の結果、導電性の高い液体表面からテイラーコーンが形成される時間は、電圧の上昇に伴って減少することが分かった。慣性よりむしろ粘性効果の方が支配的であることが分かった。しかしながら、本実施例の場合、初めに中空キャピラリの端部において有機溶媒のメニスカスは摂動を受けていないので、テイラーコーンの形成に必要な体積変化ははるかに大きく、結果として慣性が重要になる場合もある。
【0183】
(5 堆積した液体体積の特徴分析)
トリエチレングリコール、エチレングリコール、及び水の3つの溶媒は、いずれも導電性を変化させ、パルスVMES技法によりスプレーした。尚、ナノエレクトロスプレー直接描画技法のパターニング能力を証明するために、市販入手可能なプリンタインクを4μmのガラスキャピラリを用いてスプレーした。このキャピラリは、ターゲットであるシリコン基板表面から適切な距離、典型的には50μm上方に配置した。このインク{Canon PGI5BK(登録商標)インク}の限られた公開情報から、グリセリンとジエチレングリコールとを含む水であることを確認した。我々は、固体質量分率−10%、導電率〜0.4S/m、密度1010kg/m3、及び表面張力38.4mN/mを含む他の特性を測定した。
【0184】
シリコンターゲットは、コンピュータ制御された線形平行移動ステージを用いて移動可能であり、スプレーする液滴を位置制御した。1Hzの周波数で5ms電圧パルス幅を用い、印加電極電位を変化させて、電圧周期当たりに必要な流体パルス数を得た。また、採用した制御手法には、第1のスプレー区域により多くのパルスを置くステップ、それにより大きなインク堆積を生成するステップを含んでなる。この堆積物は明瞭に視認でき、引き続いてSEM顕微鏡によるさらに直接的な特徴分析のための堆積領域を配置するために用いた。この初期化過程に続いて、14μm/sで210μmの距離にわたりシリコン基板を走査し、公称14μmの間隔で堆積区域を生成した。パルス数が多すぎたり堆積区域間の間隔が小さすぎたりすると、インクが乾く前に堆積した体積が合体してしまい、堆積の間隔が不規則に空いた状態になることが分かった。これは、このシリコン基板の吸収力が低いためであるといっても差し支えない。
【0185】
SEM画像を見ると、堆積は一直線に正確に配置されたことが分かる。これらの画像における各残留堆積は、−411Vの電位が基板に印加された5msの間に生成された3回のパルス発振によるものであった。これらのパルス発振からの残留が合体するのは、「書き込みオン」の期間にターゲットがわずかしか移動しないためである。わずかにあるこれらの残留区域のうちたった2つの高倍率画像だけが、堆積がよく画成されかつ再現性があることを示している。TEGの実験で考察したように、電圧が高いほどパルス発振数は多く、つまり−427Vを印加することで電圧パルス期間に6個のパルスが発生した。このようにして同じ場所に発生するパルス数を増加しうることにより、AFM画像に示すように、平滑なトポグラフィーを有するより大きな堆積を形成されうる。
【0186】
AFM画像は、各場所に1〜2個のパルスを割り当てるのと同時に基板を2次元的に横断した結果を示している。このインク堆積は、標準偏差を0.29μmとして1.37μmの平均寸法を有する。2D位置ノモグラム内に配置誤差の実分布が観察される場合もある。堆積の平均配置誤差は2.86μmであり、標準偏差は0.29μmであった。開放卓上取付型の装置に対して外乱を最小限にするための特別な予防措置は施さなかった。発明者らは、制振テーブルの使用により配置誤差は低減されると考えている。こうしたパターニングは、堆積の絶対的配置を2次元制御できることを示している。
【0187】
堆積物質の大きさを用い、1つのパルス期間に吐出される液体をさらに推定することができる。表面上に残る物質の体積Vr(気化した液滴の跡)は、まず、AFMから得た高さhr及び半径rrを有する痕跡の測定プロファイルに円弧をフィットすることにより推定した。回転円弧の体積は
【数8】

によって与えられる。この方法を用いて求めた液滴跡の体積は2.4〜6.2×10−20m3の範囲だった。液滴跡は主に炭素色素であるため、固体炭素密度を2267kg・m−3にして用いると液滴跡密度prに上限値を設定することになる。測定された液体密度ρd及び固体質量分率msolidを用いるなら、液滴の体積自体が推定されうる。液滴跡のデータの場合、この体積
【数9】

から、パルス発振によって吐出された流体体積は1.1〜2.8fLの範囲にあることを確認した。残留物を形成する前にこの吐出された液体がシリコン上に半球形の液滴を形成したならば、最初の直径は1.6〜2.2μmの範囲にあったことになる。これは、溶媒が気化する前にインクがよく分散されると仮定して測定された残留物によく一致している。このインクについてパルス発振電流波形を分析した結果、スプレー電流は最大50nAであり、パルス幅は最大34μsであることが分かった。このインクの相対誘電率は測定されなかったが、80未満でありかつ関数f(ε)に従うと仮定すると、単一パルスにより吐出される体積は0.9〜1.33fLの間にあると推定される。これは、見られた液滴跡の大きさ及び気化する前の液滴の推定体積の両方によく一致している。
【0188】
単一パルスにより吐出される体積は使用ノズル径に対して減少すると予測した。直径4μmのノズルを用いると、パルスによりフェムトリットル体積の吐出が生じたと予測した。4μmのノズルを用いて色素が入ったインクを堆積した実験結果からは、1〜2μmの液滴跡が1.1〜2.8fLと推定される液滴体積に一致することが分かった。これらの結果は、ナノエレクトロスプレーのパルス発振によって吐出される体積を予測する簡単な方法として式(2)の妥当性がある程度限定されることを示唆した。115μmのノズルについて式(1)を用いて導いた体積、及び式(2)の予測と同じオーダーであるインライン流速測定値から、さらなる裏付けが得られた。尚、パルスにより吐出される体積を予測するための式(2)の信頼性を十分に評価するには、より多くのノズルの大きさ及び液を試験すべきである。
【0189】
(5 結論)
本実験で用いた堆積速度は数Hzと低いが、これは、高いkHzレベルにある周波数を示すパルス発振VMESモードの限界によるものではない。この堆積概念を実証するため、市販入手可能なプリンタインクを使用して、電圧変調したエレクトロスプレーが高い空間分解能によりシリコン表面をパターン化する潜在能力を有することを示した。本発明の実施例において、パルス1〜2個が残留物を形成し、1.4±0.3μmのスケールで特徴構造が得られた。従って、この過程により、最新のインクジェット技術によって提供される方法等の別の直接描画法と比較すると、堆積の大きさにおいて1桁以上の縮小が達成される。さらにかつ有利なことに、分注される液体は帯電しているため、この技法によって潜在的により大きな柔軟性がもたらされ、ターゲット表面上に物質を正確に配置する。実際に、プリンタインクは色素を基にしているため、これらの結果より固体粒子の懸濁液を堆積させるVMESの適合性が証明される。発明者らは、ドロップオンデマンド式直接描画法におけるfLの堆積を分注することへのこうした新たな取り組みは、インクジェット技術に代わる多くの用途で実行可能な方法になる可能性を有しているという結論に達する。
【図面の簡単な説明】
【0190】
以下、図を参照して本発明の実施形態を記載する。
【図1】本発明に係る装置の構成図である。
【図2】本発明から得られる結果を示す図である。
【図3】第1の液体を用いるエレクトロスプレー装置の種々のモードのグラフである。
【図4】第2の液体を用いるエレクトロスプレーパルスのグラフである。
【図5】エレクトロスプレーのパルスに対する電流のグラフである。
【図6】図6Aは本発明の第2の実施形態による装置の側面図である。図6Bは本発明の第3の実施形態による装置の側面図である。図6Cは本発明の第4の実施形態による装置の側面図である。図6Dは本発明の第5の実施形態による装置の側面図である。
【図7】本発明により分配される流体のpL以下の体積の顕微鏡写真である。
【図8】図8Aは本発明によるエミッタチューブ配列の側面図である。図8Bは本発明によるエミッタチューブ及び基板の配列の側面図である。
【図9】図9Aは本発明によるエレクトロスプレーを受けた後の基板の平面図である。図9Bは本発明によるエレクトロスプレーを受けた後の基板のさらなる平面図である。
【図10】図10Aは本発明によるエレクトロスプレーを受けた後の基板のさらなる平面図である。図10Bは本発明によるエレクトロスプレーを受けた後の基板のさらなる平面図である。
【図11】15μmエミッタ上のT1、T6及びT25への電圧過剰に対する発振周波数の関係を示すグラフである。
【図12】パルス期間中の平均ピーク電流における液体導電率及びチップ径の効果のプロットである。
【図13】チップ径Dtの関数としての、Qpulse*Ipeak/(K*Dt)のプロットである。
【図14】パルス形成時間、周波数及び一定時間内のパルス数における印加電圧の効果のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定周波数でパルス状に一定量の液体を分散させるエレクトロスプレー装置であって、
前記装置が:
液体のスプレーの起点となりうるスプレー領域を有するエミッタと、
前記エミッタの内部、表面又は近傍に存在する液体に電場を印加する手段とを含んでなり、これにより、使用時に、電場が印加されている間、液体が前記スプレー領域から静電力により引き出され、一定周波数でエレクトロスプレーが発生する、エレクトロスプレー装置。
【請求項2】
前記エミッタが液体を受容するためのキャビティを備え、かつ前記スプレー領域が当該キャビティと流体連通したアパーチャである、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項3】
前記エミッタがチューブである、請求項2に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項4】
前記エミッタが隆起点を有する面であり、前記スプレー領域が1以上の当該隆起点の上に配置されている、請求項1に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項5】
前記電場を印加する手段が、少なくとも2つの電極部と、当該電極部に接続されている電圧電源とを備え、少なくとも1つの電極部が前記スプレー領域から間隔を置いてかつ前記スプレー領域と整列して配置され、少なくとも1つの電極部が前記液体に結合可能である、請求項1から4のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項6】
さらに液体を収容するための貯蔵部を備え、当該貯蔵部が流路により前記キャビティに連結されている、請求項2又は3に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項7】
前記貯蔵部からエミッタまでの液体の流れが、流体を測定する装置によりモニターされ、好適には、前記装置が、間隔を置いて配置された1対の圧力センサ間の圧力降下を測定する、請求項6に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項8】
前記アパチャーが0.1〜500μmの直径を有する、請求項2又は3に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項9】
前記アパチャーが0.1〜50μmの直径を有する、請求項2又は3に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項10】
前記基板が、前記スプレー領域から間隔を置いて設けられ、前記スプレーされた液体が基板表面上に堆積してフィーチャーを形成する、請求項1から9のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項11】
前記基板と前記スプレー領域との間の相対変位を生じさせる手段を含んでなる、請求項10に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項12】
前記基板と前記スプレー領域との間の距離が変更可能であり、これにより基板上に形成されるフィーチャーの大きさを変化させることが可能である、請求項11に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項13】
前記基板と前記スプレー領域との間の相対変位が、前記基板の面に平行な面内で生じる、請求項11又は12に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項14】
前記基板が事前形成された粒子又は分子の単一層でコーティングされ、及び/又は、前記基板が事前形成された粒子又は分子の準単一層でコーティングされている、請求項10から13のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項15】
前記基板が絶縁体、半導体又は導体である、請求項10から14のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項16】
前記液体が、基板の濡れ性を変化させる可能な表面改質材を含有する、請求項10から15のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項17】
前記基板表面が多孔質又は非多孔質である、請求項10から16のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項18】
単一パルスによって吐出される前記液体の体積が、0.1fL〜1fL、1fL〜1pL、又は1pL〜100pLである、請求項1から17のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項19】
複数パルスの連続放出により堆積する前記液体の全体積が、0.1fL〜0.1pL、0.1pL〜1nL、又は1nL〜1μLである、請求項1から18のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項20】
エレクトロスプレーが、1kHz〜10kHz、1Hz〜100Hz、10kHz〜100kHz、100Hz〜1000Hz、又は100kHz〜1MHzの周波数で発生する、請求項1から19のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項21】
前記スプレー領域が、エレクトロスプレーされる液体と混合しないか又は部分的に混合する第2の流体内に配置されている、請求項1から20のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項22】
前記第2の液体が静止相又は流動相である、請求項15に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項23】
前記スプレー領域が筐体内に配置され、前記筐体が、大気、高圧ガス、真空、二酸化炭素、アルゴン又は窒素等(これらに限定されない)の任意の気体を収容する、請求項1から22のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項24】
複数のエミッタを含んでなり、各エミッタが前記スプレー領域近傍に存在する液体に電場を印加するための手段を有する、請求項1から23のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項25】
前記エミッタがアレイ状に配列されている、請求項24に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項26】
前記電場を印加するための手段を各スプレー領域で独立して動作させ、前記電場を制御することが可能である、請求項24又は25に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項27】
さらに前記電場を印加する手段に接続する高速スイッチを含んでなり、前記高速スイッチにより電圧をオフ又はオンして、前記エレクトロスプレー装置から液体が吐出される時間が精密に制御される、請求項1から26のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項28】
前記装置が機械式ポンプ、又は前記液体を加圧するための他のいかなる手段も有さない、請求項1から27のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー装置。
【請求項29】
エレクトロスプレー方法であって;
液体のスプレーの起点となりうる領域を有する、液体を受容するためのエミッタを準備するステップと、
前記液体に適宜選択された強度の電場を印加するステップ、を含んでなり、
それにより液体が静電気力により前記スプレー領域に引き出され、さらに、前記電場が印加されている間に、一定周波数においてパルス状にエレクトロスプレーが発生するように、前記電場の強度、液体粘度及び導電率、及びエミッタの配置が選択される、エレクトロスプレー方法。
【請求項30】
機械式ポンプ又は前記液体を加圧するための他のいかなる手段も用いずに、前記スプレー領域に液体が引き出される、請求項29に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項31】
前記エミッタが液体を受容するためのキャビティを備え、かつ前記スプレー領域が、前記キャビティと流体連通したアパーチャである、請求項29に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項32】
前記エミッタがチューブである、請求項31に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項33】
前記エミッタが隆起点を有する面であり、前記スプレー領域が1以上の前記隆起点の上に配置されている、請求項29に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項34】
複数のエミッタが設けられ、各エミッタに印加される前記電場が独立制御される、請求項29に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項35】
前記スプレー領域から間隔を置いて基板が設けられ、基板上にフィーチャーが形成されるように前記基板がスプレーされた液体を受容する、請求項29から34のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項36】
前記液体が、基板の濡れ性を変化させることが可能な表面改質材を含有する、請求項35に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項37】
基板上に前記フィーチャーが形成された後、前記フィーチャーから流体が蒸発し、前記フィーチャーが存在するの場所における基板表面の濡れ性が表面改質材により変化しうる、請求項36に記載のエレクトロスプレー方法。36.前記基板と前記スプレー領域との間の相対変位が、前記基板面に平行な面内で生じる、請求項33から35のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー方法。
【請求項38】
前記基板と前記スプレー領域との間における相対変位を生じさせ、前記基板と前記スプレー領域との間の距離を変化させる、請求項35から37のいずれか1項に記載のエレクトロスプレー方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公表番号】特表2009−520951(P2009−520951A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543902(P2008−543902)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004586
【国際公開番号】WO2007/066122
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(507078256)クイーン マリー アンド ウエストフィールド カレッジ (5)
【Fターム(参考)】