説明

エレベータのドア制御装置

【課題】戸閉時にドアモータのロック位置を自動で調整し、各相のうちの1相に電流が集中して流れて破損することを防ぐ。
【解決手段】ドアモータ15の各相に所要の電流を流して、ドアを開閉動作させるエレベータのドア制御装置において、ドアを閉じた状態でドアモータ15をロックする際に、ドアモータ15のトルクを一時的に変化させ、ドアモータ15の各相のうちの1相に電流が集中的に流れないようにロック位置を調整するロック位置制御装置25を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ドアモータの駆動により乗りかごのドア(かごドア)を開閉制御するエレベータのドア制御装置に関する
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗りかごに設置されたドア(かごドア)は、ドアモータの駆動により開閉動作する。なお、駆動源であるドアモータは乗りかご側に設けられており、乗場ドアはかごドアに係合して開閉動作する。
【0003】
ここで、通常、ドアを閉めている場合には、ドアモータに電流を流して、ドアの戸閉力であるロックトルクを発生させている。このとき、ドアモータは回転しないため、ドアモータの各相に流れる電流は時間的に変化せず、ロックする位置によって異なる値となる。この場合、各相に流れる電流の大きさは、ドア機構部の組み立て時にドアモータをロックする位置によって決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−280788号公報
【特許文献2】特公平1−55192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
戸閉時にドアモータに電流を流してロックすることで、強風やいたずら等によりドアが簡単に開いてしまうことを防ぐことができる。しかしながら、ドアモータをロックしたとき、ドアパネルの全閉位置とドアモータの回転角との関係でドアモータの各相のうちの1相に電流が集中的に流れることがある。
【0006】
具体的には、ドアモータとしては3相交流モータが用いられ、その3相交流モータの1相に三相交流電流の最大値(実効値×√2)が流れる。この場合、モータ電流をI、抵抗をRとすると、熱エネルギーIRが1相だけに集中することになる。その結果、コイルの巻線温度が上昇し、絶縁耐熱温度を超えて破損する可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、戸閉時にドアモータのロック位置を自動で調整し、各相のうちの1相に電流が集中して流れて破損することを防ぐようにしたエレベータのドア制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るエレベータのドア制御装置は、ドアモータの各相に所要の電流を流して、ドアを開閉動作させるエレベータのドア制御装置において、上記ドアを閉じた状態で上記ドアモータをロックする際に、上記ドアモータのトルクを一時的に変化させ、上記ドアモータの各相のうちの1相に電流が集中的に流れないようにロック位置を調整するロック位置制御手段を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は第1の実施形態に係るエレベータの乗りかごに設けられたドア機構部の構成を示す図である。
【図2】図2は同実施形態におけるエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態におけるドアモータのロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は同実施形態におけるドアモータのロック位置調整時の各信号の波形を示す図である。
【図5】図5は第2の実施形態におけるエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は同実施形態におけるドアモータのロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は第3の実施形態におけるエレベータのドア制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は第3の実施形態におけるドアモータのロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は第4の実施形態におけるドアモータのロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータの乗りかごに設けられたドア機構部の構成を示す図である。
【0012】
図示せぬ乗りかごに設けられたドアパネル11a,11bは、それぞれハンガ12a,12bに支持され、駆動ベルト13に連結される。ドア用プーリ14a,14bは、駆動ベルト13を介して連結される。ドア用プーリ14aにはドアモータ15が連結されている。このドアモータ15の駆動によりプーリ14a,14bが回転し、駆動ベルト13を介してドアパネル11a,11bが開閉動作する。なお、ドアパネル11a,11bは、乗りかごの着床時に乗場ドアのパネルに係合した状態で一緒に開閉動作する。
【0013】
ドアモータ15は、3相交流モータからなる。このドアモータ15の回転軸に回転速度検出器16が取り付けられている。ドア制御装置17は、回転速度検出器16によって検出される回転速度に基づいてドアモータ15の駆動を制御する。
【0014】
図2は同実施形態におけるエレベータのドア制御装置17の構成を示すブロック図である。
【0015】
エレベータ主制御装置20は、エレベータ全体の運転制御を行うものであり、ドアの開閉時に速度指令Wrefを速度制御装置21に出力する。速度制御装置21は、回転速度検出器16から出力されるドアモータ15の速度Wfbと速度指令Wrefとを比較し、その差分から速度トルク指令Trefを生成して電流制御装置22に出力する。
【0016】
電流制御装置22は、電流検出器24a,24bから出力されるドアモータ15の電流値と回転速度検出器16から出力される速度Wfbとに基づいてドアモータ15に発生しているトルクTmを計算し、そのトルクTmが速度トルク指令Trefと一致するように電圧指令Vrefを生成してインバータ23に出力する。
【0017】
インバータ23は、電流制御装置22からの電圧指令Vrefに応じた電力をドアモータ15に供給してドアモータ15を回転駆動する。なお、ドアモータ15の3相の巻線のうちの少なくとも2相(この例ではU相とW相)の巻線に電流検出器24a,24bが接続されており、この電流検出器24a,24bによって検出された電流値が電流制御装置22にフィードバックされる構成になっている。
【0018】
ここで、ドアロック時の処理について説明する。
エレベータ主制御装置20がドアのロック指令を速度制御装置21に出力する。速度制御装置21では、このロック指令を受けると、速度ゼロの指令と共にロックトルク指令Tref0を電流制御装置22に出力する。
【0019】
電流制御装置22は、ロックトルク指令Tref0を受けると、電流検出器24a,24bから出力される電流値からドアモータ15のトルクTmを計算し、Tref0とTmを一致させるように電圧指令Vref0をインバータ23へ出力する。インバータ23は、電圧指令Vref0に応じた電力をドアモータ15に供給する。これにより、ドアモータ15にロックトルクが発生し、ドアパネル11a,11bが戸閉状態でロックされることになる。
【0020】
その際、ドアパネル11a,11bの全閉位置とドアモータ15ドアモータの回転角との関係でドアモータ15の3相のうちの1相に電流が集中して流れ、コイルの巻線温度が上昇して破損する可能性がある。
【0021】
このような問題を解消するため、ドア制御装置17にロック位置制御装置25が備えられている。ロック位置制御装置25は、戸閉時にドアモータ15の1相に電流が集中して流れないようにロック位置の調整を行う。
【0022】
以下に、ドアモータ15のロック位置を調整するための処理について詳しく説明する。
【0023】
図3は第1の実施形態におけるドアモータ15のロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【0024】
戸閉状態において、回転速度検出器16の出力変化0の状態が一定時間続いた場合にロック位置の調整処理が開始される。なお、戸閉状態であっても、通常、ドア機構部のバックラッシュ(遊び)があるため、トルクを上げて再駆動すると、ドアモータ15を戸閉方向にさらに回転させることができる。
【0025】
そこで、ロック位置制御装置25は、ロック位置調整トルク指令T1を出力する(ステップS101)。電流制御装置22は、速度制御装置21から出力されるロックトルク指令Tref0にロック位置調整トルク指令T1を加算してトルク指令Ttotalを求める(ステップS102)。そして、電流制御装置22は、このトルク指令Ttotalからロック位置調整電圧指令Vtotalを生成してインバータ23に出力する(ステップS103)。
【0026】
これにより、ドアモータ15がドアロックされた状態からさらに戸閉方向に回転して、ロック位置が変化する。このとき、電流検出器24a,24bによってドアモータ15に流れる電流Iu、Iwの値を検出し、ロック位置制御装置25に出力する(ステップS104〜S105)。
【0027】
ロック位置制御装置25は、電流検出器24a,24bによって検出された電流Iu,Iwの値から電流Ivの値を計算する(ステップS106)。なお、3相の電流Iu,Iw,Ivの和はゼロであるため、V相の電流は、Iv=−Iu−Iwで求まる。
【0028】
ここで、ロック位置制御装置25は、3相の電流Iu,Iw,Ivの中でゼロとなる相の有無を判定する(ステップS107)。この間、ロック位置調整トルク指令T1は出力中にあって、ロック位置が変化した状態にある。そして、3相の中で電流値ゼロになった相が判定されると(ステップS107のYes)、ロック位置制御装置25は、その位置をロック位置として定め、ロック位置調整トルクT1の出力を停止して調整処理を終了する(ステップS108)。
【0029】
この様子を図4に示す。
図4は同実施形態におけるドアモータのロック位置調整時の各信号の波形を示す図である。
【0030】
ロック位置調整時にロック位置調整トルク指令T1が出力され、そのロック位置調整トルク指令T1とロックトルク指令Tref0を加算したトルク指令Ttotalによりドアモータ15がロック状態からさらに回転する。
【0031】
今、ロック位置の調整を開始する時間をt1としたとき、ドアモータ15のU相に最大電流Imaxが流れている状態にあるとする。トルク指令Ttotalによりドアモータ15が回転し、各相の電流波形が120度ずれて変化する。
【0032】
ここで、t2の時間に例えばV相の電流Ivがゼロになると、その位置がロック位置として定められて調整動作が終了する。これは、3相の電流の合計値がゼロであるため、そのうちの1相の電流値がゼロになる位置を見つければ、他の2相には最大電流Imaxの半分の電流が流れた状態にあるからである。この位置でドアモータ15の回転をロックすれば、1相にだけ電流が集中的に流れる状態を回避できる。
【0033】
なお、上記ステップS107では、1相の電流値がゼロになる状態を検出したが、ある程度の幅を持たせて、相の電流値がゼロに近い状態を検出して調整動作を止めることでも良い。要は、1相だけに電流が集中的に流れていない状態を検出してロック位置を調整すれば良い。
【0034】
このように第1の実施形態によれば、戸閉時にドアモータ15のロック位置を調整することにより、1相に電流が集中する状態を回避して、温度上昇による破損を防ぐことができる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。
【0036】
上記第1の実施形態では、ドアモータ15の各相の電流状態に関係なく、回転速度検出器16の出力変化0の状態が一定時間続いた場合にロック位置の調整処理を開始していた。しかし、1相に電流が集中していない状態でドアモータ15の回転が止まっていることもある。そこで、第2の実施形態では、ドアモータ15の回転をロックしたときの各相の電流状態からロック位置調整の必要性を判定し、必要な場合にのみロック位置の調整処理を行うようにしたものである。
【0037】
図5は第2の実施形態におけるエレベータのドア制御装置17の構成を示すブロック図である。なお、上記第1の実施形態における図2の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
第2の実施形態において、ドア制御装置17にはロック位置調整判定装置26が備えられている。ロック位置調整判定装置26は、ドア(ドアパネル11a,11b)を閉じたときのドアモータ15の各相の電流値に基づいてロック位置を調整するか否かを判定する。具体的には、ドアモータ15の3相のうちの2相が同じ値である場合に、ロック位置を調整する必要ありと判定する。ロック位置制御装置25は、このロック位置調整判定装置26の判定結果を受けてドアモータ15のロック位置を調整する。
【0039】
図6は第2の実施形態におけるドアモータ15のロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
ロックトルクが印加された戸閉状態において、電流検出器24a,24bによってドアモータ15に流れる電流Iu、Iwの値を検出し、ロック位置調整判定装置26に出力する(ステップS201〜S202)。
【0041】
ロック位置調整判定装置26は、電流検出器24a,24bによって検出された電流Iu,Iwの値から電流Ivの値を計算する(ステップS203)。なお、3相の電流Iu,Iw,Ivの和はゼロであるため、V相の電流は、Iv=−Iu−Iwで求まる。
【0042】
ここで、ロック位置調整判定装置26は、ドアモータ15の3相のうちの2相の電流値が同じ値であるか否かを判断する(ステップS204)。図4に示す時間t1のときのように、2相の電流値が同じ場合には、残りの1相に最大電流Imaxが流れた状態にある。図4のt1の時間では、Iu=Imax,Iw=Iv=Imax/2である。逆に、2相の電流値が同じ値でなければ、各相に電流がバランスよく流れた状態にある。
【0043】
したがって、ドアモータ15の3相のうちの2相の電流値が同じ値でなければ(ステップS204のNo)、ロック位置調整判定装置26は、ロック位置を調整する必要なしと判定し、その判定結果をロック位置制御装置25に出力する。これにより、ロック位置制御装置25では、ドアモータ15のロック位置を調整せず、現在止まっている位置をロック位置として維持する。
【0044】
一方、ドアモータ15の3相のうちの2相の電流値が同じ値であれば(ステップS204のYes)、1相に最大電流Imaxが流れている状態であり、ロック位置調整判定装置26は、ロック位置を調整する必要ありと判定し、その判定結果をロック位置制御装置25に出力する。これにより、ロック位置制御装置25では、上記第1の実施形態と同様に、ロック位置の調整処理を行う。
【0045】
すなわち、ロック位置制御装置25は、ロック位置調整トルク指令T1を出力する(ステップS205)。電流制御装置22は、速度制御装置21から出力されるロックトルク指令Tref0にロック位置調整トルク指令T1を加算してトルク指令Ttotalを求める(ステップS206)。そして、電流制御装置22は、このトルク指令Ttotalからロック位置調整電圧指令Vtotalを生成してインバータ23に出力する(ステップS207)。
【0046】
これにより、ドアモータ15がドアロックされた状態からさらに回転して、ロック位置が変化する。このとき、電流検出器24a,24bによってドアモータ15に流れる電流Iu、Iwの値を検出すると共に、その電流Iu,Iwの値から電流Ivの値を計算する(ステップS208〜S210)。
【0047】
ここで、ロック位置制御装置25は、3相の電流Iu,Iw,Ivの中でゼロとなる相を検出し(ステップS211)、その時点の位置をロック位置として定め、ロック位置調整トルクT1の出力を停止して調整処理を終了する(ステップS212)。
【0048】
なお、上記ステップS204では、ドアモータ15の3相のうちの2相の電流値が同じ値である場合を検出したが、ある程度の幅を持たせて、所定の範囲内で一致している状態を検出して調整動作を行うようにしても良い。要は、1相だけに電流が集中的に流れている状態を検出したときに調整動作を行うようにすれば良い。
【0049】
このように第2の実施形態によれば、ドアモータ15の回転をロックしたときの各相の電流状態からロック位置調整の必要性を判定し、必要な場合にのみロック位置の調整処理を行うようにしたことにより、不必要なロック位置の調整動作を無くして、電力消費を抑えることができる。
【0050】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0051】
第3の実施形態では、過去にドアモータ15のロック位置を調整したときのトルク値を学習(記憶)しておき、次回の調整時に使用するようにしたものである。
【0052】
図7は第3の実施形態におけるエレベータのドア制御装置17の構成を示すブロック図である。なお、上記第2の実施形態における図5の構成と同じ部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0053】
第3の実施形態において、ドア制御装置17にはロック位置調整トルク記憶装置27と調整トルク変更装置28が備えられている。
【0054】
ロック位置調整トルク記憶装置27は、初めてドアモータ15のロック位置を調整したときのトルク値を記憶する。すなわち、上記第1の実施形態では、ロック位置調整時のトルク値が設定値で固定であった。第2の実施形態では、初回のロック位置調整時にトルク値をゼロから徐々に増加させ、ドアモータ15の電流値Iu,Iv,Iwのうち1相がゼロとなるまで印加する。そして、1相の電流値がゼロになったときのトルク値をロック位置調整トルク記憶装置15に記憶しておく。
【0055】
調整トルク変更装置28は、このロック位置調整トルク記憶装置27に記憶されたトルク値を次回のロック位置調整時にロック位置制御装置25に与える。
【0056】
図8は第3の実施形態におけるドアモータ15のロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは上記第2の実施形態で説明したロック位置調整判定装置26によるロック位置の調整判定処理については省略する。
【0057】
ロック位置の調整処理が開始されると、まず、初回の調整であるか否かを調整トルク変更装置28が判断する(ステップS301)。初回の調整であれば(ステップS301のYes)、ロック位置制御装置25は、ロック位置調整トルク指令T1を出力後(ステップS302)、そのトルク値をゼロから徐々に増加させる(ステップS303)。
【0058】
この間、上記第1の実施形態と同様にIu,Iv,Iwのうち1相の電流値がゼロとなるまでロック位置調整トルク指令T1を出力する(ステップS304〜S307)。そして、Iu,Iv,Iwのうち1相がゼロになると、ロック位置制御装置25は、その時点の位置をロック位置として定め、そのときのトルク値をロック位置調整トルク記憶装置27に記憶した後(ステップS308)、ロック位置調整トルクT1の出力を停止して調整処理を終了する(ステップS309)。
【0059】
次回のロック位置調整時には、このロック位置調整トルク記憶装置27に記憶したトルク値を使用する。すなわち、上記ステップS301にて初回の調整でない場合に、調整トルク変更装置28は、ロック位置調整トルク記憶装置27から前回のトルク値を読み出してロック位置制御装置25に与える。
【0060】
これにより、ロック位置制御装置25では、前回のトルク値を反映させてロック位置調整トルク指令T2を出力し(ステップS310)、そのトルク値でドアモータ15を回転させながら、上記同様にしてロック位置を調整する(ステップS311〜S314)。
【0061】
このように第3の実施形態によれば、過去のロック位置調整トルクを学習しておくことで、次回、ロック位置を調整する際に適切なトルク値を出力してロック位置を正確に調整することができる。
【0062】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0063】
乗りかごに設置されたドア(かごドア)は、各階の乗場に設置されたドア(乗場ドア)に係合して開閉動作する。この場合、乗場ドアの負荷は必ずしも各階で同じではなく、各階で用いられているドアの重量やドアレールの状態などによって異なる。そこで、第4の実施形態では、上記第3の実施形態におけるトルク値の学習に階床の情報を含ませるようにしたものである。
【0064】
装置構成は図7と同様である。ただし、ロック位置調整トルク記憶装置27には過去(初回)のトルク値と共にそのトルク値を得た階床の情報を記憶しておく。調整トルク変更装置28は、次回のトルク位置調整時に現在の階床を判断し、その階床に対応したトルク値をロック位置調整トルク記憶装置27から読み出してロック位置制御装置25に与える。
【0065】
図9は第4の実施形態におけるドアモータ15のロック位置調整処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは上記第2の実施形態で説明したロック位置調整判定装置26によるロック位置の調整判定処理については省略する。
【0066】
また、ステップS401〜S407までの処理は上記図8のステップS301〜S307と同様である。
【0067】
すなわち、ロック位置の調整処理が開始されると、まず、初回の調整であるか否かを調整トルク変更装置28が判断する(ステップS401)。初回の調整であれば(ステップS401のYes)、ロック位置制御装置25は、ロック位置調整トルク指令T1を出力後(ステップS402)、そのトルク値をゼロから徐々に増加させる(ステップS403)。
【0068】
この間、上記第1の実施形態と同様にIu,Iv,Iwのうち1相の電流値がゼロとなるまでロック位置調整トルク指令T1を出力する(ステップS404〜S407)。そして、Iu,Iv,Iwのうち1相がゼロになると、ロック位置制御装置25は、その時点の位置をロック位置として定め、そのときのトルク値をロック位置調整トルク記憶装置27に記憶する。
【0069】
その際、第4の実施形態では、ロック位置制御装置25がエレベータ主制御装置20から乗りかごが現在停止している階床の情報を取得して、当該トルク値と関連付けてロック位置調整トルク記憶装置27に記憶する(ステップS408)。トルク値と階床情報の記憶後、ロック位置調整トルクT1の出力を停止して調整処理を終了する(ステップS409)。
【0070】
次回のロック位置調整時には、このロック位置調整トルク記憶装置27に記憶したトルク値を階床毎に区別して使用する。すなわち、上記ステップS401にて初回の調整でない場合に、調整トルク変更装置28は、現在の階床を判断し(ステップS410)、ロック位置調整トルク記憶装置27から当該階床に対応した前回のトルク値を読み出してロック位置制御装置25に与える。なお、現在の階床の判断方法については、エレベータで一般的に使われている方法を用いるものとし、ここではその詳しい説明は省略する。
【0071】
これにより、ロック位置制御装置25では、前回と同じ階で得たトルク値を反映させてロック位置調整トルク指令T2を出力し(ステップS411)、そのトルク値でドアモータ15を回転させながら、上記同様にしてロック位置を調整する(ステップS412〜S415)。
【0072】
このように第4の実施形態によれば、過去のロック位置調整トルクに階床の情報を関連付けて学習しておくことで、各階の乗場ドアの負荷が異なる場合であっても、次回、同じ階でロック位置を調整する際に適切なトルク値を出力してロック位置を正確に調整することができる。
【0073】
なお、上記各実施形態では、戸閉状態でドアモータ15のロック位置を調整する際に、ドアモータ15のトルクを現状よりも上げて、さらに閉じる方向に回転させるようにしたが、トルクを上げるだけでなく、例えばトルクを一旦下げてから上げるといったように、ドアモータ15のトルクを増減(変化)させながらで、ロック位置を調整することでも良い。
【0074】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、戸閉時にドアモータのロック位置を自動で調整し、各相のうちの1相に電流が集中して流れて破損することを防ぐようにしたエレベータのドア制御装置を提供することができる。
【0075】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
11a,11b…ドアパネル、12a,12b…ハンガ、13…駆動ベルト、14a,14b…ドア用プーリ、15…ドアモータ、16…回転速度検出器、17…ドア制御装置、20…エレベータ主制御装置、21…速度制御装置、22…電流制御装置、23…インバータ、24a,24b…電流検出器、25…ロック位置制御装置、26…ロック位置調整判定装置、27…ロック位置調整トルク記憶装置、28…調整トルク変更装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアモータの各相に所要の電流を流して、ドアを開閉動作させるエレベータのドア制御装置において、
上記ドアを閉じた状態で上記ドアモータをロックする際に、上記ドアモータのトルクを一時的に変化させ、上記ドアモータの各相のうちの1相に電流が集中的に流れないようにロック位置を調整するロック位置制御手段を具備したことを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項2】
上記ロック位置調整手段は、
ロック位置調整のためのトルクを出力中に上記ドアモータの各相の電流値を検出し、いずれかの1相がゼロあるいはゼロに近い値になった位置をロック位置として定めて、上記トルクの出力を停止することを特徴とする請求項1記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項3】
上記ドアを閉じたときの上記ドアモータの各相の電流値に基づいてロック位置を調整するか否かを判定するロック位置調整判定手段をさらに具備し、
上記ロック位置調整手段は、
上記ロック位置調整判定手段の判定結果に応じてロック位置の調整を行うことを特徴とする請求項1または2記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
上記ロック位置調整判定手段は、
上記ドアモータの各相の電流値が所定の範囲内にあるときにロック位置を調整するものと判定することを特徴とする請求項3記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
過去にロック位置を調整したときのトルクを記憶する記憶手段をさらに具備し、
上記ロック位置調整手段は、
上記記憶手段に記憶されたトルクを次のロック位置の調整に使用することを特徴とする請求項1または2記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項6】
上記記憶手段には、過去にロック位置を調整したときのトルクが階床の情報と関連付けて記憶されており、
上記ロック位置調整手段は、
上記乗りかごが停止している階床を判断し、上記記憶手段から当該階床のトルクを読み出してロック位置の調整に使用することを特徴とする請求項5記載のエレベータのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−23355(P2013−23355A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160835(P2011−160835)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】