エレベータの保護板装置
【課題】 エレベータのかごの下面に、伸縮する保護板を取りつけると、可動板が振動して固定板への衝突を繰り返して異音が生じる。
【解決手段】 保護板8は、かごの下面に固定した固定板9と、該固定板9に対して昇降可能な可動板10とにより構成し、可動板10が自重により降下した状態から、かごが降下して可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接すると固定板9に対して可動板10が相対的に上昇するように構成し、固定板9には鉛直方向に沿う一対のガイド部9aを設け、可動板10にはガイド部9aに摺動しかつ可動板10が振動して固定板9への衝突を繰り返すのを回避するガイドシュー11を装着する。
【解決手段】 保護板8は、かごの下面に固定した固定板9と、該固定板9に対して昇降可能な可動板10とにより構成し、可動板10が自重により降下した状態から、かごが降下して可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接すると固定板9に対して可動板10が相対的に上昇するように構成し、固定板9には鉛直方向に沿う一対のガイド部9aを設け、可動板10にはガイド部9aに摺動しかつ可動板10が振動して固定板9への衝突を繰り返すのを回避するガイドシュー11を装着する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの保護板装置に関し、保護板を固定板と可動板とにより伸縮自在に構成した場合に、可動板が振動し固定板への衝突を繰り返して異音が生じるのを防止したものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの構成を図10に示す。かご1がワイヤ7に吊り下げられており、かご1は図示しない昇降路に沿って昇降可能に設けられている。そして、各階床5の乗場とかご1との間には、人が乗り降りするための開口部が形成され、該開口部には扉6が設けられている。かご1が各階床5へ降りてきてかご1の底板4の上面が階床5と同一高さとなった後に扉3が開けば問題ないが、底板4が階床5の高さと一致する前に扉6が開き始めるため、つま先がかご1の底板4の下に入り込んで底板4と階床5との間につま先を挟んでしまったり、物を昇降路に落としてしまったりする虞がある。また、停電や故障等により乗場出入口の高さよりもかごの床面が高い状態でかごが停止した場合には、乗場出入口とかごの床面との間に大きな開口部が生じてしまい、乗客が自力でかごの開閉扉を開けて乗場出入口へ脱出しようと試みたときに、この開口部から乗客が昇降路の内部に落下する虞がある。
【0003】
これを防止するために、かご1の前面側の下部には、つま先が進入する等の事故を防止する保護板2が設けられている。保護板2はかご1に固定されているため、昇降路のピット深さが浅い場合には、かご1が最下階の階床5の位置にくると保護板2の下端がピットの床面に衝突して破損する。このため、以下のような構成の保護板2が設けられる。
【0004】
特許文献1には、実施の形態1〜3の保護板が開示されている。実施の形態1の保護板は、固定板の下方に相対的に上下動可能に可動板を設け、該可動板は固定板に対して自重で降下した状態にあり、可動板の下端がピットの床面に当接して上方へ押圧された場合には、可動板が固定板に対して相対的に上昇する。
【0005】
また、実施の形態2は固定板に対して可動板を内側へ向かって回動可能に設けており、該可動板は通常はバネで付勢されるロックレバーにより回動しないようにロックされ垂下しいる。そして、可動板がピットの床面に衝突して突き上げられる直前に、ピットに設置した解除ブラケットによりロックレバーが回動させられてロックが解除され、可動板が回動し得る状態になる。このため、可動板がピットの床面に当接すると、可動板は内側へ向かって回動する。
【0006】
更に、実施の形態3は、鉛直方向に長い固定フレームの下方に、固定フレームに対して昇降可能で鉛直方向に長い可動フレームを設け、固定フレームには固定板を、可動フレームには可動板を設けたものである。可動板がピットの床面に当接した場合には、固定フレームに対して可動フレームが昇降自在なので、固定板に対して可動板が相対的に上昇する。
【0007】
エレベータの保護板としては、このほか特許文献2に記載のものが提案されている。これは、図11に示すように、かごの昇降時に固定プレート2aに対して可動プレート2bが振動により衝突して異音を生じないように、固定プレート2aに傾斜するスライド案内部2dを形成し、該スライド案内部2dに可動プレート2bのスライド部2cを挿通させ、「くさび」の原理を利用して可動プレート2bを固定プレート2aに固定するものである。可動プレート2bが相対的に昇降する際に水平方向の移動成分が生じることから、可動プレート2bの下部にゴムローラ2eを設けて、可動プレート2bの水平移動を可能にしている。
【特許文献1】特開2002平−302370号公報
【特許文献2】特願2003−339918号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、引用文献1の実施の形態1は、固定板に可動板が直接に接触しており、固定板に対して可動板を固定する固定手段を備えていないので、かごの昇降時の通常の振動により可動板が振動し固定板に衝突することを繰り返して異音が生じ、また可動板に水平力が加わった場合の可動板の撓み変位が大きくなり、つま先の進入防止等を目的とする保護板本来の機能が損なわれる。
【0009】
実施の形態2は、ロックレバーと解除ブラケットとを設けることからコスト高になる。また、可動板がピットの床面に衝突する際に、ロックレバーが解除ブラケットに係合して回動させられロック解除の状態になると、前記ロックレバーがバネにより復旧する構成を採用しない場合は、ロックレバーが自動的にはロック状態に復旧しないので、手作業による復旧作業が必要になる。そして、万が一にも復旧作業を忘れた場合には、可動板が水平力を受けた場合に回動してしまい、つま先の進入防止等を目的とする保護板本来の機能を損なうことになり、安全上のリスクが大きい。
【0010】
実施の形態3は、固定板と可動板との他に固定フレームと可動フレームとを設けることから、コスト高になる。また、実施の形態1と同様に可動板を固定するための固定手段を有しないので、かごの昇降時に振動による異音が発生し易い。更に、実施の形態1と同様に、可動板に水平方向の力が加わった場合の撓み変位が大きく、つま先の進入防止等を目的とする本来の保護板の機能を損なう。
【0011】
次に技術文献2については、くさびの原理で可動板を固定するため、可動板がピットの床面に当接して固定板に対して可動板が相対的に上昇する際に、可動板を固定状態から開放するための力が余分に必要であり、可動板がピットの床面に当接する際に損傷する虞がある。また、可動板がかごの昇降方向に対して傾斜した方向へ移動するため、可動板が固定板に対して相対的に昇降する際に、可動板に水平方向の移動成分が生じてしまう。このため、可動板に転動可能なゴムローラを設けることが必要になり、製造コストが高くなる。
【0012】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、可動板が振動し固定板への衝突を繰り返して異音が生じるのを防止したエレベータの保護板装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、エレベータの昇降路内で昇降するかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板を設け、該保護板を、前記かごの下面に固定した固定板と、該固定板に対して相対的に昇降可能な可動板とにより構成し、該可動板を、自重により前記固定板に対して降下した状態から、前記かごが降下して前記昇降路のピット床面に前記可動板の下端が当接すると上昇するように構成したエレベータの保護板装置において、前記固定板と前記可動板とのいずれか一方の両側面に、前記可動板の昇降を案内する一対のガイド部を設け、他方には該ガイド部に摺動しかつ前記固定板と前記可動板との接触を回避する緩衝部材を装着したことを特徴とする。
【0014】
このようなエレベータの保護板装置では、かごが降下して可動板の下端が昇降路のピット床面に当接すると、一対のガイド部に沿って緩衝部材が上方へ移動し、可動板が固定板に対して相対的に上昇する。従って、保護板の破損が防止される。通常のかごの昇降時には、水平方向での可動板と固定板との間に緩衝部材が介在するので、可動板が水平方向へ振動して固定板に衝突するのが回避され、異音発生の防止となる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイド部を断面コの字形状に形成すると共に、前記緩衝部材を前記ガイド部の内部に摺動自在に収容したことを特徴とする。
【0016】
このようなエレベータの保護板装置では、断面コの字形状のガイド部の内部で緩衝部材がガイド部に沿って移動する。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板に係合部を形成する一方、前記固定板の下部に前記係合部を受ける受け部を形成し、前記係合部と前記受け部との間に緩衝部材を介在させたことを特徴とする。
【0018】
このようなエレベータの保護板装置では、自重により降下する可動板は緩衝部材を介して固定板の上に載っており、固定板の上に可動板が直接に載って接触している場合のように可動板が鉛直方向へ振動し固定板への衝突を繰り返すということはない。このため、異音発生が防止される。これにより、固定板と可動板との水平方向での衝突による異音発生と、鉛直方向での衝突による異音発生とが防止され、衝突による異音発生が2つの方向で防止される。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のエレベータの保護板装置において、前記係合部と前記受け部とのいずれか一方に前記緩衝部材を装着し、他方に断面コの字形状部分を形成し、前記可動板が降下したときに、前記緩衝部材が前記断面コの字形状部分の内部に位置することを特徴とする。
【0020】
このようなエレベータの保護板装置では、固定板と可動板とのうちの一方に装着した緩衝部材が、他方に形成された断面コの字形状部分の内部に位置する状態で支持される。そして、水平方向でも固定板と可動板との間に緩衝部材が介在することになるので、可動板に水平力が加わった場合には、可動板の撓み変位が小さくなる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項3または4に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板を、前記固定板と重なる重なり部と、前記固定板の下端より下方へ垂下する垂下部とにより構成し、該垂下部の上部を、前記固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して、前記重なり部の下部に結合したことを特徴とする。
【0022】
このようなエレベータの保護板装置では、垂下部の上部を、固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して重なり部の下部に結合したので、垂下部が固定板の受け部と干渉することなく昇降する。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5に記載のエレベータの保護板装置において、前記緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いたことを特徴とする。
【0024】
このようなエレベータの保護板装置では、緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いるので、大量生産された市販の低価格のものを用いることができ、エレベータの保護板装置の低コスト化を実現することができる。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューの4面のうちの両側面および残りの一方の面に溝を形成し、前記可動板の端面近傍に切欠部を形成し、該切欠部の孔縁を前記夫々の溝に嵌合して前記ガイドシューを前記可動板に装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0026】
このようなエレベータの保護板装置では、ねじ等を用いることなく前記切欠部と前記溝とを利用して前記可動板の端面近傍にガイドシューを装着することができる。
【0027】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューが移動して前記可動板から外れるのを阻止する突起を、前記切欠部の内周面に形成したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0028】
このようなエレベータの保護板装置では、可動板の切欠部の部分にガイドシューを一旦装着すると、突起の存在によりガイドシューの移動が阻止され、可動板からのガイドシューの外れが防止される。
【0029】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載のエレベータの保護板装置において、前記残りの一方の面に形成した溝の深さを、前記切欠部の孔縁から前記可動板の端面までの長さよりも大きくしたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0030】
このようなエレベータの保護板装置では、ガイドシューが可動板の端面から突出し、可動板と固定板との間にガイドシューが介在することから、可動板と固定板との接触が防止される。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るエレベータの保護板装置によれば、緩衝部材がガイド部を摺動するので、可動板が水平方向へ振動し固定板への衝突を繰り返すことを、可動板を固定するための固定手段を設けることなく回避でき、異音発生の防止となる。そして、固定手段を設けないので、可動板の下端がピット床面に当接して可動板が上昇する際に、ピット床面が可動板から受ける力も小さい。
【0032】
また、自重で降下する可動板が固定板に直接に接触しないように緩衝部材を介在させたので、鉛直方向で可動板が固定板に直接に接触することによる異音発生が防止されるだけでなく、この緩衝部材は水平方向でも固定板と可動板との間に介在することになるので、可動板に水平方向の力が加わったときの可動板の撓みが小さくなり、つま先の進入防止等を目的とする保護板の本来の機能が制限されることはない。
【0033】
更に、固定板と可動板とのいずれか一方の両側面に設ける断面コの字形状のガイド部と、可動板の係合部と固定板の受け部とのいずれかに設ける断面コの字形状部分は、固定板または可動板と一体に形成されるので、構造が簡単であり低コストで実現可能である。
【0034】
また更に、垂下部の上部を、逃がし部を介して重なり部の下部に結合したので、垂下部が固定板の受け部と干渉することなく昇降する。
【0035】
また更に、緩衝部材としては、市販の安価なエレベータの開閉扉用のガイドシューを使用できるので、本発明の実施が低コストで実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明によるエレベータの保護板装置の実施の形態を説明する。
【0037】
図1に示すように、エレベータの昇降路内で昇降する図示しないかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板8が設けられている。該保護板8は、かごの下面に固定される固定板9と、該固定板9に対して相対的に昇降可能な可動板10とにより構成される。
【0038】
固定板9を図示しないかごの前面側の下面に取り付けるために、固定板9の上部には3つの取付孔13が形成されている。また、固定板9を固定するために、固定板9の両側の中間高さよりも少し下の位置に形成された長孔17にボルト15が挿通され、該ボルト15を介して固定板9に一対のステー14の下端が結合されている。そして、ステー14の上端は図示しないかごの下面に結合されている。可動板10が昇降する際に可動板10がステー14に干渉しないように、可動板10の重なり部10aには上下方向に長いスリット16が形成され、該スリット16にステー14が挿通されている。
【0039】
可動板10は、かごの昇降時や停止時には自重により固定板9に対して相対的に降下した状態を保持し、可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接すると固定板9に対して相対的に上昇して保護板8が縮むように伸縮可能に構成されている。伸縮可能に構成するための具体的な構造としては、可動板10の昇降を案内するために、固定板9の両側に鉛直方向に沿う一対のガイド部9aが形成されている。ガイド部9aは図2に示すように、断面コの字形状になっている。一方、可動板10は、固定板9とほぼ平行に並べて配置された重なり部10aと、該重なり部10aから固定板9よりも下方へ垂下する垂下部10bとによって構成されている。図3に示すように、垂下部10bは上部をL字形状に折り曲げて水平部(逃がし部)10cが形成されている。該水平部10cの先端を重なり部10aの下部に結合することにより、垂下部10bと重なり部10aとの間に水平方向のクリアランスGが設けられている。また、垂下部10bの下部も、図4,図5に示すように同様にL字形状に折り曲げられ、水平部10dが形成されている。
【0040】
可動板10の重なり部10aの両側の上下位置には、緩衝部材としてガイドシュー11が装着されており、該ガイドシュー11がガイド部9aの内部に摺動自在に収容されている。このガイドシュー11は、エレベータの開閉扉に取り付けられて下部のレールと摺動する緩衝部材として一般的に使用されており、ガイドシュー11はゴム等の弾性材料で形成され、外側表面はテフロン(登録商標),ポリエチレン等の摺動性の良い低摩擦材で被服されている。当該ガイドシュー11を用いることにより、緩衝部材を安価でかつ緩衝性能,摺動性能に優れたものとすることができる。
【0041】
このガイドシュー11の形状と取り付け状態を図6〜図8に基づいて説明する。重なり部10aの両側縁部の上下位置には、図7に示すように縦長の長方形の大小の切欠部10e,10fが左右に並べて形成されている。そして、切欠部10eと切欠部10fとが連通する部分の上下には、ガイドシュー11が移動して外れるのを阻止する突起10hが形成されている。この切欠部10e,10fを利用してガイドシュー11が重なり部10aに装着されている。ガイドシュー11はガイド部9aの内周面と摺動し、かつ可動板10が振動して固定板9への衝突を繰り返すことを回避させる。
【0042】
ガイドシュー11の形状を図6に示す。ガイドシュー11は図6(b)に示すように、外周の4面のうちの両側面および残りの一方の面の合計3面に、溝11a,11b,11cを形成した形状であり、これらの溝を形成することにより2分された部分が連結部11dにより連結されたような形状となっている。図7(a)のように切欠部10eにガイドシュー11を挿入した後に、ガイドシュー11を切欠部10fへ向かって移動させ、ガイドシュー11の溝11a,11cに切欠部10fの上部孔縁と下部孔縁とをいずれか一方から順番に嵌め込み、結果として図7(c),図8に示すように重なり部10aの両側縁部の上下位置にガイドシュー11を装着する。
【0043】
図3は、自重で降下する可動板10を下から支持するための支持構造を示している。図4に示すように、重なり部10aの下端中央部には、下方へ突出する一対の係合部10gが形成され、該係合部10gの部分には、図9のように切欠部10e,10fが形成されている。この切欠部10e,10fは、図8と図9とを比較するとわかるように、図8の切欠部10e,10fを時計方向へ90度回転したものであり、緩衝部材としてのガイドシュー12が装着されている。このガイドシュー12は、ガイドシュー11と同一のものである。図8についても同様であるが、図9に示すように、ガイドシュー11の溝11bの深さh1を切欠部10fの孔縁から重なり部10aの端面までの長さh2よりも大きくしたので、ガイドシュー11の下端は係合部10gの下端よりもg1だけ下方へ突出した状態となる。
【0044】
一方、図3に示すように固定板9の下部には、ガイドシュー12を受ける断面コの字形状部分を有するの受け部9bが形成されている。通常の走行時は可動板10は自重で降下しており、ガイドシュー12が受け部9bの断面コの字形状部分の内部に入り込んで当接し、固定板9に支持されている。
【0045】
次に、エレベータの保護板装置の作用を説明する。
【0046】
かごが昇降する時には、固定板9,可動板10に振動が伝わるが、水平方向では両者間にはガイドシュー11が介在するため、可動板10と固定板9が衝突して異音を発生することが回避できる。かごが降下して保護板8のうちの可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接した場合は、可動板10が上方へ向かって突き上げられるため、ガイドシュー11がガイド部9aに沿って摺動しながら鉛直上方へ移動し、可動板10が固定板9に対して相対的に上昇して収縮する。従って保護板8の破損が防止される。このあと、かごが上昇すると、可動板10は自重により、固定板9に対して相対的に降下し、もとの状態に戻る。このとき、ガイドシュー11がガイド部9aに沿って摺動しながら鉛直下方へ移動する。
【0047】
図3に示すように、自重により降下する可動板10から下方へ突出する係合部10gには、ガイドシュー12が装着されているため、係合部10gが受け部9bに直接に接触して支持される場合のように、可動板10が鉛直方向へ振動し固定板9への衝突を繰り返すことはない。このため、異音発生が防止される。このため、前述した固定板9と可動板10との水平方向での衝突による異音発生と、鉛直方向での衝突による異音発生とが防止され、衝突による異音発生が2つの方向で防止される。
【0048】
図3において、鉛直方向では係合部10gの下端にガイドシュー12が装着され、該ガイドシュー12が受け部9bの底面に載っているため、ガイドシュー12の下端と受け部9bの底面との間には隙間g1が形成されている。これは、前記のようにガイドシュー11が可動板10の端面からg1だけ突出していることにより達成されるものでる。一方、水平方向では垂下部10bと受け部9bの側面との間に隙間g2が形成されている。そして、図3からわかるように、ガイドシュー12は水平方向での固定板9と可動板10の係合部10gとの間にも介在することになることから、可動板10の垂下部10bに、垂下部10bと直角な方向から水平力が加わった場合には、可動板10はこの部分で確実に支持されることになり、可動板10の水平方向の撓み変位は小さくなる。
【0049】
このほか、緩衝部材としては、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシュー11を用いており、このガイドシュー11は大量生産されて市販されているので、低価格で入手でき、エレベータの保護板装置の低コスト化を実現できる。
【0050】
固定板9の両側面に設ける断面コの字形状のガイド部9aおよび固定板9の受け部9bに設ける断面コの字形状部分は、固定板9と一体に形成されるので、構造が簡単であり低コストで実現可能である。
【0051】
このようなエレベータの保護板装置では、垂下部10bの上部を、固定板9の受け部9bとの干渉を回避するための水平部10cを介して重なり部10aの下部に結合したので、垂下部10bが固定板9の受け部9bと干渉することなく昇降する。
【0052】
固定板9に対して可動板10が相対移動するのを規制するための固定手段を設けないので、可動板10の下端がピット床面から突き上げられて上昇する際に、ピット床面が可動板10から受ける力が小さくなる。
【0053】
ガイドシュー11,12を可動板10の端面近傍に装着するために、可動板10の重なり部10aに形成した切欠部10e,10fと、ガイドシュー11,12に形成した溝11a〜11cとを利用するので、ねじ等を用いる必要がなく、部品数が削減される。
【0054】
可動板10の切欠部10e,10fの部分にガイドシュー11,12を一旦装着すると、突起10hの存在によりガイドシュー11の移動が阻止され、可動板10からのガイドシュー11の外れが防止される。
【0055】
なお、本実施の形態では固定板の両側にガイド部を設け、可動板に緩衝部材を装着したが、可動板にガイド部を設け、固定板に緩衝部材を装着してもよい。また、可動板の係合部に緩衝部材を装着し、固定板の受け部に断面コの字形状部分を形成したしたが、固定板の受け部に緩衝部材を装着し、可動板の係合部に断面コの字形状部分を設けることもできる。更に、緩衝部材として本実施の形態ではガイドシューを用いたが、ゴムあるいはゴムと低摩擦材とを組み合わせた材料により構成しても良い。また更に、逃がし部として垂下部の上部を折り曲げて水平部を形成したが、別個に逃がし部となる部材を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】エレベータの保護板装置を示す正面図(実施の形態)。
【図2】図1のA−A矢視図(実施の形態)。
【図3】図1のB−B矢視図(実施の形態)。
【図4】エレベータの保護板装置の分解斜視図(実施の形態)。
【図5】エレベータの保護板装置を背面から見た斜視図(実施の形態)。
【図6】ガイドシューに係り、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図(実施の形態)。
【図7】ガイドシューの取り付け手順を示す説明図(実施の形態)。
【図8】ガイドシューを可動板の側面に取り付けた状態を示す詳細図(実施の形態)。
【図9】ガイドシューを可動板の下部に取り付けた状態を示す詳細図(実施の形態)。
【図10】エレベータの構成を示す斜視図。
【図11】引用文献2のエレベータの保護板装置に係り、(a)はかご上昇前の説明図、(b)はかご上昇後の説明図(従来)。
【符号の説明】
【0057】
8…保護板
9…固定板
9a…ガイド部
9b…受け部
10…可動板
10a…重なり部
10b…垂下部
10c…水平部(逃がし部)
10g…係合部
11,12…ガイドシュー(緩衝部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの保護板装置に関し、保護板を固定板と可動板とにより伸縮自在に構成した場合に、可動板が振動し固定板への衝突を繰り返して異音が生じるのを防止したものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの構成を図10に示す。かご1がワイヤ7に吊り下げられており、かご1は図示しない昇降路に沿って昇降可能に設けられている。そして、各階床5の乗場とかご1との間には、人が乗り降りするための開口部が形成され、該開口部には扉6が設けられている。かご1が各階床5へ降りてきてかご1の底板4の上面が階床5と同一高さとなった後に扉3が開けば問題ないが、底板4が階床5の高さと一致する前に扉6が開き始めるため、つま先がかご1の底板4の下に入り込んで底板4と階床5との間につま先を挟んでしまったり、物を昇降路に落としてしまったりする虞がある。また、停電や故障等により乗場出入口の高さよりもかごの床面が高い状態でかごが停止した場合には、乗場出入口とかごの床面との間に大きな開口部が生じてしまい、乗客が自力でかごの開閉扉を開けて乗場出入口へ脱出しようと試みたときに、この開口部から乗客が昇降路の内部に落下する虞がある。
【0003】
これを防止するために、かご1の前面側の下部には、つま先が進入する等の事故を防止する保護板2が設けられている。保護板2はかご1に固定されているため、昇降路のピット深さが浅い場合には、かご1が最下階の階床5の位置にくると保護板2の下端がピットの床面に衝突して破損する。このため、以下のような構成の保護板2が設けられる。
【0004】
特許文献1には、実施の形態1〜3の保護板が開示されている。実施の形態1の保護板は、固定板の下方に相対的に上下動可能に可動板を設け、該可動板は固定板に対して自重で降下した状態にあり、可動板の下端がピットの床面に当接して上方へ押圧された場合には、可動板が固定板に対して相対的に上昇する。
【0005】
また、実施の形態2は固定板に対して可動板を内側へ向かって回動可能に設けており、該可動板は通常はバネで付勢されるロックレバーにより回動しないようにロックされ垂下しいる。そして、可動板がピットの床面に衝突して突き上げられる直前に、ピットに設置した解除ブラケットによりロックレバーが回動させられてロックが解除され、可動板が回動し得る状態になる。このため、可動板がピットの床面に当接すると、可動板は内側へ向かって回動する。
【0006】
更に、実施の形態3は、鉛直方向に長い固定フレームの下方に、固定フレームに対して昇降可能で鉛直方向に長い可動フレームを設け、固定フレームには固定板を、可動フレームには可動板を設けたものである。可動板がピットの床面に当接した場合には、固定フレームに対して可動フレームが昇降自在なので、固定板に対して可動板が相対的に上昇する。
【0007】
エレベータの保護板としては、このほか特許文献2に記載のものが提案されている。これは、図11に示すように、かごの昇降時に固定プレート2aに対して可動プレート2bが振動により衝突して異音を生じないように、固定プレート2aに傾斜するスライド案内部2dを形成し、該スライド案内部2dに可動プレート2bのスライド部2cを挿通させ、「くさび」の原理を利用して可動プレート2bを固定プレート2aに固定するものである。可動プレート2bが相対的に昇降する際に水平方向の移動成分が生じることから、可動プレート2bの下部にゴムローラ2eを設けて、可動プレート2bの水平移動を可能にしている。
【特許文献1】特開2002平−302370号公報
【特許文献2】特願2003−339918号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、引用文献1の実施の形態1は、固定板に可動板が直接に接触しており、固定板に対して可動板を固定する固定手段を備えていないので、かごの昇降時の通常の振動により可動板が振動し固定板に衝突することを繰り返して異音が生じ、また可動板に水平力が加わった場合の可動板の撓み変位が大きくなり、つま先の進入防止等を目的とする保護板本来の機能が損なわれる。
【0009】
実施の形態2は、ロックレバーと解除ブラケットとを設けることからコスト高になる。また、可動板がピットの床面に衝突する際に、ロックレバーが解除ブラケットに係合して回動させられロック解除の状態になると、前記ロックレバーがバネにより復旧する構成を採用しない場合は、ロックレバーが自動的にはロック状態に復旧しないので、手作業による復旧作業が必要になる。そして、万が一にも復旧作業を忘れた場合には、可動板が水平力を受けた場合に回動してしまい、つま先の進入防止等を目的とする保護板本来の機能を損なうことになり、安全上のリスクが大きい。
【0010】
実施の形態3は、固定板と可動板との他に固定フレームと可動フレームとを設けることから、コスト高になる。また、実施の形態1と同様に可動板を固定するための固定手段を有しないので、かごの昇降時に振動による異音が発生し易い。更に、実施の形態1と同様に、可動板に水平方向の力が加わった場合の撓み変位が大きく、つま先の進入防止等を目的とする本来の保護板の機能を損なう。
【0011】
次に技術文献2については、くさびの原理で可動板を固定するため、可動板がピットの床面に当接して固定板に対して可動板が相対的に上昇する際に、可動板を固定状態から開放するための力が余分に必要であり、可動板がピットの床面に当接する際に損傷する虞がある。また、可動板がかごの昇降方向に対して傾斜した方向へ移動するため、可動板が固定板に対して相対的に昇降する際に、可動板に水平方向の移動成分が生じてしまう。このため、可動板に転動可能なゴムローラを設けることが必要になり、製造コストが高くなる。
【0012】
そこで本発明は、上記の課題を解決し、可動板が振動し固定板への衝突を繰り返して異音が生じるのを防止したエレベータの保護板装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、エレベータの昇降路内で昇降するかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板を設け、該保護板を、前記かごの下面に固定した固定板と、該固定板に対して相対的に昇降可能な可動板とにより構成し、該可動板を、自重により前記固定板に対して降下した状態から、前記かごが降下して前記昇降路のピット床面に前記可動板の下端が当接すると上昇するように構成したエレベータの保護板装置において、前記固定板と前記可動板とのいずれか一方の両側面に、前記可動板の昇降を案内する一対のガイド部を設け、他方には該ガイド部に摺動しかつ前記固定板と前記可動板との接触を回避する緩衝部材を装着したことを特徴とする。
【0014】
このようなエレベータの保護板装置では、かごが降下して可動板の下端が昇降路のピット床面に当接すると、一対のガイド部に沿って緩衝部材が上方へ移動し、可動板が固定板に対して相対的に上昇する。従って、保護板の破損が防止される。通常のかごの昇降時には、水平方向での可動板と固定板との間に緩衝部材が介在するので、可動板が水平方向へ振動して固定板に衝突するのが回避され、異音発生の防止となる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイド部を断面コの字形状に形成すると共に、前記緩衝部材を前記ガイド部の内部に摺動自在に収容したことを特徴とする。
【0016】
このようなエレベータの保護板装置では、断面コの字形状のガイド部の内部で緩衝部材がガイド部に沿って移動する。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板に係合部を形成する一方、前記固定板の下部に前記係合部を受ける受け部を形成し、前記係合部と前記受け部との間に緩衝部材を介在させたことを特徴とする。
【0018】
このようなエレベータの保護板装置では、自重により降下する可動板は緩衝部材を介して固定板の上に載っており、固定板の上に可動板が直接に載って接触している場合のように可動板が鉛直方向へ振動し固定板への衝突を繰り返すということはない。このため、異音発生が防止される。これにより、固定板と可動板との水平方向での衝突による異音発生と、鉛直方向での衝突による異音発生とが防止され、衝突による異音発生が2つの方向で防止される。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のエレベータの保護板装置において、前記係合部と前記受け部とのいずれか一方に前記緩衝部材を装着し、他方に断面コの字形状部分を形成し、前記可動板が降下したときに、前記緩衝部材が前記断面コの字形状部分の内部に位置することを特徴とする。
【0020】
このようなエレベータの保護板装置では、固定板と可動板とのうちの一方に装着した緩衝部材が、他方に形成された断面コの字形状部分の内部に位置する状態で支持される。そして、水平方向でも固定板と可動板との間に緩衝部材が介在することになるので、可動板に水平力が加わった場合には、可動板の撓み変位が小さくなる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項3または4に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板を、前記固定板と重なる重なり部と、前記固定板の下端より下方へ垂下する垂下部とにより構成し、該垂下部の上部を、前記固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して、前記重なり部の下部に結合したことを特徴とする。
【0022】
このようなエレベータの保護板装置では、垂下部の上部を、固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して重なり部の下部に結合したので、垂下部が固定板の受け部と干渉することなく昇降する。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5に記載のエレベータの保護板装置において、前記緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いたことを特徴とする。
【0024】
このようなエレベータの保護板装置では、緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いるので、大量生産された市販の低価格のものを用いることができ、エレベータの保護板装置の低コスト化を実現することができる。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューの4面のうちの両側面および残りの一方の面に溝を形成し、前記可動板の端面近傍に切欠部を形成し、該切欠部の孔縁を前記夫々の溝に嵌合して前記ガイドシューを前記可動板に装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0026】
このようなエレベータの保護板装置では、ねじ等を用いることなく前記切欠部と前記溝とを利用して前記可動板の端面近傍にガイドシューを装着することができる。
【0027】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューが移動して前記可動板から外れるのを阻止する突起を、前記切欠部の内周面に形成したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0028】
このようなエレベータの保護板装置では、可動板の切欠部の部分にガイドシューを一旦装着すると、突起の存在によりガイドシューの移動が阻止され、可動板からのガイドシューの外れが防止される。
【0029】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載のエレベータの保護板装置において、前記残りの一方の面に形成した溝の深さを、前記切欠部の孔縁から前記可動板の端面までの長さよりも大きくしたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【0030】
このようなエレベータの保護板装置では、ガイドシューが可動板の端面から突出し、可動板と固定板との間にガイドシューが介在することから、可動板と固定板との接触が防止される。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るエレベータの保護板装置によれば、緩衝部材がガイド部を摺動するので、可動板が水平方向へ振動し固定板への衝突を繰り返すことを、可動板を固定するための固定手段を設けることなく回避でき、異音発生の防止となる。そして、固定手段を設けないので、可動板の下端がピット床面に当接して可動板が上昇する際に、ピット床面が可動板から受ける力も小さい。
【0032】
また、自重で降下する可動板が固定板に直接に接触しないように緩衝部材を介在させたので、鉛直方向で可動板が固定板に直接に接触することによる異音発生が防止されるだけでなく、この緩衝部材は水平方向でも固定板と可動板との間に介在することになるので、可動板に水平方向の力が加わったときの可動板の撓みが小さくなり、つま先の進入防止等を目的とする保護板の本来の機能が制限されることはない。
【0033】
更に、固定板と可動板とのいずれか一方の両側面に設ける断面コの字形状のガイド部と、可動板の係合部と固定板の受け部とのいずれかに設ける断面コの字形状部分は、固定板または可動板と一体に形成されるので、構造が簡単であり低コストで実現可能である。
【0034】
また更に、垂下部の上部を、逃がし部を介して重なり部の下部に結合したので、垂下部が固定板の受け部と干渉することなく昇降する。
【0035】
また更に、緩衝部材としては、市販の安価なエレベータの開閉扉用のガイドシューを使用できるので、本発明の実施が低コストで実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明によるエレベータの保護板装置の実施の形態を説明する。
【0037】
図1に示すように、エレベータの昇降路内で昇降する図示しないかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板8が設けられている。該保護板8は、かごの下面に固定される固定板9と、該固定板9に対して相対的に昇降可能な可動板10とにより構成される。
【0038】
固定板9を図示しないかごの前面側の下面に取り付けるために、固定板9の上部には3つの取付孔13が形成されている。また、固定板9を固定するために、固定板9の両側の中間高さよりも少し下の位置に形成された長孔17にボルト15が挿通され、該ボルト15を介して固定板9に一対のステー14の下端が結合されている。そして、ステー14の上端は図示しないかごの下面に結合されている。可動板10が昇降する際に可動板10がステー14に干渉しないように、可動板10の重なり部10aには上下方向に長いスリット16が形成され、該スリット16にステー14が挿通されている。
【0039】
可動板10は、かごの昇降時や停止時には自重により固定板9に対して相対的に降下した状態を保持し、可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接すると固定板9に対して相対的に上昇して保護板8が縮むように伸縮可能に構成されている。伸縮可能に構成するための具体的な構造としては、可動板10の昇降を案内するために、固定板9の両側に鉛直方向に沿う一対のガイド部9aが形成されている。ガイド部9aは図2に示すように、断面コの字形状になっている。一方、可動板10は、固定板9とほぼ平行に並べて配置された重なり部10aと、該重なり部10aから固定板9よりも下方へ垂下する垂下部10bとによって構成されている。図3に示すように、垂下部10bは上部をL字形状に折り曲げて水平部(逃がし部)10cが形成されている。該水平部10cの先端を重なり部10aの下部に結合することにより、垂下部10bと重なり部10aとの間に水平方向のクリアランスGが設けられている。また、垂下部10bの下部も、図4,図5に示すように同様にL字形状に折り曲げられ、水平部10dが形成されている。
【0040】
可動板10の重なり部10aの両側の上下位置には、緩衝部材としてガイドシュー11が装着されており、該ガイドシュー11がガイド部9aの内部に摺動自在に収容されている。このガイドシュー11は、エレベータの開閉扉に取り付けられて下部のレールと摺動する緩衝部材として一般的に使用されており、ガイドシュー11はゴム等の弾性材料で形成され、外側表面はテフロン(登録商標),ポリエチレン等の摺動性の良い低摩擦材で被服されている。当該ガイドシュー11を用いることにより、緩衝部材を安価でかつ緩衝性能,摺動性能に優れたものとすることができる。
【0041】
このガイドシュー11の形状と取り付け状態を図6〜図8に基づいて説明する。重なり部10aの両側縁部の上下位置には、図7に示すように縦長の長方形の大小の切欠部10e,10fが左右に並べて形成されている。そして、切欠部10eと切欠部10fとが連通する部分の上下には、ガイドシュー11が移動して外れるのを阻止する突起10hが形成されている。この切欠部10e,10fを利用してガイドシュー11が重なり部10aに装着されている。ガイドシュー11はガイド部9aの内周面と摺動し、かつ可動板10が振動して固定板9への衝突を繰り返すことを回避させる。
【0042】
ガイドシュー11の形状を図6に示す。ガイドシュー11は図6(b)に示すように、外周の4面のうちの両側面および残りの一方の面の合計3面に、溝11a,11b,11cを形成した形状であり、これらの溝を形成することにより2分された部分が連結部11dにより連結されたような形状となっている。図7(a)のように切欠部10eにガイドシュー11を挿入した後に、ガイドシュー11を切欠部10fへ向かって移動させ、ガイドシュー11の溝11a,11cに切欠部10fの上部孔縁と下部孔縁とをいずれか一方から順番に嵌め込み、結果として図7(c),図8に示すように重なり部10aの両側縁部の上下位置にガイドシュー11を装着する。
【0043】
図3は、自重で降下する可動板10を下から支持するための支持構造を示している。図4に示すように、重なり部10aの下端中央部には、下方へ突出する一対の係合部10gが形成され、該係合部10gの部分には、図9のように切欠部10e,10fが形成されている。この切欠部10e,10fは、図8と図9とを比較するとわかるように、図8の切欠部10e,10fを時計方向へ90度回転したものであり、緩衝部材としてのガイドシュー12が装着されている。このガイドシュー12は、ガイドシュー11と同一のものである。図8についても同様であるが、図9に示すように、ガイドシュー11の溝11bの深さh1を切欠部10fの孔縁から重なり部10aの端面までの長さh2よりも大きくしたので、ガイドシュー11の下端は係合部10gの下端よりもg1だけ下方へ突出した状態となる。
【0044】
一方、図3に示すように固定板9の下部には、ガイドシュー12を受ける断面コの字形状部分を有するの受け部9bが形成されている。通常の走行時は可動板10は自重で降下しており、ガイドシュー12が受け部9bの断面コの字形状部分の内部に入り込んで当接し、固定板9に支持されている。
【0045】
次に、エレベータの保護板装置の作用を説明する。
【0046】
かごが昇降する時には、固定板9,可動板10に振動が伝わるが、水平方向では両者間にはガイドシュー11が介在するため、可動板10と固定板9が衝突して異音を発生することが回避できる。かごが降下して保護板8のうちの可動板10の下端が昇降路のピット床面に当接した場合は、可動板10が上方へ向かって突き上げられるため、ガイドシュー11がガイド部9aに沿って摺動しながら鉛直上方へ移動し、可動板10が固定板9に対して相対的に上昇して収縮する。従って保護板8の破損が防止される。このあと、かごが上昇すると、可動板10は自重により、固定板9に対して相対的に降下し、もとの状態に戻る。このとき、ガイドシュー11がガイド部9aに沿って摺動しながら鉛直下方へ移動する。
【0047】
図3に示すように、自重により降下する可動板10から下方へ突出する係合部10gには、ガイドシュー12が装着されているため、係合部10gが受け部9bに直接に接触して支持される場合のように、可動板10が鉛直方向へ振動し固定板9への衝突を繰り返すことはない。このため、異音発生が防止される。このため、前述した固定板9と可動板10との水平方向での衝突による異音発生と、鉛直方向での衝突による異音発生とが防止され、衝突による異音発生が2つの方向で防止される。
【0048】
図3において、鉛直方向では係合部10gの下端にガイドシュー12が装着され、該ガイドシュー12が受け部9bの底面に載っているため、ガイドシュー12の下端と受け部9bの底面との間には隙間g1が形成されている。これは、前記のようにガイドシュー11が可動板10の端面からg1だけ突出していることにより達成されるものでる。一方、水平方向では垂下部10bと受け部9bの側面との間に隙間g2が形成されている。そして、図3からわかるように、ガイドシュー12は水平方向での固定板9と可動板10の係合部10gとの間にも介在することになることから、可動板10の垂下部10bに、垂下部10bと直角な方向から水平力が加わった場合には、可動板10はこの部分で確実に支持されることになり、可動板10の水平方向の撓み変位は小さくなる。
【0049】
このほか、緩衝部材としては、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシュー11を用いており、このガイドシュー11は大量生産されて市販されているので、低価格で入手でき、エレベータの保護板装置の低コスト化を実現できる。
【0050】
固定板9の両側面に設ける断面コの字形状のガイド部9aおよび固定板9の受け部9bに設ける断面コの字形状部分は、固定板9と一体に形成されるので、構造が簡単であり低コストで実現可能である。
【0051】
このようなエレベータの保護板装置では、垂下部10bの上部を、固定板9の受け部9bとの干渉を回避するための水平部10cを介して重なり部10aの下部に結合したので、垂下部10bが固定板9の受け部9bと干渉することなく昇降する。
【0052】
固定板9に対して可動板10が相対移動するのを規制するための固定手段を設けないので、可動板10の下端がピット床面から突き上げられて上昇する際に、ピット床面が可動板10から受ける力が小さくなる。
【0053】
ガイドシュー11,12を可動板10の端面近傍に装着するために、可動板10の重なり部10aに形成した切欠部10e,10fと、ガイドシュー11,12に形成した溝11a〜11cとを利用するので、ねじ等を用いる必要がなく、部品数が削減される。
【0054】
可動板10の切欠部10e,10fの部分にガイドシュー11,12を一旦装着すると、突起10hの存在によりガイドシュー11の移動が阻止され、可動板10からのガイドシュー11の外れが防止される。
【0055】
なお、本実施の形態では固定板の両側にガイド部を設け、可動板に緩衝部材を装着したが、可動板にガイド部を設け、固定板に緩衝部材を装着してもよい。また、可動板の係合部に緩衝部材を装着し、固定板の受け部に断面コの字形状部分を形成したしたが、固定板の受け部に緩衝部材を装着し、可動板の係合部に断面コの字形状部分を設けることもできる。更に、緩衝部材として本実施の形態ではガイドシューを用いたが、ゴムあるいはゴムと低摩擦材とを組み合わせた材料により構成しても良い。また更に、逃がし部として垂下部の上部を折り曲げて水平部を形成したが、別個に逃がし部となる部材を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】エレベータの保護板装置を示す正面図(実施の形態)。
【図2】図1のA−A矢視図(実施の形態)。
【図3】図1のB−B矢視図(実施の形態)。
【図4】エレベータの保護板装置の分解斜視図(実施の形態)。
【図5】エレベータの保護板装置を背面から見た斜視図(実施の形態)。
【図6】ガイドシューに係り、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図(実施の形態)。
【図7】ガイドシューの取り付け手順を示す説明図(実施の形態)。
【図8】ガイドシューを可動板の側面に取り付けた状態を示す詳細図(実施の形態)。
【図9】ガイドシューを可動板の下部に取り付けた状態を示す詳細図(実施の形態)。
【図10】エレベータの構成を示す斜視図。
【図11】引用文献2のエレベータの保護板装置に係り、(a)はかご上昇前の説明図、(b)はかご上昇後の説明図(従来)。
【符号の説明】
【0057】
8…保護板
9…固定板
9a…ガイド部
9b…受け部
10…可動板
10a…重なり部
10b…垂下部
10c…水平部(逃がし部)
10g…係合部
11,12…ガイドシュー(緩衝部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路内で昇降するかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板を設け、該保護板を、前記かごの下面に固定した固定板と、該固定板に対して相対的に昇降可能な可動板とにより構成し、該可動板を、自重により前記固定板に対して降下した状態から、前記かごが降下して前記昇降路のピット床面に前記可動板の下端が当接すると上昇するように構成したエレベータの保護板装置において、
前記固定板と前記可動板とのいずれか一方の両側面に、前記可動板の昇降を案内する一対のガイド部を設け、他方には該ガイド部に摺動しかつ前記固定板と前記可動板との接触を回避する緩衝部材を装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイド部を断面コの字形状に形成すると共に、前記緩衝部材を前記ガイド部の内部に摺動自在に収容したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板に係合部を形成する一方、前記固定板の下部に前記係合部を受ける受け部を形成し、前記係合部と前記受け部との間に緩衝部材を介在させたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベータの保護板装置において、前記係合部と前記受け部とのいずれか一方に前記緩衝部材を装着し、他方に断面コの字形状部分を形成し、前記可動板が降下したときに、前記緩衝部材が前記断面コの字形状部分の内部に位置することを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板を、前記固定板と重なる重なり部と、前記固定板の下端より下方へ垂下する垂下部とにより構成し、該垂下部の上部を、前記固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して、前記重なり部の下部に結合したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のエレベータの保護板装置において、前記緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューの4面のうちの両側面および残りの一方の面に溝を形成し、前記可動板の端面近傍に切欠部を形成し、該切欠部の孔縁を前記夫々の溝に嵌合して前記ガイドシューを前記可動板に装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューが移動して前記可動板から外れるのを阻止する突起を、前記切欠部の内周面に形成したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエレベータの保護板装置において、前記残りの一方の面に形成した溝の深さを、前記切欠部の孔縁から前記可動板の端面までの長さよりも大きくしたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項1】
エレベータの昇降路内で昇降するかごの正面側の下面に、下方へ向かって突出する保護板を設け、該保護板を、前記かごの下面に固定した固定板と、該固定板に対して相対的に昇降可能な可動板とにより構成し、該可動板を、自重により前記固定板に対して降下した状態から、前記かごが降下して前記昇降路のピット床面に前記可動板の下端が当接すると上昇するように構成したエレベータの保護板装置において、
前記固定板と前記可動板とのいずれか一方の両側面に、前記可動板の昇降を案内する一対のガイド部を設け、他方には該ガイド部に摺動しかつ前記固定板と前記可動板との接触を回避する緩衝部材を装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイド部を断面コの字形状に形成すると共に、前記緩衝部材を前記ガイド部の内部に摺動自在に収容したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板に係合部を形成する一方、前記固定板の下部に前記係合部を受ける受け部を形成し、前記係合部と前記受け部との間に緩衝部材を介在させたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベータの保護板装置において、前記係合部と前記受け部とのいずれか一方に前記緩衝部材を装着し、他方に断面コの字形状部分を形成し、前記可動板が降下したときに、前記緩衝部材が前記断面コの字形状部分の内部に位置することを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のエレベータの保護板装置において、前記可動板を、前記固定板と重なる重なり部と、前記固定板の下端より下方へ垂下する垂下部とにより構成し、該垂下部の上部を、前記固定板の受け部との干渉を回避するための逃がし部を介して、前記重なり部の下部に結合したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のエレベータの保護板装置において、前記緩衝部材として、エレベータの開閉扉に取り付けられてレールと摺動するガイドシューを用いたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項7】
請求項6に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューの4面のうちの両側面および残りの一方の面に溝を形成し、前記可動板の端面近傍に切欠部を形成し、該切欠部の孔縁を前記夫々の溝に嵌合して前記ガイドシューを前記可動板に装着したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項8】
請求項7に記載のエレベータの保護板装置において、前記ガイドシューが移動して前記可動板から外れるのを阻止する突起を、前記切欠部の内周面に形成したことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエレベータの保護板装置において、前記残りの一方の面に形成した溝の深さを、前記切欠部の孔縁から前記可動板の端面までの長さよりも大きくしたことを特徴とするエレベータの保護板装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−168842(P2006−168842A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359580(P2004−359580)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]