説明

エンコーダおよび画像変換装置

【課題】発生符号量の大小関係を精度よく推定可能な符号化コストの算出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】コスト算出部12において、符号化対象ブロック51と予測ブロック52の差分ブロック53が生成される。差分ブロック53にはアダマール変換が施され、周波数成分ブロック54が生成される。変換係数マトリクス56が、量子化マトリクス55の情報を反映して生成される。周波数成分ブロック54の各成分に、変換係数マトリクス56の各成分が乗算された上で加算されることで、符号化コストが算出される。モード選択部13は、符号化コストに基づいて最適な符号化方法を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像の符号化技術、詳しくは、多数の予測符号化処理の中から最適な予測符号化処理を選択して符号化を実行する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンコーダは、YCbCr等の非圧縮画像データを圧縮符号化してストリームデータを出力する。エンコーダは、画像データを圧縮するときに様々な予測符号化処理の中から最適な処理の選択を試みる。エンコーダは、フレーム内予測については、複数の予測モードの中から最適な予測モードの選択を試みる。エンコーダは、フレーム間予測においては、最適な動き補償ブロックの選択を試みる。あるいは、エンコーダは、フレーム内予測とフレーム間予測の2つの予測のうち、いずれの方法を利用するかの選択を行う。
【0003】
フレーム内予測における予測モードの選択、あるいは、フレーム間予測における動き補償ブロックの選択を行うため、従来、SATD(sum of absolute transform difference)と呼ばれる評価値が利用されている。エンコーダは、符号化のコストとしてSATDの値を利用している。
【0004】
具体的には、エンコーダは、符号化対象ブロックと予測ブロックとの差分から差分ブロックを算出する。エンコーダは、差分ブロックに対して垂直方向および水平方向のアダマール変換を施すことにより、差分ブロックを周波数変換する。エンコーダは、周波数変換された差分ブロックの各周波数成分の絶対値和を演算することにより、SATDを算出する。
【0005】
エンコーダは、全ての予測モードについて、あるいは、全ての動き補償ブロックに対してSATDを算出し、全ての予測符号化処理に対する符号化コストを得る。エンコーダは、符号化コストが最小となる予測符号化処理を選択することにより、発生符号量がより少ない処理を選択することができ、符号化効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−078589号公報
【特許文献2】特開2004−241957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
H.264/AVCの規格においては、直交変換された周波数成分の信号を量子化するときに、量子化マトリクスが用いられる。つまり、各周波数成分の信号は、異なる量子化ステップ値で量子化される。このため、SATDにより算出された符号化コストと発生符号量との間の比例関係が崩れる。SATDにより、発生符号量が最小となる最適な予測符号化処理を選択することができないという問題がある。ストリーム内の発生符号量の配分が最適化されないことにより、画質の劣化を招く場合もある。
【0008】
上記特許文献1には、符号化コストの計算に要する演算量を削減する技術が開示されている。特許文献1において、符号化対象ブロックおよび参照ブロックがそれぞれ別々に直交変換される。直交変換されたそれぞれのブロックの周波数成分のうち、低周波領域の信号だけを利用して差分絶対値和が求められる。算出された差分絶対値和を比較することにより、発生符号量の少ない予測符号化処理を選択する。
【0009】
上記特許文献2においても、符号化コストの計算に要する演算量を削減する技術が開示されている。特許文献2においては、特定の周波数成分のみを残す直交変換を行うことで、符号化コストを計算するようにしている。
【0010】
特許文献1および特許文献2は、いずれも特定の周波数成分に限定して符号化コストを計算する方法を開示している。これら文献の技術を用いることで、演算量の削減は実現できるが、符号化コストの演算精度は低くなるという問題がある。
【0011】
本発明は、符号化コストの演算精度を向上させ、最適な予測符号化処理を選択する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1記載のエンコーダは、予測符号化処理の複数のパターンについて、符号化対象ブロックと予測ブロックとの差分ブロックを算出する差分算出部と、前記差分ブロックを直交変換し、周波数成分ブロックを算出する周波数成分算出部と、前記周波数成分ブロックの各周波数成分に、量子化ステップの大小関係を反映させた変換係数を乗算する係数乗算部と、前記変換係数が乗算された前記周波数成分ブロックの各周波数成分を加算し、符号化コストを算出するコスト算出部と、前記符号化コストが最小となる予測符号化処理を選択する選択部と、を備える。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のエンコーダにおいて、前記係数乗算部は、量子化マトリクスにおいて各周波数成分に設定されている補正係数と、前記量子化マトリクスにおいて直流成分に設定されている補正係数との関係に基づいて算出された値を前記変換係数として用いることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のエンコーダにおいて、前記係数乗算部は、量子化マトリクスにおいて各周波数成分に設定されている補正係数に対する、前記量子化マトリクスにおいて直流成分に設定されている補正係数の割合を前記変換係数として用いることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項2または請求項3に記載のエンコーダであって、前記量子化マトリクスとして、符号化対象のブロック種別に応じて異なるマトリクスが利用されることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載のエンコーダであって、前記量子化マトリクスとして、複数のマトリクスが利用される場合、直流成分の差を抑制しつつ前記変換係数が算出されることを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエンコーダにおいて、前記係数乗算部は、前記周波数成分ブロックの各周波数成分に重み付け係数を乗算することを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の画像変換装置は、デコーダと、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のエンコーダとを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、量子化マトリクスの情報を反映した上で、符号化コストを演算することができる。これにより、符号化コストと発生符号量の比例関係を維持することができ、最適な予測符号化処理を選択することができる。各符号化対象ブロックに対して最適な予測符号化処理を選択することにより、各ピクチャに対する符号化割り当てが最適化され、画質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係るエンコーダのブロック図である。
【図2】周波数成分ブロックの生成プロセスを示す図である。
【図3】量子化マトリクスを示す図である。
【図4】変換係数マトリクスを示す図である。
【図5】本実施の形態に係るトランスコーダのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るエンコーダ10のブロック図である。エンコーダ10は、符号化部11、コスト算出部12およびモード選択部13を備えている。
【0022】
符号化部11は、非圧縮画像データ41を入力する。非圧縮画像データ41は、たとえばYCbCr空間の画像データである。符号化部11は、非圧縮画像データ41に対して圧縮符号化処理を実行し、ストリームデータ42を出力する。符号化部11は、たとえば、H.264/AVCの符号化方式で符号化されたストリームデータ42を出力する。
【0023】
符号化部11は、圧縮符号化を実行するために、様々な予測符号化処理を利用する。符号化部11は、Iピクチャ(Intra−Picture)に対しては、フレーム内予測(Intra予測)を行うことで圧縮符号化を実行する。
【0024】
符号化部11は、Pピクチャ(Predictive−Picture)に対しては、順方向予測符号化を実行する。つまり、過去の参照画像を利用したフレーム間予測(Inter予測)を行うことで圧縮符号化を実行する。
【0025】
符号化部11は、Bピクチャ(Bi−direction Predictive−Picture)に対しては、双方向予測符号化を実行する。つまり、過去と未来の参照画像を利用したフレーム間予測(Inter予測)を行うことで圧縮符号化を実行する。
【0026】
符号化部11は、フレーム内予測を行うために複数の予測モードを有している。H.264/AVCの規格では、4×4ブロックのフレーム内予測に対して予測モード0〜予測モード8の9つの予測モードを有している。H.264/AVCの規格では、16×16ブロックのフレーム内予測に対して予測モード0〜予測モード4の4つの予測モードを有している。
【0027】
コスト算出部12は、これら複数の予測モードのそれぞれについて符号化コストを算出する。符号化コストとは、発生符号量の大小関係を推定する評価値である。符号化コストの算出方法は、後で詳しく説明する。
【0028】
モード選択部13は、コスト算出部12において算出された各予測モードの符号化コストを比較し、最も符号化コストが小さくなる予測モードを選択する。符号化部11は、モード選択部13で選択された予測モードに従って、フレーム内予測符号化を行う。
【0029】
符号化部11は、フレーム間予測を行うために、動き補償ブロックとして複数のブロックサイズを切り替えて利用する。H.264/AVCの規格では、16×16ブロックから4×4ブロックまでの7種類の動き補償ブロックが用意されている。符号化部11は、選択された動き補償ブロックに対して、参照ピクチャと動きベクトルを求め、フレーム間予測に基づく圧縮符号化を行う。
【0030】
コスト算出部12は、これら複数の動き補償ブロックのそれぞれについて、参照ピクチャと動きベクトルの組み合わせを選択し、圧縮符号化の符号化コストを算出する。符号化コストの算出方法は、後で詳しく説明する。
【0031】
モード選択部13は、動き補償ブロック、参照ピクチャおよび動きベクトルの組み合わせに対してコスト算出部12において算出された符号化コストを比較し、最も符号化コストが小さくなる組み合わせを選択する。符号化部11は、モード選択部13で選択された動き補償ブロック、参照ピクチャおよび動きベクトルの組み合わせに従って、フレーム間予測符号化を行う。
【0032】
動き補償ブロックのサイズを小さくする方が、よりきめ細かな予測を行うことが可能である。一方、動き補償ブロックのサイズが小さくなるほど、動きベクトルの情報が増加する。したがって、符号化コストの計算を行うことにより、これらの情報量が総合判定され、最適な予測符号化処理が選択される。
【0033】
図2は、周波数成分ブロック54の生成プロセスを示す図である。図2において、符号化対象ブロック51は、空間領域の画素マトリクスである。符号化対象ブロック51は、図に示すように、4×4の画素ブロックである。各成分C00〜C33は、4×4の画素ブロックにおける各画素の画素値である。
【0034】
図2において、予測ブロック52は、空間領域の画素マトリクスである。予測ブロック52は、図に示すように、4×4の画素ブロックである。各成分R00〜R33は、4×4の画素ブロックにおける各画素の画素値である。
【0035】
予測ブロック52は、フレーム内予測においては、符号化対象ブロック51と同一フレーム内の周辺の画素から予測された画素ブロックである。上述したように、H.264/AVCでは、9つの予測モードを利用して周辺画素から予測ブロックが生成される。
【0036】
予測ブロック52は、フレーム間予測においては、符号化対象ブロック51とは異なる過去あるいは未来のピクチャ(フレーム)の画素ブロックである。
【0037】
図2においては、説明を簡単にするために4×4の画素ブロックを示している。上述したように、H.264/AVCの規格では、動き補償ブロックは、16×16ブロックから4×4ブロックまでの7種類の動き補償ブロックが用意されている。動き補償ブロックのサイズに応じて、符号化対象ブロック51および予測ブロック52のサイズも変更される。
【0038】
図2に示すように、コスト算出部12は、符号化対象ブロック51と予測ブロック52との差分を演算することにより、差分ブロック53を求める。差分ブロック53は、符号化対象ブロック51の各座標位置の画素値と予測ブロック52の各座標位置の画素値との差分値を画素値とするブロック画像である。つまり、差分ブロック53は、符号化対象ブロック51および予測ブロック52の同じ座標位置の画素差分値を画素値とするブロック画像である。
【0039】
図2に示すように、コスト算出部12は、差分ブロック53にアダマール変換を施し、周波数成分ブロック54を生成する。周波数成分ブロック54は、周波数領域のマトリクスである。周波数成分ブロック54は、A00〜A33の16個の周波数成分を有している。周波数成分A00は、直流成分である。周波数成分A00以外の周波数成分A01〜A33は、交流成分である。周波数成分A01〜A33の添え字が大きくなるほど周波数が高い成分となる。
【0040】
図3は、量子化マトリクス55を示す。量子化マトリクス55は、周波数領域のマトリクスである。量子化マトリクス55は、B00〜B33の16個の補正係数を有している。補正係数B00は、直流成分に対応した補正係数である。補正係数B00以外の補正係数B01〜B33は、交流成分に対応した補正係数である。補正係数B01〜B33の添え字が大きくなるほど高周波成分に対応した補正係数となる。
【0041】
H.264/AVCの規格では、符号化画像を量子化するときに量子化マトリクスが用いられる。量子化ステップに量子化マトリクスを乗算することにより量子化ステップが補正される。補正後の量子化ステップを用いて符号化画像に対する量子化が行われる。
【0042】
図4は、変換係数マトリクス56を示す。コスト算出部12は、量子化マトリクス55を利用して、変換係数マトリクス56を生成する。変換係数マトリクス56は、周波数領域のマトリクスである。変換係数T00は、直流成分に対する変換係数である。変換係数T00以外の変換係数T01〜T33は、交流成分に対する変換係数である。変換係数T01〜T33の添え字が大きくなるほど高周波成分に対応した変換係数となる。
【0043】
数(1)式は、変換マトリクス56の各変換係数T00〜T33を算出する演算式を示している。
【0044】
【数1】

【0045】
数(1)式に示すように、直流成分に対する変換係数T00には“1.00”が設定されている。つまり、直流成分に対して変換は行われない。
【0046】
数(1)式に示すように、変換係数T01は、直流成分の補正係数B00を、交流成分の補正係数B01で除算した値である。変換係数T02は、直流成分の補正係数B00を、交流成分の補正係数B02で除算した値である。以下、同様に、各周波数成分の変換係数は、各周波数成分の補正係数に対する直流成分の補正係数の割合となっている。変換係数T00についても、B00/B00と考えれば、同じ扱いであることが分かる。
【0047】
交流成分に対応した変換係数は、補正係数の比率により1.0未満の値となる。つまり、補正係数は、直流成分と比較して交流成分の方が大きいため、変換係数T01〜T33は1.0未満の値となる。したがって、変換係数には、小数精度を持たせておく必要がある。
【0048】
量子化マトリクス55の各補正係数B00〜B33は、通常、周波数が高くなるにつれてその値が大きくなる。したがって、変換係数マトリクス56の各変換係数T00〜T33は、周波数が高くなるにつれて小さくなる。より具体的には、重要度の高い周波数成分ほど補正係数は小さく設定され、ある程度情報が欠如した場合であっても画質への影響が小さいと判断される周波数成分には大きい補正係数が設定される。したがって、重要度の高い周波数成分ほど変換係数は大きく設定され、ある程度情報が欠如した場合であっても画質への影響が小さいと判断される周波数成分には小さい変換係数が設定される。
【0049】
コスト算出部12は、図2に示した周波数成分ブロック54に対して図4で示した変換係数マトリクス56を適用させることで、符号化コストを算出する。数(2)式は、符号化コスト(COST)の算出方法を示す演算式である。
【0050】
【数2】

【0051】
数(2)式に示すように、コスト算出部12は、周波数成分ブロック54の各周波数成分に、変換係数マトリクス56の各周波数成分の変換係数を乗算し、その乗算結果を加算することで符号化コスト(COST)を算出する。つまり、コスト算出部12は、周波数成分ブロック54と変換係数マトリクス56の同じ周波数成分同士を乗算した結果を加算することで符号化コストを算出する。
【0052】
このように、コスト算出部12は、周波数成分ブロック54の各周波数成分をそのまま評価してコストを算出することは行わない。つまり、従来と同様のSATDは用いない。コスト算出部12は、周波数成分ブロック54の各周波数成分を、変換係数を用いて変換した上で符号化コストを算出する。周波数成分に変換係数が乗算されることで、量子化マトリクスの情報が符号化コストに反映される。
【0053】
コスト算出部12は、全ての予測符号化処理について符号化コストを算出する。コスト算出部12は、フレーム内予測に関しては、全ての予測モードについて符号化コストを算出する。コスト算出部12は、フレーム間予測に関しては、全ての動き補償ブロック、参照ピクチャおよび動きベクトルに組み合わせについて符号化コストを算出する。
【0054】
モード選択部13は、コスト算出部12において演算された各予測符号化処理の符号化コストから、実際に符号化に利用する処理を選択する。モード選択部13は、選択した予測符号化処理を符号化部11に通知する。符号化部11は、モード決定部13において選択された処理に従って、フレーム内予測符号化あるいはフレーム間予測符号化を行う。また、PピクチャやBピクチャにおいても、ブロックによっては、フレーム内予測符号を行うケースが発生する。モード選択部13は、全ての計算された符号化コストから、フレーム内予測符号を行うかフレーム間予測符号化を行うかの選択も行う。
【0055】
符号化部11は、圧縮符号化を実行することにより、ストリームデータ42を出力する。上述したように、ストリームデータ42は、たとえばH.264/AVC規格の符号化方式で圧縮されたストリームデータである。
【0056】
このように、本実施の形態のエンコーダ10においては、量子化マトリクス55の情報を反映した変換係数マトリクス56を利用して符号化コストが算出される。符号化部11が実際に符号化を行うときには量子化マトリクスが利用されるため、符号化コストを実際に発生する符合量の大小関係により近似させた評価値として利用することができる。符号化コストにより発生符号量の大小関係を精度よく推定することができる。これにより、発生符号量と符号化コストの比例関係が維持され、最適な予測符号化処理を選択することが可能であり、発生符号量の削減を図ることができる。各ピクチャに最適な発生符号量を割り当てることで、画質の改善を図ることもできる。
【0057】
上記実施の形態においては、数(1)式に示したように、量子化マトリクス56の各周波数成分に対する直流成分の割合を変換係数として用いた。変形例として、各周波数成分に重み付けを行ってもよい。数(3)式は、各周波数成分に重み付けを行って変換係数を求める演算式を示す。
【0058】
【数3】

【0059】
数(3)式において、直流成分には、重み付け係数1.50が乗算されている。交流成分のうち、B00/B01の成分には、重み付け係数1.40が乗算され、B00/B02の成分には重み付け係数1.30が乗算されている。このように、周波数が高くなるにつれて重み付け係数が小さくなる。最後のB00/B33には、重み付け係数0.9が乗算されている。
【0060】
このように、重み付けを行って変換係数を演算することにより、量子化マトリクスの情報の反映に加えて、さらに、画像の内容に応じた最適な符号化コストを算出することができる。たとえば、画像のシーンに応じて重み付けを調整してもよい。
【0061】
上記の実施の形態においては、量子化マトリクス55の直流成分の補正係数を各周波数成分の補正係数で除算した値から変換係数を求めたが、この変換係数は一例である。量子化マトリクス55の各周波数成分を反映し、発生符号量の大小関係と符号化コストの大小関係とを近似させる関係を有していれば、他の方法で変換係数を求めても良い。好ましくは、発生符号量と符号化コストの比例関係が維持できるように変換係数を求めればよい。
【0062】
上記の実施の形態においては、Intraブロック(フレーム内予測を行うブロック)とInterブロック(フレーム間予測を行うブロック)とを区別することなく、共通の量子化マトリクス55を利用した。IntraブロックとInterブロックとで異なる量子化マトリクスを利用してもよい。この場合、それぞれのブロックで個別に変換係数が演算されることになり、変換マトリクスも異なるマトリクスを利用することとなる。さらには、ブロックサイズごとに複数の量子化マトリクスを利用するようにしてもよい。
【0063】
複数の量子化マトリクスを利用する場合、各量子化マトリクスの直流成分が異なる場合がある。数(1)式を用いて個別に変換係数を求め、数(2)式を用いて個別にコストを計算した場合、直流成分の値の違いがコストに大きく影響することになる。直流成分の差がコストに与える影響を小さくするために、その差を抑制する重み付けを行ってもよい。数(3)式で、重み付けを行って変換係数を算出する例を説明したが、同様の方法で、直流成分の差を吸収するような重み付けを行えばよい。あるいは、複数の量子化マトリクスを利用する場合であっても、変換係数の演算に関しては、直流成分だけは共通のものを利用するようにしてもよい。たとえば、複数の直流成分の中で最小の値を共通の直流成分として利用するようにしてもよい。
【0064】
図5は、本実施の形態のエンコーダ10を適用させたトランスコーダ30を示すブロック図である。トランスコーダ30は、デコーダ20とエンコーダ10とを備えている。トランスコーダ30は、外部からストリームデータ40を入力する。ストリームデータ40は、たとえば、MPEG4などの符号化方式で圧縮されたストリームデータである。デコーダ20は、ストリームデータ40を伸張し、非圧縮画像データ41を出力する。非圧縮画像データ41は、たとえばYCbCrなどの画像データである。エンコーダ10は、非圧縮画像データ41を入力し、上述した実施の形態と同様の処理を実行して、ストリームデータ42を出力する。ストリームデータ42は、H.264/AVCの符号化方式で圧縮されたストリームデータである。
【0065】
このようにトランスコーダ30は、たとえばMPEG4のストリームデータ40をH.264のストリームデータに変換して出力する。このとき、エンコーダ10は、上述したように、量子化マトリクス55の情報を反映させた変換係数マトリクス56を利用して符号化コストを算出する。符号化変換されたストリームデータ42の発生符号量を削減することができる。また、符号化変換されたストリームデータ42の画質を向上させることができる。
【0066】
本実施の形態のエンコーダ10をトランスレータに適用させてもよい。本実施の形態のエンコーダ10を、たとえば、H.264のストリームデータを一旦デコードし、再びH.264のストリームデータにエンコードするトランスレータに適用させてもよい。この場合にも、エンコーダ10は、上述したように、量子化マトリクスの情報を反映させた変換係数マトリクス56を利用して符号化コストを算出する。
【符号の説明】
【0067】
10 エンコーダ
11 符号化部
12 コスト算出部
13 モード選択部
20 デコーダ
30 トランスコーダ
51 符号化対象ブロック
52 予測ブロック
53 差分ブロック
54 周波数成分ブロック
55 量子化マトリクス
56 変換係数マトリクス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測符号化処理の複数のパターンについて、符号化対象ブロックと予測ブロックとの差分ブロックを算出する差分算出部と、
前記差分ブロックを直交変換し、周波数成分ブロックを算出する周波数成分算出部と、
前記周波数成分ブロックの各周波数成分に、量子化ステップの大小関係を反映させた変換係数を乗算する係数乗算部と、
前記変換係数が乗算された前記周波数成分ブロックの各周波数成分を加算し、符号化コストを算出するコスト算出部と、
前記符号化コストが最小となる予測符号化処理を選択する選択部と、
を備えるエンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載のエンコーダにおいて、
前記係数乗算部は、量子化マトリクスにおいて各周波数成分に設定されている補正係数と、前記量子化マトリクスにおいて直流成分に設定されている補正係数との関係に基づいて算出された値を前記変換係数として用いることを特徴とするエンコーダ。
【請求項3】
請求項2に記載のエンコーダにおいて、
前記係数乗算部は、量子化マトリクスにおいて各周波数成分に設定されている補正係数に対する、前記量子化マトリクスにおいて直流成分に設定されている補正係数の割合を前記変換係数として用いることを特徴とするエンコーダ。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のエンコーダであって、
前記量子化マトリクスとして、符号化対象のブロック種別に応じて異なるマトリクスが利用されることを特徴とするエンコーダ。
【請求項5】
請求項4に記載のエンコーダであって、
前記量子化マトリクスとして、複数のマトリクスが利用される場合、直流成分の差を抑制しつつ前記変換係数が算出されることを特徴とするエンコーダ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエンコーダにおいて、
前記係数乗算部は、前記周波数成分ブロックの各周波数成分に重み付け係数を乗算することを特徴とするエンコーダ。
【請求項7】
デコーダと、
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のエンコーダと、
を備える画像変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−130192(P2011−130192A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286804(P2009−286804)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】