説明

エンジンのバルブ機構の制御装置及びその制御方法

【課題】 高出力化によるディーゼルエンジンの始動時及び高速時の諸特性の問題を改善する。高出力エンジンで問題となる始動不良、始動直後に排出される、通常強い刺激臭を伴う白煙の問題を解消し、かつ、高速時には高出力化による筒内圧力の抑制、燃焼温度低下によるNOX 等排出ガス特性の改善、損失馬力低減による燃料消費率を改善する。
【解決手段】 エンジンのバルブ機構の吸気弁とクロスヘッドとの間に吸気弁作動角可変装置を設け、始動時にはバルブ機構への圧油の供給を停止して、吸気弁のリフト及び作動角を小さくて有効圧縮比を上げ、高速時にはバルブ機構へ圧油を供給して、吸気弁のリフト及び遅閉作動角を大きくして、有効圧縮比を下げ、始動時と高速時との2段階の制御で、吸気弁の作動角及び有効圧縮比を可変にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンのバルブ機構の制御装置及び制御装方法に係わり、特には、ディーゼルエンジンの吸気バルブの開閉時期を可変するバルブ機構の制御装置及びその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、乗用車用ガソリンエンジンで、動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間に油圧式バルブラッシュアジャスタを介設して、エンジンの回転速度に応じて任意に、かつ、自動的にバルブ開閉時期を可変コントロールするバルブ駆動装置の事例が特開平1−232103号公報で知られており、図5に基づき説明する。図5に示すように、エンジンのバルブ駆動装置の要部の構成を示している。図中、符号51はシリンダーヘッド、52はカム、53は吸気弁(そのステム部)、カム52と吸気弁53との間には、シリンダーヘッド51のプランジャ挿入孔51aに慴動自在にバケット54、及び、該バケット54の内部に位置して設けられた油圧式バルブラッシュアジャスタ55とが配設されている。そして、上記カム52の回転により、バケット54及び油圧式バルブラッシュアジャスタ55を介して上記吸気弁53を上下にストローク作動させて、開閉弁作動させるようになっている。油圧式バルブラッシュアジャスタ55は上方側に位置した中圧室56を形成する第1アジャスタ部55Aと、下方側に位置した高圧室57を形成する第2アジャスタ部55Bとの2組のアジャスタ部材によってプランジャ58部を構成している。第1アジャスタ部55Aは第1アジャスタボデイ59Aと、第1のバルブスプリング60と、第1のチェックボール61と、第1のリターンスプリング62と、第1のチェックバルブケ−ス63とから構成されている。第2アジャスタ部55Bは第2アジャスタボデイ59Bと、第2のバルブスプリング64と、第2のチェックボール65と、第2のリターンスプリング66と、第2のチェックバルブケ−ス67とから構成されている。上記第1及び第2のチェックバルブは、各々上記バケット54内のオイルリザーブ室68から第1及び第2のアジャスタボデイ59A、59Bへのオイルは流入は許すが、流出は許さないようになっている。バケット54の内部には、該バケット54と、上記プランジャ58をガイドするガイド部材69でオイルのリザーブ室68が形成され、該リザーブ室68内は、バケット54部に設けたオイル流入口70を介してシリンダーヘッド51のオイル通路71に連通されるとともに、バケット54の頭部内壁に設けたオイル流出口72を介して上記各アジャスタボデイ59A、59Bの内部に連通されるようになっており、シリンダーヘッド51のオイル通路71からのオイルを上記リザーブ室68に供給後、先ず第1アジャスタボデイ59Aの内部から第1のチェックバルブを介して中圧室56に供給するようにしている。そして、さらに該中圧室56のオイルが上記第2アジャスタボデイ59Bの内部から第2のチェックバルブを経て高圧室57に供給される。そして、上記の構成において、符号73は内側バネ74と外側バネ75との二重のバネによって形成された容積量規制バネであり、上記吸気弁3の着座期間中において上記中圧室56の容積が常に一定値に保持されるように上記第1のリターンスプリング62に較べて相当に付勢力の高バネを使用して構成されている。
【0003】次に、作動を説明する。エンジン動弁系のバルブ53とバルブ作動用のカム52との間に油圧式バルブラッシュアジャスタ55を介設している。該油圧式バルブラッシュアジャスタ55を相互に連係作動するカム側第1アジャスタ部55Aとバルブ側第2アジャスタ部55Bとの2組の油圧式バルブラッシュアジャスタ55によって作動する。すなわち、第2アジャスタ部55Bの高圧室57からのオイルリーク量を第1アジャスタ部5Aの中圧室56からのオイルリーク量よりも小さく設定する一方、第2アジャスタ部55Bの第2のリターンスプリング66の付勢力よりも大に設定している。すなわち、動弁用のカム52と該カムによって開弁作動されるバルブ53との間に位置して設けられていて、上記バルブ53のバルブラッシュを自動的に調整する油圧式バルブラッシュアジャスタ55が中圧室56を有するカム側第1アジャスタ部5Aと高圧室57を有する第2アジャスタ部55Bとの特性を異にする2組のアジャスタ部材で、カム作動時における各油室のオイルリーク量を第1アジャスタ部5Aより第2アジャスタ部55B側の方を少なく設定している。これにより、第1アジャスタ部5A側で初期沈み量を決定する正確な動特性を実現し、又、オイルリーク量の少ない第2アジャスタ部55Bで静特性を実現するようになっている。しかも、第2のリターンスプリング66の付勢力が第1のリターンスプリング62の付勢力よりも大きいので中圧室56側初期容積は極めて正確に設定され、初期値の変動が確実に吸収される。したがって、エンジン回転速度に応じて任意に、かつ、自動的にバルブタイミングを可変にコントロールすることができることが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような、従来の技術の特開平1−232103号公報のエンジンのバルブ駆動装置の事例には次のような問題点がある。
(1) このエンジンのバルブ駆動装置の事例は乗用車用ガソリンエンジンで、動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間に油圧式バルブラッシュアジャスタを介設している。乗用車用ガソリンエンジンなので、低速から高速までの速度変動があるため、エンジン回転速度に応じて任意に、かつ、自動的にバルブタイミングを可変にコントロールするようにしている。そのため、構成として、油圧式バルブラッシュアジャスタ55を相互に連係作動するカム側第1アジャスタ部55Aと、バルブ側第2アジャスタ部55Bとの2組の油圧式バルブラッシュアジャスタ55によって作動させている。バルブ53のバルブラッシュを自動的に調整する油圧式バルブラッシュアジャスタ55が中圧室56を有するカム側第1アジャスタ部5Aと高圧室57を有する第2アジャスタ部55Bとの特性を異にする2組のアジャスタ部材で、カム作動時における各油室のオイルリーク量を第1アジャスタ部55Aより第2アジャスタ部55B側の方を少なく設定している。すなわち、オイルリーク量をコントロールして、制御している。しかしながら、オイルリーク量はオイルの粘度及び隙間(第1及び第2のオイルの洩れ通路)によって変わる。すなわち、オイルの粘度は運転のオイルの使用温度でリーク量が変わる。又、隙間は穴側の部品、軸側の部品の寸法精度のバラツキの管理がむずかしい問題がある。さらに、カム側第1アジャスタ部55Aとバルブ側第2アジャスタ部55Bとの2組の油圧式バルブラッシュアジャスタ55によって作動させることにより、バルブラッシュアジャスタ部の部品点数が多く、構造が複雑であるという問題がある。
【0005】(2) 又、近年では、ディーゼルエンジン駆動の発電機及びコージェネレーションシステム(温水、電気併給装置)が使用されている。この製品に使用されるエンジンの回転速度は車両用とは異なり、低速から高速までの速度変動がなく、常時一定の回転速度で運転される。一方、高出力化、排出ガス特性等の改善の対応として、高速の定格出力時にはバルブ機構の吸気バルブのリフト量を大きくして、吸気弁の作動角を大きくし、有効圧縮比(吸気弁閉時のシリンダ容積/圧縮容積)を低下させて、出力及び排出ガス特性等の性能を向上し、筒内圧力を抑制する必要がある。又、始動時にはバルブ機構の吸気弁のリフト量を小さくして、吸気弁の作動角を小さくし、有効圧縮比を高くさせて、始動性を向上させる必要がある。即ち、高速時と始動時の吸気弁の作動角及び有効圧縮比を可変にする必要がある。したがって、上記要求品質を満足し、構造を簡素化したエンジンのバルブ機構の制御装置及び制御方法が望まれている。
【0006】本発明は上記のような従来の問題点に着目し、ディーゼルエンジン駆動の発電機及びコージェネレーションシステム(温水、電気併給装置)用の常時一定の回転速度で運転されるエンジンの性能改善を目的とする。すなわち、高速時の定格出力時にはバルブ機構の吸気バルブのリフト量を大きくして、吸気弁の作動角を大きくし、有効圧縮比を低下させて、筒内圧力を抑制し、高出力化、NOX 排出ガス特性等の性能を向上する。又、始動時にはバルブ機構の吸気弁のリフト量を小さくして、吸気弁の作動角を小さくし、有効圧縮比を高くさせて、始動性を向上する。上記要求品質を満足し、エンジンのバルブ機構の制御装置の構造を簡素化して、安価に提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】上記目的を達成するために、本発明のエンジンのバルブ機構の制御方法の第1発明では、エンジンの動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間にバルブリフト量を可変とする油圧機構を有するエンジンのバルブ機構の制御方法において、始動時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油の供給を停止して、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を小さくして、吸気弁(11)の作動角を小さくし、高速時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を供給して、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を大きくして、吸気弁(11)の作動角を大きくし、停止時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を停止するとともに、無負荷、低速にて、所定時間回転させ、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を小さくすることにしている。このような制御方法において、始動時には吸気弁(11)の作動角を小さくすることで、有効圧縮比(例えば、14前後)を上げることが可能となり、その結果、高出力エンジンで問題となる始動不良、始動直後に排出される、通常強い刺激臭を伴う白煙の問題が解消される。又、高速時には吸気弁(11)の遅閉作動角を大きくすることで、有効圧縮比(例えば、10前後)を下げることが可能となり、その結果、高出力化による筒内圧力の抑制、燃焼温度低下によるNOX 等排出ガス特性の改善、圧縮圧力が小さくなり損失馬力低減が改善される。上述のように、高速時と始動時の吸気弁の作動角及び有効圧縮比を可変にして、エンジンの始動時及び高速時の諸特性の問題が改善される。
【0008】本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置の第1発明では、エンジンの動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間にバルブリフト量を可変とする油圧機構を有するエンジンのバルブ機構の制御装置において、吸気弁(11)とカム(6) との間に配設した油圧式吸気弁作動角可変装置(12)と、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を供給するポンプ(13)と、ポンプ(13)からの受油を切り換える、切り換え手段(電磁弁(14))と、始動時及び停止時には切り換え手段をOFF(供給しない位置に)に、高速時には切り換え手段をON(供給する)にする指令を出力する制御手段とからなることにしている。このような制御装置において、前記と同様な改善ができ、かつ、応答性の良い制御ができる。
【0009】本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置の第1発明を主体とする第2発明では、停止時に所定時間エンジンを回転させる指令を出力する制御手段と、からなることにしている。このような制御装置において、停止時にエンジンが定格負荷ローアイドルを経て停止されるので、バルブ機構のクロスヘッドに設けられた油圧式吸気弁作動角可変装置のピストン室からオイルを確実に排出することができ、その結果、エンジンの再始動が容易になる。又、ターボチャージヤの回転速度を下げてから停止されるので、該ターボチャージヤの軸受焼付きを保護することができる。
【0010】本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置の第1発明あるいは第2発明を主体とする第3発明では、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)はクロスヘッド(9) に設けられ、排出孔(25)を有するピストン室(26)と、ピストン室(26)に枢密に挿入されたピストン(27)と、ピストン(27)を吸気弁(11)に押圧するバネ(28)と、ピストン室(26)に挿入され、バネ(28)を支持するバネ受け(29)と、バネ受け(29)に当接する逆止弁(30)とからなることにしている。このような構成において、第1発明と同様な改善ができ、かつ、部品点数が少なく、構造が簡素化され、オイルリーク量をコントロールして制御してないので、隙間は穴側の部品、軸側の部品の寸法精度のバラツキの管理が容易である。さらに、ピストン室内が圧力上昇した際、油圧が逆止弁の下半球部にかかるように、バネ受けの油路穴を下斜めに設けたことにより、ピストン室内の圧力上昇に対して、高い応答性がある。これにより吸気弁リフト時、リークロスを最小限にすることができる。
【0011】本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置の第3発明を主体とする第4発明では、排出孔(25)は所定量ピストンが上がった時に塞がり、エアクッションとなることにしている。このような作動において、送油OFFの作動時の着座衝撃を上記エアクッションで吸収緩和することで、衝撃音の低減、耐久性の向上を図ることができる。
【0012】
【発明の実施の形態及び実施例】以下に、実施例を図1R>1、図2、図3、図4を参照して、詳細に説明する。図1R>1は本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置及び制御方法一実施例の全体システム図を示す。図1において、エンジンのバルブ機構の制御装置1はバルブ機構2及びオイル供給装置3、燃料噴射装置4、制御のコントローラ5より構成されている。バルブ機構2はカム軸6、カムフォロワ6a、プシュロッド7、ロッカアーム8、クロスヘッド9、クロスヘッドの支持ピン10、吸気弁11より構成されている。クロスヘッド9のT字状の両端部には後述する油圧式吸気弁作動角可変装置12が内蔵されている。又、クロスヘッドの支持ピン10にはオイル供給の通路穴10aが設けられている。オイル供給装置3はバルブ機構への圧油を供給するポンプ13と、ポンプ13からの受油を切り換える電磁弁14より構成され、ポンプ13と電磁弁14とは配管15で、電磁弁14とクロスヘッドの支持ピン10とは配管16で接続されている。燃料噴射装置4は燃料噴射ポンプ17とガバナ18及びアクチュエータ19で構成され、ガバナ18のレバー18aとアクチュエータ19のレバー19aとがロット20で接続されている。制御のコントローラ5と電磁弁14とは配線21で接続し、コントローラ5とアクチュエータ19とは、配線22とで接続されている。始動及び停止の操作レバ−23には位置の信号を検出するポテンショメータ23aがあり、コントローラ5とは、配線24で接続されている。次に、図2に基づいて油圧式の吸気弁作動角可変装置12の構成を説明する。図2は図1のP部を拡大した断面図を示している。油圧式の吸気弁作動角可変装置12はT字状のクロスヘッド9の左端部及び右端部でかつ、クロスヘッド9と吸気弁11との間に介装されている。排出孔25を有するピストン室26と、ピストン室26に枢蜜に挿入されたピストン27と、ピストン27を吸気弁11に押圧するバネ28と、ピストン室27に挿入され、バネを支持するバネ受け29と、バネ受け29を当接するボール状の逆止弁30と、ピストン27の内方に枢蜜に挿入されたプランジャ31より構成されている。プランジャ31の上方はリザーバ室32が形成され、下方中心部は逆止弁30とのシ−ト31aが形成され、リザーバ室32との通路穴31bが設けられている。クロスヘッド9にはオイル供給用の通路穴35、通路穴36が設けられ、プラグ35a、36aで塞がれている。
【0013】次に、吸気弁作動角可変装置12の作動を説明する。クロスヘッド9のT字状の両端部に内蔵された油圧式の吸気弁作動角可変装置12は圧油のON、OFFにより吸気弁11のリフト量を高速時と、始動時の2段階に制御し、吸気弁11の作動角を可変にしている。上記吸気弁11のリフト量と、作動角との関係を図4R>4に基づき説明する。図4は縦軸に吸気弁11のリフト量mm、横軸にクランク角度を示している。図中の実線Aは高速時のバルブリフトの作動線図を示し、点線Bは始動時のバルブリフトの作動線図を示している。高速時のバルブリフトの作動線図Aはクランク角の上死点前α1 °で吸気弁11が開き始め、最大リフトはh1mmで、下死点後β1 °で閉じ、作動角はγ1 になる。又、始動時のバルブリフトの作動線図Bはクランク角の上死点後α2 °で吸気弁11が開き始め、最大リフトはh2mmで、下死点後β2 °で閉じ、作動角はγ2になる。上記のようにして、高速時にはバルブ機構のバルブのリフト量を大きくして、バルブの作動角γ1 を大きくし、始動時にはバルブ機構の吸気弁のリフト量を小さくして、(高速時よりLだけ小さい)吸気バルブの作動角γ2 を小さくして、、高速時と始動時の吸気弁の作動を可変ににしている。始動時には吸気弁作動角可変装置12への圧油の供給を停止して、吸気弁作動角可変装置12のリフト量h2を小さくして、吸気弁11の作動角γ2 を小さくしている。すなわち、吸気弁作動角可変装置12の高圧室33を空の状態とし、カム軸6から、カムフォロワ6a、プシュロッド7、ロッカアーム8、クロスヘッド9、を介して、プランジャ31の下方端部31cがピストン27の内方端底部27aを押力し、バネ28の付勢力によりストロ−クLを密着し、吸気弁11をリフトさせている。ストロ−クLの分だけ、吸気弁11のリフト量h2が小さく、吸気弁11の作動角γ2 も小さい。高速時には吸気弁作動角可変装置12への圧油を供給して、吸気弁作動角可変装置12の吸気弁11のリフト量h1を大きくして、吸気弁11の作動角γ1 を大きくしている。すなわち、吸気弁作動角可変装置12へのオイル供給は電磁弁14をONの状態で、圧油を供給するポンプ13から配管15、電磁弁14、配管16、クロスヘッドの支持ピン油路10a、クロスヘッド9の通路穴35、通路穴36、リザーバ室32から高圧室33に充填される。この時、高圧室33は剛体に極めて近い状態になるため、吸気弁11の作動は高リフトh1になる。ロカーアーム8の押力による吸気弁11開時ピストンの隙間27bより微量のオイルがリークするが、吸気弁11閉時にバネ28の付勢力により負圧化した高圧室33とリザーバ室32との圧力差により逆止弁30が開き高圧室33に油を補充、充填する。停止時は後述する制御により、所定時間エンジンをローアイドル運転をおこない高圧室33の油を意図的にリークさせ、「空」の状態にし、再始動に備える。又、プランジャ31の下方端部31cと、ピストン27の内方端底部27aとを密着させた作動時、所定量ピストン27が上がった時に排出孔25を塞ぎ、エア溜まり26aができ、エアクッションの作用をしている。このエアクッションの作用で、着座衝撃の吸収緩和で、衝撃音の低減、耐久性の向上を図っている。又、付帯機能として、バルブクリアランスを常に「0」に保つラシュアジャスタの機能を有している。
【0014】次に、制御の作動を図1、図3により説明する。図3は縦軸に作動項目を、横軸は時間を示している。始動は、始動及び停止用の操作レバ−23をS1の位置にする。位置の信号を検出するポテンショメータ23aから配線24を通り、コントローラ5、配線22からアクチュエータ19に信号が流れる。アクチュエータ19で停止の状態からローアイドルの位置にレバー19aが作動し、ロット20、レバー18aを介してガバナ18がローアイドルの位置に作動する。次に、図示されない始動スイッチをONにし、エンジンを始動しローアイドル運転する。すなわち、図3のT0状態になる。始動と同時にのコントローラ5の暖気タイマが作動し、油路の電磁弁14はOFFの状態にあり、前記のように、吸気弁作動角可変装置12への圧油の供給は停止されているので、吸気弁作動角可変装置12の吸気弁11のリフト量h2が小さく、吸気弁11の作動角γ2 も小さい。次に、ローアイドル運転のT1所定時間経過後、コントローラ5のタイマが作動し油路の電磁弁14はONになり、バルブ機構へ圧油を供給して、バルブ機構の吸気弁11のリフト量h1を大きくして、吸気弁11の作動角γ1 を大きくする。(作動は前記、説明より省略)
次に、ローアイドル運転のT2所定時間経過後、コントローラ5のタイマが作動し、自動でエンジンが高速になる。すなわち、コントローラ5から配線22を通りアクチュエータ19に信号が流れる。アクチュエータ19でローアイドルの位置状態から高速の位置にレバー19aが作動し、ロット20、レバー18aを介してガバナ18が高速の位置に作動する。その後、発電機及びコージェネレーションシステム(温水、電気併給装置)では外部から負荷がかかり、定格負荷運転される。なお、エンジンに水温センサを設け、T2時点で、水温が所定温度以上になったら、水温センサからの信号によりエンジンを高速にする指示を出力をするようにしてもよい。次に、停止はT3時点で操作レバ−23をS2の位置にする。位置の信号を検出するポテンショメータ23aから配線24を通り、コントローラ5に送られる。コントローラ5からの一方は配線22を経てアクチュエータ19に信号が流れる。アクチュエータ19で高速の状態からローアイドルの位置にレバー19aが作動し、ロット20、レバー18aを介してガバナ18がローアイドルの位置で作動する。コントローラ5からの他方は配線21を経て油路の電磁弁14をONからOFFにする。電磁弁14のOFFにより吸気弁作動角可変装置12への圧油の供給は停止されているので、吸気弁作動角可変装置12の吸気弁11のリフト量h2が小さく、作動角γ2 も小さくなる。この状態でローアイドルで運転される。又、T2時点でコントローラ5の停止タイマがONになり作動する。停止タイマが作動後、所定時間運転したT4時点で、コントローラ5から配線22を通りアクチュエータ19に信号が流れる。アクチュエータ19でローアイドルで運転の状態から停止位置にレバー19aが作動し、ロット20、レバー18aを介してガバナ18が停止位置に作動し燃料カットされ、エンジンが停止される。その後T5時点で停止タイマがOFFになる。上記作動により、始動時には吸気弁11の作動角γ2 を小さくすることで、有効圧縮比が上り、高速時には吸気弁11の遅閉作動角γ1 を大きくすることで、有効圧縮比が下り、始動時と高速時の2段階に制御し、吸気弁の作動角及び有効圧縮比が可変となる。
【0015】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、始動時にはバルブ機構への圧油の供給を停止して、吸気弁の作動角を小さくすることで、有効圧縮比を上げ、高速時にはバルブ機構へ圧油を供給して、吸気弁の遅閉作動角を大きくすることで、有効圧縮比を下げ、始動時と高速時との2段階の制御で、構造が簡素化され、かつ、吸気弁の作動角及び有効圧縮比が可変となり、始動時には高出力エンジンで問題となる始動不良、始動直後に排出される白煙の問題が解消された。又、高速時には高出力化による筒内圧力の抑制、燃焼温度低下によるNOX 等排出ガス特性の改善、圧縮圧力が小さくり損失馬力低減し、燃料消費率が改善された。その結果、ディーゼルエンジン駆動の発電機及びコージェネレーションシステム(温水、電気併給装置)用の常時一定の回転速度で運転されるエンジンの性能が改善された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエンジンのバルブ機構の制御装置の全体構成図を示す。
【図2】本発明の図1のP部を拡大した断面図を示す。
【図3】本発明の縦軸の作動項目と、横軸の時間との関係を説明する図を示す。
【図4】本発明の縦軸のバルブのリフトと、横軸のクランク角の弁開閉時期との関係を説明する図を示す。
【図5】従来技術のエンジンのバルブ機構の断面図を示している。
【符号の説明】
1 制御装置
6 カム
9 クロスヘッド
11 吸気弁
12 油圧式吸気弁作動角可変装置
13 ポンプ
14 電磁弁
25 排出孔
26 ピストン室
27 ピストン
28 バネ
29 バネ受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間にバルブリフト量を可変とする油圧機構を有するエンジンのバルブ機構の制御方法において、始動時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油の供給を停止して、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を小さくして、吸気弁(11)の作動角を小さくし、高速時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を供給して、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を大きくして、吸気弁(11)の作動角を大きくし、停止時には油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を停止するとともに、無負荷、低速にて、所定時間回転させ、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)の吸気弁(11)のリフト量を小さくすることを特徴とするエンジンのバルブ機構の制御方法。
【請求項2】 エンジンの動弁系のバルブとバルブ作動用のカムとの間にバルブリフト量を可変とする油圧機構を有するエンジンのバルブ機構の制御装置において、吸気弁(11)とカム(6) との間に配設した油圧式吸気弁作動角可変装置(12)と、油圧式吸気弁作動角可変装置(12)への圧油を供給するポンプ(13)と、ポンプ(13)からの受油を切り換える、切り換え手段(電磁弁(14))と、始動時及び停止時には切り換え手段をOFF(供給しない位置に)に、高速時には切り換え手段をON(供給する)にする指令を出力する制御手段とからなることを特徴とするエンジンのバルブ機構の制御装置。
【請求項3】 停止時に所定時間エンジンを回転させる指令を出力する制御手段からなることを特徴とする請求項2記載のエンジンのバルブ機構の制御装置。
【請求項4】 油圧式吸気弁作動角可変装置(12)はクロスヘッド(9) に設けられ、排出孔(25)を有するピストン室(26)と、ピストン室(26)に枢密に挿入されたピストン(27)と、ピストン(27)を吸気弁(11)に押圧するバネ(28)と、ピストン室(26)に挿入され、バネ(28)を支持するバネ受け(29)と、バネ受け(29)に当接する逆止弁(30)とからなることを特徴とする請求項2あるいは請求項3記載のエンジンのバルブ機構の制御装置。
【請求項5】 請求項4記載の油圧式吸気弁作動角可変装置(12)において、排出孔(25)は所定量ピストンが上がった時に塞がり、エアクッションとなることを特徴とするエンジンのバルブ機構の制御装置。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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