説明

エンジンの吸気装置

【課題】吸気を妨げることなしに、吹返しによるフィルターへの潤滑油の付着を軽減することができるエンジンの吸気装置を提供する。
【解決手段】本発明によるエンジンの吸気装置(1)は、気化器部(2)とエアクリーナ部(4)を有し、気化器部(2)は、エアクリーナ部(4)に通じる開口(6a)を有する吸気路(6)を含む本体(5)と、チョークバルブ(8)を有し、チョークバルブ(8)は、板状の弁体(8b)を有する蝶型弁である。エアクリーナ部(4)は、エアフィルター(12)と吸気路(6)の間に設けられた通気室(14)と、通気室(14)内に設けられた吹返し防止面(18b)を有する。エアクリーナ部(4)は、更に、チョークバルブ(8)が全開になっているときの弁体(8b)のエアクリーナ側の周囲(8c)の近傍から周囲(8c)に連続するようにして吹返し防止面(18b)の近傍まで延びる板状の仕切り部(24)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気装置に関わり、更に詳細には、吹返し防止装置を備えたエンジンの吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンの吸入空気は、エアクリーナのフィルターを通って気化器の入口から吸気路に流入する。気化器において、霧化されたガソリンと吸入空気の混合気が形成され、混合気がエンジン本体に流入する。一方、エンジン本体の圧力の変化等により、潤滑油を含んだ混合気が吸気路内を逆流する現象が生じるときがある。この現象は、吹返しと呼ばれている。2サイクルガソリンエンジンでは、ピストンが上死点から下死点に移動してクランクケース内の圧力が高くなったとき、クランクケース内の大部分の混合気は、掃気通路を通ってシリンダー室内に供給されるが、混合気の一部分は、潤滑油と一緒に吸気路の中を逆流することがある。
【0003】
潤滑油を伴って逆流した混合気が、吸気路を通り抜けてフィルターに到達すると、潤滑油とガソリンがフィルターに付着する。フィルターに付着したガソリンは気化して吸入空気と一緒にエンジン本体に再供給されるが、潤滑油はそのままフィルターに残り、フィルターの目詰まりの原因となる。そのため、エンジンの作動時間が長くなると、潤滑油によるフィルターの目詰まりにより、エンジンの出力低下が生じる。詳しくは、フィルターの目詰まりにより、フィルターの通気抵抗が増えて、空気量が減少し、それにより、気化器の燃料ノズルに作用するブースト圧が増加して、燃料流量が増え、その結果、エンジンの燃焼が過濃状態となり、エンジンの出力が低下する。作業者は、フィルターの目詰まりにより、エンジンの出力が低下して、作業性が悪化したら、フィルターを交換しなければならない。
【0004】
潤滑油によるフィルターの目詰まりを防止するために、気化器の入口に吹返し防止板を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。潤滑油を伴って吸気路を逆流した混合気は、気化器の入口を通り抜けた直ぐ後で吹返し防止板に衝突し、そこに潤滑油が付着し、フィルターに到達する潤滑油の量を減少させる。吹返し防止板に付着した潤滑油の一部は、吸入空気と一緒にエンジン本体に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−345930号公報
【特許文献2】実開昭62−171655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載されている吸気装置では、吹返し防止板に衝突した燃料や潤滑油は、チョークバルブ上に付着したり、液滴化して吹返し防止板の下方に配置された受け板(特許文献1)及びチョークバルブ(特許文献2)に徐々に溜まっていく。液滴化して受け板等に溜まった燃料や潤滑油は、通常の吸入空気の流れに乗って、吸気路を通ってエンジン本体に戻される。しかしながら、液滴化して受け板等に溜まった潤滑油がエンジン本体に戻されるとき、ある程度溜まった潤滑油が一度にエンジン本体に戻される傾向がある。このとき、エンジンの回転数が不安定になり、好ましくない。また、作業者が、エンジンが取付けられている装置(例えば、チェーンソー、刈払機、送風作業機)の姿勢を変えると、溜まった潤滑油がエンジン本体に一度に流れ込んで、エンジンストール(エンジン停止)を生じさせることもある。
【0007】
また、吹返し防止板に衝突した燃料や潤滑油を溜めるための受け板等を設けると、受け板等自体が吸気の妨げになり、それにより、エンジン自体の出力を低下させることがあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、吸気を妨げることなしに、吹返しによるフィルターへの潤滑油の付着を軽減することができるエンジンの吸気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によるエンジンの吸気装置は、気化器部と、気化器部の上流側に接続されたエアクリーナ部と、を有し、気化器部は、エアクリーナ部に通じる開口を有する吸気路と、開口の近傍において吸気路に設けられたチョークバルブを有し、チョークバルブは、板状の弁体を有する蝶型弁であり、エアクリーナ部は、エアフィルターと、エアフィルターと吸気路との間に設けられた通気室と、吸気路の開口から離れ且つ開口の全体に対向して開口との間に空間を形成するように通気室内に設けられた吹返し防止面と、を有し、エアクリーナ部は、更に、チョークバルブが全開になっているときの前記弁体のエアクリーナ側の周囲の近傍から上記周囲に連続するようにして吹返し防止面に向かって少なくともその近傍まで延びる板状の仕切り部を有することを特徴としている。
【0010】
このように構成された吸気装置では、吸気時、エアフィルターを通って通気室に流入した吸入空気は、板状の仕切り部に案内されて、気化器の吸気路の開口とその全体に対向するように通気室内に設けられた吹返し防止面との間の空間から吸気路に入り、チョークバルブを通り越して、エンジンに供給される。一方、吹返し時、潤滑油を含み且つ吸気路内を逆流した混合気は、全開のチョークバルブ及び板状の仕切り部に案内されて、吹返し防止面に衝突する。混合気に含まれる潤滑油及び燃料の一部分は、吹返し防止面に付着する。付着した潤滑油及び燃料は、吸気時、吸気と一緒に吸気路に戻され、エンジンに再供給される。
【0011】
吸気装置の板状の仕切り部は、全開のチョークバルブの弁体のエアクリーナ側の周囲の近傍から上記周囲に連続するように延びているので、吸気時、吸入空気を案内するに過ぎない。したがって、仕切り部は、吸気を妨げない。また、特許文献1及び2に記載されているような燃料や潤滑油を溜めるための要素(受け板等)は設けられていないので、かかる要素によって吸入空気流入のための開口面積が減少することもない。したがって、上記吸気装置では、吸気時の吸入空気の流入が妨げられない。
【0012】
また、吹返し時、全開のチョークバルブの板状の弁体の一方の側を流れてきた混合気と、他方の側を流れてきた混合気が、チョークバルブの弁体の周囲に連続するように延びる板状の仕切り部によって互いに分離され、案内されるので、両方の混合気が互いに衝突して、乱流を発生させることが防止される。したがって、混合気は、吹返し防止面に衝突した後、吹返し防止面と吸気路の開口の間の空間において、仕切り部によって2つに分割されたそれぞれの部分空間内で旋回してそのまま吸気路へ戻る傾向があり、混合気が上記空間の外部に拡散することを抑制する。それにより、上記空間から通気室を通ってエアフィルターに到達する潤滑油の量が軽減され、その結果、吹返しによるフィルターへの潤滑油の付着を軽減することができる。
【0013】
上記吸気装置において、好ましくは、仕切り部は、平らな板状である。
【0014】
また、上記吸気装置において、仕切り部は、吹返し防止面の近傍に切欠きを有していてもよいし、チョークバルブの弁体の周囲の近傍から吹返し防止面の近傍まで、弁体の幅とほぼ同じ幅を有していてもよい。
【0015】
また、上記吸気装置において、好ましくは、エアクリーナ部は、更に、板状の仕切り部の少なくとも一方の面から延び且つ吸気路の開口の近傍で気化器部の本体と連結されるように設けられた橋架部を有する。
【0016】
また、上記吸気装置において、好ましくは、気化器部は、更に、チョークバルブの下流側に設けられたスロットルバルブと、チョークバルブとスロットルバルブが両方とも全開になっているときの前記スロットルバルブの弁体のチョークバルブ側の周囲の近傍からチョークバルブの弁体のスロットルバルブ側の周囲の近傍までチョークバルブ及びスロットルバルブの両方の周囲に連続するようにして吸気路内に設けられた板状の第2の仕切り部と、を有する。更に好ましくは、気化器部は、更に、板状の第2の仕切り部の少なくとも一方の面から延び且つ吸気路の内面で本体と連結されるように設けられた第2の橋架部を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるエンジンの吸気装置は、吸気を妨げることなしに、吹返しによるフィルターへの潤滑油の付着を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】側方から見た本発明による吸気装置の断面図である。
【図2】上方から見た図1の吸気装置の断面図である。
【図3】仕切り部の変形例を示す図である。
【図4】仕切り部の変形例を示す図である。
【図5】仕切り部の変形例を示す図である。
【図6】側方から見た本発明による吸気装置の変形例の断面図である。
【図7】上方から見た図6の吸気装置の断面図である。
【図8】側方から見た従来技術の吸気装置の断面図である。
【図9】上方から見た図8の吸気装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、本発明による吸気装置の実施形態を説明する。図1は、側方から見た本発明による吸気装置の断面図であり、図2は、上方から見た図1の吸気装置の断面図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本発明による吸気装置1は、気化器部2と、気化器部2の上流側に接続されたエアクリーナ部4とを有している。気化器部2の下流側には、エンジン本体(図示せず)が接続されている。吸気時における空気の流れ、すなわち、上流側から下流側への流れを矢印Aで示す。
【0021】
気化器部2は、エアクリーナ部4に通じる開口6aを有し且つ直線の軸線6bを有する吸気路6を含む本体5を有している。また、気化器部2は、開口6aの近傍において吸気路6に設けられたチョークバルブ8と、チョークバルブ8の下流側に設けられたスロットルバルブ10を有している。チョークバルブ8の下方には、燃料を霧化するノズル(図示せず)が設けられている。
【0022】
チョークバルブ8は蝶型弁であり、吸気路6を横断する軸8aと、軸8aを中心に回動する板状の弁体8bを有している。スロットルバルブ10も、チョークバルブ8と同様に蝶型弁であり、吸気路6を横断する軸10aと、軸10aを中心に回動する板状の弁体10bを有している。吸気路6の断面は、円形であることが好ましいが、四角形等のその他の形状であってもよい。弁体8b、10bの形状は、吸気路6の断面に合わせて決められることが好ましく、円形であってもよいし、四角形等のその他の形状であってもよい。図1では、チョークバルブ8及びスロットルバルブ10の全開位置を実線で示し、チョークバルブ8の閉位置、スロットルバルブ10のアイドリング時の半開位置を二点鎖線で示している。
【0023】
また、チョークバルブ8の軸8a及びスロットルバルブ10の軸10aの吸気路6に対する取付け角度は任意であり、すなわち、チョークバルブ8の軸8a及びスロットルバルブ10の軸10aが、水平方向に位置してもよいし、鉛直方向に位置してもよいし、それらの間の傾斜方向に位置してもよい。チョークバルブ8の軸8aとスロットルバルブ10の軸10aとは、全開時のチョークバルブ8の弁体8bと全開時のスロットルバルブ10の弁体10bが同一平面上に位置するように平行であることが好ましい。
【0024】
また、チョークバルブ8の弁体8bは、全開時に吸気路6から上流側(エアクリーナー側)に突出するように配置されている。チョークバルブ8の弁体8bは、軸線6bと垂直な方向の幅W1を有し、弁体8bが円形の場合、幅W1は、弁体8bの直径に等しい。
【0025】
エアクリーナ部4は、エアフィルター12と、エアフィルター12と吸気路6との間に設けられた通気室14と、エアフィルターの上流側に設けられた流入室16と、通気室14内に設けられた吹返し防止板18を有している。
【0026】
エアフィルター12は、空気を通過させることができるが、油等が通過できないような構造を有しており、例えば、フェルトやナイロンで作られた板状のものである。
【0027】
通気室14及び流入室16は、気化器部2に取付けられた分割可能な箱体20a、20bとエアフィルター12とによって構成されている。具体的には、箱体20a、20bは、気化器部2に取付けられた下流側の箱体半部20aと、エアフィルター12を挟んで下流側の箱体半部20aに取付けられた上流側の箱体半部20bを有している。通気室14は、下流側の箱体半部20aとエアフィルター12の間に形成され、下流側の箱体半部20aは、吸気路6の開口6aに通じる孔22aを有している。また、流入室16は、上流側の箱体半部20bとエアフィルター12の間に形成され、上流側の箱体半部20bは、外部に通じる孔22bを有している。
【0028】
吹返し防止板18は、吸気路6の開口6aから離れ且つ開口6aの全体に対向して開口6aとの間に空間18aを形成する吹返し防止面18bを有している。吹返し防止板18は、連結部(図示せず)を介して下流側の箱体半部20aに、好ましくは取外し可能に取付けられ、位置決めされている。吹返し防止板18の周囲の任意の箇所に、流入室16と通気室18とを連通する通路が確保されている。本実施形態では、全開時のチョークバルブ8の弁体8bの一方の面の側と他方の面の側にそれぞれ通路が確保されている。
【0029】
吹返し防止面18bは、好ましくは、平面である。吹返し防止面18bは、それが平面である場合、好ましくは、吸気路6の軸線6bと実質的に垂直に配置される。
【0030】
エアクリーナ部4は、更に、チョークバルブ8が全開になっているときの弁体8bのエアクリーナ側(上流側)の周囲8cの近傍から少なくとも吹返し防止面18bの近傍まで延びる板状の仕切り部24を有している。仕切り部24は、弁体8bの上流側の周囲8cのほぼ半周にわたって位置することが好ましい。仕切り部24と弁体8bとの間の隙間は、仕切り部24と弁体8bが接触することなく且つ弁体8bを通過した吹返し流が吹返し防止面18bに差し向けられるように、0.5mm以下であることが好ましく、小さければ小さいほど好ましい。仕切り部24と吹返し防止面18bとの間は、接触していてもよいし、隙間が設けられていてもよい。また、仕切り部24の厚さは、弁体8bの厚さと同じであることが好ましい。本実施形態では、仕切り部24は、箱体半部20aと一体に形成されている。
【0031】
仕切り部24は、チョークバルブ8の弁体8bの周囲8cの近傍において、弁体8bの幅W1とほぼ同じ幅またはそれよりも大きい幅W2を有することが好ましい。仕切り部24は、吹返し防止面18bの近傍において、弁体8bの幅W1とほぼ同じ幅を有していてもよいし、それより小さい幅を有していてもよいし、切欠き又は孔を有していてもよい。
【0032】
仕切り部24の変形例を図3〜5に示す。図3〜図5はそれぞれ、変形例の吸気装置50、52、54を示しており、図1及び図2に示した実施形態とは仕切り部24の形状が異なること以外、同様の構造を有している。
【0033】
図3の吸気装置50の仕切り部26は、チョークバルブ8の弁体8bの周囲8cの近傍から吹返し防止面18bの近傍まで、弁体8bの幅とほぼ同じ幅を有している。
【0034】
図4の吸気装置52の仕切り部28は、チョークバルブ8の弁体8bの周囲8cの近傍から吹返し防止面18bの近傍まで、弁体8bの幅とほぼ同じ幅を有しており、吹返し防止面18bの近傍に1つの弧状の切欠き28aを有している。
【0035】
図5の吸気装置54の仕切り部30は、チョークバルブ8の弁体8bの周囲8cの近傍から吹返し防止面18bの近傍まで、弁体8bの幅とほぼ同じ幅を有しており、吹返し防止面18bの近傍に3つの矩形の切欠き30aを有している。
【0036】
板状の仕切り部24、26、28、30の形状は、逆流してきた混合気が吹返し防止板18に衝突した後、乱流の発生を抑制することができればよい。すなわち、仕切り部24、26、28、30の形状は、混合気に含まれる潤滑油が乱流によりエアフィルター12に拡散することが抑制されることが確保されればよい。
【0037】
次に、本発明による吸気装置の動作を説明する。
【0038】
エンジンの始動時、チョークバルブ8をほぼ閉じた状態で、スロットルバルブ10を少し開いて、エンジンを作動させる。エンジンの始動後、チョークバルブ8は全開にされ、スロットルバルブ10は、用途に応じて、適当な開度に調整される。
【0039】
吸気時、流入室16の孔22bから流入した吸入空気は、エアフィルター12を通って通気室14に流入し、気化器2の吸気路6の開口6aと吹返し防止面18bとの間の空間18aから板状の仕切り部24に案内されて吸気路6に入り、チョークバルブ8を通り越した後で、燃料と混合され、スロットルバルブ10を通り越してエンジンに供給される。
【0040】
吹返し時、潤滑油を含み且つ吸気路6内を逆流してきた混合気は、全開のチョークバルブ8及び板状の仕切り部24に案内されて吹返し防止面18bに衝突する。混合気に含まれる潤滑油及び燃料は、吹返し防止面18bに付着する。付着した潤滑油及び燃料は、吸気時、吸入空気と一緒に吸気路6に戻され、エンジンに再供給される。
【0041】
上記吸気装置では、特許文献1及び2に記載されていたような潤滑油を溜める受け板等の要素がないので、流入室16からエアフィルター12を通って通気室14、吸気路6の開口6aと吹返し防止板18との間の空間18aに流れる吸入空気の通路を邪魔する要素がない。そのため、吸入空気の流れを妨げない流路断面積が確保される。
【0042】
また、全開のチョークバルブ8のエアクリーナ4側の周囲8cの近傍から、上記周囲8cに連続するように吹返し防止面18bに向かって延びる板状の仕切り部24により、吹返し時の混合気の流れが、仕切り部24がない場合よりも乱されない。それにより、吹返し防止面18bに付着しなかった潤滑油及びガソリンが、上記空間18aにおいて、仕切り部24によって2つに分割されたそれぞれの部分空間内で旋回してそのまま吸気路6へ戻る傾向があり、吸気路6を通ってエンジンに再供給される。すなわち、吹返し防止面18bと開口6aとの間の空間18aの外に拡散する潤滑油の量が軽減され、エアフィルター12に到達する潤滑油の量が軽減される。それにより、吹返しによるエアフィルター12への潤滑油の付着を軽減することができる。
【0043】
次に、本発明による吸気装置の変形例を説明する。図6は、側方から見た本発明による吸気装置の変形例の断面図である。図7は、上方から見た図6の吸気装置の断面図である。図6及び図7に示す吸気装置56は、後述する橋架部32a、32b、第2の仕切り部34、及び第2の橋架部36a、36bを追加したこと以外、図1及び図2に示した吸気装置1と同様である。
【0044】
エアクリーナ部4は、好ましくは更に、橋架部32a、32bを有している。橋架部32aは、仕切り部24の一方の側の面から延び且つ吸気路6の開口6aの近傍で気化器部2の本体5と連結されるように設けられている。本実施形態では、橋架部32aは、吸気路6の開口6aの近傍で箱体半部20aを介して本体2に連結されている。また、橋架部32bは、仕切り部24の他方の側の面から延び且つ吸気路6の開口6aの近傍で気化器部2の本体5と連結されるように設けられている。本実施形態では、橋架部32bは、吸気路6の開口6aの近傍で箱体半部20aを介して本体2に連結されている。橋架部32a、32bは、吸入空気の抵抗にならないように、板状であることが好ましく、軸線6bと平行に設けられることが好ましい。
【0045】
気化器部2は、更に、チョークバルブ8とスロットルバルブ10が両方とも全開になっているときのスロットルバルブ10の弁体10bのチョークバルブ側の周囲10cの近傍からチョークバルブ8の弁体8bのスロットルバルブ側の周囲8dの近傍までチョークバルブ8及びスロットルバルブ10の両方の周囲8d、10cに連続するようにして吸気路6内に設けられた板状の第2の仕切り部34を有している。第2の仕切り部34は、チョークバルブ8の弁体8bの下流側の周囲8dのほぼ半周にわたって及びスロットルバルブ10の弁体10bの上流側の周囲10cのほぼ半周にわたって位置することが好ましい。第2の仕切り部34と弁体8b、10bとの間の隙間は、第2の仕切り部34と弁体8b、10bが接触することなく且つ弁体8b、10bを通過する吹返し流が吹返し防止面18bに差し向けられるように、0.5mm以下であることが好ましく、小さければ小さいほど好ましい。また、第2の仕切り部34の厚さは、弁体8b、10bの厚さと同じであることが好ましい。本実施形態では、第2の仕切り部34は、気化器部2の本体5と一体に形成されている。
【0046】
気化器部2は、更に、第2の橋架部36a、36bを有している。第2の橋架部36aは、板状の第2の仕切り部34の一方の側の面から延び且つ吸気路6の内面で気化器部2の本体5と連結されるように設けられている。また、第2の橋架部36bは、板状の第2の仕切り部34の他方の側の面から延び且つ吸気路6の内面で気化器部2の本体5と連結されるように設けられている。第2の橋架部36a、36bは、吸入空気の抵抗にならないように、板状であることが好ましく、軸線6bと平行に設けられることが好ましい。
【0047】
吸気装置56では、チョークバルブ8とスロットルバルブ10の間に第2の仕切り部34が設けられているので、吹返し時の混合気の流れが、第2の仕切り部34がない場合よりも乱されない。それにより、吹返し防止面18bに衝突して付着しなかった潤滑油及びガソリンが、仕切り部24によって2つに分割されたそれぞれの部分空間内で旋回してそのまま吸気路6に戻った後、チョークバルブ8からスロットルバルブ10にスムーズに流れ、エンジンに再供給される。その結果、吹返し防止面18bと開口6aとの間の空間18aの外に拡散する潤滑油の量が更に軽減され、エアフィルター12に到達する潤滑油の量が更に軽減される。それにより、吹返しによるエアフィルター12への潤滑油の付着を更に軽減することができる。
【0048】
また、吸気装置56では、吹返し時、潤滑油を伴った混合気が吹返し防止面18bに衝突した後、潤滑油が吹返し防止面18bに加えて、橋架部32a、32b、36a、36bに付着する。それにより、潤滑油がエアフィルター12に向って拡散することが更に抑制される。橋架部32a、32b、36a、36bに付着した潤滑油は、吸気時、吸入空気と一緒にエンジン本体に戻される。
【0049】
次に、図1及び図2に示した本発明による吸気装置の実施形態と、図8及び図9に示す従来技術の吸気装置の比較実験を説明する。図8は、側方から見た従来技術の吸気装置の断面図であり、図9は、上方から見た図8の吸気装置の断面図である。従来技術の吸気装置58は、仕切り部24がないこと以外、本発明の実施形態である吸気装置1と同様の構造を有している。
【0050】
エアフィルター12が新しく、潤滑油で汚れていない状態から、吹返しが比較的多くなる条件(タイミング等)で且つスロットルバルブ全開で、連続運転試験を行った。エアフィルター12が潤滑油で汚れていないとき、本発明による吸気装置1が取付けられたエンジンも、従来技術の吸気装置58が取付けられたエンジンも、15000rpmで回転した。
【0051】
エアフィルター12が吹返し時の潤滑油で汚れてくると、スロットルバルブ全開でも、エンジンの回転数が低下していく。回転数が14500rpmに低下するまでの時間は、本発明による吸気装置1が取付けられたエンジンでは、72時間であったのに対し、従来技術の吸気装置58が取付けられたエンジンでは、24時間であった。したがって、仕切り部24が設けられた本発明による吸気装置1は、仕切り部24が設けられていない従来技術の吸気装置58に対して、吹返し時の潤滑油によるエアフィルター12の汚れを抑制できることが確認された。それにより、本発明による吸気装置1では、エアフィルター12を交換するまでの時間を、従来技術の吸気装置58の約3倍にすることができた。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0053】
上記実施形態では、チョークバルブ8の弁体8bは、全開時、吸気路6から突出していたが、突出していなくてもよい。また、板状の仕切り部24、26、28、30は、弁体8bの周囲8cの近傍から上記周囲8cに連続するように延びていれば、平らでなくてもよく、例えば、半ひねりした形状であってもよい。また、上記実施形態では、吹返し防止面18bは、平らであったが、曲面であってもよい。
【0054】
エンジンは、ガソリンエンジンであってもよいし、予混合気導入方式のディーゼルエンジンであってもよい。ガソリンエンジンの場合、2サイクルエンジンであってもよいし、4サイクルエンジンであってもよい。4サイクルエンジンの場合、吸気の際、シリンダーの吸気ポートや吸気バルブの作用による脈動がともなうため、高速運転時などに、吹返しが生じる場合がある。
【0055】
変形例の吸気装置56において、橋架部32a、32b、第2の仕切り部34、及び第2の橋架部36a、36bは、任意の要素であり、それらの一部を省略してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 吸気装置
2 気化器部
4 エアクリーナ部
5 本体
6 吸気路
6a 開口
6b 軸線
8 チョークバルブ
8b 弁体
8c チョークバルブのエアクリーナ側の周囲
8d チョークバルブのスロットルバルブ側の周囲
10 スロットルバルブ
10b 弁体
10c スロットルバルブのチョークバルブ側の周囲
12 エアフィルター
14 通気室
16 流入室
18a 空間
18b 吹返し防止面
24、26、28、30 仕切り部
28a、30a 切欠き
32a、32b 橋架部
34 第2の仕切り部
36a、36b 第2の橋架部
W1 弁体の幅
W2 仕切り部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気装置であって、
気化器部と、前記気化器部の上流側に接続されたエアクリーナ部と、を有し、
前記気化器部は、前記エアクリーナ部に通じる開口を有する吸気路を含む本体と、前記開口の近傍において前記吸気路に設けられたチョークバルブと、を有し、前記チョークバルブは、板状の弁体を有する蝶型弁であり、
前記エアクリーナ部は、エアフィルターと、前記エアフィルターと前記吸気路との間に設けられた通気室と、前記吸気路の開口から離れ且つ前記開口の全体に対向して前記開口との間に空間を形成するように前記通気室内に設けられた吹返し防止面と、を有し、
前記エアクリーナ部は、更に、前記チョークバルブが全開になっているときの前記弁体のエアクリーナ側の周囲の近傍から前記周囲に連続するようにして少なくとも前記吹返し防止面の近傍まで延びる板状の仕切り部を有することを特徴とする吸気装置。
【請求項2】
前記仕切り部は、平らな板状であることを特徴とする、請求項1に記載の吸気装置。
【請求項3】
前記仕切り部は、前記チョークバルブの弁体の周囲の近傍から吹返し防止面の近傍まで、前記弁体の幅とほぼ同じ幅を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸気装置。
【請求項4】
前記エアクリーナ部は、更に、前記板状の仕切り部の少なくとも一方の面から延び且つ前記吸気路の開口の近傍で前記気化器部の本体と連結されるように設けられた橋架部を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項5】
前記気化器部は、更に、前記チョークバルブの下流側に設けられたスロットルバルブと、前記チョークバルブと前記スロットルバルブが両方とも全開になっているときの前記スロットルバルブの弁体のチョークバルブ側の周囲の近傍から前記チョークバルブの弁体のスロットルバルブ側の周囲の近傍まで前記チョークバルブ及び前記スロットルバルブの両方の周囲に連続するようにして前記吸気路内に設けられた板状の第2の仕切り部と、を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項6】
前記気化器部は、更に、板状の前記第2の仕切り部の少なくとも一方の面から延び且つ前記吸気路の内面で前記本体と連結されるように設けられた第2の橋架部を有することを特徴とする、請求項5に記載の吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87629(P2013−87629A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225850(P2011−225850)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(509264132)株式会社やまびこ (65)