説明

エンジンカバーの油切り装置

【課題】エンジンカバー本体からなり、サイズが大きく、重量物でもあるワークを複数枚平積みにして重ね合わせて、油切りステージに容易かつ円滑に搬送できるようにする。
【解決手段】ワーク積層体移載手段13はワーク引き起し部材20と搬送部材30とから構成され、所定枚数のワークを積層したワーク積層体3は、台座部11に平積みされており、ワーク引き起し部材20の引き起し用アーム24をワーク積層体3におけるスリット2に挿入して、クレーンで吊り上げることにより鉛直状態とし、搬送手段30の支柱32に設けた保持アーム36に保持させて、油切りステージ12に送り込み、ワーク積層体3はワーク引き起し部材20に保持させた状態でワーク保持部材15に立て掛けるようにして収容し、所定時間保持させることにより各ワーク1に付着している油分を自重の作用で排除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の建屋に設置されるエンジンカバーの製造工程において、プレス加工時等に供給された潤滑油を排除するためのエンジンカバーの油切り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械の建屋には、エンジンを収容したエンジンルームが設けられるが、エンジンルームの上部を施蓋するカバーはエンジンカバーと呼ばれるものであり、このエンジンカバーは上方に向けて開放可能な構成となっている。エンジンカバー内には、エンジンが設置されており、またラジエータやオイルクーラ等の熱交換器も設置される。エンジンルーム内に収容されるエンジンや各種の機器は丈高のものもあること等から、例えば特許文献1に示されているように、エンジンカバーは台形台形状となし、建屋の他の天蓋部カバーより高くして広い空間を確保している。エンジンカバーは建屋側の壁面に蝶番で連結されて、上方に向けて開放可能になっている。ここで、エンジンカバーは大型で重量物でもあるために、手動操作で開放する際の補助を行うためのガススプリングの一端が取り付けられるようにもなっている。さらに、エンジンカバーにはロック用キャッチが設けられる等、いくつかの小物部品が接続されることもある。
【0003】
以上のように構成されるエンジンカバーの本体部分は、鋼板等の金属をプレスによる絞り加工により台形台の形状となるように加工する。また、この絞り加工の後には、パンチング加工が行われて、エンジンルームの内外を連通させる開口が複数箇所設けられる。開口部分は、エンジンルーム内の換気と、熱交換器に冷却ファンによる冷却風の流通を促進するためのものである。ここで、換気用開口は、細長いスリットとするのが一般的であり、またスリットに加えてパンチ孔を組み合わせることもある。さらに、エンジンカバー本体には、その閉鎖時に建屋の上部カバーと当接する周囲の部位は平坦な縁となし、この縁の形状を整えるべく、外周部が切断されることになる。ここで、プレスやパンチングを行う際には、プレス機械とワークとの間に潤滑油が供給される。このために、成形したエンジンカバー本体には多量の潤滑油が付着した状態となっている。
【0004】
ワークに油が付着したままでは、後続の工程での加工や処理に支障を来すことから、プレスやパンチングの後処理として、ワークに付着している油分が除去するために、ワークを洗浄することになる。ただし、ワークに多量の油が付着している状態で洗浄を行うと、洗浄液の汚損が激しくなり、その排液処理が問題となることから、ワークに付着する油分の除去を洗浄液を用いない他の方式で行うか、または洗浄液による油落し洗浄の前処理として、できるだけ油分を除去しておくことが望ましい。例えば、特許文献2においては、ワークの表面をスポンジ等の払拭体で擦動させることによって、油分を毛細管現象により拭き取るように除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−56326号公報
【特許文献2】特開昭61−193722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した特許文献2では、油分が除去されるワークとしては、丸棒状の部材であり、スポンジ等によって全体にわたって油分を拭き取る作業を容易に行うことができる。しかしながら、ワークが特許文献1に示されているエンジンカバー等といった凹凸を有し、また平坦な面だけでなく、曲面もあり、さらに透孔も有する等といった複雑な形状の場合には、スポンジ等で拭き取る作業は極めて面倒であり、長い時間を必要とする等の問題点がある。
【0007】
エンジンカバーの表裏両面は平滑面になっているので、それを立て掛けて、概略鉛直状態に保持すれば、表面に付着している油分が自重で流下することになり、油切りを行うことができる。その結果、完全ではないにしろ、大半の油分を除去することができる。ただし、エンジンカバーは所定の高さを有する台形台形状となっているので、1枚ずつ立て掛けるようにすると、極めて大きなスペースが必要となる。
【0008】
ところで、エンジンカバーの天蓋部分は平坦であるが、完全な平面状態ではなく、多少の凹凸が生じており、複数枚のエンジンカバーが重なり合うように並べても、前後のエンジンカバーが相互に完全に密着するのでなく、その間に多少の隙間が生じるのが一般的である。従って、複数枚、例えば10〜20枚程度のエンジンカバーが相互に重なり合うようにしてホルダに立て掛けて、鉛直状態に保持すれば、コンパクトに収納することができるようになり、小さいスペースに多数のワークを並べることができる。
【0009】
前工程であるプレス時及びパンチング加工時には、ワークは1枚ずつ処理・加工される結果、処理後のワークは平積み状態に積み重ねるようにして載置されることになり、このように平積みされている所定枚数のワークを搬送する作業は、ワークが大型で重量物である場合には、クレーンを用いて搬送することになる。このクレーン作業は、換気用開口であるスリットにナイロンストリングを通して行う、所謂玉掛け作業となるが、ナイロンストリングはスリットのエッジと擦れ合うことから、早期に摩耗・損傷することになる。特に油切り作業はストック用のスペースとなり、ワークが積み重ねられてストックされる位置は、ワークの加工や作業を行う領域にあり、油切りのためにストックされる領域と離れていることもあり、その場合には、クレーンによる搬送距離が長くなってしまう。そうすると、ナイロンストリングが損傷する度合いがさらに激しくなって、ナイロンストリングの交換頻度が高くなる等といった問題点がある。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、エンジンカバー本体からなり、サイズが大きく、重量物でもあるワークを複数枚平積みにして重ね合わせた状態から油切りステージに容易かつ円滑に搬送できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明は、プレス及びパンチングによって、台形台形状であり、天蓋部に複数のスリットが形成されたエンジンカバー本体からなるワークの表裏面から油分を除去するための装置であって、前記ワークを平積み状態で、所定枚数のワークからなるワーク積層体となるように複数枚重ね合わせるように載置したワーク平積み領域と、前記ワーク平積み領域から前記スリットに掛着して前記ワーク積層体を引き起こすように取り出し、このワーク積層体を立てた状態で搬送するワーク積層体移載手段と、前記ワーク積層体移載手段から前記ワーク積層体が供給されて、このワーク積層体を立て掛けた状態に保持するワーク保持部材を設けた油切りステージとから構成したことをその特徴とするものである。
【0012】
エンジンカバー本体からなるワークは複数枚重ね合わせて、ワーク積層体とすることによりコンパクトに収納できる。ワーク積層体を構成するワークの枚数としては、各種の条件、即ち油切りステージのスペースや、取り扱い時のワークの重量と、さらにはエンジンカバーの製造の各工程等を基準として所望に設定することができ、具体的には、5〜20枚程度のエンジンカバー本体を積層させるようにするのが望ましい。このワーク積層体は、製造段階における所定の処理・加工工程を経た後に順次積み重ねるようにして載置される。ワークは平積みされることから、自重の作用でその下段に位置するワークと所定の隙間を保った状態にして積層されることになる。
【0013】
所定枚数のワークを平積み状態から立て掛けた状態に姿勢変更を行わせることで、その表面、つまり外面及び内面に付着している潤滑油等の油分が垂れ落ちるようにして除去される。従って、立て掛けた状態に保持されているワーク積層体の下部位置には油受け皿を設けることによって、周囲が汚損されるのを最小限に抑制する。このために、油切りステージを設ける。
【0014】
例えば、台座部を設けたワーク平積み領域を設定して、このワーク平積み領域にワークを順次重ね合わせるようにして載置する。そして、ワーク平積み領域から油切りステージにワーク積層体を搬送し、かつワーク積層体を立て掛ける状態となるように姿勢変更を行うために、ワーク積層体移載手段が設けられている。ワーク積層体移載手段は、ワーク積層体を平積み状態から鉛直状態にするためのワーク引き起し部材と、このワーク引き起し部材で引き起されたワーク積層体を立てた状態で搬送する搬送部材とから構成される。搬送部材は車輪を有する台車にワーク支持部を設けたものから構成する。ワーク積層体を引き起すために、ワークに形成されているスリットを利用し、スリットに掛着して引き起すようにする。
【0015】
このために、ワーク引き起し部材を用いる。このワーク引き起し部材は、枠状本体に引き起しアームを取り付ける構成とすることができる。引き起しアームは枠状本体に2箇所乃至それ以上設けられ、この枠状本体の端面から前方に向けて真っ直ぐ突出する軸部の先端部分を曲げたものであり、曲げ部は軸部に対して90度の角度を持った直線状または曲線形状のものとする。ワーク積層体を引き起すためには、枠状本体の下部位置に回転軸を設け、ワーク平積み領域にはワークが載置される台座部に近接した位置に回転軸と着脱可能に係合する軸支部材を設けるようにする。
【0016】
ワーク引き起し部材を前述のように構成した場合には、ワーク引き起し部材は搬送部材に着脱可能に連結されるものとする。搬送部材は、車輪付きの台車から構成され、この台車にはワーク支持部を設ける。ワーク支持部は複数本の支柱と、各支柱間を架け渡す架橋部材とから構成し、この架橋部材に掛着部を設ける一方、ワーク引き起し部材には係合部材を設けて、この係合部材を掛着部に係合させることによりワーク引き起し部材が搬送部材に連結される。そして、ワーク引き起し部材が搬送部材におけるワーク支持部に連結されているときに、この連結状態で安定的に保持させる。ワーク支持部の支柱には、ワーク引き起し部材を傾斜した状態に保持するために、支柱の表面が傾斜壁部となるように構成する。また、搬送中はワーク積層体をワーク支持部側に係合させる方が、安定性等の点から望ましい。そこで、ワークのスリットのうち、支柱に引き起しアームが係合する部位とは異なる部位に係合可能な保持アームを設けて、ワーク引き起し部材がワーク支持部に連結されているときには、保持アームによりワーク積層体を支持させるように構成することができる。
【0017】
油切りステージにはワーク保持部材が設けられており、ワーク積層体はワーク引き起し部材からこのワーク保持部材に引き渡されるようにしても良く、またワーク引き起し部材に係合したままで、ワーク保持部材に接続し、油切り処理が終了した後にワーク引き起し部材をワーク積層体から分離して回収するようにすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
サイズが大きく、重量物でもあるエンジンカバー本体を積み重ねてワーク積層体となし、このワーク積層体を油切りステージで立て掛けた状態にして油切りを行うので、油切りステージをコンパクトなスペースで、多数のエンジンカバー本体を同時に油切りすることができ、ワークの搬送及び立て掛けた状態に保持させる作業を容易かつ円滑に行えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】油切りが行われるワークとしてのエンジンカバー本体の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示すステージ構成の説明図である。
【図4】ワーク積層体移載手段の正面図である。
【図5】図4の左側面図である。
【図6】ワーク引き起し部材の構成を示す正面図である。
【図7】ワーク引き起し部材の動作説明図である。
【図8】搬送部材の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。まず、図1及び図2にエンジンカバー本体からなるワーク1の構成を示す。これらの図から明らかなように、ワーク1は、天蓋部1aと、傾斜面部1bとからなる台形台形状のものであり、その傾斜面部1bの端部は、所定幅を有するフランジ部1cとなっている。天蓋部1aには、通気用のスリット2が複数箇所並ぶようにして設けられている。
【0021】
図3に示したように、ワーク1は、プレスステージ10において、プレス及びパンチングにより前述した台形台形状とし、かつスリット2が形成され、この加工が終了すると、ワーク平積みステージを構成する台座部11上において、ワーク1をうつ伏せにした状態にして順次積み重ねられる。ここで、ワーク1は、プレス時に供給された潤滑油により滑りの良い状態に保たれており、従って新たに積層されるワーク1は、既に積層状態となっているワーク1上に載置するだけで、自重の作用により所定の位置に積み重ねられるようになる。ワーク1の傾斜面部1bには多少の凹凸が存在しており、従って上下のワーク1,1は一部分で密着するが、大半の部位は非接触状態に保持されることになる。
【0022】
図3に示したように、所定枚数積み重ねられたワーク1、例えば10枚のワーク1が積み重ねられると、これをワーク積層体3となし、油切り装置では、このワーク積層体3が積み重ねられた状態を維持して、鉛直状態となるように姿勢を変換し、油切りステージ12に搬送されて、立て掛けた状態で所定時間保持することによって、油切り処理が行われる。このために、台座部11と油切りステージ12との間にはワーク積層体移載手段13が配設されている。
【0023】
ワーク積層体移載手段13は、ワーク積層体3を台座部11から引き起すようにして取り出すワーク引き起し部材20と、ワーク積層体3をワーク引き起し部材20と共に保持して、油切りステージ12に搬送する搬送部材30とから構成され、図4及び図5に示したようにして組み込まれている。また、ワーク引き起し部材20は搬送部材30から分離できるようにもなっている。
【0024】
そこで、まず図4乃至図6に基づいて、ワーク引き起し部材20の構成について説明する。ワーク引き起し部材20は、枠状本体21を有するものであり、この枠状本体21は、その上部架橋部21aには、クレーンの吊り側フック4(図3)に係合する掛け側フック22が設けられている。また、枠状本体21の中間より上部側の位置には、横桟23が架け渡して設けられており、この横桟23には、前方に突出する引き起し用アーム24,24が突出するように設けられている。引き起し用アーム24はL字状のロッド部材からなり、横桟23への連結部から所定の長さ分までは真っ直ぐ延在されており、途中から上向きに折れ曲がっている。引き起し用アーム24の直径はワーク1のスリット2の幅より小さい寸法となっており、真っ直ぐ延在させた軸部分は、ワーク積層体3におけるスリット2を形成した部位の全長分以上の長さを持たせている。また、折れ曲がった部分の高さは、スリット2の長さより短い寸法となっている。
【0025】
一方、本体枠21の下端部には、ブラケット25,25が突出して設けられており、このブラケット25,25間には軸26が架け渡して設けられると共に、一対からなる受け用アーム27が設けられている。この受け用アーム27は引き起し用フック24と同じ方向に向けて突出しており、本体枠21から途中位置までは真っ直ぐ延出されており、先端部分は斜め上方に向けて曲がっている。この受け用アーム27はワーク積層体3を引き起す際に、このワーク積層体3がワーク引き起し部材20から脱落しないように保持するために用いられ、引き起し後にはワーク積層体3とは非接触状態に保たれる。
【0026】
ワーク引き起し部材20はプレスステージ10に設置されている台座部11上に平積み状態に積層したワーク積層体3を伏せた状態から鉛直状態に引き起すものであって、台座部11に近接した位置には、図7に示したように、V字形状の軸支部材14,14が立設されており、ワーク引き起し部材20の軸26はこの軸支部材14に係合可能となっている。そして、ワーク引き起し部材20をワーク積層体3の上部に載置して、スリット2に引き起し用アーム24を挿入した状態で軸支部材14に当接している軸26を中心として矢印で示した上方に向けて回動させることによって、図7に仮想線で示したように、ワーク積層体3が引き起されて、鉛直状態とすることができるようになっている。
【0027】
また、搬送部材30は、図3及び図4と図8から明らかなように、台車31に左右一対からなる平板状の支柱32,32が立設されており、この支柱32,32の先端部間には架橋部33が設けられている。そして、この架橋部材33にはワーク引き起し部材20の枠状本体21に設けた横桟23が係脱可能に係合する掛け金34,34が取り付けられている。また、各支柱32には外方に向けて延在させた取付板35が設けられており、この取付板35には、ワーク引き起し部材20を掛け金34に係着させたときに、引き起し用アーム24と同じ方向に向けて突出する保持アーム36が取り付けられている。従って、これら支柱32,架橋部33,掛け金34及び保持アーム36からワーク支持部37が構成される。
【0028】
保持アーム36は、搬送部材30にワーク引き起し部材20を連結したときにワーク積層体3を保持するためのものであって、引き起し用アーム24より外側の位置となり、かつ引き起し用アーム24より突出している。また、ワーク引き起し部材20を連結したときに、搬送部材30の保持アーム36は、引き起し用アーム24の先端より高い位置となり、しかもその高さ寸法の差は、ワーク1のスリット2の長さより小さいものとなっている。従って、ワーク引き起し部材20を搬送部材30と連結した状態では、保持アーム36は引き起し用アーム24が挿通されているスリット2の外側に位置するスリット2に挿入され、かつワーク引き起し部材20の本体枠21の上部架橋板部21aが掛け金34に係合した状態では、ワーク積層体3は保持アーム36に支持されるようになる。そして、搬送部材30の台車31には車輪38が所要箇所設けられている。これによって、ワーク積層体3がプレスステージ10から油切りステージ12に移載されることになる。
【0029】
ワーク積層体3はワーク引き起し部材20を介して搬送部材30のワーク支持部37により支持されるものであるが、この搬送部材30はワーク積層体3を搬送するためのものであり、移動時にワーク積層体3及びワーク引き起し部材20を安定した状態に保持させるために、支柱32には傾斜壁ブロック39が取り付けられている。この傾斜壁ブロック39は、支柱32の下部側の位置に設けられており、下方に向かうに応じて連続的に厚肉化されている。ワーク引き起し部材20は、搬送部材30に対しては、その上部位置に設けた掛け金34に横桟23を係合させることにより保持されるものであり、ワーク引き起し部材20は鉛直状態ではなく、僅かに傾斜した姿勢を取るようになる。その結果、ワーク積層体3と係合しているワーク引き起し部材20は、重力の作用で傾斜壁ブロック39に押し付けられるようにしてワーク支持部37に連結した状態に保持される。
【0030】
油切りステージ12には、図3に示したように、ワーク積層体3を立て掛けた状態に保持するワーク保持部材15が設けられている。ワーク保持部材15はベース部15aに保持部15bを立設したものからなり、この保持部15bはベース部15aに固定的に設けることもできるが、着脱可能とするのが望ましい。また、ワーク保持部材15の下部位置には油受け皿40を配置しておく。そして、ワーク保持部材15には、ワーク積層体移載手段13の搬送部材30により搬送されるワーク積層体3をワーク引き起し部材20から分離して供給することもできるが、図3においては、ワーク積層体3はワーク引き起し部材20に装架したままの状態で設置されるようにしている。
【0031】
本実施の形態におけるエンジンカバーの油切り装置は以上のように構成されるものであり、ワーク1は、プレスステージ10で、所定のプレス加工機を用いてプレスされると共に、スリット2のパンチングが行われて、台座部11に順次積層される。ここで、台座部11では、ワーク1は伏せるようにして平積みされることになる。このときのワーク1は加工の円滑性を確保するために、潤滑油が供給されており、プレス後にも、多量の潤滑油が付着している。そこで、所定枚数、例えば10枚のワーク1が積層されたときに、このワーク積層体3を一体化した状態で取り出して、油切りステージ12に送り込まれる。
【0032】
このためには、ワーク引き起し部材20をワーク積層体3に係合させる。即ち、引き起し用アーム24をワーク積層体3における各ワーク1のスリット2内に挿入する。また、ワーク引き起し部材20のブラケット25に設けた軸26を軸支部材14に係合させる。ここで、引き起し用アーム24は左右に2箇所設けられており、スリット2は複数箇所設けられているので、これら複数のスリット2のうち、左右のバランスが取れる位置のスリット2に引き起し用アーム24を挿入する。なお、ワーク積層体3を構成する最上端部のワーク1の天蓋部1aが枠状本体21側に向けた状態にして保持されることになる。
【0033】
この状態で、クレーンの吊り側フック4をワーク引き起し部材20における掛け側フック22と係合させて、ワーク引き起し部材20を引き上げるようにクレーンを操作する。そうすると、ワーク引き起し部材20は軸26を中心として上方に回転するようになり、ワーク引き起し部材20が鉛直状態になり、クレーンをそれ以上引き上げると、軸26は軸支部材14から離脱する。これによって、ワーク積層体3は平積み状態から鉛直状態に姿勢が変換されて、台座部11から取り出される。
【0034】
台座部11の近傍位置に搬送部材30を配置しておき、クレーンに吊り下げられているワーク引き起し部材20を搬送部材30の支柱32に近接させて、架橋部材33の取付板35に設けた保持アーム36をスリット2に挿入させる。そして、ワーク引き起し部材20の横桟23を台車31の支柱32,32間を架け渡した架橋部材33に設けた掛け金34に係合させる。これによって、ワーク引き起し部材20は搬送部材30に設けたワーク支持部37に支持されることになる。
【0035】
この状態で、クレーンの吊り側フック4をワーク引き起し部材20の掛け側フック22から離脱させる。そうすると、ワーク引き起し部材20は、掛け金34に係合している枠状本体21の上部側部分に対して下部側部分が傾斜壁ブロック39に当接し、重力の作用によりこの傾斜壁ブロック39に押し付けられながら、所定の位置まで滑り下りるようにして安定的に保持される。このために、台車31に設けた車輪38を転動させるようにして台座部11の近傍から油切りステージ12に移動させる際に、ワーク引き起し部材20がみだりに動いたり、位置ずれしたりするおそれはなく、安定した状態で搬送される。
【0036】
ワーク積層体3がワーク積層体移載手段13により油切りステージ12に至ると、再びクレーンを作動させて、その吊り側フック4をワーク引き起し部材20に設けた掛け側フック22と係合させ、ワーク引き起し部材20をワーク支持部37の前方に向けて移動させることによって、保持アーム36からワーク積層体3を離脱させる。これによって、ワーク積層体3はワーク引き起し部材20のみと係合した状態になるので、これを油切りステージ12に設けたワーク保持部材15に装着する。これによって、ワーク積層体3は、ワーク引き起し部材20と共にワーク保持部材15におけるベース部15aに載置され、保持部15bに立て掛けた状態に保持される。この状態で、数時間乃至数日間放置することによって、ワーク積層体3を構成する各ワーク1の表面及び裏面に付着している油分は重力の作用で流下して排除される。従って、ワーク保持部材15のベース部15aの下方に配置した油受け皿40に油分が回収されるので、周囲が汚損されることはない。
【0037】
そして、新たなワーク引き起し部材20を台座部11において、ワーク積層体3に係合させるようになし、この状態で搬送部材30が台座部11の近接位置に搬送されるまで、その状態を保ちながら待機する。搬送部材30が所定の位置まで移動すると、次のワーク積層体3の油切り処理が開始されることになる。
【0038】
ここで、ワーク積層体3はワーク1を積層しただけで、格別の連結手段により相互に連結・固定するのではなく、ナイロンスリング等のように、可撓性のある緊縛具を用いることなく、スリット2に引き起し用アーム24と保持アーム36とを挿通させるだけで、ワーク積層体3を安全で、安定して搬送することができる。しかも、引き起し用アーム24及び保持アーム36は共に金属製のロッドであり、従って繰り返し作業を行っても、ワーク積層体3の移送時に、構成部品が損傷したり、変形したりすることがない。また、プレスステージ10ではワーク1を積み重ねられているに過ぎないので、油切りステージ12を経た後に、ワーク1を1枚ずつ分離して、加工や処理を行うことができる。また、油切りを行った後に、ワーク1を洗浄することもでき、この洗浄前に大半の油分が除去されていることから、洗浄が容易で、洗浄液の汚損を最小限に抑制できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ワーク 2 スリット
3 ワーク積層体 10 プレスステージ
11 台座部 12 油切りステージ
13 ワーク積層体移載手段 15 ワーク保持部材
20 ワーク引き起し部材 21 枠状本体
23 横桟 24 引き起し用アーム
30 搬送部材 31 台車
32 支柱 33 架橋部材
34 掛け金 36 保持アーム
37 ワーク支持部材 39 傾斜壁ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス及びパンチングによって、台形台形状であり、天蓋部に複数のスリットが形成されたエンジンカバー本体からなるワークの表裏面から油分を除去するための装置であって、
前記ワークを平積み状態で、所定枚数のワークからなるワーク積層体となるように複数枚重ね合わせるように載置したワーク平積み領域と、
前記ワーク平積み領域から前記スリットに掛着して前記ワーク積層体を引き起こすように取り出し、このワーク積層体を立てた状態で搬送するワーク積層体移載手段と、
前記ワーク積層体移載手段から前記ワーク積層体が供給されて、このワーク積層体を立て掛けた状態に保持するワーク保持部材を設けた油切りステージと
から構成したことを特徴とするエンジンカバーの油切り装置。
【請求項2】
前記ワーク積層体移載手段は、平積み状態のワーク積層体を鉛直状態となるように姿勢を変更する引き起こし部材と、この引き起こし部材に保持されているワーク積層体を搬送する搬送部材とからなり、この搬送部材は車輪を有する台車に前記引き起こし部材を着脱可能に支持するワーク支持部を立設することにより構成され、前記引き起こし部材は、枠状本体に前記係合部材として、前記ワーク積層体の前記スリットに挿通されて引き起す引き起しアームと、前記搬送部材に着脱可能に係合される係合部材とが設けられ、また前記ワーク支持部には、前記係合部材が着脱可能に係合される掛着部を設ける構成としたことを特徴とする請求項1記載のエンジンカバーの油切り装置。
【請求項3】
前記ワーク支持部は前記台車に立設した複数の支柱を備えており、これら各支柱間の架け渡し部材を設けて、この架け渡し部材に前記掛着部が設けられ、また前記各支柱には、前記引き起こし部材を所定角度傾斜した状態に保持するための傾斜壁部と、前記ワーク積層体の前記スリットに係合する保持アームとが設けられて、前記引き起こし部材を前記ワーク支持部に連結したときには、前記ワーク積層体は前記保持アームに支持される構成したことを特徴とする請求項2記載のエンジンカバーの油切り装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate