エンジンベンチシステムの制御方式
【課題】エンジンベンチシステムの機械系にはある周波数の共振点を有しており、速度制御時に機械共振周波数近傍になったと、軸トルクや速度が振動的になって安定なエンジン試験ができない。
【解決手段】動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力する。また、演算手段に用いる速度制御パラメータを、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じた共振周波数に変換して結合シャフトのばね剛性を求めることで、非線形なエンジンベンチシステムに対しても安定なエンジン試験が可能となる
【解決手段】動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力する。また、演算手段に用いる速度制御パラメータを、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じた共振周波数に変換して結合シャフトのばね剛性を求めることで、非線形なエンジンベンチシステムに対しても安定なエンジン試験が可能となる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンベンチシステムの制御方式に係り、特に共振現象を抑制する制御方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両部品を試験する装置の一つとしてエンジンベンチシステムがある。
図12はエンジンベンチシステムの機械系概略図を示したもので、エンジンE/GとトルクメータTM(又はトランスミッション)を組合せ、これに結合シャフトSHを介してダイナモメータ(動力計)Dyを連結している。ACTはスロットルアクチェータである。図12で示すようなエンジンベンチシステムの制御方法としては、特許文献1が公知となっている。この文献には、エンジンが発生する脈動トルクにより結合シャフトの共振破壊防止を目的として、ロバスト制御設計理論の一つであるμ設計法を用いた速度制御方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−121308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的なエンジンベンチシステムでは、エンジンと動力計との間にクラッチが入っている。クラッチにはガタ等が存在し、且つクラッチによる共振特性を持っている。現在、一般的に適用されている速度制御方式では共振特性を考慮してないため、特にエンジントルクから軸トルク検出の特性に機械系の共振点が大きく現れ、軸トルクを観測することによりエンジントルクの振動波形を推定することが困難となっている。
【0004】
なお、特許文献1では、μ設計法に基づいているため、コントローラ回路を得るまでには、制御対象のモデル化、及び重み係数の決定と大きく分けて2つの作業が必要となるが、特に重み係数の決定には試行錯誤を要する。そのため、供試体であるエンジンが変更されたときにはコントローラ回路の設計に時間を要し、効率的なエンジン試験が困難となる。
【0005】
本発明が目的とするとこは、共振抑制を可能としたエンジンベンチシステムの制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンと動力計を結合シャフトで連結し、インバータを介して動力計速度を制御するものであって、機械系構成が2慣性系以上の多慣性系機械系モデルとして表現され、この多慣性系機械系モデルが2慣性系に近似できるエンジンベンチシステムにおいて、
動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力することを特徴としたものである。
【0007】
本発明は、積分手段、及び二次伝達関数の演算手段により算出される動力計トルクT2は、
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
で求めることを特徴としたものである。
ただし、w2ref:動力計速度指令、w2:動力計速度検出、(Ki、b2、b1、b0、a2、a1):速度制御パラメータ、
また、本発明は、積分手段、及び二次伝達関数の演算手段に用いる速度制御パラメータは、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じて共振周波数に変換し、
変換された共振周波数を用いて結合シャフトのばね剛性を求め、6次低域フィルタの閉ループ特性多項式の係数に対する係数比較から求めた値であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、本発明によれば、従来のPI制御による速度制御では、エンジンが発生するトルクの周波数が機械共振周波数近傍になったと、軸トルクや速度が振動的になっているのに対し、本発明では、機械共振周波数近傍での共振抑制された速度制御が可能となり、安定なエンジン試験が可能となるものである。
また、動力計トルク算出時に用いられる速度制御パラメータを、運転状態に応じた共振周波数から算出することで、共振周波数が軸トルクの大きさにより変化するエンジンベンチシステムにおいても、常に共振周波数に適応した速度制御のためのゲインパラメータが選択される。これにより、共振周波数が変化するような非線形なエンジンベンチシステムに対しても安定なエンジン試験が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般に、エンジンヘンチシステムの機械系構成は2慣性以上の多慣性系機械系モデルとして表現される。本発明は多慣性系機械系モデルを2慣性系に近似できるようなエンジンヘンチシステムを対象とするもので、そのエンジンベンチシモデルは図3で示す機械系モデルとなる。ここで、エンジンベンチシステムの物理値を、
J1 :エンジン慣性モーメント
J2 :動力計慣性モーメント
K12:結合シャフトばね剛性
T12:結合シャフト捩れトルク(軸トルク)
w1 :エンジン角速度
w2 :動力計角速度
T1 :エンジントルク
T2 : 動力計トルク
とすると、ラプラス演算子をsとして、エンジンベンチの運動方程式は(1)〜(3)式となる。
J1×s×w1=T1+T12 …… (1)
T12=K12/s(w2 −w1) …… (2)
J2×s×w2=−T12+ T2 …… (3)
図4、及び図5は、J1=0.3、K12=1000、J2=0.7 としたときの図3で示すエンジンベンチモデルの機械系特性例である。図4は、エンジントルクT1→軸トルクT12のボード線図であり、図5は、エンジントルクT1→動力計角速度w2のボード線図である。各図で明らかなように約11Hz近辺に共振点を有しており、一般的なエンジンベンチシステムの機械系ではある周波数に共振点を持っている。
【0010】
図1は本発明の第1の実施例を示したもので、このような速度制御回路とすることで、共振点を抑制するものである。図1は、動力計速度指令値をw2refとしたときに、動力計トルクT2を(4)式により求め、求まった動力計トルクT2は動力計トルク指令としてインバータに出力される。
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
……(4)
ただし、Ki、b2、b1、b0、a2、a1は速度制御パラメータである。
【0011】
すなわち、図1は(4)式と等価な回路で、動力計速度指令値w2refと動力計速度検出w2との速度偏差を積分手段1に出力して速度偏差に対するトルク指令を算出する。2は二次の伝達関数を演算する演算手段で、速度検出w2に対する二次の伝達関数を演算してトルク指令を算出し、この算出されたトルク指令と積分手段1により算出されたトルク指令は減算部で差演算が実行されて動力計トルクT2が得られ、動力計トルク指令としてインバータを介し動力計を制御する。
【0012】
図1に用いられる速度制御パラメータKi、b2、b1、b0、a2、a1は以下のようにして決定する。
(1)〜(3)式、及び(4)式の閉ループ特性多項式を求めると、(5)式の6次多項式になる。
【0013】
【数1】
【0014】
(5)式におけるs、s2、s3、s4、s5、s6の項の係数は、パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)により任意の値に決定することができる。すなわち、機械共振周波数WPを、WP=√(K12(1/J1+1/J2))として
【0015】
【数2】
【0016】
【数3】
【0017】
【数4】
【0018】
【数5】
【0019】
【数6】
【0020】
【数7】
【0021】
として、(6)〜(11)式の連立方程式をパラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)について解く(1次c1〜6次c6の係数比較する)ことにより、(1)〜(4)の閉ループ特性多項式P(s)を(12)式とすることができる。
P(s)=1+c1(s/wp)+c2(s/wp)2+c3(s/wp)3+c4(s/wp)4+
c5(s/wp)5+c6(s/wp)6 …… (12)
本実施例では、以下のようにして(4)式のパラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を決定する。
ステップ1
(c6、c5、c4、c3、c2、c1)を、6次低域通過フィルタの特性多項式の係数に設定する。例えば、二項係数形にするには、
c6=1
c5=6
c4=15
c3=20
c2=15
c1=6
と設定すればよい。また、バターワース形にするには、
c6=1,
c5=3.86970330515627,
c4=7.46410161513775,
c3=9.14162017268564,
c2=7.46410161513775,
c1=3.86970330515627,
と設定すればよい。二項係数形にするか、バターワース形にするかは、得ようとするエンジントルク(T1)→軸トルク(T12)等の特性によって任意に選択される。
ステップ2
(6)〜(11)式を解き、(4)式の制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を求める。
【0022】
図6〜図8は上記ステップによって求めた本実施例による制御結果に基づくボード線図であり、図9〜図11は比較のための一般的なPI制御に基づくボード線図である。
図6と図9はT1→T12のボード線図である。
エンジンベンチシステムでは、図4、図5で示すように機械系の共振特性を有していることで、図9で示す従来の一般的なPI制御の場合のT1→T12ボード線図でも明らかなように、周波数の11Hz近傍で共振特性が残っている。これに対し、図6で示す本実施例によれば、その共振特性は抑制されている。
【0023】
図7と図10はT1→w2のボード線図で、このT1→w2特性も、図10で示すように一般的なPI制御の場合にはエンジンベンチシステムが有する機械系の共振特性は残っているが、図7で示す本実施例ではその共振特性が抑制されている。
また、図8と図11は速度指令値(w2ref)→速度検出(w2)のボード線図である。動力計システムにおける応答性能については、一般にはカットオフ周波数で−3dBとしており、図11で示す一般的なPI制御の場合での−3dBでは3Hz程度の速度制御応答となっているのに対し、図8で示す本実施例における−3dBでは4〜5Hzの速度制御応答に制御され、速度制御応答が向上していることが分かる。
【0024】
以上のことから、図9〜図11で示す従来のPI制御による速度制御では、エンジンが発生するトルクの周波数が機械共振周波数近傍になったときには、軸トルクや速度が振動的になっていることが分かる。これに対し、本発明の実施例によれば、図6〜図8で示すように、共振抑制された速度制御が可能となり、PI制御では軸トルクや速度が振動的になるような状況においても非振動的に制御され、安定なエンジン試験が可能となるものである。
【0025】
図2は第2の実施例を示したもので、この実施例は特に軸トルクの大きさにより共振周波数が変化するような機械系(ばねが非線形の特性を持つもの)の場合に有効なものである。
図3で示すエンジンベンチモデルでは、結合シャフト部がクラッチのような非線形ばね(ばね剛性が捩れ角により変化するようなばね)の場合、図4、図5に示すボード線図の周波数特性が、軸トルクによって大きく変化するが、この実施例は変化する場合でも対応できるものである。
【0026】
図2において、図1との同一部分、若しくは相当部分に同一符号を付してその説明を省略する。3は捩れトルク→共振周波数変換手段で、軸トルクメータで検出した捩れトルクT12を入力して共振周波数WP[rad/s]に変換する。捩れトルクT12と共振周波数WPとの関係については、非線形ばねの特性が判明している場合には計算により求め、特性がわかっていない場合には、捩れトルクがある値になっているときの共振周波数を実測してもよく、何らかの手段によって求められた捩れトルク→共振周波数の関係がテーブルとして格納される。4は結合シャフトのばね剛性K12を算出するばね剛性演算手段で、このばね剛性演算手段4は、捩れトルク→共振周波数変換部3で運転状態に応じて求められた共振周波数WP[rad/s]を入力し、各パーツの設計値から算出するか、予め何らかの手段によって測定されたエンジン慣性モーメントJ1と動力計慣性モーメントJ2を用いて(13)式に基づいて演算する。
K12=J1×J2×WP2/(J1+J2) …… (13)
5は係数記憶手段で、(12)式で求められた6次低域通過フィルタの特性多項式の係数c1〜c6を保存する。6は係数演算手段で、剛性演算手段4で求められた結合シャフトのばね剛性K12と係数記憶手段5での係数c1〜c6を用いて(6)〜(11)の演算を行って速度制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を求める。したがって、積分手段1と二次の伝達関数を演算する演算手段2は、係数演算手段6によって算出された速度制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を用いて動力計トルクT2を算出し、動力計トルク指令としてインバータに出力する。
【0027】
この実施例によれば、図4、図5で示すようなボード線図の共振周波数が軸トルクの大きさにより変化するエンジンベンチシステムにおいても、共振周波数に適応した速度制御のためのゲインパラメータが選択される。したがって、共振周波数が変化するような非線形なエンジンベンチシステムに対しても第1の実施例と同等の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す速度制御回路の構成図。
【図2】本発明の他の実施形態を示す速度制御回路の構成図。
【図3】エンジンベンチモデル図。
【図4】エンジントルクー軸トルク機械特性図
【図5】エンジントルクー動力計角速度機械特性図。
【図6】本発明によるエンジントルクー軸トルク制御特性図。
【図7】本発明によるエンジントルクー動力計角速度制御特性図。
【図8】本発明による動力計速度指令ー動力計角速度制御特性図。
【図9】PI制御によるエンジントルクー軸トルク制御特性図。
【図10】PI制御によるエンジントルクー動力計角速度制御特性図。
【図11】PI制御による動力計速度指令ー動力計角速度制御特性図。
【図12】試験装置(エンジンベンチシステム)の概略構成図。
【符号の説明】
【0029】
1… 積分手段
2… 演算手段
3… 捩れトルク→共振周波数変換手段
4… ばね剛性演算手段
5… 係数記憶手段
6… 係数演算手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンベンチシステムの制御方式に係り、特に共振現象を抑制する制御方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両部品を試験する装置の一つとしてエンジンベンチシステムがある。
図12はエンジンベンチシステムの機械系概略図を示したもので、エンジンE/GとトルクメータTM(又はトランスミッション)を組合せ、これに結合シャフトSHを介してダイナモメータ(動力計)Dyを連結している。ACTはスロットルアクチェータである。図12で示すようなエンジンベンチシステムの制御方法としては、特許文献1が公知となっている。この文献には、エンジンが発生する脈動トルクにより結合シャフトの共振破壊防止を目的として、ロバスト制御設計理論の一つであるμ設計法を用いた速度制御方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−121308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的なエンジンベンチシステムでは、エンジンと動力計との間にクラッチが入っている。クラッチにはガタ等が存在し、且つクラッチによる共振特性を持っている。現在、一般的に適用されている速度制御方式では共振特性を考慮してないため、特にエンジントルクから軸トルク検出の特性に機械系の共振点が大きく現れ、軸トルクを観測することによりエンジントルクの振動波形を推定することが困難となっている。
【0004】
なお、特許文献1では、μ設計法に基づいているため、コントローラ回路を得るまでには、制御対象のモデル化、及び重み係数の決定と大きく分けて2つの作業が必要となるが、特に重み係数の決定には試行錯誤を要する。そのため、供試体であるエンジンが変更されたときにはコントローラ回路の設計に時間を要し、効率的なエンジン試験が困難となる。
【0005】
本発明が目的とするとこは、共振抑制を可能としたエンジンベンチシステムの制御方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンと動力計を結合シャフトで連結し、インバータを介して動力計速度を制御するものであって、機械系構成が2慣性系以上の多慣性系機械系モデルとして表現され、この多慣性系機械系モデルが2慣性系に近似できるエンジンベンチシステムにおいて、
動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力することを特徴としたものである。
【0007】
本発明は、積分手段、及び二次伝達関数の演算手段により算出される動力計トルクT2は、
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
で求めることを特徴としたものである。
ただし、w2ref:動力計速度指令、w2:動力計速度検出、(Ki、b2、b1、b0、a2、a1):速度制御パラメータ、
また、本発明は、積分手段、及び二次伝達関数の演算手段に用いる速度制御パラメータは、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じて共振周波数に変換し、
変換された共振周波数を用いて結合シャフトのばね剛性を求め、6次低域フィルタの閉ループ特性多項式の係数に対する係数比較から求めた値であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、本発明によれば、従来のPI制御による速度制御では、エンジンが発生するトルクの周波数が機械共振周波数近傍になったと、軸トルクや速度が振動的になっているのに対し、本発明では、機械共振周波数近傍での共振抑制された速度制御が可能となり、安定なエンジン試験が可能となるものである。
また、動力計トルク算出時に用いられる速度制御パラメータを、運転状態に応じた共振周波数から算出することで、共振周波数が軸トルクの大きさにより変化するエンジンベンチシステムにおいても、常に共振周波数に適応した速度制御のためのゲインパラメータが選択される。これにより、共振周波数が変化するような非線形なエンジンベンチシステムに対しても安定なエンジン試験が可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一般に、エンジンヘンチシステムの機械系構成は2慣性以上の多慣性系機械系モデルとして表現される。本発明は多慣性系機械系モデルを2慣性系に近似できるようなエンジンヘンチシステムを対象とするもので、そのエンジンベンチシモデルは図3で示す機械系モデルとなる。ここで、エンジンベンチシステムの物理値を、
J1 :エンジン慣性モーメント
J2 :動力計慣性モーメント
K12:結合シャフトばね剛性
T12:結合シャフト捩れトルク(軸トルク)
w1 :エンジン角速度
w2 :動力計角速度
T1 :エンジントルク
T2 : 動力計トルク
とすると、ラプラス演算子をsとして、エンジンベンチの運動方程式は(1)〜(3)式となる。
J1×s×w1=T1+T12 …… (1)
T12=K12/s(w2 −w1) …… (2)
J2×s×w2=−T12+ T2 …… (3)
図4、及び図5は、J1=0.3、K12=1000、J2=0.7 としたときの図3で示すエンジンベンチモデルの機械系特性例である。図4は、エンジントルクT1→軸トルクT12のボード線図であり、図5は、エンジントルクT1→動力計角速度w2のボード線図である。各図で明らかなように約11Hz近辺に共振点を有しており、一般的なエンジンベンチシステムの機械系ではある周波数に共振点を持っている。
【0010】
図1は本発明の第1の実施例を示したもので、このような速度制御回路とすることで、共振点を抑制するものである。図1は、動力計速度指令値をw2refとしたときに、動力計トルクT2を(4)式により求め、求まった動力計トルクT2は動力計トルク指令としてインバータに出力される。
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
……(4)
ただし、Ki、b2、b1、b0、a2、a1は速度制御パラメータである。
【0011】
すなわち、図1は(4)式と等価な回路で、動力計速度指令値w2refと動力計速度検出w2との速度偏差を積分手段1に出力して速度偏差に対するトルク指令を算出する。2は二次の伝達関数を演算する演算手段で、速度検出w2に対する二次の伝達関数を演算してトルク指令を算出し、この算出されたトルク指令と積分手段1により算出されたトルク指令は減算部で差演算が実行されて動力計トルクT2が得られ、動力計トルク指令としてインバータを介し動力計を制御する。
【0012】
図1に用いられる速度制御パラメータKi、b2、b1、b0、a2、a1は以下のようにして決定する。
(1)〜(3)式、及び(4)式の閉ループ特性多項式を求めると、(5)式の6次多項式になる。
【0013】
【数1】
【0014】
(5)式におけるs、s2、s3、s4、s5、s6の項の係数は、パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)により任意の値に決定することができる。すなわち、機械共振周波数WPを、WP=√(K12(1/J1+1/J2))として
【0015】
【数2】
【0016】
【数3】
【0017】
【数4】
【0018】
【数5】
【0019】
【数6】
【0020】
【数7】
【0021】
として、(6)〜(11)式の連立方程式をパラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)について解く(1次c1〜6次c6の係数比較する)ことにより、(1)〜(4)の閉ループ特性多項式P(s)を(12)式とすることができる。
P(s)=1+c1(s/wp)+c2(s/wp)2+c3(s/wp)3+c4(s/wp)4+
c5(s/wp)5+c6(s/wp)6 …… (12)
本実施例では、以下のようにして(4)式のパラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を決定する。
ステップ1
(c6、c5、c4、c3、c2、c1)を、6次低域通過フィルタの特性多項式の係数に設定する。例えば、二項係数形にするには、
c6=1
c5=6
c4=15
c3=20
c2=15
c1=6
と設定すればよい。また、バターワース形にするには、
c6=1,
c5=3.86970330515627,
c4=7.46410161513775,
c3=9.14162017268564,
c2=7.46410161513775,
c1=3.86970330515627,
と設定すればよい。二項係数形にするか、バターワース形にするかは、得ようとするエンジントルク(T1)→軸トルク(T12)等の特性によって任意に選択される。
ステップ2
(6)〜(11)式を解き、(4)式の制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を求める。
【0022】
図6〜図8は上記ステップによって求めた本実施例による制御結果に基づくボード線図であり、図9〜図11は比較のための一般的なPI制御に基づくボード線図である。
図6と図9はT1→T12のボード線図である。
エンジンベンチシステムでは、図4、図5で示すように機械系の共振特性を有していることで、図9で示す従来の一般的なPI制御の場合のT1→T12ボード線図でも明らかなように、周波数の11Hz近傍で共振特性が残っている。これに対し、図6で示す本実施例によれば、その共振特性は抑制されている。
【0023】
図7と図10はT1→w2のボード線図で、このT1→w2特性も、図10で示すように一般的なPI制御の場合にはエンジンベンチシステムが有する機械系の共振特性は残っているが、図7で示す本実施例ではその共振特性が抑制されている。
また、図8と図11は速度指令値(w2ref)→速度検出(w2)のボード線図である。動力計システムにおける応答性能については、一般にはカットオフ周波数で−3dBとしており、図11で示す一般的なPI制御の場合での−3dBでは3Hz程度の速度制御応答となっているのに対し、図8で示す本実施例における−3dBでは4〜5Hzの速度制御応答に制御され、速度制御応答が向上していることが分かる。
【0024】
以上のことから、図9〜図11で示す従来のPI制御による速度制御では、エンジンが発生するトルクの周波数が機械共振周波数近傍になったときには、軸トルクや速度が振動的になっていることが分かる。これに対し、本発明の実施例によれば、図6〜図8で示すように、共振抑制された速度制御が可能となり、PI制御では軸トルクや速度が振動的になるような状況においても非振動的に制御され、安定なエンジン試験が可能となるものである。
【0025】
図2は第2の実施例を示したもので、この実施例は特に軸トルクの大きさにより共振周波数が変化するような機械系(ばねが非線形の特性を持つもの)の場合に有効なものである。
図3で示すエンジンベンチモデルでは、結合シャフト部がクラッチのような非線形ばね(ばね剛性が捩れ角により変化するようなばね)の場合、図4、図5に示すボード線図の周波数特性が、軸トルクによって大きく変化するが、この実施例は変化する場合でも対応できるものである。
【0026】
図2において、図1との同一部分、若しくは相当部分に同一符号を付してその説明を省略する。3は捩れトルク→共振周波数変換手段で、軸トルクメータで検出した捩れトルクT12を入力して共振周波数WP[rad/s]に変換する。捩れトルクT12と共振周波数WPとの関係については、非線形ばねの特性が判明している場合には計算により求め、特性がわかっていない場合には、捩れトルクがある値になっているときの共振周波数を実測してもよく、何らかの手段によって求められた捩れトルク→共振周波数の関係がテーブルとして格納される。4は結合シャフトのばね剛性K12を算出するばね剛性演算手段で、このばね剛性演算手段4は、捩れトルク→共振周波数変換部3で運転状態に応じて求められた共振周波数WP[rad/s]を入力し、各パーツの設計値から算出するか、予め何らかの手段によって測定されたエンジン慣性モーメントJ1と動力計慣性モーメントJ2を用いて(13)式に基づいて演算する。
K12=J1×J2×WP2/(J1+J2) …… (13)
5は係数記憶手段で、(12)式で求められた6次低域通過フィルタの特性多項式の係数c1〜c6を保存する。6は係数演算手段で、剛性演算手段4で求められた結合シャフトのばね剛性K12と係数記憶手段5での係数c1〜c6を用いて(6)〜(11)の演算を行って速度制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を求める。したがって、積分手段1と二次の伝達関数を演算する演算手段2は、係数演算手段6によって算出された速度制御パラメータ(Ki、b2、b1、b0、a2、a1)を用いて動力計トルクT2を算出し、動力計トルク指令としてインバータに出力する。
【0027】
この実施例によれば、図4、図5で示すようなボード線図の共振周波数が軸トルクの大きさにより変化するエンジンベンチシステムにおいても、共振周波数に適応した速度制御のためのゲインパラメータが選択される。したがって、共振周波数が変化するような非線形なエンジンベンチシステムに対しても第1の実施例と同等の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を示す速度制御回路の構成図。
【図2】本発明の他の実施形態を示す速度制御回路の構成図。
【図3】エンジンベンチモデル図。
【図4】エンジントルクー軸トルク機械特性図
【図5】エンジントルクー動力計角速度機械特性図。
【図6】本発明によるエンジントルクー軸トルク制御特性図。
【図7】本発明によるエンジントルクー動力計角速度制御特性図。
【図8】本発明による動力計速度指令ー動力計角速度制御特性図。
【図9】PI制御によるエンジントルクー軸トルク制御特性図。
【図10】PI制御によるエンジントルクー動力計角速度制御特性図。
【図11】PI制御による動力計速度指令ー動力計角速度制御特性図。
【図12】試験装置(エンジンベンチシステム)の概略構成図。
【符号の説明】
【0029】
1… 積分手段
2… 演算手段
3… 捩れトルク→共振周波数変換手段
4… ばね剛性演算手段
5… 係数記憶手段
6… 係数演算手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと動力計を結合シャフトで連結し、インバータを介して動力計速度を制御するものであって、機械系構成が2慣性系以上の多慣性系機械系モデルとして表現され、この多慣性系機械系モデルが2慣性系に近似できるエンジンベンチシステムにおいて、
動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力することを特徴としたエンジンベンチシステムの速度制御方式。
【請求項2】
前記積分手段、及び二次伝達関数の演算手段により算出される動力計トルクT2は、
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
で求めることを特徴とした請求項1記載のエンジンベンチシステムの速度制御方式。
ただし、w2ref:動力計速度指令、w2:動力計速度検出、(Ki、b2、b1、b0、a2、a1):速度制御パラメータ、
【請求項3】
前記積分手段、及び二次伝達関数の演算手段に用いる速度制御パラメータは、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じて共振周波数に変換し、
変換された共振周波数を用いて結合シャフトのばね剛性を求め、6次低域フィルタの閉ループ特性多項式の係数に対する係数比較から求めた値であることを特徴とした請求項2記載のエンジンベンチシステムの速度制御方式。
【請求項1】
エンジンと動力計を結合シャフトで連結し、インバータを介して動力計速度を制御するものであって、機械系構成が2慣性系以上の多慣性系機械系モデルとして表現され、この多慣性系機械系モデルが2慣性系に近似できるエンジンベンチシステムにおいて、
動力計の速度設定値と速度検出との速度偏差に対する積分手段から得られるトルク指令と、速度検出に対する二次伝達関数の演算手段から得られるトルク指令の差で動力計トルクを算出し、算出された動力計トルクを動力計トルク指令としてインバータに出力することを特徴としたエンジンベンチシステムの速度制御方式。
【請求項2】
前記積分手段、及び二次伝達関数の演算手段により算出される動力計トルクT2は、
T2=(Ki/s)×(w2ref−w2)−(b2×s2+b1×s+b0)/(a2×s2+a1×s+1)×w2
で求めることを特徴とした請求項1記載のエンジンベンチシステムの速度制御方式。
ただし、w2ref:動力計速度指令、w2:動力計速度検出、(Ki、b2、b1、b0、a2、a1):速度制御パラメータ、
【請求項3】
前記積分手段、及び二次伝達関数の演算手段に用いる速度制御パラメータは、軸トルクメータで検出した捩れトルクに応じて共振周波数に変換し、
変換された共振周波数を用いて結合シャフトのばね剛性を求め、6次低域フィルタの閉ループ特性多項式の係数に対する係数比較から求めた値であることを特徴とした請求項2記載のエンジンベンチシステムの速度制御方式。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−71772(P2010−71772A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238796(P2008−238796)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】
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