説明

エンジン冷却装置

【課題】ウォータジャケットとヒータ用循環路との間で冷却液を循環させる際に、ウォータジャケットの冷却液温度およびヒータ用循環路の冷却液温度の急変を回避可能とする。
【解決手段】ウォータジャケット2とエンジン1外部のヒータ用循環路3とを有するエンジン冷却装置において、ウォータジャケット2の冷却液を第1バイパス通路21または第2バイパス通路22を経てヒータ用循環路3に流入させるための循環処理を実行する際、ウォータジャケット2の冷却液温度がヒータ用循環路3の冷却液温度よりも所定値以上高いときは小流量弁24を開弁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのウォータジャケットから冷却液を取り出してラジエータで冷却してから前記ウォータジャケットに戻す形態、ヒータコアから大気放出される熱を車両室内に供給する形態を可能とする構成のエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、エンジンのウォータジャケットにヒータ用循環路(冷却水通路)を接続し、このヒータ用循環路に排気熱回収器、ヒータコアならびにウォータポンプを設置し、前記ヒータ用循環路にエンジンを迂回させる迂回通路を設け、さらにラジエータを設置したラジエータ通路を設けるようにした構成が記載されている。
【0003】
また、エンジンのウォータジャケットの排出側とヒータ用循環路と迂回通路との合流部には三方弁が設置されている。この三方弁は、ウォータジャケットの冷却液流通を停止させて迂回通路とヒータ用循環路との間で冷却液を循環させるCold時冷却水ルートを確保する他、迂回通路の冷却液流通を停止させてウォータジャケットとヒータ用循環路との間で冷却液を循環させるHot時冷却水ルートを確保する。
【0004】
さらに、ラジエータ通路とヒータ用循環路との接続部位には、サーモスタットが設置されている。このサーモスタットは、ヒータ用循環路を流通する冷却液の温度が高温になったときに開弁してウォータジャケットからラジエータ通路を経てヒータ用循環路へ冷却液を流通させる状態にする一方、ヒータ用循環路を流通する冷却液の温度が低温のときに閉弁してウォータジャケットからラジエータ通路を経てヒータ用循環路へ冷却液が流通することを停止させる状態にする。
【0005】
この特許文献1の動作としては、エンジンの冷間始動時には三方弁で前記Cold時冷却水ルートを確保する。これにより、エンジンのウォータジャケットの冷却液流通が停止されるので、エンジンの暖機が促進されることになる。
【0006】
そして、エンジンが暖機完了すると、サーモスタットが開弁するとともに、三方弁で前記Hot時冷却水ルートを確保する。これにより、ウォータジャケットからラジエータ通路へ冷却液が流通して冷却されるようになるとともに、この冷却液がヒータ用循環路からウォータジャケットへ還流されるようになるので、エンジンのオーバーヒートが防止される。
【0007】
ところで、この特許文献1の場合には、エンジンの暖機中でも車両室内の暖房(ヒータ使用)を行えるようにしている。つまり、運転者により暖房が要求されると、迂回通路とヒータ用循環路との間で冷却液を循環させることにより排気熱回収器で回収した熱で冷却液を昇温させて、ヒータコアにヒータブロアで風を吹きつけることによりヒータコアから大気放出される熱風を車両室内に供給させる。
【0008】
さらに、特許文献1の段落0073−0078に記載されているように、例えばエンジン暖機完了に伴いCold時冷却水ルートからHot時冷却水ルートに切り替える際に、暖房中でなければ即座にHot時冷却水ルート切り替えるが、暖房中であればヒータコアに流入する冷却液温度の急変を抑制するために、三方弁を所定時間だけ中間温度モードにした後でHot時冷却水ルートに切り替える。なお、前記中間温度モードとは、前記三方弁でウォータジャケットから排出される冷却液と迂回通路から流入される冷却液とを混合させる状態のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−150266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1は、Cold時冷却水ルートからHot時冷却水ルートに切り替える際に、暖房中であれば、ヒータコア内の冷却液温度の急変を抑制するために、三方弁を所定時間だけ中間温度モードにした後でHot時冷却水ルートに切り替えるようにしている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1では、暖房中でなければ即座にHot時冷却水ルート切り替えるようにしているため、エンジンのウォータジャケット内の冷却液温度が急変することがある。ここで、ウォータジャケットの排出側の冷却液温度をモニタしてエンジンに対する燃料噴射制御ならびに点火制御などを行うようにしている場合には、前記ウォータジャケット内の冷却液温度が急変することに伴い前記制御が乱れて、燃費やエミッションが悪化する可能性が高くなる。
【0012】
このような事情に鑑み、本発明は、エンジンのウォータジャケットとエンジン外部のヒータ用循環路とを有するエンジン冷却装置において、前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液を循環させる際に、前記ウォータジャケットの冷却液温度および前記ヒータ用循環路の冷却液温度の急変を回避可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るエンジン冷却装置は、ヒータコアおよびウォータポンプが途中に設置されるヒータ用循環路と、エンジンのウォータジャケットの冷却液をラジエータを通してから前記ヒータ用循環路に流入させるためのラジエータ通路と、前記ヒータ用循環路から前記ウォータジャケットに冷却液を流入させるための還流路と、前記ウォータジャケットの冷却液を前記ラジエータをバイパスして前記ヒータ用循環路に流入させるための第1、第2バイパス通路と、前記第1バイパス通路に設置される大流量弁と、前記第2バイパス通路に設置される小流量弁とを備え、前記ウォータジャケットの冷却液を前記第1バイパス通路または第2バイパス通路を経て前記ヒータ用循環路に流入させるための循環処理を実行する際、前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度よりも所定値以上高いときは前記小流量弁を開弁する、ことを特徴としている。
【0014】
この構成において、例えばエンジン運転中にウォータジャケットの冷却液流通を停止させる状態にすると、ウォータジャケットの冷却液が比較的早期に昇温する。そこで、例えばエンジンを冷間始動する場合にウォータジャケットの冷却液流通を停止させる状態にするとエンジンの暖機を比較的早期に完了させることが可能になる。
【0015】
ここで、仮に前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度よりも所定値以上高い場合において、仮に前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液を急激に大量に入れ替えるようにすると、前記ウォータジャケットおよび前記ヒータ用循環路の冷却液温度が急激に変化してしまうので、前記ウォータジャケットの排出側の冷却液温度をモニタして前記エンジンに対する燃料噴射制御ならびに点火制御などを行うようにする場合には当該制御が乱れて燃費やエミッションが悪化する可能性が高くなる他、暖房中(前記ヒータコアから大気放出される熱を車両室内に供給している状態)の場合には暖房温度が急上昇することが懸念される。
【0016】
これに対し、本発明では、前記大流量弁または前記小流量弁を開弁して前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液を循環させる際に、前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度よりも所定値以上高い場合だと前記小流量弁を開弁するようにしているので、前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液が少しずつ入れ替わるようになる。
【0017】
そのため、前記ウォータジャケットの冷却液温度および前記ヒータ用循環路の冷却液温度が徐々に変化するようになる。言い換えると、前記ウォータジャケットの冷却液温度および前記ヒータ用循環路の冷却液温度が急激に変化せずに済むようになる。これにより、前記ウォータジャケットの排出側の冷却液温度をモニタして前記エンジンに対する燃料噴射制御ならびに点火制御などを行うようにする場合には、当該制御が乱れずに済むようになる他、暖房中の場合には暖房温度が急激に変化せずに済むようになる。
【0018】
好ましくは、前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度に前記所定値を加算した値未満のときには、前記大流量弁が開弁される。
【0019】
この構成では、前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度に所定値を加算した値未満のときに前記大流量弁を開弁するようにしているので、前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液が比較的多く入れ替わるようになるものの、前記ウォータジャケットの冷却液温度と前記ヒータ用循環路の冷却液温度との差が比較的小さいために、両方の冷却液温度が急激に変化せずに済むようになりながらも、比較的速やかに平均化されるようになる。
【0020】
好ましくは、前記ラジエータ通路において前記ラジエータよりも下流側には、サーモスタットが設置され、このサーモスタットは、前記ヒータ用循環路の冷却液温度がエンジン暖機完了温度以上のときに開弁して前記ウォータジャケットの冷却液を前記ラジエータ通路を経て前記ヒータ用循環路に流入させる状態にする。
【0021】
この構成では、前記ヒータ用循環路の冷却液温度が前記エンジン暖機完了温度(サーモスタットの開弁温度)以上になると、前記サーモスタットが自動的に開弁することになる。これにより、前記ウォータジャケットの冷却液が前記ラジエータおよび前記ラジエータ通路を経て前記ヒータ用循環路に流入されるようになる。
【0022】
なお、前記サーモスタットとは、自動車関連業界において温度感知型自動作動弁のことを意味している。このようなサーモスタットを用いる場合には、エンジン水温センサや制御系が不要となり、設備コストの無駄な上昇を抑制することが可能になる。
【0023】
好ましくは、前記第1、第2バイパス通路は、前記ヒータ用循環路において前記サーモスタットと前記ヒータコアとの間に接続される。
【0024】
この構成では、前記大流量弁または前記小流量弁を開弁すると、前記ウォータジャケットから排出される冷却液が前記第1バイパス通路または前記第2バイパス通路を経て前記ヒータ用循環路に流入されるようになるが、そのとき、前記ウォータジャケットから排出される冷却液が即座に前記サーモスタットに触れるようになる。そのため、このサーモスタットが速やかに感温することが可能になるので、当該サーモスタットの開閉動作の応答性が向上するようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、エンジンのウォータジャケットとエンジン外部のヒータ用循環路とを有するエンジン冷却装置において、前記ウォータジャケットと前記ヒータ用循環路との間で冷却液を循環させる際に、前記ウォータジャケットの冷却液温度および前記ヒータ用循環路の冷却液温度が急激に変化することを回避することが可能になる。これにより、前記ウォータジャケットの排出側の冷却液温度をモニタして前記エンジンの燃料噴射制御ならびに点火制御などを行うようにする場合には、当該制御が乱れずに済むようになるので、燃費やエミッションの悪化を回避することが可能になる他、暖房中の場合には暖房温度が急激に変化せずに済むようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るエンジン冷却装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】図1のエンジン冷却装置の制御系の概略構成を説明するための図である。
【図3】図1においてエンジンの暖機完了後における冷却液流通経路を説明するための図である。
【図4】図1においてエンジンの暖機途中段階で小流量弁を開弁したときの冷却液流通経路を説明するための図である。
【図5】図1においてエンジンの暖機途中段階で大流量弁を開弁したときの冷却液流通経路を説明するための図である。
【図6】図2のE/G_ECUにおいて循環処理の要求に対応する制御を説明するためのフローチャートである。
【図7】図2のA/C_ECUにおいて暖房要求に対応する制御を説明するためのフローチャートである。
【図8】図2のE/G_ECUにおいて図7のA/C_ECUとの信号送受に対応する制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明に係るエンジン冷却装置の他実施形態の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1から図8に本発明の一実施形態を示している。図中、1はエンジンである。このエンジン1の内部にはウォータジャケット2が設けられている。
【0029】
エンジン1の吸気通路には、エンジン1の吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ6が設けられている。このスロットルバルブ6の開度を変更するためのスロットルモータ7の動作は、下記するエンジン用のエレクトロニックコントロールユニット(以下、E/G_ECUとする)100によって制御される。
【0030】
このウォータジャケット2はシリンダブロックとシリンダヘッドとにそれぞれ設けられていて、それぞれの複数箇所が互いに連通されている。このウォータジャケット2の冷却液排出口2aはシリンダヘッド側に、また、ウォータジャケット2の冷却液流入口2bはシリンダブロック側にそれぞれ設置されている。
【0031】
エンジン1の外部には閉ループ状のヒータ用循環路3が設けられている。このヒータ用循環路3はエンジン1のウォータジャケット2にラジエータ通路4と還流路5とを介して接続されており、必要に応じてウォータジャケット2とヒータ用循環路3とで冷却液を循環させることが可能になっている。これらウォータジャケット2、ヒータ用循環路3、ラジエータ通路4、還流路5を流通する冷却液は、例えばエチレングリコールの水溶液などの不凍液とされる。
【0032】
ヒータ用循環路3の途中には、ウォータポンプ11、ヒータコア12などが設置されている。
【0033】
ウォータポンプ11は、ヒータ用循環路3において還流路5寄りの位置に設置されている。このウォータポンプ11は、ヒータ用循環路3においてラジエータ通路4との接続部から還流路5との接続部に至るまでの上流側領域3aに設置されている。このウォータポンプ11は、電動式とされていて、その動作はE/G_ECU100により制御される。
【0034】
ヒータコア12は、ヒータ用循環路3を流通する冷却液と大気との間で熱交換するための熱交換器である。このヒータコア12は、ヒータ用循環路3において還流路5との接続部からラジエータ通路4との接続部に至るまでの下流側領域3bに設置されている。このヒータコア12から大気放出される熱は、ヒータブロア13を作動させることによって車両室内に供給されることによって車両室内が暖房される。ヒータブロア13の動作は、下記するエアコンディショナ用のエレクトロニックコントロールユニット(以下、A/C_ECUとする)200により制御される。
【0035】
ラジエータ通路4は、ウォータジャケット2の排出口2aとヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12よりも冷却液流通方向下流側とに接続されている。このラジエータ通路4の途中にはラジエータ15が設置されている。ラジエータ15は、ラジエータ通路4を流通する冷却液と大気との間で熱交換するための熱交換器である。このラジエータ通路4は、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液をラジエータ15に通してからヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12よりも冷却液流通方向下流側に流入させるための流路である。
【0036】
還流路5は、ウォータジャケット2の流入口2bとヒータ用循環路3においてウォータポンプ11の冷却液流通方向下流側とに接続されている。この還流路5は、ヒータ用循環路3からウォータジャケット2の流入口2bに冷却液を流入させるための流路である。
【0037】
さらに、ラジエータ通路4においてラジエータ15よりも下流側には、サーモスタット16が設置されている。このサーモスタット16は、公知の構成であるので詳細に図示していないが、ヒータ用循環路3を流通する冷却液温度がエンジン暖機完了温度(例えば約88℃)Th未満のとき、サーモワックスが凝固収縮してワックス圧が低くなるので、弁体が自動的に閉側になってラジエータ通路4からヒータ用循環路3への冷却液流通を少なくするが、ヒータ用循環路3を流通する冷却液温度が前記エンジン暖機完了温度Th以上になると、サーモワックスが溶融膨張されてワックス圧が高くなるので、前記弁体が自動的に全開になってラジエータ通路4からヒータ用循環路3への冷却液流通を許容する。
【0038】
詳しくは、このサーモスタット16は、ヒータ用循環路3を流通する前記エンジン暖機完了温度Thより低い所定温度(例えば約82℃)未満になると全閉状態になり、当該所定温度を超えてから開き始め、前記エンジン暖機完了温度Thになると全開状態になる。このサーモスタット16が全閉のときでも、ヒータ用循環路3のヒータコア12からウォータポンプ11へ冷却液が常に流通するようになっている。
【0039】
さらに、ラジエータ通路4においてラジエータ15よりも冷却液流通方向上流側と、ヒータ用循環路3の下流側領域3bとには、第1、第2バイパス通路21,22が並列に接続されている。詳しくは、第1、第2バイパス通路21,22の冷却液流通方向上流側は、それぞれラジエータ通路4においてラジエータ15とエンジン1のウォータジャケット2の排出口2aとの間の位置に接続されている。また、第1、第2バイパス通路21,22の冷却液流通方向下流側は、それぞれヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12より冷却液流通方向上流側に接続されている。
【0040】
第1、第2バイパス通路21,22は、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液をラジエータ15をバイパスしてヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12よりも冷却液流通方向上流側に流入させるための流路である。
【0041】
第1バイパス通路21の途中には、大流量弁23が設置されており、また、第2バイパス通路22の途中には、小流量弁24が設置されている。これら大流量弁23および小流量弁24は、この実施形態において常閉型の電磁弁とされており、E/G_ECU100により開閉動作される。具体的に、E/G_ECU100で大流量弁23または小流量弁24のソレノイドに通電すると開弁され、また、当該ソレノイドに対する通電を停止すると閉弁されるようになっている。
【0042】
E/G_ECU100は、例えばエンジン1の各種動作を制御するためのエンジン用のコントロールコンピュータと呼ばれる。このE/G_ECU100は、詳細に図示していないが、共にCPU(中央処理装置)、ROM(プログラムメモリ)、RAM(データメモリ)、ならびにバックアップRAM(不揮発性メモリ)などを備える公知の構成とされる。
【0043】
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータなどを記憶する不揮発性のメモリである。
【0044】
E/G_ECU100は、エンジン1の温度調節をするために、エンジン水温センサ31およびヒータ水温センサ32の各検出出力の入力に基づいて、電動式のウォータポンプ11、大流量弁23、小流量弁24などの動作を制御する。エンジン水温センサ31は、エンジン1のウォータジャケット2の排出口2a付近に設置されており、当該設置場所の冷却液温度(以下、単にウォータジャケット2の冷却液温度thw1とする)を検出する。また、ヒータ水温センサ32は、ヒータ用循環路3においてヒータコア12よりも冷却液流通方向上流側に設置されており、当該設置場所の冷却液温度(以下、単にヒータ用循環路3の冷却液温度thw2とする)を検出する。
【0045】
A/C_ECU200は、例えば車両室内の空調動作を制御するためのエアーコンディショナ用のコントロールコンピュータと呼ばれる。このA/C_ECU200は、詳細に図示していないが、E/G_ECU100と同様、CPU(中央処理装置)、ROM(プログラムメモリ)、RAM(データメモリ)、ならびにバックアップRAM(不揮発性メモリ)などを備える公知の構成とされる。
【0046】
このA/C_ECU200には、車両室内に設置されるヒータスイッチ41および切替スイッチ42の各出力信号が入力される。ヒータスイッチ41は、暖房を実行または停止させるために運転者によりオン・オフ操作されるものである。また、切替スイッチ42は、暖房能力の大(強)、小(弱)を切り替えるために運転者により押動操作されるものである。
【0047】
そして、A/C_ECU200は、運転者によるヒータスイッチ41のオン操作によって暖房の実行が要求されたときに、ヒータブロア13を作動させるための信号をE/G_ECU100に入力することにより、E/G_ECU100によりヒータブロア13を作動させるようにする。ヒータブロア13が作動されると、ヒータコア12から大気放出される熱が車両室内に供給されるようになる。また、A/C_ECU200は、運転者による切替スイッチ42の押動操作によって暖房能力の切り替え処理の実行が要求されたときに、ヒータブロア13の作動能力を制御するための信号をE/G_ECU100に入力することにより、E/G_ECU100によりヒータブロア13の作動能力を要求に対応させるようにする。
【0048】
ここで、エンジン1の冷間始動時の基本的な動作について説明する。
【0049】
エンジン1が冷間始動された場合、つまりエンジン1の始動時においてサーモスタット16の近傍の冷却液温度がエンジン暖機完了温度Th未満である場合には、サーモスタット16が閉じているので、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液流通が停止する状態になる。これにより、エンジン1の燃焼室の熱によってエンジン1およびウォータジャケット2の冷却液が比較的早期に昇温することになる。
【0050】
そうして、ヒータ用循環路3においてサーモスタット16近傍の冷却液温度がエンジン暖機完了温度Th以上になると、サーモスタット16が全開になるので、図3の矢印で示すように、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液がラジエータ通路4およびラジエータ15を通ることで冷却されてからヒータ用循環路3に流入される。そして、ヒータ用循環路3を循環する冷却液の一部が還流路5を経てエンジン1のウォータジャケット2に戻される。このようにしてウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が所定温度範囲に保たれるようになる。
【0051】
ところで、エンジン1の暖機中において、大流量弁23または小流量弁24を開弁するとともに、電動式のウォータポンプ11を適宜の能力で作動させることにより、図4または図5の矢印で示すように、第1バイパス通路21または第2バイパス通路22を経てウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液を循環させる処理の実行が要求されることがある。
【0052】
このような循環処理の実行が要求される状況例を説明する。
【0053】
(1)ウォータジャケット2の冷却液でヒータ用循環路3の暖機を開始する場合。ヒータ用循環路3の暖機開始タイミングは、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1が所定値T1(例えば70℃)を超えたときとされる。この条件が成立したときに、前記循環処理の実行が要求される。
【0054】
(2)ヒータ用循環路3の暖機が完了した場合。この暖機完了は、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2がヒータ暖機完了温度T2(例えば60℃)を超えたときとされる。この条件が成立したときに、冷却液温度thw2をヒータ暖機完了温度T2に保つために、前記循環処理の実行が要求される。
【0055】
(3)ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2がウォータジャケット2の冷却液温度thw1に所定値T3(例えば10℃)を加算した値よりも高い場合。この条件が成立したときに、前記循環処理の実行が要求される。
【0056】
(4)運転者により暖房が要求(ヒータスイッチ41がオン操作)されたときに、要求暖房能力に対応するヒータ用循環路3の冷却液温度thw2の目標温度thw0から現在の冷却液温度thw2を減算した値が所定値Y(例えば30℃)よりも大きい場合、あるいは所定範囲に収まる場合。前記所定範囲の下限値Z1は例えば0℃とされ、上限値Z2は例えば30℃とされる。この条件が成立したときに、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2を目標温度thw0にまで上昇させるために、前記循環処理の実行が要求される。
【0057】
(5)エンジン1の暖機運転中のようにウォータジャケット2の冷却液流通を停止させている状態において、ウォータジャケット2の局所(シリンダヘッド燃焼室近傍)で冷却液が沸騰するような状況になった場合。この状況の発生が検知されたときに、前記沸騰を解消させるために、前記循環処理の実行が要求される。
【0058】
なお、前記沸騰検知は、エンジン1の始動開始から所定周期(数msec〜数十msec)毎に、ウォータジャケット2においてシリンダヘッド内最高温度到達領域での冷却液温度の最高値を推定することにより行う。この推定方法の一例としては、エンジン1の始動開始時にエンジン水温センサ31からの検出出力に基づいてウォータジャケット2の冷却液温度thw1の初期値を認識する処理と、エンジン1を始動してからのエンジン1の発生熱量を算出するとともに、この発生熱量による前記シリンダヘッド内最高温度到達領域の上昇値を算出する処理と、この上昇値を前回の推定値(初回は前記初期値)に加算することにより前記シリンダヘッド内最高温度到達領域の現在の冷却液温度を推定する処理と、この推定値が所定温度T4(例えば96℃)を超えた場合に沸騰が発生するような状況であると判断する処理とを行う。
【0059】
(6)エンジン1の暖機運転中のようにウォータジャケット2の冷却液流通を停止させている状態において、ピストン打音が発生する可能性が高くなった場合。この可能性が高くなったことを検知したときに、前記ピストン打音の発生を回避するために、前記循環処理の実行が要求される。
【0060】
なお、前記ピストン打音は、エンジン1の燃焼室近傍の早期昇温に伴いシリンダボア上側のクリアランスが拡大したときに、ピストンが首振りしてシリンダボア内壁面に衝突することによって発生する可能性が高くなる。このようなピストン打音が発生する可能性が高くなる状況とは、エンジン1の暖機運転中のようにウォータジャケット2の冷却液流通を停止させている状態において、エンジン回転数が所定値T5(例えば2400rpm)を超えたときのことである。このことに着目し、このような条件が成立した場合にピストン打音が発生する可能性が高いと推定することができる。このピストン打音が発生する可能性が高い状況になったと推定した場合には、シリンダボア上側を冷却させてクリアランスを小さくさせるために、前記循環処理の実行が要求されるのである。
【0061】
(7)エンジン1の気筒間燃焼ばらつきや吸気ポート壁温ばらつきが原因となる気筒間空燃比ばらつきが発生する可能性が高くなった場合。この可能性が高くなったことを検知したときに、前記気筒間空燃比ばらつきを抑制するために、前記循環処理の実行が要求される。
【0062】
なお、前記気筒間空燃比ばらつきは、ウォータジャケット2において各気筒に対応する領域毎の冷却液温度の差(気筒間差という)が所定値T6(例えば20℃)を超えたときに発生する可能性が高くなる。そこで、このような条件が成立した場合に、気筒間空燃比ばらつきが発生する可能性が高くなったと推定することができる。この気筒間空燃比ばらつきが発生する可能性が高くなったと推定した場合には、ウォータジャケット2の全域の冷却液温度を平均化させるために、前記循環処理の実行が要求されるのである。
【0063】
このような(1)〜(7)の条件のうちのいずれかが成立することにより前記循環処理を実行するにあたって、仮に大流量弁23を開弁させてヒータ用循環路3とウォータジャケット2との間で冷却液を急激に大量に循環させる形態にしたときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2とが急激に変化する可能性が高くなる。
【0064】
ちなみに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1が急変してしまうと、従来例でも説明したが、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1をモニタしてエンジン1の燃料噴射制御や点火制御などを行うようにする場合には当該制御が乱れる可能性が高くなる。一方、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変してしまうと、従来例でも説明したが、車両室内の暖房している場合にはヒータコア12およびヒータブロア13により車両室内に供給される温風の温度が急変する可能性が高くなる。
【0065】
そこで、この実施形態では、前記(1)〜(7)の条件のうちのいずれかが成立すると、まず、仮に大流量弁23を開弁して前記循環処理を実行したときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急激に変化するか否かを推定するようにしている。
【0066】
この推定処理について説明する。ウォータジャケット2の冷却液温度thw1(エンジン水温センサ31の検出出力に基づく値)がヒータ用循環路3の冷却液温度thw2(ヒータ水温センサ32の検出出力に基づく値)に所定値X(例えば40℃)を加算した値以上であるか否かを調べる。言い換えると、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1がヒータ用循環路3の冷却液温度thw2よりも所定値X以上であるか否かを調べる。
【0067】
ここで、thw1≧thw2+Xである場合には、仮に大流量弁23を開弁して前記循環処理を実行したときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変すると推定される。そこで、この場合には、小流量弁24を開弁することによりウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液を少量ずつ徐々に循環させて、前記両方の冷却液温度thw1,thw2を徐々に平均化させるようにする。
【0068】
一方、thw1<thw2+Xの場合には、仮に大流量弁23を開弁して前記循環処理を実行したときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変しないと推定される。そこで、この場合には、大流量弁23を開弁することによりヒータ用循環路3とウォータジャケット2との間で冷却液を大量に循環させるようにする。
【0069】
以上、要するに、この実施形態では、大流量弁23または小流量弁24を開弁してウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液を循環させる処理の実行が要求された場合、仮に大流量弁23を開弁して前記循環処理を実行したときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変するか否かを推定するようにし、急変すると推定した場合には前記急変を回避するような形態で前記循環処理を実行する一方で、急変しないと推定した場合には前記急変を気にすることなく前記循環処理を実行するようにしている。
【0070】
詳しくは、図6のフローチャートを参照して、E/G_ECU100が前記循環処理を実行するときの制御形態を説明する。
【0071】
E/G_ECU100は、エンジン1の始動後において一定周期(数msec〜数十msec)毎に、図6のフローチャートをスタートする。なお、E/G_ECU100は、エンジン1を始動した後、例えば一定周期(数msec〜数十msec)毎に、エンジン水温センサ31の検出出力の入力に基づいてウォータジャケット2の排出口2a寄りの冷却液温度thw1を検知するとともに、ヒータ水温センサ32の検出出力の入力に基づいてヒータコア12の冷却液流通方向上流側の冷却液温度thw2を検知する。この現在の冷却液温度thw1,thw2の値を保持するようにしている。
【0072】
まず、ステップS1では、エンジン1の暖機運転中に、大流量弁23または小流量弁24を開弁することによりウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液を循環させる処理の実行が要求されているか否かを判定する。要するに、このステップS1では、大流量弁23または小流量弁24の開弁が要求されているか否かを調べる処理であって、前記(1)〜(7)の条件が成立しているか否かを調べているのである。
【0073】
ここで、前記循環処理の実行が要求されていない場合には、前記ステップS1で否定判定して、図6のフローチャートを終了する。一方、前記循環処理の実行が要求されている場合には、前記ステップS1で肯定判定して、続くステップS2に移行する。
【0074】
このステップS2では、仮に大流量弁23を開弁して前記循環処理を実行したときに、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変するか否かを判定する。詳しくは、このステップS2では、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2との関係が、前記したthw1≧thw2+Xであるか否かを判定する。
【0075】
ここで、thw1<thw2+Xの場合、つまりウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2との差が比較的小さい場合には、前記ステップS2で否定判定して、ステップS3で大流量弁23を開弁するとともに、ウォータポンプ11を適宜の能力で作動する。
【0076】
これにより、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液が第1バイパス通路21および大流量弁23を経てヒータ用循環路3に流入されるようになるとともに、ヒータ用循環路3の冷却液の一部が還流路5を経てウォータジャケット2に戻されるようになる。つまり、ウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液が比較的多く入れ替わるようになるものの、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2との差が比較的小さいために、両方の冷却液温度thw1,thw2が急激に変化せずに済むようになりながらも、比較的速やかに平均化されることになる。このステップS3を実行してから図6のフローチャートを終了する。
【0077】
一方、thw1≧thw2+Xである場合、つまりウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2との差が比較的大きい場合には、前記ステップS2で肯定判定して、ステップS4で小流量弁24を開弁するとともに、ウォータポンプ11を適宜の能力で作動する。
【0078】
これにより、ウォータジャケット2の冷却液が第2バイパス通路22および小流量弁24を経てヒータ用循環路3に流入されるようになるとともに、ヒータ用循環路3の冷却液の一部が還流路5を経てウォータジャケット2に戻されるようになる。つまり、ウォータジャケット2とヒータ用循環路3との間で冷却液が比較的少量ずつ入れ替わるようになるので、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1とヒータ用循環路3の冷却液温度thw2とが徐々に変化するようになる。つまり、前記両方の冷却液温度thw1,thw2が急激に変化せずに済むのである。このステップS4を実行してから図6のフローチャートを終了する。
【0079】
ところで、この実施形態において、暖房が要求された場合には、図7および図8に示すように、A/C_ECU200とE/G_ECU100との間で適宜の信号を送受して前記要求を実行するようになっているので、以下で説明する。
【0080】
まず、図7に示すフローチャートを参照して、暖房が要求されたときのA/C_ECU200の制御形態を説明する。運転者によりヒータスイッチ41がオン操作(暖房要求)されることによってヒータスイッチ41からオン信号がA/C_ECU200に入力されると、A/C_ECU200が図7に示すフローチャートをスタートする。
【0081】
まず、ステップS11では、要求暖房能力に対応するヒータ用循環路3の冷却液温度thw2の目標温度thw0から現在の冷却液温度thw2を減算した値が所定値Y(例えば30℃)よりも大きいか否かを判定する。つまり、thw0−thw2>Yの関係が成立しているか否かを判定する。
【0082】
このステップS11で肯定判定した場合、つまりthw0−thw2>Yである場合には、ステップS12に移行する。一方、前記ステップS11で否定判定した場合、つまりthw0−thw2≦Yである場合には、ステップS13に移行する。
【0083】
前記ステップS12では、E/G_ECU100に大流量弁23の開弁を要求するためのフラグF1を「1」にセットしてから、このフローチャートを終了する。つまり、このステップS12では、ヒータ用循環路3の現在の冷却液温度thw2と目標温度thw0との差が大きいので、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変するか否かに関係なく、可及的速やかに要求暖房能力に到達させるために、E/G_ECU100により大流量弁23を開弁させる必要があると判断して、対処しているのである。
【0084】
前記ステップS13では、前記目標温度thw0から現在の冷却液温度thw2を減算した値が、例えば下限値Z1(例えば0℃)よりも大きくかつ上限値Z2(例えば30℃)以下の範囲に収まるか否かを判定する。つまり、Z1<thw0−thw2≦Z2の関係が成立しているか否かを判定する。
【0085】
前記ステップS13で否定判定した場合、つまりZ1≧thw0−thw2である場合には、このフローチャートを終了する。
【0086】
一方、前記ステップS13で肯定判定した場合、つまりZ1<thw0−thw2≦Z2である場合には、続くステップS14において、E/G_ECU100に小流量弁24の開弁を要求するためのフラグF2を「1」にセットしてから、このフローチャートを終了する。つまり、このステップS14では、ヒータ用循環路3の現在の冷却液温度thw2と目標温度thw0との差が小さいので、要求暖房能力に到達させるにあたって小流量弁24を開弁させることで十分事足りると判断して、対処しているのである。
【0087】
次に、図8のフローチャートを参照して、上記暖房要求に対応するためのE/G_ECU100の制御形態を説明する。
【0088】
E/G_ECU100は、エンジン1の始動後において一定周期(数msec〜数十msec)毎に、図8のフローチャートをスタートする。まず、ステップS21において、大流量弁23の開弁要求を示すフラグF1が「1」にセットされているか否かを判定する。
【0089】
このステップS21で肯定判定した場合、つまりフラグF1が「1」にセットされている場合には、ステップS22において、大流量弁23を開弁するとともに、ウォータポンプ11を適宜の能力で作動する。このステップS22を実行してから図8のフローチャートを終了する。
【0090】
これにより、エンジン1のウォータジャケット2の冷却液が第1バイパス通路21および大流量弁23を経てヒータ用循環路3に流入されるようになるとともに、ヒータ用循環路3の冷却液の一部が還流路5を経てウォータジャケット2に戻されるようになるので、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が目標温度thw0にまで可及的速やかに上昇されるようになる。
【0091】
一方、前記ステップS21で否定判定した場合、つまりフラグF1が「1」にセットされていない場合には、ステップS23において、小流量弁24の開弁要求を示すフラグF2が「1」にセットされているか否かを判定する。
【0092】
このステップS23で肯定判定した場合、つまりフラグF2が「1」にセットされている場合には、ステップS24において、小流量弁24を開弁するとともに、ウォータポンプ11を適宜の能力で作動する。このステップS24を実行してから図8のフローチャートを終了する。
【0093】
これにより、ウォータジャケット2の冷却液が第2バイパス通路22および小流量弁24を経てヒータ用循環路3に流入されるようになるとともに、ヒータ用循環路3の冷却液の一部が還流路5を経てウォータジャケット2に戻されるようになるので、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が目標温度thw0にまで徐々に上昇されるようになる。
【0094】
一方、前記ステップS23で否定判定した場合、つまりフラグF2が「1」にセットされていない場合には、このフローチャートを終了する。
【0095】
このように、暖房が要求された場合において、ウォータジャケット2の冷却液でヒータ用循環路3の冷却液温度thw2を上昇させる必要があるときには、ヒータ用循環路3の冷却液温度thw2と目標温度thw0との差が大きいか小さいかを調べて、それぞれで異なる処理を行うようにしている。
【0096】
具体的に、前記差が大きい場合には、ウォータジャケット2の冷却液温度thw1およびヒータ用循環路3の冷却液温度thw2が急変するか否かに関係なく、可及的速やかに要求暖房能力に到達させることを最優先するために大流量弁23を開弁させるようにしている。一方、前記差が小さい場合には、小流量弁24を開弁させるようにしている。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0098】
(1)図9に本発明の他実施形態を示している。この実施形態では、第1、第2バイパス通路21,22の下流側をヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12とサーモスタット16との間の位置に接続するようにしている。
【0099】
この実施形態の場合、大流量弁23または小流量弁24を開弁すると、エンジン1のウォータジャケット2から排出される冷却液が第1バイパス通路21または第2バイパス通路22を経てヒータ用循環路3に流入されるようになるが、そのとき、ウォータジャケット2から排出される冷却液がヒータ用循環路3に流入されて直ぐにサーモスタット16に触れるようになる。そのため、このサーモスタット16が速やかに感温することが可能になるので、当該サーモスタット16の開閉動作の応答性が向上するようになる。
【0100】
(2)上記実施形態に示すヒータ用循環路3に、図示していないが排気熱回収器を設置することが可能である。この排気熱回収器は、エンジン1から排出される排気ガスとヒータ用循環路3を流通する冷却液との間で熱交換するための熱交換器である。この排気熱回収器は、例えばヒータ用循環路3の下流側領域3bにおいてヒータコア12よりも冷却液流通方向上流側(還流路5側)に設置することができる。
【0101】
この構成では、ウォータジャケット2に冷却液を流通させずにヒータ用循環路3のみに冷却液を循環させる状態にすると、排気熱回収器で回収される熱によりヒータ用循環路3内の冷却液が昇温することになり、ヒータ用循環路3の暖機が行えるようになる。そのため、例えばエンジン1の冷間始動時において運転者により暖房が要求されたときに、速やかに暖房を実行することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、エンジンのウォータジャケットとエンジン外部のヒータ用循環路とを有するエンジン冷却装置に好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 エンジン
2 ウォータジャケット
2a ウォータジャケットの排出口
2b ウォータジャケットの流入口
3 ヒータ用循環路
3a ヒータ用循環路の上流側領域
3b ヒータ用循環路の下流側領域
4 ラジエータ通路
5 還流路
11 ウォータポンプ
12 ヒータコア
13 ヒータブロア
15 ラジエータ
16 サーモスタット
21 第1バイパス通路
22 第2バイパス通路
23 大流量弁
24 小流量弁
31 エンジン水温センサ
32 ヒータ水温センサ
41 ヒータスイッチ
42 切替スイッチ
100 E/G_ECU
200 A/C_ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータコアおよびウォータポンプが途中に設置されるヒータ用循環路と、エンジンのウォータジャケットの冷却液をラジエータを通してから前記ヒータ用循環路に流入させるためのラジエータ通路と、前記ヒータ用循環路から前記ウォータジャケットに冷却液を流入させるための還流路と、前記ウォータジャケットの冷却液を前記ラジエータをバイパスして前記ヒータ用循環路に流入させるための第1、第2バイパス通路と、前記第1バイパス通路に設置される大流量弁と、前記第2バイパス通路に設置される小流量弁とを備え、
前記ウォータジャケットの冷却液を前記第1バイパス通路または第2バイパス通路を経て前記ヒータ用循環路に流入させるための循環処理を実行する際、前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度よりも所定値以上高いときは前記小流量弁を開弁する、ことを特徴とするエンジン冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン冷却装置において、
前記ウォータジャケットの冷却液温度が前記ヒータ用循環路の冷却液温度に前記所定値を加算した値未満のときには、前記大流量弁が開弁される、ことを特徴とするエンジン冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジン冷却装置において、
前記ラジエータ通路において前記ラジエータよりも冷却液流通方向下流側には、サーモスタットが設置され、
このサーモスタットは、前記ヒータ用循環路の冷却液温度がエンジン暖機完了温度以上のときに開弁して前記ウォータジャケットの冷却液を前記ラジエータ通路を経て前記ヒータ用循環路に流入させる状態にする、ことを特徴とするエンジン冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン冷却装置において、
前記第1、第2バイパス通路は、前記ヒータ用循環路において前記サーモスタットと前記ヒータコアとの間に接続される、ことを特徴とするエンジン冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−19298(P2013−19298A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152556(P2011−152556)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000228741)日本サーモスタット株式会社 (52)