説明

オイルパン用カバー及びオイルパン

【課題】カバーとオイルパン上のマットや油とが接触している場合であっても、火種が燃焼し続けることが防止されるオイルパン用カバーと、このオイルパン用カバーを用いたオイルパンとを提供する。
【解決手段】オイルパン本体10に直に又は吸油材を介してカバー1が載置されている。カバー1は、上方から落下してきたオイルを通過又は透過させると共に、火種を受け止める機能を有した網状体又は多孔板よりなる上面部1aと、網状体又は多孔板よりなる下面部1bと、これら上面部1aと下面部1bとを連結する脚部1cとを有している。上面部1aと下面部1bとの間が空洞部1dとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルパン及びそのためのカバーに係り、特にエスカレーターの廃油受け等に用いられるオイルパン及びそのためのカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレーターの廃油受け用オイルパンから廃油を回収するには、エスカレーターのメンテナンス作業時に、作業員が現場にてオイルパンからウェス等で廃油を吸着させて回収するか、吸引機で廃油を吸引して回収していた。
【0003】
従来の廃油回収方法では、作業が煩雑で回収作業に比較的長い時間を要する。このため、メンテナンスのためのエスカレーターの停止時間が長いという欠点がある。又、エスカレーターの利用者が喫煙し、火のついた吸い殻がオイルパンに入って引火することもあった。
【0004】
特開平11−30396には、このような問題点を解決し、パン上の廃油等のオイルを短時間で容易に回収することができ、しかも引火を防止することができるオイルパンとして、オイルを受けるオイルパン本体と、該オイルパン本体内に敷いたオイル吸着用のマットと、該マット上に火種が落下することを防止するためのカバーとを備えてなるオイルパンが提供されている。
【0005】
第8図は同号公報の図1のオイルパンを示す断面図である。
【0006】
このオイルパン21は、上部が開放した容器形状のオイルパン本体22内にオイル吸着用マット23を敷き、このオイル吸着用マット23に火種落下防止用のカバー24を被せたものである。
【0007】
このようなオイルパンにあっては、油を吸着したマットを該パンから取り出すことにより、油を短時間で容易に回収することができる。
【0008】
また、廃油を吸着したマットにタバコの吸い殻等の火種が接触しても、マットが火種の落下防止用のカバーで覆われているため、オイル吸着用のマットにタバコの吸い殻等の火種が接触して発火することが防止される。
【0009】
このカバーとしては、具体的には、ステンレス等の金網、パンチングメタルが例示されている(特開平11−30396の0014段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−30396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特開平11−30396のオイルパンにあっては、カバーとマットとが直接に接触している場合は、毛細管現象によってカバー上に置いた火種にオイルが供給され、火種が灯心となって燃焼し続けることがあった。
【0012】
本発明は、カバーとオイルパン上のマットや油とが接触している場合であっても、火種が燃焼し続けることが防止されるオイルパン用カバーと、このオイルパン用カバーを用いたオイルパンとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1のオイルパン用カバーは、オイルパンに設置されるカバーにおいて、厚み方向の少なくとも途中部分に空洞部が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のオイルパン用カバーは、請求項1において、相互間に空洞部をあけて配置された複数枚の網状体又は多孔板を備えてなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3のオイルパン用カバーは、請求項2において、2枚の網状体又は多孔板が、相互間に1〜20mmの間隔をあけて配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4のオイルパン用カバーは、請求項1において、鎖状体を板状に保形してなる保形体よりなることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5のオイルパンは、オイルを受けるオイルパン本体と、火種が落下することを防止するためのカバーとを備えてなるオイルパンにおいて、該カバーが請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカバーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のオイルパン用カバーは、上方から落下してきたオイルを通過ないし透過させる機能を有している。また、このカバーは、上方から落下してきた火種を受け止め、該火種をマットや油に接触させないようにする機能を有している。
【0019】
本発明のオイルパン用カバーは、厚み方向の少なくとも途中部分に空洞部が設けられているので、このカバーがマットの上面に直接に接触していても、オイルがマットから供給され続けることがなく、カバー上の火種は速やかに消火する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)図は実施の形態に係るカバーの斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図2】(a)図は別の実施の形態に係るカバーの斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図3】(a)図はさらに別の実施の形態に係るカバーの斜視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図4】異なる実施の形態に係るカバーの平面図である。
【図5】実施の形態に係るオイルパンの断面図である。
【図6】実施の形態に係るオイルパンの断面図である。
【図7】比較例に係るオイルパンの断面図である。
【図8】従来例に係るオイルパンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0022】
<第1図のカバー>
第1図のカバー1は、上方から落下してきたオイルを通過又は透過させると共に、火種を受け止める機能を有した網状体又は多孔板よりなる上面部1aと、網状体又は多孔板よりなる下面部1bと、これら上面部1aと下面部1bとを連結する脚部1cとを有している。上面部1aと下面部1bとの間が空洞部1dとなっている。この実施の形態では脚部1cも網状体又は多孔板にて構成されているが、これに限定されない。
【0023】
空洞部1dの高さtは1〜20mm特に2〜10mm程度が好適であるが、これに限定されない。
【0024】
<第2図のカバー>
第2図のカバー1Aは、第1図のカバー1において、上面部1aと下面部1bとの間に支柱部2を設けたものである。この支柱部2を設けたことにより、上面部1aの撓みが防止される。支柱部2は網状体又は多孔板製であってもよく、別材料であってもよい。
【0025】
<第3図のカバー>
第3図のカバー4は、それぞれ網状体又は多孔板よりなるカバーパーツ5,6を組み合わせたものである。カバーパーツ5,6は、下向きコ字形であり、長方形の主板部5a,6aと、該主板部5a,6aの長手方向の両端から立設された脚部5b,6bとを有する。カバーパーツ6の主板部6aはカバーパーツ5の主板部5aよりも若干小さく、カバーパーツ5に内嵌め可能となっている。脚部6bの高さは脚部5bの高さよりも若干小さいものとなっている。カバーパーツ6をカバーパーツ5に内嵌し、主板部5a,6a間に空洞部4aがあくように脚部5b,6bを重ね合わせ、脚部5b,6b同士を溶接等によって固着することにより、カバー4が構成される。
【0026】
<第4図のカバー>
第4図のカバー7は、チェーンを平たい板の上に、チェーンのループ部(輪状部)8同士の隙間ができるだけ小さくなるように敷き並べた後、ループ部8を細い針金9で結着して板状に保形したものである。ループ部8の内部と、ループ部8同士の間が空洞部となっている。ループ部8の大きさは、長径(内径)5〜20mm程度、短径(内径)4〜14mm程度が好ましい。
【0027】
<カバーの構成材料>
このカバーは、不燃性ないし難燃性の材料とくに不燃性の材料にて構成されていることが好ましい。また、カバーは、好ましくはタバコの吸い殻等の火種の熱を吸収して放熱することで温度を下げて消火させることができるように、伝熱性に優れたものであることが好ましい。
【0028】
このような特性を備えるカバーの素材としては、ステンレス、鉄、銅等の針金を織った金網やチェーンが好適であるが、アルミ箔、鋼板等の金属シートに適宜オイルの通路を設けたもの、例えばパンチングメタルや、これらを金網と組み合わせたものなどを用いることもできる。また、セラミックやガラスウールなども用いることができる。
【0029】
網状体又は多孔板の1個の開口は、開口面積が0.0009〜25mm特に0.01〜7mm程度であることが好ましい。開口の形状は、円形、楕円形、三角形、四角形、多角形などが例示される。
【0030】
カバーの材料として金網を用いる場合は、織り方、目開き、針金の太さに特に制限はないが、平織、針金太さ1〜5mm、目開き0.5〜2mmのものが好ましい。
【0031】
<オイルパン>
本発明のオイルパンは、上記本発明のカバーを備えたものである。このオイルパンは吸油マットを備えていてもよく、吸油マットが省略され、オイルパン本体上に直にカバーが載置されたものであってもよい。
【0032】
第5図はオイルパン本体10の上にカバー1を直接に載置したオイルパンを示す縦断面図である。
【0033】
第6図は、オイルパン本体10の上に吸油マット11を配置し、その上にカバー1を載置したオイルパンを示す縦断面図である。この第6図にあっては、カバー1の平面面積はマット11の平面面積よりも大きく、カバー1はマット11の上面の全体を覆っている。
【0034】
オイル吸着材としては、ポリプロピレン製、カポック製、木綿製の油吸着材やウエスのほか、樹脂製、合成ゴム製の吸油剤や吸油ポリマー、一般的な不織布に、吸油剤を封入した油吸着材などが挙げられる。油吸着材として、不燃性または難燃性繊維からなるタイプを用いれば、燃焼の可能性をさらに小さくすることができる。
【0035】
本発明のオイルパンは、特にエレベーターやエスカレーターの廃油回収用のオイルパンとして好適であるが、エレベーターやエスカレーターに限らず廃油や余剰オイルの回収を必要とする各種機械設備のオイルパンにも適用可能である。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0037】
以下の実施例及び比較例で使用した資材は次の通りである。
1) 潤滑油A:mobilgear630 VG220 又は
B:日石製タービンオイルVG32
2) 油吸着材 ポリプロピレン製油吸着材(栗田工業(株)製「ロングクリンFE−
100」(登録商標)切断片(22cm×15cm×0.5cm)
3) 火種 1cm×1cm、厚さ1mmの木綿片に潤滑油AまたはBを十分に
吸油させた後二つ折りにし、ライターで着火させたもの。
4) オイルパン本体 30cm×20cm×深さ4cmのもの
【0038】
[実施例1]
カバーとして、ステンレス製、目開き1mm、針金太さ3mm、平織りの金網を第1図の通り二重に構成した二重金網を用いた。このカバーの上面寸法は225×153mm、高さは10mmである。
【0039】
上記潤滑油Aを3mm深さとなるようにオイルパン本体に注ぎ入れ、このカバーを設置した。次いで、上記の火種をこのカバーの上に載せて燃焼状況を観察した。その結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
カバーとして、チェーンを第4図の如く編組みしたチェーン保形体を用いた。
【0041】
チェーンとしては、1個のループ部の長径18mm、短径12mm、1m当りの重量22gの鉄製のものを用い、針金として線径1mmのもので結着した。カバーの大きさはおよそ200mm×150mmであり、平均的な厚みは約6mmである。カバーの重量は300gである。
【0042】
このカバーを用いたこと以外は実施例1と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
オイルパン本体の上に、潤滑油を入れることなく、第6図の如く上記の油吸着材(ただし、飽和まで潤滑油Aを吸収させたもの)を敷き、その上に実施例1のカバーを載せた。その他は実施例1と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
オイルパン本体の上に、潤滑油を入れることなく、第6図の如く上記の油吸着材(ただし、飽和まで潤滑油Aを吸収させたもの)を敷き、その上に実施例2のカバーを載せた。その他は実施例1と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例5]
油吸着材として潤滑油を全く吸収させてない新品のものを用いたこと以外は実施例3と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例6]
油吸着材として潤滑油を全く吸収させてない新品のものを用いたこと以外は実施例4と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例7]
油として上記潤滑油Bを用いたこと以外は実施例3と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例8]
油として上記潤滑油Bを用いたこと以外は実施例4と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
オイルパン本体に上記潤滑油Aを深さ3mm仕入れた。カバーを用いずに、火種をこの油面に落し、燃焼状況を観察した。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
実施例1において、カバーとしてステンレス製、目開き1mm、針金太さ3mm、平織りの1枚物の金網(225×153mm)を用いた他は実施例1と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例3]
オイルパン本体上に油吸着材(潤滑油Aを飽和まで吸収させたもの)を置き、カバーを被せることなく火種を載せて燃焼状況を観察した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例4]
オイルパン本体上に油吸着材(潤滑油Aを飽和まで吸収させたもの)を置き、その上に比較例2の1枚物の金網を載せ、燃焼状況を観察した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例5]
オイルパン本体上に、潤滑油を全く吸収させない新品の油吸着材を置き、カバーを被せることなく火種を載せて燃焼状況を観察した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例6]
オイルパン本体上に、潤滑油を全く吸収させない新品の油吸着材を置き、その上に比較例2の1枚物の金網を載せ、燃焼状況を観察した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例7]
油として潤滑油Bを用いたこと以外は比較例1と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例8]
油として潤滑油Bを用いたこと以外は比較例2と同様にして燃焼試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかな通り、本発明例によると火種はいずれも約1分で消火した。これに対し、比較例のものはいずれも長時間燃え続けた。また、1枚物の金網では効果が不十分であることも認められた。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,4,7,24 カバー
1d,4b 空洞部
8 チェーンのループ部
9 針金
10,22 オイルパン本体
11,23 マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンに設置されるカバーにおいて、厚み方向の少なくとも途中部分に空洞部が設けられていることを特徴とするオイルパン用カバー。
【請求項2】
請求項1において、相互間に空洞部をあけて配置された複数枚の網状体又は多孔板を備えてなることを特徴とするオイルパン用カバー。
【請求項3】
請求項2において、2枚の網状体又は多孔板が、相互間に1〜20mmの間隔をあけて配置されていることを特徴とするオイルパン用カバー。
【請求項4】
請求項1において、鎖状体を板状に保形してなる保形体よりなることを特徴とするオイルパン用カバー。
【請求項5】
オイルを受けるオイルパン本体と、火種が落下することを防止するためのカバーとを備えてなるオイルパンにおいて、
該カバーが請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカバーであることを特徴とするオイルパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−203460(P2010−203460A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46459(P2009−46459)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】