説明

オイルポンプの駆動軸連結構造

【目的】駆動軸をハウジングに挿入する際に、その先端部でオイルシールを傷つけることがなく、さらには駆動軸と駆動歯車との嵌合が容易にできることを目的としている。
【構成】トルクコンバータ4のスリーブ5を駆動軸としている。内接歯車式のオイルポンプは、ハウジング1内にクレッセンド1bを挟んで駆動歯車3と従動歯車2が組み込まれて形成されている。前記駆動歯車3には、ボス部3bが設けられており、該ボス部3bには複数の切り欠き部3cが形成されている。ハウジング1の中心軸穴にはオイルシール6が装着されている。スリーブ5の内周面には、前記切り欠き部3cと嵌合可能な複数の角型スプライン5aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、自動変速機において、トルクコンバータや流体継手に作動液を充填し該性能を維持するのに必要な加圧を行う内接歯車式のオイルポンプに関し、該オイルポンプの駆動歯車と駆動軸との連結構造に関する。
【0002】
【従来の技術】内接歯車式のオイルポンプは、例えばTOYOTA A240,A241オートマチックトランスアクスル修理書の1−36頁(昭和61年12月発行)に示すものがあるが、それは図5に示すように、ハウジング1,駆動歯車である外歯歯車3,従動歯車である内歯歯車2及び図示しないカバーの4つの主な部品からなり、ハウジング1の溝1aに形成されているクレッセンド1bを挟むように該ハウジング1の溝1aに駆動歯車3と従動歯車2が組み込まれ、その上にカバーが被着されて構成されている。そして、該ハウジング1の中心軸穴1cに駆動軸であるトルクコンバータ4のスリーブ5が挿入されて該スリーブ5の先端部と駆動歯車3とが嵌合することで連結され、該スリーブ5の回転に追従して駆動歯車3が回転し、もってオイルポンプが駆動する。
【0003】このとき、前記駆動軸5が挿入される側の前記ハウジング1の中心軸の開口部内周面には、図6に示すように、前もってオイルシール6が取り付けられて作動液がハウジング1から流出することを防止している。従来、前記オイルポンプの駆動歯車3と駆動軸であるスリーブ5との連結構造は、図5に示すように、該スリーブ5の先端部外周に対して中心から対向する部分を2面だけ切削して軸方向に沿って平坦な面部5aが形成され、また、駆動歯車3の軸穴3aに該平坦な面部5aに係合する面部3bが形成されていて、該スリーブ5先端部を駆動歯車3の軸穴3aに挿入して、前記両方の面部5aと3bとを当接させることで、該スリーブ5と駆動歯車3とを連結していた。
【0004】または、図7に示すように前記スリーブ5先端部に中心から対向する2ヶ所に、切り欠き部5bを形成し、駆動歯車3の軸穴3aに該スリーブ5に切り欠き部5bに係合可能な爪3cを設けて、該スリーブ5を駆動歯車3の軸穴3aに挿入し該切り欠き部5bに爪3を嵌合させることで、スリーブ5と駆動歯車3とを連結していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記のようにスリーブ外周面に平坦な面部5aや切り欠き部5bを形成すると、図8に示すように、前記面部5aや切り欠き部5bの成形加工によってスリーブ5の外周部分にバリ7ができている。このため、該スリーブ5先端部を、図6に示すように、ハウジング1の中心軸穴1cに挿入して該先端部を駆動歯車3の軸穴3aに嵌合する際に、前記スリーブ先端部に形成された前記バリ7や切り欠き部5bの角等がオイルシール6にぶつかり該オイルシール6を傷つけてしまうという問題があった。
【0006】また、スリーブ5先端部と駆動歯車3の軸穴3aとの嵌合部が一組しかないため、スリーブ5を周方向に最大180度回転させなければ嵌合させることができず、位置合わせが大変であるという問題があった。さらに、従来の連結構造では、スリーブ先端と駆動歯車とを嵌合させている部分が小さいために、該オイルポンプが駆動される時に該嵌合部分の面圧が高くなり、該嵌合部分の強度を充分にとる必要があるという問題があった。
【0007】本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、駆動軸をハウジングに挿入する際に、その先端部でオイルシールを傷つけることがなく、さらには駆動軸と駆動歯車との連結が容易にできることを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のオイルポンプの駆動軸連結構造は、内接歯車式オイルポンプにおける駆動歯車の軸穴と、先端部がスリーブを形成している駆動軸との連結構造であって、前記駆動歯車に、軸穴と同軸で且つ前記スリーブ内に挿入可能なボスを設けると共に、該スリーブの内周面とボスの外周面との係合部分に、軸方向にスライド可能で且つ周方向へ等間隔に並んだ複数の噛み合い部を形成したことを特徴としている。
【0009】前記噛み合い部は、例えばスリーブ内周面に対して軸方向に延び且つ周方向に等間隔に並んだ複数の滑りキーを設け、ボスの外周に対して前記突起に嵌合可能なキー溝若しくは切り欠き部を設けて構成するとよい。
【0010】
【作用】オイルポンプのハウジングの中心軸穴にスリーブを挿入し、続けて該スリーブ内に駆動歯車のボスを挿入してスリーブと駆動歯車とを連結する。このとき、該スリーブ内周面に設けられている軸側の噛み合い部とボス側の噛み合い部とを嵌合させて該スリーブと駆動歯車とを連結し、該嵌合により駆動軸であるスリーブの回転を駆動歯車に伝達してオイルポンプを駆動する。
【0011】前記スリーブは前記駆動歯車と嵌合する噛み合い部が内周面に形成されているのでスリーブ外周面に引っ掛かり部分が形成されず、該スリーブをハウジングに挿入する際に、該ハウジングの中心軸穴に装着されたオイルシールを傷つけることがないと共に、前記挿入が容易となる。また、スリーブ側の噛み合い部を駆動歯車側の噛み合い部と嵌合させる場合、最高でも該スリーブを例えば噛み合い部を形成する一突起間の角度だけ周方向に回転させるだけで嵌合させることができる。
【0012】さらに、該ボスを軸方向に長くしたり、噛み合い部を形成する突起等を増やすことで嵌合部の接触面積を増やせる。
【0013】
【実施例】本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本発明はトルクコンバータ4のスリーブ5を駆動軸とした一実施例であり、駆動軸の先端部がスリーブを形成していれば流体継手のスリーブ等を駆動軸とした連結であってももちろん構わない。内接歯車式のオイルポンプは、図1に示すように、ハウジング1,駆動歯車3,従動歯車2,及び図示しないケースの4つを主な部品として構成され、ハウジング1の溝1a部に設けられたクレッセンド1bを挟んで駆動歯車3と従動歯車2が組み込まれて、その駆動歯車3の外歯と従動歯車2の内歯とが噛合している。
【0014】前記駆動歯車3には、該ハウジング1と対向する側の軸穴の開口端部にはスリーブ5内周面と係合可能な外周面を有し且つ軸方向に延設したボス3bが設けられており、該ボス3bには周方向に所定の間隔をあけて軸方向に向かう複数の切り欠き部3cが形成され歯車側の噛み合い部を形成している。また、ハウジング1の駆動軸を挿入する側の開口部内周面にはリング状のオイルシール6が装着されている。なお、8はブシュである。
【0015】そして、駆動軸を構成するスリーブ5の内周面には、図3に示すように、前記駆動歯車3の切り欠き部3cと嵌合可能な複数の角型スプライン5aがブローチ加工によって形成されている。なお、該スリーブ5の外周面は研磨加工若しくは超仕上げが施されており、先端は半円状に成形されている。前記構成の駆動軸を構成するスリーブ5を該ハウジング1の中心軸穴1cを介して駆動歯車3の軸穴3aに挿入すると、該スリーブ5のスプライン5aと駆動歯車3のボス3bとが突き当たる。続けて、スリーブ5を周方向に最大一つのスプライン5a間隔だけ回転させて、スリーブ5のスプライン5aと駆動歯車3の切り欠き部3cとを対向させてそのまま挿入することで、該スプライン5aと切り欠き部3cとが噛み合い、もってスリーブ5と駆動歯車3とが連結される。
【0016】そして、駆動軸であるスリーブ5の回転が該スプライン5aと切り欠き部3cとの噛み合い部分を介して駆動歯車3に伝達されてオイルポンプが駆動される。本実施例では、挿入するスリーブ5の外周面及び先端部にバリや角部等が形成されていないため、該スリーブ5をハウジング1の中心軸穴1cに挿入する際に、該中心軸穴1cの内周面に装着されたオイルシール6を傷付けることがないと共に、引っ掛かるようなものがないためにスリーブ5の挿入がスムーズに行われる。
【0017】また、駆動軸であるスリーブ5と駆動歯車3との嵌合も、多くても周方向に一つのスプライン5a間隔だけ回転させるだけで噛み合わせることができるため、位置合わせが従来に比べて容易となる。さらに、該ボス3bを軸方向に長くしたり、噛み合い部を形成するスプライン5aの数を増やすことで噛み合い部の接触面積を増やして、一つのスプライン5aに掛かる面圧を低下させることができる。
【0018】なお、前記実施例では、スリーブ5の内周面にスプライン5aを設けて軸側噛み合い部とし、また該スプライン5aと嵌合可能な切り欠き部5cを駆動歯車3のボス3bに設けて歯車側噛み合い部として、該スリーブ5と駆動歯車3とを連結しているが、図4に示すように、スリーブ5の内周面に軸方向に延びた複数の三角歯を設け、駆動歯車3のボス3b外周部に対応する複数の三角溝を設けることで該スリーブ5と駆動歯車3とをセレーション9によって噛み合い可能にしてもよいし、該スリーブ5の内周面側に軸方向に延びる溝を形成し、ボス3b側に対応する突起部を設けて噛み合い部としてもよい。
【0019】なお、図4に示される実施例においては、ボスの先端部外周に溝が形成され、該溝に前もってスナップリング10が装着されていて、スリーブ5内にボス3bが嵌合する際、スリーブ5内周面に設けられた噛み合い部である突起部が該スナップリング10をボスに押し付けながら嵌合し、嵌合が完了した時点で該スナップリング10が元の大きさに広がり、該ボス3bがスリーブ5内から抜けることを防止する。
【0020】また、前記実施例では、軸側噛み合い部5aや歯車側噛み合い部3cは軸方向に直線状に延びているが、噛み合い部を形成するスプラインや溝は、夫々螺旋を描いて軸方向に延びていてもよい。
【0021】
【発明の効果】以上説明してきたように、本発明のオイルポンプの駆動軸連結構造は、該駆動軸の外周面にバリ等の引っ掛かるような部分がないため、該駆動軸をオイルポンプのハウジングに挿入する際に、オイル漏れを防止するオイルシールを傷つけることなくスムーズに挿入可能となる。
【0022】また、駆動軸と駆動歯車との嵌合も、最高でも周方向に次の噛み合い部まで回転させるだけ嵌合させることができるため、位置合わせが従来に比べて容易となる。さらに、該ボスを軸方向に長くしたり、噛み合い部を形成する突起や溝等の数を増やすことで噛み合い部の接触面積を増やして、一定面積当たりに掛かる面圧を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係わるオイルポンプを示す分解された斜視図である。
【図2】実施例に係わる駆動歯車を示す側面図である。
【図3】実施例に係わるオイルポンプ及び駆動軸を示す断面図である。
【図4】第2実施例に係わるオイルポンプ及び駆動軸を示す断面図である。
【図5】第1従来例に係わるオイルポンプを示す分解された斜視図である。
【図6】同断面図である。
【図7】第2従来例に係わるオイルポンプを示す分解された斜視図である。
【図8】バリの発生状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
3 駆動歯車
3b ボス
3c 切り欠き部(歯車側の噛み合い部)
5 スリーブ
5a 角型スプライン(駆動軸側の噛み合い部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 内接歯車式オイルポンプにおける駆動歯車の軸穴と、先端部がスリーブを形成している駆動軸との連結構造であって、前記駆動歯車に、軸穴と同軸で且つ前記スリーブ内に挿入可能なボスを設けると共に、該スリーブの内周面とボスの外周面との係合部分に、軸方向にスライド可能で且つ周方向へ等間隔に並んだ複数の噛み合い部を形成したことを特徴とするオイルポンプの駆動軸連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平5−44814
【公開日】平成5年(1993)2月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−205893
【出願日】平成3年(1991)8月16日
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)