説明

オキサゾリン化合物の製造方法

【課題】反応蒸留装置を用いて、N−(ヒドロキシアルキル)カルボン酸アミドを原料として、精製されたオキサゾリン化合物を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを反応蒸留装置に供給し、脱水環化してオキサゾリン化合物を製造する方法であって、該反応蒸留装置が、塔中央部が反応部と蒸留部に区分され、該塔の上部及び下部のそれぞれにおいて該反応部と該蒸留部が連通する構造を有する反応蒸留装置であって、固体触媒が充填された該反応部にN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを供給し、得られた反応混合物を該蒸留部に導入し、該蒸留部でオキサゾリン化合物を分離精製して抜き出すように構成されている、オキサゾリン化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキサゾリン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキサゾリン化合物は、反応性の高い複素五員環を有する環式イミノエーテルであり、界面活性剤、腐蝕防止剤、各種中間原料、ポリマーや架橋剤の原料として非常に利用価値の高い化合物である。
オキサゾリン化合物の製造方法としては、アミドアルコールを触媒の存在下、加熱し脱水環化する方法が知られており、触媒として、マンガン、コバルト等の酸化物や無機酸塩、錫のアルカノエート、鉄塩、亜鉛の有機酸塩等が提案されている。しかしながら、これらの方法はいずれも液相反応であり触媒の分離、回収が困難であり、再使用すると触媒活性が低下する等の問題がある。
一方、アミドアルコールをチタン系触媒の存在下で気相反応させてオキサゾリン化合物を得る方法も提案されているが、収率が低いという問題がある。
また、特許文献1には、カルボン酸アミドのN−ヒドロキシエチル誘導体を液相下で脱水環化し、抽出蒸留して水を分離する2−アルキル−2−オキサゾリン類の製造方法が開示されている。
【0003】
一方、反応蒸留は、反応生成物を沸点差を利用して連続的に反応系外に抜き出すことができるため、平衡常数の小さい反応でも高い反応率を得ることができ、また、未反応物の蒸留分離やリサイクルに要する熱エネルギーを節約できる方法として知られており、一般に多段蒸留塔等が用いられている。
例えば、特許文献2には、原料を3つの異なる段に供給する反応蒸留装置及び反応蒸留方法が開示されている。しかしながら、特許文献2は、均一触媒(液体触媒)を用いる方法であるため、反応時間の制御、反応生成物の分離、及び未反応原料の再利用等が難しいという不利がある。
イオン交換樹脂等の固体触媒を用いて反応蒸留する方法も知られているが、反応塔、原料回収塔、製品精留塔の3つの設備が必要であり、多大な熱エネルギーを要すると共に、熱履歴による副生成物の問題や、平衡反応の反応効率を向上させることが難しいという問題がある。
また、特許文献3には、塔中間部が2つの蒸留部に区分された構造を有する蒸留塔を用いる蒸留方法が開示されている。しかしながら、特許文献3は蒸留方法に関する開示のみで、反応蒸留についての開示はない。
【0004】
【特許文献1】特公平1−31504号公報
【特許文献2】特開平9−308801号公報
【特許文献3】特開2004−230251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一つの装置内で反応と蒸留を同時に行い、反応生成物を効率的かつ高収率で生産できる反応蒸留装置を用いて、N−(ヒドロキシアルキル)カルボン酸アミドを原料として、精製されたオキサゾリン化合物を効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを反応蒸留装置に供給し、脱水環化してオキサゾリン化合物を製造する方法であって、該反応蒸留装置が、塔中央部が反応部と蒸留部に区分され、該塔の上部及び下部のそれぞれにおいて該反応部と該蒸留部が連通する構造を有する反応蒸留装置であって、固体触媒が充填された該反応部にN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを供給し、得られた反応混合物を該蒸留部に導入し、該蒸留部でオキサゾリン化合物を分離精製して抜き出すように構成されている、オキサゾリン化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、N−(ヒドロキシアルキル)カルボン酸アミドを原料として、精製されたオキサゾリン化合物を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のオキサゾリン化合物の製造方法は、N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを反応蒸留装置に供給し、脱水環化してオキサゾリン化合物を製造する方法であって、該反応蒸留装置が、塔中央部が反応部と蒸留部に区分され、該塔の上部及び下部のそれぞれにおいて該反応部と該蒸留部が連通する構造を有する反応蒸留装置であって、固体触媒が充填された該反応部にN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを供給し、得られた反応混合物を該蒸留部に導入し、該蒸留部でオキサゾリン化合物を分離精製して抜き出すように構成されていることを特徴とする。
【0009】
(N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミド)
本発明において、N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基を示し、R2〜R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
一般式(1)におけるR1の具体例としては、CH3−、C25−、C37−、C49−、CH2=CH−、CH2=C(CH3)−等が挙げられるが、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、イソプロペニル基がより好ましい。
また、R2〜R5の好適例としては、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基等が挙げられる。
一般式(1)で表されるN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドは、対応するカルボン酸又はカルボン酸エステルと、対応するエタノールアミンとを、公知の方法で反応させることによって得ることができる。
【0012】
(オキサゾリン化合物)
本発明におけるオキサゾリン化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1〜R5は、前記と同じである。)
オキサゾリン化合物の具体例としては、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロピル−2−オキサゾリン、2,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
上記オキサゾリン化合物の中では、2位の置換基R1が、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基であり、R2〜R5が水素原子である、2−置換−2−オキサゾリンが好ましく、R1が、炭素数1〜3のアルキル基であり、R2〜R5が水素原子である、2−置換−2−オキサゾリンがより好ましく、特に2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロピル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0015】
(反応蒸留装置)
本発明に用いられる反応蒸留装置は、塔中央部が反応部と蒸留部に区分され、該塔の上部及び下部のそれぞれにおいて該反応部と該蒸留部が連通する構造を有する反応蒸留装置であって、固体触媒が充填された該反応部にN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを供給し、得られた反応混合物を該蒸留部に導入し、該蒸留部でオキサゾリン化合物を分離精製して抜き出すように構成されている。
該反応蒸留装置は、いわゆる反応蒸留塔を用いるものであるが、塔中央部が反応部と蒸留部に区分された構造を有する1つの塔(以下、「分割塔」ということがある)からなる。反応部と蒸留部は、塔内で好ましくは鉛直方向に区分される。
反応部と蒸留部の区分の方法は特に制限はなく、仕切り板により塔を縦に分割して一方を反応部、他方を蒸留部としてもよく、又は塔内の中央部(中段部)に内管を挿入して内管の外側と内側に区分して、内管の内側を反応部とし、内管の外側を蒸留部とすることもできる。
【0016】
図1は、内部仕切り板を用いて塔中央部を反応部と蒸留部に区分した反応蒸留装置の一例を示す図である。この反応蒸留装置(分割塔)1の塔中央部は、内部仕切り板2により、反応部3及び蒸留部4に区分されている。分割塔1の上部5及び下部6は、それぞれ反応部3及び蒸留部4と連通している。この連通部は、通常の蒸留塔の構造と同じである。
分割塔としては多成分分離が可能なものであれば特に制限はないが、「カラムインカラム」(住重プラントエンジニアリング株式会社、登録商標)等の多段蒸留塔が好ましく用いられる。
【0017】
(反応部)
本発明の反応蒸留装置の反応部には固体触媒が充填されている。原料のN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミド(以下、単に「原料」ともいう)はこの反応部に供給され、固体触媒層と接触して通過する際に反応し、得られた反応混合物は反応部と連通した蒸留部に導入される。
反応部への原料の供給方法は、本発明の反応蒸留装置の特徴を生かす観点から、連続的に供給することが好ましい。
【0018】
(固体触媒)
本発明で用いられる固体触媒に特に制限はないが、塔内において、原料との接触面積が大きく、蒸気の円滑な流通を可能とするだけの十分な空隙を有し、その空隙が触媒層に均一に分布する形状であることが好ましい。
固体触媒の形状は、粒状、ペレット状、蒸留塔充填材として用いられているサドル型、ラシヒリング、テラレット、周辺にヒダを持たせた中空円筒状、コイル状等の他、繊維状、線状及びこれらを織布、不織布、ヒモ状、網状としたもの、繊維状物を束ねたもの、織布や不織布をネットと共に円柱状に巻いたもの等の形状であってもよい。また、蒸留塔充填材に用いられている規則充填物に前記粒状、ペレット状等の成型触媒を保持したものも用いることができる。
さらに、金属、セラミックス、その他の機械的強度の高い支持体を管状、平板状、ハニカム状、モノリス形状等に成形し、その支持体表面に触媒コーティング層を形成したフィルム型固体触媒を用いることもできる。
【0019】
固体触媒の例としては、単一又は複合金属酸化物、金属リン酸塩、金属硫酸塩、担体上に担持又は固定化した固定化酸、天然鉱物及び層状化合物、固体のヘテロポリ酸、フッ化スルホン樹脂、合成ゼオライト、イオン交換樹脂、樹脂に各種の反応基をグラフトさせたグラフト重合体等が挙げられる。
単一又は複合金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、含水酸化ジルコニウム、ニオブ酸、シリカアルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、チタニアジルコニア、酸化亜鉛等が挙げられる。金属リン酸塩としてはリン酸アルミニウム、リン酸鉄等が挙げられ、金属硫酸塩としては硫酸アルミニウム等が挙げられる。
担体上に担持又は固定化した固定化酸としては、硫酸イオン担持ジルコニア、硫酸イオン担持チタニア、五フッ化アンチモン担持シリカアルミナ等が挙げられる。天然鉱物及び層状化合物としては、酸性白土、カオリン、モンモリロナイト等が挙げられる。
上記固体触媒の中では、球状の酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、及び酸化亜鉛から選ばれる1種以上の触媒がより好ましい。また、触媒の形態としては、直径が好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜8mmの球状が好ましい。
これらの固体触媒の製造は、公知の方法により行うことができる。
【0020】
(蒸留部)
蒸留部4の構造は、通常の蒸留塔の構造と基本的に同じである。また、反応部3及び蒸留部4との連通部5、6(分割塔1の上部5及び下部6)も、通常の蒸留塔の蒸留部と基本的に同じである。蒸留部4及び連通部5、6としては、精留効果の観点から、段数が2段以上、好ましくは3段以上の棚段、又は段数が2段以上、好ましくは3段以上の充填層のいずれも使用可能である。
棚段に用いるトレイとしては、バルブトレイ、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、リフトトレイ、フレキシトレイ、ナッターフロートバルブトレイ等が挙げられる。
充填層に用いられる充填物としては、ラシヒリング、ポールリング等のリング型充填物、ベルサドル、インターロックサドル等のサドル(馬の鞍の形)型充填物の他、マクマホンパッキング、キャノンパッキング、ディクソンパッキング、テラレット、スプレーパック、パナパック、インターパック、グッドローパッキング、ステッドマンパッキング、スルザーパッキン(スルザーケムテック社製)、SFLOW(住重プラントエンジニアリング株式会社製)、モンツパック(モンツ社製)等が挙げられる。これらの中では、塔高さあたりの段数が多く、製品への熱負荷を下げる観点から、圧力損失の少ないスルザーパッキン(スルザーケムテック社製)、SFLOW(住重プラントエンジニアリング株式会社製)、モンツパック(モンツ社製)等の規則充填物を用いることが好ましい。
【0021】
分割塔1は塔頂部に還流部を有することが好ましい。還流装置は通常の蒸留塔で用いられる公知の還流装置を用いることができる。還流液は精留効果を持たせるために蒸留部に供給されるが、未反応原料を再度反応に供する場合等は反応部にも供給してもよい。
分割塔1は塔底部に加熱装置を有することが好ましい。加熱装置は通常の蒸留塔で用いられる公知の加熱装置を用いることができる。具体的には、自然循環式(サーモサイホン型)、外部循環型、内挿型、溢流管束型(ケトル型)等を用いることができる。これらの中では、高沸点成分(b)を含む留分の熱履歴による劣化防止の観点から外部循環型とすることが好ましい。熱媒体としては、熱油や高圧水蒸気等を用いることができる。
【0022】
分割塔1は、蒸留部4に設けられた抜出し部の他に、塔の上部5及び下部6の少なくとも1ヶ所に抜出し部を有することが好ましい。例えば、反応混合物が(i)反応生成物(オキサゾリン化合物)(m)、(ii)反応生成物(m)より沸点の低い成分〔低沸点成分(a)〕、(iii)反応生成物(m)より沸点の高い成分〔高沸点成分(b)〕、からなる場合には、低沸点成分(a)を分割塔の上部(塔頂部)から、高沸点成分(b)を分割塔の下部(底部)から、反応生成物(m)を蒸留部(塔中央部)から抜出せばよく、この場合には抜出し部は3ヶ所である。
【0023】
本発明のオキサゾリン化合物の製造方法においては、反応部と蒸留部を有する反応蒸留塔を用いることで、オキサゾリン化合物を得る反応と同時に、同一装置内で蒸留操作により反応混合物を精製することができる。オキサゾリン化合物は熱履歴に敏感な化合物であるが、本発明における反応蒸留装置を用いると収率の向上が可能となる。
本発明においては、分割塔を用いて蒸留操作を行う限り、蒸留方法は特に限定されない。蒸留操作としては、回分式又は連続式いずれでもよく、加熱滞留時間の短い連続式蒸留がより好ましい。また蒸留の形式としては、例えば、精留、分子蒸留、水蒸気蒸留の他、第三成分として有機溶剤を供給して行う共沸蒸留、抽出蒸留等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて行うことができる。
【0024】
本発明においては、オキサゾリン化合物と水との分離の観点から、分割塔の上部(塔頂部)から共沸溶剤を供給して共沸蒸留を行うことが好ましい。
共沸溶剤としては、分割塔1中で水と共沸混合物を形成し、かつ共沸混合物の沸点が、オキサゾリン化合物又はそれらと水との共沸混合物の沸点より低い有機溶剤であればよい。共沸溶剤としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロルベンゼン、ベンジン、ブタノール、プロパノール、オクタノール等をあげることができる。これらの中では、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンがより好ましい。
共沸溶剤の使用量は、水に対して好ましくは5〜50倍量、より好ましくは 15〜40倍量である。これらの共沸溶剤は回収して、再使用することができる。また共沸溶剤は回収、再使用が容易なことから常温で水と分相することが好ましい。
共沸蒸留を行う場合は、図1の分割塔1の塔頂部に共沸溶媒供給口13を設け、そこから連続的に共沸溶媒を供給することが好ましい。
【0025】
(反応蒸留方法)
本発明のオキサゾリン化合物の製造方法の一例を、図1を参照して詳細に説明する。
図1の分割塔1において、反応部3には原料供給口7の上下に固体触媒(A、A’)が充填されており、蒸留部4には反応生成物留出口9の上下に規則充填物(B、B’)が充填されており、反応部3及び蒸留部4との連通部5、6には、それぞれ規則充填物(C、D)が充填されている。なお、反応部3の棚段や固体触媒(A、A’)の充填層は、原料供給口7の上下どちらか一方にのみ設けることもできる。
【0026】
反応原料であるN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドは、原料供給口7から分割塔1の中央部(中段部)の反応部3に供給される。供給された原料は、反応部3に充填された固体触媒(A、A’)と接触して通過する際に反応し、得られた反応混合物は反応部と連通した蒸留部4に導入される。
分割塔1の塔頂には、低沸点成分(a)を含む留分の留出口8が設けられ、塔中段部には精製品(反応生成物であるオキサゾリン化合物)留出口9が設けられ、塔底には高沸点成分(b)を含む留分の抜出口10が設けられている。塔中段部の精製品留出口9は、内部仕切り板2により区分された反応部3に隣接する蒸留部4に設けられている。
塔頂の留出口8からの低沸点成分(a)を含む留分は蒸気のまま塔外へ排出し、凝縮器11で冷却後、一部を留出液として取出し、一部を還流として塔頂に返してもよく、又は塔頂に設けた内部凝縮器(図示せず)で凝縮液すべてを内部で還流して、一部を留出液として取り出してもよい。また、塔底には塔底温度を調整するための加熱器12が設けられている。なお、分割塔1における各留分の抜き出し口の数や位置は特に限定されない。
【0027】
反応生成物中には、熱負荷がかかることにより変質したり、臭気を発生する物質が存在したり、また、反応生成物自体も熱負荷により変質したり、臭気物質の発生を伴うことがあるため、蒸留操作は反応生成物及びその他の熱分解性物質の熱分解を抑えるために、なるべく熱負荷の低い条件下におくことが好ましい。
そこで、分割塔内の塔底液温は、好ましくは100〜350℃、より好ましくは150〜280℃、塔底圧力は、好ましくは10〜80kPa、より好ましくは20〜60kPaの条件下で反応蒸留を行うことにより、精製されたオキサゾリンを効率的かつ高収率で生産することができる。
なお、分割塔内の液温は、高沸点成分の分離を妨げない範囲で低くすることが好ましい。また、分割塔内の底部から高圧水蒸気や不活性ガスを吹込む方法やフラッシュ蒸発させる方法等も採用可能である。
原料の供給速度は反応部3における滞留時間や蒸留部4及び連通部5、6におけるF-factor(上昇蒸気の負荷を表す係数)等から設定すればよい。
分割塔の還流比及び理論段数は、原料成分の物性値から、蒸留シミュレーターにより算出した値を利用することができる。分割塔の段数は、好ましくは2〜50段、より好ましくは4〜40段、更に好ましくは5〜30段、特に好ましくは5〜20段である。
【0028】
(反応蒸留装置を適用しうるその他の反応)
本発明における反応蒸留装置は、例えば、有機ヒドロキシ化合物と芳香族カルボン酸とのエステル化反応、芳香族ヒドロキシ化合物と脂肪族カルボン酸エステルとのエステル交換反応、芳香族ヒドロキシ化合物と脂肪族炭酸エステルとのエステル交換反応、芳香族カルボン酸エステルと脂肪族炭酸エステル及び/又は脂肪族・芳香族炭酸エステルとのエステル交換反応等の、種々の平衡反応を伴う化学反応を実施するに際して、有効に適用することができる。
より具体的には、エチルアルコールと酢酸のエステル化反応により酢酸エチルを得る反応、フェノールとジメチルカーボネートのエステル交換反応によりジフェニルカーボネートを得る反応、アセトアルデヒドとメタノールのアセタール化反応によりジメチルアセタールを得る反応等に適用することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1
図1に示す「カラムインカラム」塔〔住重プラントエンジニアリング株式会社製、理論段数12段(図1中の反応部3、蒸留部4、及び連通部5、6はそれぞれ3段)〕の反応部3に固体触媒(A')として球状酸化アルミニウム(直径5mmの球状、住友化学株式会社製、KHO−46)を充填し、蒸留部4、連通部5、6に規則充填物(住重プラントエンジニアリング株式会社製、SFLOW700G)を充填した反応蒸留装置(ただし、共沸溶媒供給口13は使用せず)を用いて、原料供給口7から250℃のN−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドを10kg/hで連続供給し、塔底液温213℃、塔底圧力40kPa、塔頂還流比5で運転を行った。
定常状態において、N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドの反応部3(A’)における滞留時間は7分であった。また、塔頂からの低沸点成分(a)を含む留分の外部への抜出量は2kg/h、塔中段からの精製品の抜出量は1.3kg/h、塔底からの高沸点成分(b)を含む留分の外部への抜出量は6.7kg/hであった。
このとき、精製品(反応生成物)留出口9から抜き出した留分の2−エチル−2−オキサゾリンの純度は99.4%であった。精製品留出口9及び塔頂から抜き出した2−エチル−2−オキサゾリンの合計収率(工程収率)は31.9%であった。結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
図2に示す「カラムインカラム」塔〔住重プラントエンジニアリング株式会社製、理論段数12段(図1中の反応部3、蒸留部4、及び連通部5、6はそれぞれ3段)〕の反応部3に固体触媒(A')として球状酸化アルミニウム(直径5mmの球状、住友化学株式会社製、KHO−46)を充填し、蒸留部4、連通部5、6に規則充填物(住重プラントエンジニアリング株式会社製、SFLOW700G)を充填した反応蒸留装置を用いて、原料供給口7から250℃のN−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドを10kg/hで連続供給し、共沸溶媒供給口13からシクロヘキサンを37kg/hで連続供給し、塔底液温216℃、塔底圧力40kPaで運転を行った。
定常状態において、N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドの反応部3(A’)における滞留時間は7分であった。また、塔頂からの低沸点成分(a)を含む留分の外部への抜出量は38.1kg/h、塔中段からの精製品の抜出量は3.4kg/h、塔底からの高沸点成分(b)を含む留分の外部への抜出量は5.4kg/hであった。
塔頂からの低沸点成分(a)は凝縮器11で凝縮した後、水相と溶剤相に分相した。溶媒相の量は36.8kg/hであり、共沸溶媒供給口13にリサイクルした。水相の量は1.3kg/hであり、水相の成分は水が87.9重量%、2−エチル−2−オキサゾリンが9.2重量%であった。
このとき、精製品(反応生成物)留出口9から抜き出した留分の2−エチル−2−オキサゾリンの純度は99.6%であった。精製品留出口9及び塔頂から抜き出した2−エチル−2−オキサゾリンの合計収率(工程収率)は43.6%であった。結果を表1に示す。
【0031】
比較例1
下記の反応工程、脱水工程、及び精留工程を、3つの設備を用いて行った。
(反応工程)
凝縮器及び留分受器を具備したガラス製3Lの4つロフラスコに流動パラフィン480g及び球状酸化アルミニウム(直径5mmの球状、住友化学株式会社製、KHO−46)48.3gを仕込んだ。撹拌しながら230℃まで昇温し、滴下漏斗を用いてN−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド973gを21時間かけて一定流速で滴下した。滴下中に連続的に生成する2−エチル−2−オキサゾリン及び副生水は混合液として凝縮器に受けた。留分中の2−エチル−2−オキサゾリン収率は47.2%であった。
(脱水工程)
凝縮器及び留分受器を具備したガラス製1Lの4つロフラスコに反応で得られた留分混合液459g及びシクロヘキサン230gを仕込んだ。撹拌しながら圧力40kPaとし、さらに45℃まで昇温後に温度を維持しながら、シクロヘキサン及び反応留分混合液中の水を留去し留分受器に受けた。脱水後の槽内に存在する2−エチル−2−オキサゾリンの量から算出した収率は64.2%であった。
(精留工程)
蒸留塔(規則充填物スルザーラボパッキング、理論段数12段)を用い、塔底圧力20kPa、スチル温度69℃の条件で、脱水工程で得られた槽内液250gを蒸留した。留分のうち2−エチル−2−オキサゾリン純度99.8%のものとして得られた収率は82.7%であった。
従って、2−エチル−2−オキサゾリンの工程収率は25.1%であった。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1において、比較例1と実施例1を対比すれば、本発明の反応蒸留装置を用いる製造方法によれば、N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミドから、精製された2−エチル−2−オキサゾリンを効率的かつ高収率で生産できることが分かる。また、塔頂部に水との共沸溶剤を供給しながら、本発明の反応蒸留法を行えば、さらに高収率で2−エチル−2−オキサゾリンを製造できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】内部仕切り板を用いて塔中央部を区分した反応蒸留装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1:反応蒸留装置(分割塔)
2:内部仕切り板
3:反応部
4:蒸留部
5:塔の上部
6:塔の下部
7:原料(N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミド)供給口
8:低沸点成分(a)を含む留分の留出口
9:精製品(反応生成物:オキサゾリン化合物)留出口
10:高沸点成分(b)を含む留分の抜出口
11:塔頂の凝縮器
12:塔底の加熱器
13:共沸溶媒供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを反応蒸留装置に供給し、脱水環化してオキサゾリン化合物を製造する方法であって、該反応蒸留装置が、塔中央部が反応部と蒸留部に区分され、該塔の上部及び下部のそれぞれにおいて該反応部と該蒸留部が連通する構造を有する反応蒸留装置であって、固体触媒が充填された該反応部にN−(ヒドロキシアルキル)カルボキシアミドを供給し、得られた反応混合物を該蒸留部に導入し、該蒸留部でオキサゾリン化合物を分離精製して抜き出すように構成されている、オキサゾリン化合物の製造方法。
【請求項2】
固体触媒が、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、及び酸化亜鉛から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のオキサゾリン化合物の製造方法。
【請求項3】
オキサゾリン化合物が、2−置換−2−オキサゾリン(ただし、2位の置換基は、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数3〜5のアルケニル基である)である、請求項1又は2に記載のオキサゾリン化合物の製造方法。
【請求項4】
塔の上部から低沸点成分(a)を含む留分を抜き出し、塔の下部から高沸点成分(b)を含む留分を抜き出し、塔中央部の蒸留部からオキサゾリン化合物を抜き出す、請求項1又は2に記載のオキサゾリン化合物の製造方法。
【請求項5】
蒸留部に規則充填物を充填した、請求項1〜4のいずれかに記載のオキサゾリン化合物の製造方法。
【請求項6】
塔頂部に水との共沸溶剤を供給して行う、請求項1〜5のいずれかに記載のオキサゾリン化合物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−303212(P2008−303212A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122661(P2008−122661)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】