説明

オスペミフェンの生物学的利用能を高める方法

本発明は、オスペミフェン、あるいはその幾何異性体、立体異性体、薬剤的に許容される塩、エステルまたは代謝産物の生物学的利用能を高める方法であって、この化合物を食物の摂取と共に個体に経口投与することを特徴とする方法に関する。本発明はまた、骨粗鬆症、皮膚萎縮症、上皮および粘膜萎縮症の治療または予防、並びに泌尿器または膣の症状の治療または予防に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物の摂取と共に経口投与することにより、オスペミフェン(ospemifene)および関連化合物の生物学的利用能を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景を説明するためにここに使用される刊行物およびそのほかの文献は、特に実施に関するさらなる詳細を提供する場合、参考文献によって組み込まれる。
【0003】
「SERM」(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、エストロゲン様の特性および抗エストロゲン様の特性の双方を有する(Kauffman & Bryant,1995)。その効果は、骨においてエストロゲン様効果を有し、子宮および肝臓において部分的にエストロゲン様の効果を有し、そして乳癌において純然たる抗エストロゲン様効果を有するタモキシフェンおよびトレミフェンの場合のように、組織特異的であり得る。ラロキシフェンおよびドロロキシフェンは、それらの抗エストロゲン特性が優勢であることを除いてタモキシフェンおよびトレミフェンと同様である。公開された情報に基づくと、多くのSERMは、更年期の症状を抑えるよりもそれを引き起こす可能性が高い。しかしながら、それらは、初老の女性においてほかの重要な利益を有する。つまり、それらは総コレステロールおよびLDLコレステロールを減少させ、したがって心臓血管系疾患の危険性を縮小し、さらにそれらは閉経後の女性において、骨粗鬆症を予防し、乳癌の成長を阻害し得る。また、ほとんど純粋な抗エストロゲン類も開発中である。
【0004】
オスペミフェンは構造式(I)の化合物のZ-異性体であり、
【化1】

【0005】
エストロゲン作用薬および拮抗薬として知られるトレミフェンの主な代謝産物の1つである(Kangas,1990;特許文献1および特許文献2)。この化合物はまた、(デアミノヒドロキシ)トレミフェンと称され、コードFC-1271a下であることが知られる。オスペミフェンは、古典的なホルモン試験において、比較的弱いエストロゲンおよび抗エストロゲン作用を有する(Kangas,1990)。それは実験的モデルおよびヒトのボランティアの双方において、抗骨粗鬆症作用を有し、総コレステロールおよびLDLコレステロール濃度を減少させる(特許文献1および特許文献2)。それはまた、動物乳癌モデルの乳癌発生の初期段階において抗腫瘍活性を有する。オスペミフェンは、健康な女性における更年期症状において有益な効果を有すると示される最初のSERMである。閉経後の女性における特定の更年期障害、すなわち膣の乾燥および性的機能不全の治療のためのオスペミフェンの使用は、特許文献3に開示される。特許文献4には、女性、特に閉経期または閉経後の女性における、萎縮症の抑制および萎縮症関連疾患の治療または予防のためのオスペミフェンの使用が記載される。抑制される萎縮症の特定の形態は、泌尿生殖器萎縮症であり、これは2つのサブグループに分けられる:泌尿器の症状および膣の症状。
【0006】
オスペミフェンは、高親油性の化合物である。オスペミフェンは優れた許容性を有するが、問題は低い水溶性および低い生物学的利用能である。したがって、経口的に投与する場合、望ましい1日の投与量は約60mg以上である。
【特許文献1】国際公開第96/07402号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/32574号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/07718号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/103649号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オスペミフェンの生物学的利用能を改良する投与法を提供することが大いに必要とされており、したがってオスペミフェンにおける食物摂取の効果が研究された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、薬の生物学的利用能が本質的に増加した、オスペミフェン投与の改良された経口法を提供することである。
【0009】
したがって、本発明は、構造式(I)の化合物、またはその幾何異性体、立体異性体、薬剤的に許容される塩、エステルまたは代謝産物の生物学的利用能を高める方法であって、前記化合物を、食物の摂取と共に個体に経口投与することを特徴とする方法に関する。
【化2】

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
特定の親油性の薬は、食物の摂取と共に投与することにより利益を得るということは以前に知られていたが、本研究において得られたオスペミフェンの生物学的利用能における食物摂取の効果の強さは、非常に驚くべきものであった。特に他のSERMの作用と比較して、オスペミフェンにおける食物の効果は顕著である。食物の摂取は、オスペミフェンと同様に低い水溶性を有するトレミフェンの生物学的利用能において明白な効果を有さないということが発見された(Anttil M.,1997)。実際には、食物摂取はトレミフェンの吸収を遅らせることが観察された。標準化高脂肪食事と共に、別のSERMであるラロキシフェンを投与することにより、ラロキシフェンの吸収がわずかに増加するが、全身的な暴露において臨床的に有意義な変化は生じないことが報告された。食物摂取は、ラロキシフェン吸収をわずか20%増加させるが、オスペミフェン吸収における効果は2-3倍の増加である。
【0011】
「食物」という用語は、エネルギー供給源として栄養価を有する任意の食用品を含むことを理解すべきである。したがって、食物は、炭水化物、脂肪およびタンパク質の1つ以上の原料を含む、固体、半固体または液体物質でもよい。
【0012】
驚くべきことに、食物摂取における脂肪の高い割合または高エネルギー値は、オスペミフェンについて高い生物学的利用能を得るために重要ではない。食物摂取の量も有益な効果に重要ではない。
【0013】
胆汁酸の分泌は改良された生物学的利用能において重要な役割を果たすと考えられており、したがって、胆汁酸を分泌させることが可能な任意の食物が作用することが期待される。
【0014】
食物摂取の開始の直前、食物摂取中または食物摂取が完了した後比較的短時間の時点で薬が投与される場合、薬は食物と共に投与されると判断される。好ましい時間範囲は、食物摂取開始の1時間前に開始し、食物摂取開始の2時間後に終了する。より好ましくは、食物摂取中のある時点で開始し、食物摂取開始後1時間で終了する範囲のある時点で薬が投与される。最も好ましくは、食物摂取中または食物摂取開始後0.5時間以内のある時点で薬が投与される。
【0015】
本発明によるオスペミフェンおよび関連する化合物の生物学的利用能を高める方法は、閉経期または閉経後の女性を治療する場合に特に有用である。しかしながら、本発明による方法は、この年齢群の女性に限定されるものではない。
【0016】
「代謝産物」という用語は、すでに見つかっている、または今後見出されるあらゆる(デアミノヒドロキシ)トレミフェン代謝産物を包含するものと理解されるべきである。このような代謝産物の例としては、Kangas(1990)の9頁に記載されている酸化代謝産物(TORE VI、TORE VII、TORE XVIII、TORE VIII、TORE XIII)、特にTORE VIおよびTORE XVIII、並びにこの化合物の他の代謝産物が挙げられる。
【化3】

【0017】
化合物(I)の異性体の混合物の使用も本発明に含まれる。
【0018】
生物学的利用能を高める方法は、特に化合物が骨粗鬆症の治療または予防あるいは皮膚萎縮症、または上皮または粘膜の萎縮症に関連する症状の治療または予防に使用される場合に、オスペミフェンの任意の用途において有用である。
【0019】
オスペミフェンの投与により抑制できる萎縮症の特定の形態は、泌尿生殖器萎縮症である。泌尿生殖器萎縮症に関連する症状は、2つのサブグループに分けられる:泌尿器の症状および膣の症状。泌尿器の症状の例は、排尿障害、排尿困難、血尿、頻尿、切迫感覚、尿路感染、尿路炎症、夜間多尿、尿失禁、急迫性尿失禁および尿漏れ失禁である。膣の症状の例は、炎症、そう痒、灼熱痛、マラドラス分泌(maladorous discharge)、感染、帯下、外陰そう痒、圧迫感および性交後出血である。
【0020】
以前のデータによれば、オスペミフェンの最適な臨床投与量は、1日量で25mgより高く100mgより低いと考えられる。特に好ましい1日量は、30-90mgであることが示されている。より高い投与量(1日に100および200mg)では、オスペミフェンは、タモキシフェンおよびトレミフェンとより類似した特性を示す。本発明の方法により高められた生物学的利用能により、以前に推奨されていたよりも低い投与量で同じ治療効果を達成できると考えられる。
【0021】
本発明は、下記の非制限的な実施例においてより詳細に開示される。
【実施例】
【0022】
絶食条件で投与されたオスペミフェンの生物学的利用能と比較して、高カロリー含有量(860kcal)および高脂肪の朝食摂取後の健康な男性の被験者において、オスペミフェンの生物学的利用能を評価するために、2つの臨床実験を行った(実験A)。別の実験において(実験B)、低カロリー含有量(300kcal)、低脂肪の朝食摂取後のオスペミフェンの生物学的利用能を評価し、結果を実験Aで得られたもの(すなわち、高カロリー、高脂肪の朝食摂取後または絶食条件でのオスペミフェン投与後のオスペミフェンの生物学的利用能)と比較した。
【0023】
実験A
実験Aでは、24人の健康な男性のボランティアが(平均年齢23.8歳、平均BMI 22.8kg/m2)、標準化された高脂肪、高カロリーの朝食摂取後の条件下で一度、一晩の絶食後に一度、60mgのオスペミフェンの単回経口投与量を受けた。薬物動態学的評価のための血液サンプルを、各実験期間において72時間中に採取した。2つの処理の間の洗い流し期間は少なくとも2週間であった。朝食は下記の内容から構成された:バターの中で炒めた卵2個(50g)、2片のベーコン(34g)、2枚のバターを塗ったトースト(50g)、60gのハッシュブラウンポテトおよび240mlのホールミルク(脂肪の割合=3.5%)。この食事により、タンパク質、炭水化物および脂肪からそれぞれ約150、170および540kcalが提供された。
【0024】
高カロリー、高脂肪の実験食事と一緒のオスペミフェン投与:
実験場所における少なくとも10時間の一晩絶食の後、被験者は、オスペミフェン投与(60mgの錠剤)の30分前に上記の実験食事を与えられた。この食事は、30分かけて消費されなければならず、その後すぐにオスペミフェンを投与された。
【0025】
絶食条件でのオスペミフェン投与:
実験場所における少なくとも10時間の一晩絶食の後、被験者は、240mlの水と共に1つのオスペミフェン錠剤(60mg)を与えられた。オスペミフェン投与後少なくとも4時間は食事は許されなかった。
【0026】
実験Aからの結果
食物摂取の実質的な効果を、オスペミフェンおよびその主な代謝産物4-ヒドロキシ-オスペミフェンで観察した。図1は、絶食条件(白丸)および高カロリー、高脂肪食事後(黒丸)における60mgのオスペミフェンの投与後の、時間に対するオスペミフェンの平均血清濃度を示す。この実験の結果は、オスペミフェンおよび食事を同時に摂取することによりオスペミフェン生物学的利用能が高められたということをはっきり示した。
【0027】
この実験の驚くべきおよび期待できる結果により、オスペミフェンの生物学的利用能における低カロリー、低脂肪の食事の効果を調べるために、第二の実験(以下の実験B)を行うことを決定した。
【0028】
実験B
実験Bでは、実験Aにおける24人の被験者のうち12人の健康な男性のボランティアが(平均年齢23.8歳、平均BMI22.3kg/m2)、低カロリー、低脂肪食事の摂取と一緒のオスペミフェンの投与を受けた。結果を、同じ個体について実験Aで得られたものと比較した。
【0029】
低カロリー、低脂肪の食事と一緒のオスペミフェン投与:
軽い朝食(約300kcal)の組成は以下のようであった:2枚のマーガリンを塗ったトースト(5g、脂肪含有量60%)、6枚(30g)のキュウリ、240mlのスキム(脱脂)ミルクおよび100mlのオレンジジュース。この実験食事により、タンパク質、炭水化物および脂肪からそれぞれ約50、180および70kcalが提供された。
【0030】
高カロリー、高脂肪の実験食事と一緒のオスペミフェン投与:
実験場所における少なくとも10時間の一晩絶食の後、被験者は、オスペミフェン投与(60mgの錠剤)の30分前に上記の実験食事を与えられた。この食事は、30分かけて消費されなければならず、その後すぐにオスペミフェンを投与された。
【0031】
実験Bからの結果
図2は、絶食条件(白丸;実験Aから得られたデータ);高カロリー、高脂肪食事後(黒丸;実験Aから得られたデータ)および低カロリー、低脂肪食事後(星印)における60mgのオスペミフェン錠剤の投与後の、時間に対するオスペミフェンの平均血清濃度を示す。図3は、絶食条件(白三角;実験Aから得られたデータ);高カロリー、高脂肪食事後(黒三角;実験Aから得られたデータ)および低カロリー、低脂肪食事後(十字形)における60mgのオスペミフェン錠剤の投与後の、時間に対するオスペミフェン代謝産物4-ヒドロキシ-オスペミフェンの平均血清濃度を示す。
【0032】
この実験の結果は、オスペミフェンおよび低カロリー、低脂肪の食事を同時に摂取することによっても、オスペミフェンの生物学的利用能が高められたということをはっきり示した。低脂肪食事の脂肪含有量は高脂肪食事のものよりずっと低かったが、オスペミフェンの生物学的利用能は、低脂肪食事についてわずかに低いだけであった。したがって、オスペミフェン生物学的利用能における食物の効果は、摂取される食事の脂肪含有量に依存しないと結論付けることができるかもしれない。あるいは、食物摂取による胆汁の流れの刺激が、オスペミフェンの可溶化を促進するのかもしれない。
【0033】
本発明の方法は、ごく少数のみがここに開示される、様々の実施の形態で組み込まれてもよいことが理解されるであろう。他の実施の形態が存在し、本発明の精神から逸脱しないことは、当業者にとって明らかであろう。したがって、記載された実施の形態は、例であって、限定的なものとして解釈されるべきではない。
【参考文献】
【0034】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、絶食条件(白丸)および高カロリー、高脂肪食事後(黒丸)の、60mgのオスペミフェン錠剤の投与後の時間に対する、男性の個体(n=24)における平均血清濃度を示す
【図2】図2は、絶食条件(白丸);高カロリー、高脂肪食事後(黒丸)および低カロリー低脂肪食事後(星印)の、60mgのオスペミフェン錠剤の投与後の時間に対する、男性の個体(n=12)における平均血清濃度を示す
【図3】図3は、絶食条件(白三角);高カロリー、高脂肪食事後(黒三角)および低カロリー、低脂肪食事後(十字形)の、60mgのオスペミフェン錠剤の投与後の時間に対する、男性の個体(n=12)におけるオスペミフェン4-ヒドロキシ-オスペミフェンの平均血清濃度を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)の治療的活性化合物、あるいはその幾何異性体、立体異性体、薬剤的に許容される塩、エステルまたは代謝産物の生物学的利用能を高める方法であって、前記化合物を、食物の摂取と共に個体に経口投与することを特徴とする方法。
【化1】

【請求項2】
前記化合物(I)がオスペミフェン(ospemifene)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が、食物摂取開始前1時間から食物摂取開始後2時間までの範囲のある時点で投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が、食物摂取中のある時点から食物摂取開始後1時間までの範囲のある時点で投与されることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、食物摂取開始後0.5時間以内のある時点で投与されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記食物が、胆汁酸を分泌させることができる栄養価の任意の食品であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、骨粗鬆症の治療または予防に使用されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、皮膚萎縮症、あるいは上皮または粘膜萎縮症の症状の治療または予防に使用されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記症状が、泌尿器または膣の症状であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
食物の摂取と共に個体に経口投与される薬剤組成物を産生するための、構造式(I)の治療的活性化合物、あるいはその幾何異性体、立体異性体、薬剤的に許容される塩、エステルまたは代謝産物の使用。
【化2】

【請求項11】
前記化合物(I)がオスペミフェン(ospemifene)であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記化合物が、食物摂取開始前1時間から食物摂取開始後2時間までの範囲のある時点で投与されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、食物摂取中のある時点から食物摂取開始後1時間までの範囲のある時点で投与されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記化合物が、食物摂取開始後0.5時間以内のある時点で投与されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記食物が、胆汁酸を分泌させることができる栄養価の任意の食品であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記化合物が、骨粗鬆症の治療または予防に使用されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項17】
前記化合物が、皮膚萎縮症、あるいは上皮または粘膜萎縮症の症状の治療または予防に使用されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項18】
前記症状が、泌尿器または膣の症状であることを特徴とする請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−522190(P2007−522190A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552639(P2006−552639)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/FI2005/000018
【国際公開番号】WO2005/077350
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506277524)ホルモス メディカル リミテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】HORMOS MEDICAL LTD.
【Fターム(参考)】