説明

オゾン生成方法及びオゾン生成装置

【課題】固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用したオゾン生成方法及びオゾン生成装置において、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗を抑え、安定に、長期間オゾンを生成する方法および装置の提供。
【解決手段】固体高分子電解質隔膜9の両側面に陽極22及び陰極23を密着させ、固体高分子電解質隔膜9としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極22として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室3に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室3よりオゾンを生成させ、陰極室4より水素を生成させるオゾン生成方法及びオゾン生成装置において、陽極室22に、水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給した。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、水を電気分解して、陽極よりオゾン、陰極より水素を発生させるオゾン生成方法及びオゾン生成装置に関するものである。
【0002】
オゾンは自然界において酸化力が極めて強い物質として知られており、近年その強い酸化力を利用してさまざまな産業分野において使用用途が広がっている。例えばオゾンを利用した殺菌・脱色方法は上下水道施設において利用されている。オゾンが経時的に自己分解して無害な酸素となるため従来の薬品を使った殺菌・脱色方法と比較して残留薬品や反応生成物による二次汚染の心配が無く、後処理が容易であることが、強い殺菌・脱色能力に加えて評価されている。
【0003】
オゾンを生成する方法としては、紫外線ランプ法、無声放電法、電気分解法が知られている。紫外線ランプ法は紫外線により酸素を励起してオゾンとする方法であり、比較的簡易な設備でオゾン発生を行うことが出来るが、発生量が少量であり、室内・車内の消臭等に広く利用されている。無声放電法は最も普及した一般的なオゾン発生方法であり、発生量の少ないオゾン発生器を用いた室内の消臭等の簡易的な用途から、数十kg/hの大型発生装置を用いた大規模な水処理用途まで、様々な用途に利用されている。無声放電法は、原料として酸素ガスや空気中の酸素を用い、放電によって酸素を励起して反応させオゾンとする方法である。
【0004】
電気分解法は、水を電気分解することで陽極発生ガス中にオゾンを得る方法である。硫酸水溶液などの水溶液を電解することでもオゾン発生するが、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜などで知られる固体高分子電解質を電解質として用いて超純水電解を行った場合、高濃度且つ高純度なオゾンが得られる特徴を有している。また、超純水を原料することと及び発生ガス中の不純物が極めて少ないことから、超純水電解オゾン水製造装置は半導体ウェハやLCD基板等の洗浄を行う精密洗浄分野において広く利用されている。
【0005】
従来、電気分解法によるオゾン生成方法の陽極には、オゾンガス発生電流効率に優れることから、チタンなどの導電性多孔製金属上に電解めっきなどの方法により担持された二酸化鉛(PbO2)が利用されてきた。パーフルオロスルホン酸イオン交換膜を固体高分子電解質とし、二酸化鉛を陽極として室温下で超純水電解を行った場合、オゾン発生電流効率は通常は10−15%を示し、また高電流密度においては20%にも達する。経時的にパーフルオロスルホン酸イオン交換膜は消耗していくものの、その消耗は少なく、2年以上の連続電解を行っても安定したオゾン発生量及び安全性を保つことが出来る。
【0006】
このように、二酸化鉛陽極は、高電流密度下や連続電解下においては高オゾン発生電流効率であり経時安定性にも優れているが、この二酸化鉛陽極は、還元環境において還元され変質しやすい特徴を有している。例えば、電解停止時においては、電解セル内に残存する水素等の還元性物質との反応や、二酸化鉛陽極の陰分極による電解還元反応により、電極表面の二酸化鉛が容易に水酸化鉛(Pb(OH)2)や酸化鉛(PbO)、鉛イオン(Pb2+)に還元される。これらは、何れもオゾン発生能力も電子導電性も持たないため、電解停止後の再稼動時にはオゾン発生能力が低下する現象が発生することとなる。
【0007】
従って、二酸化鉛電極を用いた電解オゾン発生装置においては、停止時の性能低下を避けるため、装置停止時には、電解セルに通常の電解電流の1/10〜1/1000の電流である保護電流を供給する機構を有している。この機構は、保護電流専用直流電源、蓄電池、及び制御システムで構成され、電解セルに瞬間的な無通電状態も発生しないように常時装置の状況を監視している。この機構により、二酸化鉛陽極は電解停止時においても還元環境に晒されることなく保護されるが、本機構の存在は電解オゾン発生装置の動作機構及び装置構成を複雑にし、装置価格を上昇させている。
【0008】
しかも、二酸化鉛陽極は鉛を多く含んでおり、近年、鉛の毒性および法的要請、例えば、ROHSガイドラインのために、鉛の使用は全工業用品において削減される方向である(非特許文献1参照)。
【0009】
一方、ホウ素などのドーパントを結晶構造中に付与することにより導電性を与えた導電性ダイヤモンドを陽極として水電解を行うことにより、二酸化鉛陽極よりもはるかに高い40%程度のオゾン発生電流効率が得られることがわかっている。また、導電性ダイヤモンド陽極は、化学的及び電気化学的な安定性に優れているため、二酸化鉛が還元により変質、劣化してしまう還元環境においても、性状及び電解特性に変化ない。従って二酸化鉛陽極を用いた電解オゾン発生装置において必須であった保護電流機構が必要なくなり、装置の簡易化が行われる。もちろん、導電性ダイヤモンドを構成する炭素及びホウ素は、ROHSガイドラインについて対象物質ではない。
【0010】
しかるに、導電性ダイヤモンド電極は、非常に強い酸化能力を有しているため、従来の電解オゾン発生セルと同様の方法で導電性ダイヤモンド電極とパーフルオロスルホン酸イオン交換膜を接触させながら水電解を行うと、二酸化鉛電極の場合と比較してパーフルオロスルホン酸イオン交換膜の消耗する速度が100倍以上大きいことが明らかになった。電解による膜の急速な薄化は、陰極室で発生した水素ガスの陽極室への透過量の急増を引き起こし、短時間の電解でも陽極ガス中の水素濃度が水素の爆発下限界を超えるため、安定に電解動作できる期間が極めて短い電解セルとなってしまう。従って、導電性ダイヤモンド電極は優れたオゾン発生能力を有するものの、オゾン発生装置などに電解セルとして商業的に利用することが困難であった。
【0011】
従来、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンド電極を使用し、水を電気分解して、陽極よりオゾン、陰極より水素を発生させるオゾン生成方法において、固体高分子電解質隔膜の消耗を抑制する方法として、陽極―陰極間に通電される電流値を、オゾンの発生に関する電流効率が極大となる電流値以下に制御するオゾン生成方法及びオゾン生成装置が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4220978号公報
【特許文献2】特開2009−7655号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】電気および電子機器における特定有害材料の使用の制限:2003年1月27日のEGガイドライン2002/95/EG
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
然るに、上記従来の方法では、固体高分子電解質隔膜の消耗の抑制効果が十分ではなかった。
【0015】
本発明は、上記従来方法の欠点を解消し、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンド電極を使用し、水を電気分解して、陽極よりオゾン、陰極より水素を生成させるオゾン生成方法において、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗を抑え、安定に、長期間、高電流効率で、オゾンを生成することのできるオゾン生成方法およびオゾン生成装置を提供することを目的とする。
【0016】
導電性ダイヤモンドの酸化能力は、電極表面の電解反応に伴って発生するヒドロキシラジカル等のラジカル類に起因すると考えられている。ヒドロキシラジカルはオゾンよりも酸化力の高いラジカルとして知られており、その消失には一般にラジカルスカベンジャーと呼ばれる還元性物質が用いられる。従って、電解が行われ、ヒドロキシラジカル等のラジカル類の発生場所である陽極最表面へ、ラジカルスカベンジャーを適切に供給することによりラジカル類を消失させ、膜の消耗速度を抑制させることが、導電性ダイヤモンドを用いた電解オゾン発生装置において有効であることは想像できる。但し、陽極で発生し且つ産業分野において有用性の高いオゾンもラジカル類と同様に高い酸化力を有しており、多くの化学物質と反応して速やかに還元され酸素なる。
【0017】
従って、本電解方法においてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗抑制目的に用いるラジカルスカベンジャーとしては、ラジカル類と反応してその活性を消失させる能力を有するのと同時に、オゾンやオゾン前駆体に対しては不活性であることが求められる。
【0018】
このため、本発明においては、どの物質をラジカルスカベンジャーとして選定するか、及び選定した物質をどのように反応場に供給する事がパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗の抑制に対して最も効果的であるかについて、検討を行い、本発明を得るに至った。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するため、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室よりオゾンを生成させ、陰極室より水素を生成させるオゾン生成方法において、陽極室に、水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給したことを特徴とするオゾン生成方法を構成したことにある。
【0020】
また、本発明による第2の課題解決手段は、前記陽極室に供給する水素の供給源として、前記陰極室で生成した水素ガス又は当該水素ガスが溶解した陰極液を使用し、当該陰極液を前記陽極室の外部より前記陽極室に供給したことを特徴とするオゾン生成方法を構成したことにある。
【0021】
また、本発明による第3の課題解決手段は、前記陰極室に、二酸化炭素および有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給し、前記二酸化炭素、有機物から選ばれた少なくとも一種類を前記陰極室よりパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を透過させて前記陽極室に供給するようオゾン生成方法を構成したことにある。
【0022】
また、本発明による第4の課題解決手段は、前記有機物としてアルコールを使用して、オゾン生成方法を構成したことにある。
したことにある。
【0023】
また、本発明による第5の課題解決手段は、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室よりオゾンを生成させ、陰極室より水素を生成させるオゾン生成方法に用いるオゾン生成装置おいて、陽極室に水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給するようオゾン生成装置を構成したことにある。
【0024】
また、本発明による第6の課題解決手段は、前記陽極室に供給する水素の供給源として、前記陰極室で生成した水素ガス又は当該水素ガスが溶解した陰極液を使用し、当該陰極液を前記陽極室の外部より前記陽極室に供給するようオゾン生成装置を構成したことにある。
【0025】
また、本発明による第7の課題解決手段は、前記陰極室に、二酸化炭素および有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給し、前記二酸化炭素、有機物から選ばれた少なくとも一種類を前記陰極室よりパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を透過させて前記陽極室に供給するようオゾン生成装置を構成したことにある。
【0026】
また、本発明による第8の課題解決手段は、前記有機物としてアルコールを使用して、オゾン生成装置を構成したことにある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置によれば、固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、水を電気分解して、陽極よりオゾン、陰極より水素を生成させるオゾン生成方法において、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗を抑え、安定に、長期間オゾンを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1−1】本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置を実施するための電解セルの1例の構成を示す模式図。
【図1−2】本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置を実施するための電解セルの他の例の構成を示す模式図。
【図2−1】本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置に使用する導電性ダイヤモンドを表面に有する陽極の1例の構成を示す表面図。
【図2−2】本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置に使用する導電性ダイヤモンドを表面に有する陽極の1例の構成を示す断面図。
【図3−1】本発明によるオゾン生成方法の1実施例を示すブロック線図。
【図3−2】本発明によるオゾン生成方法の他の実施例を示すブロック線図。
【図3−3】本発明によるオゾン生成方法の更に他の実施例を示すブロック線図。
【図3−4】本発明によるオゾン生成方法の更に他の実施例を示すブロック線図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0030】
図1−1は、本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置を実施するための電解セルの1例の構成を示す模式図である。1は、陽極室排出口、2は、陰極室排出口、3は、陽極室、4は、陰極室、5は、陽極給電端子、6は、陰極給電端子、7は、陽極室供給口、8は、陰極室供給口、9は、パーフルオロスロホン酸陽イオン交換膜よりなる固体高分子電解室隔膜、10、導電性ダイヤモンド膜、11は、凸凹付p型シリコン基板、12は、貫通口、13は、陰極シート、14は、陰極集電体、15は、シール材、16は、締付ボルト、17は、ナット、18は、プレス板である。
【0031】
陽極は、凸凹付p型シリコン基板11の表面に導電性ダイヤモンド膜10を有し、貫通口12が穿孔されており、陰極は、陰極シート13よりなり、この陽極及び陰極は、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜よりなる固体高分子電解室隔膜9の両面に密着させ、いわゆるゼロギャップセルを構成した。陽極及び陰極はそれぞれ陽極室3、陰極室4に収められ、陽極室3、陰極室4はそれぞれ陽極室排出口1と陰極室排出口2及び陽極室供給口7と陰極室供給口8を有している。
【0032】
各構成材料間の電気的コンタクト及び凸凹付p型シリコン基板11の表面に導電性ダイヤモンド膜10を有する陽極、陰極シート13よりなる陰極、陰極集電体14、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜よりなる固体高分子電解室隔膜9の接合は、締付ボルト16、ナット17、プレス板18を用い、トルクにより押付けて行った。ボルト・ナットへのトルクは、3N・mとした。
【0033】
純水を陽極室供給口7より陽極室3内に供給すると、この純水は、貫通口12等を通って導電性ダイヤモンド膜10、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜よりなる固体高分子電解室隔膜9の接触面に供給され、電解反応が起こり、陽極室3内において、オゾンガスと酸素ガスと水素イオンが発生し、オゾンガスと酸素ガスは、陽極室排出口1から電解セル外へ排出され、水素イオンは、固体高分子電解室隔膜9を透過して陰極シート13の表面に達し、電子と結びついて、水素ガスとなり、陰極室排出口2より電解セル外へ排出される。
【0034】
本発明において、水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類が、陽極室3の外部より、陽極室供給口7から純水と共に陽極室3内に供給される。
【0035】
本発明においては、前記陽極室3に供給する水素の供給源として、前記陰極室4で生成した水素ガス又は当該水素ガスが溶解した陰極液を使用し、当該陰極液を前記陽極室3の外部より陽極室供給口7から純水と共に前記陽極室3に供給することができる。
【0036】
本発明においては、前記有機物としては、アルコールが使用できる。アルコールとしては、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノール等が好ましい。
【0037】
また、本発明においては、前記陽極室3に供給する物質しては、水素、二酸化炭素及び有機物の他にヒドラジンその他の還元剤を使用することもできる。
【0038】
図1−2は、本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置を実施するための電解セルの他の例の構成を示す模式図であって、固体高分子電解室隔膜9として2枚のパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用した例を示したものである。
【0039】
図2−1及び図2−2は、本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置に使用する導電性ダイヤモンドを表面に有する陽極の1例の構成を示す図であり、5cm角p型シリコン基板(3mmt)11の表面に、ダイシングにより表面に0.5mmピッチの凸凹を多数作製した後、裏面よりドリル加工を行い複数の貫通孔12を得た。シリコン表面にテクスチャ加工を施すために、35%フッ酸と70%硝酸を1:1で混合して調整したフッ硝酸溶液に室温下で5分間浸漬し、更に60℃の10%水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した。25は、凸部、26は、凹部である。
シリコン板を水洗し、乾燥した後、前処理としてダイヤモンドパウダーをイソプロピルアルコール内に入れ、基板を入れて超音波を印加することで種付け処理を行った。成膜方法としては2.45GHzでのマイクロ波プラズマCVD法を用いた。ガスとしてH2、CH4、B26を用い、それぞれの流量を800sccm、20sccm、0.2sccm導入し、ガス圧力を3.2kPaとした。マイクロ波プラズマCVDによりドーパントとしてホウ素を含む導電性ダイヤモンド膜10を成膜して作製した。尚、実電解面積となる凸部頂部の総面積は6.25cm2である。
【0040】
導電性ダイヤモンド膜10を表面に有する陽極は、電極基体上に炭素源となる有機化合物の還元析出物であるダイヤモンドを担持して製造される。電極基体の材質及び形状は材質が導電性であれば特に限定されず、導電性シリコン、炭化珪素、チタン、ニオブ、モリブデン等から成る板状、メッシュ状あるいは例えばビビリ繊維焼結体である多孔性板等が使用でき、材質は熱膨張率が近い導電性シリコン、炭化珪素の使用が特に好ましい。又導電性ダイヤモンドと基体の密着性向上のため及び導電性ダイヤモンド膜の表面積を増加させ単位面積当たりの電流密度を下げるために、基体表面はある程度の粗さを有することが望ましい。
【0041】
導電性ダイヤモンドを膜状にして使用する場合は、耐久性及びピンホール発生を少なくするために、膜厚を10μmから50μmとすることが望ましい。耐久性の面から100μm以上の自立膜も使用可能であるが、槽電圧が高くなり電解液温の制御が煩雑になるため好ましくない。
【0042】
基体への導電性ダイヤモンドの担持法も特に限定されず従来法のうちの任意のものを使用できる。代表的な導電性ダイヤモンド製造方法としては熱フィラメントCVD(化学蒸着)法、マイクロ波プラズマCVD法、プラズマアークジェット法及び物理蒸着(PVD)法等があり、これらの中でも成膜速度が速いこと及び均一な膜を得やすいことからマイクロ波プラズマCVD法の使用が望ましい。
この他に超高圧で製造される合成ダイヤモンド粉末を樹脂等の結着剤を用いて基体に担持したダイヤモンド電極も使用可能である。
【0043】
マイクロ波プラズマCVD法は、メタン等の炭素源とボラン等のドーパント源を水素で希釈した混合ガスを、導波管でマイクロ波発信機と接続された導電性シリコンやアルミナ、炭化珪素等の導電性ダイヤモンドの成膜基板が設置された反応チャンバに導入し、反応チャンバ内にプラズマを発生させ、基板上に導電性ダイヤモンドを成長させる方法である。マイクロ波によるプラズマではイオンは殆ど振動せず、電子のみを振動させた状態で擬似高温を達成し、化学反応を促進させる効果を奏する。プラズマの出力は1〜5kWで、出力が大きいほど活性種を多く発生させることができ、ダイヤモンドの成長速度が増加する。プラズマを用いる利点は、大表面積の基体を用いて高速度でダイヤモンドを成膜できることである。
【0044】
ダイヤモンドに導電性を付与するために、原子価の異なる元素を微量添加する。硼素やリンの含有率は好ましくは1〜100000ppm、更に好ましくは100〜10000ppmである。この添加元素の原料は毒性の少ない酸化硼素や五酸化二リンなどが使用できる。このように製造された基体上に担持された導電性ダイヤモンドは、チタン、ニオブ、タンタル、シリコン、カーボン、ニッケル、タングステンカーバイドなどの導電性材料から成る、平板、打抜き板、金網、粉末焼結体、金属繊維体、金属繊維焼結体等の形態を有する給電体に接続できる。
【0045】
固体高分子電解室隔膜9に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜としては、市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン117、デュポン社製、カタログ厚さ175μm)を使用し、煮沸純水に30分間浸漬し、含水による膨潤処理を行った。
【0046】
陰極シート13は、次のようにした製作した。PTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル株式会社31−J)と、白金担持カーボン触媒を水に分散させた分散液を混合した後、乾燥させ、これにソルベントナフサを加えて混練した後、圧延工程と乾燥工程及び焼成工程を経て、PTFE40%、白金担持カーボン触媒60%で膜厚120μm、空隙率55%の陰極シート13と得た。
また、厚さ2.5mmのステンレス繊維焼結体(東京製綱(株))を陰極集電体とした。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
図3−1に示すように、電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜9は、図2−2に示すように、2枚重ねて使用した。
更に陽極室3に循環供給している水に水素ガスを0.5ml/min(陽極ガス発生量に対しておよそ2vol%)だけ混合して供給するようにし、純水電解を行ったところ、陽極22におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07vol%、セル電圧12Vであった。
【0049】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29hの連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。29時間後に電解セル24を解体し、電解を行っている部分の膜の消耗厚さを調べたところ、12μmのみしか消耗しておらず、その消耗速度は0.4μm/hと遅かった。
【0050】
<実施例2>
図3−1に示すように、電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜9は、図2−2に示すように、2枚重ねて使用した。
更に陽極室3に循環供給している水に二酸化炭素ガスを0.5ml/min(陽極ガス発生量に対しておよそ2vol%)だけ混合して供給するようにし、純水電解を行ったところ、陽極23におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07vol%、セル電圧12Vであった。
【0051】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29hの連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。29h後に電解セルを解体し、電解を行っている部分の固体高分子電解質隔膜9を構成するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗厚さを調べたところ、60μm消耗していたが、その消耗速度は2.1μm/hと遅かった。無添加電解に比較してパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗をより大きく抑制できることが示された。また二酸化炭素ガス添加によるオゾン発生への影響はないことが示された。
【0052】
<実施例3>
図3−2に示すように、電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜9は、図2−2に示すように、2枚重ねて使用した。
【0053】
更に、陽極室3に循環供給している水に陰極23で発生した水素ガスを2ml/min(陽極ガス発生量に対しておよそ8vol%)だけ混合して供給するようにし、純水電解を行ったところ、陽極22におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07vol%、セル電圧12Vであった。
【0054】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29hの連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。29時間後に電解セル24を解体し、陽極と接しているパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗厚さを調べたところ、6μmのみしか消耗しておらず、その消耗速度は0.2μm/hと遅かった。陰極と接しているパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜には消耗や劣化は認められなかった。
【0055】
<実施例4>
図3−3に示すように、電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜9は、図2−2に示すように、2枚重ねて使用した。
更に陽極室に循環供給している水にイソプロピルアルコールを0.5g/Lだけ、混合して供給するようにし、純水電解を行ったところ、陽極におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07vol%、セル電圧12Vであった。
【0056】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29hの連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。29時間後に電解セル24を解体し、電解を行っている部分の膜の消耗厚さを調べたところ、60μm消耗していたが、その消耗速度は2.1μm/hと遅かった。
【0057】
<実施例5>
図3−4に示すように、電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜からなる固体高分子電解質隔膜9は、図2−1に示すように、1枚で使用した。
更に陰極室3には二酸化炭素ガスを5ml/min供給した。電解初期の性能は、陽極22におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07vol%、セル電圧12Vであった。
【0058】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29hの連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。29時間後に電解セル24を解体し、電解を行っている部分の膜の消耗厚さを調べたところ、40μm消耗していたが、その消耗速度は1.4μm/hと遅かった。
【0059】
<比較例1>
図3−1に示すように電解セル24を、オゾン側気液分離器19、水素側気液分離器20及び直流電源21と接続し、陽極室3には電解液である純水の冷却を行いながら供給し水電解を行った。電解電流は6.25Aとした。但し、電解セル24に使用するパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜9は、図2−2に示すように、2枚重ねて使用した。
陽極からは、オゾンと酸素の混合ガス、陰極からは水素ガスが生成し、陽極におけるオゾン発生電流効率は40%、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度は0.07Vol%、セル電圧13Vであった。
【0060】
この電解セル24に6.25Aを供給し続け、29時間の連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。また、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度もはっきりした上昇は認められず12時間後は0.07vol%、24時間後は0.09vol%、29時間後は0.10vol%とであった。但し、29時間後に電解セル24を解体し、陽極と接触して電解を行っている部分のパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗厚さを調べたところ、96μmも消耗しており、その消耗速度は3.3μm/hと速かった。2枚のパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜膜のうち、陰極と接触している側のパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜には、消耗や劣化は認められなかった。
【0061】
然るに、この電解セル24に更に6.25Aを供給し続け、総計58時間の連続電解を行ったところ、この期間中のオゾン発生電流効率は40−42%と大きな変動は無かった。この時、陽極ガス中に含まれる水素ガス濃度の経時的な上昇も見られず、上記したように電解開始後29時間後で0.10vol%であったが、5時間後は0.10vol%であり、増加は認められなかった。但し、陽極に接しているパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜は経時的に厚さが減少し、0−29時間においてその消耗速度は3.3μm/h、29−58時間では3.3μm/hであり、陽イオン交換膜の消耗速度は変化せずに、陽イオン交換膜の消耗が進むことが示された。陽イオン交換膜の消耗量は、180μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によるオゾン生成方法及びオゾン生成装置によれば、パーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜の消耗を抑え、安定に、長期間オゾンを生成することができ、オゾンを利用した殺菌・脱色方法は上下水道施設において利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:陽極室排出口
2:陰極室排出口
3:陽極室
4:陰極室
5:陽極給電端子
6:陰極給電端子
7:陽極室供給口
8:陰極室供給口
9:パーフルオロスロホン酸陽イオン交換膜よりなる固体高分子電解室隔膜
10:導電性ダイヤモンド膜
11:凸凹付p型シリコン基板
12:貫通口
13:陰極シート
14:陰極集電体
15:シール材
16:締付ボルト
17:ナット
18:プレス板
19:オゾン側気液分離器
20:水素側気液分離器
21:電解用直流電源
22:陽極
23:陰極
24:電解セル
25:凸部
26:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室よりオゾンを生成させ、陰極室より水素を生成させるオゾン生成方法において、陽極室に、水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給したことを特徴とするオゾン生成方法。
【請求項2】
固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室よりオゾンを生成させ、陰極室より水素を生成させるオゾン生成方法において、陽極室に供給する水素の供給源として、前記陰極室で生成した水素ガス又は当該水素ガスが溶解した陰極液を使用し、該陰極液を前記陽極室の外部より前記陽極室に供給したことを特徴とする請求項1に記載のオゾン生成方法。
【請求項3】
固体高分子電解質隔膜の両側面に陽極及び陰極を密着させ、固体高分子電解質隔膜としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を使用し、陽極として導電性ダイヤモンドを表面に有する電極を使用し、陽極室に純水を供給し、陽陰極間に直流電流を供給することによって、水を電気分解して、陽極室よりオゾンを生成させ、陰極室より水素を生成させるオゾン生成方法において、前記陰極室に、二酸化炭素および有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給し、前記二酸化炭素、有機物から選ばれた少なくとも一種類を前記陰極室よりパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を透過させて前記陽極室に供給することを特徴とする請求項1に記載のオゾン生成方法。
【請求項4】
前記有機物としてアルコールを使用したことを特徴とする請求項1又は3に記載のオゾン生成方法。
【請求項5】
陽極室に、水素、二酸化炭素及び有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給することを特徴とする請求項1に記載のオゾン生成方法に用いるオゾン生成装置。
【請求項6】
陽極室に供給する水素の供給源として、前記陰極室で生成した水素ガス又は当該水素ガスが溶解した陰極液を使用することを特徴とする請求項2に記載のオゾン生成方法に用いるオゾン生成装置。
【請求項7】
前記陰極室に、二酸化炭素および有機物から選ばれた少なくとも一種類を供給し、前記二酸化炭素、有機物から選ばれた少なくとも一種類を前記陰極室よりパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜を透過させて前記陽極室に供給することを特徴とする請求項3に記載のオゾン生成方法に使用するオゾン生成装置。
【請求項8】
前記有機物としてアルコールを使用したことを特徴とする請求項1又は3に記載のオゾン生成方法に使用するオゾン生成装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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