説明

オパールとその製造方法およびそれを用いた塗料並びに印刷物

【課題】 本発明のオパールによれば、同一方向から平面視した場合であっても、異なる色相を呈するものであり、遊色効果に富んでいること、さらに、塗料の光輝材として使用した場合、塗料中に分散し易く塗布ムラとなりにくいこと。
【手段】 複数の異なる結晶構造を有するシリカ粒子群2からなるオパール1であって、一の結晶構造を有するシリカ粒子群2と、前記一の結晶構造とは異なる他の結晶構造を有するシリカ粒子群2との間には溝部5が形成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オパールとその製造方法およびそれを用いた塗料並びに印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
オパールには天然で採掘されるもの以外に、シリカ粒子から人工的に作製されるものがある。例えば特許文献1には、シリカ粒子が規則的に配列した薄膜が開示されている。このシリカ粒子配列体の薄膜は、膜面内の面方位が揃った周期構造を有し、かつ、クラックの面積率が8%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−208453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようなシリカ粒子配列体薄膜は単結晶の形成を目的とするものであり、同一方向から見た場合、例えば平面視した場合、平面上には同様な面方位の単結晶しか露出していないので同様な色相にしか見えず、遊色効果に乏しい場合があった。
【0005】
さらに、特許文献1のようなシリカ粒子配列体薄膜を粉体状にして塗料の光輝材として使用した場合、劈開しにくい構造であるためシリカ粒子配列体が薄膜状にならずに塊状となるので、表面積あたりの質量が大きくなり、塗料中に分散せずに沈殿してしまう場合があった。そのためシリカ粒子配列体薄膜の粉体を塗料中で常に撹拌させながら使用しないと光輝材が塗布ムラになり易く、塗料に混ぜて使用する光輝材としては不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオパールは、複数の異なる結晶構造を有するシリカ粒子群からなるオパールであって、一の結晶構造を有するシリカ粒子群と、前記一の結晶構造とは異なる他の結晶構造を有するシリカ粒子群との間には溝部が形成されている。
【0007】
また、本発明のオパールの製造方法は、水または有機溶媒中にシリカ粒子を20〜35質量%の割合で含むスラリー状の分散液を、ポリエチレンテレフタレート製またはアルミニウム製の基板上に所定の厚みで配置する第1工程、前記基板上に、前記分散液を乾燥させることで前記シリカ粒子を堆積させる第2工程、および堆積した前記シリカ粒子を焼成する第3工程を含む。
【0008】
さらに本発明の塗料は、前記オパールを含むものである。
【0009】
さらに本発明の印刷物は、前記塗料で印刷されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオパールによれば、同一方向から見た場合であっても、同一面上に複数の面方位を有することで同時に異なる色相を呈するものであり、遊色効果に富んでいる。
【0011】
また本発明のオパールの製造方法によれば、遊色効果に優れたオパールを薄膜状に再現性良く大量生産することができる。
【0012】
さらに本発明の塗料は、前記オパールを含む。上述するように、このオパールは、薄膜状に劈開し易いことから、光輝材として塗料中に浮遊して分散し易いので、オパールをムラなく塗布することができ、塗布後も安定した遊色効果を呈するものとなる。
【0013】
さらに本発明の印刷物は、前記塗料で印刷されたことにより、オパールにムラがなく、また、塗料に透明感を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来のオパールの表面の図面代用写真である。
【図2】本実施形態におけるオパールの主面の模式図である。
【図3】(a)、(b)は本実施形態におけるオパールの主面の図面代用写真であり、(b)は(a)の点線内の部分拡大写真である。
【図4】本実施形態におけるオパールの図面代用写真である。
【図5】本実施形態におけるオパールの製造方法の第一工程におけるシリカ粒子を示す模式図である。
【図6】本実施形態におけるオパールの製造方法の第二工程におけるシリカ粒子を示す模式図である。
【図7】本実施形態におけるオパールの製造方法の第三工程におけるシリカ粒子を示す模式図である。
【図8】本実施形態におけるオパールの製造方法の第二工程におけるシリカ粒子を示す図面代用写真であり、(a)は乾燥前、(b)は乾燥後である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(オパール)
以下、本発明のオパールの一実施形態について図を用いて説明する。
【0016】
本実施形態は、複数の異なる結晶構造を有するシリカ粒子群からなるオパールであって、一の結晶構造を有するシリカ粒子群と、一の結晶構造とは異なる他の結晶構造を有するシリカ粒子群との間には溝部が形成されている。
【0017】
一般的にオパールは、図1のようなシリカ粒子2aの結晶構造(通常は六方最密充填構造)によって、ブラッグ回折を起こして所定の色相を発するものであり、その色相はシリカ粒子2aの粒子径、粒子間距離および結晶構造などによって決定される。
【0018】
ここで図1のオパール1のシリカ粒子2aは同じ結晶構造で配列した単結晶状であるが、本実施形態のオパール1は、図1のような単一の結晶構造に限られたものではなく、図2のような様々な結晶構造が存在する多結晶状である。
【0019】
すなわち、図2のように異なる結晶構造を有するシリカ粒子群2が存在し、異なる結晶構造を有するシリカ粒子群2同士の間に、溝部5が形成されている。
【0020】
従来のオパールでは同一面上において、各シリカ粒子群2の面方位が揃った単結晶状態であり、溝部5を境界に粒子配列が異なっているものではないが、本実施形態では、六方最密充填構造6のシリカ粒子群2や面心立方構造7のシリカ粒子群2などの複数の異なる結晶構造を有するシリカ粒子群2同士が互いに集合した多結晶状態であって、面方位が相違する境界で溝部5が形成されている。
【0021】
図8に示すように、乾燥前(a)ではまだ溝部5は明確には形成されていないが、乾燥後(b)では、溝部5がより明確に形成された多結晶状態のオパール1が観察される。
【0022】
図4で示されるように、異なる結晶構造を有することにより、オパール1を同一方向から平面視した場合であっても、異なる色相を呈するものであり、遊色効果に優れたオパール1を得ることができる。
【0023】
結晶構造としては、例えば、六方最密充填6や面心立方構造7の他に、体心立方構造、単純立方構造、斜方晶構造、正方晶構造などの構造が挙げられる。
【0024】
シリカ粒子2aの大きさについては特に制限されず、例えば、平均粒径が200〜300μmのものが用いられる。この範囲であればブラッグ回折により最も遊色効果を呈する点で有利であり、また、これらのシリカ粒子2aの大きさはそれぞれほぼ同等となるように形成されている。
【0025】
このような溝部5をオパール1の表面に有することにより表面で劈開が発生し易く、表面積あたりの質量が小さいオパール1となり易く、このオパール1の粉末を塗料などに混ぜても沈殿しにくくなり、塗料中に浮遊して分散し易くなる。
【0026】
また、適度にオパール1の表面抵抗が高くなるので、このオパール1の粉末を塗料などに混ぜても沈殿しにくくなり、光輝材として塗料中に浮遊して分散し易くなる。
【0027】
あるいは、この溝部5を起点として気泡が付着することによって、オパール1の浮力が増すことによっても、同様の効果を得ることができる。
【0028】
この溝部5は、オパール1の最表面において、シリカ粒子2aの凝集に伴い、シリカ粒子群2がそれぞれ収縮することにより、シリカ粒子群2の間で生じる空所のことをいう。この溝部5は、最表面に形成されている場合が多いが、最表面に限られたものではない。
【0029】
ここで最表面とはオパール1の表面に配置されるシリカ粒子群2において1番外側の層を形成するシリカ粒子2aの層をいう(図7における1層目)。
【0030】
さらに本実施形態において、シリカ粒子群2は、六方最密充填構造6を有するシリカ粒子群2、面心立方構造7を有するシリカ粒子群を含むことが好ましい。
【0031】
図2は本実施形態のオパール1の表面が拡大されたものであるが、平面視したときに、六方最密充填構造6を有するシリカ粒子群2はシリカ粒子2aが相互に6点で接触し、面心立方構造7を有するシリカ粒子群2はシリカ粒子2aが相互に4点で接触した多結晶状である。
【0032】
六方最密充填構造6と面心立方構造7とで異なる発色を呈することができ、優れた遊色効果を得る事ができる。
【0033】
またオパール1の最表面のシリカ粒子2aの層において、六方最密充填構造6と面心立方構造7とは溝部5(破線に沿った間隙の部分)を介して分断されている。この溝部5の間隔は0.05〜0.2μm程度である。
【0034】
図3(a)、(b)は本実施形態のオパール1の主面を示すSEM写真であり、図3(b)のように六方最密充填構造6を有するシリカ粒子群2と、面心立方構造7を有するシリカ粒子群2との間に、破線が示す溝部5が形成されていることがわかる。
【0035】
ここでは六方最密充填構造6を有するシリカ粒子群2および面心立方構造7を有するシ
リカ粒子群2を挙げているが、その他の結晶構造等をそれぞれ有するシリカ粒子群2も存在していることが好ましい。
【0036】
なお、図3のようにシリカ粒子2aは一部が脱粒している部分があっても構わない。
【0037】
また、結晶構造が異なっていても一部溝部5が形成されない場合もある。これは異なる結晶構造のシリカ粒子群2同士が分裂する前に、融点を低くするような不純物を介して融着する場合があるからである。
【0038】
また、溝部5を挟む結晶構造が同一の面方位である部分があったとしても、本願の効果を妨げない。
【0039】
また溝部5による間隙の影響によって、結晶構造が同じシリカ粒子群2同士であっても溝部5で分断されている場合もあるが、これによりさらにオパール1の表面抵抗が高くなるので、光輝材として塗料中に浮遊して分散し易くなる点で好ましい。
【0040】
さらに本実施形態は、一の結晶構造を有するシリカ粒子群が、六方最密充填構造を有するシリカ粒子群であり、該六方最密充填構造を有するシリカ粒子群が、全体の粒子群中に40〜80%含まれていることが好ましい。
【0041】
これにより、青〜赤色の発色を有する遊色効果を呈することができる。
【0042】
さらに本実施形態は、2つの主面を有する板状体であり、該板状体の厚みが0.5〜10μmであることが好ましい。
【0043】
ここで本明細書において主面とは、板状体において、表裏で対向する2つの大きな面のことであり、オパール1の厚みの薄い部分に応力集中することによるワレの発生を低減することができるという点で、2つの主面は略平行であることが好ましい。
【0044】
厚みを0.5μm以上とすることによって、オパール1は一定以上の強度を有することができ、また、厚みを10μm以下とすることで図4のような透明感のある遊色効果を呈することができる。
【0045】
図4では、同一方向から視てそれぞれの色合いが異なっているオパール1が示されている。例えば、多結晶構造オパール1bでは同一面上に複数の面方位を有することで同時に異なる色相を呈していることが判る。
【0046】
ここでオパール1の粉末中には、本願のオパール1以外に、溝部5に沿って剥離した溝部5を有さないオパール1が含まれていても構わない。例えば、図4における単結晶構造オパール1aがこれに相当する。
【0047】
また、オパール1の粉末において、オパール1の最表面の1層だけが部分的に劈開して剥離したものであっても、ブラッグ回折可能であるので構わない。
【0048】
これは1層目と2層目とでの応力差によって、最表面の1層目だけが剥離し易いことから生じるものである。
【0049】
例えば、図7の1層目はシリカ粒子2aの凝集による応力によって、2層目のシリカ粒子2aから剥離し易い状態になっている。
【0050】
さらには、質量に比べて表面積が大きくなるので、光輝材として塗料中に浮遊して分散し易くなる。特に、オパール1の質量(W)と、前記2つの主面の表面積の和(S)との割合(S/W)は、6×10−5〜6×10−6の範囲であることが好ましい。
【0051】
平均の厚さの測定については、任意のオパール1の断面を顕微鏡で観察して測定することができる。
【0052】
なおこの場合、溝部5は一方の主面だけでなく他方の主面(すなわち表裏の面両方)にも形成されていてもよく、これによりさらにシリカ粒子2aの沈殿を低減することができる。
【0053】
さらに本実施形態は、前記主面におけるシリカ粒子の単位面積当たりの数が、16個/μm以上であることが好ましい。
【0054】
これによって、主面においてブラッグ回折が発生し易いので、安定した遊色効果と輝度とを有することができる。
【0055】
例えば、主面におけるシリカ粒子2aの単位面積当たりの数は、オパール1の断面におけるシリカ粒子2aの単位面積当たりの数を計測することによって測定できる。具体的には、SEMの2次電子像でオパール1の断面を3000〜10000倍に拡大しておき、1μm四方におけるシリカ粒子2aの個数を数える。そしてシリカ粒子2aの質量に換算して密度を算出すればよい。
【0056】
さらに本実施形態は、前記主面の平面度は10μm以下、前記主面の算術平均表面粗さRaは1μm以下である。
【0057】
これによって、両方の主面において乱反射が抑制されるので、輝度が高いものとするオパール1とすることができる。
【0058】
本明細書において、平面度は、例えば、オプチカルフラットによる測定方法が用いられる。基準原器(オプチカルフラット)に、完全に平坦面出しをしたワーク(オパール)を接触させて、そこに、短波長光源を当てることにより、光学的に干渉縞を発生させ、その干渉縞により平面度を測定する。つまり、ワークと光学基準原器(オプチカルフラット)との比較測定となる。面粗度が鏡面まで出ていることが前提となる。また例えば、前記短波長光源の代わりにレーザービームを使用し、オプチカルフラットに反射させて、干渉縞を発生させ、それをデジタル処理、又は手動により解析させるものである。また例えば、3点ゲージによる測定の場合、ミクロンオーダーであれば、3点ゲージ比較測定でも可能である。
【0059】
算術平均表面粗さの測定方法については、任意のオパール1の主面を原子間力顕微鏡で測定することで確認することができる。
【0060】
さらに本実施形態はオパールを含む塗料として用途を広げることができ、さらには化粧品のラメなどにも適用することもできる。
【0061】
さらに本実施形態の塗料で印刷された印刷物としては、壁紙、包装紙、広告体等に適用することができ、オパール1が表面に溝部5を有することにより、乾燥して固まった塗料との密着性を向上することができ、印刷物からオパール1が剥離しにくいものとなる。
【0062】
また、塗料で印刷された印刷物に限らず、本実施形態のオパール1を含むアクリル、エ
ポキシ、ウレタンなど様々な樹脂に混ぜて成型した樹脂成型品に適用することもでき、例えば建築用材、螺鈿細工材料などの用途がある。
【0063】
あるいは上記した樹脂に限らず、オパール1を無色透明の水性または油性の溶媒型インクに混ぜて塗料としても良い。
【0064】
(オパールの製造方法)
次に、本発明のオパールの製造方法について図5〜図7を用いて説明する。
【0065】
本実施形態は、水または有機溶媒中に、シリカ粒子を20〜35質量%含むスラリー状の分散液を、ポリエチレンテレフタレート製またはアルミニウム製の基板上に所定の厚みで配置する第1工程、前記基板上の前記分散液を乾燥させることで前記シリカ粒子を堆積させる第2工程、および堆積した前記シリカ粒子を焼成する第3工程を含む。
【0066】
シリカ粒子2aが20〜35質量%のスラリー状の分散液4と、ポリエチレンテレフタレートまたはアルミニウム製の基板3とのぬれ性が適切であること(例えば基板3と水の接触角度が20〜45度、あるいは、基板3と有機溶媒との接触角度が20〜25度)により、従来実現できなかった本実施形態のオパール1の作製が実現できるというものである。
【0067】
このような有機溶媒としては、好ましくは水と可溶なある程度極性を有するものであることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、クロロホルム、エーテル、アセトンなどが挙げられる。
【0068】
接触角が大きいと分散液4が球状になり、表面張力の影響で分散液4中の分散質2aが1箇所に凝集してしまい、単一の結晶構造のシリカ粒子群2となり易く、接触角が小さいと分散液4が広がるとともにシリカ粒子(分散質)2a同士が離れ過ぎてしまうので、結晶構造を有するシリカ粒子群2が形成されにくくなる。
【0069】
シリカ粒子2aは、例えば以下の方法により調整することができる。
【0070】
まず、コロイダルシリカ100質量部とメタノール100質量部とを混合し、得られた混合物を遠心分離機にて10000rpm、1時間程度で遠心分離する。
【0071】
さらに、上澄みだけを廃棄してメタノールを補充した後、再び遠心分離機で遠心分離することを数回繰り返すことによりシリカ粒子2aを得ることができる。
【0072】
分散液4中のシリカ粒子2aの濃度は、使用する基板3に応じて適宜調製される。例えば、シリカ粒子2aの分散およびコロイド粒子形成のし易さの点から、シリカ粒子2aの濃度が20質量%〜35質量%のスラリー状となるように調製される。
【0073】
図5〜7におけるポリエチレンテレフタレート製またはアルミニウム製の基板3は、表面が平滑である必要があり、基板3の平面度や表面粗さはオパール1の表面性状にそのまま反映される。
【0074】
(第1工程)図5のように、分散液4は基板3上に速やかに均等な厚さで配置され、さらに分散液4は撥水などによりはじかれて配置する量が減ることがないことが望ましく、基板3は分散液4とのぬれ性がよいことが望ましいことから、分散液4はスラリー状とし、かつ、ポリエチレンテレフタレート製またはアルミニウム製の基板3を使用している。
【0075】
(第2工程)次に、図6のように、基板3上に配置された分散液4から加熱手段によって分散媒4aを除去する。この際に、最表面のシリカ粒子2aの凝集度合い、特にシリカ粒子2aの凝集速度の差異により、最表面のシリカ粒子群2の各面方位に違いが出てくる。
【0076】
これは分散液4の液滴の形状が様々であることにより、滴表面上、局所的に凝集速度の分布が発生することに起因するものである。
【0077】
速やかにシリカ粒子2aの凝集体を作製するために、加熱手段としては、赤外線ヒーター、温風乾燥などを用いることができる。
【0078】
(第3工程)次に、図7のように、加熱して乾燥されたシリカ粒子群2の最表面には溝部5が形成されており、この状態でシリカ粒子2a同士を焼成することで、シリカ粒子2a同士を融着させて固定する。
【0079】
さらに本実施形態は、第1工程において前記分散液は、バーコーターを用いて10〜100μmで塗布されることが好ましい。
【0080】
バーコーターが薄く均一に塗布する点で最も好ましいが、可能であれば浸漬や、ディスペンサーなど他の手段であっても構わない。
【0081】
さらに本実施形態は、第2工程において、乾燥温度60〜80℃、昇温速度5〜10℃/秒で乾燥させることが好ましい。
【0082】
これにより、図6のようにオパール1の最表面におけるシリカ粒子2aを局所的に凝集させることで、多結晶状にすることができる。
【0083】
また、この昇温速度範囲であれば、分散液4の液滴が端部から徐々に乾燥して、順次シリカ粒子2aが基板面に沿って整列されて、シリカ粒子群2の平面度が小さくなる傾向がある。これによりシリカ粒子群2が同一方向を向いて一定の色相となり易くなる。
【0084】
なお、平面度が大きいと様々な色相が混ざり合い白色系になり易くなる傾向がある。
【0085】
さらに本実施形態は、第3工程において焼成は、500〜900℃で1〜10時間焼成することが好ましい。
【0086】
これにより、図7のようにオパール1の最表面における多結晶状のシリカ粒子2a同士を融着させて固定することができる。
【0087】
また、分散液4の液滴が沸騰しないように、徐々に乾燥させることによって、シリカ粒子2aの整列が乱れないように液滴を乾燥され、シリカ粒子群2の表面粗さが小さくなる傾向がある。これによりシリカ粒子群2の表面が規則的配列になるので、ブラッグ回折が向上し、また、表面での乱反射が低減される。
【0088】
上記の製造方法によって得られた本実施形態のオパール1を粉砕して粉体とし、これをインク、ペンキなどの塗料に混ぜれば、例えば下記のような印刷方法を実施することができる。
【0089】
例えば、印刷方法としてはグラビアコーターを使用するのが最も好ましく、膜厚3〜30μmの塗工が可能で、多様な基材に対応でき塗工距離の制御も容易である。
【0090】
またグラビアコーターに限らず、スロットダイコーターでは、基材厚みや塵等の影響に強く、低速〜高速まで幅広い速度に対応できる。
【0091】
またCAPコーターでは膜厚0.1〜5μmの塗工が可能で、均一性±2%の高精度塗工を実現できる。
【実施例】
【0092】
(試料作製) 実施例としては表1の条件に基づいたオパール1を作製し(試料番号2〜23)、従来例としては特許文献1に基づいたオパールを作製した(試料番号1)。
【0093】
得られた試料1をSEMで観察したところ図1のような単一の結晶構造(六方最密充填構造6のみ)を有していた。
【0094】
また、得られた試料4をSEMで観察したところ図2および図3のような六方最密充填構造6および面心立方構造7を有していた。
【0095】
なお、第1工程においては、分散液4は水を分散媒4aとし、分散質となるシリカ粒子2aの濃度が調合されたものを用い、塗布手段にバーコーターを用いた。
【0096】
分散液4中のシリカ粒子(分散質)2aの濃度および塗布厚は、表1に示すように種々変更した。基板3の材質にPET、アルミニウム、ガラスを用いた。
【0097】
また第2工程においては、加熱手段に赤外線ヒーターを用い、乾燥温度と昇温速度を表1に示すように種々変更した。
【0098】
また第3工程においては、焼成手段として焼成るつぼ中での焼成を行うことによって、オパール1を得た。
【0099】
焼成温度としては700℃、焼成時間としては5時間を標準条件として、表1に示すように種々変更した。
【0100】
第3工程で焼成して得られたオパール1をリムバーで基板3から剥がして、ボールミルで粉砕して粉末化することにより、長辺で2〜3mmの粉末として評価試料とした。
【0101】
以下、試料作製条件を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
(試料評価) 任意の評価者10人を選出して、得られたオパール1の主面を工場顕微鏡を用いて20倍で観察し、色相、透明感、遊色効果、分散性のそれぞれについて比較例(試料1)よりも優れていると感じた人が10人のときは○、9〜6人のときは△、5人以下のときは×として判定した。
【0104】
以下、表1の試料作成条件で作製されたオパール1と、その試料評価結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
以下、評価結果を説明する。
【0107】
試料番号1については比較例(従来例)であり、薄膜状にならないため厚みが厚くなり、白色系となって色相が弱くなり、透明感に欠けたものとなった。また、六方最密充填構造6だけであるので、同一方向から視た場合、同様な色相にしか見えないため、遊色効果が乏しいものとなった。また、薄膜状にならないため塗料中において分散性が悪く沈殿してしまう場合があり、塗料の光輝材として使用可能な範囲ではなかった。
【0108】
試料番号2〜6では、結晶構造の種類(六方最密充填構造6と面心立方構造7)の割合と色相、透明感、遊色効果、分散性との対応を確認した。
【0109】
その結果、試料番号3,4,5においては、シリカ粒子2aの密度が高い規則的な結晶構造により良好なブラッグ回折を発生し易くなり、試料番号2よりも色相の濃さの点で優れたものとなり、かつ、六方最密充填構造6と面心立方構造7の割合のバランスによって色相の種類が複数になり、試料番号6よりも遊色効果の点で優れたものとなった。
【0110】
試料番号7〜10では、オパール1の厚さと色相、透明感、遊色効果、分散性との対応を確認した。
【0111】
その結果、試料番号8,9では、色相が濃く透明感に優れ、試料番号7のよりも強いブラッグ回折により色相の濃さで優れ、試料番号10のよりも厚みが薄く透明感の点で優れていた。
【0112】
なお、試料7および8のように、オパール1の厚みが1μm(粒子4個分の厚み)以下でもシリカ粒子2aが配列したものが得られることがわかった。
【0113】
試料番号11〜14では昇温速度によって、オパール1の平面度を制御して、色相、透明感、遊色効果、分散性との対応を確認した。
【0114】
試料番号12、13、14では昇温速度を遅くすることで、分散液4の液滴が端部から徐々に乾燥して、順次シリカ粒子2aが基板面に沿って整列されて、シリカ粒子群2の平面度が小さくなる。
【0115】
これによりシリカ粒子群2が同一方向を向いて一定の色相となり易く、試料番号11よりも色相の濃さの点で優れていた。
【0116】
試料番号15〜18では、乾燥温度によって、オパール1の表面粗さを制御して、色相、透明感、遊色効果、分散性の対応を確認した。
【0117】
試料番号16、17、18では、分散液4の液滴が沸騰しないように、徐々に乾燥させることによって、シリカ粒子2aの整列が乱れないように液滴を乾燥させて、シリカ粒子群2の表面粗さを小さくすることができる。
【0118】
これによりシリカ粒子群2の表面が規則的配列になるのでブラッグ回折が向上し、また、表面での乱反射が低減されるので、試料番号15よりも色相の濃さおよび透明感の点で優れていた。
【0119】
試料番号19、20では、基板3の材質と色相、透明感、遊色効果、分散性との対応を確認した。
【0120】
その結果、試料番号19のアルミニウムでは、ポリエチレンテレフタレートを用いた場合と同様の作用効果を得ることができた。
【0121】
試料番号20のガラスを用いた場合は比較例であり、ガラスと分散液4とのぬれ性が悪いため撥水してしまい大きな球状の液滴になり、粒状のオパールとなってしまった。そのため単一の結晶構造による色相しか呈さず、また厚みが厚いので白濁していた。また、塗料に混ぜても大きな球状であるために沈殿してしまった。
【0122】
試料番号21〜24では、焼成度合い(焼成温度、焼成時間)と色相、透明感、遊色効果、分散性との対応を確認した。
【0123】
その結果、試料番号22,23では、試料番号21よりも過焼成とならず、試料番号24よりも焼成不足とならないので、安定した結晶構造により安定したブラッグ回折が得られるので、遊色効果の点で優れていた。
【0124】
以上のように、試料番号3〜5、8、9、12〜14、16〜19、22、23については、優れた色相、透明感、遊色効果、分散性を示すことがわかった。
【0125】
なお、上記の試料番号2、6、7、10、11、15、21、24についても、本願実施形態であり、比較例1、比較例20より優れた特性を有するものであった。
【符号の説明】
【0126】
1:オパール
1a:単結晶構造オパール
1b:多結晶構造オパール
2:シリカ粒子群
2a:シリカ粒子(分散質)
3:基板
4:分散液
4a:分散媒
5:溝部
6:六方最密充填構造
7:面心立方構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる結晶構造を有するシリカ粒子群からなるオパールであって、
表面において隣接する一の結晶構造を有するシリカ粒子群と該一の結晶構造とは異なる他の結晶構造を有するシリカ粒子群との間に、溝部が形成されている、オパール。
【請求項2】
前記シリカ粒子群は、六方最密充填構造を有するシリカ粒子群および面心立方構造を有するシリカ粒子群を含む、請求項1に記載のオパール。
【請求項3】
前記一の結晶構造を有するシリカ粒子群が、六方最密充填構造を有するシリカ粒子群であり、
該六方最密充填構造を有するシリカ粒子群が、前記シリカ粒子群の全体中に40〜80%含まれている、請求項1または2に記載のオパール。
【請求項4】
2つの主面を有する板状体であり、該板状体の厚みが0.5〜10μmである、請求項1から3のいずれかの項に記載のオパール。
【請求項5】
前記主面におけるシリカ粒子の単位面積当たりの数が、16個/μm以上である、請求項4に記載のオパール。
【請求項6】
前記主面の平面度が10μm以下であり、前記主面の算術平均表面粗さRaが1μm以下である、請求項4または5に記載のオパール。
【請求項7】
水または有機溶媒中にシリカ粒子を20〜35質量%の割合で含むスラリー状の分散液を、ポリエチレンテレフタレート製またはアルミニウム製の基板上に所定の厚みで配置する第1工程、
前記基板上に、前記分散液を乾燥させることで前記シリカ粒子を堆積させる第2工程、
および堆積した前記シリカ粒子を焼成する第3工程
を含むオパールの製造方法。
【請求項8】
前記第1工程において前記分散液を、バーコーターを用いて10〜100μmの厚みで塗布することによって前記基板上に配置する、請求項7に記載のオパールの製造方法。
【請求項9】
前記第2工程において、乾燥温度60〜80℃、昇温速度5〜10℃/秒で乾燥させる、請求項7または8に記載のオパールの製造方法。
【請求項10】
前記第3工程において、500〜900℃で1〜10時間焼成する、請求項7から9のいずれかの項に記載のオパールの製造方法。
【請求項11】
請求項1から6のいずれかの項に記載のオパールを含む、塗料。
【請求項12】
請求項11に記載の塗料で印刷された印刷物。









【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46411(P2012−46411A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165164(P2011−165164)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】