説明

オフセット印刷機の水舟

【課題】内部での水流の偏りをなくし、澱みの発生を防止するとともに、温度の均一化を図る。
【解決手段】水舟本体21と、水舟本体21に横方向に延びるように配設した給水ローラ8と略平行に配設される給水管27とを備え、給水管27には、給水用接続部28を設けるとともに、横方向に複数の給水口29a〜29dを設け、給水口29a〜29dは、給水管27の横方向において、給水用接続部28の近傍に位置する第1給水口29a、および、給水用接続部28から第1給水口29aより離れて位置し第1給水口29aより開口面積が大きい第2給水口29bの少なくとも2種有する。または、水舟本体31内に、該水舟本体21内に貯留した湿し水の水面より上側に給水口29を有する給水経路39を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機の水舟に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機は、図8に示すように、大型のローラ(版胴)1と、大口径のローラ(ブランケット胴)3と、複数の小径インキローラ群4と、小径のゴムローラ7などからなる給水ローラ群6とで構成されている。ローラ1は、インキによって図柄などの画線を形成するために、表面にフォトレジスト処理を施したアルミニウム製の板などからなる刷版2が配設されている。大口径のローラ3は、前記刷版2からインキを受け取り、紙に転写するゴム板を巻回したものである。小径インキローラ群4は、前記刷版2にインキを供給するインキ供給手段の役割をなすものである。ゴムローラ7はクロムローラ8と交互に配設され、刷版2の非画線部に湿し水を供給することにより、反発により非画線部にインキが付着しないようにする湿し水供給手段の役割をなすものである。なお、5はインキ壺である。
【0003】
前記湿し水供給手段の給水ローラである下端のクロムローラ8は、所定水位で湿し水が貯留される水舟9に対して、その一部が湿し水に浸漬されるように配設されている。この水舟9内の湿し水は、中間タンク10と冷却循環タンク11とを備えた循環供給装置によって常に循環供給されている。ここで、中間タンク10は、水舟9から排水された湿し水に発生している泡を消滅させるとともに、湿し水に含まれた紙粉などの異物やインキの固まりを濾過するものである。また、冷却循環タンク11は、図示しない補充タンクから補給される湿し水と、中間タンク10から供給された湿し水とを混合するとともに、その混合した湿し水の温度などを調整して、前記水舟9に供給するものである。
【0004】
そのうち、前記水舟9は、図9(A),(B)に示すように、平面視長方形状をなす上端開口の皿状をなす水舟本体12と、該水舟本体12に対して長手方向(横方向)に配設した前記クロムローラ8の軸心と平行に位置する給水管15とを備えている。前記水舟本体12には、給水管15と横方向に隣接するように排水用接続部13が設けられている。この排水用接続部13は、前記循環供給装置の排水側である前記中間タンク10に、接続パイプ18を介して接続される。また、この排水用接続部13には、水舟本体12内に所定水位で湿し水を貯留するためにパイプ部材14が配設されている。前記給水管15には、前記排水用接続部13の側に位置する端部近傍に給水用接続部16が設けられている。この給水用接続部16は、前記循環供給装置の給水側である前記冷却循環タンク11に、接続パイプ19を介して接続される。また、この給水管15には、前記クロムローラ8と対向するように複数の給水口17が所定間隔をもって設けられている。
【0005】
このように構成された水舟9は、冷却循環タンク11から給水管15を介して水舟本体12内に湿し水が供給されると、前記パイプ部材14の高さまで湿し水が貯留され、該パイプ部材14の上端から湿し水がオーバーフローにより中間タンク10に排水される。
【0006】
しかしながら、前記水舟9では、給水管15における給水用接続部16の近傍に位置する給水口17から多くの湿し水が供給され、給水用接続部16から離れるにつれて湿し水の給水量が徐々に少なくなる。また、排水用接続部13の近傍は、該排水用接続部13に向けて流れる流量が多く、排水用接続部13から離れるにつれて流量は少なくなる。そのため、前記水舟本体12内において、前記給水管15と縦方向の反対側では、湿し水の澱みや水流の偏りが多く発生し、様々な問題を引き起こす。
【0007】
具体的には、水舟9の周囲は、ローラ8を駆動させるモータや、冷却循環タンク11の熱交換器などから生じる熱風の影響で温度が高くなっている。そして、澱みが生じている領域の湿し水は熱の影響で昇温するため、水舟9内では領域によって湿し水に温度差が生じる。なお、湿し水は、温度が上昇すると粘度が低下するため、その部分でのローラ8への給水量が少なくなり、該湿し水による水膜が薄くなる。しかも、温度が高いため、蒸発し易い状態になる。その結果、澱みが生じている領域と対応する刷版2の非画線部では、供給される湿し水の量が非常に少なくなり、インキが付着可能な状態になるため、印刷物には汚れとなって表れる。ここで、一般的に印刷操作を行うオペレータは、非画線部に汚れが生じている場合には湿し水の給水量を増やすように調整する。そうすると、流量が多く、温度が低い領域では、ローラに対して多くの湿し水が供給されることになるため、インキの過乳化を引き起こす。そのため、水舟9内での湿し水の温度差は、印刷品質に大きな影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
また、水流の偏りにより水舟9内に澱みが生じると、その部分にはローラ7,8に付着してきた紙粉やインキなどの固形物が堆積する。そして、このインキの固形物に湿し水が長時間曝されると、化学的に反応して湿し水が劣化するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の問題に鑑みてなされたもので、内部での水流の偏りをなくし、澱みの発生を防止するとともに、温度を均一化できるオフセット印刷機の水舟を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明のオフセット印刷機の第1の水舟は、刷版にインキを供給するインキ供給手段と、前記刷版の非画線部に湿し水を供給する給水ローラを有する湿し水供給手段とを備えたオフセット印刷機に配設され、前記給水ローラの一部を浸漬させる湿し水が循環供給装置により循環供給される水舟において、前記循環供給装置の排水側に接続した皿状の水舟本体と、前記循環供給装置の給水側に接続されるとともに前記水舟本体に横方向に延びるように配設した前記給水ローラと略平行に配設される給水管とを備え、前記給水管には、前記循環供給装置に接続する給水用接続部を設けるとともに、前記給水ローラの軸心に略沿った横方向に複数の給水口を設け、前記給水口は、前記給水管の横方向において、前記給水用接続部の近傍に位置する第1給水口、および、前記給水用接続部から第1給水口より離れて位置し前記第1給水口より開口面積が大きい第2給水口の少なくとも2種有する構成としている。
【0011】
この第1の水舟では、水舟本体内に配設した給水管に形成する給水口を、給水用接続部の近傍に位置する第1給水口と、給水用接続部から離れて位置する第2給水口の少なくとも2種設けており、第2給水口は第1給水口より開口面積を大きくしている。そのため、この給水管から水舟本体内に供給される湿し水は、同一圧力である場合には給水用接続部の近傍に位置する第1給水口からの水量が少なく、給水用接続部から離れて位置する第2給水口からの水量が多くなる。しかし、前記給水管では、実際には給水用接続部の側の水圧が高く、給水用接続部から離れた側の水圧が低くなる。その結果、前記給水管では、横方向に複数設けた各給水口からは、略同一の給水量で湿し水が吐出されることになる。これにより、水舟本体の全領域にかけて水流の偏りをなくすことができ、湿し水が澱む領域が発生することを防止できる。そのため、水舟の周囲の温度の影響により、湿し水が部分的に温度が高くなることを防止でき、給水ローラへの給水量の均一化を図ることができるため、印刷品質が低下することを防止できる。また、給水ローラに付着してきた異物が堆積することを防止できるため、湿し水の劣化を防止できる。
【0012】
また、本発明の第2の水舟は、刷版にインキを供給するインキ供給手段と、前記刷版の非画線部に湿し水を供給する給水ローラを有する湿し水供給手段とを備えたオフセット印刷機に配設され、前記給水ローラの一部を浸漬させる湿し水が循環供給装置により循環供給される水舟において、前記循環供給装置の排水側に接続した皿状の水舟本体を設け、該水舟本体内に、前記循環供給装置の給水側に接続されるとともに前記水舟本体内に貯留した湿し水の水面より上側に給水口を有する給水経路を設けた構成としている。
具体的には、この第2の水舟では、前記水舟本体に横方向に延びるように配設した前記給水ローラの軸心と略平行に位置するように、前記水舟本体の横方向両側の側壁間にかけて延びるとともに、上端が上向きに延びる給水用仕切壁を設け、該給水用仕切壁と前記水舟本体の外側壁とで前記給水経路を構成することが好ましい。
【0013】
この第2の水舟では、水舟本体内に形成した給水経路の給水口を、貯留した湿し水の水面より上側に位置させている。そのため、湿し水は、給水経路の給水口からオーバーフローするようにして水舟本体に供給される。そして、前記給水経路は、水舟本体内を給水ローラに対して略平行に位置するように設けた給水用仕切壁と、水舟本体の外側壁とで構成している。その結果、湿し水は、水舟本体において長手方向を区画した給水用仕切壁の上端縁からオーバーフローして供給されることになる。これにより、前記と同様に、水舟本体の全領域にかけて水流の偏りをなくすことができ、湿し水が澱む領域が発生することを防止できる。そのため、第1の水舟と同様に、湿し水の温度を均一化でき、印刷品質が低下することを防止できる。また、異物の堆積による湿し水の劣化を防止できる。
【0014】
第2の水舟では、前記給水用仕切壁は、前記給水口を構成する上端が前記水舟本体における縦方向一端の側壁の側に位置し、下端が水舟本体の縦方向他端の側壁に延びるもので、前記給水用仕切壁と底壁との間に、横方向全体にかけて縦方向への水流を均一化するための導水路を構成させる壁を設けることが好ましい。このようにすれば、給水経路への給水圧力による影響をなくすことができるため、オーバーフローによる給水を確実に均一化できる。
【0015】
また、これら第1および第2の水舟では、前記水舟本体における前記給水口と縦方向反対側に、前記循環供給装置の排水側に接続する排水用接続部を設けるとともに、該排水用接続部と前記給水ローラとの間に横方向両側の側壁間にかけて延びる排水用仕切壁を設けることが好ましい。このようにすれば、水舟本体内での湿し水の水流は一方向のみとなり、しかも、オーバーフローにより均一に排水されるため、更に水流の安定化を図ることができる。
この場合、前記仕切壁の上端に複数の切欠部を設けることが好ましい。このようにすれば、表面張力の発生に伴う水流の偏りを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のオフセット印刷機の水舟では、水舟本体の全領域にかけて水流の偏りをなくすことができるため、湿し水が澱む領域が発生することを防止できる。そのため、水舟内での湿し水の温度を均一化でき、印刷品質が低下することを防止できる。また、異物の堆積による湿し水の劣化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1から図3は、本発明の第1実施形態に係るオフセット印刷機の水舟20を示す。この水舟20は、従来と同様に、刷版2にインキを供給するインキ供給手段と、前記刷版2の非画線部に湿し水を供給する給水ローラ7,8を有する湿し水供給手段とを備えたオフセット印刷機に配設されるもので、図1および図2(A),(B)に示すように、大略、水舟本体21と、該水舟本体21内に配設される給水管27とからなる。
【0019】
前記水舟本体21は、図8に示す下端のクロムローラ8より長尺な上端開口の皿状をなすものである。具体的には、この水舟本体21の底壁22は、長手(横)方向の一側である縦方向の上側が上向きに傾斜した形状をなし、この底壁22の外周縁にそれぞれ垂直に延びる側壁23a〜23dが立設されている。この水舟本体21には、前記底壁22の傾斜部22aを設けた縦方向上側(側壁23aの側)に後述する給水管27が配設され、対向する縦方向下側(側壁23bの側)に循環供給装置の排水側である中間タンク10への接続パイプ18を接続する排水用接続部24が設けられている。そして、本実施形態では、この排水用接続部24とクロムローラ8との間に位置するように、横方向の両側壁23c,23dにかけて内部を仕切る排水用仕切壁25が設けられている。この排水用仕切壁25は、底壁22の水平部分に対して垂直に立設されており、その上端には長手方向に所定間隔をもって凹状に窪む切欠部26が設けられている。
【0020】
前記給水管27は、両端を閉塞した中空パイプからなり、前記水舟本体21の側壁23aの近傍において側壁23c,23dにかけてクロムローラ8の軸心と平行に延びるように配設される。この給水管27には、一端近傍に循環供給装置の給水側である冷却循環タンク11への接続パイプ19に接続する給水用接続部28が設けられている。また、この給水管27には、長手(横)方向に所定間隔をもって複数の給水口29a〜29dが設けられている。ここで、前記給水用接続部28を形成する端部は、循環供給装置との接続作業性などを考慮して、前記排水用接続部24と長手方向に対して同一の側に位置するように設定されている。
【0021】
本実施形態では、図3に示すように、給水管27において、等間隔で位置する18カ所を給水口形成対象位置とし、前記給水用接続部28からの距離に従って変動する水圧に基づいて給水口29a〜29dの口径d(開口面積)を異ならせている。具体的には、前記給水用接続部28の形成位置に相当する形成対象位置は、給水口の口径を0として形成せず、他の形成対象位置に17個設けている。そして、給水用接続部28の形成位置の近傍で、かつ、該給水用接続部28の形成端部と逆側、即ち、給水管27における閉鎖端まで距離が離れている側に位置する1個の第1給水口29aは、その開口面積を意味する口径をd1としている。この第1給水口29aより給水用接続部28から離れて位置する6個の第2給水口29bは、その口径d2を第1給水口29aの口径d1より大きく形成している。また、この第2給水口29bより給水用接続部28から更に離れて位置する9個の第3給水口29cは、その口径d3を第2給水口29bの口径d2より更に大きく形成している。一方、給水用接続部28の形成位置の近傍で、かつ、給水管27の閉鎖端部に近い1個の第4給水口29dは、その口径d4を第1給水口29aの口径d1より更に小さく形成している。即ち、給水管27の全長に対する給水用接続部28の位置、該給水用接続部28からの距離、および、給水管27の閉鎖端までの距離の3つの要素を加味して各給水口29a〜29dの口径を設定している。
【0022】
このようにした水舟20は、従来と同様に、前記給水用接続部28に湿し水の循環供給装置を構成する冷却循環タンク11が接続パイプ19によって接続され、排水用接続部24に中間タンク10が接続パイプ18によって接続される。また、給水ローラであるクロムローラ8の一部が貯留した湿し水に浸漬されるように配置される。そして、冷却循環タンク11から所定水温の湿し水が供給されると、前記給水管27からは、長手方向に複数設けた給水口29a〜29dから、略同一の給水量で湿し水が吐出される。
【0023】
具体的には、口径が異なる複数の給水口29a〜29dを形成した給水管27から吐出される湿し水は、各給水口29a〜29dでの水圧が同一圧力である場合には、給水用接続部28の近傍に位置する口径が小さい第1給水口29aからの水量が少なく、給水用接続部28から離れて位置する口径が大きい第2給水口29bからの水量が多くなり、更に離れて位置する口径が更に大きい第3給水口29cからの水量は更に多くなる。一方、給水用接続部28の近傍で、かつ、閉鎖端の近傍に位置する最も口径が小さい第4給水口29dからの水量は、第1給水口29aより更に少なくなる。
【0024】
しかし、前記給水管27では、実際には給水用接続部28の側の水圧が高く、給水用接続部28から離れた側の水圧が低くなる。また、給水用接続部28の近傍で、かつ、閉鎖端の近傍である場合には水圧が一層高くなる。そして、本実施形態では、これらの要因により異なる水圧に基づいて各箇所での開口面積を異ならせているため、給水管27の全長にかけて略同一の給水量で水舟本体21に対して湿し水を供給することができる。その結果、水舟本体21の全領域にかけて水流の偏りをなくすことができる。
【0025】
また、本実施形態では、前記水舟本体21における前記給水口29a〜29dと縦方向の反対側に位置するように排水用接続部24を設け、該排水用接続部24とローラ8との間に排水用仕切壁25を設けることにより、水流を一方向とし、かつ、オーバーフローにより排水されるように構成している。しかも、この排水用仕切壁25には切欠部26を設けることにより、表面張力の発生に伴う水流の偏りを防止できるように構成している。そのため、更に水流の安定化を図ることができる。
【0026】
そのため、水舟本体21内では、湿し水が澱む領域が発生することを防止できる。その結果、ローラ8を駆動するためのモータや冷却循環タンク11の熱交換器の熱の影響で湿し水が部分的に暖められ、湿し水が部分的に温度が高くなることを防止できる。よって、クロムローラ8への給水量の均一化を図ることができるため、印刷品質が低下することを防止できる。また、ローラ7,8に付着してきた異物が堆積することを防止できるため、湿し水の劣化を防止できる。
【0027】
図4から図6は、本発明の第2実施形態に係るオフセット印刷機の水舟30を示す。この水舟30は、第1実施形態と同様のオフセット印刷機に配設されるもので、図4および図5(A),(B)に示すように、大略、水舟本体31に、該水舟本体31内にオーバーフローにより湿し水を供給する給水経路39を設けたものである。
【0028】
具体的には、水舟本体31は、第1実施形態と同様に、クロムローラ8より長尺な上端開口の皿状をなすものである。この水舟本体31の底壁32は、横方向の一側である縦方向上側が上向きに傾斜した形状をなし、この底壁32の外周縁にそれぞれ垂直に延びる側壁33a〜33dが立設されている。また、この水舟本体31は、前記底壁32と所定間隔をもって、側壁33c,33dにかけて延びる仕切壁34が設けられ、この仕切壁34により上部の貯水部35と下部の給水経路39とに区画されている。
【0029】
前記貯水部35において、後述する給水経路39の給水口40を形成する縦方向一端側(側壁33aの側)と反対の他端側(側壁33bの側)には、循環供給装置の排水側である中間タンク10への接続パイプ18を接続する排水用接続部36が設けられている。そして、この排水用接続部36とクロムローラ8との間に位置するように、横方向の両側壁33c,33dにかけて内部を仕切る排水用仕切壁37が設けられている。この排水用仕切壁34は、貯水部35の底である仕切壁34に対して垂直に立設されており、その上端には長手方向に所定間隔をもって凹状に窪む切欠部38が設けられている。
【0030】
前記給水経路39は、前記給水用仕切壁34、底壁32および側壁33a〜33dの一部により構成され、前記給水用仕切壁34の上端が給水口40を構成する。言い換えれば、この給水経路39は、給水口40を構成する給水用仕切壁34の上端を水舟本体31における縦方向一端の側壁33aの側に位置させ、下端を水舟本体31の縦方向他端の側壁33bにかけて延びるように設けることにより形成されている。そして、前記水舟本体31の側壁33bにおいて、この給水経路39と対応する位置には、循環供給装置の冷却循環タンク11への接続パイプ19に接続する給水用接続部41が設けられている。ここで、前記給水用接続部41を形成する位置は、循環供給装置との接続作業性などを考慮して、前記排水用接続部36と横方向に対して同一の側に位置するように設定されている。
【0031】
前記給水口40は、前記給水用仕切壁34により、水舟本体31内に配置するクロムローラ8の軸心と平行に延びるとともに、水舟本体31の貯水部35内に貯留した湿し水の水面に相当する前記排水用仕切壁34の切欠部38の底面より上側に位置するように構成されている。また、本実施形態では、この給水口40を構成する給水用仕切壁34の上端には、長手方向に所定間隔をもって凹状に窪む切欠部42が設けられている。勿論、この切欠部42の底面は、切欠部38の底面より高い位置に設定されている。
【0032】
さらに、本実施形態では、給水用仕切壁34と底壁32との間には、図6(A)に示すように、横方向全体にかけて給水口40への縦方向への水流を均一化するための導水路を構成させる整流壁43が設けられている。言い換えれば、給水用仕切壁34と底壁32との間には、横方向に所定間隔をもって複数の整流壁43を設けるとともに、その整流壁43による列を縦方向に所定間隔をもって2列43A,43B設けることにより、隣接する整流壁43,43間の隙間により導水路を形成している。なお、平行に位置する整流壁列43A,43Bは、互いの整流壁43が千鳥足状をなすように位相配置されている。
【0033】
このようにした水舟30は、従来と同様に、前記給水用接続部41に湿し水の循環供給装置を構成する冷却循環タンク11が接続パイプ19によって接続され、排水用接続部36に中間タンク10が接続パイプ18によって接続される。また、給水ローラであるクロムローラ8の一部が貯留した湿し水に浸漬されるように配置される。そして、冷却循環タンク11から所定水温の湿し水が供給されると、壁32,33a〜33d,34によって区画された前記給水経路39内では、整流壁43により給水口40に至るまでの流量が安定化され、横方向に延びる給水口40(給水用仕切壁34の上端縁)から貯水部35に、オーバーフローにより全長にかけて均一に湿し水が供給される。
【0034】
また、この第2実施形態では、第1実施形態と同様に、前記水舟本体31における給水口40と反対側に位置するように排水用接続部36を設け、該排水用接続部36と給水ローラとの間に排水用仕切壁34を設けることにより、水流を一方向とし、かつ、オーバーフローにより排水されるように構成している。しかも、給水用仕切壁34および排水用仕切壁34には切欠部38,42を設けることにより、表面張力の発生に伴う水流の偏りを防止できるように構成している。そのため、更に水流の安定化を図ることができる。
【0035】
そのため、水舟本体31内では、湿し水が澱む領域が発生することを防止できる。その結果、ローラ8を駆動するためのモータや冷却循環タンク11の熱交換器の熱の影響で湿し水が部分的に暖められ、湿し水が部分的に温度が高くなることを防止できる。よって、クロムローラ8への給水量の均一化を図ることができるため、印刷品質が低下することを防止できる。また、ローラ7,8に付着してきた異物が堆積することを防止できるため、湿し水の劣化を防止できる。
【0036】
本発明者らは、前記第1実施形態に示す第1発明品と図9の従来例に示す比較品、および、第2実施形態に示す第2発明品と図9の従来例に示す比較品とを実験により比較し、第1発明品と第2発明品の効果を確認した。この実験は、水舟本体9,21,31において、横方向の両端と中央で、かつ、縦方向の略中央のクロムローラ8の下部にそれぞれ温度センサを配設し、各部位での温度を比較するものである。なお、これらの実験において、冷却循環タンク11からの湿し水の供給温度は約10℃で、その流速は1.5リットル/分である。また、温度の検出は、給水開始から1時間後で、印刷機は通常の可動で行っている。さらに、この実験において、第1実施形態に示す給水管27の給水口29a〜29dは以下の表1のようにしている。
【0037】
【表1】

【0038】
この表1に示すように、給水口29a〜29dの形成対象位置は前記第1実施形態のように18カ所とし、図3に示すように一端から他端に向けて(1)〜(18)の番号を付している。そして、給水用接続部28に最も近い形成対象位置(2)では、口径を0.0mmとして給水口は形成していない。また、形成対象位置(3)である第1給水口29aは口径d1を1.5mm、形成対象位置(4)〜(9)である第2給水口29bは口径d2を1.6mm、形成対象位置(10)〜(18)である第3給水口29cは口径d3を1.7mm、形成対象位置(1)である第4給水口29dは口径d4を1.0mmとしている。
【0039】
第1実施形態に示す第1発明品と従来例に示す比較品での実験結果を以下に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
まず、この表2において、右側とは、前記排水用接続部24および給水用接続部28が位置するとともに、クロムローラ8の駆動モータや冷却循環タンク11の熱交換器が位置する側である。この表2に示すように、3回の実験を行った結果、比較品は、右側より中央の温度が高く、中央より左側の温度が更に高くなる傾向にあり、湿し水の供給圧力が低くなる左側になるに従って水流に偏りが生じていることが解る。これに対して、第1発明品は、左右および中央の温度差が最大で0.2℃であり、水舟本体21内において、全領域にかけて水流の偏りはなく、湿し水が滞留するような澱みは生じていないと言える。
【0042】
第2実施形態に示す第2発明品と従来例に示す比較品での実験結果を以下に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
この表3は、表2と同様に、右側とは、前記排水用接続部36および給水用接続部41が位置するとともに、クロムローラ8の駆動モータや冷却循環タンク11の熱交換器が位置する側である。この表3に示すように、3回の実験を行った結果、比較品は、前記と同様に、右側より中央の温度が高く、中央より左側の温度が更に高くなる傾向にあり、湿し水の供給圧力が低くなる左側になるに従って水流に偏りが生じていることが解る。これに対して、第2発明品は、左右および中央の温度差が最大で0.2℃であり、水舟本体31内において、全領域にかけて水流の偏りはなく、湿し水が滞留するような澱みは生じていないと言える。
【0045】
なお、本発明のオフセット印刷機の水舟20,30は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、前記各実施形態では、排水用仕切壁25,37を水舟本体21,31の底に対して垂直に突設したが、該排水用仕切壁25,37の上端を湿し水の水流に対して下流側(排水用接続部24,36の側)に傾斜させて設けてもよい。このようにすれば、排水用仕切壁25,37と水舟本体21,31の底との隅部に湿し水の澱みが生じることを防止できる。
【0047】
また、第1実施形態では、口径0mmを含めると5種の給水口29a〜29dを設けたが、少なくとも異なる2種の口径の給水口を設ければよい。勿論、所定間隔をもって形成する給水口の全てを、給水用接続部28に対する位置(距離)を加味して変更してもよい。しかも、給水口29a〜29dの形状は円形に限られず、希望に応じて変更が可能であり、その開口面積を給水用接続部28から離れるに従って大きく構成すればよい。
【0048】
さらに、第2実施形態では、平行な整流壁43の列43A,43Bにより導水路を構成したが、1列だけで構成してもよいうえ、3列以上で構成してもよい。また、図6(B)に示すように、端部(側壁33d)近傍に設けた給水用接続部41から中央に旋回させ、その中央部分から縦方向両側に広がるように区画壁44を設けることにより導水路を形成してもよい。この場合でも給水経路39内において、横方向全体にかけて給水口40への縦方向への水流を確実に均一化することができる。
【0049】
また、第2実施形態では、横方向にかけて延びる給水用仕切壁34の上端により給水経路39を区画し、かつ、給水口40を構成させたが、図7に示すように、貯水部35と給水経路39とを仕切る仕切壁34を側壁33aに連続させることにより閉鎖し、この仕切壁33aに対して横方向に所定間隔をもってパイプ部材45を垂直に設け、このパイプ部材45の上端開口を給水口としてもよい。勿論、給水経路39は、仕切壁34により区画することなく、パイプ部材を直接配管することにより構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1実施形態のオフセット印刷機の水舟を示す斜視図である。
【図2】(A)は第1実施形態の水舟の平面図、(B)は断面図である。
【図3】給水管を示す正面図である。
【図4】第2実施形態のオフセット印刷機の水舟を示す斜視図である。
【図5】(A)は第2実施形態の水舟の平面図、(B)は断面図である。
【図6】(A)は給水経路内の導水路の構成を示す平面図、(B)は導水路の変形例を示す平面図である。
【図7】第2実施形態の水舟の変形例を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図8】オフセット印刷機および湿し水循環供給装置の構成を示す概略図である。
【図9】従来の水舟を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【符号の説明】
【0051】
2…刷版
4…小径インキローラ群(インキ供給手段)
6…給水ゴムローラ群(湿し水供給手段)
10…中間タンク(湿し水循環供給装置)
11…冷却循環タンク(湿し水循環供給装置)
20…水舟
21…水舟本体
24…排水用接続部
25…排水用仕切壁
26…切欠部
27…給水管
28…給水用接続部
29a〜29d…給水口
30…水舟
31…水舟本体
34…仕切壁
35…貯水部
36…排水用接続部
37…排水用仕切壁
38…切欠部
39…給水経路
40…給水口
41…給水用接続部
42…切欠部
43,44…壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刷版にインキを供給するインキ供給手段と、前記刷版の非画線部に湿し水を供給する給水ローラを有する湿し水供給手段とを備えたオフセット印刷機に配設され、前記給水ローラの一部を浸漬させる湿し水が循環供給装置により循環供給される水舟において、
前記循環供給装置の排水側に接続した皿状の水舟本体と、前記循環供給装置の給水側に接続されるとともに前記水舟本体に横方向に延びるように配設した前記給水ローラと略平行に配設される給水管とを備え、
前記給水管には、前記循環供給装置に接続する給水用接続部を設けるとともに、前記給水ローラの軸心に略沿った横方向に複数の給水口を設け、
前記給水口は、前記給水管の横方向において、前記給水用接続部の近傍に位置する第1給水口、および、前記給水用接続部から第1給水口より離れて位置し前記第1給水口より開口面積が大きい第2給水口の少なくとも2種有することを特徴とするオフセット印刷機の水舟。
【請求項2】
刷版にインキを供給するインキ供給手段と、前記刷版の非画線部に湿し水を供給する給水ローラを有する湿し水供給手段とを備えたオフセット印刷機に配設され、前記給水ローラの一部を浸漬させる湿し水が循環供給装置により循環供給される水舟において、
前記循環供給装置の排水側に接続した皿状の水舟本体を設け、該水舟本体内に、前記循環供給装置の給水側に接続されるとともに前記水舟本体内に貯留した湿し水の水面より上側に給水口を有する給水経路を設けたことを特徴とするオフセット印刷機の水舟。
【請求項3】
前記水舟本体に横方向に延びるように配設した前記給水ローラの軸心と略平行に位置するように、前記水舟本体の横方向両側の側壁間にかけて延びるとともに、上端が上向きに延びる給水用仕切壁を設け、該給水用仕切壁と前記水舟本体の外側壁とで前記給水経路を構成することを特徴とする請求項2に記載のオフセット印刷機の水舟。
【請求項4】
前記給水用仕切壁は、前記給水口を構成する上端が前記水舟本体における縦方向一端の側壁の側に位置し、下端が水舟本体の縦方向他端の側壁に延びるもので、
前記給水用仕切壁と底壁との間に、横方向全体にかけて縦方向への水流を均一化するための導水路を構成させる壁を設けたことを特徴とする請求項3に記載のオフセット印刷機の水舟。
【請求項5】
前記水舟本体における前記給水口と縦方向反対側に、前記循環供給装置の排水側に接続する排水用接続部を設けるとともに、該排水用接続部と前記給水ローラとの間に横方向両側の側壁間にかけて延びる排水用仕切壁を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のオフセット印刷機の水舟。
【請求項6】
前記仕切壁の上端に複数の切欠部を設けたことを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載のオフセット印刷機の水舟。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−289617(P2006−289617A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108945(P2005−108945)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(390003344)株式会社加貫ローラ製作所 (9)
【Fターム(参考)】