説明

オフセット印刷用インキおよびそれを用いた印刷物

【課題】本発明は、特定のカーボンブラックを使用した印刷インキによって非塗工紙および微塗工紙のような低密度の用紙に、安定した印刷適性と紙面品質を提供するため、耐刷性等の印刷適性は同等に保ちながら、従来使用しているインキ用カラーカーボンブラックよりも青味で且つドライダウン抑制を具備させたオフセット印刷用インキおよび印刷物の提供。
【解決手段】ジブチルフタレート(DBP)吸油量80〜140(cm/100g)、よう素吸着量30〜100(m/g)ならびに鉄および亜鉛の合計含有量60ppm以下であるカーボンブラック、樹脂ならびに溶剤を含有することを特徴とするオフセット印刷用インキ及び印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非塗工紙および微塗工紙等の低密度の用紙に、印刷するためのオフセット印刷用インキに係り、さらにそれを用いて印刷される印刷物に関する。さらに詳しくは、オフセット印刷用墨インキにおいて、タイヤ及びゴム用に用いられる特定のカーボンブラックを用いると、従来の印刷インキ用途で使用されているカラー用カーボンブラックよりも、青味を有し、ドライダウンを抑制させた優れたオフセット印刷用インキおよび印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷用墨インキでは、顔料としてカーボンブラックが用いられるのが一般的である。オフセット印刷では印刷後の紙上におけるインキ膜厚が薄くなるため、印刷濃度を確保するためにカーボンブラックの配合率が通常15〜25%と高い。また、印刷画線の色相は赤味あるいは黄味がかった色相を呈するが、この色相は印刷インキとしては好まれず、色相を青味に調整するために高価な青色顔料あるいは染料を添加させてコントロールしている(非特許文献1、2)。
【0003】
オフセット印刷用墨インキでは、顔料としてカーボンブラックを用いるのが一般的である。カーボンブラックは一次(基本)粒子と呼ばれる球状のカーボン粒子が融着し、連鎖状あるいは不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集形態を示しており、ぶどうの房に例えられる凝集体を形成している。この凝集体をアグリゲートと呼び、このアグリゲートを形成している一次粒子の融着の程度をストラクチャーと呼んでいる。インキビヒクル中にカーボンブラックを分散させた場合においては、アグリゲートよりも細かく分散することは不可能とされている(非特許文献2、3)。
【0004】
オフセット印刷の中でも高品質を要求されるインキでは高い光沢を要求されるため、インキを薄膜とした場合にもインキ膜表面の平滑度を高くするためにアグリゲート径が小さいカーボンブラックが選択される。しかし、非塗工紙および微塗工紙といった低密度の用紙に対して印刷を行うインキにおいては、カーボンブラックがインキビヒクルとともに用紙の内部に沈み込んでしまい印刷濃度が維持できないため、アグリゲート径の大きいカーボンブラックを選択する必要がある(非特許文献3)。
【0005】
球状のカーボン粒子がぶどう状に連なっているカーボンブラックの構造から考えた場合、アグリゲート径の大きいカーボンブラックを選択するには、一次粒子径およびストラクチャーに着目すればよい(非特許文献3)。すなわち、一次粒子径およびストラクチャーを大きくすれば、アグリゲート径が結果として大きくなり、黒色度が高いオフセット印刷が可能となる。
【0006】
一次粒子を大きくした場合、ストラクチャーが同一であってもアグリゲート径は相対的に大きくなる。一次粒子径の大きさは、窒素吸着法やよう素吸着法で測定されるカーボンブラックの比表面積により評価することができる。これら吸着法により測定された比表面積は、一次粒子径とほぼ反比例の関係であり、一次粒子径が大きい場合には、比表面積は小さくなる。しかしながら、一次粒子径が大きい、すなわち、比表面積の小さいカーボンブラックを用いたインキで印刷を行った場合、印刷画線の色相は良好な青味色相を呈するが、その一方、ドライダウンと呼ばれるインキが乾燥していく過程で印刷濃度が低下して印刷直後と乾燥後で画線の印刷濃度に差が生じる現象の程度が大きく、乾燥後の印刷物において黒色度の不足が問題となりやすい(非特許文献3)。
【0007】
このドライダウンを防ぐ目的で、基材である紙の加工を行う方法、例えば、特開平6−192996号公報、特開平10−131089号公報、特開2002−327393号公報等に開示されているが、何れもドライダウンには、効果があると思われるが、特殊な紙基材であり、生産性、コストにおいて実用的ではない。
【0008】
また、ストラクチャーを大きくすると、一次粒子径が同一であってもアグリゲート径は相対的に大きくなる。ストラクチャーの大きさは、フタル酸ジブチル(本発明において、DBPと略す。)吸油量測定法により評価することができる。すなわち、ストラクチャーが大きいとDBP吸油量は大きくなる。DBP吸油量の高いカーボンを用いたインキで印刷を行った場合、ドライダウンが少なくなり、乾燥後の印刷物でも良好な印刷濃度を維持できるためインキの品質としては、有利である。しかし、DBP吸油量の高いカーボンを使用する場合には、印刷画線の色相が黄味色相を呈するため、色相を青味とするために高価な青色顔料または染料を添加しなければならずコストを上昇させる要因となっている。そのため、カーボンブラックに代わる特殊な黒色顔料を使用する方法が、特開2002−265837号公報に開示されているが、カーボンブラックに比較して高価であり、実用性が乏しい。
【0009】
これらの問題を解消する手段のひとつとして、粒子径の大きいカーボンブラックとストラクチャーの大きいカーボンブラックを併用して用いられることがある(例えば、特開平7−18200号公報実施例2)が、大量に生産を行う場合にカーボンブラック用のサイロが複数必要であり、計量作業が煩雑になる等、印刷インキ生産における設備面や工程上の負荷が必要となる。
【0010】
また、粒子径およびストラクチャーの双方を大きいカーボンを使用した場合は、アグリゲート径が大きくなりすぎるため、印刷画線におけるインキ膜厚の薄いオフセット印刷においては必要な分散性を維持できず、また、著しい光沢の劣化や印刷時に版やガイドローラー等にカーボン粒子が堆積する問題が発生するため好ましくない。
【0011】
さらに、特開平7−18200号公報および特開平8−176463号公報には、印刷インキ用カーボンブラックが開示されており、しかもこの印刷インキ用のカーボンブラックを使用した平版新聞オフセット輪転インキの調製を行っているが、この特開平7−18200号公報および特開平8−176463号公報には、インキに必要な樹脂成分として「樹脂ワニス」としか記述がなく、実質的に印刷用インキおよびその製造方法さらに製造された印刷インキにより形成された印刷物について、何ら開示されておらず、開示されているインキ適性等に疑義が持たれる。
【0012】
また、特開平11−349311号公報には、多環芳香族成分含有量が少ない鉱物油に分散性の良好なカーボンブラックが開示されているが、インキを製造した場合に単純にこのような鉱物油に分散性が良いだけでは、インキとしての物性が良いとは限らない。
さらに、本発明のような墨顔料としてカーボンブラックを、樹脂ワニスとしてロジン変性フェノール樹脂を使用した例としては、以下の例が挙げられる。
【0013】
すなわち、特開平9−25444号公報には、墨顔料としてカーボンブラックを、樹脂ワニスとしてロジン変性フェノール樹脂を使用し、さらに、顔料分散剤を用いたオフセット印刷用墨インキ組成物を用いる例が、開示されている。しかしながら、印刷インキの安定性(分散性)は、向上するが、単純にカーボンブラックを選定するだけでは、高品質の印刷物を得ることができない。
【0014】
また、特開2004−269572号公報には、特定の物性を有するカーボンブラックおよび樹脂ワニスにより製造される印刷インキが開示されているが、カーボンブラックの物性としてDBP吸収量(吸油量)が、30〜65(cm/100g)であると規定されているが、DBP吸油量が80(cm/100g)以下である場合に、非塗工紙または微塗工紙に印刷すると、ドライダウンが大きく、印刷後の黒色度不足が起こる可能性がある。
【0015】
さらに、特開2004−107585号公報には、特定の物性を有するカーボンブラックおよび樹脂ワニスから製造されるインキ組成物が、開示されている。しかしながら、樹脂ワニスとして、ロジン変性フェノール樹脂が、開示されているものの、DBP吸油量および粒子径だけでは、高品質を要求されるインキとしては使用できず、しかも、開示されている粒子径では、非塗工紙または微塗工紙に印刷した場合に、印刷濃度が維持できない。
【0016】
また、特開2002−322407号公報、特開2002−322408号公報、特開2002−327143号公報には、カーボンブラックと常温で固体の樹脂ワニスとを予め乾式粉砕を行い、溶剤等を加えて混合して製造する方法が開示されている。しかも、特定のカーボンブラックを使用することが記載されているが、これらのカーボンを使用し、この製造方法を行った場合には、ストラクチャーが破壊され、非塗工紙または微塗工紙等の低級紙用途としては、適切ではない。
【0017】
一般に、カーボンブラックは、アグリゲート径が小さいほど黒色度が高くなるが、アグリゲート径が小さくなるほど流動性が悪くなる。そのため、特開2001−72912号公報には、アミノシランによるカーボンブラックの表面処理方法が開示されているが、カーボンブラックの分散性は向上するが、インキの乾燥性は低下する問題がある。
【0018】
さらに、特開2001−192584号公報には、表面処理を行わずに、表面酸化処理したカーボンブラックの欠点である乾燥性に劣るという点を改善した表面処理を行わないで、カーボンブラックを製造する方法および印刷インキ組成物が開示されている。しかしながら、製造されているカーボンブラックのDBP吸油量がすべて80(cm/100g)以下であり、この場合に、非塗工紙または微塗工紙に印刷すると、ドライダウンが大きく、印刷後の黒色度不足が起こる可能性がある。
【0019】
カーボンブラックはグリッドと呼ばれるカーボンブラック生成に発生するコークス粒や炉の剥離片、熱交換機等の装置からくる鉄錆類等の異物が入っている。異物除去としてミクロンセパレーターを用いて除去されているが、ゴム用カーボンブラックは非ゴム用カーボンブラック(カラー用カーボンブラック)に較べて、グリッド量が多い。グリッド成分が多いと、印刷時の着肉劣化や、版の画線部を削ってしまう耐摩擦性の問題が発生し、印刷インキ用として使用できない。さらに、これらの金属異物は、カーボンブラック生成中に発生するものであり、カーボン粒子細部に混入した際、除去することは難しい。このため、カーボンブラック中に含有する異物量をコントロールする必要があるが、これまで金属種、含有量、効果的な分析方法について議論されたことはない。特開2008−169309号公報には、造粒粒子の硬さ(JISK6219による測定法でゴム用カーボンブラックのビーズの硬さを示す)を規定しているが(3〜20cN)、この範囲のゴム用カーボンブラックを使用しても、上記耐刷性は解決できない。
【0020】
また、特開2006−282774号公報には、カーボンブラックの比着色力:80〜95(%)、DBP吸油量:80〜120(cm/100g)、窒素吸着比表面積:60〜120(m/g)を使用した青味色相を有するオフセット印刷用墨インキが開示されているが、青味色相に対して不十分である。
【0021】
現状では、カーボンブラック単独ではなく、高価な青色補色顔料を添加させ、黒色感を増長することで、印刷インキの色調をコントロールしているが、補色顔料による印刷インキのコストアップは大きい。そのため、補色顔料を添加すること無しに、青味色調を呈するカーボンブラックを使用したオフセット印刷用インキが求められており、非塗工紙および微塗工紙などの低密度用紙にオフセット印刷してなる印刷物および製造方法の開発が望まれている。それにより、高価な補色顔料の減量が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平6−192996号公報
【特許文献2】特開平10−131089号公報
【特許文献3】特開2002−327393号公報
【特許文献4】特開2002−265837号公報
【特許文献5】特開平7−18200号公報
【特許文献6】特開平8−176463号公報
【特許文献7】特開平11−349311号公報
【特許文献8】特開平9−25444号公報
【特許文献9】特開2004−269572号公報
【特許文献10】特開2004−107585号公報
【特許文献11】特開2002−322407号公報
【特許文献12】特開2002−322408号公報
【特許文献13】特開2002−327143号公報
【特許文献14】特開2001−72912号公報
【特許文献15】特開2001−192584号公報
【特許文献16】特開2006−282774号公報
【特許文献17】特開2008−169309号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】「印刷と紙2000」平成12年3月5日発行、発行所紙業タイム ス社
【非特許文献2】「カーボンブラック年鑑No.58(2008)」 カーボンブ ラック協会編
【非特許文献3】「カーボンブラック便覧」平成7年4月15日、第三版、編集発行 者カーボンブラック協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、非塗工紙および微塗工紙といった低密度の用紙にオフセット印刷してなる印刷物を提供することにあり、オフセット印刷用インキとして、カーボンブラックの配合量を多くし、インキ粘度を上昇することなく黒色感を維持し、且つ高価な補色顔料を添加することなく、特定のカーボンブラックを含有させることで、青味色調を有し、ドライダウンを抑制したオフセット印刷用インキ、およびこのオフセット印刷用インキにより印刷してなる印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のカーボンブラック、ロジン変性フェノールおよび溶剤を含有させたオフセット印刷用インキは、高価な補色顔料を添加することなく、青味色調を有し、ドライダウンを抑制させることを見出し、本発明に至った。
【0026】
すなわち、本発明は、
ジブチルフタレート(DBP)吸油量80〜140(cm3/100g)、
よう素吸着量30〜100(m2/g)
ならびに
鉄および亜鉛の合計含有量60ppm以下
である
カーボンブラック、
樹脂
ならびに
溶剤
を含有することを特徴とするオフセット印刷用インキに関するものである。
【0027】
また、本発明は、樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂およびアルキッド樹脂から選ばれる一種類以上であることを特徴とする上記のオフセット印刷用インキに関するものである。
【0028】
さらに、本発明は、ロジン変性フェノール樹脂が、重量平均分子量20,000〜300,000であることを特徴とする上記のオフセット印刷用インキに関するものである。
【0029】
また、本発明は、溶剤が、石油系溶剤および植物油類から選ばれる一種類以上であることを特徴とする上記のオフセット印刷用インキに関するものである。
さらに、本発明は、石油系溶剤が、アニリン点65〜110℃であることを特徴とする上記のオフセット印刷用インキに関するものである。
【0030】
また、本発明は、オフセット印刷用インキが、浸透乾燥型であることを特徴とする上記のオフセット印刷用インキに関するものである。
さらに、本発明は、上記のオフセット印刷用インキを非塗工紙または微塗工紙に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって、青味色相を有し、且つドライダウンを抑制させたオフセット印刷用インキを得ることができる。すなわち、本発明の特定のカーボンブラックを含有するオフセット印刷用インキは、補色顔料を添加すること無しに、青味色調を有し、且つドライダウンを抑制させることから、高価な補色顔料の含有量を、低減あるいは含有させる必要がなくなることが可能となった。しかも、本発明のオフセット印刷用インキは、非塗工紙および微塗工紙などの低密度用紙にも適用可能で、さらにはドライダウンが抑制されることから安定で品質の高い印刷物を提供できることが可能となり、本発明の工業的価値は、甚大である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
【0033】
本発明に係わる第一の必須成分であるカーボンブラックは、一般にタイヤやゴム用途で使用されるゴム用カーボンブラック(非特許文献2、3)と呼ばれるもの中で、以下説明する物性を有するカーボンブラックを使用しており、従来から印刷インキ用で使用されてきた、非ゴム用カーボンブラック(一般にカラー用カーボンブラックと呼ばれている)とは異なる。
【0034】
カーボンブラックの需要は(供給ベース)、2007年度実績で約91万トン/年である。そのうちゴム用カーボンブラックは約95%の86万トン/年で、印刷インキ用で使用される非ゴム用カーボンブラックは約5%の5万トン/年となっており、圧倒的にゴム用カーボンブラックの供給量が多い。このゴム用カーボンブラックの内、特定の物性を有するものを印刷インキ用に使用すると優れたオフセット印刷用インキが製造できる。
【0035】
本発明に係わるゴム用カーボンブラックにおいて必要な物性は、第一にDBP吸油量(ASTM D−2414に準拠して測定)が80〜140(cm/100g)の範囲にあることが必要である。さらに好ましくは、90〜130(cm/100g)、より好ましくは95〜125(cm/100g)であることが必要である。低密度の用紙に対して印刷を行なうインキの場合、DBP吸油量が80(cm/100g)より小さいとドライダウンが大きく印刷後の黒色度不足による紙面品質劣化が起こる可能がある。また、DBP吸油量が140(cm/100g)より大きいとインキの流動性が著しく低下し、良好な分散性が得られない。
【0036】
さらに、本発明のカーボンブラックの特性として、よう素吸着量(ASTM D−1510に準拠して測定)が30〜100(m2/g)の範囲にあることが必要であり、好ましくは40〜95(m2/g)、より好ましくは45〜90(m2/g)であることが必要である。よう素吸着量の物性値はゴム用カーボンブラックでは一般的である。このよう素吸着量は上述の通り、一次粒子径とほぼ反比例の関係にあり、数値が小さいと粒子径は大きくなり、さらにはアグリゲート径が大きくなることを示している。低密度の用紙に対して印刷を行なうインキの場合、アグリゲート径が大きいほど、すなわち、よう素吸着量が小さいほど、ドライダウンに対して有利であるが、よう素吸着量が30(m2/g)より小さくなるとアグリゲート径が大きすぎるため分散性が劣化し、耐摩擦性が悪くなる。また、よう素吸着量が100(m2/g)より大きくなるとアグリゲート径が小さくなるため、ドライダウンの問題が発生する。
【0037】
さらに、本発明のカーボンブラックのさらなる特性として、鉄及び亜鉛のカーボンブラック1g中の合計含有量が60μg(60ppm)以下であることが必要であり、少なければ少ないほど望ましい。
さらに、鉄及び亜鉛の含有量はどちらが多いかは関係なく、合計含有量が問題である。
【0038】
カーボンブラック中の金属含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析において測定される。
【0039】
また上述の通り、カーボンブラックは生成時に発生する炉の剥離片、熱交換機等の装置からくる鉄錆類等の異物が入っている。その異物が多いと、印刷時の着肉劣化や、版の画線部を削ってしまう耐摩擦性の問題が発生してしまい、十分な印刷物が得られない上、印刷機にダメージを与えるため、印刷用インキとして使用できない。その含有量と版磨耗性とは正比例関係があり、60ppmより多くなると、画線部が欠けてしまう版磨耗が発生してしまう。さらに、本発明のカーボンブラックの添加量としては、印刷インキ中10〜30重量%であることが好ましい。
【0040】
本発明で使用される樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂以外に、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂及び石油樹脂等は任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。樹脂の重量平均分子量としては、20,000〜300,000のものが好ましい。重量平均分子量20,000未満ではインキの粘弾性が不足し、300,000を超えるとインキとしての流動性が不充分となる。
【0041】
上記樹脂(ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド及び石油樹脂等)は、石油系溶剤および植物油類から選ばれる少なくとも一種である溶剤と、場合によってはアルミニウムキレート化合物のようなゲル化剤を添加して、190度程度で溶解してワニス化したものとして使用される。樹脂の添加量は印刷インキ組成物の全量に対して20%〜50重量%である。
【0042】
本発明における植物油類とは植物油並びに植物油由来の化合物であり、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセライドと、それらのトリグリセライドから飽和または不飽和アルコールとのエステル化反応からなる脂肪酸モノエステルが挙げられる。
【0043】
植物油として代表的ものは、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油などが挙げられる。特に大豆油、ヤシ油、アマニ油、菜種油が好ましい。
【0044】
本発明において、使用される植物油エステルとしては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油、菜種油等の植物油由来の脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、モノアルキルエステル化合物が挙げられ、モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基は、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキル基が例示できる。これら脂肪酸モノエステルは、単独で、または2種以上を組合わせて使用でき、本発明においては、植物油成分として、植物油、脂肪酸エステルをそれぞれ単独で用いてもよく、両者を併用しても良い。溶剤の添加量としては、インキ中10〜50重量%が好ましい。
【0045】
本発明で使用される石油系溶剤としては、パラフィン系、ナフテン系、及びこれらの混合溶剤であり、溶剤中の芳香族炭化水素の含有量が1重量%以下が好ましい。溶剤のアニリン点は65〜110℃が好ましい。アニリン点が110℃より高い溶剤を使用すると、インキ組成中の使用樹脂との溶解性が乏しいため、インキの流動性が不十分となり、レベリング不良から光沢のない印刷物しか得られない。また、65℃より低いアニリン点の溶剤を使用したインキでは、乾燥時のインキ皮膜からの溶剤の離脱性が悪く乾燥劣化を起こしてしまう場合がある。
【0046】
本発明においては、カーボンブラックをワニスに分散させる際に有機ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、シリカといったカーボンブラック以外の顔料を添加することも可能であり、添加を行っても同様の効果が得られる。
本発明で使用する他の助剤としては、分散剤、ゲル化剤、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦剤(ワックス)等の添加剤を適宜用いることができる
【0047】
本発明において、印刷する基材は、浸透乾燥型である本発明のオフセット印刷用インキの目的に合致すれば何でもよいが(溶剤が浸透するような基材)、紙、特に非塗工紙または微塗工紙、あるいは更紙のような浸透乾燥するような基材が、本発明の印刷する基材としては適している。
【実施例1】
【0048】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。ただし、本発明の範囲は、以下の実施例に何等限定されるものではない。なお、本発明において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「重量部」「重量%」を意味する。
【0049】
[ロジン変性フェノール樹脂ワニス製造例]
平均分子量80000、酸価20、軟化点165℃であるロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製)38.5部、大豆油30部、非芳香族系溶剤であるAFソルベント5号(新日本石油株式会社製、アニリン点88.2度)30部を仕込み、180℃に昇温させ、同温で30分間攪拌した後放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み180℃で30分間攪拌してロジン変性フェノール樹脂ワニスを得た。
【0050】
[ギルソナイト樹脂ワニス製造例]
ギルソナイトから抽出された軟化点120〜125℃の脂肪族系炭化水素樹脂(AMERICAN GILSONITE COMPANY製ER−125)42部、大豆油58部を仕込み、140℃で1時間加熱攪拌してギルソナイト樹脂ワニスを得た。
【0051】
[インキ製造例]
得られた樹脂ワニス、カーボンブラックおよび溶剤(AFソルベント6号(新日本石油株式会社製、アニリン点93.6℃)を表1の配合で三本ロールおよびミキサーを用いて混練混合し、実施例および比較例のインキを作製した。インキはタック値が東洋精器(株)製デジタルインコメーターにて、30℃、インキ1.32cc、400rpmの条件で3.5〜4.0になるよう調整した。
【0052】
【表1】

【0053】
本発明に使用したカーボンブラック(CB)の性状比較表を表2に示す
【0054】
【表2】

【0055】
CB1〜CB11はゴム用カーボンブラック。CB12はインキ用カラーカーボンブラック。
【0056】
鉄、及び亜鉛の含有量は、SII(株)社製 ICP発光分光分析装置SPS4000により測定した。
【0057】
[印刷評価試験]
上記実施例及び比較例のインキについて、下記印刷条件の下、単色ベタと網点(1〜100%の10%きざみ)印刷及び通常の文字印刷を行なった。
【0058】
[印刷条件]
印刷機 :LITHOPIA BT2−800 NEO(三菱重工(株))
用 紙 :新聞用紙更紙:超軽量紙(43g/m)(日本製紙(株))
(測色値:L:83、a:−0.25、b:5.5)
湿し水 :NEWSKING ALKY(東洋インキ製造(株))0.5%水道水溶

印刷速度:10万部/時
版 :CTP版(富士フィルム(株))
印刷部数:10万部
【0059】
[ドライダウンの評価方法]
印刷直後および24時間後の濃度値をグレタグマクベス社製分光光度計SpectroEyeを用いて測定し、以下の計算式(1)により差を計算して評価した。数値が大きいほどドライダウンによる印刷濃度の低下が大きいことを示す。
計算式(1)
【数1】

【0060】
[印刷物測定条件]
濃 度:グレタグマクベス社製分光光度計SpectroEye
45/0、D50、2度視野、Status T
【0061】
[色相の評価方法]
印刷後24時間経過した展色刷を用いて上記分光光度計により測色を行ない、Lを測定した。測定したb値により色相の評価を行った。bは値が大きいほど黄味色相、小さいほど青味色相であることを表す。
【0062】
[耐刷性の評価方法]
印刷物を5千分毎にサンプリングし、ベタ印刷部及び日文字部分の着肉度合いを評価するとともに、10万部印刷後の、CTP版の画線部のダメージ度合いを以下の評価基準に基づいて評価を行なった。
(評価基準)
○ :CTP版画線部のダメージなし :10万部まで印刷物の着肉劣化なし。
△ :CTP版画線部のダメージあり :7万部までに印刷物の着肉劣化確認。
× :CTP版画線部のダメージ酷い :5万部までに印刷物の着肉劣化確認。
【0063】
[評価結果]
表3に評価結果を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
以上の結果、実施例1〜4のカーボンブラックと比較例1〜3を比較すると、ドライダウン量、青味を示すb値はほぼ同等であるが、印刷適性で必須の耐刷性は、非常に悪くなっている。このことは、比較例1〜3のカーボンブラック中の鉄、亜鉛の含有量が多いことに起因している。更に、実施例5、6と比較例4,5を比較しても同傾向でドライダウン量は少なく、青味色相であるが、耐刷性が悪い。一方、比較例6は鉄、亜鉛の含有量は少ないため、他のカーボンブラックと比較し、耐刷性は問題ないが、ドライダウン量、b値が高くなっている。これは、浸透乾燥によりドライダウンが大きく印刷濃度の低下が大きいことから、印刷用紙の影響を受けたためよう素吸着量が低いにもかかわらずbが高くなっている。
【0066】
以上のように本発明の特定ゴム用カーボンブラックを用いることにより、従来使用されているパウダー状のカーボンブラックよりも、耐刷性等の印刷適性は同等に保ちながら、青味を有し且つドライダウンを抑制させたオフセット印刷用インキおよび印刷物が得られることになり、紙面品質の向上と安定化に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブチルフタレート(DBP)吸油量80〜140(cm3/100g)、
よう素吸着量30〜100(m2/g)
ならびに
鉄および亜鉛の合計含有量60ppm以下
である
カーボンブラック、
樹脂
ならびに
溶剤
を含有することを特徴とするオフセット印刷用インキ。
【請求項2】
樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂およびアルキッド樹脂から選ばれる一種類以上であることを特徴とする請求項1記載のオフセット印刷用インキ。
【請求項3】
ロジン変性フェノール樹脂が、重量平均分子量20,000〜300,000であることを特徴とする請求項2記載のオフセット印刷用インキ。
【請求項4】
溶剤が、石油系溶剤および植物油類から選ばれる一種類以上であることを特徴とする請求項1〜3何れか記載のオフセット印刷用インキ。
【請求項5】
石油系溶剤が、アニリン点65〜110℃であることを特徴とする請求項4記載のオフセット印刷用インキ。
【請求項6】
オフセット印刷用インキが、浸透乾燥型であることを特徴とする請求項1〜5何れか記載のオフセット印刷用インキ。
【請求項7】
請求項1〜6何れか記載のオフセット印刷用インキを非塗工紙または微塗工紙に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2011−225747(P2011−225747A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98067(P2010−98067)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】