説明

オフセット印刷用インキ組成物の製造方法

【課題】 顔料の分散性を向上させた上で、生産効率を向上して、省スペース化を図ることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、プレミキシング工程と分散工程と戻し工程と循環工程とを含む。プレミキシング工程では、インキ組成物中に含まれる全量をタンク20に投入し、カッター羽根10を回転駆動させて、80〜200℃の温度下で撹拌混合して顔料混合物を得る。分散工程では、80〜150℃の温度に保持された顔料混合物を、タンク20から分散装置110に供給し、分散処理して顔料分散体を得る。戻し工程では、顔料分散体を分散装置110から吐出して元のタンク20に戻し、循環工程では、タンク20内の収容物をタンク20と分散装置110との間で循環させて、分散装置110における分散処理を繰り返し、オフセット印刷用インキ組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、印刷版上に供給されたインキを、ゴムブランケットなどの中間転写体に転写した後、紙などの被印刷体に印刷することを特徴とした印刷方式である。そして、オフセット印刷は、高精細かつ鮮明な画像の印刷物を短時間で大量に印刷することができることから、商業印刷や新聞印刷などの分野で広く用いられる印刷方式の代表的なものとなっている。この印刷方式で使用されるオフセット印刷用インキ組成物は、顔料、樹脂、油成分および添加剤などを含んで構成されている。
【0003】
顔料を着色剤として含有するオフセット印刷用インキ組成物は、含有される顔料が粗大化した凝集体である場合、良好な発色性、流動性、保存安定性が得られない。そのため、オフセット印刷用インキ組成物を製造するときに、粗大化した凝集体である顔料を、所定の粒子径まで分散させる必要がある。
【0004】
一般的なオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、たとえば特許文献1に開示されているように、撹拌装置を用いて油成分中に樹脂を溶解させて樹脂ワニスを得るワニス化工程と、撹拌装置を用いて顔料と樹脂ワニスとを撹拌混合して顔料混合物を得るプレミキシング工程と、3本ロールやミルなどの分散装置を用いて顔料混合物を練肉して顔料分散体を得る分散工程と、ディスパーなどの撹拌装置を用いて顔料分散体と残余のインキ用材料(粘度調整用のワニスなど)とを撹拌混合してオフセット印刷用インキ組成物を得る後添加工程とを含む。
【0005】
従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法によれば、前記の工程を組み合わせることによって、顔料が高分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−169464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、顔料が高分散されたオフセット印刷用インキ組成物を得るために、前述したワニス化工程、プレミキシング工程、分散工程および後添加工程の少なくとも4つの工程が必要となり、製造工程が複雑化するとともに、生産効率が低下してしまう。また、ワニス化工程、プレミキシング工程および後添加工程の各工程で異なるタンクや撹拌装置が用いられ、これら複数の撹拌装置間における移送のたびにロスが発生してしまう。
【0008】
また、プレミキシング工程で得られる顔料混合物は高粘度であるため、ミルで顔料分散を行う際には、ビーズミルの内圧が高くなることで吐出量が制限され、分散工程において分散装置に対する顔料混合物の単位時間あたりの供給量が制限され、結果として、分散装置1台あたりの生産効率は低いものとなる。このような状態では、生産性を上げるためには、高価なミルを何台も設置せざるを得ない。
【0009】
したがって、上記従来の製造方法では、工程が多岐にわたり、また、生産性はミルの台数に依存することになるため設備が多くなり、広い製造スペースが必要で、更にランニングコストや設備の維持や補修といったメンテナンス費用もかかる等、設備やコスト面で数々の問題を有していた。
【0010】
したがって本発明の目的は、オフセット印刷用インキの着色力などのインキ特性や印刷適性を高い状態で維持した上で、製造工程を簡略化して生産効率を向上することができるとともに、省スペース化を図ることができるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
顔料、樹脂成分および油成分の、それぞれ最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる全量を、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられるタンクに投入し、撹拌羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、80〜200℃の温度下で撹拌混合して顔料混合物を得るプレミキシング工程と、
80〜150℃の温度に保持された、前記プレミキシング工程で得られた前記顔料混合物を、前記タンクから分散装置に、分散装置の内圧によって規定される所定の流量で供給し、顔料を分散処理して顔料分散体を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた前記顔料分散体を、分散装置から吐出して元の前記タンクに戻す戻し工程と、
前記タンク内に収容される収容物を、80〜150℃の温度に保持した状態で、前記タンクと前記分散装置との間で循環させて、前記分散装置における分散処理を顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る循環工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0012】
また本発明は、前記プレミキシング工程において前記タンクに投入する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記プレミキシング工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードが、基部から半径方向外方に連なり、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%であり、
プレミキシング工程において、前記ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外側に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、プレミキシング工程と、分散工程と、戻し工程と、循環工程とを含む。まず、プレミキシング工程では、顔料、樹脂成分および油成分の、それぞれ最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる全量を、撹拌羽根が内部空間に設けられるタンクに投入し、撹拌羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、80〜200℃の温度下でインキ用材料を撹拌混合して顔料混合物を得る。80〜200℃の温度下で撹拌混合することによって、樹脂成分と油成分との間でエステル交換反応が起こるのを防止して、樹脂成分の低分子量化を抑制することができるとともに、油成分中に樹脂成分が溶解された顔料混合物を得ることができる。
【0016】
次に、分散工程では、80〜150℃の温度に保持し低粘度化を図った顔料混合物を、タンクから分散装置に、分散装置の内圧によって規定される所定の流量で供給し、顔料を分散処理して顔料分散体を得る。戻し工程では、分散工程で得られた顔料分散体を、分散装置から吐出して元のタンクに戻す。そして、循環工程では、タンク内に収容される収容物を、80〜150℃の温度に保持し収容物が低粘度の状態で、タンクと分散装置との間で循環させて、分散装置における分散処理を顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る。
【0017】
80〜150℃の温度に保持された顔料混合物は、低粘度化されたものとなるので、分散装置の内圧によって規定される分散装置に対する顔料混合物の供給流量を上げても充分な分散処理が可能となり、戻し工程において分散処理後の顔料分散体を分散装置から吐出して元のタンクに戻し、さらに循環工程においてタンク内の収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができるので、オフセット印刷用インキ組成物を、高い生産効率で得ることができる。また、分散工程および循環工程では、80〜150℃の温度に保持されて低粘度化された最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる混合物を分散処理してオフセット印刷用インキ組成物を得るので、ワニスなどの残余のインキ用材料を添加して粘度調整する後添加工程を省略しても、顔料が高分散されて着色力などのインキ特性が高い状態で維持されたオフセット印刷用インキ組成物を得ることができ、製造工程を簡略化することができる。
【0018】
また本発明によれば、プレミキシング工程においてタンク内に投入する樹脂成分として塊状態の固形樹脂を含む。さらに、タンクの内部空間に設けられる撹拌羽根は、回転軸に固定される板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根である。そして、プレミキシング工程では、カッター羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させることによって撹拌混合するので、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることができる。
【0019】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部とブレードとを含んで構成されている。基部は、タンクの中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに回転駆動される回転軸に垂直に固定される板状の部分である。ブレードは、基部から半径方向外方に連なる部分であり、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%となるように形成されている。そして、プレミキシング工程では、ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が10m/s以上となる速度で、カッター羽根が回転駆動される。プレミキシング工程では、タンクの内径に対して所定の回転直径を有するブレードを含むカッター羽根を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク内に収容されるインキ用材料に充分なせん断力が付与されて、油成分中で樹脂を粉砕しながら撹拌混合することができる。そのため、樹脂の軟化点を超えて200℃よりも高い温度下で撹拌混合しなくても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0020】
また本発明によれば、タンクの内部空間に設けられるカッター羽根は、基部と第1ブレードと第2ブレードと第3ブレードとを含んで構成されている。基部は、回転駆動される回転軸に垂直に固定される板状の部分である。第1ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。第2ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。第3ブレードは、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行なブレードである。
【0021】
プレミキシング工程では、基部の回転面に対して一方側および他方側に離反するように傾斜した第1および第2ブレードと、基部の回転面に平行な第3ブレードとを有するカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するので、顔料混合物に大きなせん断力を付与することができ、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、プレミキシング工程では、顔料混合物の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。したがって、プレミキシング工程において、エステル交換反応による樹脂の低分子量化をさらに抑制することができるとともに、熱エネルギーロスを少なくすることができる。
【0022】
また、カッター羽根は、前記第1および第2ブレードが、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外側に離反した位置で屈曲して基部に連なっている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するプレミキシング工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、顔料混合物に対して撹拌流が作用する。そのため、顔料混合物は、タンク内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、プレミキシング工程では、顔料混合物の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0023】
さらに、カッター羽根は、前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部が、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されている。このように構成されたカッター羽根を回転駆動させて撹拌混合するプレミキシング工程では、カッター羽根が回転駆動されるときに、先細状に形成される各ブレードの縁辺部によって、顔料混合物に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、プレミキシング工程では、顔料混合物の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法において用いられる製造システム1の構成を示す図である。
【図2】製造システム1に備えられる撹拌装置100の構成を示す図である。
【図3】撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法において用いられる製造システム1の構成を示す図である。本発明の実施の一形態であるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、撹拌装置100と分散装置110とが供給装置120を介して接続される製造システム1を用いて行われ、プレミキシング工程と、分散工程と、戻し工程と、循環工程とを含む。
【0026】
(プレミキシング工程)
プレミキシング工程は、撹拌装置100を用いて行われる工程であり、顔料、樹脂成分および油成分の、それぞれ最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる全量を、撹拌羽根であるカッター羽根10が内部空間に設けられるタンク20に投入し、カッター羽根10を回転軸23の軸線まわりに回転駆動させて、80〜200℃の温度下で撹拌混合して顔料混合物を得る工程である。80〜200℃の温度下で撹拌混合することによって、樹脂と油成分との間でエステル交換反応が起こるのを防止して、樹脂の低分子量化を抑制することができるとともに、短時間で油成分中に樹脂が溶解された顔料混合物を得ることができる。
【0027】
プレミキシング工程における撹拌混合時間は、樹脂を油成分中に溶解させるのに要する時間を考慮して設定され、高温下で撹拌混合することによって短くすることができるが、付与する熱エネルギーの量や使用する樹脂の油成分に対する溶解性などにより最適温度条件が存在し、この最適温度条件によって設定すべき撹拌混合時間も異なる。撹拌混合時間は、エネルギー効率や作業性などを考慮すると、1つの目安として、15〜60分間である。
【0028】
顔料としては、オフセット印刷用インキ組成物の顔料成分として常用される顔料を用いることができ、無色または有色の、無機顔料または有機顔料を挙げることができる。具体的には、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、磁性酸化鉄などの無機顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料、およびカーボンブラックなどが挙げられる。
【0029】
タンク20内に投入するインキ用材料中における顔料の含有量は、5〜25質量%程度が好ましい。顔料の好ましい含有量は、黄色顔料のときは6〜20質量%、紅色顔料のときは8〜20質量%、藍色顔料のときは8〜25質量%、墨顔料のときは10〜25質量%の範囲である。
【0030】
また、顔料固形分の増加、増粘および水幅調整のため、上記顔料以外に、必用に応じて、着色力のないクレー、タルク、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ベントナイト、酸化チタンなどの体質顔料を、インキ用材料中に0〜35質量%の範囲で併用してもよい。
【0031】
樹脂としては、オフセット印刷用インキ組成物の樹脂成分として常用される樹脂を用いることができ、顔料分散用樹脂およびバインダー樹脂に分けられる。
【0032】
顔料分散用樹脂としては、低粘度化を図れるものを好ましく用いることができ、植物油変性アルキッド樹脂などのアルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂(天然アスファルタムから抽出された軟化点120〜125℃の炭化水素樹脂も含む)、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0033】
バインダー樹脂としては、たとえば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、ロジンエステル樹脂、ポリエステル樹脂、および、これら樹脂の変性樹脂などから選択される1種または2種以上の樹脂が使用できる。これらのバインダー樹脂は、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂、予め油成分中に樹脂が溶解されてなる液状樹脂ワニス、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂などの形態をとる。
【0034】
なお、タンク20内に投入するインキ用材料中における樹脂の含有量は、15〜40質量%程度が好ましい。また、樹脂は、ゲル化剤を使用して架橋させるようにしてもよい。このような場合に使用するゲル化剤としては、アルミニウムアルコラート類、アルミニウムキレート化合物などが挙げられ、好ましい具体例としては、アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、エチルアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートなどが例示できる。
【0035】
油成分としては、オフセット印刷用インキ組成物の油成分として常用される油成分を用いることができ、植物油成分、鉱物油成分を挙げることができる。
【0036】
植物油成分としては、植物油および/または植物油由来の脂肪酸エステルが好適である。植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油などの乾性油または半乾性油が例示できる。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油由来の脂肪酸のモノアルキルエステル化合物が挙げられる。上記脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などが例示できる。脂肪酸モノエステルを構成するアルコール由来のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシルなどのアルキル基が例示できる。
【0037】
これら植物油や植物油由来の脂肪酸エステルからなる植物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい植物油成分は、大豆油および/または大豆油脂肪酸エステルである。
【0038】
鉱物油成分としては、水と相溶しない沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が使用できる。非芳香族系石油溶剤の具体例としては、0号ソルベント、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(以上、いずれも新日本石油株式会社製)などが挙げられる。これら鉱物油成分は、要求される溶解性や性能に応じて、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
また、タンク20内に投入されるインキ用材料は、前述した顔料、樹脂および油成分以外に、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、オフセット印刷用インキ組成物の成分として常用される、ドライヤー、乾燥遅延剤、酸化防止剤、整面助剤、耐摩擦性向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤などを挙げることができる。なお、添加剤は、プレミキシング工程においてタンク20内に投入してもよいし、後述する循環工程後にタンク20内に投入してもよい。
【0040】
ここで、プレミキシング工程で用いられる撹拌装置100について、図2を用いて説明する。図2は、製造システム1に備えられる撹拌装置100の構成を示す図である。撹拌装置100は、タンク20の内部空間に、撹拌羽根であるカッター羽根10が設けられて構成される。
【0041】
タンク20は、底面が円弧状の有底筒状に形成されたものであり、ステンレス鋼などの金属材料によって構成されている。撹拌装置100では、タンク20の外周面を覆うように加熱手段24が設けられており、この加熱手段24は、水などの流体が流体供給口24aから流体排出口24bに向けて流過することによって、タンク20内の温度を制御可能に構成されている。また、タンク20の内部空間には、内周面と所定の間隔をあけて対向するようにバッフルプレート25が配設され、タンク20内に投入されるインキ用材料が撹拌混合されるときの流れ方向および流速が制御される。また、タンク20の上縁端部には、着脱自在の蓋体26が設けられ、蓋体26が装着された状態では、タンク20内が密閉空間となる。
【0042】
そして、タンク20の底面中央部には、プレミキシング工程において作製される顔料混合物が、タンク20内から分散装置110に向けて排出されるときの流過開口となるタンク排出口21が設けられ、タンク20の上方側面には、後述する戻し工程および循環工程において分散装置110から吐出(排出)される分散液が、分散装置110からタンク20内に供給されるときの流過開口となるタンク供給口22が設けられている。
【0043】
さらに、撹拌装置100には、タンク20の中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに、駆動モータ27により回転駆動される回転軸23が、蓋体26を貫通して設けられ、この回転軸23の延在方向端部近傍には、カッター羽根10が固定されている。
【0044】
撹拌羽根であるカッター羽根10は、タンク20内に投入されるインキ用材料の前述したバインダー樹脂の形態に応じて、最適な形状が異なる。
【0045】
バインダー樹脂として、粒子径が3mm程度に粉砕された粉砕樹脂、または、予め油成分中に樹脂が溶解されてなる液状樹脂ワニスを使用する場合、この分野で常用されるディスクタービン羽根を撹拌羽根として用いても、油成分中に樹脂を充分に溶解させることができる。しかしながら、バインダー樹脂として、粒子径が10〜500mm程度の塊状態の固形樹脂を使用する場合、ディスクタービン羽根を用いてインキ用材料を撹拌混合しても、油成分中に固形樹脂を溶解させることができない。したがって、バインダー樹脂として塊状態の固形樹脂を用いる場合には、図3に示す形状を有するカッター羽根10を用いることが好ましい。
【0046】
図3は、撹拌装置100に備えられるカッター羽根10の構成を示す図である。図3(a)は、カッター羽根10の展開図を示し、図3(b)は、カッター羽根10の平面図を示し、図3(c)は、カッター羽根10の側面図を示す。カッター羽根10は、ステンレス鋼などの金属材料からなる部材であり、基部11と、第1ブレード12と、第2ブレード13と、第3ブレード14とを含んで構成されている。また、カッター羽根10の配設位置は、タンク20の底面から、タンク20の高さに対して10〜25%の高さ位置である。
【0047】
基部11は、タンク20の中心軸線と同一直線上となる回転軸線まわりに回転方向Aに回転駆動される回転軸23に、垂直に固定される板状の部分であり、平面視したときの形状が正六角形である。そして、カッター羽根10では、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、回転軸線に関して周方向に等間隔に、正六角形状の基部11の各辺から半径方向外方に連なるように形成されている。6枚の各ブレード12,13,14は、同じ形状および大きさに形成されており、本実施形態では、平面視したときの形状が台形である。
【0048】
また、6枚の各ブレード12,13,14において、基部11から半径方向外方に延びる延在方向の長さL2は、正六角形状の基部11の各辺の長さL1に対して、150〜300%に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10における各ブレード12,13,14の強度を、充分に確保することができる。
【0049】
2枚の第1ブレード12のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して一方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第1ブレード12同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0050】
第1ブレード12における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ1は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内に収容されるインキ用材料に対して撹拌流を作用させることができ、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。
【0051】
また、第1ブレード12は、回転方向Aの上流側の第1上流側基端部12aが回転方向Aの下流側の第1下流側基端部12bよりも半径方向外側に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させて、インキ用材料を撹拌混合するプレミキシング工程では、カッター羽根10が回転駆動されるときに、インキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、インキ用材料は、タンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、油成分中における樹脂の粉砕および溶解効率を向上することができる。そのため、プレミキシング工程では、インキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0052】
さらに、第1ブレード12は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部12cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cによって、インキ用材料に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。そのため、プレミキシング工程では、インキ用材料の撹拌混合時における加熱温度を低下させる、または、撹拌時間を短くしても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。なお、先細状に形成される第1ブレード12の縁辺部12cの厚みは、縁辺部12c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0053】
2枚の第2ブレード13のそれぞれは、基部11から半径方向外方になるにつれて基部11の回転面に対して他方側に離反するように傾斜したブレードである。そして、各第2ブレード13同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。
【0054】
第2ブレード13における基部11の回転面に対する傾斜の角度θ2は、30〜50°に設定されるのが好ましい。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、タンク20内に収容されるインキ用材料に対して撹拌流を作用させることができ、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。
【0055】
また、第2ブレード13は、回転方向Aの上流側の第2上流側基端部13aが回転方向Aの下流側の第2下流側基端部13bよりも半径方向外側に離反した位置で屈曲して基部11に連なっている。このように構成されたカッター羽根10を回転駆動させて、インキ用材料を撹拌混合するプレミキシング工程では、カッター羽根10が回転駆動されるときに、インキ用材料に対して撹拌流が作用する。そのため、インキ用材料は、タンク20内を撹拌流に沿って流動しながら撹拌混合されるので、油成分中における樹脂の粉砕および溶解効率を向上することができる。
【0056】
さらに、第2ブレード13は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部13cが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cによって、インキ用材料に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。なお、先細状に形成される第2ブレード13の縁辺部13cの厚みは、縁辺部13c以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0057】
2枚の第3ブレード14のそれぞれは、基部11から半径方向外方に連なり、基部11の回転面に平行なブレードである。そして、各第3ブレード14同士は、回転軸線に関して対称に設けられている。そして、第3ブレード14は、回転方向Aの下流側に臨む縁辺部14aが、回転方向Aの下流側に臨んで先細状に形成されている。これによって、カッター羽根10が回転駆動されるときに、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aによって、インキ用材料に切り込みが入れられる。これによって、油成分中における樹脂の粉砕効率を向上することができる。なお、先細状に形成される第3ブレード14の縁辺部14aの厚みは、縁辺部14a以外の厚みが4mm程度に設定されるのに対して、1mm程度に設定される。
【0058】
以上のように、2枚の第1ブレード12と、2枚の第2ブレード13と、2枚の第3ブレード14との合計6枚のブレードが、基部11から半径方向外方に連なるように形成されたカッター羽根10では、2枚の第3ブレード14の遊端部間の長さに対応する、最外周縁部の先端部における回転直径L4が、タンク20の内径に対して30〜80%に設定される。そして、プレミキシング工程では、第3ブレード14の遊端部の周速度、すなわち、各ブレード12,13,14における最外周縁部の先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で、カッター羽根10が回転駆動される。プレミキシング工程では、タンク20の内径に対して所定の回転直径L4を有するブレードを含むカッター羽根10を、所定の周速度で回転駆動させるので、タンク20内に収容されるインキ用材料に充分なせん断力が付与されて、油成分中で樹脂を粉砕しながら撹拌混合することができる。そのため、樹脂の軟化点を超えて200℃よりも高い温度下で、インキ用材料を撹拌混合しなくても、油成分中に樹脂を溶解させることができる。
【0059】
なお、インキ用材料をタンク20内で撹拌混合するときに用いられるカッター羽根は、前述したカッター羽根10の形状に限定されるものではない。前述したカッター羽根10は、6枚のブレードが基部11から半径方向外方に連なるように形成されたものであるが、カッター羽根のブレードの枚数としては、好ましくは3〜10枚、より好ましくは4〜8枚である。
【0060】
プレミキシング工程では、カッター羽根10を備える撹拌装置100を用いてタンク20内で、80〜200℃の温度下でインキ用材料を撹拌混合し、油成分中に樹脂が溶解された顔料混合物を得る。
【0061】
(分散工程)
分散工程は、撹拌装置100と供給装置120を介して接続される分散装置110を用いて行われる工程である。
【0062】
分散装置110としては、プレミキシング工程で得られた顔料混合物、および後述する循環工程において循環供給されるタンク20内に収容される収容物を練肉することができる装置であれば特に制限されないが、本実施の形態では、ビーズミルを用いる。ビーズミルとしては、直径0.2〜3mmのジルコニアビーズなどのセラミックスビーズ、スチールビーズなどを粉砕メディアとしたダイノミル、DCPミルなどのビーズミルが使用できる。
【0063】
供給装置120は、ポンプやスクリューエクストルーダーなどであり、撹拌装置100に備えられるタンク20のタンク排出口21から排出される顔料混合物および前記収容物を、加圧した状態で、分散装置110の分散供給口111に向けて送液する。
【0064】
分散工程では、プレミキシング工程で得られて撹拌装置100のタンク20内に貯留されている顔料混合物を、80〜150℃の温度に保持し顔料混合物を低粘度化した状態で、ビーズミルからなる分散装置110のベッセル内の圧力(内圧)によって規定される所定の流量(供給量)で、タンク20のタンク排出口21から供給装置120を介して分散装置110の分散供給口111に向けて、連続的に供給する。そして、分散工程では、分散供給口111から所定の供給量で分散装置110に供給された顔料混合物を、連続的に分散処理(練肉)して顔料分散体を得る。
【0065】
(戻し工程)
戻し工程は、分散工程で連続的に得られる顔料分散体を、前記供給量と同じ流量(排出量)で分散装置110の分散排出口112から連続的に排出(吐出)し、タンク供給口22から流過させて、顔料分散体を元の前記タンク20内に戻す。なお、戻し工程では、タンク20内のカッター羽根10の回転駆動は継続されており、タンク20内に収容される収容物は継続的に撹拌混合されている。
【0066】
(循環工程)
循環工程は、分散工程および戻し工程に引き続いて連続的に行われる工程である。循環工程では、戻し工程において分散処理後に得られる顔料分散体がタンク20内に戻された状態のタンク20内に収容される収容物を、80〜150℃の温度に保持し収容物を低粘度化した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させて、分散装置110における分散処理を、顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る。なお、循環工程では、タンク20内のカッター羽根10の回転駆動は継続されており、タンク20内に収容される収容物は継続的に撹拌混合されている。
【0067】
ここで、プレミキシング工程で得られる顔料混合物を、80℃未満の温度に保持した状態で分散装置110に供給した場合、顔料混合物が高粘度化するため、分散装置110のベッセル内の内圧が高まり、分散装置110に対する顔料混合物の単位時間あたりの供給量が制限され、生産効率が低くなる。このような場合、複数台の分散装置110を並列的に使用して、顔料混合物のトータルの供給量を上げて生産効率を高めることができるが、複数台の分散装置110を設置する広いスペースが必要で、さらにランニングコストや設備の維持・補修といったメンテナンス費用もかかってしまう。
【0068】
これに対して、本実施の形態のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法は、分散工程では、プレミキシング工程で作製されてタンク20内に貯留されている顔料混合物を、80〜150℃の温度に保持し顔料混合物を低粘度化した状態で、所定の供給量で分散装置110に連続的に供給して顔料分散体を得る。戻し工程では、分散工程で得られた顔料分散体を、分散装置110から吐出して元のタンク20に戻す、そして、循環工程では、タンク20内に収容される収容物を、80〜150℃に保持した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させて、分散装置110における分散処理を、顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行ってオフセット印刷用インキ組成物を得る。
【0069】
80〜150℃の温度に保持された顔料混合物は、低粘度化されたものとなるので、分散装置110の内圧によって規定される分散装置110に対する顔料混合物の供給量を上げても充分な分散処理が可能となり、戻し工程において分散処理後の顔料分散体を分散装置110から吐出して元のタンク20に戻し、さらに循環工程においてタンク20内の収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができるので、オフセット印刷用インキ組成物を、高い生産効率で得ることができる。
【0070】
たとえば、80〜150℃の温度に保持した顔料混合物を分散装置110に供給した場合、分散装置110の内圧は0.5bar以下で、供給量は300〜600g/分であり、80℃未満の温度に保持した顔料混合物を分散装置110に供給した場合が、内圧1.2bar程度で、供給量100g/分程度以下であるのに対して、供給量を非常に大きくすることができる。
【0071】
また、分散工程および循環工程では、80〜150℃の温度に保持されて低粘度化された最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる混合物を分散処理してオフセット印刷用インキ組成物を得るので、ワニスなどの残余のインキ用材料を添加して粘度調整する後添加工程を省略しても、顔料が高分散されて着色力などのインキ特性が高い状態で維持されたオフセット印刷用インキ組成物を得ることができ、製造工程を簡略化することができる。
【0072】
さらに、本実施の形態のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、分散工程において分散装置110に供給されるプレミキシング後の顔料混合物が低粘度化されたものであることに対応して、分散装置110から連続的に排出される顔料分散体も低粘度化されたものである。低粘度化された顔料分散体は、戻し工程において顔料混合物が貯留されるタンク20に連続的に送液されて、カッター羽根10が回転駆動されるタンク20における上方側面に設けられるタンク供給口22から顔料混合物中に添加されると、タンク20内を流動して、顔料混合物と均一に混合される。このようにして、顔料混合物と顔料分散体とが均一に混合された混合物を、タンク20内に収容することができる。
【0073】
分散工程および戻し工程に引き続いて行われる循環工程においても、タンク20内に収容される収容物を、80〜150℃に保持した状態で、タンク20と分散装置110との間で循環させるので、分散装置110に循環供給される前記収容物は、低粘度化されたものである。そのため、循環工程においてタンク20内の低粘度化された収容物を循環させて、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができるので、タンク20と分散装置110との間で循環が繰り返されて、分散処理回数の異なる分散液がタンク20内に混合されたとしても、均一な顔料分散度を有するオフセット印刷用インキ組成物を得ることができる。
【0074】
したがって、プレミキシング後の顔料混合物を貯留するタンクと、分散処理後の分散液を貯留するタンクとを別々に準備することなく、プレミキシング工程、分散工程、戻し工程および循環工程を、1つのタンク20で行うことができる。
【0075】
これに対して、従来のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、分散装置で分散処理する前のインキ組成物の材料の配合の中に、顔料と樹脂成分とを高濃度で含み、顔料、樹脂成分および油成分の混合物(分散処理前の混合物)が高粘度になる原因となっていた。
【0076】
製造の効率化を目的として、単位時間当たりの分散装置(ビーズミル)の供給量(=吐出量)を多くしようとすると、分散処理前の混合物が高粘度のものであるほど、ビーズミルのベッセル内の圧力(内圧)が高まり、装置的な限界から困難となる。このような場合、製造の能率化を図るには、複数台のビーズミルを並列的に使用して、トータルの供給量を多くする方法が必要となる。さらに分散処理前の混合物が高粘度であると、以下の理由により、分散処理の際には別のタンクが必要となる。そのためタンク内に収容される収容物を、1つのタンクと分散装置との間で循環させて、タンク内では収容物を撹拌混合し、かつ分散装置において分散処理を繰り返して行うことができなくなる。
【0077】
高粘度の混合物を分散処理した場合、分散装置110から排出される分散液も、高粘度となる。分散処理前の混合物(以下、「分散前混合物」という)が貯留されるタンク20内に高粘度の分散液(以下、「高粘度分散液」という)を送液して添加した場合、高粘度分散液は分散前混合物の液面上を流動せずに塊状態で堆積してしまう。そして、分散前混合物の液面上に塊状態で堆積した高粘度分散液は、自重によって分散前混合物中に沈み込んでしまう。
【0078】
分散装置110による分散処理が進行して、やがて沈み込んだ高粘度分散液が、タンク20の底面に設けられるタンク排出口21に達すると、分散前混合物と高粘度分散液との両方が、タンク20内から排出されて、分散装置110に供給されることになる。そして、分散装置110に供給された高粘度分散液が再度分散処理されて、タンク20内に送液されて収容される。
【0079】
すなわち、タンク20内で部分的に分散処理回数の異なる混合物が存在することになり、顔料の分散が進んだ部分と顔料が未分散状態の部分が不均一に存在した混合物がタンク20内に収容されることになる。さらに、顔料を分散するのに多くのエネルギーを要し、所定の分散度を得るのに分散処理時間が長くかかるほど、上記の不均一さは増長される。このような不均一さに伴って顔料の粒子径も不均一になると、オフセット印刷用インキ組成物の流動性や発色性、印刷適性や印刷品質に悪影響を及ぼす。そのため、均一な顔料分散度を有するオフセット印刷用インキ組成物を得るためには、高粘度分散液を貯留するタンクを、分散前混合物を貯留するタンクとは別に準備する必要がある。したがって、本発明のようにタンク内に収容される収容物を、1つのタンクと分散装置との間で循環させて、分散処理を繰り返して行うことができない。
【0080】
本実施の形態におけるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法では、分散装置110に供給する顔料混合物を80〜150℃の温度に保持して低粘度化することに対応して、顔料分散体を低粘度化することによって、顔料混合物が貯留されるタンク20内に、顔料分散体を連続的に供給しても、顔料分散体と顔料混合物とを均一に混合することができる。
【0081】
さらに、循環工程においても、タンク20内に収容される収容物を、低粘度化された状態でタンク20と分散装置110との間で循環させるので、分散処理回数の異なる分散液がタンク20内に混合されたとしても、顔料の粒子径が5μm以下となるまで分散処理を繰り返して行うことができ、均一な顔料分散度を有するオフセット印刷用インキ組成物を、1つのタンク20を用いて得ることができる。
【0082】
(実施例)
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、評価項目については以下のとおりである。
【0083】
<ラレー粘度>
ラレー粘度(Pa・s/25℃)は、株式会社ケンウッド ティー・エム・アイ製のTE851を使用して測定した。
【0084】
<タック値>
タック値は、東洋精機株式会社製のインコメーターにて、30℃の条件で400rpmの回転速度にて1分値を測定した。
【0085】
<着色力>
白色のオフセット印刷用インキ組成物を、実施例1,2および比較例1のオフセット印刷用インキ組成物で着色し、比較例2の着色力を「100」として、相対評価した。相対評価値が高いほど着色力に優れるインキ組成物である。
【0086】
<印刷評価>
オフセット印刷用インキ組成物の印刷適性(濃度変化)は、三菱重工業株式会社製、DAIYA 1E型印刷機で実際に印刷して調べた。印刷評価は、湿し水供給ダイヤルを35%、60%にした状態で印刷し、比較例2を基準(良好)として、印刷濃度の変化で評価した。なお、印刷条件は以下のとおりである。
【0087】
[印刷条件]
印刷機:三菱DAIYA 1E型印刷機(湿し水機構:連続給水方式、三菱重工業株式会社製)
湿し水:サイファ TP−3(湿し水濃度:1%、サカタインクス株式会社製)
印刷速度:4500枚/時
温度/湿度:25℃/60%
印刷用紙:オーロラコート紙(日本製紙株式会社製)
【0088】
(実施例1)
[プレミキシング工程]
高さ250mm、内径210mmのタンク内に、軟化点165℃のロジン変性フェノール樹脂の28質量部(固形樹脂)、大豆油変性アルキッド樹脂の3質量部、ピグメントレッド57:1の13.5質量部、大豆油の7質量部及びAF−7石油溶剤(日本石油株式会社製)の48.5質量部を仕込んだ。なお、タンク内には、回転直径110mm(タンク内径に対して52%)の図3に示した6枚ブレードのカッター羽根を設置した。そして、到達温度が130℃となるように昇温速度8℃/minでタンクの加熱を開始し、加熱開始と同時に、カッター羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにカッター羽根の回転駆動を開始させ、130℃に到達後1時間、タンク内の収容されたピグメントレッド57:1、ロジン変性フェノール樹脂、大豆油変性アルキッド樹脂、大豆油、AF−7石油溶剤の混合物を撹拌混合し、ロジン変性フェノール樹脂を粉砕しながら溶解させると同時に、この混合物のプレミキシングを同時に行った。プレミキシング後に得られた顔料混合物は、ロジン変性フェノール樹脂が完全に溶解されたものであった。
【0089】
[分散工程、戻し工程および循環工程]
次いで、プレミキシング後の顔料混合物を130℃に保持した状態で、供給装置である輸送ポンプにより、分散装置であるダイノミル(シンマルエンタイプライゼス製、DYNO-
MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、表1の条件と
なるように分散処理を行い、分散処理した混合物を輸送ポンプにより元のタンクに戻すことを、顔料の粒子径が5μm以下となるまで(グラインドメータにより粒子径を確認)繰り返して行い、実施例1のオフセット印刷用インキ組成物を得た。
【0090】
(実施例2)
プレミキシング温度、および、プレミキシング後の顔料混合物をダイノミルに供給するときの保持温度を、130℃から90℃に変更すること以外は、実施例1と同様にして、実施例2のオフセット印刷用インキ組成物を得た。得られたオフセット印刷用インキ組成物中の顔料は、粒子径が5μm以下に分散されていた。
【0091】
(比較例1)
[ワニス化工程]
タンク内に、軟化点165℃のロジン変性フェノール樹脂の45質量部(固形樹脂)、大豆油の10質量部及びAF−7石油溶剤(日本石油株式会社製)の40質量部を仕込んだ。なお、タンク内には、従来型カッター羽根(ディスクタービン羽根)を設置した。そして、到達温度が200℃となるように昇温速度8℃/minでタンクの加熱を開始し、加熱開始と同時に、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスタービン羽根の回転駆動を開始させ、200℃に到達後40分間撹拌混合し、ロジン変性フェノール樹脂を溶解してワニスを得た。
【0092】
[プレミキシング工程]
次に、高さ250mm、内径210mmのタンク内に、上記ロジン変性フェノール樹脂を溶解させたワニスの65質量部、大豆油変性アルキッド樹脂の5質量部、ピグメントレッド57:1の25質量部、およびAF−7石油溶剤(日本石油株式会社)の5質量部を仕込んだ。なお、タンク内には、従来型カッター羽根(ディスクタービン羽根)を設置した。そして、到達温度が70℃となるように昇温速度8℃/minでタンクの加熱を開始し、加熱開始と同時に、ディスクタービン羽根のブレードの最外周縁部における先端部の周速度が13m/sとなるようにディスクタービン羽根の回転駆動を開始させ、70℃に到達後30分間、タンク内に収容されたピグメントレッド57:1、ロジン変性フェノール樹脂を溶解したワニス、大豆油変性アルキッド樹脂、大豆油、AF−7石油溶剤の混合物を撹拌混合し、この混合物のプレミキシングを行った。
【0093】
[分散工程]
次に、プレミキシングした混合物を、タンクからダイノミル(シンマルエンタイプライゼス製、DYNO-MILL type KDL-PILOT 1.4L、スチールビーズ:Φ1.5mm)に供給し、表1の条件となるように分散処理を2パス行い、ベース混合物を得た。ベース混合物中の顔料は、粒子径が5μm以下に分散されていた。
【0094】
[後添加工程]
次に、ベース混合物の53質量部、AF−7石油溶剤の5質量部、上記ロジン変性フェノール樹脂を溶解したワニスの42質量部の割合となるように、AF−7石油溶剤、ロジン変性フェノール樹脂を溶解したワニスを加え、従来型カッター羽根(ディスクタービン羽根)により撹拌混合し、比較例1のオフセット印刷用インキ組成物を得た。
【0095】
以上のようにして得られた実施例1,2および比較例1のオフセット印刷用インキ組成物についての評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示すように、実施例1,2のオフセット印刷用インキ組成物は、比較例1に対して、製造工程が簡略化され、製造に要するトータル所要時間が短縮され、タック値、着色力などのインキ特性、および印刷適性が高い状態で維持されている。
【符号の説明】
【0098】
1 製造システム
10 カッター羽根
11 基部
12 第1ブレード
13 第2ブレード
14 第3ブレード
12a 第1上流側基端部
12b 第1下流側基端部
12c 第1縁辺部
13a 第2上流側基端部
13b 第2下流側基端部
13c 第2縁辺部
14a 第3縁辺部
100 撹拌装置
110 分散装置
120 供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、樹脂成分、および油成分を主たる成分とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
顔料、樹脂成分および油成分の、それぞれ最終的に製造されるオフセット印刷用インキ組成物中に含まれる全量を、撹拌羽根と回転軸とが内部空間に設けられるタンクに投入し、撹拌羽根を回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、80〜200℃の温度下で撹拌混合して顔料混合物を得るプレミキシング工程と、
80〜150℃の温度に保持された、前記プレミキシング工程で得られた前記顔料混合物を、前記タンクから分散装置に、分散装置の内圧によって規定される所定の流量で供給し、顔料を分散処理して顔料分散体を得る分散工程と、
前記分散工程で得られた前記顔料分散体を、分散装置から吐出して元の前記タンクに戻す戻し工程と、
前記タンク内に収容される収容物を、80〜150℃の温度に保持した状態で、前記タンクと前記分散装置との間で循環させて、前記分散装置における分散処理を顔料の粒子径が5μm以下となるまで繰り返し行い、オフセット印刷用インキ組成物を得る循環工程と、を含むことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
前記プレミキシング工程において前記タンクに投入する樹脂成分として、塊状態の固形樹脂を含み、
前記撹拌羽根は、前記回転軸に垂直に固定される板状の基部と、基部から半径方向外方に連なるブレードとを有するカッター羽根であり、
前記プレミキシング工程では、前記カッター羽根を前記回転軸の軸線まわりに回転駆動させて、固形樹脂を粉砕しながら油成分中に溶解させることを特徴とする請求項1記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記回転軸は、前記タンクの中心軸線と同一直線上となる軸線まわりに回転駆動され、
前記カッター羽根は、
前記ブレードが、基部から半径方向外方に連なり、最外周縁部の先端部における回転直径がタンクの内径に対して30〜80%であり、
プレミキシング工程において、前記ブレードの最外周縁部における先端部の周速度が、10m/s以上となる速度で回転駆動されることを特徴とする請求項2記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ブレードは、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して一方側に離反するように傾斜した第1ブレードと、基部から半径方向外方になるにつれて基部の回転面に対して他方側に離反するように傾斜した第2ブレードと、基部から半径方向外方に連なり、基部の回転面に平行な第3ブレードとを含んで構成され、
前記第1および第2ブレードは、回転方向上流側の基端部が回転方向下流側の基端部よりも半径方向外側に離反した位置で屈曲して基部に連なっており、
前記第1、第2および第3ブレードの回転方向下流側に臨む縁辺部は、回転方向下流側に臨んで先細状に形成されていることを特徴とする請求項2または3記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−241022(P2012−241022A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108865(P2011−108865)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】