説明

オフセット印刷用艶消し墨インキ組成物および印刷物

【課題】地球環境に配慮しつつ、艶消し感、耐摩擦性、流動性、乾燥性に優れた環境負荷の少ないオフセットインキに関する。およびそれを用いた印刷物の提供。
【解決手段】球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、多孔質の球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン、テトラフルオロエチレン、バインダー樹脂、植物油および溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定の、多孔質の球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンを含有するオフセット印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用墨インキ組成物に関するものであり、更に詳しくはマットインキ(艶消しインキ)の分野において、艶消し感、耐摩擦性、乾燥性に優れた環境負荷の少ないオフセット印刷墨インキ組成物および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
カタログ、カレンダー、ポスター等の印刷において、印刷面に艶消しによる凹凸感、立体感、マット調、触感効果を付与させ、高級感や落ち着きを表現したり、光沢感のある印刷物の光の反射を抑えて文字を読みやすくしたりするために、マットインキ(艶消しインキ)を使用する。また、印刷面全体に艶消し効果を与える場合は、プロセス4色を印刷した後にマット用オーバープリントニスを使用したり、印刷用紙自体にマット性やダル性を持たせたりするが、印刷面の一部、特に墨を基調とした印刷物や、墨文字を際立たせる様な印刷用途も多く、その様なケースに対しては、印刷インキ4色(黄・紅・藍・墨)のうち墨インキのみにマット性やダル性を持たせることでその効果を得る。
【0003】
一般的に、オフセット印刷用墨インキに艶消し効果を付与するために、マット化剤を含有させる。マット化剤とは、一般的に印刷面に対し艶消し効果を得るための無機・或いは有機材料の微粒子集合体であり、紙面に印刷された墨インキ中でマット化剤同士が構造を形成し、その構造を保ったまま乾燥・薄膜化することによって、表面に凹凸が形成され、印刷面に艶消し効果が現れる。
【0004】
従来、オフセット印刷用艶消し墨インキ組成物を得るためのマット化剤としてポリ塩化ビニル系樹脂、シリカ、炭酸カルシウム等が主に用いられてきた。中でも艶消し効果が高く、乳化性能も良好なポリ塩化ビニル系樹脂がマット化剤の主流になりつつあった。
【0005】
一方、オフセットインキ業界は、地球環境への負荷低減に取り組んできており、使用する材料は焼却の際、有害ガスの発生がないことが望ましいとされている。印刷物焼却の際、一般的にダイオキシンの発生量は塩素の量に比例するとの実験データもあり、ポリ塩化ビニル系マット化剤として使用した印刷物は焼却時にダイオキシン等の有害ガスを発生させる懸念があり、環境負荷軽減の点から好ましくない。さらに、近年、地球温暖化対策として二酸化炭素量の削減や環境汚染の抑制が課題となっており、化石資源から生物資源への移行によるカーボンニュートラル化が求められている。
【0006】
環境負荷軽減を目的として、シリカや炭酸カルシウムを主成分とするオフセット印刷用艶消し墨インキ組成物の検討がなされてきた。シリカは、大別するとその製造方法の違いから乾式法シリカ、湿式法シリカの2種類があり、乾式法シリカは湿式法シリカに比べ嵩高く、シラノール基が多いことが起因し、乳化すると著しく流動性を失い易く、乳化した墨インキが印刷機上で壷上がりやローラー間での転移不良を招き易い等の問題が生じる。
【0007】
また、炭酸カルシウムをマット化剤として使用した場合、炭酸カルシウムは艶消し効果が弱いため、ポリ塩化ビニル系樹脂やシリカと比べ含有量を大幅に増加させなければならず、製造工程における分散性の劣化や印刷時に版磨耗しやすい等の問題を生じやすい。
【0008】
また、一般的なオフセット印刷用墨インキにマット化剤、バインダー樹脂、植物油および溶剤からなる艶消し用オーバープリントニス組成物を含有させ、製造工程における分散性の劣化や印刷時の版磨耗を軽減させる方法についても検討がなされてきたが、艶消し効果を得るためには艶消し用オーバープリントニス組成物を大量にオフセット印刷用墨インキに混合させなければならず、オフセット印刷用墨インキの顔料濃度が下がってしまうため、印刷物に必要な濃度を得るために、オフセット印刷用墨インキを通常より多く印刷物に盛り込まなければならず、印刷面のインキ膜厚が厚くなりすぎてしまい乾燥性の劣化を生じるため好ましくない。
【0009】
その他、オフセット印刷用艶消し墨インキ組成物を得るためのマット化剤として過去広く検討がなされてきた。例えば無機材料としては、特許文献1記載の多孔性アルミナ、特許文献2記載の酸化チタン多孔体、特許文献3の多孔質炭酸カルシウム等が挙げられるが、何れも安価な材料を出発地点としているが、加工に手間がかかり、高コストであるため実用的ではなく、更に、オフセット印刷用途での艶消し効果としては乏しい。
【0010】
また、有機材料として、特許文献4では架橋重合体微粒子の集合体が挙げられているが、平均粒径が好ましくは5〜100μmの範囲と記載されており、膜厚が5μm以下で印刷されるのが主であるオフセット印刷において、膜厚よりも大きい平均粒径であるマット化剤の含有はパイリング等の問題を生じ易いため好ましくなく、さらに、特許文献5で示されるように有機材料のマット化剤としてはハロゲン化ビニル系化合物が用いられることが多く、環境負荷軽減という点で好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−231119号公報
【特許文献2】特開平10−259023号公報
【特許文献3】特開平10−182491号公報
【特許文献4】特開2001−81335号公報
【特許文献5】特開2001−89689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、地球環境に配慮しつつ、艶消し感、耐摩擦性、流動性に優れたオフセットインキおよびそれを用いた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン、バインダー樹脂および植物油を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定の多孔質カーボンを一定量含有するオフセット印刷インキ組成物が艶消し性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、バインダー樹脂および植物油を含有するオフセット印刷インキ組成物において、
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンが、
メジアン径0.5〜10μm、
80%粒子径15μm以下
および
BET比表面積が300〜800m/g
であり、かつ
オフセット印刷インキ組成物全量に対して
1〜7重量%
含有していることを特徴とするオフセット印刷ンキ組成物に関するものである。
【0015】
また、本発明は、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンが、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cmであることを特徴とする上記のオフセット印刷インキ組成物に関するものである。
【0016】
さらに、本発明は、さらに、平均粒子径0.05〜5μmであるポリテトラフルオロエチレンを、オフセット印刷インキ組成物全量に対して、0.3〜5重量%含有することを特徴とする上記のオフセット印刷インキ組成物に関するものである。
【0017】
また、本発明は、上記のオフセット印刷インキ組成物が、ヒートセット型であることを特徴とするオフセット印刷インキ組成物に関するものである。
【0018】
さらに、本発明は、上記のオフセット印刷インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0019】
書籍、チラシ、カタログ、フリーペーパー等の印刷において、本発明が提供するヒートセットオフ輪インキは、従来よりも艶消し感、耐摩擦性、流動性に優れたオフセットインキおよびそれを用いた印刷物を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0021】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、化石資源由来カーボンブラックが挙げられ、その製造方法としては、チャンネル法、オイルファーネス法、ガスファーネス法、アセチレン法等が挙げられる。これらは、石炭系・石油系の原料油を高温ガス中で不完全燃焼させて製造されるため、原料として化石資源を大量に用いる点で環境に好ましくなく、これらの一部を生物資源から生成されたバイオマスカーボンに置換していくことは、環境負荷軽減に繋がる。
【0022】
また、一般的に、オフセット印刷用墨インキに使用されるカーボンは、一次(基本)粒子と呼ばれる球状のカーボン粒子が融着し連鎖状あるいは不規則な鎖状に枝分かれした凝集形態を示しており、ぶどうの房に例えられる凝集体を形成しているとされており、本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、走査型電子線で観察すると粒子の最短径/最長径の比率(以下、真球率と略記)が0.6〜1.0程度の回転楕円体状の粒子像が得られる。
【0023】
本発明に用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、印刷用紙の特性に合わせて任意のカーボンが使用できるが、JIS K6217−4に準拠して定義されたDBP吸油量が50〜120cm/100gであることが好ましい。また、JIS K6217−2に準拠して定義された窒素吸着比表面積が60〜130m/g以下であることが望ましい。また、本発明に用いられる化石資源由来カーボンは上記性状を満たすものであれば形状は粒状或いは粒状を問わず使用することができる。さらに、本発明の化石資源由来カーボンの添加量としては、印刷インキ中10〜25重量%であることが望ましい。
【0024】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンは、竹墨、木炭等炭化物を乾式粉砕したものを必要に応じて精製したもの、或いは間伐材、植物種皮または植物の構成成分であるリグニンを炭化し、得られた炭化物や炭化する際に得られたすすを集めたものを必要に応じて乾式粉砕および精製したものを言う。例えば、大豆種皮をロータリーキルン中、約1000℃で焼成し、多孔質化および炭化したものを乾式粉砕して得られる。いわゆるバイオカーボンと呼ばれるものである。
【0025】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンは、メジアン径0.5μ〜10μm、および80%粒子径が15μm以下であることが好ましく、より好ましくはメジアン径1.0μm〜8μm、および80%粒子径が12μm以下、さらに好ましくはメジアン径1.0μm〜6μm、および80%粒子径が8μm以下であることが望ましい。メジアン径が0.5μm未満であると、球形あるいは回転楕円体以外の粒子形状を有するカーボン製造時の乾式粉砕工程での負荷が大きくなりコストアップしてしまうため好ましくなく、メジアン径が10μmより大きいとインキ製造時の分散工程での負荷が大きくなるため好ましくない。また、80%粒子径が15μmより大きいと粗大粒子すうが多すぎるため分散しにくく、インキの分散安定性の劣化やパイリングしやすくなる等の印刷適性が劣化するため好ましくない。
【0026】
また、本発明における球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンは、窒素吸着比表面積が300〜800cm/g、好ましくは300〜700、さらに好ましくは400〜600cm/gであることが望ましい。窒素吸着比表面積が300cm/g未満であると、凹凸を形成する効果が得にくく、また粒径が比較的大きくなることにより、パイリング等の問題を招き易い懸念がある。また、窒素吸着比表面積が800cm/gより大きいと、バイオマスカーボンの1次粒子同士の凝集力が強くなりすぎてしまい、分散工程における負荷が大きくなり分散不良、版磨耗性の劣化等の問題を生じる。
【0027】
本発明における球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンのメジアン径は、一般的なレーザー回折法、散乱法により測定して求めることができるが、本発明においてはレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920;LY−208乾式測定ユニット仕様)を用いて測定した。
【0028】
また、本発明における窒素吸着比表面積は、窒素ガスの物理吸着を用いて測定して求めることができ、本発明においては、BET式(Brunauer,Emmet and Teller‘s equation)に従って単分子吸着量を測定した。
【0029】
一般的にゆるみ見掛け比重とは、疎充填時の比重、すなわち、注入法により落下させて容器に受けて出来た、多量に空気を含んだ粉粒体の見かけ比重である。本発明におけるゆるみ見掛け比重は、粉体特性評価装置(パウダーテスターPT−R型)を用いて測定を行なった。分散篩は1700μmの見開きのものを用いた。
【0030】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンは、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.25g/cm、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cmであることが望ましい。ゆるみ見掛け比重が0.03g/cm未満であると、インキ製造時の仕込み工程において粉体が舞いやすく、収率の劣化や周囲の作業環境が劣化するため好ましくない。ゆるみ見掛け比重が0.3g/cmより大きいと、インキ製造時に仕込んだ材料を混合する工程において、分散媒への拡散が粗くなってしまい分散工程時の負荷が大きくなってしまうため好ましくない。
【0031】
本発明における球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンの含有率はオフセット印刷インキ組成物全量に対して1〜7重量%、好ましくは2〜6重量%、さらに好ましくは3〜5重量%含有することが望ましい。バイオマスカーボン含有量が1重量%未満であると、必要な艶消し効果が得られず、7重量%より大きいと、分散工程時の負荷がかかり、また、経時安定性の劣化や乳化性能の劣化を招く。
【0032】
本発明における球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンは、墨顔料としての着色性を持つため、濃度を落とすことなく使用可能であるため通常のマット化剤無機・或いは有機材料の微粒子集合体よりオフセット印刷用艶消し墨インキ組成物に使用するマット化剤としては望ましい。
【0033】
本発明は、平均粒子径が0.05〜5μmであるポリテトラフルオロエチレンを0.3重量〜5%、好ましくは0.5〜3重量%、より好ましくは0.8〜2重量%併用して含有させることが望ましい。ポリテトラフルオロエチレンを上記範囲内で用いることにより、耐摩擦性を向上させる効果と艶消し能を補助的に得ることができる。併用するポリテトラフルオロエチレンが0.3重量%未満であると、耐摩擦性を向上させる効果を得られず、5重量%より大きく併用させると、製造工程における練肉性の劣化や、パイリング・後胴残り等の印刷適性面での問題を生じ易い。
【0034】
本発明におけるポリテトラフルオロエチレンは、平均粒径が0.05〜5μm、より好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましく0.3〜2.0μmであることが望ましい。
平均粒径が0.05μm未満であると、艶消し効果が得られにくく、平均粒径が5μmより大きいとパイリング・後胴残り等の印刷適性面での問題を生じ易い。
【0035】
本発明において、艶消し効果を補助的に得るために、必要に応じて炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ、多孔質炭酸カルシウム、多孔質酸化チタン、多孔質アルミナ等を単独あるいは2種類以上併用して用いることもできるが、オフセト印刷インキ組成物中の5重量%以下の含有率であることが望ましい。5重量%より大きく併用して含有させると、製造工程時の練肉性の劣化や、流動性の劣化、印刷時の版磨耗性の劣化、乳化性能の劣化、パイリングを起こし易い等の問題が生じる。
【0036】
本発明では、必要に応じて例えば大豆油、再生大豆油、菜種油、ヤシ油、綿実油、落花
生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、亜麻仁油、大豆油、サフラワー油、米サラダ油等の植物油由来のものや、それらの熱重合油および酸素吹き込み重合油等を併用することもでき、これらを単独或いは2種類以上組み合わせて併用して用いることもできるが、好ましくはヒートセットオフ輪インキ全量に対して15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下の含有率にすることが望ましい。15重量%以上併用させると、インキのセット性・乾燥性が劣るため好ましくない。
【0037】
本発明におけるトレランスとは、試験管中に樹脂2.50gとAFソルベント5号(新
日本石油(株)製)を5g入れ、適時攪拌しながら5分間で180℃に昇温し、溶解した
ものを25.0℃まで冷却し、攪拌しつつ0号ソルベント(新日本石油(株)製)で少量
ずつ希釈していき、微濁状態を終点とした時の0号ソルベントの量から以下の式によりト
レランスの値を求める。
【0038】
【数1】

【0039】
本発明で用いられるバインダー樹脂としては、重量平均分子量10000〜10000
0、好ましくは20000〜80000、且つトレランスが20〜30重量%好ましくは
22〜28重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることが望ましい。
重量平均分子量が10000以下ではインキの粘弾性が低下し、100000以上では
インキの流動性、光沢が劣る。また、トレランスが20重量%以下ではインキのセット性
が低下し、さらにセットオフ汚れ、ミスチング性能の劣化を招く。トレランスが30重量
%以上では、印刷機上での溶剤離脱の促進によるインキの増粘、流動性の低下、タック上
昇による印刷適性の劣化を招くため好ましくない。
【0040】
また、本発明では、必要に応じて石油系溶剤を含有させることができ、用いられる石油系溶剤は必要に応じて、沸点が260〜350℃、好ましくは280℃〜340℃の範囲にある石油系溶剤を併用することができる。併用する石油系溶剤の沸点が260℃未満の場合には、印刷機上でのインキの溶剤蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好ましくない。また、併用する石油系溶剤の沸点が350℃を越える場合には、インキの乾燥性が劣るため好ましくない。また、本発明に用いられる石油系溶剤は、アニリン点が75〜95℃であることが好ましい。石油系溶剤のアニリン点が75℃未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また95℃を越える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、着肉が悪くなり好ましくない。
【0041】
さらに、本発明のオフセット印刷用艶消し墨インキ組成物には、必要に応じて ゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤、多価アルコール等の添加剤を便宜使用することができる。
【実施例】
【0042】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によっ
て限定されるものではない。なお、本発明中の「%」、「部」は、特に断らない限り、それぞれ、「重量%」、「重量部」を表す。
【0043】
<粘度の測定方法>
HAAKE Rheostress600(Thermo ELECTRON CORP
ORATION社製)による25℃、シェアレートが117/s時の粘度を、本発明にお
ける粘度とした。
【0044】
(フェノール樹脂製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部
、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加
えて、90℃で6時間反応させたる。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸
溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェ
ノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Xとした。
【0045】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例1)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン100
0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液X1500部を
添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン115部を
仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量7
0000、トレランス26重量%のロジン変性フェノール樹脂A(以下、樹脂Aと称す)
を得た。
【0046】
(インキ用ゲルワニス1の製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコに樹脂A(重量平均分子量700
00)45部、大豆油14部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)40部を仕込み、190℃に昇温、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1重量部(川研ファインケミカル(株)製ALCH、以下ALCHと称す)を仕込み、190℃で30分間攪拌してインキ用ゲルワニス1(以下ワニス1と称す)を得た。
【0047】
購入した大豆種皮由来の球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンの粒度分布をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920;LY−208乾式測定ユニット仕様)を用いて測定したところ、メジアン径は6.0μmであった。また、窒素吸着比表面積については、BET式に従って単分子吸着量を測定したところ、328cm/gであった。
購入した球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン2〜4について、同様の測定方法にて、メジアン径および窒素吸着比表面積を測定したものを表1に示した。
【0048】
【表1】



【0049】
(オフセットインキおよびインキの製造)
三菱カラー用カーボンブラックMA11(三菱化学(株)製、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン)を16部、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンを2部、ゲルワニス1を60部、耐摩擦コンパウンド(森村ケミカル(株)製)5部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)10部、計93部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキ1の粘度が30±5Pa・sになり、且つ100部になる様にゲルワニス1とAFソルベント5号にて調整を行ったところ、ベースインキ1にゲルワニス1を4重量部、AFソルベント5号を4部加えて30Pa・sの実施例1のインキを約100重量部得た。
【0050】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表2に示す配合にてベースインキを作製し、
同等にゲルワニスとAFソルベント5号量の調整にて30±5Pa・sにインキの粘度調
整を行ったところ、実施例2〜6、比較例1〜4のインキを約100部得た。
また、表2に、実施例1〜6および比較例1〜4それぞれのインキに含まれる化石資源由来カーボン、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン、ワニス、コンパウンド、AFソルベント5号の重量%を示す。また、表2にバイオマスカーボン(球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン)の由来原料、ベースインキを7.5μm以下に分散するまでに必要とした練肉回数を示す。練肉回数が少ない程、分散性が良好であることを示し、練肉回数が多い程、分散性が劣ることを示している。
【0051】
【表2】

【0052】
(評価結果)
上記実施例1〜4および比較例1〜6のオフセット印刷インキにおける、分散性、艶消し性、流動性、乾燥性について評価を実施し、結果を表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
<分散性の測定方法>
上記のように、ベースインキを7.5μm以下に分散するまでに必要とした練肉回数により、以下の評価基準に基づいて、評価を行った。
(評価基準)
○:三本ロール パス回数 1〜2回
△:三本ロール パス回数 3〜4回
×:三本ロール パス回数 5回以上
【0055】
<艶消し性の測定方法>
上記実施例1〜4および比較例5〜8のヒートセットオフ輪インキをRIテスター(株式会社明製作所製)にてコート紙に、グレタグマクベス社製D196濃度計を用いて、濃度が1.95±0.05になる様に展色し、自製コンベア式熱風乾燥試験機を通した後、光沢値を測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。光沢値が高い程、艶のある良好な印刷物を得られることを示す。
(評価基準)
○:光沢値が65以上
△:光沢値が60以上、65未満
×:光沢値が60未満
【0056】
<流動性の測定方法>
インキ2.1ccを半球状の容器にセットし、15分間静置させた後、60°に傾けた
傾斜板の上にインキを垂らし、10分間で流れた長さを測定し、以下の評価基準に基づい
て評価を行った。値が高いほどインキのしまりが少なく、流動性が良好であることを示す

(評価基準)
○:60mm以上
△:40mm以上、60mm未満
×:40mm未満
【0057】
<乾燥性の測定方法>
インキをRIテスター(株式会社明製作所製)にてコート紙に展色し、自製コンベア式
熱風乾燥試験機を通した後、展色面のベタ付きが無くなった時の紙面温度を測定し、以下
の評価基準に基づいて評価を行った。低温度で展色面のベタ付きがなくなる程、乾燥性に
優れていることを示す。
(評価基準)
○:88℃未満
△:88℃以上、92℃未満
×:92℃以上
【0058】
表3の結果より、分散性、艶消し性、流動性、乾燥性、全てがバランス良く、優れているものは、実施例であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によるオフセット印刷インキは、従来よりも艶消し感、耐摩擦性、流動性、乾燥性耐に優れ、しかも環境負荷が少なく、書籍、チラシ、カタログ等の印刷分野において有益な活用が図られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボン、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、バインダー樹脂および植物油を含有するオフセット印刷インキ組成物において、
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンが、
メジアン径0.5〜10μm、
80%粒子径15μm以下
および
BET比表面積が300〜800m/g
であり、かつ
オフセット印刷インキ組成物全量に対して
1〜7重量%
含有していることを特徴とするオフセット印刷ンキ組成物。
【請求項2】
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有し、かつ、多孔質であるカーボンが、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cmであることを特徴とする請求項1記載のオフセット印刷インキ組成物。
【請求項3】
さらに、平均粒子径0.05〜5μmであるポリテトラフルオロエチレンを、オフセット印刷インキ組成物全量に対して、0.3〜5重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載のオフセット印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のオフセット印刷インキ組成物が、ヒートセット型であることを特徴とするオフセット印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のオフセット印刷インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物。




【公開番号】特開2012−158704(P2012−158704A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20402(P2011−20402)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】