説明

オプトインジェクション法

【課題】高い細胞生存率を有する、迅速および効率的な、様々な外来性分子の細胞への充填を提供する。
【解決手段】(a)フレーム内に含まれる細胞の集団を照射する工程;(b)このフレームから指向される光の少なくとも1つの特性を検出する工程;(c)この光の特性により標的細胞を配置する工程;および(d)この標的細胞を放射線のパルスで照射する工程、によって標的細胞を一時的に透過性にするためのオプトインジェクション(optoinjection)法。特定の実施形態において、細胞の集団が実質的に静止している場合に静止画像を得る、細胞を大きくとも0.5の開口数を有するレンズを通して照射する;放射線のパルスは、標的細胞との接触地点で少なくとも10ミクロンの直径を有する;または生じた放射線のパルスは多くとも1μJ/μmを伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の背景)
本発明は、細胞操作の方法に、そしてより具体的には、発現可能な外来性DNAのよう
な様々な外来性材料を細胞内に充填し得るように、細胞を一時的に透過性にする方法に関
する。
【背景技術】
【0002】
以前の充填方法は、化学的処理、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション
、および微粒子銃を含んでいた。しかし、これらの技術は時間がかかり、そして低い収率
または低い細胞生存率を欠点として有し得る。「オプトポレーション(optopora
tion)」と呼ばれる別の技術は、細胞および周囲の培地に向けた光を使用して衝撃波
を誘導し、それによって付近の細胞の表面に一時的に小孔の形成を引き起こし、材料がそ
の領域の細胞に非特異的に入ることを可能にした。「オプトインジェクション(opto
injection)」と呼ばれる別の技術も、光を使用するが、その光を特定の細胞に
向ける。それにもかかわらず、以前の光に基づく実行技術は、他の充填技術と同じ不都合
を欠点として有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、高い細胞生存率を有する、様々な外来性分子を細胞へ充填する、迅速および効
率的な方法の必要性が存在する。本発明は、この必要性を満たし、そして関連する利点も
提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、標的細胞を一時的に透過性にするオプトインジェクション(optoinj
ection)方法を提供する。一般的な方法において、その工程は、(a)フレームに
含まれる細胞の集団を照射する工程;(b)フレームから指向された光の少なくとも1つ
の性質を検出する;(c)その光の性質によって標的細胞を位置決定する工程;そして(
d)放射線のパルスでその標的細胞を照射する工程である。
【0005】
特定の実施形態において、細胞の集団が実質的に静止している場合に静止画像を得る、
細胞を大きくとも0.5の開口数を有するレンズを通して照射する;放射線のパルスは、
標的細胞との接触地点で少なくとも10ミクロンの直径を有する;または生じた放射線の
パルスは多くとも1μJ/μmを伝達する。結果として、本方法は、高い細胞生存率を
有する、迅速および効率的な、様々な外来性分子の細胞への充填を提供する。したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)標的細胞を一時的に透過性にするための方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)フレーム内に含まれる実質的に静止した細胞の集団を照射する工程;
(b)該フレームから同時に指向された光の少なくとも1つの特性の静的表示を得る工
程;
(c)標的細胞を該細胞の集団に配置する工程であって、ここで該標的細胞が、該静的
表示に関して配置される、工程;および
(d)該標的細胞を、放射線のパルスで照射する工程、
を包含し、これにより、該標的細胞が一時的に透過性にされる、方法。
(2)標的細胞を一時的に透過性にする方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)フレーム内に含まれる細胞の集団を照射する工程であって、ここで該細胞は、0
.5以下の開口数を有するレンズを通して照射される、工程;
(b)該フレームから該レンズを通って指向される光の少なくとも1つの特性を検出す
る工程;
(c)標的細胞を該細胞の集団に配置する工程であって、該標的細胞は、該検出された
光の特性に関して配置される、工程;および
(d)該標的細胞を、放射線のパルスで照射する工程、
を包含し、これにより、該標的細胞が一時的に透過性にされる、方法。
(3)標的細胞を一時的に透過性にするための方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)フレーム内に含まれる細胞の集団を照射する工程;
(b)該フレームから指向される光の少なくとも1つの特性を検出する工程;
(c)標的細胞を該細胞集団に配置する工程であって、ここで該標的細胞が、該検出さ
れた光の特性に関して配置される、工程;および
(d)該標的細胞を、放射線のパルスで照射する工程であって、ここで該放射線のパル
スが、該標的細胞との接触点において少なくとも5ミクロンの直径を有する、工程;
を包含し、これにより、該標的細胞が一時的に透過性にされる、方法。
(4)標的細胞を一時的に透過性にするための方法であって、該方法は、以下の工程:
(a)フレーム内に含まれる細胞の集団を照射する工程;
(b)該フレームから指向される光の少なくとも1つの特性を検出する工程;
(c)該細胞の集団に標的細胞を配置する工程であって、ここで該標的細胞が、該検出
された光の特性に関して配置される、工程;および
(d)該標的細胞を放射線のパルスで照射する工程であって、ここで該放射線のパルス
が、1μJ/μm以下で伝達する、工程;
を包含し、これにより、該標的細胞が一時的に透過性にされる、方法。
(5)前記細胞の集団が、実質的に静止している、項目2、3または4に記載の方法。
(6)前記工程(b)において検出された光の特性が、前記フレームから同時に伝達される光の
静的表示として得られ、これにより、前記工程(c)において配置された標的細胞が、該
静的表示に関して配置される、項目2、3、または4に記載の方法。
(7)工程(b)が、前記フレームから同時に伝達される光の少なくとも1つの特性の静的表示
を得る工程をさらに包含し、これにより工程(c)が、前記標的細胞を、該静的表示に関
して配置する工程をさらに包含する、項目2、3、または4に記載の方法。
(8)前記光の少なくとも1つの特性が、蛍光であり、そして前記標的細胞が、該蛍光に関して
配置される、項目1、2、3または4に記載の方法。
(9)前記細胞の集団が、0.5以下の開口数を有するレンズを通して照射され、そして前記標
的細胞が、前記フレームから該レンズを通して指向される光の特性に関して配置される、
項目1、3または4に記載の方法。
(10)前記レンズが、0.4以下の開口数を有する、項目2に記載の方法。
(11)前記レンズが、0.3以下の開口数を有する、項目2に記載の方法。
(12)前記レンズが、フラットフィールド補正を有する、項目2に記載の方法。
(13)前記レンズが、少なくとも5mmの作動距離を有する、項目2に記載の方法。
(14)前記レンズが、少なくとも10mmの作動距離を有する、項目2に記載の方法。
(15)前記放射線のパルスが、前記標的細胞との接触点において少なくとも5ミクロンの直径を
有する、項目1、2または4に記載の方法。
(16)前記放射線のパルスが、前記標的細胞との接触点において少なくとも7ミクロンの直径を
有する、項目3に記載の方法。
(17)前記放射線のパルスが、前記標的細胞との接触点において少なくとも10ミクロンの直径
を有する、項目3に記載の方法。
(18)前記放射線のパルスが、前記標的細胞との接触点において少なくとも20ミクロンの直径
を有する、項目3に記載の方法。
(19)前記放射線のパルスが、1μJ/μm以下で伝達する、項目1、2または3に記載の
方法。
(20)前記放射線のパルスが、0.1μJ/μm以下で伝達する、項目4に記載の方法。
(21)前記放射線のパルスが、0.01μJ/μm以下で伝達する、項目4に記載の方法。
(22)前記放射線のパルスの方向を調整して、前記集団内の第2の標的細胞を照射する工程であ
って、それにより該第2の標的細胞が一時的に透過性にされる、工程をさらに包含する、
項目1に記載の方法。
(23)前記フレームが、少なくとも50mmの面積を有する、項目1に記載の方法。
(24)前記フレームが、少なくとも85mmの面積を有する、項目1に記載の方法。
(25)前記フレームが、少なくとも115mmの面積を有する、項目1に記載の方法。
(26)前記細胞の集団が、レーザーで照射される、項目1に記載の方法。
(27)前記細胞の集団が、ランプで照射される、項目1に記載の方法。
(28)前記細胞の集団が、可視波長、紫外波長、および赤外波長からなる群から選択される光で
照射される、項目1に記載の方法。
(29)前記光の特性が、可視波長、紫外波長または赤外波長からなる群から選択される、項目
1に記載の方法。
(30)前記光の特性が、透過率であり、そして前記標的細胞が、該透過率に関して配置される、
項目1に記載の方法。
(31)前記光の特性が、偏光であり、そして前記標的細胞が、該偏光に関して配置される、請求
項1に記載の方法。
(32)前記光の特性が、反射率であり、そして前記標的細胞が、該反射率に関して配置される、
項目1に記載の方法。
(33)前記光の特性が、位相差照度であり、そして前記標的細胞が、該位相コントラスト照度に
関して配置される、項目1に記載の方法。
(34)前記光の特性が、強度であり、そしてそして前記標的細胞が、該強度に関して配置される
、項目1に記載の方法。
(35)前記照射された標的細胞の50%より多くが、前記方法を実施した後に生存している、請
求項1に記載の方法。
(36)前記照射された標的細胞の80%より多くが、前記方法を実施した後に生存している、請
求項1に記載の方法。
(37)前記照射された標的細胞の90%より多くが、前記方法を実施した後に生存している、請
求項1に記載の方法。
(38)前記標的細胞が、原核生物細胞である、項目1に記載の方法。
(39)前記標的細胞が、真核生物細胞である、項目1に記載の方法。
(40)前記標的細胞が、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、ヒト細胞および非ヒト霊長類細胞から
なる群から選択される、項目1に記載の方法。
(41)前記細胞の集団が、外来性標識と結合した細胞を含む、項目1に記載の方法。
(42)前記標識が、蛍光団である、項目41に記載の方法。
(43)前記標的細胞が、外来性標識と結合している、項目1に記載の方法。
(44)前記標的細胞が、外来性分子の存在下にあり、それにより、該外来性分子が、前記一時的
に透過性にされた細胞に浸入する、項目1に記載の方法。
(45)前記外来性分子が、核酸、ポリペプチド、炭水化物、脂質、および低分子からなる群から
選択される、項目44に記載の方法。
(46)前記低分子が、可視光、紫外光または赤外光を吸収し得る色素である、項目45に記載
の方法。
(47)前記外来性分子の分子量が、0.1キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(48)前記外来性分子の分子量が、0.3キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(49)前記外来性分子の分子量が、1キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(50)前記外来性分子の分子量が、3キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(51)前記外来性分子の分子量が、10キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(52)前記外来性分子の分子量が、30キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(53)前記外来性分子の分子量が、70キロダルトンより大きい、項目44に記載の方法。
(54)工程(b)が、前記フレームから同時に指向される光の少なくとも1つの特性の第2の静
的表示を得る工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(55)前記標的細胞が、前記第1および第2の静的表示に関して配置される、項目54に記載
の方法。
(56)工程(c)および(d)が、1つより多くの標的細胞が配置され、そして照射されるよう
に、繰り返される、項目1に記載の方法。
(57)項目1に記載の方法であって、以下の工程:
(e)第2のフレーム内に含まれる細胞の集団を照射する工程;
(f)該第2のフレームから前記レンズを通って指向される光の少なくとも1つの特性
の静的表示を得る工程、および
工程(c)から(d)を繰り返す工程、
をさらに包含する、方法。
(58)前記細胞の集団が、前記レンズに対して実質的に静止した位置のままである、項目57
に記載の方法。
(59)1分当たり、少なくとも10,000個の細胞が、照射される、項目57に記載の方法

(60)1分当たり、少なくとも20,000個の細胞が、照射される、項目57に記載の方法

(61)1分当たり、少なくとも50,000個の細胞が、照射される、項目57に記載の方法

(62)1分当たり、少なくとも100,000個の細胞が、照射される、項目57に記載の方
法。
(63)以下の工程:
(g)前記レンズに対して前記細胞の集団を移動させる工程、および
工程(a)〜(f)を繰り返す工程をさらに包含する、項目57に記載の方法。
(64)工程(a)〜(f)が自動化される、項目57に記載の方法。
(65)以下の工程:
(e)前記レンズに対して前記細胞の集団を移動させる工程、および
工程(a)〜(d)を繰り返す工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(66)工程(a)〜(d)が、自動化される、項目1に記載の方法。
(67)前記静的表示が、画像を含む、項目1に記載の方法。
(68)前記静的表示が、コンピューターの記憶装置に保存されたデータセットを含む、項目1
に記載の方法。
(69)2倍と40倍との間の倍率を有するカメラをさらに含む、項目1に記載の方法。
(70)2.5倍と25倍との間の倍率を有するカメラをさらに含む、項目1に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(詳細な説明)
標的化された細胞において反応を誘発する目的のために、細胞集団中の特定の細胞を選
択的に同定し、そしてエネルギービームで個々に標的化する方法および装置が記載される
。その細胞集団は、起源において混合した集団または均一であり得る。本発明の方法およ
び装置の、あらゆる実施形態の反応は、致死的または非致死的であり得る。そのような反
応の例を、上記およびこの開示を通じて述べる。標的化される細胞は、標本が混合集団で
ある場合に多くの場合そうであるように、標識し得る。他方、標本が均一である場合、標
的化細胞は、細胞の反応を研究するために、照射源またはエネルギービームが応答指令信
号を送った、または交差した個々の細胞であり得る。例えば、そのような反応は、細胞の
形態学的または生理学的特徴を含む。一般的に、本方法はまず、第1の細胞集団および第
2の細胞集団からなる細胞混合物内で、第1の細胞集団の個々の細胞を同定および位置決
定するマーカーとして作用する標識を採用する。本明細書中の装置および方法によって標
的化される細胞は、細胞の混合集団の場合には選択的に標識されたもの、または照射源ま
たはエネルギービームによって呼びかけ信号または交差をうけるものである。
【0007】
選択された標識は、第2の細胞集団から第1の細胞集団を本質的に同定および区別する
あらゆるものであり得る。例えば、蛍光色素で直接または間接的に標識されたモノクロー
ナル抗体を、特異的標識として使用し得る。細胞表面結合標識の他の例は、選択的細胞結
合能力を有する、非抗体タンパク質、レクチン、炭水化物、または短いペプチドを含む。
PKH−2およびPKH−26のような、膜インターカレート色素も、細胞の有糸分裂歴
を示す有用な区別する標識となり得る。多くの膜透過性試薬も、選択された基準に基づい
て生きた細胞をお互いに区別するために利用可能である。例えば、ファロイジンは膜の完
全性を示し、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)は、ミトコンドリア膜
内外電位差を示し、モノクロロビマン(monochlorobimane)は、グルタ
チオン還元状態を示し、カルボキシメチルフルオレセイン二酢酸(CMFDA)は、チオ
ール活性を示し、カルボキシフルオレセイン二酢酸は、細胞内pHを示し、fura−2
は細胞内Ca2+レベルを示し、そして5,5’,6,6’−テトラクロロ−1,1’,
3,3’−テトラエチルベンズイミダゾロカルボシアニンヨウ化物(JC−1)は、膜電
位を示す。細胞の生存能力を、蛍光SYTO13またはYO PRO試薬の使用によって
評価し得る。同様に、蛍光標識遺伝的プローブ(DNAまたはRNA)を、関心のある遺
伝子を有する、または関心のある遺伝子を発現する細胞を標識するために使用し得る。さ
らに、細胞周期の状態を、存在するDANを標識するHoechst 33342色素を
、新規に合成されたDNAを標識するブロモデオキシウリジン(BrdU)と組み合せて
使用することによって評価し得る。
【0008】
もし第1の集団の細胞に関して特異的な標識が入手可能でなければ、第2の集団の細胞
に特異的な標識を利用することによって、本方法を逆の様式で実行し得ることに留意する
べきである。例えば、造血細胞集団において、CD34またはACC−133細胞マーカ
ーを使用して、混合物中の他の細胞を標識せず、原始的な造血細胞のみを標識し得る。こ
の実施形態において、第1の集団の細胞は、標識の欠如によって同定され、そしてそれに
よってエネルギービームによって標的化される。
【0009】
第1の集団の細胞が同定された後、レーザーから、平行にしたまたは集束した非レーザ
ー光、RFエネルギー、加速粒子(accelerated particle)、集束
した超音波エネルギー、電子ビーム、または他の放射線ビームのようなエネルギービーム
を使用して、第2の集団の細胞に実質的に影響を与えずに、第1の集団の細胞それぞれに
おいて、前もって決定した反応を誘導する標的化されたエネルギー用量を伝達する。
【0010】
そのような前もって決定した反応の1つは、光退色である。光退色において、ローダミ
ン123、GFP、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、またはフィコエリ
トリンのような、色素の形式の標識を、本方法を開始する前に標本に加える。細胞の集団
が色素と相互作用する時間を有した後に、エネルギービームを使用して、集団における個
々の細胞の領域を退色させる。そのような光退色研究を使用して、細胞構成成分の運動性
、補充、力学等および過程を研究し得る。
【0011】
別の反応は、内部分子アンケージングである。そのような過程において、本方法の開始
の前に標本をケージ化分子と組み合せる。そのようなケージ化分子は、L−アスパラギン
酸のβ−2,6−ジニトロベンジルエステルまたは8−ヒドロキシルピレン−1,3,6
−トリス−スルホン酸の1−(2−ニトロフェニル)エチルエーテルを含む。同様に、ア
ルファカルボキシル−2−ニトロベンジル(CNB)および5−カルボキシルメトキシ−
2−ニトロベンジル(CMNB)を含むケージング(caging)グループを、エーテ
ル、チオエーテル、エステル、アミン、または同様の官能基として、生物学的に活性な分
子に連結し得る。「内部分子アンケージング」という用語は、分子アンケージングが細胞
の表面または細胞内で起こるという事実を指す。そのようなアンケージング実験は、細胞
膜透過性および細胞シグナル伝達のような、迅速な分子過程を研究する。
【0012】
さらに別の反応は、外部分子アンケージングである。これは、内部分子ケージング(c
aging)とほぼ同じ過程を使用する。しかし、外部分子アンケージングにおいて、ア
ンケージ化分子は標的化細胞に結合、またはその中に組み込まれていない。代わりに、分
子のケージ化およびアンケージ化異型に対する、周囲の標的化細胞の反応を、本装置およ
び方法によって画像化する。
【0013】
図1は、細胞処理装置10の1つの実施形態の図解である。細胞処理装置10は、装置
の内部構成部品を入れる外被15を含む。外被は、使用者の安全を保障するために、およ
び外部影響(例えば、環境光、粉塵等)による干渉を制限するためにも、レーザー安全イ
ンターロックを含む。処理の間に捕捉した細胞集団の画像を表示するために、ディスプレ
イユニット20が、外被15の上部部分に位置する。これらの画像は、下記でより具体的
に議論されるように、カメラによって捕捉される。データを入力し、そして装置10を制
御するために、キーボード25およびマウス30を使用する。アクセスドア35は、処理
を受ける細胞の標本容器を保持する可動ステージへのアクセスを提供する。
【0014】
装置10の内部透視図を図2で提供する。図解されるように、装置10は、装置の内部
構成部品を保持する、上部トレイ200および下部トレイ210を提供する。上部トレイ
200は、装置10の内部に取り込まれる環境空気をろ過する、1対の取り込み口フィル
ター215A、Bを含む。アクセスドア35の下は、光学的サブアセンブリーである(示
していない)。光学的サブアセンブリーは上部トレイ200に据え付けられ、そして図3
から6に関して詳しく議論される。
【0015】
下部トレイ210上は、装置10を動かすソフトウェアプログラム、コマンドおよび命
令を供給するコンピューター225である。それに加えて、コンピューター225は、細
胞を処理するために、標本の適切な位置にレーザーを向けるために、電気的シグナル連結
を通して、処理装置に対するコントロールシグナルを提
供する。
【0016】
図解されるように、一連の電力供給源230A、B、Cが、装置10内の様々な電気的
構成部分に電力を提供する。それに加えて、無停電電源235が組み込まれ、短い外部電
力遮断中、装置が機能し続けることを可能にする。
【0017】
図3は、細胞処理装置10の実施形態内の、光学的サブアセンブリーデザイン300の
、1つの実施形態のレイアウトを提供する。図解されるように、照射レーザー305が、
標本内の標的化細胞に結合した特定の標識を励起するために使用される、指向性レーザー
出力を提供する。この実施形態において、照射レーザーは、532nmの波長で発光する
。照射レーザーが光ビームを産生すれば、光はレーザー光のパルス長を調節するシャッタ
ー310へ通過する。
【0018】
照射レーザー光がシャッター310を通過した後、それはボールレンズ315に入り、
そこでそれはSMA光ファイバーコネクター320へ集束する。照射レーザービームが光
ファイバーコネクター320に入った後、それは光ファイバーケーブル325を通じて出
口330まで伝達される。照射ビームを、光ファイバーケーブル325を通過させること
によって、照射レーザー305を処理装置内のあらゆる場所に置くことができ、そして従
って光学的構成部品への直接光経路内に置くだけに限らない。1つの実施形態において、
光ファイバーケーブル325は、モードスクランブル(mode scrambling
)およびより均一な照射スポットを産生する目的のために、振動モーター327に連結さ
れる。
【0019】
光が出口330を通過した後、それは細胞の1つのフレームを照射するために適当な直
径へビームを集束させるために、一連の集光レンズへ指向される。本明細書中で使用され
る場合、細胞の1つのフレームは、カメラによって捕捉される1つのフレーム画像内に捕
捉される生物学的標本の部分として定義される。これは、下記でより具体的に記載される

【0020】
よって、照射レーザービームは第1の集光レンズ335を通過する。1つの実施形態に
おいて、この第1の集光レンズは4.6mmの焦点距離を有する。次いで光ビームは第2
の集光レンズ340を通過し、それは1つの実施形態において100mmの焦点距離を提
供する。最後に、光ビームは第3の集光レンズ345を通過し、それは好ましくは200
mmの焦点距離を提供する。本発明が特定の集光レンズを用いて記載されたが、照射レー
ザービームを有用な直径に集束させる他の同様なレンズ設定が同様に機能することが明ら
かである。従って、本発明はあらゆる特定の集束レンズシステムの特異的な実行に制限さ
れない。
【0021】
照射レーザービームが第3の集光レンズ345を通過すると、それは、照射レーザーか
ら放射された532nmの波長の光を透過するよう設計された、キューブビームスプリッ
ター350に入る。好ましくは、キューブビームスプリッター350は、25.4mmの
キューブである(Melles−Griot、Irvine、Calif.)。しかし、
他のサイズが同様に機能すると予測される。それに加えて、多くのプレートビームスプリ
ッターまたは薄膜ビームスプリッターを、機能の測定できる変化無しに、キューブビーム
スプリッター350の代わりに使用し得る。
【0022】
照射レーザー光がキューブビームスプリッター350を通して透過したら、それは長波
通過ミラー355に達し、それは検流計ミラー360のセットに532nmの照射レーザ
ー光を反射させ、それは照射レーザー光をコンピューターの制御下で走査レンズ(Spe
cial Optics、Wharton、N.J.)365に向け、それは照射レーザ
ー光を標本(示していない)に向ける。照射レーザー光が、画像化のために適切な細胞集
団(すなわち細胞のフレーム)に指向されるように、検流計ミラーが調節される。本発明
のこの実施形態において記載される「走査レンズ」は、屈折レンズを含む。本発明におい
て使用される「走査レンズ」という用語は、単独でまたは組み合せて使用される、1つま
たはそれ以上の屈折または反射光学的エレメントのシステムを含むがこれに限らないこと
に注意する。さらに、「走査レンズ」は、1つまたはそれ以上の屈折および/または反射
光学的エレメントと組み合せて使用される、1つまたはそれ以上の回折エレメントのシス
テムを含み得る。当業者は、適切な細胞集団を照射するために、どのように「走査レンズ
」システムを設計するかを知っている。
【0023】
照射レーザーからの光は、標本を照射するために有用な波長である。この実施形態にお
いて、持続波532nm Nd:YAG 二倍周波数レーザー(B&W Tek、New
ark、Del.)からのエネルギーは、長波通過ミラー(Custom Scient
ific、Phoenix、Ariz.)で反射し、そして標本中の蛍光標識を励起する
。1つの実施形態において、蛍光標識はフィコエリトリンである。あるいは、Alexa
532(Molecular Probes、Eugene、Oregon)を使用し得
る。フィコエリトリンおよびAlexa532は、580nm付近にピークを有する発光
スペクトルを有し、標本から放射された蛍光は、カメラに指向されるために長波通過ミラ
ーを通して透過する。カメラの前のフィルターの使用は、関心のある波長の範囲に含まれ
ない光を遮断し、それによってカメラに入るバックグラウンド光の量を抑制する。
【0024】
フィルターありまたは無しのアーク灯(例えば水銀、キセノン等)、発光ダイオード(
LED)、他の型のレーザー等を含むがこれに限らない、多くの他の装置を、この方式で
標本を照射するために使用し得ることが、一般的に公知である。この特定のレーザーの利
点は、高い強度、比較的効率的なエネルギー使用、小型のサイズ、および最低限の熱産生
を含む。異なる励起および発光スペクトルを有する他の蛍光色素を、適当な照射源、フィ
ルター、および長波および/または短波通過ミラーの選択を有するそのような装置で使用
し得ることも一般的に公知である。例えば、アロフィコシアニン(APC)を、633n
m NeHe照射レーザーで励起し得、そしてフルオロイソチオシアネート(FITC)
を、488nmアルゴン照射レーザーで励起し得る。当業者は、本発明の目的を達成する
ために、様々な構成部分を有する、多くの他の光学的配置を提案し得る。
【0025】
照射レーザー305に加えて、光学的処理レーザー400が、一旦標的化細胞が画像分
析によって同定されたら、それらを照射するために存在する。当然、1つの実施形態にお
いて、その処理は細胞集団中の標的化細胞の壊死を誘導する。示すように、処理レーザー
400は、523nmのエネルギービームを出力し、それはシャッター410を通過する
。典型的なレーザーは523nmの波長を有するエネルギービームを出力するが、他の波
長でエネルギーを産生する他の供給源も本発明の範囲内である。
【0026】
一旦処理レーザーエネルギービームがシャッター410を通過すると、それはビームエ
キスパンダー(Special Optics、Wharton、N.J.)415に入
り、それはエネルギービームの直径を標本の平面で適切なサイズに調整する。ビームエキ
スパンダー415の次は、二分の一波長板420であり、それはビームの偏光を調節する
。次いで処理レーザーエネルギービームは、ミラー425で反射し、そしてキューブビー
ムスプリッター350に入る。処理レーザーエネルギービームは、それが照射レーザー光
ビームの出口経路と一直線に並ぶように、キューブビームスプリッター350で90度反
射する。従って、処理レーザーエネルギービームおよび照射レーザー光ビームは、どちら
も同じ光路に沿って、キューブビームスプリッター350を出る。キューブビームスプリ
ッター350から、処理レーザービームは長波通過ミラー355で反射し、検流計360
によって向けられ、その後走査レンズ365に接触し、そして最後に標本中の標的化細胞
に集束する。再び、この実施形態で記載される「走査レンズ」は、屈折レンズを含む。前
に述べたように、「走査レンズ」という用語は、単独でまたは組み合せて使用される、1
つまたはそれ以上の屈折または反射光学的エレメントのシステムを含むがこれに限らない
。さらに、「走査レンズ」は、1つまたはそれ以上の屈折および/または反射エレメント
と組み合せて使用される、1つまたはそれ以上の回折エレメントを含み得る。当業者は、
標本中の標的化細胞に集束させるために、「走査レンズ」システムをどのように設計する
か知っている。
【0027】
照射レーザー光ビームの少しの部分が、長波通過ミラー355を通過し、そして電力検
出器(Gentec、Palo Alto、Calif.)445に入ることに注意する
。パワーセンサー445に入ったビームの一部は、照射レーザー305から放射されたパ
ワーのレベルを計算するために使用される。類似の様式で、処理レーザーエネルギービー
ムの少しの部分が、キューブビームスプリッター350を通過し、そして第2の電力検出
器(Gentec、Palo Alto、Calif.)446に入る。パワーセンサー
446に入ったビームの一部は、処理レーザー400から放射されたパワーのレベルを計
算するために使用される。電力検出器は、コンピューターシステム内の命令/コマンドが
、パワー測定値を捕捉して、そして放出されたエネルギーの量を決定するように、コンピ
ューターシステムと電気的に連結される。
【0028】
処理レーザーからのエネルギービームは、細胞において反応を達成するために有用な波
長である。示した例において、パルス523nm Nd:YLF 二倍周波数(freq
uency−doubled)レーザーを使用して、標的化細胞を含む局所的な容量を加
熱し、前もって決定した時間の間に死ぬように誘導される。Niemz,M.H.、La
ser−tissue interactions: Fundamentals an
d Applications(Springer−Verlag、Berlin 19
96)によって概説されたように、死のメカニズムは、細胞内で達成された実際の温度に
依存する。
【0029】
その安定性、発射の高い再現率、および長期間のメンテナンスフリーサービスのために
、Nd:YLF 二倍周波数(frequency−doubled)固体レーザー(S
pectra−Physics、Mountain View、Calif.)を使用す
る。しかし、ほとんどの細胞培養液および細胞は、この緑色波長の光に対して比較的透過
性であり、そして従って非常に高いエネルギーの誘導が細胞死を達成するために必要であ
る。必要なエネルギーの量、そして従って処理レーザーの費用およびサイズを有意に抑制
するために、色素を故意に標本に加えて、標本中に処理レーザーのエネルギーを効率的に
吸収する。示した例において、非毒性色素FD&Cレッド#40(アルラレッド)を使用
して、処理レーザーからの523nmエネルギーを吸収するが、当業者は、標本によるエ
ネルギーの効率的な吸収を引き起こす他のレーザー/色素の組み合せを同定し得る。例え
ば、633nm HeNeレーザーのエネルギーは、FD&Cグリーン#3(ファストグ
リーンFCF)によって効率的に吸収され、488nmのアルゴンレーザーのエネルギー
はFD&Cイエロー#5(サンセットイエローFCF)によって効率的に吸収され、そし
て1064nmのNd:YAGレーザーのエネルギーはFiltron(Gentex、
Zeeland、Mich.)赤外線吸収色素によって効率的に吸収される。より多くの
処理レーザーエネルギーがそのような色素の存在下で吸収されるので、エネルギー吸収色
素の使用によって、標的化細胞を破壊するために必要なエネルギーの量を抑制し得る。
【0030】
色素の添加なしに細胞の熱破壊(thermal killing)を達成する別の方
法は、紫外線レーザーの使用を含む。355nmのNd:YAG 三倍周波数(freq
uency−tripled)レーザーからのエネルギーは、細胞内の核酸およびタンパ
ク質によって吸収され、加熱および致死を引き起こす。色素の添加なしに細胞の熱破壊(
thermal killing)を達成するさらに別の方法は、近赤外線レーザーの使
用を含む。2100nm Ho:YAGレーザーまたは2940nm Er:YAGレー
ザーからのエネルギーは、細胞内の水によって吸収され、過熱および死を引き起こす。
【0031】
この実施形態は、エネルギービームによる加熱による細胞の破壊を記載するが、当業者
は、Niemz(Niemz、前出)によって概説されたように、エネルギービームによ
って、光機械的破壊、光解離、光剥離、および光化学的反応を含む、他の反応も細胞内で
誘導し得ることを認識する。例えば、細胞混合物中の光感受性物質(例えばヘマトポルフ
ィリン誘導体、チネチオプルプリン(tinetiopurpurin)、ルテチウムテ
キサフィリン)(OleinickおよびEvans、光力学治療の光生物学:細胞標的
およびメカニズム、Rad.Res.150:S146−S156(1988))を、照
射によって標的化細胞内で特異的に活性化し得る。さらに、細胞膜に小さい一過性の小孔
を作製して(Palumboら、色素補助レーザーオプトポレーションによる、真核細胞
における標的化遺伝子転移、J.Photochem.Photobiol.36:41
−46(1996))、遺伝的または他の材料の侵入を可能にし得る。さらに、タンパク
質または遺伝的材料のような、細胞内または上の特異的分子を、指向性エネルギービーム
によって不活性化し得る(GrateおよびWilson、RNA転写物のレーザーによ
る、部位特異的不活性化、PNAS 96:6131−6136(1999);Jay,
D.G.、発色団補助レーザー不活性化によるタンパク質機能の選択的破壊、PNAS
85:5454−5458(1988))。また、光退色を利用して、膜におけるタンパ
ク質の拡散および有糸分裂中の微小管の動きのような、細胞内の動きを測定し得る(La
dhaら、J.Cell Sci.、110(9):1041(1997);Cento
nzeおよびBorisy、J.Cell Sci.100(part 1):205(
1991);WhiteおよびStelzer、Trends Cell Biol.9
(2):61−5(1999);Meyvisら、Pharm.Res.16(8):1
153−62(1999))。さらに、ケージ化化合物の、多光子アンケージングを含む
光分解またはアンケージングを利用して、生物学的に活性な産物または関心のある他の産
物の、時間的および空間的分解能を有する放出を制御し得る(TheriotおよびMi
tchison、J.Cell Biol.119:367(1992);Denk、P
NAS 91(14):6629(1994))。特異的標的化細胞に指向された電磁放
射の使用によって、標的化細胞において反応を誘導するこれらのメカニズムもまた、本発
明に含まれるよう意図される。
【0032】
照射レーザー305および処理レーザー400に加えて、その装置は細胞集団の画像(
すなわちフレーム)を捕捉するカメラ450を含む。図3で図解されるように、カメラ4
50は、逸脱したバックグラウンド画像を捕捉することなく、細胞の画像を正確に記録す
るために、レンズ455およびフィルター460を通して焦点を合わせる。絞り462は
、標本からの画像と関係ない角度からカメラに入り得る光を排除するために、フィルター
460およびミラー355の間に位置する。フィルター460は、ある波長範囲の光の通
過のみを可能にするように選択される。この波長範囲は、照射レーザー305による励起
時に標的化細胞から放出される光、および背面光源475からの光を含む。
【0033】
背面光源475は、照射レーザー305によって提供されるものとは異なる波長で標本
の背面照射を提供するために、標本の上に位置する。このLEDは、590nmで光を産
生し、カメラに指向されるために長波通過ミラーを通して透過し得る。この背面照射は、
画像化されるフレーム内に蛍光標的が存在しない場合に細胞を画像化するために有用であ
る。この背面光の有用性の例は、フレーム中に非染色、非蛍光細胞のみが存在する場合で
も、システムの適当な焦点を達成することにおけるその使用である。1つの実施形態にお
いて、背面光は、アクセスドア35の下側に据え付けられる(図2)。
【0034】
従って、上記で議論されたように、カメラに戻る唯一の光は、標本において関心のある
波長からである。他の波長の光は、フィルター460を通過せず、そして従ってカメラ4
50によって記録されない。これは、関心のある細胞のみの画像を捕捉する、より高い信
頼性のメカニズムを提供する。単一のフィルター460は、異なるフィルターを光学的経
路に出し入れすることを可能にする可動フィルターホイールによって置換し得ることが、
当業者に容易に明らかである。そのような実施形態において、異なる波長の光の画像を、
細胞処理の間の異なる時間に捕捉し得、複数の細胞標識の使用を可能にする。
【0035】
この実施形態において、カメラは電荷結合素子(CCD)であり、そして処理のために
画像をコンピューターシステムに伝達して戻すことに留意すべきである。下記で記載され
るように、コンピューターシステムは、CCDカメラによって捕捉された画像に関して、
標本における標的化細胞の座標を決定する。
【0036】
図4に関して、光学的サブアセンブリーの実施形態の透視図を図解する。図解されるよ
うに、照射レーザー305は、シャッター310およびボールレンズ315を通してSM
A光ファイバーコネクター320へ光ビームを送る。光は、光ファイバーケーブル325
を通って、および出口330を通って集光レンズ335、340、および345へ通過す
る。次いで光はキューブビームスプリッター350に入り、そして長波通過ミラー355
に伝達される。長波通過ミラー355から、光ビームはコンピューター制御検流計360
に入り、そして次いで走査レンズ365から標本における細胞の適当なフレームへ指向さ
れる。
【0037】
これも図4の透視図で図解されるように、処理レーザー400は、エネルギーを、シャ
ッター410を通して、そしてビームエキスパンダー415へ伝達する。処理レーザー4
00からのエネルギーは、ビームエキスパンダー415を通過し、そしてフォールドミラ
ー(fold mirror)425に達する前に二分の一波長板420を通過し、キュ
ーブビームスプリッター350に入り、そこでそれは長波通過ミラー355に90度反射
されて、そこからそれはコンピューター制御検流計ミラー360へ反射される。検流計ミ
ラー360によって走査レンズ365へ指向された後、レーザーエネルギービームは、特
定の標的化細胞において反応を誘導するために、細胞集団中の適当な位置に当たる。
【0038】
処理する標本の非常に広い表面領域に適応するために、その装置は、走査レンズに関し
て標本容器を機械的に動かす可動ステージを含む。従って、一旦、走査レンズ視野中で、
細胞の特定の部分集団(すなわちフィールド)が処理されたら、可動ステージが別の細胞
の部分集団を走査レンズ視野内に持ってくる。図5で図解されるように、コンピューター
制御可動ステージ500は、処理される標本容器(示していない)を保持する。可動ステ
ージ500は、標本容器が装置の光学的構成部分と相対的に移動し得るように、2つの軸
にそってコンピューター制御サーボモーターによって移動する。規定された経路にそった
ステージの動きは、装置の他の操作と調和する。それに加えて、可動ステージが関心のあ
る位置に戻ることを可能にするために、特定の座標を保存および再現し得る。x方向移動
およびy方向移動のエンコーダーは、ステージ位置に対する閉回路フィードバック制御を
提供する。
【0039】
フラットフィールド(F−シータ)走査レンズ365は、可動ステージの下に取り付け
られる。走査レンズ視野は、可動ステージ500によって現在走査レンズの上に位置する
標本の部分を含む。そのレンズ365は、ステッピングモーターに取り付けられ、それは
システムの焦点を合わせる目的のために、レンズ365が自動的に(Z軸に沿って)昇降
することを可能にする。
【0040】
図4から6で図解されるように、走査レンズ365の下は、検流計制御操縦ミラー36
0であり、それは2つの垂直の軸にそって電磁エネルギーを偏向させる。操縦ミラーの後
ろは、長波通過ミラー355であり、それは545nmより短い波長の電磁エネルギーを
反射する。545nmより長い波長は、長波通過ミラーを通過し、フィルター460、結
合レンズ(coupling lens)455を通って、そしてCCDカメラへ向けら
れ、それによってカメラ450のCCDセンサーに適当な大きさの画像を産生する(図3
および4を参照のこと)。走査レンズ365および結合レンズ(coupling le
ns)455の組み合せによって規定される倍率は、カメラによって1つのフレームで見
られる領域を最大にしながら単一の細胞を信頼性高く検出するよう選択される。CCDカ
メラ(DVC、Austin、Tex.)がこの実施形態において図解されるが、そのカ
メラは、当業者に公知のあらゆる型の検出器または画像蓄積装置であり得る。装置の光学
的サブアセンブリーは、好ましくは図2および5で図解されるように、操作中の安定性を
提供するために振動隔離プラットフォームに取り付けられる。
【0041】
今は図7に関して、可動ステージ500の上部透視図が図解される。示されたように、
標本容器が、可動ステージ500上に取り付けられる。標本容器505は、上部軸ネスト
プレート(nest plate)510上にあり、それは可動ステージ500に関して
前向き/後ろ向きの方向に動くよう設計される。コンピューターからのコマンドが、標本
容器505の前向き/後ろ向きの動きを引き起こすように、ステッピングモーター(示し
ていない)が、上部軸ネストプレート(nest plate)510およびコンピュー
ターシステムに連結される。
【0042】
可動ステージ500はまた、タイミングベルト515にも連結され、それは1対のベア
リングトラック525A、Bにそって可動ステージ500の横から横への動きを提供する
。タイミングベルト515は、滑車カバー530の下に収納された滑車(示していない)
に結合する。その滑車はステッピングモーター535に連結し、それはタイミングベルト
515を動かして可動ステージ500の横から横への動きを引き起こす。コンピューター
システム内のコマンドが、可動ステージ500の横から横への動きを引き起こすように、
ステッピングモーター535は、コンピューターシステムに電気的に連結されている。移
動限界センサー540は、コンピューターシステムに連結し、そして可動ステージが前も
って決定した横への距離を越えて動くと警告を与える。
【0043】
装置の操作に干渉し得るあらゆる過剰な衝突または振動を記録するために、1対の振動
加速度計545A、Bが、好ましくはこのプラットフォームに組み込まれる。それに加え
て、標本容器が水平であることを保証し、それによって標本容器における重力による運動
の可能性を抑制するために、二軸傾角計550が、好ましくは可動ステージに組み込まれ
る。
【0044】
標本チャンバは、標本容器における結露を除去するために、ダクト構造を有するファン
を、そして標本チャンバが許容可能な温度範囲にあるかどうかを決定するために熱電対を
有する。電気的構成部分によって産生される熱を排出するために、さらなるファンが提供
され、そして適当なフィルターが空気取り入れ口215A、Bに使用される。
【0045】
コンピューターシステム225が、操作および上記で記載した様々な部分の電気的ハー
ドウェアの同期化を制御する。そのコンピューターシステムは、ハードウェアと連結し得
る、あらゆる市販で入手可能なコンピューターであり得る。そのようなコンピューターシ
ステムの1つの例は、Microsoft WINDOWS(登録商標)NT オペレー
ティングシステムを走らせるIntel Pentium(登録商標) II、IIIま
たはIVに基づくコンピューターである。様々な装置と通信するために、および下記で記
載する方式で操作を制御するために、ソフトウェアを使用する。
【0046】
最初に、装置を初期化する場合、コンピューターは、装置の適当な初期化のために、ハ
ードドライブからRAMへファイルをロードする。装置が適当に作動することを保証する
ために、多くの内臓テストが自動的に実施され、そして装置を較正するために較正ルーチ
ンが実施される。これらのルーチンが成功して完了した時に、使用者は、実施される手順
に関してキーボードおよびマウスによって情報を入力するよう促される。必要な情報が入
力されたら、使用者は、アクセスドア35を開け、そして標本を可動ステージへ載せるよ
う促される。
【0047】
標本が可動ステージ上の位置にあり、そしてドアが閉じられると、コンピューターは、
ホームポジション(home position)へ移動するようステージにシグナルを
伝達する。ファンは、標本の加温および曇り取りを始めるために初期化される。この時間
の間に、標本中の細胞を、底表面に落ち着かせる。それに加えて、この時間の間に、装置
は標本が適当に載せられたこと、およびシステム光学機械の焦点範囲内であることを保証
するためにコマンドを走らせ得る。例えば、標本容器の底に適当に走査レンズの焦点が合
うことを保証するために、標本容器上の特定の印を、システムによって位置決定し、そし
て焦点を合わせ得る。そのような印をまた、容器、その内容、および実施される手順さえ
も同定するために、装置によって使用し得る。適当な時間の後、コンピューターはファン
のスイッチを切って処理中の過剰な振動を予防し、そして細胞処理が始まる。
【0048】
最初に、処理される標本の最初の領域(すなわちフィールド)が、直接走査レンズ視野
内であるように、コンピューターが、可動ステージに、走査レンズ上に位置するよう指示
する。検流計ミラーは、視野内の中央フレームがカメラで画像化されるように動くよう指
示される。下記で議論するように、走査レンズによって画像化されるフィールドは、複数
のフレームに分割される。各フレームは、フレーム内の細胞がカメラによって効率的に画
像化されるように適当な大きさである。
【0049】
次いで走査レンズによって焦点が合わせられるように視野を照射するために、背面光4
75が活性化される。適当に標本上に走査レンズの焦点を合わせると、各フレームがカメ
ラによって別々に分析されるように、コンピューターシステムが視野を複数のフレームに
分割する。この方法論は、機械的ステージを動かさずに、装置が大きな視野中の複数のフ
レームを処理することを可能にする。検流計は、ステージの移動に関与する機械的工程と
比較して、1つのフレームから次へと非常に迅速に移動し得るので、この方法は、非常に
迅速および効率的な装置を与える。
【0050】
標本に焦点が合っていることを保証する他の手段も利用可能である。例えば、レーザー
プロキシメータ(proximeter)(Cooke Corp.、Auburn、M
ich.)は、走査レンズおよび試料間の距離を迅速に決定し、そしてそれによって走査
レンズの位置を調整し得る。超音波プロキシメータも利用可能であり、そして同じ目的を
達成する。当業者は、走査レンズ上で標本に焦点が合っていることを保証する他の手段を
提案し得る。
【0051】
1つの好ましい実施形態において、本明細書中で記載した装置は、1分あたり生物学的
標本の、少なくとも1平方センチメートル、2平方センチメートル、3平方センチメート
ル、4平方センチメートル、5平方センチメートル、6平方センチメートル、7平方セン
チメートル、または14平方センチメートルを処理する。別の実施形態において、本明細
書中で記載した装置は、1分あたり生物学的標本の、少なくとも25万細胞、50万細胞
、百万細胞、2百万細胞、3百万細胞、4百万細胞または8百万細胞を処理する。1つの
他の実施形態において、装置は好ましくは、50細胞/秒、100細胞/秒、150細胞
/秒、200細胞/秒、250細胞/秒、300細胞/秒、350細胞/秒、400細胞
/秒、または800細胞/秒の速度で標的化細胞において反応を誘導し得る。
【0052】
最初に、視野の中央におけるフレームの画像をカメラによって捕捉して、そしてコンピ
ューターのメモリーに保存する。コンピューター中の指示が、画像における大きさ、数、
および他の客観的特徴を見ることによって、標本の焦点を分析する。もし必要なら、最良
の焦点を達成するために、コンピューターは走査レンズに結合したZ軸モーターに上昇ま
たは下降するよう指示する。装置は、最良の焦点が達成されるまで、いくつかのZ位置に
おいて画像を反復して分析し得る。次いで検流計制御ミラーが、カメラで視野中の最初の
フレームを画像化するよう指示される。例えば、視野全体を、4、9、12、18、24
またはより多くの別々のフレームに分割し得、それらはカメラによって個々に捕捉される
。検流計ミラーが、視野中の最初のフレームに指向されたら、照射レーザーの前のシャッ
ターが開いて、検流計ミラーおよび走査レンズを通して最初のフレームを照射する。カメ
ラは、細胞の最初のフレームにおいて標本からのあらゆる蛍光発光の画像を捕捉する。画
像が得られたら、照射レーザーの前のシャッターは閉じられ、そしてコンピューター中の
ソフトウェアプログラム(Epic、Buffalo Grove、Ill)が、画像を
処理する。
【0053】
上記で議論したパワーセンサー445が、照射レーザーによって放出された光のレベル
を検出し、それによってコンピューターが、それが細胞のフレームを照射するのに適当で
あったかどうか計算することを可能にする。もしそうでなければ、別の照射および画像捕
捉シークエンスが行なわれる。標本の十分な照射の失敗が続くとエラー状態を引き起こし
、それは操作者に伝えられる。
【0054】
照射光のシャッタリング(shuttering)は、標本の望ましくない加熱および
光退色を抑制し、そしてより再現性のある蛍光シグナルを提供する。画像分析アルゴリズ
ムを走らせて、捕捉された画像における特徴を参考にして、フレームにおける全ての標的
化細胞のx−y重心座標を位置決定する。画像中に標的が存在するならば、コンピュータ
ーは、可動ステージ位置および視野に関して、全ての標的位置の二次元座標を計算し、そ
して次いで検流計制御ミラーを、細胞の最初のフレームにおける最初の標的の位置に向く
よう適当な位置に置く。視野内の細胞の単一のフレームのみが、この時点で捕捉および分
析されることに注意する。従って、標本のこの部分集団において、比較的少数の同定され
た標的が存在する。さらに、カメラはより小さな細胞の集団に向けられているので、各標
的がCCDカメラで多くのピクセル数で画像化されるように、より高い倍率が使用される

【0055】
コンピューターシステムが、検流計制御ミラーを、細胞の最初のフレームにおける最初
の標的化細胞の位置に向くよう適当な位置に置けば、最初の標的化細胞に適当なエネルギ
ー用量を与えるように、処理レーザーが短い間隔で発射される。上記で議論したパワーセ
ンサー446が、処理レーザーによって放出されたエネルギーのレベルを検出し、それに
よってコンピューターが、標的化細胞において反応を誘導するのに適当であったかどうか
を計算することを可能にする。もし十分でなければ、処理レーザーは同じ標的に再び発射
される。反復する発射が必要なエネルギー用量を伝達しなければ、エラー状態が操作者に
伝えられる。これらの標的化、発射、および検知工程が、捕捉されたフレーム中で同定さ
れた全ての標的に関して、コンピューターによって反復される。
【0056】
細胞の最初のフレームにおいて、全ての標的が処理レーザーで照射されたら、ミラーを
次いで視野の第2のフレームに向けて配置し、そしてフレーム照射およびカメラ画像化の
時点で処理を反復する。この処理を、走査レンズ上の視野における全てのフレームに関し
て続行する。これらのフレームを全て処理したら、コンピューターが可動ステージに、標
本の次の視野に移動するよう指示し、そして背面光照射および自動焦点工程の時点で処理
を反復する。フレームおよび視野は、標本の領域を不注意に見逃す可能性を抑制するため
に、適当に重複する。標本が完全に処理されると、操作者は標本を取り除くよう信号を送
られ、そして装置はすぐに次の標本のための準備が整っている。
【0057】
上記の文は、標的の位置決定のための、蛍光画像の分析を記載するが、非蛍光背面光L
ED照射画像も、それらが標識されていないとしても、他の型の標的を位置決定するため
に有用であることを容易に想像し得る。
【0058】
連続的なフレームの画像化および連続的な標的の照射を制御するために検流計ミラーを
使用する利点は重大である。検流計の1つのブランドは、Cambridge Tech
nology,Inc. モデル番号6860(Cambridge、Mass.)であ
る。この検流計は、数ミリ秒以内に非常に正確に位置を変えることができ、妥当な時間内
に大きな領域および多くの標的の処理を可能にする。対照的に、可動ステージは比較的遅
く、そして従って標本の特定の領域を走査レンズ視野に動かすためだけに使用される。画
像が捕捉される前に、または標的に発射される前に、ミラーが位置にありそして安定であ
ることを保証するために、閉回路様式において、検流計制御盤によって持続的に産生され
るエラーシグナルが、コンピューターによってモニターされる。
【0059】
本発明の文脈において、「標本」という用語は広い意味を有する。それは、装置内に置
かれたあらゆる型の生物学的試料を含むよう意図される。標本は、細胞の滅菌性および生
存能力を維持するために、容器に封入され得る、またはそれに結合し得る。さらに、本明
細書中で記載された方法の作動中に、それを環境温度より上または下に保つために、標本
は冷却装置に組み込まれ得る、または結合し得る。標本容器は、もしそれが使用されるな
ら、それ自身を実質的に損傷することなく適当なエネルギーを伝達するように、照射レー
ザー、背面光照射器、および処理レーザーの使用と適合性でなければならない。
【0060】
当然、照射、画像化、および細胞の標的化の代替方法を含む、上記で記載した実施形態
の多くのバリエーションが可能である。例えば、走査レンズに対する相対的な標本の動き
は、走査レンズを動かしながら標本を実質的に静止したまま保つことによって達成し得る
。照射ビーム、画像、およびエネルギービームの操縦は、プリズム、圧電性傾斜プラット
フォーム、または聴覚光学デフレクターを含む、あらゆる制御可能な反射または回折装置
によって達成し得る。さらに、装置は標本の下または上のいずれからも画像化/処理し得
る。装置は、可動走査レンズによって焦点を合わせるので、照射およびエネルギービーム
を、z軸に沿って異なる焦平面に向け得る。従って、異なる垂直高に位置する標本の部分
を、3次元的な様式で、その装置によって特異的に画像化および処理し得る。工程の順序
も、処理を変化させずに変化させ得る。例えば、標本中の全ての標的の座標を位置決定お
よび保存し、そして次いで標的に戻って、ある時間の間にエネルギーで1回またはそれ以
上の回数照射し得る。
【0061】
標本を最適に処理するために、標本の大部分がせまい範囲の焦点内に現れ、それによっ
て自動焦点工程を繰り返す必要を抑制するように、それを実質的に水平な表面に置く。こ
の表面上の細胞密度は、原則として、任意の値であり得る。しかし、細胞密度は、処理の
ために必要な全表面領域を最小にするために、可能な限り高くあるべきである。
【0062】
本発明のさらなる実施形態は、標的細胞を一時的に透過性にするオプトインジェクショ
ン方法を提供する。一般的な方法において、その工程は、(a)フレームに含まれる細胞
の集団を照射する;(b)フレームから指向される光の、少なくとも1つの性質を検出す
る;(c)その光の性質によって標的細胞を位置決定する;および(d)放射線のパルス
によって標的細胞を照射することである。
【0063】
本方法で使用される「細胞」は、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、ヒト細胞、および非
ヒト霊長類細胞のような、原核生物細胞および真核生物細胞を含む、あらゆる生物学的細
胞であり得る。細胞を有機体から採取し得る、または細胞培養から回収し得る。本方法は
また、細胞レベル下の細胞小器官を透過性にするために適用し得る。
【0064】
細胞の「集団」という用語は、1つ以上のそのような細胞のグループを意味することに
なる。本方法を実施する間に、細胞の集団を505のような標本容器中で与え得る。
【0065】
細胞はまた、蛍光団のような外来性標識と結合し得る。本発明において有用な他の標識
は、上記で詳細に記載された。
【0066】
細胞の集団を、レーザーおよびアーク灯を含む、光エネルギーを提供し得るあらゆる光
源によって「照射」し得る。光エネルギーは、可視光、紫外線および赤外線のような、あ
らゆる波長であり得る。光が400のようなレーザーからの場合、有用な波長は、100
nmから1000nm、200nmから800nm、320nmから695nm、および
330nmから605nmの範囲であり得る。特定の波長は、349nm、355nm、
488nm、523nm、532nm、580nm、590nm、633nm、1064
nm、2100nm、および2940nmを含む。他の照射光源は、上記で詳細に記載さ
れたような、エネルギービームのあらゆる供給源を含む。次いで光を、ミラー、レンズお
よびビームスプリッターのようなあらゆる伝統的な手段で細胞の集団に向け得る。
【0067】
細胞が照射されたら、それらを「フレーム」において観察し得る。以前に定義されたよ
うに、細胞の1つの「フレーム」は、カメラによって捕捉された1つのフレーム画像内に
捕捉された、生物学的標本の一部である。特に有用なフレームは、少なくとも50、70
、85、95、または115mmの領域を有し得る。カメラの有用な倍率範囲は、2X
および40Xの間、そしてより特定には2.5Xおよび25Xの間、そしてさらにより特
定には5Xおよび10Xの間である。
【0068】
フレームが照射される場合、1つまたはそれ以上の光の性質を、次いでフレームから検
出し得る。検出可能な性質は、可視、紫外および赤外波長を有する光、透過率および反射
率の強度、蛍光、直線偏光および円偏光、および位相差照度を含む。これらの性質を、既
に上記で詳細に記載された装置のような、伝統的な光学的装置によって検出し得る。
【0069】
次いで標的細胞を、その大きさ、形および他の前もって選択された視覚的性質に基づい
て位置決定し、そして次いで放射線のパルスで照射し得る。照射は次いで、標的細胞の表
面を、一時的に透過性にする。特定のメカニズムに本方法を制限しないが、光が、細胞膜
連続性の局所的溶解または他の破壊を引き起こし、細胞を殺すことなく小孔が形成するの
を可能にすると考えられる。
【0070】
細胞の一時的な透過性の結果として、次いで、細胞の存在下の外来性分子が、拡散また
は他のメカニズムのいずれかによって、細胞に入り得る。本明細書中で外来性分子に対し
て適用される「細胞の存在下」という用語は、もし細胞が透過性になれば、次いで外来性
分子が細胞に入り得るような、周囲の培地のような細胞付近の領域であることを意味する

【0071】
本明細書中において、「外来性分子」という用語は、その集団の細胞において天然に存
在しないあらゆる分子または材料を意味する。それはまた、細胞において天然に存在し得
るが、その細胞において天然に存在するよりも有意に高い濃度で存在する分子または材料
を含む。外来性分子は、核酸、ポリペプチド、炭水化物、脂質および小分子を含む。特定
の核酸は、RNA、発現プラスミド、発現カセットおよび他の発現可能なDNAを含む。
特定のポリペプチドは、抗体および他のタンパク質を含み、それを細胞内に導入してプロ
テオミクスにおける適用のために外来性および内因性タンパク質間の相互作用を調査し得
る。他のポリペプチドは、抗原提示樹状細胞への導入のためのペプチドを含む。特定の炭
水化物は、同位元素で標識された糖のような非天然代謝物、および標識デキストランのよ
うなポリサッカライドを含む。特定の脂質は、細胞膜または他の細胞小器官への組込みの
ために前もって選択された脂質、およびリポソームおよび関心のある他の外来性分子を含
むリポソームを含む。特定の小分子は、リガンド−受容体結合を研究するための、内因性
受容体のリガンドを含む。同様に、薬剤を細胞に導入し得、それを今度は伝達装置として
治療的目的のために患者に導入し得る。その用語はまた、可視光、紫外線または赤外線を
吸収し得る色素を含む。
【0072】
外来性分子は、0.1、0.2、0.3、0.5、1、2、3、5、10、20、30
、50、70、100または200キロダルトンさえよりも大きなサイズを有し得る。少
なくとも1つの外来性分子が充填される細胞の効率は、外来性分子の大きさおよび性質に
依存して変化するが、充填効率は、細胞集団の5%、10%、20%、50%、75%、
または90%の高さでさえあり得る。本方法は、2つまたはそれ以上の外来性分子が、同
時にまたは連続的に細胞に充填される技術を含むことも強調されるべきである。
【0073】
有意に、本方法を使用した結果として、50%、60%、70%、80%、90%、9
5%、または98%さえよりも多くの照射標的細胞が、本方法の終了後生存可能であり得
る。細胞生存率を測定する方法は、当該分野で周知であり、生きた細胞を区別する膜透過
性試薬は上記で記載された。例えば、前もって選択された試薬を、本方法を実施する前、
その間、またはその後に培地に加え得る。有用な試薬の特定の例は、生存能力の指標とし
てカルセインAM、および死んだ細胞の指標としてSytox Blueを含む。他の周
知の方法は、トリパンブルー排除、ヨウ化プロピジウムおよび51Cr−放出アッセイを
含む。
【0074】
上記で示された一般的な方法は、特に有用ないくつかの代替実施形態を有することに注
目する。
【0075】
最初に、細胞の集団が実質的に静止している場合に、一般的な方法を使用し得る。本明
細書中において「実質的に静止している」という用語は、細胞が培地に関して相対的に静
止しており、そして流れる培地中にないことを意味し、そして細胞は容器の著しい動きを
受けないが、通常典型的な研究室において起こる振動およびわずかな動きを受け得る。そ
の用語は表面にまたは培地中に固定化された細胞を含むが、実質的に静止した細胞は、実
質的に静止していると考えられるために、表面に固定化または他の方法で結合している必
要はない。従って、その用語は、標本容器の底に安定した細胞を含む。
【0076】
細胞の集団が実質的に静止している場合、フレームにおける細胞の静止画像を得ること
が有用になる。本明細書中において「静止画像」という用語は、「ライブ」モニターにお
けるような連続画像ではなく、固定されたおよび不連続の時間の間に撮られた細胞の実質
的に完全な画像を意味する。
【0077】
細胞は実質的に静止しているので、静止画像を次いで、続く時点で1つまたはそれ以上
の細胞の位置の信頼できる指標として使用し得る。さらに、細胞の移動を過剰に心配する
ことなく、2つの画像を有用に比較し得るように、静止画像を1つのセットの条件下で得
て、そして別の静止画像を異なるセットの条件下で得ることができる。例えば、可視光下
での細胞の画像を、対応する蛍光画像と比較して、細胞の一般的な集団中の、蛍光標識さ
れた関心のある細胞を同定し得る。静止画像をまた、上記で議論された光の性質のいずれ
かに基づいて、関心のある標的細胞の、コンピューター支援同定および位置決定の基礎と
して使用し得る。
【0078】
第2に、細胞の集団が、多くとも0.5、0.4、または0.3の開口数を有するレン
ズを通して照射される場合に、一般的な方法を実施し得る。本明細書中で使用される「開
口数」または「N.A.」という用語は、N.A.=n(sin μ)と定義され、ここ
でnはレンズおよび細胞間の画像化媒体の屈折率であり、そしてμは、開口角の半分であ
る。
【0079】
そのように小さい開口数を有するレンズを用いる結果として、そのレンズは少なくとも
5、7、または10mmのような、より大きな作動距離を有し得る。本明細書中における
「作動距離」という用語は、レンズの前から、細胞の集団の一番近い表面を意味する、対
象までの距離を意味する。特に有用なレンズは、レンズ365によって例示されるような
、上記で記載された、フラットフィールド(F−シータ)レンズである。そのようなレン
ズパラメーター下では、共焦点顕微鏡は可能でないことに注意する。
【0080】
第3に、放射線のパルスは、標的細胞との接触時に、少なくとも2、5、7、10、1
5、20、25、または30ミクロンの直径を有し得る。ほとんどの場合において、放射
線の幅は、あらゆる個々の細胞よりもずっと広い。従って、放射線のビームは、有効であ
るために細胞または細胞表面の特定の点に対して、別々に標的化される必要はなく、有効
性を失うことなく細胞集団の一般的な領域へ向けられ得る。結果として、ビーム操縦の正
確さに対する感受性は抑制され、そして処理量が劇的に増加する。
【0081】
第4に、放射線のパルスによって伝達されるエネルギーは、最大で2、1.5、1、0
.7、0.5、0.3、0.2、0.1、0.05、0.02、0.01または0.00
5μJ/μmにさえ制限され得る。これは、有効な充填率を維持しながら、生存率を増
加させる利点を有する。さらに、以前の方法と異なり、有効なエネルギーレベルは、容器
を損傷せずに普通のプラスチックの標本容器の使用を可能にするくらい十分低い。
【0082】
一般的な方法をまた、処理量を増加させるために修飾し得る。最も基本的なレベルで、
放射線のパルスの方向を、当該フレーム中の集団における第2の標的細胞を照射するため
に調整し得る。同様に、細胞集団の次の視野を、上記で記載したように処理し得る。これ
は、細胞の集団が、レンズと相対的に実質的に静止した位置に留まる場合に、特に有用で
ある。あるいは、細胞の検出、位置決定および照射のさらなる工程のために、本方法の適
用の間に、細胞をレンズと相対的に動かし得る。
【0083】
細胞の処理量を最大にするために、上記で詳細に記載された装置によって例示されるよ
うに、本方法の1つまたはそれ以上の工程を自動化し得る。例えば、各工程をマイクロプ
ロセッサーによって制御し得る。同様に、静止画像を、コンピューターメモリーに保存さ
れた画像またはデータセットとして処理し得る。各工程を自動化することによって、オプ
トインジェクション方法は、1分あたり少なくとも5,000、10,000、20,0
00、50,000、70,000、100,000、または150,000細胞さえも
照射し得る。
【実施例】
【0084】
以下の実施例は、異なる適用における、記載された方法および装置の使用を説明する。
【0085】
(実施例1:自己由来HSC移植)
自己由来HSC移植が必要な、B細胞由来転移腫瘍を有する患者が、医師によって同定
される。治療の最初の段階として、患者は標準的なHSC採取処置を受け、未知数の混入
腫瘍細胞を含む約1×1010造血細胞の回収を引き起こす。採取細胞を、CD34表面
抗原を有する細胞に関して選択する、市販のイムノアフィニティーカラム(ISOLEX
300、Nexell Therapeutics、Irvine、Calif.)に
よって、HSCに関して濃縮し、未知数の腫瘍細胞を含む約3×10造血細胞の集団を
生ずる。その後混合集団を、フィコエリトリンと結合した抗B細胞抗体(CD20および
CD22に対して指向された)と接触させる。標識化抗体は、B細胞由来腫瘍細胞に特異
的に結合する。
【0086】
次いで混合細胞集団を、実質的に水平な表面上の滅菌標本容器に、ほとんどコンフルエ
ントに、1平方センチメートルあたり約500,000細胞を置く。標本を、上記で記載
した装置の可動ステージ上に置き、そして全ての検出可能な腫瘍細胞を、フィコエリトリ
ンに関して同定し、そして処理レーザーからの致死量のエネルギーで標的化する。装置の
設計が、4時間以下における臨床的規模の移植標本の処理を可能にする。細胞を標本容器
から回収し、洗浄、そして次いで低温保存する。細胞を再注入する前に、患者に高用量の
化学療法を与えて、患者の体内の腫瘍細胞を破壊する。この治療の後、処理した細胞を3
7℃で解凍し、そして患者に静脈内で与える。患者は続いてもとの癌の再発無しに回復す
る。
【0087】
(実施例2:同種HSC移植)
別の実施形態において、同種HSC移植環境における対宿主性移植片病の有意なリスク
および重症度と戦い得る。適当なドナーがみつかったら、同種移植のために患者を選択す
る。上記の実施例で記載したように、細胞を選択されたドナーから採取する。この場合、
細胞の混合物を、フィコエリトリン−標識抗CD3T細胞抗体と接触させる。あるいは、
特異的アロ反応性T細胞のサブセットを、同種抗原の存在下で、活性化T細胞マーカー(
例えばCD69)を用いて標識し得る。細胞集団を、本明細書中で記載された装置によっ
て処理し、それによって患者に与えるT細胞の数を正確に定義および制御する。多すぎる
T細胞の投与は、対宿主性移植片病のリスクを増加させ、一方少なすぎるT細胞は、移植
の失敗のリスクおよび公知の有用な対白血病移植片効果を失うリスクを増加させるので、
この型の制御は有利である。本発明および方法は、同種移植におけるT細胞の数を正確に
制御し得る。
【0088】
(実施例3:組織工学)
別の適用において、組織工学的適用のために、本装置を使用して移植片中の混入細胞を
除去する。LangerおよびVacanti、組織工学:行く手にある挑戦、Sci.
Am.280:86−89(1999)によって記載されたように、組織工学的適用の実
行のために必要な、1次細胞培養の確立において、細胞混入問題が存在する。特に、軟骨
欠損のための軟骨細胞治療は、軟骨生検から得られる細胞集団の不純物によって妨害され
る。よって、本発明を使用して移植片からこれらの型の細胞を特異的に除去する。
【0089】
例えば、軟骨置換の必要な患者から、軟骨生検を取る。次いでその標本を、伝統的な条
件下で増殖させる(Brittbergら、自己由来軟骨細胞移植による、膝の深部軟骨
欠損の治療、N.E.J.Med.331:889−895(1994))。次いでその
培養を、速く増殖する線維芽細胞のような、あらゆる混入細胞に関して特異的な標識で染
色する。次いで細胞混合物を、記載された装置内に置き、そして標識された混入細胞を、
処理レーザーによって標的化し、それによってより遅く増殖する軟骨細胞が培養中で完全
に発達するのを可能にする。
【0090】
(実施例4:幹細胞治療)
さらに別の実施形態は、広く多様な疾患を治療するために、胚幹細胞の使用を含む。胚
幹細胞は未分化であるので、それらを使用して、心筋細胞およびニューロンのような、移
植において有用である多くの型の組織を産生し得る。しかし、移植される未分化胚幹細胞
はまた、奇形腫として知られるある型の腫瘍を形成する、細胞型の寄せ集めを生じ得る(
Pedersen,R.A.、医学のための胚幹細胞、Sci.Amer.280:68
−73(1999))。従って、胚幹細胞から得られた組織の治療的使用は、十分に分化
した細胞のみが移植されることを保証するために、細胞の厳密な精製を含まなければなら
ない。本明細書中で記載される装置を使用して、胚幹細胞由来の組織を患者に移植する前
に、未分化幹細胞を除去する。
【0091】
(実施例5:ヒト腫瘍細胞培養の産生)
別の実施形態において、ヒト腫瘍細胞の培養を開始する目的で、癌患者から腫瘍生検を
取る。しかし、多くの腫瘍型からの1次ヒト腫瘍細胞培養のインビトロにおける確立は、
腫瘍細胞に対して優勢なインビトロ増殖特徴を有する、混入1次細胞集団の存在によって
複雑になる。例えば、混入線維芽細胞は、多くの癌細胞培養の確立において大きな挑戦と
なる。開示される装置を使用して、生検腫瘍細胞をそのままにしながら、混入細胞を特に
標識および破壊する。よって、より攻撃的な1次細胞が、癌細胞系統を圧倒および破壊し
ない。
【0092】
(実施例6:特異的mRNA発現ライブラリーの産生)
異なる細胞集団内における遺伝子の特異的発現パターンは、多くの研究者にとって非常
に興味深く、そして異なる細胞型に関して発現遺伝子のライブラリーを単離および作製す
るために、多くの研究が実施された。例えば、正常細胞に対して腫瘍細胞においてどの遺
伝子が発現されるかを知ることは、潜在的に非常に重要である(Cossmanら、Re
ed−Stemberg細胞ゲノム発現は、B細胞系統を支持する、Blood 94:
411−416(1999))。そのようなライブラリーを産生するために使用する増幅
方法(例えばPCR)のために、少数の混入細胞でさえも、不正確な発現ライブラリーを
生ずる(Cossmanら、前出;SchutzeおよびLahr、単一細胞のレーザー
による操作による発現遺伝子の同定、Nature Biotechnol.16:73
7−742(1998))。この問題を克服する1つのアプローチは、レーザーキャプチ
ャーマイクロダイセクション(LCM)の使用であり、それにおいて増幅の開始遺伝的材
料を提供するために単一の細胞が使用される(SchutzeおよびLahr、前出)。
残念ながら、単一細胞における遺伝子発現は、いくらか確率論的であり、そして分析時に
おけるその個々の細胞の特異的状態によって偏り得る(Cossmanら、前出)。従っ
て、mRNA抽出前の、有意な細胞数の正確な精製は、高度に正確な発現ライブラリー、
単一細胞発現または混入細胞による発現による偏りなく、研究する細胞集団を代表するも
のの産生を可能にする。本発明において記載される方法および装置を使用して、RNA抽
出手順の間に混入細胞が存在しないように、細胞集団を精製し得る。
【0093】
(実施例7:特異的細胞集団のトランスフェクション)
多くの研究および臨床遺伝子治療適用が、存在する他の細胞をトランスフェクトするこ
となく適当な数の望ましい細胞型をトランスフェクトできないことによって妨害される。
本発明の方法は、細胞の混合物中において、トランスフェクトされる細胞の選択的標的化
を可能にする。標的化エネルギー源によって細胞膜またはその付近で光機械的(phot
omechanical)衝撃波を産生することによって、一過性の小孔を形成し得、そ
れを通って遺伝的(または他の)材料が細胞に入り得る。この遺伝子伝達の方法は、オプ
トポレーションと呼ばれた(Palumboら、前出)。上記で記載された装置は、迅速
、自動化、標的化様式で、関心のある細胞のみに対して選択的オプトポレーションを達成
し得る。
【0094】
例えば、白血球を、トランスフェクトされるDNAを含む溶液を有する標本容器にまく
。幹細胞に特異性を有する蛍光標識抗体を培地に加え、そして幹細胞に結合させる。標本
容器を細胞処理装置内に置き、そして処理レーザーを、照射レーザー光の下で蛍光になっ
たあらゆる細胞に標的化する。処理レーザーは、特異的に標的化細胞へのDNAのトラン
スフェクションを促進する。
【0095】
(実施例8:生物工学的適用における望ましいクローンの選択)
細胞系統が価値のある産物を産生するために使用される、多くの生物工学過程において
、産物の産生において非常に効率的なクローンを得ることが望ましい。このクローンの選
択は、多くの場合手で、ある方式で単離された多数のクローンを検査することによって行
われる。本発明は、特定の産物の産生に関する望ましいクローンの、迅速、自動化検査お
よび選択を可能にする。例えば、最も多い量の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、F
c領域に指向された蛍光標識によって同定し得る。蛍光標識のない、またはわずかな蛍光
標識を有する細胞を、殺すために処理レーザーで標的化し、抗体産生に使用するために最
高の産生クローンを後に残す。
【0096】
(実施例9:細胞反応の自動化モニタリング)
特定の刺激に対する細胞反応の自動化モニタリングは、ハイスループット薬剤スクリー
ニングにおいて非常に興味深い。多くの場合、ウェルプレートの1つのウェルにおける細
胞集団を刺激にさらし、そして次いで全体としての細胞集団から蛍光シグナルを、経時的
に捕捉する。本明細書中で記載された方法および装置を使用して、より詳細なモニタリン
グを単一細胞レベルで行ない得る。例えば、細胞集団を、関心のある細胞の部分集団の特
徴を同定するために標識し得る。次いでこの標識を照射レーザーで励起して、それらの細
胞を同定する。その後、第2の標識を励起する目的のために、処理レーザーを最初の標識
によって同定された個々の細胞に標的化し、それによって各細胞の反応についての情報を
提供する。細胞は表面上で実質的に静止しているので、各細胞を複数回評価し、それによ
って各細胞の反応の動態について時間的情報を提供し得る。また、広域走査レンズおよび
検流計ミラーの使用によって、比較的多数のウェルを、短時間で迅速にモニターし得る。
【0097】
特定の例として、上記の実施例2で示されたようなアロ反応性T細胞の場合を考える。
同種抗原の存在下で、活性化ドナーT細胞をCD69によって同定し得る。これらの細胞
を標的化および殺すために処理レーザーを使用する代わりに、処理レーザーを使用して、
カルボキシフルオレセイン二酢酸の励起および放射される蛍光によって、全ての活性化T
細胞の細胞内pHを調査し得る。ほとんどのスクリーニング方法は、細胞集団全体の反応
を評価するのに対して、標的化レーザーは、活性化された細胞のみの調査を可能にする。
一連のそのようなウェルを平行してモニターするならば、様々な薬剤を個々のウェルに加
え得、そして各薬剤に対する特異的活性化T細胞反応を、時間を通してモニターし得る。
そのような装置は、対宿主移植片病におけるアロ反応性T細胞反応を改善する薬剤のハイ
スループットスクリーニング方法を提供する。この実施例に基づいて、当業者は、刺激に
対する細胞の反応を、最初の標識によって同定された関心のある細胞のみに集中して、個
々の細胞ベースでモニターする、多くの他の例を考え得る。
【0098】
(実施例10:光退色研究)
蛍光染色生物学的試料の特定領域の光退色、および/または光退色回復は、様々な生物
学的過程を評価するために使用される普通の方法である。例えば、細胞懸濁液を、細胞内
のミトコンドリアを蛍光的に染色するローダミン123で標識する。即時照射レーザーを
用いて、1つまたはそれ以上の細胞内のミトコンドリアを、ローダミン123蛍光によっ
て視覚化する。次いで処理レーザーを使用して光の集束ビームを伝達するために使用し、
それは1つまたはそれ以上の細胞内の小領域におけるローダミン123の光退色を引き起
こす。次いで光退色領域はその直後暗く現れ、一方隣接する領域は影響されない。次いで
一連の画像を、照射レーザーを使用して撮り、非退色ミトコンドリアの、処理レーザーに
よって光退色された領域への移動を記録する微速度撮影の一連の画像を提供する。このア
プローチを使用して、細胞内の多くの生物学的構造の動き、回転、または補充を評価し得
る。
【0099】
従って、培養ラット神経突起において、ミトコンドリアの光退色回復は、各細胞内のミ
トコンドリアの流動プールの大きさの尺度である(Chuteら、培養神経突起における
定常状態力学細胞小器官運動の分析、Clin.Exp.Pharmco.Physio
l.22:360(1995))。これらの細胞における光退色回復の速度は、細胞内カ
ルシウムおよびマグネシウム濃度、エネルギー状態、および微小管の完全性に依存する。
タキソールまたはビンブラスチンのような神経毒性物質は、光退色回復の速度に影響する
。従って、神経毒性物質のアッセイは、マルチウェルプレートのウェルにおいて様々な薬
剤に曝露した、統計学的に有意な数の神経突起内におけるミトコンドリアの光退色回復の
測定に基づき得る。そのような適用において、本明細書中で記載され、そして上記で記載
されたように使用される装置は、多数の細胞に対する多くの物質の神経毒性を評価する迅
速な自動化方法を提供する。この実施例に基づいて、当業者は、生物学的標本から有用な
情報を得るために、光退色を誘導し、そして光退色回復をモニターする、多くの他の例を
考え得る。
【0100】
(実施例11:アンケージング(uncaging)研究)
迅速な生物学的過程を研究するための、ケージ化化合物の使用は、不活性化状態の生物
学的に関連する物質の結合(すなわちケージング(caging))、ケージ化物質を生
物学的標本へ拡散させること(比較的遅い過程)、および次いでレーザーを用いてマイク
ロ秒の時間スケールで、インシトゥで物質を放出(すなわちアンケージ)する光分解反応
(比較的速い過程)を誘導することを含む。次いで生物学的標本を、ある生物学的過程に
対するアンケージ化物質の影響を決定するために、短い微速度撮影顕微鏡で観察する。二
原子酸素、サイクリックADPリボース(cADPR)、ニコチン酸アデニンジヌクレオ
チドリン酸(NAADP)、一酸化窒素(NO)、カルシウム、L−アスパラギン酸、お
よびアデノシン3リン酸(ATP)を含む、多くの重要な物質のためのケージが記載され
た。走化性は、アンケージング化合物によって研究し得る、生理学的特徴の1つの例であ
る。
【0101】
アンケージング研究は、生物学的標本の一部をレーザー光で照射すること、続いて微速
度撮影顕微鏡で標本を検査することを含む。本発明の装置は、そのような研究において明
らかな有用性を有する。特定の例として、L−アスパラギン酸に対するE.coliの走
化性の研究を考える(Jasujaら、光放出されたL−アスパラギン酸の小さな急増に
対するEscherichia coliの走化性反応、Biophys.J.76:1
706(1999))。L−アスパラギン酸のベータ−2,6−ジニトロベンジルエステ
ルおよび8−ヒドロキシルピレン−1,3,6−トリス−スルホン酸の1−(2−ニトロ
フェニル)エチルエーテルを、E.coliを含むウェルプレートのウェルへ加える。処
理レーザーの照射時に、L−アスパラギン酸および蛍光団8−ヒドロキシルピレン−1,
3,6−トリス−スルホン酸(ピラニン)の局所的アンケージングが誘導される。L−ア
スパラギン酸はE.coliの化学誘引物質として作用し、そして続く蛍光画像(照射レ
ーザーを用いて)において、ピラニン蛍光団は、照射の局所領域において起こったアンケ
ージングの程度の指標として作用する。アンケージング発生の、背面光からのような、可
視波長光によって照射された付近の、E.coliの微速度撮影画像が、局所的にアンケ
ージ化したL−アスパラギン酸に対する微生物の走化性反応を測定するために使用される
。本発明の性質によって、それぞれ潜在的な抗微生物薬剤を加えた多数のウェルを、微生
物の走化性反応を決定するために、迅速な体制でスクリーニングする。この実施例に基づ
いて、当業者は、自動化様式で多数の試料について有用な情報を得るために、アンケージ
ングを処理レーザーによって誘導し、次いで微速度撮影顕微鏡検査をする多くの他の例を
考え得る。
【0102】
(実施例12:70kDデキストランを用いたNIH−3T3細胞のオプトインジェク
ション)
この実施例は、標的細胞を一時的に透過性にするオプトインジェクション方法を説明す
る。NIH−3T3細胞を、96ウェルプレートで増殖させた。増殖培地を除去、そして
1%のBSAおよび0.1mMのテキサスレッド−デキストラン(70kD)(Mole
cular Probes、Eugene、OR)を含むPBSで置換した。広スペクト
ル光下で細胞を照射した時に、どの細胞を標的化するか決定するために静止画像を得た(
図8A)。
【0103】
523nmの波長を有する30ミクロンのエネルギービームを、2.5×の倍率、0.
25の開口数(N.A.)、および10mmより大きい作動距離を有するフラットフィー
ルド(flat−field)レンズを通して、標的細胞に連続して直接向けた。1秒あ
たり500以上の細胞が標的化された。
【0104】
標的細胞を照射した後、ウェルを洗浄し、そしてSytox Blue(10mM、M
olecular Probes)を加えて生存可能でない細胞を染色した。図8Bで示
すように、約70%の細胞が、外来性分子としてテキサスレッド−デキストランの充填を
示した。さらに、1つの細胞のみが生存可能でなく(図8C)、約95%の生存率に相当
した。
【0105】
(実施例13:Sytox Greenを用いたSU−DHL−4細胞のオプトインジ
ェクション)
実施例12と同じハードウェア装置を用いて、SU−DHL−4細胞を、1%のHSA
を含むPBS中で96ウェルプレートに置いた。膜非透過性の色素Sytox Gree
n(Molecular Probes)を、0.05mMで加え、細胞を安定させ、そ
して次いで30ミクロンのレーザービームで画像化および標的化した。レーザーのパルス
あたり2から15μJにわたる、異なるエネルギーレベルを、5つのウェルそれぞれにお
いて使用し、各標的細胞が1つのパルスを受けた。図9に示すように、オプトインジェク
ションの効率は、4μJ/細胞(0.0057μJ/μm)における58%から、15
μJ/細胞(0.021μJ/μm)における92%にわたって、エネルギー用量依存
性であった。全ての場合において、細胞の生存能力は95%より高かった。
【0106】
(実施例14:pEGFP−N1プラスミドを用いた293T細胞のオプトインジェク
ション)
この実施形態において、外来性分子は、蛍光EGFPタンパク質(pEGFP−N1)
をコードする4.3kbのDNAプラスミドであった。実施例12と同じハードウェア装
置を使用した。細胞はPBSおよび1%HSAの培地中にあり、そして次いで0.1マイ
クログラムのプラスミドを各ウェルに加えた。各細胞がそれぞれ15μJ(0.021μ
J/μm)の1から8パルスを受けるように、細胞をレーザービームによって画像化、
位置決定および標的化した。細胞を洗浄し、増殖培地に置き、そして次いで48から96
時間培養した。培養後、細胞を蛍光EGFPタンパク質の発現に関して評価した。図10
に示すように、レーザーパルスを伝達する以外は同じに処理したコントロールウェルにお
いて蛍光が観察されなかった(図10B)のに対して、処理したウェルにおいては多くの
細胞が蛍光表現型を示した(図10A)。
【0107】
本発明の局面が、本明細書中で例示される特定の実施形態によって記載されたが、本発
明はそのように制限されない。本発明は、下記に添付する請求によってのみ制限される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、細胞処理装置の1つの実施形態の透視図であり、そして外被およびディスプレイの外側デザインを図解する。
【図2】図2は、外側外被を取り除いた細胞処理装置の1つの実施形態の透視図であり、そして内側の構成部分を図解する。
【図3】図3は、細胞処理装置の1つの実施形態内の、光学的サブアセンブリーデザインのブロックダイヤグラムである。
【図4】図4は、細胞処理装置の1つの実施形態内の、光学的サブアセンブリーの1つの実施形態の透視図である。
【図5】図5は、光学的サブアセンブリーの1つの実施形態の側面図であり、走査レンズおよび可動ステージの配置を図解する。
【図6】図6は、光学的サブアセンブリーの1つの実施形態の底面透視図である。
【図7】図7は、細胞処理装置の可動ステージの上部透視図である。
【図8】図8は、広スペクトル光下の細胞(8A)、テキサスレッドデキストランの充填を示す細胞(8B)、および生育不能の細胞(8C)を示す。
【図9】図9は、オプトインジェクションの効率は、エネルギー用量依存性であることを図解する。
【図10】図10は、オプトインジェクション無しのコントロール細胞(10A)と比較して、オプトインジェクションした細胞(10B)内のプラスミドの発現を比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−82144(P2009−82144A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320275(P2008−320275)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【分割の表示】特願2003−530796(P2003−530796)の分割
【原出願日】平成14年9月9日(2002.9.9)
【出願人】(506149922)シンテレクト インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】