説明

オメガGA−3脂肪酸を用いたIgA腎症の治療

【課題】治療する患者の体重及びサイズに依存する投薬レジメンに従うオメガ−3ポリ不飽和脂肪酸の投与によるIgA腎症に罹患している哺乳動物またはIgA腎症の恐れのある哺乳動物を治療するための方法の提供。
【解決手段】哺乳動物に対して少なくとも約0.04g/kgのオメガ3ポリ不飽和脂肪酸を投与する工程と、母集団内での糸球体濾過速度のレベルおよび/またはタンパク尿のレベルの統計学的に有意な改善を達成するまで前記投与を繰り返す工程を有する治療法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
治療する患者の体重およびサイズに依存する投薬レジメンに従うオメガ−3ポリ不飽和脂肪酸の投与によるIgA腎症の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid)(EPA)およびドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid)(DHA)のようなオメガ3ポリ不飽和脂肪酸(「O3」)は、心血管系疾患、免疫障害、炎症、腎障害、アレルギー、糖尿病およびガンを含む種々の障害の治療に有益である。これらの脂肪酸はまた、ヒトの脳および網膜の発達に必須である。グリーンランドのエスキモーは、その食餌からのEPAの摂取が比較的高いために、血清コレステロールおよびトリグリセライドのレベルが低く、心血管系の疾患の頻度が低い。非ヒト霊長類およびヒトの新生児での研究によって、DHAは、特に早産児における網膜および脳の正常な動作に必須であることが示唆されている。他の研究によって、O3は、腫瘍の数およびサイズを減らすこと、そして腫瘍の出現の前の経過時間を延長することができることが示されている。
【0003】
代謝的に、EPAは、アラキドン酸カスケードのアンタゴニストであり、エイコサノイドを生成するシクロオキシゲナーゼおよびリポキシゲナーゼについての基質としてアラキドン酸と競合する。EPAは、免疫機能不全を軽減する3シリーズのプロスタグランジンのようなエイコサノイドの合成のために用いられる。アラキドン酸は、免疫機能を障害し得る2シリーズのプロスタグランジンを形成する。高レベルのn−6脂肪酸を含む食餌は、PGE2の生成を増大し得、IL2生成を低下し得、IL2に対するT細胞応答を変更し得、マクロファージコラゲナーゼ合成を阻害し得、そして血小板凝集を増強し得る。高レベルのO3を供給することによって、EPAおよびDHAによりある程度のアラキドン酸の置換がもたらされる。EPAから形成されたPGE3が有する炎症性効果はPGE2よりも少ない。IL1生成もO3によって減少されるが、IL2は増大される。O3の供給でみられるエイコサノイド合成におけるこれらの変化は、免疫能力の改善および傷害に対する炎症性応答の低下を伴っている。
【0004】
魚油サプリメントを用いるIgA腎症のO3療法は、20年前に最初に提唱された。Hamazaki Tら、「エイコサペンタエン酸およびIgA腎症」、Lancet1984年;1:p1017−1018。しかし、研究によって結果として矛盾する結果が得られ、この治療法の役割は未解明のままであった。例えば、Bennett WMら、「エイコサペンタエン酸(EPA)でのIgA腎症の治療:2年のプロスペクティブ臨床研究」Clinical Nephrology1989年;31:p128〜131;Cheng IKP、「メサンギウムIgA糸球体腎炎の進行に対する魚油食餌補充の効果」、Nephrology,dialysis,transplantation1990年;5;p241−246;Donadio JV Jr「オメガ−3ポリ不飽和脂肪酸:免疫性腎疾患の見込みのある新規な治療」Mayo Clinic proceedings1991年;66:1018−1028;Pettersson EEら、「オメガ−3−ポリ不飽和脂肪酸を用いたIgA腎症の治療:プロスペクティブ、二重盲検、無作為研究」、Clinical Nephrology1994年;41:p183〜190;Donadio JV)ら「IgA腎症における魚油の対照臨床試験」New England.Journal of Medicine1994年;331:1194−1198;Donadio JVら「n−3脂肪酸の効果:血管疾患の予防および治療」Springer Verlag1995年;p173−180;Donadio JVら「対照臨床試験での魚油を用いて治療したIgA腎症の患者の長期転帰」Journal of American Society of Nephrology1999年;8:p1772−1777;Donadio JVら「重篤なIgA腎症での低用量オメガ−3脂肪酸と比較した高用量の無作為化臨床試験」Journal of American Society of Nephrology2001年;4:p791−799を参照のこと。
【0005】
この知見の間の変動、および生じた混乱は最近ではメタ分析(meta-analysis)で示されている。Dillon JJ、「IgA腎症の魚油療法:有効性および試験間の変動」Journal of American Society of Nephrology1997年;8:p1739−1744。この矛盾する結果をうまく説明することができる仮説はない。
【発明の概要】
【0006】
[発明の要約]
IgA腎症のための有効かつ信頼性のあるO3療法は、患者サイズの関数として用量を調節する工程を包含する。治療処方物中のO3の使用は、とりわけ、患者のサイズおよび/または体重の関数として決定される、少なくとも最小有効用量の投与を促進するようにこの処方物を配合する工程を包含する。オメガ3脂肪酸が患者の体重1kgあたり少なくとも約0.04gの量で投与される場合、O3療法は、有効かつ信頼性があることが示される。
【0007】
この開示の目的のために、ベースラインに比較した、推定の糸球体濾過速度(「GFRest」)のレベル、および/またはタンパク尿のレベルの変化に基づいて有効性を決定する。この療法は、プレドニゾロンの同時投与によって補充できる。
【0008】
本発明者らの検討には、IgA腎症を有する小児および若年成人におけるプレドニゾロンの隔日投与またはオメガ−3脂肪酸の毎日投与を含んだ。有効性は、GFRおよびタンパク尿のレベルにおいて変化を経時的にモニタリングすることによって評価した。例えば、Donadio JVら「タンパク尿のパターンおよびそれに伴う引き続くIgA腎症の末期腎不全」、Nephrology,dialysis,transplantation2002年;7;p1197−2003を参照のこと(進行性の腎疾患のよい代理のマーカーであるGFRおよびタンパク尿をみている)。
【0009】
多施設のプラシーボ対照二重盲検臨床試験で、本発明者らは、高度に精製したO3調製物(特にイコサペント&ドコネキセント)の24ヶ月の安定な毎日用量(1日あたり4g)の有効性を評価した。ベースラインの60%未満へのGFRの低下に基づく一次分析では、プレドニゾロンまたはO3に対する統計学的に有意な利点は示されなかった。
【0010】
本発明者らは、タンパク尿のレベル(初日の朝の尿の検体中の尿タンパク質対クレアチニン比によって規定)およびGFRestの変化に由来する臨床応答スコアに基づいて二次分析を行なった。タンパク尿およびGFRのスコアの変化に相当する総合応答スコアも算出した。二次分析によって、隔日のプレドニゾロンが有効であったことが示された。本発明者らはまた、O3療法は有効であるが、ただし比較的高用量を投与された患者で、患者サイズおよび/または体重に換算して表した場合のみ有効であるであることを発見した。
【0011】
従って、本発明は、O3の用量が最小有効用量を満たすかまたは超える患者サイズおよび/または体重の関数として算出される、IgA腎症治療レジメンを提供する。いかなる理論によっても束縛されることは望まないが、O3は、身体内の濃度が特定の最小レベルを満たすか超える場合にのみ治療効果を発揮すると考えられる。従って、治療効果を与えるために投与しなければならない閾値、または最小有効用量が存在する。本発明者らの研究によれば、体重1kgあたり少なくとも約0.045gの投与を達成するように用量を調節するまで、患者母集団(patient population)は全体としてO3療法に好反応(respond)を示さないということが示される。詳細には、本発明者らは、少なくとも約0.05g/kgのOmacor(登録商標)の投与によって総合応答スコアの実質的な改善が得られたことを見出した。Omacor(登録商標)は、90%オメガ−3脂肪酸の処方物であり、その84%がEPAおよびDHAのエチルエステルの組み合わせである。従って、0.05g/kgのOmacor(登録商標)の投与は、体重1kgあたり0.042gのEPA&DHAエチルエステルの投与と等価である。本発明の利点はまた、血液内のO3濃度(および/またはEPA/DHA濃度)の関数としてO3の用量を調節およびモニタリングすることによって実現され得るということを当業者は理解する。
【0012】
このデータによって、O3、特にEPA/DHAの投与に関与する有効なIgA腎症治療レジメンがさらに例証される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プラシーボに比較した、イコサペント/ドコネキセントを投与されている患者におけるリン脂質脂肪酸プロフィールの広範なスペクトル。黒塗りの記号は:1)オメガ−3/オメガ−6(「O3/O6」)=総オメガ−3含量をリン脂質中のオメガ−6含量で割ったもの;2)EPA/AA=エイコサペンタエン酸/アラキドン酸の比;そして3)DHA/AA=Omacor(登録商標)を投与されている患者におけるドコサヘキサエン酸/アラキドン酸の比(本研究ではO3を用いた):を示す。白抜きの記号はプラシーボのカプセルを投与されている患者におけるそれらの比である。
【図2】3つの治療アームにおける患者の6ヶ月間隔での診療所来診の際に観察した総合応答スコア。この応答スコアはプレドニゾロンアームの患者では有意に良好であったがO3群では全体として良好ではなかった。
【図3】3つの治療アームでの総合応答スコアであって、イコサペント/ドコネキセントを投与された患者での応答を血漿リン脂質EPA/AA比が0.38の上下であることに基づいて小分割している。
【図4】血漿リン脂質EPA/AA比と、体重1kgあたりで表したイコサペント/ドコネキセントの投薬量との相関。
【図5】3つの治療アームでの総合応答スコアであって、イコサペント/ドコネキセントアームの患者をそれらの試験薬物用量が体重1kgあたり0.05gの上下であることに基づいて小分割している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、免疫障害、炎症、腎障害、アレルギー、糖尿病、ガン、高グリセリン血症(「HTG」)および心筋梗塞後症候群に罹患している患者を、患者サイズおよび/または体重に基づいて算出したO3の少なくとも最小有効用量を投与することによって治療するための医薬の調製における方法およびO3の用法を提供する。さらに詳細には、本発明は、糸球体疾患、特にIgA腎症に罹患している患者の治療のための医薬を生成する方法、およびO3の用法を提供する。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明は、IgA腎症に罹患している哺乳動物またはその恐れのある哺乳動物母集団を治療するための方法であって、この母集団内の個体に対して少なくとも約0.045g/kgのO3を投与してこの母集団におけるGFRおよび/またはタンパク尿のレベルの統計学的に有意な改善を得る工程を包含する方法を提供する。好ましい実施形態は、体重1キログラムあたりEPAおよびDHAのエチルエステルの少なくとも約0.042g;そして好ましくは体重1kgあたりEPAおよびDHAのエチルエステルの約0.042g〜約0.13gの投与を包含する。別の好ましい実施形態は、体重1キログラムあたりEPAおよびDHAのエチルエステルの少なくとも約0.05gの投与を包含する。さらに別の好ましい実施形態は、体重1キログラムあたりEPAおよびDHAの約0.05g〜約0.11gの投与を包含する。GFRおよびタンパク尿のレベルは、本明細書においていずれかに記載したように測定する。
【0016】
本発明はまた、プラシーボ(偽薬)または体重1kgあたり0.04g未満のO3用量のいずれかに対して測定した場合、患者母集団における総合応答スコアの有意な改善を達成する。好ましい実施形態では、この方法によってプラシーボより少なくとも5倍大きい総合応答スコアが得られる。総合応答スコアの改善は、少なくとも治療の最初の36ヶ月にわたって観察される。例えば、図5を参照のこと。
【0017】
同様に、患者母集団の血漿リン脂質のEPA/AA比がO3の投与によって少なくとも約0.38と見積もられたときに、総合応答スコアの統計学的に有意な改善が観察される。好ましくは、この方法は、血漿リン脂質EPA/AA比が0.38より大きいように使用される。血漿リン脂質EPA/AA比を0.38より大きいレベルに調節することによって、総合応答スコアは、プラシーボで得られたスコアの少なくとも2倍であり、プラシーボと比較して約4倍以上であってもよい。血漿リン脂質EPA/AA比が0.38未満である患者母集団と比較して、同じレベルの改善、およびさらに大きい改善さえ達成される。例えば、図3を参照のこと。
【0018】
患者(または哺乳動物)母集団とは、IgA腎症に罹患している哺乳動物またはその恐れのある患者の母集団のサイズ分布の一般的な反映である個体の多様な断面を意味する。母集団は、患者母集団に一般的に一致する患者サイズの正規分布を達成するのに十分な数でなければならない。この開示の目的のために、そして他に言及しない限り、患者母集団はn≧6である。
【0019】
本発明はさらに、O3薬学的処方物をIgA腎症に罹患している患者母集団に投与して治療の最初の36ヶ月の間に約1.5より大きい総合応答スコアを達成する方法を提供する。好ましくは、この方法で約2.5より大きい総合応答スコアが得られる。より好ましくは、この方法で、治療の最初の36ヶ月間に約3.5以上の総合応答スコアが得られる。さらに好ましくは、この方法によって、治療の最初の36ヶ月間に約4.5より大きい平均総合応答スコアが得られる。
【0020】
本発明の別の態様では、IgA腎症に罹患している哺乳動物またはその恐れのある患者母集団に投与してこの母集団内のIgA腎症の症状の統計学的に有意な軽減を達成するための医薬の製造におけるO3の使用に関する。上記の使用はさらに、体重1kgあたり少なくとも約0.045gのO3の投与を得るための医薬を処方するための十分なO3の使用を包含する。好ましくは、この医薬は、体重1キログラムあたりEPAおよびDHAの約0.042g〜約0.13g;そしてさらに好ましくは体重1キログラムあたりEPAおよびDHAの約0.05g〜約0.11gの投与を得るために十分なイコサペントおよびドコネキセントを含む。
【0021】
O3は、オメガ−3脂肪酸の高度に精製された調製物を含む薬学的処方物中で投与され得る。当業者は、オメガ−3脂肪酸という用語が魚油のような天然の供給源を包含すること、そしてそれらの供給源が30程の多くの異なるオメガ−3脂肪酸を包含し得ることを理解する。好ましくは、この処方物は、実質的に既知の量のイコサペントおよびドコネキセント、すなわち、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)のエチルエステルを含む。
【0022】
高度に精製されたオメガ−3脂肪酸の好ましい薬学的処方物は、Pronova Biocare,Lysaker,Norwayから市販されているOmacor(登録商標)である。Omacor(登録商標)は、約90%オメガ−3脂肪酸であり、その約84%がエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)のエチルエステルである。
【0023】
O3の薬学的処方物は、経口もしくは非経口経路によって投与されてもよいし、または薬用塗布適用物(例えば、クリーム、ローション、坐剤、パッチなど)として投与されてもよい。非経口投与は、静脈内、皮下または筋肉内であってもよい(注射、インプラントおよび経皮デバイスを含む)。さらに、薬学的に処方物は、従来のキャリア、希釈物、賦形剤、緩衝液、防腐剤、殺生剤などと複合されるが、これらの添加物の選択は、投与の意図される経路を含む種々の要因に依存する。
【実施例1】
【0024】
本実施例はプラシーボ(偽薬)比較、予想(prospective)臨床試験であった。全ての参加基準を満たした後、本研究の一次分析を考察している本発明者らの文献に記載されるように、患者を3つの治療アーム(部門)のうちの1つに割り当てた。
【0025】
患者の無作為化は、高血圧状態によって層別化して、各々の状況内でブロックにした無作為化を用いた。
【0026】
GFRおよびタンパク尿のレベルの評価。標準的な年齢に応じた式を用いて各々の患者において6ヶ月の間隔で糸球体濾過速度(GFR)を見積もった。Schwartz GJら、「身長および血漿クレアチニンに由来する小児の糸球体濾過速度の単純な推定」Pediatrics1976年;58:259−263;Schwartz GJら、「思春期の少年における糸球体濾過速度の単純な推定」Journal of Pediatrics1995年;106:522−526;Cockcroft DWら「血清クレアチニンからのクレアチニンクリアランスの予測」Nephron1976年;16:31−41。血清クレアチニン測定は、HPLCによって測定した。Welch MJら、「候補の決定的な方法としての同位体希釈質量分析装置による血清クレアチニンの決定」、Analytical chemistry1986年;58:1681−1685;Rosano TGら「血清中のクレアチニンを決定するための候補参照方法:方法開発および実験間の変動」、Clinical chemistry1990年;36:1951−1955;およびQuantimetrix Total Protein Determination(QuanT7test),Hawthorne,CA,#40−02/87。中央実験室において、初日の朝の排尿標本での尿タンパク質対クレアチニン比およびタンパク質測定のための標準アッセイ[Quantimetrix Total Protein Determination(QuanT7test),Hawthorne,CA,#40−02/87]を用いて一次タンパク質損失を評価した。
【0027】
血漿リン脂質の測定:イコサペント/ドコネキセントを投与された患者のうちの23例、およびプラシーボ(偽薬)カプセルを受けている患者のうち13例によって、治療の21〜24ヶ月後に測定した血漿リン脂質脂肪酸プロフィールを完成させた。前に詳細に記載されている方法を用いた。Holub BJら、「細胞ホスファチジルイノシトールの栄養性調節」Methods in Enzymology1987;141:234〜245;Holman RTら、「特発性免疫グロブリンA腎症における必須脂肪酸欠損プロフィール」、American Journal of Kidney Diseases1994年;23:648〜654。
【0028】
所定の治療レジメンの遵守:丸剤カウントは、参加した診療所で行なって、プレドニゾロン、イコサペント/ドコネキセントおよびプラシーボ(偽薬)の所定の用量に対する遵守を評価した。
【0029】
統計的分析:イコサペント/ドコネキセントを投与されている患者における血漿リン脂質脂肪酸プロフィールには広い変動があることに気付た後に(図1)、一連の二次分析を行なって、この変動の原因を決定して、脂肪酸プロフィールが患者の転帰に影響するか否かを評価した。最大36ヶ月までの各々6ヶ月の来診で推定のGFR(−5〜+5)および尿タンパク/クレアチニン比(−5〜+5)における変化に基づいて各々の患者について臨床応答スコアを決定した。次いで、各々の間隔での総合応答スコア(−10〜+10)は、患者の総合GFRおよびUP/C応答スコアに基づいて決定した−各々に対して等しい重みを与える(表1)。次いで、18および24ヶ月の総合応答スコアの平均に基づいて、臨床転帰スコアを算出した。各々の患者に投与した試験薬物の投薬量は、体重1kgあたりのgおよびBSA1mあたりのgとして算出した。
【0030】
臨床応答スコア:図2は、0ヶ月〜36ヶ月の間で6ヶ月ごとに観察した3つの治療群における総合応答スコアを示す。特に24ヶ月まで、他のアプローチよりもプレドニゾロンに対して良好に反応した。イコサペント/ドコネキセントのアームにおける患者では明らかな反応は気付かれなかった。次いで、総合応答スコアは、患者のリン脂質脂肪酸プロフィールに基づいて2つの小群に小分割している、イコサペント/ドコネキセントで治療した患者で再評価した。図2は、臨床応答スコアと0.38の上下のリン脂質EPA/AAとの間で検出された統計学的に有意な関係を示す。これらの患者を0.31の上下のO3/O6比に基づいて小分割したとき、同様の結果(図示せず)が得られた。
【0031】
臨床応答/転帰スコアと、リン脂質脂肪酸と、イコサペント/ドコネキセントの投薬量との間の相関:図1に示されるように、リン脂質オメガ−3/オメガ−6比は、0.17〜0.58に及び(平均=0.34)、そしてEPA/AA比は、プラシーボ患者における0.06〜0.13および0.03〜0.09に対して、測定されたリン脂質脂肪酸を有するイコサペント/ドコネキセントのアームでの23例の患者においては0.06〜0.91(平均=0.42)に及んだ。オメガ−3/オメガ−6およびEPA/AA比と治療の遵守との間には相関がなかった(r=0.09、r=0.20)。
【0032】
リン脂質オメガ−3/オメガ−6およびEPA/AA比は、g/kg(r=0.68および0.80,p=0.0001)およびg/m(r=0.69および0.82,p=0.0001)としてイコサペント/ドコネキセント投薬と密接に相関した。EPA/AAレベルと体重1kgあたりの投薬との間の相関を図4に示す。リン脂質EPA/AAおよびDHA/AA比も密接に相関した(r=0.85,p=0.0001)。総合応答スコアは、オメガ−3/オメガ−6(r=0.53,p=0.009,EPA/AA(r=0.59,p=0.003)とg/kgの用量(r=0.55、p=0.006)および用量/m BSA(r=0.54m、p=0.008)で相関するが、治療の遵守とは相関しなかった(r=0.21)。0.05g/kgより多いかまたは少ない、イコサペント/ドコネキセントを投与されている患者で観察されたスコアを図5に示す。相関のまとめは、表2に示す。
【0033】
本臨床試験で得られた結果の二次分析によって、説得力のある証拠が得られ、ここでは、特にタンパク尿に関して規定し、医薬の用量を患者のサイズに基づいて算出した場合、試験薬物の各々の2年の経過で転帰の改善を伴っていた。
【0034】
タンパク尿を伴う種々の糸球体疾患を有する患者の近年の大規模臨床試験では、タンパク尿のレベルにおける変化によって、治療に対する応答について最良の代理マーカーが得られると結論されている。しかし、本発明者らの臨床試験における3つの治療アームでの患者のタンパク尿の参加レベルが均一性を欠いていることで、この分析において本発明者らが生のタンパク尿データを用いることが損なわれた。これによって、GFRおよびUP/C比の両方に別々にまたはその組み合わせて基づいて、臨床転帰のスコアを得るための決定がもたらされ、個々の患者での試験薬物と疾患活性との間の相互作用を研究するための良好な機構が得られる。本発明者らが用いた総合転帰スコアは、GFRおよびUP/C比の変化と等価の重みとした。これは、別の方法で本発明者らの比較的短期間の研究で行なう証拠がない状態で恣意的に選択された。
【0035】
臨床応答/転帰を記載するために用いられる用語の説明
【0036】
UP/C臨床応答スコア−尿タンパク/クレアチニン比の変化:
±1=ベースラインからのUP/C比の変化で±20%
±2=ベースラインからのUP/C比の変化で±21〜40%
±3=ベースラインからのUP/C比の変化で±41〜60%
±4=ベースラインからのUP/C比の変化で±61〜80%
±5=ベースラインからのUP/C比の変化で±≧81%
正の数はUP/Cの改善(すなわち低下)を示す
【0037】
GFRest臨床応答スコア−GFRestの変化;
±1=ベースラインから±10%変化
±2=ベースラインから±11〜20%変化
±3=ベースラインから±21〜30%変化
±4=ベースラインから±31〜40%変化
±5=ベースラインから±≧41%変化
正の数はGFRの改善(すなわち増大)を示す。
【0038】
転帰を評価するためのさらなる測定:
【0039】
総合スコア−GFRestおよびUP/Cスコアの組み合わせ
ベスト(Best)=+10
ワースト(Worst)=−10
臨床転帰スコア
治療の18ヶ月および24ヶ月の総合スコアの平均
【0040】
【表2】

【0041】
略語:
UP/C=尿タンパク対クレアチニン比
GFR=糸球体濾過速度(正のスコアは全ての臨床転帰スコアにおいて改善の指標であることに注意)
治療(Treatment)=1日あたり4グラム
EPA=エイコサペンタエン酸
AA=アラキドン酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgA腎症に罹患している哺乳動物またはIgA腎症の恐れのある哺乳動物を治療するための方法であって、
前記哺乳動物に対して少なくとも約0.04g/kgのオメガ3ポリ不飽和脂肪酸を投与する工程と、
母集団内でのGFRのレベルおよび/またはタンパク尿のレベルの統計学的に有意な改善を達成するまで前記投与を繰り返す工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
プレドニゾロンが前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸と共に投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の投与が毎日繰り返されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記毎日の投与が少なくとも約2年間の経過にわたって繰り返されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
IgA腎症に罹患している哺乳動物またはIgA腎症の恐れのある哺乳動物を治療するための方法であって、
前記哺乳動物に対して少なくとも約0.045g/kgのオメガ3ポリ不飽和脂肪酸を投与する工程であって、前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの組み合わせでありかつ少なくとも約84重量%を含む工程と、
前記投与を毎日繰り返す工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プレドニゾロンが1日おきに前記哺乳動物に同時投与されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
IgA腎症に罹患している哺乳動物またはIgA腎症の恐れのある哺乳動物を治療するための方法であって、
前記哺乳動物に対して、エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの組み合わせでありかつ少なくとも体重1キログラムあたり約0.042gを投与する工程と、
前記投与を毎日繰り返す工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
プレドニゾロンが1日おきに前記哺乳動物に同時に投与されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの組み合わせが、体重1キログラムあたり約0.042〜約0.13gの用量で投与されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの組み合わせが、体重1キログラムあたり約0.05〜約0.11gの用量で投与されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの毎日の投与が、少なくとも約2年間繰り返されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
IgA腎症に罹患している哺乳動物またはIgA腎症の恐れのある哺乳動物を治療するための方法であって、
少なくとも約0.38という血漿リン脂質EPA/AAの比を得るまで前記哺乳動物に対してオメガ3ポリ不飽和脂肪酸を投与する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸エチルエステルおよびドコサヘキサエン酸エチルエステルの組み合わせでありかつ体重1キログラムあたり少なくとも約0.042gという用量で、前記哺乳動物に対して投与されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも前記哺乳動物における血漿リン脂質EPA/AA比が0.38を超えるまで、前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸が毎日前記哺乳動物に投与されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項19】
炎症、腎障害または高トリグリセリド血症に罹患している患者を治療するための方法であって、
前記患者に対して少なくとも約0.045g/kgのオメガ3ポリ不飽和脂肪酸を投与する工程であって、前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸のエチルエステルの組み合わせでありかつ少なくとも約84重量%含む工程と、
前記投与を毎日繰り返す工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項20】
前記オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の投与が毎日繰り返されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記毎日の投与が、少なくとも約2年間繰り返されることを特徴とする請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−10766(P2013−10766A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−174330(P2012−174330)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2005−264372(P2005−264372)の分割
【原出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(505344100)プロノヴァ バイオファーマ ノルゲ アクティーゼルスカブ (2)
【住所又は居所原語表記】Vollsveien 6, Lysaker, Norway
【Fターム(参考)】