説明

オンデマンド消去性能を有するフォトクロミック媒体

【課題】所望の画像を記録するための改良されたフォトクロミック媒体、そのような媒体を調製するための新規な方法、および新規な画像形成方法を提供する。
【解決手段】画像形成媒体は、基材と、前記基材の上にコーティングさせるか、前記基材の中に含浸させた画像形成層と、を含み、前記画像形成層が、溶媒またはポリマーバインダの中に溶解されたフォトクロミック物質をさらに含む画像形成組成物を含み、前記フォトクロミック物質が、例えば非対称ジチエニルエテン(DTE)フォトクロムなどであり、さらに、前記画像形成組成物が無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、一般的には、画像再形成可能な文書のために使用できる、改良されたフォトクロミック媒体に関する。さらに詳しくは、本発明の実施態様は、「オンデマンド消去(erase−on−demand)」性能を有する、一時的文書のためのフォトクロミック物質を目的とする。
【背景技術】
【0002】
紙文書のほとんどのものは、読んだ後直ぐに用済みとなる。紙は安価なものと一般に考えられているが、用済みとなる紙文書の量が膨大であるので、それら用済みとなった紙文書の廃棄とリサイクルは、経済面でも環境面でも問題となっている。本発明は、上述の問題に対処するために、各種の実施態様により、所望の画像を記録するための改良されたフォトクロミック媒体、そのような媒体を調製するための新規な方法、および新規な画像形成方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,300,727号
【特許文献2】米国特許第7,214,456号
【特許文献3】米国特許第7,316,875号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光に誘導されて可逆的または非可逆的な変色をする物質である、フォトクロミック物質を採用した画像形成技術は公知である。しかしながら、スピロピランをベースとするフォトクロミック物質は、迅速な「自己消去性」であって、画像が一旦形成されても、その着色剤が熱的なプロセスおよび光化学的プロセスの両方で崩壊して無色状態となる。媒体の上に形成された画像が、より長い期間安定に保持されるような、より長い寿命であることが望ましい。たとえば、使用者によっては、数時間よりはもっと長い期間画像を見たいと望むこともあり得るであろう。このことは電子ペーパー文書にあてはまり、それは使用者がそれを見ることを必要とする間は、書き込まれた画像が保持されるようになっていなければならない。次いで、使用者が命令を与えることにより、その画像を消去したり、別なものに変化させたりしてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、画像形成媒体であって、基材と、前記基材の上にコーティングさせるか、前記基材の中に含浸させた画像形成層と、を含み、前記画像形成層が、溶媒またはポリマーバインダの中に溶解されたフォトクロミック物質をさらに含む画像形成組成物を含み、前記フォトクロミック物質が、次式で表され、
【化1】


式中、Xは窒素または炭素であり、Yは窒素または炭素であり、RおよびRはアルキル基であり、RおよびRは芳香族基であり、さらに、前記画像形成組成物が無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す、画像形成媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の実施態様に従って光および/または熱を適用することで着色状態と無色状態との間で可逆的な遷移をおこさせた画像形成媒体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施態様は、一般的には、画像再形成可能な文書のために使用することが可能であって、「オンデマンド消去」性能を有する、改良されたフォトクロミック媒体に関する。オンデマンド消去性能は、非対称ジチエニルエテン(DTE)フォトクロムを含むフォトクロミック物質によって可能となる。
【0008】
フォトクロミズムおよびサーモクロミズムは、それぞれ、露光(電磁放射)および熱(熱放射)に基づく刺激からの分子の可逆的な光着色と定義される。典型的には、フォトクロミック分子は、それらをより共役な着色状態へと変換させるUV光を用いて照射されると、構造的および/または電子的な転位を受ける。フォトクロミック分子の場合においては、その着色状態は、典型的には、可視光線を用いてその分子を照射することによって、元の無色状態に変換されて戻る。いくつかの場合においては、フォトクロムを脱色させるのに熱エネルギーを使用することも可能である。アルコキシ置換されたジチエニルエテン、スピロピラン、アザベンゼン、シッフ塩基などの場合のように、熱的に(熱を加えることによって)相互変換も可能であるのならば、それらの分子は、サーモクロミックとフォトクロミックの両方であると分類される。フォトクロミック化合物は、光の存在しない状態では双安定性であるのに対して、フォトクロミック−サーモクロミックハイブリッド化合物は、光が存在しない場合には、熱プロセスを介して、熱力学的により安定な無色状態へと消色することができる。安定な画像再形成可能な文書を作成するためには、特にその文書が日常的に遭遇する、たとえば広い帯域の光および種々の加熱/冷却条件のような周囲条件に対して、その着色状態を安定化させることが望ましい。しかしながら、文書に迅速な書き込みと、消去と、再書き込みとができるようにしたければ、そのフォトクロムが、迅速かつ定量的に消去される性能もまた有しているのが望ましい。
【0009】
非対称DTEが、オンデマンド消去性の着色剤を与えることが見出された。さらに、そのフォトクロムの両側の腕の上の2−アルコキシチオフェン基と2−アルキルチオフェン基との両方が適切に置換された非対称DTEは、十分に遅い熱的および光化学的な自消性を有していて、そのために、(たとえば、条件にもよるが1週間までの)延長された画像寿命を与えることができる。より重要なのは、それらのDTEが、可視光線および/または熱消去メカニズムを用いて、望むときに迅速に画像を消去することが可能であることである。
【0010】
本発明の実施態様においては、オンデマンド消去性の画像再形成可能なフォトクロミック媒体と、それに対応する印刷−消去システムが提供される。顧客調査の示すところでは、UV LEDライトバーを用いて画像形成させることが可能な画像再形成可能な紙媒体は、その媒体が書き込み性能およびオンデマンド消去性能を有しているのならば、きわめて有望である。非対称DTEフォトクロムが、オンデマンド消去性の一時的文書のための可逆的な画像形成材料として有用であることは判っていた。適切に官能化された非対称DTEは、スピロピラン系の自己消去性媒体よりも長い画像寿命を与え、かつ、消去デバイスからの可視光線および/または熱を用いて画像を消去する性能も合わせもっている。
【0011】
本明細書において記載される非対称DTEは、適切なレベルの熱および光についての安定性を有し、さらに、画像寿命を(たとえば、数日から数週間へと)延長することと、しかも同時に光および/または熱を用いて迅速に(たとえば、約1秒〜約10秒間で)文書を消去するのが可能であることとの間で、受容可能な折り合いをつけることもできる。その非対称DTEは次式で表される:
【化2】


式中、Xは窒素または炭素であり、Yは窒素または炭素であり、RおよびRは、1〜40個の炭素原子および/またはヘテロ原子を含む直鎖状、分岐状、環状、複素環状のアルキル基であり、そしてRおよびRは同一であっても異なっていてもよいが、芳香族、複素芳香族、アルケン、アルキン、たとえばカルボキシル、エステル、カーボネート、アルデヒド、ケトン、アミドなどを含むカルボニル、およびそれらの混合物である。
【0012】
その画像形成層には、各種適切なフォトクロミック物質および溶媒またはポリマーバインダが含まれていてよい。たとえば、そのフォトクロミック物質および溶媒またはポリマーバインダを選択して、そのフォトクロミック物質を溶媒またはポリマーバインダ中に溶解または分散させたときに、そのフォトクロミック物質がそのより低い着色状態となるようにする。しかしながら、そのフォトクロミック物質を第一の刺激たとえば紫外光線に露光させたときに、そのフォトクロミック物質が異性化して、より着色した形態となる。この変色は逆転させることが可能であって、そのため、各種の手段たとえば異性化反応を逆行させる、たとえば可視光線および/または熱のような第二の刺激を与えることによって、画像を「消去」したり、フォトクロミック紙を無色状態へ戻したりすることが可能である。着色状態にあるときには、その画像は、2日以上、たとえば1週間以上、または1ヶ月以上の期間、目に見える状態にとどめることが可能であって、そのフォトクロミック紙の有用性が向上する。
【0013】
いくつかの実施態様においては、そのフォトクロミック物質が、溶媒またはポリマーバインダ中に分散させた、アルコキシチオフェン基およびアルキルチオフェン基を含む非対称DTEであって、この場合そのフォトクロミック物質は、無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す。フォトクロミック物質はフォトクロミズムを示すが、その現象は、電磁放射を吸収することによって、異なった吸収スペクトルを有する2つの形態の間で、一方向または双方向に誘導される化学種の可逆性の転位である。第一の形態は、熱力学的に安定であって、光たとえば紫外光を吸収することによって誘導されて第二の形態に転化される。たとえば熱的に、または光たとえば可視光の吸収により、またはそれら両方で、第二の形態から第一の形態への逆反応を起こさせることができる。フォトクロミック物質の各種の例示的な実施態様にはさらに、可逆性の転位が3種以上の形態の間で起きるような場合に、3種またはそれ以上の形態の間における化学種の可逆性の転位もまた含まれ得る。実施態様におけるフォトクロミック物質は、1種、2種、3種、4種、またはそれ以上の各種のタイプのフォトクロミック物質からなっていてよく、それらそれぞれが、可逆的に相互に転化することが可能な形態を有している。本明細書で使用するとき、「フォトクロミック物質」という用語は、フォトクロミック物質の特定の化学種のすべての分子を指していて、それらの一時的な異性体の形態には関係ない。各種の例示的な実施態様において、各種のタイプのフォトクロミック物質では、一つの形態が無色または弱く着色されており、他の形態が異なった色となっているのがよい。
【0014】
いくつかの実施態様においては、その画像形成媒体には、基材と、その基材の上にコーティングするかまたはその中に含浸された画像形成層とが含まれるが、ここでその画像形成層には、溶媒またはポリマーバインダの中に溶解されたフォトクロミック物質をさらに含む画像形成組成物がさらに含まれ、そのフォトクロミック物質が次式で表され、
【化3】


式中、Xは窒素または炭素であり、Yは窒素または炭素であり、RおよびRはメチル基であり、RおよびRはフェニル基であり、さらに、前記画像形成組成物は無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す。前記フォトクロミック物質は、第一の波長で露光すると、無色状態から着色状態へと変換し、熱と第一の波長とは異なる第二の波長の光との内の少なくとも一つに暴露させると、着色状態から無色状態へと変換する。この特定のフォトクロミック物質を組み入れることによって、その画像形成媒体は、無色状態と着色状態との間で繰り返して変換することが可能となる。
【0015】
一つの具体的な実施態様においては、その第一の波長が紫外光線の範囲であり、それに対して第二の波長が可視光線の範囲である。さらなる実施態様においては、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、1〜40個の炭素原子および/またはヘテロ原子を含む直鎖状、分岐状、環状、複素環状のアルキル基およびそれらの混合物からなる群より選択され、RとRとは同一であっても異なっていてもよく、芳香族、複素芳香族、アルケン、アルキン、たとえばカルボキシル、エステル、カーボネート、アルデヒド、ケトン、アミドなどを含むカルボニル、およびそれらの混合物からなっていてよい。
【0016】
いくつかの実施態様においては、その画像形成層には一般的に、溶媒またはポリマーバインダの中に分散または溶解されたフォトクロミック物質の溶媒またはポリマーバインダの混合物が含まれ、その混合物が適切な基材物質たとえば紙の上にコーティングされるか、または第一と第二の基材物質(それらの物質の一つは紙である)の間に挟み込まれる。所望により、その混合物をさらに、たとえばその溶媒混合物をマイクロカプセル化するなどの方法によって、基材物質の上または第一と第二の基材物質の間に拘束することも可能である。
【0017】
したがって、これらのフォトクロミック物質は、異なった置換や非置換の他のジチエニルエテンも含めた、他のフォトクロミック物質とは、次の点で異なっている。この物質は一般的には、可視光線単独に暴露しただけでは着色状態から無色状態へとは容易に変換して戻ることはできず、着色状態から無色状態へと戻る変換をさせるためには、可視光線の存在下または非存在下に、適切な加熱に暴露させる必要がある。このことによって、望ましい製品が得られるが、その理由は、周囲の熱よりも十分に高い熱によって、構造的な再配向を起こすに十分なエネルギーが与えられるまでは、着色状態すなわち画像が適度に安定に存在することが可能であるからである。たとえば、本発明の実施態様は、その着色状態が、通常の室内照明条件下では約1日〜約30日の間ほとんどその着色状態のまま留まっているような媒体を提供する。
【0018】
その画像形成物質(フォトクロミック物質)は、各種適切なキャリヤ、たとえば溶媒、ポリマーバインダなどの中に溶解または分散される。好適な溶媒としては、たとえば、芳香族炭化水素、直鎖脂肪族炭化水素、分岐鎖脂肪族炭化水素など、たとえば約1〜約30個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の脂肪族炭化水素が挙げられる。たとえば、アイソパール(ISOPAR)(商標)シリーズ(エクソン・コーポレーション(Exxon Corporation)製)の非極性液体を溶媒として使用してもよい。それらの炭化水素液体は、イソパラフィン系炭化水素の狭い留分範囲のものと考えられている。たとえば、沸点範囲は、アイソパール(ISOPAR)G(商標)が約157℃〜約176℃;アイソパール(ISOPAR)H(商標)が約176℃〜約191℃;アイソパール(ISOPAR)K(商標)が約177℃〜約197℃;アイソパール(ISOPAR)L(商標)が約188℃〜約206℃;アイソパール(ISOPAR)M(商標)が約207℃〜約254℃;アイソパール(ISOPAR)V(商標)が約254.4℃〜約329.4℃である。その他の好適な溶媒物質としては、たとえば、ノルパール(NORPAR)(商標)シリーズの液体(n−パラフィン組成物、エクソン・コーポレーション(Exxon Corporation)から入手可能)、ソルトロール(SOLTROL)(商標)シリーズの液体(フィリップス・ペトロリウム・カンパニー(Phillips Petroleum Company)から入手可能)、およびシェルソル(SHELLSOL)(商標)シリーズの液体(シェル・オイル・カンパニー(Shell Oil Company)から入手可能)などが挙げられる。1種または複数の溶媒の混合物、たとえば溶媒系もまた所望により使用することができる。さらに、極性がより高い溶媒を使用することもできる。使用可能な極性がより高い溶媒の例としては、ハロゲン化および非ハロゲン化溶媒、たとえばテトラヒドロフラン、トリクロロ−およびテトラクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、エタノール、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチルアセトアミドなどが挙げられる。この溶媒は、1種、2種、3種またはそれ以上の異なった溶媒からなっていてもよい。2種以上の溶媒を用いる場合には、それぞれの溶媒が等量ずつであってもよいし、あるいは溶媒の全重量を基準にして、たとえば、約5%〜90%、特に約30%〜約50%の範囲で、それぞれが異なった量であってもよい。
【0019】
使用される成分に応じて、有機ポリマーまたは水性ポリマーのいずれかに分散可能な組成物を使用することができる。たとえば、水性組成物に対してはポリビニルアルコールが好適な塗布溶媒であり、有機可溶性組成物に対しては、ポリメチルメタクリレートが適している。好適なポリマーバインダの例としては、ポリアルキルアクリレートたとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ(スチレン)−コ−(エチレン)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリビニル誘導体、セルロース誘導体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。たとえばポリスチレン−アクリロニトリル、ポリエチレン−アクリレート、塩化ビニリデン−塩化ビニル、酢酸ビニル−塩化ビニリデン、スチレン−アルキド樹脂などのコポリマー物質もまた、好適なバインダ物質の例である。それらのコポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、交互コポリマーなどであってよい。いくつかの実施態様においては、ポリメチルメタクリレートまたはポリスチレンを、それらのコストおよび入手容易性の面から、ポリマーバインダとする。ポリマーバインダを使用する場合には、それは、コーティングまたは成膜性組成物を与える役目を有している。
【0020】
ポリマーバインダとして相変化物質を使用することもまた可能である。相変化物質は当業者には公知であり、たとえば結晶性ポリエチレンたとえば、ポリワックス(Polywax)(登録商標)2000、ポリワックス(Polywax)(登録商標)1000、ポリワックス(Polywax)(登録商標)500など(ベーカー・ペトロライト・インコーポレーテッド(Baker Petrolite Inc.)製);酸化ワックスたとえば、X−2073およびメコン(Mekon)ワックス(ベーカー・ヒューズ・インコーポレーテッド(Baker−Hughes Inc.)製);結晶性ポリエチレンコポリマーたとえば、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、エチレン/ビニルアルコールコポリマー、エチレン/アクリル酸コポリマー、エチレン/メタクリル酸コポリマー、エチレン/一酸化炭素コポリマー、ポリエチレン−b−ポリアルキレングリコール(ここでそのアルキレン部分はエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレンなどであってよく、ポリエチレン−b−(ポリエチレングリコール)などが含まれる);結晶性ポリアミド;ポリエステルアミド;ポリビニルブチラール;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;ポリビニルアルコール(加水分解物);ポリアセタール;結晶性ポリ(エチレングリコール);ポリ(エチレンオキシド);ポリ(エチレンテレフタレート);ポリ(エチレンスクシネート);結晶性セルロースポリマー;脂肪族アルコール;エトキシル化脂肪族アルコールなど、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0021】
一般的には、ほとんどすべての有機ポリマーが使用できる。しかしながら、いくつかの実施態様においては、可視画像を消去するために熱を使用することが理由で、ポリマーを選択して、選択された特定のアルコキシおよびアルキル置換されたDTEフォトクロムに基づいて形成された画像を消去するために使用される高温に耐えられる、熱的性質を有するようにすることができる。
【0022】
いくつかの実施態様においては、その画像形成組成物を一方の形で適用し、乾燥させて使用のための他方の形にすることもできる。したがって、たとえば、フォトクロミック物質および溶媒またはポリマーバインダを含む画像形成組成物を、基材に塗布したりまたは基材の中に含浸させたりするために、溶媒の中に溶解または分散させ、次いでその溶媒を蒸発させて乾燥層を形成させてもよい。
【0023】
一般的に、画像形成組成物には、キャリヤおよび画像形成材料が各種適切な量、たとえば、約5〜約99.5重量パーセントのキャリヤ、たとえば約30〜約70重量パーセントのキャリヤ、そして、約0.05〜約50重量パーセントのフォトクロミック物質、たとえば約0.1〜約5重量パーセントのフォトクロミック物質で含まれていてよい。
【0024】
画像形成層を画像形成媒体基材に適用する場合には、画像形成層組成物を各種適切な方法により適用することができる。たとえば、画像形成層組成物を混合し、各種適切な溶媒またはポリマーバインダと共に適用し、次いで硬化または乾燥させて所望の層を形成させることができる。さらに、画像形成層組成物を、支持基材に対して独立した層として適用してもよいし、あるいは支持基材の中に含浸されるように適用してもよい。
【0025】
画像形成媒体には、その少なくとも片面の上に画像形成層をコーティングまたは含浸させた支持基材が含まれていてよい。所望により、その基材の片面だけ、またはその両面に画像形成層を用いたコーティングまたは含浸をさせることができる。画像形成層を両面にコーティングまたは含浸させる場合、または画像の視認性を高めたい場合には、支持基板と画像形成層(1層または多層)の間、またはコーティングされた画像形成層とは反対側の支持基板の面の上に不透明層を存在させてもよい。したがって、たとえば、片面画像形成紙媒体を望む場合には、その画像形成媒体には、画像形成層を用いて片面にコーティングまたは含浸させ、他の面の上に不透明層たとえば白色層をコーティングした支持基板が含まれていてよい。さらに、その画像形成媒体には、画像形成層を用いて片面にコーティングまたは含浸させ、基材と画像形成層との間に不透明層を有する支持基板が含まれていてもよい。両面画像形成媒体が望ましいならば、その画像形成媒体には、画像形成層を用いて両面にコーティングまたは含浸させ、その2層の画像形成層の間に挟み込んだ少なくとも1層の不透明層を有する支持基板が含まれていてもよい。言うまでもないことではあるが、所望により、不透明な支持基板たとえば通常の紙を、個別の支持基板および不透明層の代わりに使用してもよい。
【0026】
各種好適な支持基板、たとえば紙を使用してよい。紙としては、たとえば、普通紙たとえばゼロックス(XEROX)(登録商標)4024用紙、罫入りノート用紙、ボンド紙、シリカコート紙たとえばシャープ・カンパニー(Sharp Company)のシリカコート紙、ジュウジョウ(Jujo)紙、などでよい。その他の基材として、ノーティア(no tear)紙やプラスチックが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。基材は単一層であっても、多層であってもよく、多層の場合には、それぞれの層が同じ材料であっても、異なった材料であってもよい。いくつかの実施態様においては、基材がたとえば約0.3mm〜約5mmの範囲の厚みを有するが、所望により、より薄いかまたはより厚い厚みを使用することも可能である。
【0027】
画像形成媒体に不透明な層を使用する場合には、各種適切な物質を使用してもよい。たとえば、白い紙様の外観が望ましい場合には、二酸化チタンもしくはその他の適切な物質たとえば酸化亜鉛、無機炭酸塩などの薄いコーティングを用いて、不透明層を形成させてもよい。その不透明層は、たとえば約0.01mm〜約10mm、たとえば約0.1mm〜約5mmの厚みとすることができるが、その他の厚みであってもよい。
【0028】
所望により、適用された画像形成層の上にさらに、さらなるオーバーコーティング層を適用してもよい。そのさらなるオーバーコーティング層は、たとえば、その基材の上に位置する下側層にさらに接着するように適用して、耐摩耗性を与えたり、外観や感触を改良したりしてもよい。オーバーコーティング層は、基材物質と同一であっても異なっていてもよいが、いくつかの実施態様においては、オーバーコーティング層と基材層の内の少なくとも一方が可視スペクトル領域において透明であって、形成された画像が見られるようになっている。そのオーバーコーティング層は、たとえば約0.01mm〜約10mm、たとえば約0.1mm〜約5mmの厚みとすることができるが、その他の厚みであってもよい。たとえば、所望または必要に応じて、そのコーティングされた基材を、支持シートたとえばプラスチックシートの間に積層させることもできる。
【0029】
場合によっては、光吸収性物質または媒体を存在させてもよく、それは、1種、2種またはそれ以上の光吸収性物質からなっていてもよい。光吸収性物質の目的を理解するために、まず考えておくべきことは、フォトクロミック物質は、異なった形態の間で可逆的に転化することが可能であって、ここで1つの形態が、予め定められた波長範囲と重なる吸収スペクトルを有する、ということである。その光吸収性物質は、吸収極大を有する光吸収帯を示し、その光吸収帯が、そのフォトクロミック物質の1つの形態の吸収スペクトルと重なる。「吸収スペクトル(absorption spectrum)」という用語は、吸光度が最低量よりは大きい、ある波長範囲における光の吸収を示す。吸収スペクトルの中に、少なくとも1つの「光吸収帯」が存在する。「光吸収帯(light absorption band)」という用語は、吸収が比較的に高いレベルにある波長範囲を指すが、典型的には、吸収がその「光吸収帯」において最大量となるような吸収極大を含む。光吸収性物質は、そのフォトクロミック物質のより無色な形態の吸収スペクトルと比較したその吸収スペクトルを基準にして選択する。
【0030】
光吸収性物質が存在しない場合には、屋内の通常の明るさである程度の時間が経過すると、実施態様においては、非露光領域(すなわち、画像形成用光線に暴露されていない領域)におけるフォトクロミック物質を、別な形態への相互変換を起こさせる可能性があり、そうなると、非露光領域のカラーが露光領域のカラーに合ってきて、すなわち類似してきて、そのために、カラーコントラストが減少することによる一時的画像の退色または消去が起きる可能性がある。画像再形成可能な媒体の中または表面上に光吸収性物質を組み入れることによって、この問題を抑制または最小化させる。
【0031】
各種好適な光吸収性物質を使用することができる。光吸収性物質として有用な有機分子およびポリマー材料について以下に述べるが、それらの内のいくつかは、予め定められた波長範囲より下で高い吸光度を有している。
【0032】
光吸収性物質として有用な有機化合物の例を挙げれば、2−ヒドロキシ−フェノン類、たとえば、2,4−ジヒドロキシフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、アゾベンゼン誘導体たとえばアゾベンゼン、4−エチルアゾベンゼン、2−クロロ−アゾベンゼン、4−フェニルアゾベンゼン、以下のものを含む芳香族共役系:
(a)たとえば約6個の炭素原子〜約40個の炭素原子を有する、少なくとも1個の芳香族環、たとえば1個、2個またはそれ以上の芳香族環、たとえば−C−、および−C−C−、
(b)たとえば約8個の炭素原子〜約50個の炭素原子を有する、1個または複数のエテニルまたはエチニル結合を介して共役している、少なくとも1個の芳香族環、たとえば1個、2個またはそれ以上の芳香族環、たとえば−C−CH=CH−C−、および−C−C≡C−C−、または
(c)たとえば約10個〜約50個の炭素原子を有する縮合芳香族環、たとえば1,4−C10および1,5−C10
などがある。
【0033】
場合によっては、1個または複数の芳香族環が置換基を有する。そのような置換基は、たとえばN、O、Sのような原子であってもよいが、ここでその原子の原子価は、Hまたは炭化水素基、アルデヒド(−C(O)−H)、ケトン(−C(O)−R)、エステル(−COOR)、カルボン酸(−COOH);シアノ(CN);ニトロ(NO);ニトロソ(N=O);硫黄含有基(たとえば、−SO−CH;および−SO−CF);フッ素原子;アルケン(−CH=CRまたは−CH=CHR)などと結合することによって満たされているが、ここでRはそれぞれ独立して、たとえば1〜約20個の炭素原子、特に1〜約12個の炭素原子を有する直鎖のアルキル基、たとえばペンチル、デシルおよびドデシル、たとえば3〜約40個の炭素原子、特に3〜約30個の炭素原子を有する分岐状のアルキル基、たとえばイソプロピル、イソペンチルおよび2−プロピル−ペンチル、たとえば環状の3〜約30個の炭素原子、特に4〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル基、たとえばシクロペンチルおよびシクロヘキシル、たとえば7〜約30個の炭素原子を有するアリールアルキル基またはアルキルアリール基、たとえばp−メチル−ベンジル、3−(p−エチル−フェニル)−プロピルおよび5−(1−ナフチル)−ペンチルなどであればよい。
【0034】
いくつかの特定の実施態様においては、光吸収性フィルムを画像形成層の上に配して、カラーコントラストの低下を防止してもよい。その光吸収性フィルムは、透明なプラスチックフィルムなどを含む、多くの物質で構成されていてよい。画像形成基材に恒久的に貼り付けるのならば、その光吸収性物質は理想的には、380nm〜500nmの領域に極大吸収を有し、そして250nm〜380nmの領域に極小吸収を有して、文書にUVに基づく画像形成が可能となるようにするべきである。そのような物質の組合せとすることによって、周囲のUV蛍光に暴露させてもそのカラーコントラストにおける低下が許容可能なレベルを示す。その光吸収性フィルムは、約0.1μm〜約1mm、または約0.005mm〜約1mmの厚みを有する。この方法において、それらの実施態様は、所望の領域に着色を可能とし、かつ屋内周囲条件において存在するUV光によるカラーコントラストの望ましくない低下を排除する方法が得られる。また別な実施態様においては、その光吸収性フィルムが画像形成媒体に対する脱着性のカバーとして機能して、その画像形成媒体をUV光に暴露させた後に、可逆的にその画像形成媒体に取り付けられた黄色フィルムカバーがその上を摺動できるようにしてもよい。この実施態様においては、その光吸収性フィルムは、UV領域において実質的に光学的に透明である必要はない。別な方法として、光吸収性染料を、ポリマーオーバーコートの中および/またはフォトクロミック媒体そのものの中に組み入れてもよい。その染料が、選択されたコーティング配合物の中に溶解または分散可能である限りにおいて、各種好適な光吸収性染料を使用することができる。
【0035】
画像形成材料を紙基材の上にコーティングしたり基材の中に含浸させたりする実施態様においては、そのコーティングを当業者が用いる各種適切な方法によって実施することが可能であって、そのコーティング方法に関しては特に制限はない。たとえば、画像形成材料組成物の溶液の中に紙基材をディップコーティングしてから各種必要な乾燥をさせることによって、画像形成材料を紙基材の上にコーティングするかまたはその中に含浸させることができるし、あるいは、画像形成組成物を用いて紙基材をコーティングしてその層を形成させることもできる。同様にして、同じような方法により、保護コーティングを適用することもできる。
【0036】
また別な実施態様においては、フォトクロミック物質を含む溶媒系をカプセル化またはマイクロカプセル化し、そうして得られたカプセルまたはマイクロカプセルを、上述のようにして、基材の上に堆積またはコーティングすることもできる。各種適切なカプセル化方法を使用することができるが、そのような方法としてはたとえば、単純および複合コアセルベーション法、界面重合法、インサイチュ重合法、相分離プロセスなどが挙げられる。単純コアセルベーション法のために有用な物質の例としては、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、およびセルロース誘導体などが挙げられる。複合コアセルベーション法のための物質の例としては、ゼラチン、アラビアゴム、カラゲナン、カルボキシメチルセルロース、寒天、アルギネート、カゼイン、アルブミン、メチルビニルエーテル−co−無水マレイン酸などが挙げられる。界面重合法のために有用な物質の例としては、ジアシルクロリド(たとえばセバコイル、アジポイル)とジ−もしくはポリアミン、またはアルコールとイソシアネートが挙げられる。インサイチュ重合法のために有用な物質の例としては、たとえば、ポリヒドロキシアミドとアルデヒド、メラミンまたは尿素とホルムアルデヒド;メラミンまたは尿素とホルムアルデヒドとの縮合物の水溶性オリゴマーと、ビニルモノマーたとえば、スチレン、メタクリル酸メチルおよびアクリロニトリルが挙げられる。相分離プロセスのために有用な物質の例としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、エチルセルロース、ポリビニルピリジン、およびポリアクリロニトリルが挙げられる。これらの実施態様においては、そのカプセル化物質もまた無色透明であって、フォトクロミック物質によって得られるフルカラーコントラスト効果を発揮させる。
【0037】
フォトクロミック物質をカプセル化する場合には、そうして得られるカプセルは各種所望の平均粒径とすることができる。たとえば、約1〜約1000μm、たとえば約10〜約600もしくは〜約800μm、または約20〜約100μmの平均サイズを有するカプセルで好ましい結果を得ることができるが、ここでその平均サイズとは、マイクロカプセルの平均直径を指していて、各種適切な機器、たとえば光学顕微鏡を用いて容易に測定することができる。たとえば、いくつかの実施態様においては、そのカプセルが適切な量のフォトクロミック物質を保持して、着色状態となったときに目に見える効果をもたらすほどに大きいが、所望の画像解像度が妨げられる程には大きくない。
【0038】
その方法態様において、本発明の開示には、基材と、溶媒またはポリマーバインダ中に分散されたアルコキシおよびアルキル置換されたジチエニルエテンを含む画像形成層とからなる画像形成媒体を提供することが含まれるが、ここでその組成物は、無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す。アルコキシ基とアルキル基は、そのフォトクロムの逆の腕の上に位置している。書き込みプロセスと消去プロセスを別途に与えるために、画像形成は、第一の刺激、たとえばUV光照射を画像形成材料に適用して変色を起こさせることによって実施し、消去は、第二の別な刺激、たとえばUVまたは可視光照射および場合によっては熱を画像形成材料に適用して、その変色を戻すことによって実施する。別の実施態様においては、可視光線と熱の両方を適用するか、あるいは熱だけを適用することによって、消去を実施する。したがって、たとえばその画像形成層は、全体として、フォトクロミック物質の透明状態から着色状態への転化を起こさせる第一の(たとえばUV)波長での感度が高く、それに対して、その画像形成層は、フォトクロミック物質の着色状態から透明状態へ戻る転化を起こさせる第二の、別な(たとえば可視光)波長および/または熱に対する感度が高い。
【0039】
いくつかの実施態様においては、書き込みおよび/または消去プロセスのいずれの場合でも、光照射の前または光照射と同時に画像形成層に対して熱を加えることも可能である。しかしながら、いくつかの実施態様においては、無色から着色への変色を起こさせるにはUV光照射の様な刺激で十分であるために、書き込みプロセスでは加熱は必要がないが、それに対して、消去プロセスにおいては、たとえば消色反応速度を上げたり、着色から無色への変色の速度を上げるために物質の易動度を向上させたりするのに役立つように、加熱が望ましいか、または必要とする。熱を使用した場合、その熱が画像形成組成物、特にフォトクロミック物質の温度を上昇させて、画像形成組成物の易動度を上げ、それによって、一つの色の状態から他の状態への、より容易でより迅速な転化が可能となる。加熱が照射または消去プロセスの間に画像形成組成物を所望の温度にまで上昇させる範囲で、加熱は、照射の前または照射中に適用するか、単独で適用する。各種適切な加熱温度を使用することが可能であるが、それらは、たとえば具体的に使用される画像形成組成物に依存するであろう。たとえば、フォトクロミック物質がポリマーまたは相変化組成物の中に分散されている場合には、ポリマーを、そのガラス転移温度または融点またはその近く、たとえばそのガラス転移温度または融点から約5℃以内、約10℃以内または約20℃以内にまで上げるように加熱を実施することができるが、ある種の実施態様においては、その温度がポリマーバインダの融点を超えないようにして、基材の上でのポリマーの望ましくない移動または流動を避けるようにするのが望ましい。
【0040】
異なった刺激、たとえば異なった光照射波長を適切に選択して、書き込み操作と消去操作を区別させることも可能である。たとえば、一つの実施態様においては、フォトクロミック物質を選択して、透明状態から着色状態への異性化を起こさせるためのUV光に対する感度を高くするが、その一方で着色状態から透明状態への異性化を起こさせるための可視光に対する感度を高くする。また別な実施態様においては、その書き込み用の波長と消去用の波長を、少なくとも約10nm、たとえば少なくとも約20nm、少なくとも約30nm、少なくとも約40nm、少なくとも約50nm、または少なくとも約100nm離しておく。したがって、たとえば書き込み用波長が約360nmの波長であるとすると、消去用の波長は、約400nmより長い、たとえば約500nmより長い波長とするのが望ましい。言うまでもないことであるが、増感波長の相対的な分離は、たとえばその露光装置の比較的狭い波長に依存する可能性がある。
【0041】
書き込みプロセスにおいては、その画像形成媒体を、適切な活性化波長を有する画像形成用光線、たとえばUV光源たとえば発光ダイオード(LED)に、像様に露光させる。その画像形成用光線が、フォトクロミック物質に充分なエネルギーを与えることにより、そのフォトクロミック物質に透明状態から着色状態への転化たとえば異性化を起こさせて、その画像形成位置に着色画像を作り出し、そのフォトクロミック物質を安定な異性体の形態に異性化させてその画像を固定させる。その画像形成媒体の特定の位置に照射するエネルギーの量は、その位置に生成される色の強度または色合いに影響する可能性がある。したがって、たとえばその位置に与えるエネルギー量が少ないと、発生する着色フォトクロミック単位の量が少なくなるので、強度のより低い画像を形成させることができるし、それに対して、その位置に与えるエネルギー量が多いと、発生する着色フォトクロミック単位の量が多くなるので、強度のより高い画像を形成させることができる。適切なフォトクロミック物質、溶媒またはポリマーバインダ、および照射条件が選択されれば、それによって、画像形成媒体の特定の位置に照射されたエネルギーの量を変化させることで、グレースケール画像を形成させることが可能となる。
【0042】
書き込みプロセスによって画像が一旦形成されれば、それによって、フォトクロミック含有基材の中に安定な着色異性体が形成されることとなる。すなわち、この新規なフォトクロミック物質の異性体の形態は、典型的なフォトクロミック物質に比較して、周囲の熱および光に対して安定であり、そのため、より高い長期間の安定性を示す。それによって、周辺光および熱に対してその画像が安定化され、周囲条件よりも強烈な特定の第二の刺激である熱および/または光が存在しない限り、容易には消去され得ない。いくつかの実施態様においては、画像が安定化されて、周囲の熱または光によって容易には消去されず、無色状態にまで戻すためには、高温および/または光の刺激が必要である。そのようにして、その画像形成基材は長寿命の画像ライフを示す画像再形成可能な基材を与えるが、その画像は所望により消去し、次の画像形成サイクルで再使用することが可能である。
【0043】
消去プロセスにおいては、書き込みプロセスを実質的に繰り返すが、ただし異なった刺激、たとえば異なった波長の照射光たとえば可視光を使用するか、および/または、そのフォトクロミック物質を、場合によっては、たとえばキャリヤ物質のガラス転移温度、溶融温度、または沸騰温度またはその近くの温度にまで加熱する。たとえば、加熱は、周囲温度よりは高い温度からその基材が無理なく耐えうる最高温度まで、たとえば、25℃から約350℃までで実施することができる。その他の範囲としては、約100〜約200℃あるいは約80〜約160℃が挙げられる。消去プロセスは、逆向きの異性化およびフォトクロミック単位の着色状態から透明状態への転化たとえば異性化を起こさせて、予め形成されていた画像を、その画像形成位置で消去する。消去手順は、所望により、像様に実施することもできるし、あるいは全体として画像形成層全部に実施することもできる。その加熱工程は任意であって、選択された刺激たとえば光の波長への暴露をすることだけで消去されるようなある種の組成物を得ることもできるし、その一方で、加熱条件下だけ、場合によっては選択された刺激たとえば光の波長への暴露もさせて、消去されるようなまた別の組成物を得ることもできる。特定の実施態様においては、光と熱との両方を同時に適用して消去させる。
【0044】
一時的画像を形成させるのに使用される別な画像形成用光線は、各種適切な所定の波長範囲、たとえば単一波長または波長帯を有していてよい。各種の例示的実施態様において、その画像形成用光線は、単一波長または狭い波長帯を有する紫外(UV)光源である。たとえば、そのUV光は、約200nm〜約475nmのUV光波長範囲から、たとえば約365nmの単一波長、または約350nm〜約370nm、もしくは約370nm〜約390nm、もしくは約390nm〜約410nmの波長帯から選択することができる。個別のUV LED光源の組合せを使用して、一時的画像を形成させてもよい。画像を形成させるためには、その画像形成媒体を、それぞれの画像形成光に、約10ミリ秒〜約5分、特に約30ミリ秒〜約1分の範囲の時間、露光させるのがよい。画像形成用光線の強度範囲は、約0.1mW/cm〜約100mW/cm、特には約0.5mW/cm〜約10mW/cmとすることができる。
【0045】
消去のための光は、可視領域における着色状態の異性体の吸収スペクトルと重なる波長の強い可視光線である。たとえば、消去に有用な光は、約400nm〜約800nm、より好ましくは約500nm〜約800nmの範囲の波長を有しているのがよい。消去用に使用可能な可視光線は、たとえば、5W〜約1000W、より好ましくは約20W〜約200Wの出力を有する電球を用いたキセノンまたはハロゲン光源から得ることが可能であり、その光源を、文書の消去するべき領域の近くに置く。露光する消去用光源は、約0J/cm〜約100J/cmの範囲のエネルギー密度を有しているのがよい。その他の好適な消去光源は、上述のような光スペクトルの可視領域に単一または複数の波長を有するレーザーまたはLEDである。消去光は、単一波長または狭い波長帯を有しているのがよい。
【0046】
各種の例示的な実施態様においては、予め定められた画像に対応する画像形成用光線は、たとえばコンピュータまたは発光ダイオード(LED)アレイにより発生させることができ、その画像は、媒体を、所望の時間そのLEDスクリーンの上または近傍に置くことにより画像形成媒体の上に形成される。また別な例示的実施態様においては、UVラスタ・アウトプット・スキャナ(Raster Output Scanner)(ROS)を使用して、UV光を像様パターンで発生させてもよい。この実施態様は特に、たとえば、それ以外は通常の様式であるが、コンピュータ駆動により印刷画像を発生させることが可能なプリンタデバイスに応用することができる。すなわち、そのプリンタは一般的に通常のインクジェットプリンタに相当しているが、ただし、像様にインキの液滴を噴射するインクジェットプリントヘッドを、画像形成媒体を像様に露光する適切なUV光プリントヘッドによって置き換えることが可能なものである。この実施態様においては、UV光源を使用して書き込みを行うので、もはやインキカートリッジを交換する必要はない。そのプリンタにはさらに、画像形成材料に熱を加えて、存在している画像をすべて消去できるような加熱デバイスが含まれていてもよい。使用することが可能なその他の適切な画像形成方法としては、マスクを通してUV光を画像形成媒体の上に照射する方法、たとえばライトペンを使用して像様に画像形成媒体の上にピンポイントでUV光源を照射する方法、などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0047】
各種の例示的実施態様において、画像形成基材を再使用する目的で画像を消去するためには、その基材を適切な画像用光線に露光させて、その画像を消去させることができる。そのような消去は、各種適切な方法、たとえば、基材全体を消去光に一度に露光させる方法、たとえば基材をスキャンさせることにより基材全体を連続的に消去光に露光させる方法などで実施することができる。他の実施態様においては、たとえばライトペンなどを使用して、基材の上の特定のポイントで消去を実施することも可能である。
【0048】
各種の例示的な実施態様において、観察者に画像が見えるようにするためのカラーコントラストは、たとえば2種、3種またはそれ以上の異なった色の間のコントラストであってよい。「カラー(color)」という用語には、いくつかの側面たとえば色相、明度、および彩度などが含まれ、ここで、二つのカラーが少なくとも一つの側面で異なっていれば、一つのカラーを他のカラーから区別することができる。たとえば、2つのカラーが同じ色相と彩度とを有しているが、明度に違いがある場合には、異なったカラーとみなしうる。各種適切なカラー、たとえば、レッド、ホワイト、ブラック、グレー、イエロー、シアン、マゼンタ、ブルー、およびパープルを使用して、カラーコントラストを作ることができるが、ただし、使用者の裸眼に画像が見えるようにしなければならない。しかしながら、望まれる最大限のカラーコントラストという点では、望ましいカラーコントラストは、明るいもしくはホワイトのバックグラウンドの上のダークグレーもしくはブラックの画像、たとえば、ホワイトのバックグラウンドの上の、グレー、ダークグレーもしくはブラックの画像、またはライトグレーのバックグラウンドの上のグレー、ダークグレー、もしくはブラックの画像などである。
【実施例】
【0049】
各種のアルコキシおよびアルキル基を含む非対称フォトクロム(ここで、XおよびYは炭素である)を合成し、基材の上にコーティングした。
【0050】
コーティング手順:
トルエン中に溶解させたポリメチルメタクリレートの溶液(PMMA−ポリマーバインダ)の中に非対称DTEフォトクロムを溶解させて、溶液を作成した([DTE]=8.75×10−2M、PMMA=10重量%(トルエン中))。使用したDTEフォトクロムでは、XおよびYが炭素であり、Rがメチル、Rがメトキシである。次いでその溶液を、石英ガラススライドの上にスピンコーティングするか、または、ブレードコータを用いてゼロックス(Xerox)4024用紙の上に塗布した。
【0051】
基材の画像形成:
そのフォトクロミック紙または石英スライドにUV光(365nm)を10秒間照射することによって着色させた。
【0052】
消去手順:
その着色した紙または石英スライドに、着色が消えるまで、サンプルを加熱するか、および/またはその基材に可視光線(>450nm)をあてることによって、脱色(消去)させた。このことは、石英スライドの場合はUV−可視によって測定し、コート紙の場合は、目視により調べた。
【0053】
紙の上での消去結果:
紙にスポット可視光源を、30℃および120℃で10秒間あてた。この手順の前後の結果を求めた(図参照)。次いでその消去させたスポットにUV光をあてると、画像を再形成させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成媒体であって、
基材と、
前記基材の上にコーティングさせるか、前記基材の中に含浸させた画像形成層と、
を含み、
前記画像形成層が、溶媒またはポリマーバインダの中に溶解されたフォトクロミック物質をさらに含む画像形成組成物を含み、
前記フォトクロミック物質が、次式で表され、
【化1】


式中、Xは窒素または炭素であり、Yは窒素または炭素であり、RおよびRはアルキル基であり、RおよびRは芳香族基であり、
さらに、前記画像形成組成物が無色状態と着色状態との間で可逆的な遷移を示す、
画像形成媒体。
【請求項2】
前記フォトクロミック物質は、第一の波長の光に暴露させると、無色状態から着色状態へと変換し、熱と、第一の波長とは異なる第二の波長の光との内の少なくとも一つに暴露させると、着色状態から無色状態へと変換する、請求項1に記載の画像形成媒体。
【請求項3】
前記媒体が、無色状態と着色状態との間の多重変換を行わせることが可能である、請求項2に記載の画像形成媒体。
【請求項4】
前記フォトクロミック物質が、周囲温度より高い温度から、前記基材が無理なく耐えられるほぼ最高の温度までの熱に暴露された場合のみに、着色状態から無色状態へと変換する、請求項1に記載の画像形成媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−9036(P2010−9036A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143132(P2009−143132)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】