説明

オーディオ信号再生装置、オーディオ・ビデオ再生装置及び再生速度調整方法

【課題】音質をできるだけ向上させつつ、オーディオ信号再生装置の品質低下を防ぐことができるオーディオ・ビデオ信号再生装置及び再生速度調整方法を提供する。
【解決手段】オーディオ信号とビデオ信号とを同時に再生するオーディオ・ビデオ信号再生装置100に、複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコーダ4と、ビデオ信号をデコードするビデオデコーダ5と、オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段(直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3)と、オーディオデコーダ4による処理の演算量と、ビデオデコーダ5による処理の演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する速度調整制御部8と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号再生装置、オーディオ・ビデオ再生装置及び再生速度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号を再生する再生装置や、オーディオ信号とビデオ信号の同時再生装置においては、地上デジタル放送やネットワーク経由等の外部から供給されるシステムクロックと、装置内のクロックとの同期を図る必要がある。そのため、オーディオ信号の再生速度調整を行う。再生速度調整とは、オーディオ信号をデコードして得られたPCMデータを増減する処理を指す。また、再生速度調整は、聴感上不自然とならないように行われる。
再生速度調整には、いくつかの方式が存在する。演算量を低減すると、音質が劣化し、音質を向上させると、演算量が増える。再生を主な目的とする再生装置においては、音質よりも演算量を考慮する必要がある。例えば、ビデオ信号のデコードとオーディオ信号のデコードとを同一プロセッサにおいて行う再生装置においては、演算量を考慮する必要がある。また、ビデオ信号のデコードとオーディオ信号のデコードとを別プロセッサにおいて行うが、オーディオデコード方式を複数有する再生装置においても、演算量を考慮する必要がある。
【0003】
通常、一定期間に許容される演算量(以下、許容演算量と称する。)は装置毎に決まっている。また、一定期間に装置において行われる処理の演算量(以下、一定期間の演算量と称する。)は、変動する。
一定期間の演算量を決定する要因は、主に、デコード方式、デコード後処理の2つである。デコード方式としては、MP3(MPEG Audio Layer-3)、AAC(Advanced Audio Coding)、MPEG(Moving Picture Experts Group)等が挙げられる。
また、デコード後処理は、装置毎に異なり、多種存在する。デコード後処理では、オーディオ信号、ビデオ信号の加工が行われる。再生速度調整処理は、デコード後処理に相当する。
【0004】
そして、デコード方式AとBとを有し、デコード後処理として再生速度調整処理を行う再生装置において、デコード方式Aとデコード後処理を組み合わせた場合には、許容演算量を超えないが、デコード方式Bとデコード後処理を組み合わせた場合には、許容演算量を超えてしまう場合に、デコード後処理を見直さなければならないという問題がある。
【0005】
また、オーディオ信号とビデオ信号とを同時に再生する場合では、オーディオ信号とビデオ信号とのデコード処理の演算量は変動する。そのため、デコード処理の演算量が許容演算量を超過する場合は、オーディオ信号とビデオ信号の調整により同期処理を実現する。具体的には、ビデオ信号のデコード処理をスキップして前回のデコード結果を使うことにより演算量超過を調整する。また、オーディオ信号の再生速度調整処理を行うことにより、演算量超過を調整する。しかし、デコード処理の演算量の超過が継続的に発生すると、再生装置の品質が低下する。
【0006】
そこで、特許文献1には、オーディオ信号と静止画信号のデコードを行う際に、静止画信号のデコード処理をN分割し、デコード処理を完了しなければならない時刻の前の演算処理が行われていない時間に、分割した静止画信号のデコード処理を行う技術が記載されている。これにより、限られた演算能力の中でオーディオ信号と静止画信号のデコード処理を行えるようにしている。
【0007】
また、特許文献2には、複数の信号処理手段を有し、オーディオ信号とともに属性信号が入力され、属性信号に基づいて信号処理手段を選択する技術が記載されている。属性信号には、サンプリング周波数やチャネル数などの情報が含まれる。具体的には、特許文献2では、チャネル数が少ない場合に、演算量の小さい信号処理手段を選択する。これにより、演算精度を向上している。
【特許文献1】特開2000−138898号公報
【特許文献2】特開2002−191099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、先読み処理や先行デコード処理が制限されるため、ストリーミング再生などのアイソクロナス(Isochronous)再生処理において、特許文献1の技術を用いることができない。また、特許文献1では、あらかじめ分割数を決めなければならず、動画のような演算量がデータによって変化する場合には、用いることができない。
また、特許文献2では、オーディオ信号とビデオ信号とを同時に再生した場合の演算量超過について考慮されていないため、上記問題を解決することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様にかかるオーディオ信号再生装置及び再生速度調整方法は、複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、前記オーディオデコード手段による処理の演算量に基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、を備える。
【0010】
本発明の第1の態様においては、制御部が、オーディオデコード手段による処理の演算量に基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択する。そのため、デコード方式によりデコード処理の演算量は異なるが、制御部は、デコード処理の演算量が小さい場合には、演算量の大きい再生速度調整手段を選択し、デコード処理の演算量が大きい場合には、演算量の小さい再生速度調整手段を選択することができ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。これにより、デコード処理の演算量に応じて、音質のより良い再生速度調整手段を選択しつつ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。よって、音質をできるだけ向上させつつ、オーディオ信号再生装置の品質低下を防ぐことができる。
また、先読み処理や先行デコード処理などを制限しないため、ストリーミング再生などのアイソクロナス再生処理に対応できる。
【0011】
本発明の第2の態様にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置及び再生速度調整方法は、複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、ビデオ信号をデコードするビデオデコード手段と、前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、前記オーディオデコード手段による処理の演算量と、前記ビデオデコード手段による処理の演算量とに基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、を備えるものである。
【0012】
本発明の第2の態様においては、オーディオデコード手段による処理の演算量と、ビデオデコード手段による処理の演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段が選択される。そのため、動画のようなデコード処理の演算量がデータによって変化する場合でも、制御部は、デコード処理の演算量が小さい場合には、演算量の大きい再生速度調整手段を選択し、デコード処理の演算量が大きい場合には、演算量の小さい再生速度調整手段を選択することができ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。これにより、デコード処理の演算量に応じて、音質のより良い再生速度調整手段を選択しつつ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。よって、音質をできるだけ向上させつつ、オーディオ信号再生装置の品質低下を防ぐことができる。
また、先読み処理や先行デコード処理などを制限しないため、ストリーミング再生などのアイソクロナス再生処理に対応できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、音質をできるだけ向上させつつ、オーディオ信号再生装置の品質低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
図1に、本発明の実施の形態にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置100の一例を示す。オーディオ・ビデオ信号再生装置100は、図1に示すように、複数種類の再生速度調整手段を有している。本実施形態においては、オーディオ・ビデオ信号再生装置100は、再生速度調整手段として、直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3を有している。また、さらに、オーディオ・ビデオ信号再生装置100は、オーディオデコーダ(オーディオデコード手段)4、ビデオデコーダ(ビデオデコード手段)5、オーディオ演算量監視部6、ビデオ演算量監視部7、速度調整制御部(制御部)8、セレクタ9、第1PCMバッファ10、第2PCMバッファ11、DAコンバータ12を有している。
また、速度調整制御部8は、オーディオ残り演算量算出部13、ビデオ・オーディオ残り演算量算出部14を有している。そして、速度調整制御部8は、オーディオ信号の再生速度を調整する。
【0015】
オーディオデコーダ4は、オーディオ信号をデコード処理してPCMデータを生成し、生成したPCMデータを第1PCMバッファ10に出力する。また、オーディオデコーダ4は、複数種類のデコード方式に対応して、オーディオ信号をデコード処理する。デコード方式としては、例えば、MP3(MPEG Audio Layer-3)、AAC(Advanced Audio Coding)、MPEG(Moving Picture Experts Group)等が挙げられる。
ビデオデコーダ5は、ビデオ信号をデコード処理する。
【0016】
オーディオ演算量監視部6は、オーディオデコーダ4における演算量に関する情報を取得し、速度調整制御部8に出力する。具体的には、オーディオデコーダ4により1フレームのデータ長のオーディオ信号がデコード処理される度に、オーディオデコーダ4における演算量に関する情報を取得し、速度調整制御部8のオーディオ残り演算量算出部13に出力する。
ビデオ演算量監視部7は、ビデオデコーダ5における演算量に関する情報を取得し、速度調整制御部8に出力する。具体的には、ビデオデコーダ5により1フレームのデータ長のビデオ信号がデコード処理される度に、ビデオデコーダ5における演算量に関する情報を取得し、速度調整制御部8のビデオ・オーディオ残り演算量算出部14に出力する。
【0017】
速度調整制御部8は、図示しないCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、オーディオデコーダ4による処理の演算量と、ビデオデコーダ5による処理の演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する。
具体的には、オーディオ残り演算量算出部13がオーディオ演算量監視部6から入力された情報に基づいて、オーディオ残り演算量を算出する。また、オーディオ残り演算量算出部13が、オーディオ演算量監視部6から入力された情報、及び算出したオーディオ残り演算量をビデオ・オーディオ残り演算量算出部14に出力する。
ビデオ・オーディオ残り演算量算出部14は、オーディオ残り演算量算出部13から入力された情報と、ビデオ演算量監視部7から入力された情報とに基づいて、ビデオ・オーディオ残り演算量を算出する。
そして、速度調整制御部8は、オーディオ残り演算量算出部13により算出されたオーディオ残り演算量と、ビデオ・オーディオ残り演算量算出部14により算出されたビデオ・オーディオ残り演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択し、選択制御信号をセレクタ9に出力する。
【0018】
セレクタ9は、第1PCMバッファ10と、各再生速度調整手段(直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3)との間に設けられている。そして、セレクタ9は、速度調整制御部8から入力された選択制御信号に基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択し、第1PCMバッファ10と選択した再生速度調整手段とを接続する。
【0019】
第1PCMバッファ10は、オーディオデコーダ4から入力されたPCMデータを一時的に記憶する。
また、第1PCMバッファ10は、セレクタ9を介して、複数種類の再生速度調整手段(直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3)と選択的に接続される。そして、第1PCMバッファ10は、セレクタ9を介して、PCMデータをセレクタ9により選択された再生速度調整手段に出力する。
【0020】
各再生速度調整手段(直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3)は、第2PCMバッファ11に接続されている。そして、各再生速度調整手段は、セレクタ9を介して第1PCMバッファ10から入力されたPCMデータに再生速度調整処理を行って、第2PCMバッファ11に出力する。
直線補間処理部1は、直線補間を用いてPCMデータに伸張・圧縮処理を行うことにより再生速度を制御する処理を行う。
クロスフェード処理部2は、クロスフェード処理を用いて、PCMデータに伸張・圧縮処理を行うことにより再生速度を制御する処理を行う。
レートコンバータ処理部3は、サンプリングレート(サンプリング周波数)を変換することにより再生速度を調整する処理を行う。
各再生速度調整手段における処理の演算量は、それぞれ異なる。
【0021】
第2PCMバッファ11は、再生速度調整手段(直線補間処理部1、クロスフェード処理部2、レートコンバータ処理部3)から入力されたPCMデータを一時的に記憶し、DAコンバータ12に出力する。
【0022】
DAコンバータ12は、第2PCMバッファ11から入力されたPCMデータにD/A変換を行って、スピーカ(図示省略)などの出力手段に出力する。
【0023】
次に、速度調整制御部8における再生速度調整手段の選択処理について、説明する。
ここで、1フレームのデータ長のオーディオ信号に対する処理(デコード処理及び速度調整処理)の演算量をAtとする。
また、1フレームのデータ長のビデオ信号に対するデコード処理の演算量をVtとする。
また、一定期間にデコードされるビデオ信号のフレーム数(デコード回数)をm(mは、m≧1を満たす整数)とし、一定期間にデコードされるオーディオ信号のフレーム数(デコード回数)をn(nは、n≧1を満たす整数)とする。また、デコード処理の時系列順に、1フレームのビデオ信号に対するデコード処理の演算量をVt1、Vt2、・・・、Vtmとする。同様に、デコード処理の時系列順に、1フレームのオーディオ信号に対する処理(デコード処理及び速度調整処理)の演算量をAt1、At2、・・・、Atnとする。Vt1、Vt2、・・・、Vtmは、ビデオ演算量監視部7により取得される。また、At1、At2、・・・、Atnは、速度調整制御部8により取得される。
また、1フレームのデータ長のオーディオ信号に対するデコード処理の演算量をAdとする。また、デコード処理の時系列順に、Ad1、Ad2、・・・、Adnとする。また、Ad1、Ad2、・・・、Adnは、オーディオ演算量監視部6により取得される。
このとき、一定期間の総演算量Stは、
St = m×Vt + n×At ・・・・・・・(1)
St = (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) + (At1 + At2 + … + Atn) ・・・・・・・(2)
と表される。
【0024】
また、1フレームのオーディオ信号に対する処理(デコード処理及び速度調整処理)において許容される演算量をAmax、1フレームのビデオ信号に対するデコード処理において許容される演算量をVmaxとする。Amax、Vmax、デコード回数は、サンプリングレート、フレームレートにより決定される。
このとき、一定期間の総演算量として許容される許容演算量Smaxは、
Smax = m×Vmax + n×Amax ・・・・・・・(3)
と表される。
そして、速度調整制御部8は、Smax≧Stの関係を守るように、再生速度調整手段を選択する。
即ち、
Smax ≧ (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) + (At1 + At2 + … + Atn) ・・・・・(4)
これにより、
Atn ≦ Smax − (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) − (At1 + At2 + … + Atn-1)
・・・・・・・(5)
となる。
【0025】
また、速度調整制御部8は、Atn≦Amaxの関係を守るように、再生速度調整手段を選択する。
即ち、
Amax = Smax − (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) − (At1 + At2 + … + Atn-1)
・・・・・・・(6)
ここで、nフレーム目のオーディオ信号に対するデコード処理の演算量はAdnだから、図2(a)に示すように、
(オーディオ残り演算量)= Amax − Adn・・・・・・・(7)
と表せる。
【0026】
数式(7)で表される「オーディオ残り演算量」は、nフレーム目のオーディオ信号に対するデコード処理の演算量のみを考慮した残り演算量である。従って、ビデオ信号とオーディオ信号とを同時に再生する装置においては、さらに、ビデオ信号のデコード処理の演算量を考慮する必要がある。ビデオ信号のデコード処理の演算量を考慮すると、図2(b)に示すように、
Smax ≧ St = (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) − (At1 + At2 + … + Atn-1 + Adn+(ビデオ・オーディオ残り演算量)) ・・・・・・・(8)
となる。
そして、数式(7)に、数式(6)を代入することにより、nフレーム目のビデオ・オーディオ残り演算量は、
(ビデオ・オーディオ残り演算量)=Smax − (Vt1 + Vt2 + … + Vtm) − (At1 + At2 + … + Atn-1) − Adn ・・・・・・・(9)
と表される。
【0027】
そして、オーディオ信号のみを再生する場合、速度調整制御部8は、数式(7)で表される「オーディオ残り演算量」以下の演算量で処理を行う再生速度調整手段を選択する。
一方、ビデオ信号とオーディオ信号とを同時に再生する場合、ビデオ信号のデコード処理の演算量も考慮しなければならないが、数式(7)では、ビデオ信号のデコード処理の演算量に関する項が入っていない。そのため、速度調整制御部8は、数式(9)で表される「ビデオ・オーディオ残り演算量」以下の演算量で処理を行う再生速度調整手段を選択する。
なお、「ビデオ・オーディオ残り演算量」が「オーディオ残り演算量」より大きい場合は、速度調整制御部8は、数式(7)で表される「オーディオ残りの演算量」に基づいて、再生速度調整手段の選択を行う。
【0028】
次に、本実施形態にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置100における再生速度調整方法について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、オーディオ演算量監視部6は、1フレームのオーディオ信号がオーディオデコーダ4によりデコード処理される度に、当該デコード処理の演算量に関する情報、即ち、Ad1、Ad2、・・・、Adnを順次取得する。また、ビデオ演算量監視部7は、1フレームのビデオ信号がビデオデコーダ5によりデコード処理される度に、当該デコード処理の演算量に関する情報、即ち、Vt1、Vt2、・・・、Vtmを順次取得する(ステップS1)。
【0029】
次に、オーディオ残り演算量算出部13は、オーディオ演算量監視部6から入力される情報Ad1、Ad2、・・・、Adnに基づいて、数式(7)を用いて、オーディオ残り演算量を算出する。例えば、nフレーム目のオーディオ信号がオーディオデコーダ4によりデコードされた場合、オーディオ残り演算量は、Amax−Adnとなる。そして、オーディオ残り演算量算出部13は、算出したオーディオ残り演算量(Amax−Adn)と、オーディオ演算量監視部6から入力される情報Adnをビデオ・オーディオ残り演算量算出部14に出力する(ステップS2)。
【0030】
次に、ビデオ・オーディオ残り演算量算出部14は、ビデオ演算量監視部7から入力される情報(Vt1、Vt2、・・・、Vtm)と、オーディオ残り演算量算出部13から入力される情報とに基づいて、数式(9)を用いて、ビデオ・オーディオ残り演算量を算出する(ステップS3)。なお、At1、At2、・・・、Atnの情報は、速度調整制御部8が、順次、フレーム毎に再生速度調整手段を選択した結果、選択した再生速度調整手段の演算量と、当該フレームのオーディオ信号のデコード処理の演算量(Ad1、Ad2、・・・、Adn)とを加算することにより、算出する。
【0031】
次に、速度調整制御部8は、ステップS2において算出されたオーディオ残り演算量と、ステップS3において算出されたビデオ・オーディオ残り演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択し、選択制御信号をセレクタ9に出力する(ステップS4)。具体的には、オーディオ残り演算量よりビデオ・オーディオ残り演算量が小さい場合は、速度調整制御部8は、ビデオ・オーディオ残り演算量に基づいて再生速度調整手段を選択する。また、オーディオ残り演算量よりビデオ・オーディオ残り演算量が大きい場合は、速度調整制御部8は、オーディオ残り演算量に基づいて再生速度調整手段を選択する。
【0032】
以上に説明した本発明の実施の形態にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置100及び再生速度調整方法では、速度調整制御部8が、オーディオデコーダ4による処理の演算量と、ビデオデコーダ5による処理の演算量とに基づいて、何れかの再生速度調整手段を選択する。そのため、デコード方式によりデコード処理の演算量が異なったり、動画のようなデコード処理の演算量がデータによって変化したりする場合でも、速度調整制御部8は、デコード処理の演算量が小さい場合には、演算量の大きい再生速度調整手段を選択し、デコード処理の演算量が大きい場合には、演算量の小さい再生速度調整手段を選択することができ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。これにより、デコード処理の演算量に応じて、音質のより良い再生速度調整手段を選択しつつ、デコード処理の演算量と再生速度調整処理の演算量の和を許容される演算量内に抑えることができる。よって、音質をできるだけ向上させつつ、オーディオ・ビデオ信号再生装置100の品質低下を防ぐことができる。
また、先読み処理や先行デコード処理などを制限しないため、ストリーミング再生などのアイソクロナス再生処理に対応できる。
【0033】
また、速度調整制御部8は、一定期間にビデオデコーダ5によりデコードされるビデオ信号のフレーム数がm(mは、m≧1を満たす整数)、一定期間にオーディオデコーダ4によりデコードされるオーディオ信号のフレーム数がn(nは、n≧1を満たす整数)である場合に、一定期間に許容される許容演算量(Smax)から、mフレーム分のビデオ信号に対するビデオデコーダ5の処理の演算量(Vt1 + Vt2 + … + Vtm)と、n−1フレーム分のオーディオ信号に対するオーディオデコーダ4の処理の演算量及び再生速度調整手段の処理の演算量(At1 + At2 + … + Atn-1)と、nフレーム目のオーディオ信号に対するオーディオデコーダ4の処理の演算量(Adn)と、を差し引いて、ビデオ・オーディオ残り演算量を算出し、ビデオ・オーディオ残り演算量に基づいて、nフレーム目のオーディオ信号に対して再生速度調整処理を行う前記再生速度調整手段を選択する。
【0034】
これにより、1フレームのデータ長のオーディオ信号及びビデオ信号がデコードされる毎に、ビデオ・オーディオ残り演算量が算出される。そのため、速度調整制御部8は、オーディオ信号及びビデオ信号のデコード演算量の変動に応じて、1フレーム毎に再生速度調整手段を選択することができる。
【0035】
なお、オーディオ信号のみを再生するオーディオ信号再生装置においても、本発明を適用可能である。オーディオ信号のみを再生するオーディオ信号再生装置の場合には、上記実施例において、オーディオ信号のデコード処理の演算量のみを考慮すればよい。具体的には、オーディオ残り演算量算出部13が、数式(7)を用いて算出した「オーディオ残り演算量」に基づいて、速度調整制御部8が再生速度調整手段を選択すればよい。
オーディオ信号再生装置に本発明を適用することにより、オーディオデコーダ4の演算方法の変更(圧縮方式の変更、追加、機能拡張など)が要因で演算量が変動した場合でも、当該演算量の変動に応じて、再生速度調整処理を選択することができる。したがって、上記実施例と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかるオーディオ・ビデオ信号装置における演算量の計算を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかるオーディオ・ビデオ信号再生装置における再生速度調整方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1 直線補間処理部(再生速度調整手段)
2 クロスフェード処理部(再生速度調整手段)
3 レートコンバータ処理部(再生速度調整手段)
4 オーディオデコーダ(オーディオデコード手段)
5 ビデオデコーダ(ビデオデコード手段)
8 速度調整制御部(制御部)
100 オーディオ・ビデオ信号再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を再生するオーディオ信号再生装置であって、
複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、
前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、
前記オーディオデコード手段による処理の演算量に基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、
を備えるオーディオ信号再生装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記オーディオデコード手段により、1フレームのデータ長のオーディオ信号がデコード処理される度に、当該1フレームのデータ長のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量を参照し、1フレームのデータ長のオーディオ信号に対して許容される演算量から、当該1フレームのデータ長のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量を差し引くことにより、オーディオ残り演算量を算出し、前記オーディオ残り演算量に基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択する請求項1に記載のオーディオ信号再生装置。
【請求項3】
オーディオ信号とビデオ信号とを同時に再生するオーディオ・ビデオ信号再生装置であって、
複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、
ビデオ信号をデコードするビデオデコード手段と、
前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、
前記オーディオデコード手段による処理の演算量と、前記ビデオデコード手段による処理の演算量とに基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、
を備えるオーディオ・ビデオ信号再生装置。
【請求項4】
前記制御部は、一定期間に前記ビデオデコード手段によりデコードされるビデオ信号のフレーム数がm(mは、m≧1を満たす整数)、前記一定期間に前記オーディオデコード手段によりデコードされるオーディオ信号のフレーム数がn(nは、n≧1を満たす整数)である場合に、一定期間に許容される許容演算量から、mフレーム分のビデオ信号に対する前記ビデオデコード手段の処理の演算量と、n−1フレーム分のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量及び前記再生速度調整手段の処理の演算量と、nフレーム目のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量と、を差し引いて、ビデオ・オーディオ残り演算量を算出し、前記ビデオ・オーディオ残り演算量に基づいて、nフレーム目のオーディオ信号に対して再生速度調整処理を行う前記再生速度調整手段を選択する請求項3に記載のオーディオ・ビデオ信号再生装置。
【請求項5】
オーディオ信号を再生するオーディオ信号再生装置における再生速度調整方法であって、
前記オーディオ信号再生装置は、
複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、
前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、
何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部により、前記オーディオデコード手段による処理の演算量に基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する再生速度調整方法。
【請求項6】
前記制御部は、前記オーディオデコード手段により、1フレームのデータ長のオーディオ信号がデコード処理される度に、当該1フレームのデータ長のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量を参照し、1フレームのデータ長のオーディオ信号に対して許容される演算量から、当該1フレームのデータ長のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量を差し引くことにより、オーディオ残り演算量を算出し、前記オーディオ残り演算量に基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択する請求項5に記載の再生速度調整方法。
【請求項7】
オーディオ信号とビデオ信号とを同時に再生するオーディオ・ビデオ信号再生装置における再生速度調整方法であって、
前記オーディオ・ビデオ信号再生装置は、
複数種類のデコード方式に対応してオーディオ信号をデコードするオーディオデコード手段と、
ビデオ信号をデコードするビデオデコード手段と、
前記オーディオ信号の再生速度を調整する複数種類の再生速度調整手段と、
何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部により、前記オーディオデコード手段による処理の演算量と、前記ビデオデコード手段による処理の演算量とに基づいて、何れかの前記再生速度調整手段を選択して再生速度調整処理を実行する再生速度調整方法。
【請求項8】
前記制御部は、一定期間に前記ビデオデコード手段によりデコードされるビデオ信号のフレーム数がm(mは、m≧1を満たす整数)、前記一定期間に前記オーディオデコード手段によりデコードされるオーディオ信号のフレーム数がn(nは、n≧1を満たす整数)である場合に、一定期間に許容される許容演算量から、mフレーム分のビデオ信号に対する前記ビデオデコード手段の処理の演算量と、n−1フレーム分のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量及び前記再生速度調整手段の処理の演算量と、nフレーム目のオーディオ信号に対する前記オーディオデコード手段の処理の演算量と、を差し引いて、ビデオ・オーディオ残り演算量を算出し、前記ビデオ・オーディオ残り演算量に基づいて、nフレーム目のオーディオ信号に対して再生速度調整処理を行う前記再生速度調整手段を選択する請求項7に記載の再生速度調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−140567(P2009−140567A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315895(P2007−315895)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】