説明

カキ肉を原料とした塩及びその製造方法

【課題】貝肉を使用してカリウムなどのミネラル分の多い天然塩を提供する。
【解決手段】原料として生カキ肉28,600kg(剥き身)に1.5倍量の水を加え、80〜100℃で煮沸して熱水抽出する。残渣と抽出液を分離し、抽出液をBrix濃度が37になるまで加熱濃縮して、濃縮液8000kgを得た。濃縮液に対して終濃度40%(w/w)になるようにエタノールを加えて沈澱を生成させて、3日間放置して上清と沈澱に分離した。上清をBrix濃度が54になるまで加熱濃縮して上清の濃縮液1,350kgを得た。この上清の濃縮液を電気透析装置にかけ、塩類を含んだ液468.8kgを得た。この液をスプレードライ法で乾燥してカキの塩120kgを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウムなどのミネラルを多く含む塩及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に海塩または天然塩といえば、海水を入り浜式塩田で天日のみで自然結晶させて作られたものを指し、完全天日塩で無添加の塩をいう。これに対してイオン交換膜透析法により、電気化学的にNa+とCl-イオンを海水から抽出・濃縮して製塩したものを「化学塩」と呼んでいる。
【0003】
【特許文献1】特公平4−63672号公報
【特許文献2】特許3429726号公報
【特許文献3】特許3267962号公報
【特許文献4】特許3559487号公報
【特許文献5】特許3358386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩専売法が1997年3月末をもって撤廃され、量的に制限があるものの、日本国内で天日による無添加の完全天日塩の製造が可能となった。また、海外から無添加の完全天日塩の輸入が許可され、塩田で天日のみでじっくり乾燥/結晶化させていく、昔ながらの製法による塩が復活した。
【0005】
海水を蒸発させて製造する天然塩は、ほとんどがナトリウムで、その他のミネラルはあまり含まれていない。
ナトリウムは、必須のミネラルであるが、日本人においては過剰摂取が懸念されている。ナトリウムの慢性的な過剰摂取は高血圧を引き起こすといわれており、したがって、現在の日本人においては、ナトリウム摂取を減らし、カリウム摂取を増やすことが推奨されている。
【0006】
一方、日本人の食事摂取基準(2005年版)及び平成16年国民健康・栄養調査結果を見るとナトリウムとカリウムの現状は以下のとおりである。
ナトリウムの必要量と摂取状況(1日あたり)
推定平均必要量:600mg(食塩として1.5g)目標値:10g(食塩として)を超えないこと
食塩の摂取状況(20歳以上):男性12.1g、女性10.5g(食塩として)
カリウムの必要量と摂取状況(1日あたり)
目安量(18歳以上):男性2000mg、女性1600mg
生活習慣病予防の観点から見た望ましい摂取量:男女とも3500mg
高血圧予防を目的としたカリウム目標量:男女とも約3000mg
摂取状況(20歳以上):男性2457mg、女性2301mg
【0007】
日本人の塩の摂取量の現状を見ると、ナトリウムは男女ともやや過剰、カリウムも通常の目安量と比べると過剰気味であるが、生活習慣病予防の目的においては1日1000〜1200mg程度、高血圧予防の目的においては1日500〜700mg程度不足していることになる。
こういった現状から見て、カリウムはもう少し積極的に摂取したほうが良いといえる。
【0008】
一方、ナトリウムとカリウムの摂取量の比は1が理想といわれている。しかし、現在の日本人ではこの比が1.86程度となっており、ナトリウムが過剰であり、市販の天然塩でもカリウム量は少なく、ナトリウム・カリウム比は25〜100程度である。
本発明は、適切なナトリウム・カリウム比の塩を天然物から得られるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、自然界に存在する牡蠣を利用することでカリウムを大量に含む塩を得るものであり、カキ肉を80〜100℃で熱水抽出し、熱水抽出液を電気透析によって塩を濃縮し、この濃縮液の水分を除去してカリウムを10重量%以上含む塩を得るものである。
また、カキ肉の熱水抽出液にエタノールを加えて沈澱を生成させ、上清を電気透析によって塩を濃縮し、この濃縮液の水分を除去してカリウムを10重量%以上含む塩を得るものである。
牡蠣は、海水中の栄養分とともに海水を体内に取り込んで生存に適するようなミネラルバランスに変換しており、牡蠣の生体に含まれている様々なミネラルをそのまま塩の形に加工しているので、カリウムを初めとするナトリウム以外の多数のミネラルを含む。また、アミノ酸や有機酸なども含まれるので、旨みにも寄与するものである。
更に、カキ肉から得られた塩のナトリウムとカリウムの比は1.3であり、ヒトが摂取すべきナトリウムとカリウムの比に近いものとなっており、好ましいミネラルバランスである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナトリウムとカリウムの割合のバランスの取れた塩を提供することができ、カリウム量は従来の塩製品に比較して圧倒的に高いものであり、カリウムの補給に有効なものであって健康維持に対しても有用である。また、アミノ酸を含むものであるので、調味料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施例1
原料として生カキ肉1000kg(剥き身)に1.5倍量の水を加え、80〜100℃で煮沸して熱水抽出し、残渣と抽出液を分離した。 抽出液を加熱濃縮し、Brix濃度を37とした。ここで、濃縮した抽出液350kgが得られた。この抽出液を図2に示す電気透析装置にかけて更に塩類を濃縮して濃縮液135.1kgを得、この濃縮液をスプレードライ法で乾燥して塩13.5kgを得た。
【0012】
電気透析法は、イオン交換膜と電気の働きで溶液中のイオンを分離するものであり、溶液中のイオンの電気泳動と、イオン交換膜が陽イオンと陰イオンを選択して透過させる性質を利用し分離する技術である。イオン交換膜には、陽イオンは透過しても陰イオンは透過しない陽イオン交換膜(カチオン膜)とその逆の性質を持った陰イオン交換膜(アニオン膜)があり、両方を交互に複数配置して直流電流を通すことで、溶解中のイオン性物質を多量に分離するものである。
【0013】
電気透析は、バッチ式で実施した。バッチ容量は、処理時間や装置のタンク容量を勘案して定める。原液タンクDの容量と処理液タンクCの容量はほぼ同じである。タンクDには、カキ肉の熱水抽出液または熱水抽出液にエタノールを加えて沈澱を生成させた後の上清を通液し、タンクCには水を入れて通液した。
電気透析装置に通電して陽イオンと陰イオンをイオン交換膜で仕切られたセル内に濃縮させ、原液の電気伝導度を計測して電気透析の終点を判断した。また、必要に応じて電気伝導度を調整する溶液を貯留するタンクが設けてある。
【0014】
電気透析開始直後からタンクCには塩とアミノ酸(ミネラルも含む)が集積するので、電気透析装置の通電を停止したらタンクCから引き抜いて更に濃縮・活性炭処理する。
カキ肉エキスから塩を製造するためにはタンクC内の濃縮液を回収する必要があるので、タンクCの容量を大きくして電気透析処理された濃縮液をすべて回収した。
【0015】
実施例2
原料として生カキ肉28,600kg(剥き身)に1.5倍量の水を加え、80〜100℃で煮沸して熱水抽出する。残渣と抽出液を分離し、抽出液をBrix濃度が37になるまで加熱濃縮して、抽出液8,000kgを得た。抽出液に対して終濃度40%(w/w)になるようにエタノールを加えて沈澱を生成させて、3日間放置して上清と沈澱に分離した。 沈澱は乾燥してカキ肉エキスとする。
【0016】
上清をBrix濃度が54になるまで加熱濃縮して上清の濃縮物1,350kgを得た。この上清濃縮物を実施例1と同様に電気透析装置にかけ、塩類を濃縮した濃縮液468.8kgを得、この濃縮液をスプレードライ法で乾燥して塩120kgを得た。塩中のカリウム含有量は、10.6%〜17.5%程度であった。
生カキ肉100g中のカリウム含有量が0.19%(重量)であることから、生カキ肉中のカリウム回収率は以下のように計算される。
生カキ肉28,600kg中のカリウム54kg。
本発明の塩120kg中のカリウム12kg〜21kg。
よって、カリウムの回収率は22〜39%である。
本発明の塩及び従来の各種天然塩の成分を図3に示す。
【0017】
本発明の塩は、図3の表に示されるように、100gあたりのナトリウム含有量が22.8gと他の塩製品の平均32.6gと比べて非常に低くなっている。これに伴い、食塩相当量も約58gと他製品の平均82.8gと比べて非常に低い。カリウム量は本発明の塩が17.5gであり、他の塩製品の平均である0.43gと比較すると圧倒的に高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法のフロー図。
【図2】本発明における電気透析装置の概念図。
【図3】本発明の塩及び従来の天然塩の成分表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カキ肉を80〜100℃で熱水抽出し、熱水抽出液を電気透析によって塩を濃縮し、この濃縮液の水分を除去して得たカリウムを10重量%以上含む塩。
【請求項2】
請求項1において、熱水抽出液にエタノールを加えて沈澱を生成させ、上清を電気透析によって塩を濃縮し、この濃縮液の水分を除去して得たカリウムを10重量%以上含む塩。
【請求項3】
請求項1または2において、カリウムが10〜20重量%である塩。
【請求項4】
請求項2において、加えたエタノールの終濃度40%(w/w)以上である塩。
【請求項5】
カキ肉を熱水抽出し、抽出液にエタノールを加えて沈澱を生成させ、上清を電気透析によって塩を濃縮し、この濃縮液の水分を除去するカリウムを10重量%以上含む塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−60873(P2009−60873A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233276(P2007−233276)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【特許番号】特許第4087890号(P4087890)
【特許公報発行日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(394020963)日本クリニック株式会社 (4)
【出願人】(504090053)カクサン食品株式会社 (1)
【Fターム(参考)】