説明

カソード側触媒層、膜電極接合体、固体高分子型燃料電池及びその製造方法

【課題】酸素還元反応触媒の使用量を抑制しつつ燃料電池出力の低下を抑制する。
【解決手段】固体高分子型燃料電池用のカソード側触媒層は、固体高分子型燃料電池に用いられる際に電解質膜に近接するカソード側触媒層の反応面における1cm2あたりの重量が0.3mg以下である触媒と、温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の酸素透過性を有する電解質樹脂と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池の触媒層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の触媒層として、触媒である白金を担持したカーボンと電解質樹脂(アイオノマー)とを含む触媒層が用いられる。白金は高価であるため、使用量を少なくすることが望まれる。そこで、白金の使用量を減らすための技術が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−265844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、触媒層における白金の使用量を減らすと、燃料電池の発電効率(発電性能)が低下するという問題があった。すなわち、白金量の低減と固体高分子型燃料電池の発電効率の向上とを両立させる点において、なお改善の余地があった。かかる問題は、白金に限らず、金,銀,ルテニウム等の貴金属、鉄,ニッケル,マンガン等の卑金属など、酸素還元反応の触媒として使用可能な任意の触媒について起こり得る。
【0005】
本発明は、酸素還元反応用の触媒の使用量を抑制しつつ、固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]電解質膜を有する固体高分子型燃料電池に用いられるカソード側触媒層であって、
前記電解質膜に近接する前記カソード側触媒層の反応面における1cm2あたりの重量が0.3mg以下である触媒と、
温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の酸素透過性を有する電解質樹脂と、
を備える、カソード側触媒層。
【0008】
適用例1のカソード側触媒層では、反応面における1cm2あたりの触媒の重量が0.3mg以下であるので、使用する触媒の量を低く抑えることができると共に、温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の高い酸素透過性を有する電解質樹脂を用いるので、酸素拡散抵抗を減らすことができ、かかるカソード側触媒層を用いて固体高分子型燃料電池を構成した場合に燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。なお、温度及び相対湿度を、それぞれ80℃及び50%としたのは、以下の理由による。すなわち、固体高分子燃料電池は、一般的に、起動時や負荷変動時など一時的な状況を除き、現状の固体高分子膜の特性から、運転温度としては例えば60℃〜100℃の範囲で運転制御される。また、ある程度水分がないと高いプロトン伝導性を発現できないことと、電極反応により生成水が生じることとから、固体高分子燃料電池は、ある程度の湿度環境下で使用される。したがって、ここでは、一般的な運転条件である80℃、湿度50%における酸素透過性を規定したが、この条件下でこの酸素透過性を有する電解質樹脂であれば、この条件以外の運転条件でも前述の一時的な状況を除き、効果を有する。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載のカソード側触媒層であって、
前記触媒は、前記反応面における1cm2あたりの重量が0.1mg以下である、カソード側触媒層。
【0010】
このような構成により、カソード側触媒層における触媒使用量をより少なくすることができる。また、このように触媒使用量が少ない場合であっても、温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の高い酸素透過性を有する電解質樹脂を用いるので、カソード側触媒層を用いて燃料電池を構成した場合における燃料電池の発電効率の極端な低下を抑制できる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載のカソード側触媒層において、
前記触媒は、前記反応面の1cm2あたり200cm2以下の表面積を有する、カソード側触媒層。
【0012】
このような構成により、触媒の粒子径が同じ触媒を用いる場合に、反応面の1cm2あたり200cm2よりも大きい表面積を用いる触媒を用いる場合に比べて、触媒の使用量を低く抑えることができる。また、触媒の表面積が反応面の1cm2あたり200cm2以下と比較的小さいが、温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の高い酸素透過性を有する電解質樹脂を用いるので、カソード側触媒層を用いて固体高分子型燃料電池を構成した場合における固体高分子型燃料電池の発電効率の極端な低下を抑制できる。
【0013】
[適用例4]適用例1から適用例3のいずれか一例に記載のカソード側触媒層において、
前記触媒は、白金である、カソード側触媒層。
【0014】
このような構成により、高価な白金の使用量を抑制できるので、カソード側触媒層の製造コストを低く抑えることができる。
【0015】
[適用例5]適用例1から適用例4のいずれか一例に記載のカソード側触媒層を備える、膜電極接合体。
【0016】
このような構成により、膜電極接合体における触媒の使用量を低く抑えることができ、膜電極接合体の製造コストを低く抑えることができる。加えて、この膜電極接合体を用いて固体高分子型燃料電池を構成した場合に、固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。
【0017】
[適用例6]適用例1から適用例4のいずれか一例に記載のカソード側触媒層を備える、固体高分子型燃料電池。
【0018】
このような構成により、固体高分子型燃料電池における触媒の使用量を低く抑えることができ、固体高分子型燃料電池の製造コストを低く抑えつつ、固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。
【0019】
[適用例7]固体高分子型燃料電池の製造方法であって、
温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の酸素透過性を有する電解質樹脂と、酸素還元反応用の触媒とからなるカソード側触媒層であって、反応面における1cm2あたりの前記触媒の重量が0.3mg以下であるカソード側触媒層を、電解質膜上又はガス拡散層用部材上に形成する工程を備える、製造方法。
【0020】
適用例7の製造方法によると、電解質膜上又はガス拡散層部材上に形成するカソード触媒層では、反応面における1cm2あたりの触媒層の重量が0.3mg以下であるので、使用する触媒の量を低く抑えることができると共に、温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の高い酸素透過性を有する電解質樹脂を用いるので、酸素拡散抵抗を減らすことができるため、製造された固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。
【0021】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、触媒層の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態としての触媒層を適用した燃料電池を示す断面図。
【図2】図1に示すカソード側触媒層近傍の構造を拡大して模式的に示す説明図。
【図3】カソード側触媒層の白金目付け量と燃料電池10の発電効率(性能)との関係を示す説明図。
【図4】カソード側触媒層における触媒粒子表面を拡大して模式的に示す説明図。
【図5】シミュレーション及び実験により得られた触媒粒子(白金)の目付け量と触媒層の拡散抵抗との関係を示す説明図。
【図6】シミュレーションにより得られた白金目付け量とセル電圧との関係を示す説明図。
【図7】白金目付け量が0.3mg/cm2である場合における酸素透過性とセル電圧との関係を示す説明図。
【図8】本実施例のアイオノマーの酸素透過性を示す説明図。
【図9】本実施例のアイオノマーと比較例のアイオノマーを用いた場合のカソード側における白金目付け量と酸素の拡散抵抗との関係を示す説明図。
【図10】本実施例のアイオノマーと比較例のアイオノマーを用いた場合の白金表面積とカソード側における酸素の拡散抵抗との関係を示す説明図。
【図11】白金の目付け量が少ない場合において本実施例のアイオノマーと比較例のアイオノマーを用いた場合とで発電効率を比較して示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.実施形態:
A1.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施形態としての触媒層を適用した燃料電池を示す断面図である。燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であり、燃料ガスと酸化剤ガスとを用いた電気化学反応により発電を行う。本実施例において、燃料ガスは水素ガスであり、酸化剤ガスは空気である。燃料電池10は、例えば、電気自動車の駆動用電源を供給するための燃料電池スタックに用いられる。燃料電池10は、電解質膜30と、カソード側触媒層31cと、カソード側ガス拡散層32cと、カソード側セパレータ33cと、アノード側触媒層31aと、アノード側ガス拡散層32aと、アノード側セパレータ33aとを備えている。
【0024】
カソード側触媒層31cは、電解質膜30に接して配置されている。なお、カソード側触媒層31cにおいて、電解質膜30と接する面は、請求項における反応面に相当する。カソード側ガス拡散層32cは、カソード側触媒層31cの外側面(電解質膜30と接する面の反対面)において、カソード側触媒層31cに接している。カソード側セパレータ33cは、カソード側ガス拡散層32cの外側面(カソード側触媒層31cと接する面の反対面)において、カソード側ガス拡散層32cに接している。カソード側セパレータ33cは、凹凸形状を有しており、カソード側セパレータ33cとカソード側ガス拡散層32cとが接することにより、カソード側セパレータ33cとカソード側ガス拡散層32cとの間に酸化剤ガス流路34cが形成される。この酸化剤ガス流路34cは、外部から供給される空気をカソード側ガス拡散層32cに導くと共に、カソード側ガス拡散層32cから排出されるガス(余剰空気及び水蒸気)を外部へと排出する。
【0025】
アノード側の構成は、カソード側の構成と同様である。すなわち、アノード側触媒層31aは、カソード側触媒層31cと同じ構成を有している。また、アノード側ガス拡散層32aはカソード側ガス拡散層32cと、アノード側セパレータ33aはカソード側セパレータ33cと、それぞれ同じ構成を有している。なお、アノード側セパレータ33aとアノード側ガス拡散層32aとの間に形成された燃料ガス流路34aは、燃料ガス(水素ガス)をアノード側ガス拡散層32aに導くと共に、アノード側ガス拡散層32aから排出されるガス(余剰水素ガス)を外部に排出する。
【0026】
図2は、図1に示すカソード側触媒層近傍の構造を拡大して模式的に示す説明図である。カソード側触媒層31cは、カーボン担体130に触媒粒子120を担持した触媒担持カーボン110と、アイオノマー140と、を備える。触媒粒子カーボン担体130触媒粒子120は、触媒として機能する。本実施例では、触媒粒子120の材料として、白金を用いる。また、本実施例では、カーボン担体130として、カーボンブラックを用いる。
【0027】
アイオノマー140は、プロトン伝導性を有する電解質樹脂であり、触媒担持カーボン110を包むように配置されている。本実施形態において、アイオノマー140は、例えば、特開2003−36856号公報に記載された基本骨格として環状構造を有する環式化合物を含むことにより、高い酸素透過性を有する。
【0028】
電解質膜30は、図2に示すように、アイオノマー140を用いて形成された膜を用いることができる。この場合、電解質膜30の成分と、アイオノマー140の成分とは、ほぼ同じであってもよい。また、電解質膜30のイオン交換等量とアイオノマー140のイオン交換等量とを異ならせてもよい。また、アイオノマー140以外の、他のプロトン伝導性のイオン交換樹脂などを用いて膜を形成してもよい。その他、プロトン伝導性を有する電解質樹脂と無機材料との複合膜や、プロトン伝導性を有する電解質樹脂でなくとも類似の温度及び湿度条件下でプロトン伝導性を有する電解質膜であれば、本発明の固体高分子型燃料電池に適用することができる。
【0029】
カソード側ガス拡散層32cは、例えば、不織布により形成されたカーボンクロスやカーボンペーパーを用いることが可能である。また、ガス拡散層300として、樹脂製や金属製の多孔体を用いることも可能である。
【0030】
図1に示す酸化剤ガス流路34cから供給される空気(酸素)は、図2に示すように、カソード側ガス拡散層32cを通ってカソード側触媒層31cに供給される。加えて、カソード側触媒層31cには、電解質膜30から水素イオン(プロトン)が供給される。また、カソード側触媒層31cには、カソード側ガス拡散層32cを介してアノード側で生じた電子が供給される。そして、カソード側触媒層31cにおける触媒粒子120近傍において、下記式(1)に示す酸素還元反応が生じる。
【0031】
【数1】

【0032】
以上の構成を有する燃料電池10は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、触媒粒子120とアイオノマー140とを含む触媒層用スラリーを用意する。そして、電解質膜30の両面に触媒層用スラリーを塗布し、乾燥させて触媒層(カソード側触媒層31c及びアノード側触媒層31a)を形成する。その後、ガス拡散層用の部材(例えば、カーボンペーパー)により、触媒層が形成された電解質膜30を挟んでホットプレスして燃料電池10を製造する。ここで、触媒層用スラリーにおいて、触媒粒子120の含有率を調整することにより、白金の目付け量(触媒層における電解質膜30と接する面の単位面積あたりの重量)を調整することができる。また、電解質膜30へのスラリーの塗布量を調整することにより、白金の目付け量を調整することができる。なお、上述した製造方法において、電解質膜30に代えて又は電解質膜30と共にカソード側ガス拡散層32c用の部材(例えば、カーボンペーパー)に、触媒層用スラリーを塗布することもできる。
【0033】
A2.白金目付け量低減に伴う性能低下現象の解析:
図3は、カソード側触媒層の白金目付け量と燃料電池10の発電効率(性能)と関係を示す説明図である。図3において、横軸は電流密度(A/cm2)を示し、縦軸はセル電圧(V)を示す。また、図3において、太い実線で示す曲線L1は、白金目付け量が多い場合(例えば、0.5mg/cm2)における燃料電池性能(電流密度に対するセル電圧)のシミュレーション結果を示す。また、細い実線で示す曲線L2は、白金目付け量が少ない場合(例えば、0.2mg/cm2)における燃料電池性能のシミュレーション結果を示す。また、破線で示す曲線L3は、後述するMEAの反応面積あたりの触媒活性の低下分に相当する電圧のシミュレーション結果を示す。
【0034】
図3に示す曲線L1,L2を比較すると、白金目付け量が少ない場合のほうが、多い場合に比べて、燃料電池10の発電効率は低下する。すなわち、同じ電流密度におけるセル電圧は低くなっている。特に、白金目付け量が少ない場合に、大電流領域(1〜2A/cm2)において著しく性能が劣化している。白金目付け量を減らすと、それに比例して白金表面積が低下するので、MEAの反応面積あたりの触媒活性が低下する。このとき、酸化還元反応(ORR)過電圧が、下記式(2),(3)に示す公知のバトラーボルマー式に従って増大し、曲線L3に示すように、セル電圧低下が起こると考えられる。なお、下記式(2),(3)において、定数「R」は、ガス定数(8.314J/Kmol)を示す。また、定数「F」はファラデー定数(96485C/mol)を、変数「T」は温度(K)を、変数APtはMEAの単位面積あたりの白金表面積(m2/m2)を、変数「iORR」は反応電流密度(A/m2)を、変数「i0」は交換電流密度(A/m2)を、変数「CO2」は酸素濃度(mol/m3)を、変数「Co2ref」は基準状態の酸素濃度(mol/m3)を、変数「αc」は移動係数を、それぞれ示す。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
しかしながら、曲線L2と曲線L3とは乖離があり、触媒活性の低下分だけでは、白金目付け量低下に伴うセル電圧低下が説明できない。そこで、出願人は、MEA(触媒層)における拡散抵抗に着目して、検討を行った。
【0038】
図4は、カソード側触媒層における触媒粒子表面を拡大して模式的に示す説明図である。図4において、左側は触媒粒子120(白金)の目付け量が比較的多い場合の触媒担持カーボン110表面を示し、右側は触媒粒子120の目付け量が比較的少ない場合の触媒担持カーボン110表面を示す。なお、右側は、触媒粒子120の目付け量が左側の1/3になっている。図4において左側及び右側は、触媒粒子120の目付け量以外の要素(例えば、アイオノマー140の酸素透過性)は互いに同じである。
【0039】
図4左側に示すように、触媒粒子120の目付け量が多い場合、触媒担持カーボン110を囲むアイオノマー140の多くは、酸素の透過(供給)に用いられると考えられる。なお、図4では、酸素供給に用いられるアイオノマー140(以下、「酸素供給アイオノマー145」と呼ぶ)に対応する部分(表面)を、破線で表わしている。これに対して、図4右側に示すように、触媒粒子120の目付け量が少ない場合、触媒粒子120の近傍に位置するアイオノマー140は、酸素供給アイオノマー145であるが、触媒粒子120から遠く離れて位置するアイオノマー140は、触媒粒子120への酸素供給に用いられないアイオノマー140(以下、「酸素非供給アイオノマー150」と呼ぶ)であると考えられる。すなわち、触媒粒子120の目付け量の減少に伴い、アイオノマー140における酸素供給アイオノマー145の割合が減り、酸素透過に寄与するアイオノマー表面積が減少すると考えられる。このように酸素透過に寄与するアイオノマー表面積が減少することで、カソード側触媒層31cにおける拡散抵抗が増大するものと考えられる。図2に示すように、酸素(酸素分子)は、酸化剤ガス流路34cからカソード側ガス拡散層32cを通過して、触媒担持カーボン110近傍まで移動してくる。そして、最後に触媒粒子120(白金)を覆うアイオノマー140(酸素供給アイオノマー145)を透過して、触媒粒子120の表面に供給され、酸化還元反応が起こる。このとき、酸素透過に寄与するアイオノマー(酸素供給アイオノマー145)の表面積は、触媒粒子120の表面積に比例していると考えられる。
【0040】
図5は、シミュレーション及び実験により得られた触媒粒子(白金)の目付け量と触媒層の拡散抵抗との関係を示す説明図である。図5において、横軸は白金の目付け量(cm2/mg)を示し、縦軸は触媒層の拡散抵抗(s/m)を示す。なお、図5の例では、横軸は白金目付け量の逆数(1/白金目付け量)としている。図5において、黒色のドットはシミュレーション結果を示し、白色の矩形は試験データを示す。
【0041】
図5に示す実験結果は、下記実験条件の下、白金目付け量を変えて発電性能を測定し、公知の触媒層拡散抵抗測定方法にしたがって得られた拡散抵抗値に基づくものである。実験条件は以下の通りである。すなわち、反応面の面積が比較的小さい(1cm2)セルを用い、セル面内に発電分布が生じないように大流量(500ml/min以上)のガスを供給し、セルを流れる電流を変えてセル電圧を測定した。電解質膜はNRE211(DuPont社製)を、触媒担持カーボンは30重量%Pt/C(田中貴金属社製)を、アイオノマーはDE2020(Dupont社製)を、それぞれ用いた。なお、公知の触媒層拡散抵抗測定方法とは、公知の文献(S.S.Kocha, in Handbook of Fuel Cells: Fundamentals, Technology, and Applications, Vol.3, W.Vielstich, A.Lamm and H.A.Gasteiger Editors, p.538, John Wiley&Sons, Inc., New York (2003))に記載の測定方法を意味する。
【0042】
図5に示すように、実験結果によると、白金の目付け量が減少すると、白金の目付け量に反比例して、触媒層の拡散抵抗が増加することが分かる。
【0043】
図5に示すシミュレーション結果は、燃料電池の触媒層モデルとして、触媒表面にアイオノマーフィルムを持つ公知のアグロメレートモデル(Nobuaki Nonoyama and Yoshihiro Ikogi, ECS Trans. 16(2),13(2008), A.Z.Wber and J.Newman, Chemical Reviews, 104, 4679(2004))を採用して発電性能をシミュレーションし、その結果を利用して触媒層拡散抵抗を算出した。なお、このシミュレーションでは、触媒層に関して下記式(4),(5)によりモデリングした。ここで、式(5)は、有効アイオノマー表面積(Aion)と、白金表面積(Apt)との関係をモデル化するものであるが、上述したように、出願人は、「酸素透過に寄与するアイオノマーの表面積(有効アイオノマー表面積)は、触媒粒子(白金)の表面積に比例する」と想定し、n(べき乗)=1に設定してシミュレーションを行った。また、このシミュレーションでは、上記実験で用いた電解質膜,触媒,アイオノマーの各物性データを用いた。なお、未知のパラメータ(例えば、i0(電流交換密度)や、δion(アイオノマーフィルム厚))は、図5に示す実験データへのフィッテイングにより求めた。
【0044】
【数4】

【0045】
【数5】

【0046】
上記式(4)において、iORRは、反応電流を示す。また、定数Fはファラデー定数を、変数P02は酸素分圧を、変数P02refは基準状態の酸素分圧を、変数δionはアイオノマーフィルム厚を、変数ψ02ionは酸素透過係数を、変数θは有効利用率(アグロメレート効果)を、変数kORRは反応速度を、それぞれ示す。また、上記式(5)において、変数Aionは有効アイオノマー表面積を、変数αは比例係数を、変数Aptは白金表面積を、それぞれ示す。
【0047】
図5に示すように、シミュレーション結果によると、白金の目付け量が減少すると、白金の目付け量に反比例して、触媒層の拡散抵抗が増加することが分かる。すなわち、図5に示すように、シミュレーション結果は、実験結果に非常に近いものとなった。したがって、上記式(4),(5)でモデリングした触媒層は、実際の触媒層に近似しており、「酸素透過に寄与するアイオノマーの表面積は、触媒粒子(白金)の表面積に比例する」との想定は正しいと考えられる。このような結論に基づき、出願人は、触媒粒子(白金)の使用量を低減させる際に、酸素透過性の高いアイオノマーを用いることにより、燃料電池の性能低下を抑制できると想定した。
【0048】
図6は、シミュレーションにより得られた白金目付け量とセル電圧との関係を示す説明図である。図6において、横軸は白金目付け量(mg/cm2)を示し、縦軸はセル電圧(V)を示す。図6において、曲線L4は、従来のアイオノマー(DE2020)の物性データに基づくシミュレーション結果を示す。曲線L5は、従来のアイオノマーの酸素透過性を2倍にした場合のシミュレーション結果を示す。なお、曲線L4,L5を得たいずれのシミュレーションにおいても、Apt(白金表面積)として、白金目付け量が0.1mg/cm2〜0.8mg/cm2に相当する値を用いてシミュレーションを行った。また、いずれのシミュレーションにおいても、セル温度80℃,酸素濃度13%,圧力140kPa,相対湿度50%,電流密度1.5A/cm2としてセル電圧を算出している。なお、温度及び相対湿度を、それぞれ80℃及び50%としたのは、以下の理由による。すなわち、固体高分子燃料電池は、一般的に、起動時や負荷変動時など一時的な状況を除き、現状の固体高分子膜の特性から、運転温度としては例えば60℃〜100℃の範囲で運転制御される。また、ある程度水分がないと高いプロトン伝導性を発現できないことと、電極反応により生成水が生じることとから、固体高分子燃料電池は、ある程度の湿度環境下で使用される。したがって、ここでは、一般的な運転条件である80℃、湿度50%を設定してシミュレーションを行った。図6に示す曲線L6は、白金目付け量が十分に多い0.8mg/cm2における性能を基準とした場合の触媒活性の低下の寄与のみによるセル電圧を、上述したバトラーボルマー式(式(1),(2))を用いて算出して得られた結果である。
【0049】
曲線L6と曲線L4とを比較すると、0.3mg/cm2以下において、触媒活性の低下以外の原因による有意な性能低下が起きている。この性能低下の原因は、上述したように、アイオノマー表面積減少に伴う拡散抵抗の増大と考えられる。ここで、曲線L4と曲線L5とを比較すると、白金目付け量が同じ場合には、アイオノマーの酸素透過性が高い(2倍)場合のほうが、低い場合に比べて、セル電圧が高い(曲線L6との差分が小さい)。すなわち、アイオノマーの酸素透過性が高いほど、燃料電池の性能低下が抑制されていることが分かる。特に、白金目付け量が0.3mg/cm2以下において、性能低下が大きく抑制されることが理解できる。
【0050】
図7は、白金目付け量が0.3mg/cm2である場合における酸素透過性とセル電圧との関係を示す説明図である。図7において、横軸は酸素透過性を、縦軸はセル電圧(V)を、それぞれ示す。なお、横軸の酸素透過性は、従来のアイオノマー(DE2020)の酸素透過性(およそ1.1×10-14mol/msPa)に対する割合によって示している。例えば、横軸「2」は、従来のアイオノマーの2倍の酸素透過性を意味する。図7において、黒色の矩形を含む曲線L7は、シミュレーションにより白金目付け量が0.3mg/cm2である場合に酸素透過性を変化させて得られたセル電圧を示す。また、直線L8は、シミュレーションにより白金目付け量が0.3mg/cm2である場合の触媒活性の低下の寄与のみによるセル電圧を示す。
【0051】
図7に示すように、従来のアイオノマー(酸素透過性「1」)では、曲線L7と直線L8とを比較すると、アイオノマー表面積減少に伴う拡散抵抗の増大によるセル電圧の低下が、およそ30mV程度生じている。これに対して、アイオノマーの酸素透過性を、従来のアイオノマーの2倍以上(2.2×10-14mol/msPa以上)にすると、セル電圧の低下量は、触媒活性の低下に起因する電圧低下分とほぼ一致し、アイオノマー表面積減少に伴う拡散抵抗の増大によるセル電圧の低下がほとんど生じなくなる。したがって、アイオノマーの酸素透過性を、およそ2.2×10-14mol/msPa以上とすることにより、燃料電池の発電性能の低下を大きく抑制できる。また、このように高い酸素透過性のアイオノマーを用いると、白金目付け量を少なくする(例えば、0.3mg/cm2以下)場合であっても、燃料電池の発電性能の劣化を大きく抑制できる。本実施形態では、相対湿度50%の計算結果を示したが、その他の湿度においても同様の結果が得られており、酸素透過性を2.2×10-14mol/msPa以上とすることにより、発電性能の低下を抑制することができる。
【0052】
B.実施例:
図8は、本実施例のアイオノマーの酸素透過性を示す説明図である。図8において、横軸は相対湿度を、縦軸は酸素透過性(mol/m/s/Pa)すなわち、[mol/(m・s・Pa)]を示す。また図8では、本実施例のアイオノマー(以下、「第1アイオノマー」とも呼ぶ)の酸素透過性を実線で、比較例としての従来のアイオノマー(以下、「第2アイオノマー」とも呼ぶ)の酸素透過性を破線で、それぞれ示す。第1アイオノマー及び第2アイオノマーの酸素透過性の測定は、各アイオノマーを薄い(厚さ0.2ミリメートル程度の)膜状にキャスト成型し、マイクロPt電極を用いたポテンシャルステップ法(ECS Transaction, 16(2),881-889(2008)参照)を用いて行った。
【0053】
本実施例では、従来のアイオノマー(第2アイオノマー)として、上述した実施形態における従来のアイオノマー「DE2020」を採用した。この第2アイオノマーは、第1アイオノマー(アイオノマー140)とは異なり、基本骨格として環状構造を有しない鎖式化合物であることにより、比較的低い酸素透過性を有する。したがって、例えば、相対湿度が50%の場合において、第2アイオノマーの酸素透過性は、1.1×10-14(mol/m/s/Pa)であるのに対し、第1アイオノマーの酸素透過性は、約3×10-14(mol/m/s/Pa)である。したがって、相対湿度50%において、第1アイオノマーは、第2アイオノマーに比べておよそ3倍の酸素透過性を有する。
【0054】
図9は、本実施例のアイオノマー(第1アイオノマー)と比較例のアイオノマー(第2アイオノマー)を用いた場合の、カソード側における白金目付け量と酸素の拡散抵抗との関係を示す説明図である。図9において、横軸は、カソード側触媒層31cにおける単位面積(1平方センチメートル)あたりの白金の目付け量(mg)を示す。また、図9において、縦軸は、カソード側における酸素の拡散抵抗(s/m)を示す。図9において、実線は第1アイオノマーを用いた場合の白金目付け量と拡散抵抗との関係を示し、破線は第2アイオノマーを用いた場合の白金目付け量と拡散抵抗との関係を示す。
【0055】
なお、本実施例では、白金の目付け量は、触媒層形成時における触媒層用スラリーの塗布量を調整することによって調整した。また、酸素の拡散抵抗は、燃料電池10の温度(セル温度)80℃,ガス圧150kPa,相対湿度90%の環境下において、低酸素濃度の空気を供給して限界電流密度を測定することにより取得した。
【0056】
図9に示す拡散抵抗の値は、カソード側ガス拡散層32cにおける拡散抵抗と、カソード側触媒層31cにおける触媒担持カーボン110が存在しない空隙内の拡散抵抗と、アイオノマー140内の拡散抵抗とを合わせた値である。図4を用いて説明したように、これらの拡散抵抗のうち、特に、アイオノマー140内の拡散抵抗は、白金の目付け量に依存する。
【0057】
図9に示すように、白金目付け量が0.6(mg/cm2)以下において、第1アイオノマーを用いた場合には、第2アイオノマーを用いる場合に比べて、拡散抵抗は低い。特に、白金目付け量が0.3(mg/cm2)以下において、第1アイオノマーを用いた場合と第2アイオノマーを用いた場合とで、拡散抵抗の差が大きい。これに対し、白金目付け量が0.3(mg/cm2)よりも大きい場合には、第1アイオノマーを用いた場合と第2アイオノマーを用いた場合とで拡散抵抗の差は小さく、特に、0.6(mg/cm2)よりも大きい場合には拡散抵抗の差はほとんどない。換言すると、白金目付け量が0.3(mg/cm2)よりも大きい場合には、第1アイオノマーを用いた場合と、第2アイオノマーを用いた場合とで、燃料電池10の発電効率に大きな差はない。一方、白金目付け量が0.3(mg/cm2)以下の場合には、第1アイオノマーを用いた場合には、第2アイオノマーを用いた場合に比べて、燃料電池10の発電効率の低下を抑制できる。
【0058】
加えて、白金目付け量が0.6(mg/cm2)以下において、白金目付け量の減少量に対する拡散抵抗の上昇度合いは、第1アイオノマーを用いた場合は、第2アイオノマーを用いた場合に比べて低い。したがって、第1アイオノマーを用いた場合には、触媒粒子120(白金)の使用量を減らした場合であっても、第2アイオノマーを用いた場合に比べて、燃料電池10の発電効率の低下を抑制できる。
【0059】
図10は、本実施例のアイオノマー(第1アイオノマー)と比較例のアイオノマー(第2アイオノマー)を用いた場合の、白金表面積とカソード側における酸素の拡散抵抗との関係を示す説明図である。図10において、横軸は、カソード側触媒層31cにおける単位面積(1cm2)あたりの白金表面積(cm2)を示す。図10において、縦軸は、図9の縦軸と同じである。図10において、実線は第1アイオノマーを用いた場合の白金表面積と拡散抵抗との関係を示し、破線は第2アイオノマーを用いた場合の白金表面積と拡散抵抗との関係を示す。
【0060】
上述したように、アイオノマー140内の拡散抵抗は、触媒粒子120(白金)の表面積に依存する。ここで、触媒粒子120(白金)の表面積は、例えば、以下のようにして求めることができる。燃料電池10製造時における触媒層用スラリーの塗布量から、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの触媒粒子120の重量を導き、触媒粒子120の比重から、単位面積あたりの触媒粒子120の個数を求める。また、XRD法(JIS H 7805,JIS K 0131)により触媒粒子120の径を得る。そして、触媒粒子120の径に基づき1つの触媒粒子120の表面積を求め、得られた表面積に触媒粒子120の個数を掛け合わせることでカソード側触媒層31cの単位面積あたりの触媒粒子120の表面積を求めることができる。なお、本実施例では、触媒粒子120の表面積は、触媒層形成時における触媒層用スラリーの塗布量を調整することによって(すなわち、単位面積あたりの触媒粒子120の個数を調整することによって)調整できる。また、酸素の拡散抵抗は、低酸素濃度環境下での限界電流密度を測定することにより取得する。
【0061】
図10に示すように、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの白金表面積が、200(cm2/cm2)以下において、第1アイオノマーを用いた場合には、第2アイオノマーを用いる場合に比べて、拡散抵抗は低い。換言すると、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの白金表面積が200(cm2/cm2)以下では、第1アイオノマーを用いた場合には、第2アイオノマーを用いた場合に比べて、燃料電池10の発電効率の低下を抑制できる。
【0062】
以上説明した実施例では、カソード側触媒層31cにおける白金の目付け量は、白金の径など、燃料電池10の製造段階で得られる値に基づき算出していたが、製造された燃料電池10から白金の目付け量を得ることもできる。
【0063】
例えば、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いて、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの白金重量、つまり白金の目付け量を求めることができる。具体的には、燃料電池10から触媒層を剥がして、一定面積を加熱して灰化する。灰化された触媒層を酸(例えば、王水)に溶解し、希釈した後にICP−MSにより分析して白金重量を得て、灰化した際の面積で割ることにより求めることができる。
【0064】
また、例えば、燃料電池10からカソード側セパレータ33c及びカソード側触媒層31cを取り除き、カソード側触媒層31cを露出させる。この状態(電解質膜30上にカソード側触媒層31cが形成されたままの状態)で、XRD法を用いて白金の径を求め、上述した方法と同様にして白金の表面積を求めることができる。なお、電解質膜30からカソード側触媒層31cを剥ぎ取り、キャピラリー(毛細管)などに詰めて、XRD法により白金の径を求めることもできる。
【0065】
図11は、白金の目付け量が少ない場合において、本実施例のアイオノマー(第1アイオノマー)と比較例のアイオノマー(第2アイオノマー)を用いた場合とで発電効率を比較して示す説明図である。図11において、横軸は燃料電池10における電流密度を示し、縦軸は燃料電池10の電圧(起電圧)を示す。
【0066】
本実施例では、カソード側触媒層31cに用いるアイオノマーとして、第1アイオノマーを用いた燃料電池と、第2アイオノマーを用いた燃料電池とをそれぞれ製造し、アノードガス(水素ガス)及びカソードガス(空気)を十分に供給して(利用率50%以下の過剰量を供給して)発電させ、電流密度を変えて電圧を測定した。なお、アノードガス及びカソードガスは、いずれも80℃の温度環境下において加湿した。また、セル温度が65℃の環境下で測定を行った。本実施例において、白金の目付け量は、第1アイオノマーを用いた場合及び第2アイオノマーを用いた場合のいずれにおいても、触媒層の単位面積あたり0.1mgであった。また、第1アイオノマー及び第2アイオノマーの酸素透過性は、図8を用いて説明したとおりである。
【0067】
図11に示すように、実用上使用される可能性が高い電流密度範囲である1.0〜2.0(A/cm2)の範囲において、第1アイオノマーを用いた方が、第2アイオノマーを用いた場合よりも、同じ電流量を流したときの燃料電池の起電圧が大きく、同じ起電圧であればより多くの電流を流すことができた。すなわち、白金の目付け量が、触媒層の単位面積あたり0.1mgである場合には、第1アイオノマーを用いた場合には、第2アイオノマーを用いた場合に比べて燃料電池10の発電効率が高かった。
【0068】
以上説明したように、本実施例のカソード側触媒層31cは、白金の目付け量を、カソード側触媒層31cの単位面積あたり0.1mgとし、かつ、カソード側触媒層31cに用いるアイオノマー140として、高い酸素透過性(温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上)を有するアイオノマーを用いるので、白金使用量を抑制しつつ、燃料電池10の発電効率の低下を抑制することができる。なお、上述した実施形態からも理解できるように、白金の目付け量は、カソード側触媒層31cの単位面積あたり0.1mgに限定されるものではなく、カソード側触媒層31cの単位面積あたり0.3mg以下であることが好ましい。また、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの白金重量に代えて、カソード側触媒層31cの単位面積あたりの白金表面積で、白金使用量を規定すると、200cm2/cm2以下であることが好ましい。
【0069】
C.変形例:
なお、上記各実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0070】
C1.変形例1:
上記実施形態及び実施例では、触媒(触媒粒子120)として白金が用いられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。触媒材料としては、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属や、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ゲルマニウム、錫等の卑金属や、これら貴金属と卑金属との合金、また金属酸化物、金属錯体などの化合物を採用することもできる。すなわち、一般には、上記式(1)に示す酸素還元反応用の任意の触媒を、本発明の触媒層に採用することができる。
【0071】
C2.変形例2:
上記実施形態及び実施例では、カソード側触媒層31cの形成方法として、電解質膜30又はカソード側ガス拡散層32cに触媒層用スラリーを塗布する方法を採用していたが、本発明はこれに限定されるものではない。触媒担持カーボン110とアイオノマー140とを含む複合粉体をスプレードライ法により製造し、得られた複合粉体を静電スクリーン法等により燃料電池10又はカソード側ガス拡散層32c上に堆積させることによりカソード側触媒層31cを形成することもできる。
【0072】
C3.変形例3:
上記実施形態では、燃料電池10は、電気自動車の駆動用電源を供給するための燃料電池スタックに用いられていたが、これに代えて、ハイブリッド自動車,船舶,ロボットなどの各種移動体用の燃料電池スタックや、ビルや一般住宅等の建物における定置型電源用の燃料電池スタックに用いることもできる。
【符号の説明】
【0073】
10…燃料電池
20…膜電極接合体(MEA)
30…電解質膜
31a…アノード側触媒層
31c…カソード側触媒層
32a…アノード側ガス拡散層
32c…カソード側ガス拡散層
33a…アノード側セパレータ
33c…カソード側セパレータ
34a…燃料ガス流路
34c…酸化剤ガス流路
110…触媒担持カーボン
120…触媒粒子
130…カーボン担体
140…アイオノマー
145…酸素供給アイオノマー
150…酸素非供給アイオノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜を有する固体高分子型燃料電池に用いられるカソード側触媒層であって、
前記電解質膜に近接する前記カソード側触媒層の反応面における1cm2あたりの重量が0.3mg以下である触媒と、
温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の酸素透過性を有する電解質樹脂と、
を備える、カソード側触媒層。
【請求項2】
請求項1に記載のカソード側触媒層であって、
前記触媒は、前記反応面における1cm2あたりの重量が0.1mg以下である、カソード側触媒層。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のカソード側触媒層において、
前記触媒は、前記反応面の1cm2あたり200cm2以下の表面積を有する、カソード側触媒層。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカソード側触媒層において、
前記触媒は、白金である、カソード側触媒層。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のカソード側触媒層を備える、膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のカソード側触媒層を備える、固体高分子型燃料電池。
【請求項7】
固体高分子型燃料電池の製造方法であって、
温度80℃及び相対湿度50%の環境下において2.2×10-14mol/m/s/Pa以上の酸素透過性を有する電解質樹脂と、酸素還元反応用の触媒とからなるカソード側触媒層であって、反応面における1cm2あたりの前記触媒の重量が0.3mg以下であるカソード側触媒層を、電解質膜上又はガス拡散層用部材上に形成する工程を備える、製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−133917(P2012−133917A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283009(P2010−283009)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】