説明

カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物

【課題】機械物性(伸び)及び耐水性並びに保存安定性に優れた、カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリオール成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)及び4級カチオン基含有化合物成分(c)、並びに水を必須成分とするカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物。前記4級カチオン基含有化合物成分(c)が、2官能及び/又は3官能イソシアネートと下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム化合物を反応させて得られる4級カチオン基含有化合物であることを特徴とする。


但し、上式中のR1、R2及びR3は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し、これらは同一であっても異なっていても良く、aは0〜3の整数、bは、a+bが5〜50、かつ、a/(a+b)<0.2の関係を満たす整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、ガラス繊維集束剤、インクジェット記録紙用バインダー或いはプラスチック用コーティング剤に好適な水系ポリウレタン樹脂組成物に関し、特に、特定の4級カチオン基含有化合物を含有し、水分散性及び保存安定性に優れた水系ポリウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、耐摩耗性、接着性、非粘着性、ゴム弾性等に優れた塗膜や成形品を与えることから、塗料、接着剤、バインダー、コーティング剤等に広く用いられている。そして近年、対環境汚染、労働衛生等の安全性の面から、水系ポリウレタン樹脂組成物が多数報告されているものの、これらは、溶剤系或いは無溶剤系のポリウレタン樹脂組成物に比べて、耐水性、耐熱性、引張特性等の物性が劣るという欠点を有している。
【0003】
特にカチオン性水系ポリウレタン樹脂は、例えば、ガラス繊維集束剤やインクジェット記録紙用のバインダーとして多用されている。前者のガラス繊維集束剤用としての水系ポリウレタン樹脂は、アニオン性の集束剤の場合には、集束性、伸び、強度、スチレン溶解性等の物性面では良好な性能を示す一方、アニオン性であるために、酸性の添加剤を使用した場合には、樹脂が安定性に欠け、用途によってはガラス繊維が変色、又は着色するという現象があり、ノニオン性の集束剤の場合には、高濃度で使用すると増粘して作業性が悪くなるだけでなく、耐水性、耐熱性にも問題がある。そこでカチオン性の集束剤も多く用いられている。
【0004】
しかしながら、前記したカチオン性集束剤は、酸性下で使用することは可能であるものの低分子であるために樹脂が硬くなり、伸び等の物性が十分でないという欠点があった。また、後者のインクジェット記録紙用バインダーについて言えば、染料インクの定着性に優れ画像鮮明度が向上するという観点から、カチオン性の水系ポリウレタン樹脂が多く用いられているものの、この樹脂は耐水性が不足するという欠点があった。
【0005】
従来のカチオン性水系ポリウレタン樹脂については、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン等の3級アミンをウレタンプレポリマー主鎖中に組込み、塩酸や酢酸等の無機酸によって中和する方法(特許文献1及び2)、また、3級アミンをハロゲン化アルキルやジアルキル硫酸等の4級化剤を用いて4級化する方法(特許文献3及び4)などが広く知られていた。
【0006】
【特許文献1】特開平10-086505号公報
【特許文献2】特開2006-104463号公報
【特許文献3】特開平11-254809号公報
【特許文献4】特表平08-504454号公報
【0007】
しかしながら、3級アミンは水分散性に劣るのでより多くの親水基が必要となり、結果としてウレタンプレポリマー中のウレタン結合濃度が大きくなって低分子量で高粘度化するため、プレポリマーの高分子量化が難しくなる上、プレポリマーの水中での鎖伸長時における水分散性が劣る。従って、ウレタン樹脂の高分子量化が難しく、樹脂としての機械物性(伸び等)が十分でないという問題があるだけでなく、ガラス繊維集束剤として或いはインクジェット塗工剤として配合される際に、凝集を起こすなどの欠点もあった。これらの問題点の内、水分散性の問題に関しては4級化することにより改善することができるものの、親水性基を有する化合物をウレタンプレポリマーの主鎖中に組込むため、ウレタン樹脂の耐水性が劣るという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、機械物性(伸び)及び耐水性並びに保存安定性に優れた、カチオン性水系ポリウレタン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の4級カチオン基含有化合物を側鎖に有するウレタンプレポリマーを用いた場合には、良好な結果を得ることが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち本発明は、ポリオール成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)及び4級カチオン基含有化合物成分(c)、並びに水を必須成分とするカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物であって、前記4級カチオン基含有化合物成分(c)が、2官能及び/又は3官能イソシアネートと下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム化合物を反応させて得られる4級カチオン基含有化合物であることを特徴とするカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物である。

上式中のR1、R2及びR3は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていても良く、aは0〜3の整数、bは、a+bが5〜50、かつ、a/(a+b)<0.2の関係を満たす整数である。
【0011】
本発明においては、前記aが0で、bが10〜20であることが好ましく、前記4級カチオン基含有化合物(c)を構成するイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、イソホロンジイソシアネート及び4,4’‐ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記4級カチオン基含有化合物(c)は、前記2官能及び/又は3官能イソシアネートと一般式(1)で表される化合物を反応させて得られた末端イソシアネート化合物に、さらに2官能及び/又は3官能ポリオールを反応させた4級カチオン基含有末端水酸基化合物(c')であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、機械物性(伸び)に優れるだけでなく、耐水性及び保存安定性にも優れるカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の調製に用いられるポリオール成分(a)とは、ジオール化合物、及びヒドロキシル基を3個以上有するポリオール化合物であり、具体的には、低分子ポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエステルポリカーボネートポリオール類、結晶性又は非結晶性のポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエンポリオール、シリコーンポリオール等が挙げられる。
【0014】
上記低分子ポリオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の、三価以上のポリオールが挙げられる。
【0015】
上記ポリエーテルポリオール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド付加物;ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレンオキシド付加物;上記の低分子ポリオール類のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0016】
上記ポリエステルポリオール類としては、例えば、前記した低分子ポリオール類等のポリオールと、その化学量論量より少ない量の多価カルボン酸、若しくはそのエステル形成性誘導体(エステル、無水物、ハライド等)及び/又はラクトン類、若しくはそれを加水分解開環して得られるヒドロキシカルボン酸との直接エステル化反応、及び/又は、エステル交換反応により得られるものが挙げられる。上記の多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2-メチルコハク酸、2-メチルアジピン酸、3-メチルアジピン酸、3-メチルペンタン二酸、2-メチルオクタン二酸、3,8-ジメチルデカン二酸、3,7-ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;トリメリト酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸類等の多価カルボン酸が挙げられる。また、それらのエステル形成性誘導体としては、上記多価カルボン酸の酸無水物;上記多価カルボン酸のクロライド、ブロマイド等のハライド;上記多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級脂肪族エステルが挙げられる。また、上記ラクトン類としては、γ−カプロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、ジメチル-ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0017】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物に使用するポリオール成分(a)としては、数平均分子量300〜5,000のものを使用すると共に、他のポリオール化合物を適宜使用することが、機械物性に優れた水系ポリウレタン樹脂組成物を得る観点から好ましい。また、前記したポリオールの数平均分子量は、500〜3,000であることがより好ましく、1,000〜2,000であることが特に好ましい。
【0018】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の調製に用いられるポリイソシアネート成分(b)としては、2官能(ジ)イソシアネート、3官能以上のポリイソシアネート化合物等のイソシアネート化合物が用いられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で使用することも2種類以上を混合して使用することもできるが、少なくともジイソシアネートを含むことが好ましく、特にポリイソシアネート成分(b)中のジイソシアネートの含有量を、50〜100質量%とすることが好ましい。
【0019】
上記ジイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、トランス-1,4-シクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも特に脂環式ジイソシアネートを使用することが好ましい。また、これらのジイソシアネートは、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0020】
前記3官能以上のポリイソシアネート化合物としては、例えば、前記したジイソシアネートのイソシアヌレート3量化物、ビューレット3量化物、トリメチロールプロパンアダクト化物;トリフェニルメタントリイソシアネート、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等の3官能以上のイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いてもよく、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いてもよい。
【0021】
本発明において、4級カチオン基含有化合物(c)を構成する2官能及び/又は3官能イソシアネートにおける2官能イソシアネートとしては、前記したジイソシアネート化合物が挙げられる。3官能のイソシアネートとしては、前記したジイソシアネートのイソシアヌレート3量化物、ビューレット3量化物、トリメチロールプロパンアダクト化物等が挙げられ、本発明においてはこれらの中でも、へキサメチレンジイソシアネートの3量体、イソホロンジイソシアネート及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適に使用される。
【0022】
本発明で使用する4級カチオン基含有化合物(c)を構成する化合物を表す、一般式(1)で表される4級アンモニウムにおけるR1、R2及びR3は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基であり、これらは同一であっても異なっていても良い。aは0〜3の整数、bは、a+bが5〜50、かつ、a/(a+b)<0.2の関係を満たす整数である。a+bが5より小さいと、本発明の特徴であるウレタン樹脂側鎖への導入の効果が少なくなるので好ましくなく、また、50を超えるとカチオン基の含有量が少なくなるので、本発明の効果が得られない。また、aは親水性に影響を及ぼす指数であり、耐水性が劣ることのないようにする上から、a=0〜3で、且つ、a/(a+b)<0.2の範囲であることが必要であり、同様の理由から、aが0でbが10〜20の範囲であることがより好ましい。
【0023】
本発明で使用する4級カチオン化合物(c)は、カチオン基を側鎖に持ったウレタンプレポリマーの製造を容易にする観点から、3官能イソシアネートと前記一般式(1)で表される化合物を1:1(モル比)で反応させたジイソシアネート化合物、または、2官能イソシアネートと前記一般式(1)で表される化合物を1:1(モル比)で反応させたモノイソシアネート化合物にさらに3官能ポリオールを反応させたジオール化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の調製には、必要に応じて鎖伸長剤成分を用いることができる。該鎖伸長剤成分としては、例えばジアミン化合物を単独で又は2種類以上混合して用いることができる。該ジアミン化合物としては、前記(a)成分として用いることのできる低分子ポリオール類である、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換された低分子ジアミン類(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン);ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m-キシレンジアミン、α-(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α'-ビス(4-アミノフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;ヒドラジン;前記(a)成分であるポリエステルポリオール類に用いられる、ジカルボン酸類とヒドラジンとの化合物であるジカルボン酸ジヒドラジド化合物等の多価カルボン酸が挙げられる。
【0025】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の調製には、必要に応じて反応停止剤を用いることができる。該反応停止剤としては、アルコール化合物、モノアミン化合物等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。該アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール等が挙げられ、モノアミン化合物としては、エチルアミン、プロピルアミン、2-プロピルアミン、ブチルアミン、2-ブチルアミン、第三ブチルアミン、イソブチルアミン等のアルキルアミン;アニリン、メチルアニリン、フェニルナフチルアミン、ナフチルアミン等の芳香族アミン;シクロヘキサンアミン、メチルシクロヘキサンアミン等の脂環式アミン;2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアミン等のエーテルアミン;エタノールアミン、プロパノールアミン、ブチルエタノールアミン、1-アミノ-2-メチル-2-プロパノール、2-アミノ-2-メチルプロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルアミノプロピルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
【0026】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を製造する方法には、特に制限はなく、水系ポリウレタン樹脂組成物に対する周知の製造方法を適用することができるが、溶媒中で、ポリオール成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)及び4級カチオン化合物(c)を反応させてプレポリマーを合成してから、反応物を水に注入して分散させる、プレポリマーミキシング法が好ましい。
【0027】
上記のプレポリマーミキシング法に使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;ヘキサン、2-メチルペンタン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類;ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等が挙げられ、これらの溶媒を混合して使用してもよい。これらの溶媒の中でも、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、第三ブタノールが好ましく用いられる。また、これらの溶媒は、通常、水分散型ポリウレタン組成物を製造するために用いられるポリウレタン構成原料の合計量に対して、3〜100質量%の範囲で用いられる。
【0028】
また、本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物における、ポリオール成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)及び4級カチオン化合物(c)の使用比率は、当量比率基準では、ポリオール成分由来の水酸基等の活性水素当量に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基当量比が1.2〜2.0となる範囲が好ましい。また、質量基準では、(a)成分100質量部に対して、(b)成分は10〜200質量部、(c)成分は5〜300質量部の範囲であり、この範囲内で、それぞれ上記の当量比を満たすように選択することが好ましい。
【0029】
上記4級カチオン基含有化合物(c)の使用量は、ポリオール成分(a)、またはイソシアネート成分(b)の水酸基当量、若しくは、イソシアネート基当量に対する当量比率が、0.05〜5となる範囲が好ましく、特に0.1〜3となる範囲がより好ましい。4級カチオン基含有化合物(c)の使用量が0.05より小さいと、水に分散させたときの分散安定性が低下し、5より大きいと水系ポリウレタン樹脂組成物から得られる塗膜等の耐水性が悪化する場合がある。
【0030】
また、水の使用量は、水分散型ポリウレタン組成物中の固形分が10〜80質量%となる範囲が好ましく、さらに、(a)〜(c)成分を用いて得られるポリウレタン100質量部に対して30〜500質量部となる範囲から、上記固形分比率を満たすように選択することが好ましい。
【0031】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物に含有されるウレタン結合の濃度、及びカチオン性水系ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、用途等により適宜決定すればよく、特に制限されるものではないが、ウレタン結合濃度については0.5〜2.0eq/kgであることが好ましく、数平均分子量については1,500〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物においては、ポリウレタンを水に分散させる際に、必要に応じて、ポリウレタン分子に架橋構造を与える周知の架橋剤を用いてもよい。好適な架橋剤としては、メラミン、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、メチル化メチロールメラミン、ブチル化メチロールメラミン、メラミン樹脂等が挙げられる。
【0033】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物においては、ポリウレタンを水に分散させる際に、必要に応じて、水系ポリウレタン樹脂組成物に使用される周知の乳化剤を用いてもよい。該乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等を使用することができる。本発明においては、これらの界面活性剤の中でも、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を使用することが、コストが低いだけでなく、良好な乳化物が得られるので好ましい。
【0034】
上記のアニオン性界面活性剤としては、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート等のアルキルサルフェート類;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、アンモニウムポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート等のポリオキシエチレンエーテルサルフェート類;ナトリウムスルホリシノレート;スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレート、トリエタノールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;ナトリウムベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ジアルキルスルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩;ポリオキシエチレンエーテルリン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;N-アシルアミノ酸塩;N-アシルメチルタウリン塩等が挙げられる。
【0035】
ノニオン性界面活性剤としては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等の多価アルコールの脂肪酸部分エステル類;ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル類;ポリグリセリン脂肪酸エステル類;炭素原子数1〜18のアルコールのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物;アルキルフェノールのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物;アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0036】
ノニオン性界面活性剤を構成する上記の炭素原子数1〜18のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール、第3ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、第3アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノール、デカンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤を構成する前記アルキルフェノールとしては、フェノール、メチルフェノール、2,4-ジ第3ブチルフェノール、2,5-ジ第3ブチルフェノール、3,5-ジ第3ブチルフェノール、4-(1,3-テトラメチルブチル)フェノール、4-イソオクチルフェノール、4-ノニルフェノール、4-第3オクチルフェノール、4-ドデシルフェノール、2-(3,5-ジメチルへプチル)フェノール、4-(3,5-ジメチルへプチル)フェノール、ナフトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールZ等が挙げられる。
【0038】
また、ノニオン性界面活性剤を構成する前記アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0039】
更に、ノニオン性界面活性剤を構成する前記アルキレンジアミンとしては、既に例示したアルキレングリコールのアルコール性水酸基がアミノ基に置換されたものが挙げられる。
【0040】
また、前記エチレンオキシド及びプロピレンオキシド付加物は、ランダム付加物でもブロック付加物でもよい。
【0041】
本発明においてこれらの乳化剤を使用する場合、その使用量は適宜決定されるが、一般的には、ポリウレタン1質量部に対して0.01〜0.3質量部であることが好ましく、0.05〜0.2質量部であることがより好ましい。0.01質量部より少ないと十分な分散性が得られない場合があり、0.3質量部を超えると、水系ポリウレタン樹脂組成物から得られる塗膜強度等の物性が低下する恐れがある。
【0042】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、周知の各種添加剤を更に用いてもよい。該添加剤としては、例えば、造膜助剤;硬化剤;ブロッキング防止剤;粘度調整剤;レベリング剤;消泡剤;ゲル化防止剤;ヒンダードアミン等の光安定剤;フェノール系化合物、リン系化合物、硫黄系化合物等の酸化防止剤;トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤;ラジカル捕捉剤;耐熱性付与剤;無機及び有機充填剤;可塑剤;滑剤;補強剤;触媒;揺変剤;抗菌剤;防カビ剤;防錆剤;防腐触剤;顔料;染料;帯電防止剤;難燃剤等が挙げられる。また、塗布した場合に、基材に対する強固な密着性を与えるシランカップリング剤、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、コロイダルシリカ、テトラアルコキシシラン及びその縮重合物、キレート剤、エポキシ化合物等を用いてもよい。これらの添加剤の使用量は、使用目的によって適宜選択することができるが、好ましくは、(a)〜(c)成分を用いて得られるポリウレタン100質量部に対して、合計で300質量部以下とする。
【0043】
本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の用途としては、塗料、接着剤、表面改質剤、有機粉体及び/又は無機粉体のバインダー、成型体、建材、シーリング剤、注型材、エラストマー、フォーム、プラスチック原料、繊維処理剤等が挙げられ、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル及びポリカーボネート等のプラスチック用コーティング剤、ガラス繊維集束剤、ラミネート用接着剤、農業用フィルムコーティング剤、感熱紙コーティング剤、インクジェット記録紙用バインダー、グラビア用印刷インキのバインダー剤、鋼板用塗料、ガラス、スレート、コンクリート等の無機系構造材用の塗料、木材用塗料、繊維処理剤、繊維コーティング剤、電子材料部品コーティング剤、スポンジ、パフ、手袋、コンドーム等が挙げられる。本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物は、これらの用途の中でも、特に、ガラス繊維集束剤、インクジェット記録紙用バインダーとして好適に用いることができる。
【0044】
以下、実施例、比較例及び評価例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
尚、各実施例及び比較例で用いられた(c)及び(c')成分並びに比較化合物:4級カチオン基含有化合物c-1〜c-4の合成には、以下の4級アンモニウム化合物A〜Cを使用した。
A:塩化ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム(プロピレンオキシド15モル付加物)
B:塩化ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム(エチレンオキシド2モル、プロピレンオキシド30モル付加物)
C:塩化ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム(エチレンオキシド5モル、プロピレンオキシド15モル付加物)
【0045】
[(c)成分:4級カチオン基含有化合物c-1の合成]
ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体化合物(3官能イソシアネート化合物)1.0モル及び4級アンモニウム化合物A1.0モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、85〜95℃で理論NCO含有量(%)になるまで2時間反応させ、4級カチオン基含有ジイソシアネート化合物c-1を得た。
【0046】
[(c)成分:4級カチオン基含有化合物c-2の合成]
ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体化合物(3官能イソシアネート化合物)1.0モル及び4級アンモニウム化合物B1.0モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、85〜95℃で理論NCO含有量(%)になるまで2時間反応させ、4級カチオン基含有ジイソシネート化合物c-2を得た。
【0047】
[(c')成分:4級カチオン基含有化合物c-3の合成]
イソホロンジイソシアネート(2官能イソシアネート化合物)1.0モル及び4級アンモニウム化合物A1.0モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、85〜95℃で理論NCO含有量(%)になるまで2時間反応させて、4級カチオン基含有モノイソシネート化合物を得た後、次いでトリメチロールプロパン(3官能ポリオール)1.0モルを仕込み、窒素気流中、100〜110℃でNCO基が消失するまで3時間反応させ、4級カチオン基含有末端水酸基(ジオール)化合物c-3を得た。
【0048】
[比較化合物:4級カチオン基含有化合物c-4の合成]
ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体化合物(3官能イソシアネート化合物)1.0モル及び4級アンモニウム化合物C1.0モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、85〜95℃で理論NCO含有量(%)になるまで2時間反応させ、4級カチオン基含有ジイソシアネート比較化合物c-4を得た。
【実施例1】
【0049】
(a)成分のポリオールとして数平均分子量1,500の1,6-ヘキサンジオールと、アジピン酸及びイソフタル酸のポリエステルポリオール0.28モル、(b)成分のイソシアネートとして4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシネート0.38モル、及び(c)成分のカチオン基含有化合物として上記4級カチオン基含有化合物(C−1)0.078モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、95〜105℃で理論NCO含有量(%)になるまで2時間反応させ、ウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0050】
得られたプレポリマー組成物500gを、SE-21(ワッカーシリコン社製シリコーン系消泡剤)1.0gを溶解したイオン交換水770gに添加し、室温で30分攪拌した。続いて、水25gで希釈した水加ヒドラジン0.17モルを加え、室温で30分攪拌して、目的物であるカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【実施例2】
【0051】
実施例1で使用した4級カチオン基含有化合物(c)成分を(C-2)化合物0.078モルとしたこと以外は、実施例1と同様の配合及び条件で、カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【実施例3】
【0052】
プレポリマー組成物の水への分散に際し、乳化剤としてポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体((株)ADEKA製、商品名アデカトールP-85)を55g添加したこと以外は、実施例1と同様の配合(モル比)及び条件で製造を行い、目的物であるカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【実施例4】
【0053】
(a)成分のポリオールとして数平均分子量1,500の1,6-ヘキサンジオールとアジピン酸及びイソフタル酸のポリエステルポリオール0.077モル、(b)成分のイソシアネートとして4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシネート0.51モル、及び(c)成分のカチオン基含有化合物として4級カチオン基含有化合物(C-3)0.24モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、95〜105℃で理論NCO含有量(%)になるまで、2時間反応させ、ウレタンプレポリマー組成物を得た。
得られたプレポリマー組成物500gを、SE-21(ワッカーシリコン社製シリコーン系消泡剤)1.0gを溶解したイオン交換水600gに添加し、室温で30分攪拌した。続いて、水60gで希釈した水加ヒドラジン0.39モルを加え、室温で30分間攪拌して、目的物であるカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【実施例5】
【0054】
(a)成分のポリオールとして、ポリエステルポリオールから数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(保土ヶ谷化学工業(株)製、商品名PTG-2000)に変え、上記実施例1と同様の配合及び条件でウレタンプレポリマーの製造を行い、得られたプレポリマー組成物600gを、SE-21(ワッカーシリコン社製シリコーン系消泡剤)1.0gを溶解したイオン交換水600gに添加し、室温で30分攪拌した。続いて、水30gで希釈した水加ヒドラジン0.20モルを加え、室温で30分攪拌して、目的物であるカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
(c)成分の4級カチオン基含有化合物変わりに、4級カチオン基含有比較化合物c-4を用いたこと以外は、上記実施例1と同様の配合(モル比)及び条件にて製造を行い、カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
(a)成分のポリオールとして数平均分子量1,500の1,6-ヘキサンジオールとアジピン酸及びイソフタル酸のポリエステルポリオール0.17モル、及び(b)成分のイソシアネートとして4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシネート1.15モルを反応フラスコに仕込み、窒素気流中、95〜105℃で理論NCO含有量(%)になるまで、2時間反応させた後、40℃に冷却して3級カチオン基含有化合物としてN-メチルジエタノールアミン0.56モルを仕込み、窒素気流中、65〜75℃で理論NCO含有量(%)になるまで、2時間反応させた。反応終了後冷却し、40℃で4級化剤としてジエチル硫酸0.56モルを1時間かけて滴下し、滴下終了後窒素気流中75〜85℃で3時間反応を行った。
【0057】
得られたプレポリマー組成物500gを、SE-21(ワッカーシリコン社製シリコーン系消泡剤)1.0gを溶解したイオン交換水770gに添加し、室温で30分攪拌した。カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。得られた水系ポリウレタン樹脂の性状値(固形分(%)、粘度(mPa・s/25℃)及びpH)を表1に示す。
【0058】
[カチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物の評価]
上記の実施例1〜5及び比較例1〜2で得たカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物について、下記の条件で水系ポリウレタン樹脂組成物の保存安定性並びに、塗膜フィルムの耐水性及び機械物性(伸び)の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[水系ポリウレタン樹脂組成物の保存安定性評価]
25℃及び40℃の雰囲気下に1ヶ月及び3ヶ月間放置し、分離状態を目視にて評価した。
○ : 全く分離がないもの
△ : 僅かに分離又は樹脂の沈降があるもの
× : 分離又は、樹脂の沈降が大きいもの
【0060】
[塗膜フィルムの作成]
ガラス板上に水系ポリウレタン樹脂を乾燥状態で厚さ100μmとなるように、バーコーターを用いて塗布し、室温にて24時間乾燥後、さらに120℃で2時間乾燥させポリウレタン樹脂フィルムを得た。
【0061】
[塗膜フィルムの耐水性評価]
上記で得られたポリウレタン樹脂フィルムを25℃の水に24時間浸した後、耐水白化を観察した。
○ : 変化なし
× : 塗膜白化
【0062】
[塗膜フィルムの機械物性評価]
JIS K 7113に基づき、上記で得られたポリウレタン樹脂フィルムをダンベル形状2号に切り出して引張試験片を作成し、テストスピード500mm/分、スパン間40mmの条件で、25℃における引張強度(MPa)及び伸び率(%)を測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から、本発明のカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物は、保存安定性及び、耐水性に優れる上、伸び等の機械的物性にも優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、水分散性及び保存安定性に優れ、塗料、ガラス繊維集束剤、インクジェット記録紙用バインダー或いはプラスチック用コーティング剤に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)及び4級カチオン基含有化合物成分(c)、並びに水を必須成分とするカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物であって、前記4級カチオン基含有化合物成分(c)が、2官能及び/又は3官能イソシアネートと下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム化合物を反応させて得られる4級カチオン基含有化合物であることを特徴とするカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物。

但し、上式中のR1、R2及びR3は、それぞれ炭素数1〜3のアルキル基を表し、これらは同一であっても異なっていても良く、aは0〜3の整数、bは、a+bが5〜50、かつ、a/(a+b)<0.2の関係を満たす整数である。
【請求項2】
前記aが0でbが10〜20である、請求項1に記載されたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記4級カチオン基含有化合物(c)を構成するイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体、イソホロンジイソシアネート及び4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載されたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記4級カチオン基含有化合物(c)が、前記2官能及び/又は3官能イソシアネートと上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム化合物を反応させて得られた末端イソシアネート化合物に、さらに2官能及び/又は3官能ポリオールを反応させてなる4級カチオン基含有末端水酸基化合物(c’)である、請求項1〜3のいずれかに記載されたカチオン性水系ポリウレタン樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−292854(P2009−292854A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144603(P2008−144603)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】