説明

カチオン性脂質の鏡像異性体による免疫応答の刺激

エキソビボで免疫細胞を活性化するため又は被験者における免疫応答を誘発するための組成物及び方法であって、該組成物は少なくとも1つのキラルカチオン性脂質を含む。キラルカチオン性脂質は、一つの実施態様において、式(I)により表される構造を有する非ステロイド性のカチオン性脂質を含み、式中、Rは第四級アンモニウム基であり、Yは、炭化水素鎖、エステル、ケトン、及びペプチドから選択されるスペーサーであり、Cはキラル炭素であり、R及びRは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、リンジエステル、及びこれらの組み合わせから独立して選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に免疫応答の刺激、より詳細には免疫応答の刺激における脂質のR及びS鏡像異性体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
このセクションでは、下記に記載及び/又は特許請求されている本発明の多様な態様に関連しうる当該技術の多様な態様を読み手に紹介することが意図される。この考察は、本発明の多様な態様のより良好な理解を促進する背景情報を読み手に提供するのを助けると考えられる。したがって、これらの記述は、この観点から読まれるべきであり、従来技術の自認として読まれるべきではないことが理解されるべきである。
【0003】
ヒトに使用する安全で効果的な免疫療法の開発は、世界中の患者にとって依然として緊急な医療上の必要性がある。適切な免疫応答を誘発するために、免疫応答を増強、指示、又は促進する免疫修飾因子(「イムノモディファイヤー(immunomodifier)」)をワクチン設計又は免疫療法に使用することができる〔Gregoriadis, G., Immunological adjuvants: a role for liposomes. Immunol Today 11:89 (1990)〕。例えば、ワクチンは、免疫応答を刺激する抗原を含むことができる。しかし、抗原を含有する幾つかのワクチンの候補は、ワクチンが免疫系の抗原提示細胞(「APC」)に抗原を効率的に送達しない及び/又は抗原が弱免疫原性なので、免疫応答の弱い刺激物質である。したがって、抗原をAPCに効果的に送達し、また抗原に応答して免疫系を刺激する免疫療法が必要である。イムノモディファイヤーは、そのような免疫療法において機能する潜在性を有する。そのような免疫療法はこれらの及び他の利益を有することができる。例えば、治療ワクチンの一部として含まれるとき、イムノモディファイヤーは、少なくとも以下を満たすべきである:(1)APCにおいて抗体送達及び/又はプロセッシングを改善する〔Wang, R, F., and Wang, H. Y. Enhancement of antitumor immunity by prolonging antigen presentation on dendritic cells. Nat Biotechnol 20:149 (2002)〕、(2)ワクチン抗原に対する免疫応答の発生を奨励する免疫調節サイトカインの産生を誘導し、したがって細胞毒性Tリンパ球(「CTL」)を含む細胞性免疫を促進する、(3)効果的なワクチンに必要な免疫化の数又は抗原の量を低減する〔Vogel, F. R. Improving vaccine performance with adjuvants. Clin Infect Dis 30 Suppl 3:S266 (2000)〕、(4)ワクチン抗原の生物学的又は免疫学的半減期を増加する、並びに(5)免疫抑制因子を阻害することにより抗原に対する免疫耐性を克服する〔Baecher-All
an, C, and Anderson, D. E. Immune regulation in tumor-bearing hosts. Curr Opin Immunol 18:214 (2006)〕。
【0004】
現在、免疫応答を誘発する、ペプチド又はタンパク質抗原のような抗原の効力を増強するのに使用される第一次分類の作用物質は、油中水エマルジョン、アラム、及び抗原応答を増強する他の化学薬品のようなアジュバントであるが、これらのアジュバントは上記に記載されたイムノモディファイヤーではなく、それはこれら自体が直接的な免疫調節効果を有していないからである〔Vogel, F. R., and Powell, M. F. A compendium of vaccine adjuvants and excipients, Pharm Biotechnol 6: 141 (1995)〕。幾つかのそのようなアジュバントが動物における用途に利用可能であり、それらのうちの幾つかは、臨床試験において試験されている。アルミニウム塩のような伝統的なアジュバントに加えて、固有の免疫効果を有する、インフルエンザビロソーム〔Gluck, R., and Walti, E. 2000. Biophysical validation of Epaxal Berna, a hepatitis A vaccine adjuvanted with immunopotentiating reconstituted influenza virosomes (IRIV). Dev Biol (Basel) 103:189 (2000)〕及びChironのMF59〔Kahn, J. O., et al. Clinical and immunologic responses to human immunodeficiency virus (HIV) type 1SF2 gp120 subunit vaccine combined with MF59 adjuvant with or without muramyl tripeptide dipalmitoyl phosphatidylethanolamine in non-HIV-infected human volunteers. J Infect Dis 170:1288 (1994)〕のような製品が市販されている。例えば、アジュバントに基づいたサブミクロンエマルジョンであるMF59は、樹状細胞により内部移行される〔Dupuis, M., et al., Dendritic cells internalize vaccine adjuvant after intramuscular injection. Cell Immunol 186:18 (1998)〕。しかし、HSV及びインフルエンザワクチンについての臨床報告によると〔Jones, C. A., and Cunningham, A. L. Vaccination strategies to prevent genital herpes and neonatal herpes simplex virus (HSV) disease. Herpes 11:12 (2004); Minutello, M. et al., Safety and immunogenicity of an inactivated subunit influenza virus vaccine combined with MF59 adjuvant emulsion in elderly subjects, immunized for three consecutive influenza seasons. Vaccine 17:99 (1999)〕、動物モデルからの証拠は、MF59アジュバントがT細胞応答を増強するのではなくむしろ中和抗体の産生を増強することを示唆している。したがって、細胞性免疫応答を刺激する新たな方法が必要である。
【0005】
更に、上記に記述したように、幾つかの抗原は免疫応答の弱い刺激物質である。したがって、抗原を上記に記載された免疫応答を刺激する物質と同時投与することに加えて、弱免疫原性抗原を修飾して、その免疫原性を増加することができる。例えば、弱免疫原性抗原を免疫原性ペプチド、多糖又は脂質と結合して、その免疫原性を増加することができる。しかし、弱免疫性抗原をこれらの種類の化合物に単に結合するだけでは、免疫応答を誘発するのに十分ではない場合がある。例えば、得られた免疫応答を結合化合物の免疫原性エピトープに向かわせることができるが、弱抗原に向かわせることはできない場合があるか又は結合抗原を免疫系のAPCに効率的に送達できない場合がある。したがって、追加的な方法が、免疫応答を弱免疫原性の抗原において刺激するために必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の特定の例示的な態様を下記に記載する。これらの態様は、本発明がとりうる特定の形態の簡潔な概要を読み手に提供するためだけに提示されること、及びこれらの様態は、本発明の範囲を限定することが意図されないことが理解されるべきである。事実、本発明は下記に明示的に記載されない場合がある多様な態様を包含することができる。
【0007】
本発明は、カチオン性脂質のキラリティー、並びに、特定の用量及び組成条件下で(1)抗原を免疫系に効果的に提示する又は送達するため、及び(2)抗原に応答して免疫系を刺激するために、新規部類の免疫刺激物質として作用する、カチオン性脂質のR及びS鏡像異性体を使用すること、に関する。
【0008】
リポソームは、小さい分子量の、薬剤、プラスミドDMA、オリゴヌクレオチド、タンパク質、及びペプチドを送達するために広く使用されてきた。非ウイルス抗原担体としてリポソームビヒクルを使用するワクチンは、弱毒生ワクチン又はワクシニア若しくはインフルエンザウイルスのようなウイルスベクターを使用するような伝統的な免疫化と比較してより好ましい。本発明の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/049,957号は、カチオン性脂質と抗原という2つの分子を含有するカチオン性脂質/抗原複合体を含む、簡素であるが効果的な脂質に基づいた免疫療法、及び得られた免疫応答に対する脂質用量の効果を開示する。報告された結果は、抗原と複合体を形成したカチオン性リポソームが、免疫応答を刺激し、樹状細胞(APC)のT細胞との相互作用を開始するように機能することを示している。
【0009】
本発明において、選択されたカチオン性脂質の2つの鏡像異性体により実施した追加の試験は、カチオン性脂質のR及びS鏡像異性体が、多様な条件下で強力な免疫活性化因子として作用する能力には、両者の間で差があるという発見をもたらした。抗原と組み合わせると、R鏡像体を含有するカチオン性脂質/抗原複合体は、多様な用量条件下で(低用量条件を含む)、複合体に配合された抗原に特異的な強い免疫応答を誘導し、腫瘍退縮をもたらす。しかし、S−DOTAPと抗原から構成される複合体は、限定された腫瘍退縮しか誘導することができず、R−ROTAPが有効であった全ての用量において誘導することができなかった。しかし、DOTAPの両方の鏡像異性体は共に、細胞性免疫応答を誘導する第1段階である、樹状細胞の成熟及び活性化の誘導においては、同等に有効である。
【0010】
したがって、本発明の1つの態様は、被験者における免疫応答を誘導するのに十分な用量の、カチオン性脂質の少なくとも1つの鏡像異性体の組成物を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、被験者にカチオン性脂質の特定の鏡像異性体又は鏡像異性体の混合物を投与することによる、被験者における免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、被験者における免疫応答を誘導するのに十分な用量の、カチオン性脂質のR又はS鏡像異性体の組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、免疫応答が抗体特異的である場合、少なくとも1つの抗原をR又はS鏡像異性体に加えて、カチオン性脂質/抗原複合体を形成させることを含む。
【0014】
(関連出願の相互参照)
本出願は、Elizabeth Vasievich、Weihsu Chen、Kenya Toney、Gregory Conn、Frank Bedu-Addo及びLeaf Huangにより2008年4月17日に出願され、表題が“Stimulation of an Immune Response by Enantiomers of Cationic Lipids”の米国仮出願第61/045,837号の利益を請求し、この開示はその全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0015】
本発明の多様な特徴、態様、及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な記載を読むと、より良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】1,2−ジオレイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「DOTAP」)のキラリティーを表す。
【図1B】1,2−ジオレイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「DOTAP」)のキラリティーを表す。
【図2】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、同時刺激分子CD80の発現をもたらすヒト樹状細胞の活性化を表すグラフである。
【図3】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、同時刺激分子DC83の発現をもたらすヒト樹状細胞の活性化を表すグラフである。
【図4】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、同時刺激分子DC86の発現をもたらすヒト樹状細胞の活性化を表すグラフである。
【図5】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、ケモカインCCL−3の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図6】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、ケモカインCCL−4の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図7】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、ケモカインCCL−5の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図8】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、ケモカインCCL−19の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図9】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、サイトカインIL−2の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図10】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、サイトカインIL−8の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図11】R−DOTAP、S−DOTAP、及びラセミ混合物RS−DOTAPによる、サイトカインIL−12の産生をもたらすヒト樹状細胞の刺激を表すグラフである。
【図12】腫瘍サイズ、及び注射後の時間に基づいたカチオン性脂質/抗原複合体の多様な用量のインビボ抗腫瘍効果を示すグラフである。
【図13】カチオン性脂質/抗原複合体のインビボ抗腫瘍効能に対するS−DOTAP用量の効果を示すグラフである。
【図14】カチオン性脂質/抗原複合体のインビボ抗腫瘍効能に対するR−DOTAP用量の効果を示すグラフである。
【図15】抗原の用量が20μgのカチオン性脂質/抗原複合体のインビボ抗腫瘍免疫応答に対する、DOTAP、R−DOTAP、及びS−DOTAPのラセミ混合物の脂質用量応答効果を表すグラフである。抗原用量の効果は、DOTAPのラセミ混合物によっても示されている。S−DOTAPと比較したR−DOTAP:p<0.05、**p<0.01、n=5〜6。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の1つ以上の特定の実施態様を下記に記載する。これらの実施態様の簡潔な記載を提供するための努力として、実際の実施における全ての特徴を必ずしもこの明細書に記載しない場合がある。任意のそのような実施の発生において、多数の実施特異的決定が開発者の特定の目標を達成するために行われなければならず、それらは実施毎に変わりうることが理解されるべきである。更に、そのような開発の努力は、複雑であり、時間がかかるが、いずれにしてもこの開示の利益を有する当業者にとって日常的な仕事であることが理解されるべきである。
【0018】
本発明の要素(例えば、例示的な実施態様)を紹介する場合、冠詞の「a」、「an」、「the」及び「said」は、1つ以上の要素があることを意味することが意図される。用語「含む」、「含まれる」及び「有する」は、包含的であって、提示された要素以外に追加の要素があってもよいことを意味することが意図される。
【0019】
本発明の一つの態様は、哺乳動物において免疫応答を刺激して疾患を予防又は治療するための、カチオン性脂質の鏡像異性体を提供する。個別のキラル脂質は、例えばケモカイン及び/又はサイトカインの産生のために、MAPキナーゼシグナル伝達経路の多様な構成要素を活性化することにより、免疫調節物質として独立して用量依存的に機能することができる。免疫応答を効果的に誘導する用量範囲は、RとSの鏡像異性体の間で、また哺乳類の多様な種内においても異なることが観察される。例えば、齧歯類の種において、DOTAPのR鏡像異性体は、約30nmol〜約400nmolの範囲にわたって腫瘍増殖を効果的に減弱する。対照的に、DOTAPのS鏡像異性体は、同じ齧歯類種において同じ用量範囲にわたって、効果的ではあるが、R鏡像異性体よりも効果は少ない。別の態様において、キラルカチオン性脂質は、免疫系の細胞に提示して、同時に、強力な抗原特異的免疫応答を刺激するために、抗原又は薬剤と結合させてもよい。本発明の幾つかの態様において、抗原はリポペプチドである。
【0020】
米国特許第7,303,881号(その全体が参照として本明細書に組み込まれる)は、疾患関連抗原と複合体を形成する多数のカチオン性脂質が、特定の疾患(例えば、HPV陽性癌)を防止する予防免疫応答、また、特定の抗原を発現する細胞を死滅させて、疾患の効果的な治療をもたらす治療免疫応答も刺激することを示したことを開示する。現在、DOTAPのR及びS鏡像異性体を使用して、カチオン性脂質の免疫刺激能力に対するキラリティーの効果を更に理解するために研究が実施された。(DOTAPのR及びS鏡像異性体は、図1A及び1Bに示されている)。これらの研究は、カチオン性脂質の個別の鏡像異性体が、抗体あり(又はなし)で免疫応答を刺激する免疫調節物質として、独立して機能しうるという発見をもたらした。更に、カチオン性脂質の鏡像異性体が抗体と複合体を形成する場合、抗原特異的な免疫応答が生じる。疾患特異的免疫応答の程度は、カチオン性脂質のRとSの鏡像異性体の間で有意に異なる。
【0021】
別の態様において、免疫応答を刺激するのに十分な用量のキラルカチオン性脂質が、1つの抗原又は複数の抗原と組み合わせて投与される。この場合、カチオン性脂質/抗原の組み合わせは、カチオン性脂質と組み合わせて送達された抗原に特異的な免疫応答を生じさせることができる。生じる応答には、特定の細胞毒性T細胞、記憶T細胞又は抗原に関連する特定の疾患の予防若しくは治療応答をもたらすB細胞を含めることができる。
【0022】
本発明のキラルカチオン性脂質は、カチオン性脂質複合体の形態であることができる。カチオン性脂質複合体は、リポソーム、ミセル又はエマルジョンのような多様なビヒクルの形態をとることができる。カチオン性脂質複合体は、単層又は多層であることができる。抗原が含まれる場合、抗原は、カチオン性脂質複合体に封入されていても封入されていなくてもよい。封入とは、抗原が、複合体の内部空間内に含有されうる及び/又は複合体の脂質壁の中に組み込まれうることを意味することが理解される。
【0023】
本発明の別の態様は、これらの複合体を生成する方法に関し、この方法は、場合により、過剰量の個別の構成要素からこれらの配合物を精製する工程を含むことができる。
【0024】
特定の実施態様において、カチオン性脂質複合体は、pH6.0〜8.0において、正の実効電荷及び/又は及び正の帯電表面を有する。
【0025】
本発明のカチオン性脂質複合体に含まれうる任意の「抗原」は、核酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、リポタンパク質、多糖、及びカチオン性脂質と複合体を直接形成することができる他の高分子であることができる。しかし、カチオン性薬剤(例えば、大型カチオン性タンパク質)を、アニオン性脂質と直接複合体を形成させてもよいし、最初にアニオン性脂質又はポリマーと、続いてキラルカチオン性脂質との間で複合体を順次形成させてもよい。この方法の使用は、本発明の複合体により正又は中性荷電薬剤を細胞に送達することを可能にする。
【0026】
本発明の一つの態様は、樹状細胞を活性化するため、またケモカイン及びサイトカインの産生を刺激するための、キラルカチオン性脂質複合体の使用を含む。ケモカイン及びサイトカインは免疫応答の重要な調節因子である。ケモカインは、初めは、好中球、好酸球及び単球/マクロファージを含む、炎症性細胞の強力な化学走性誘因物質として同定された。後の研究は、ケモカインが、リンパ器官への樹状細胞及び他のリンパ球の輸送を調節することによって免疫応答への顕著な効果を有することを明らかにした。樹状細胞は、組織において抗原を採取し、流入領域リンパ節に遊走し、成熟してT細胞応答を刺激する遊走細胞である。CCケモカインの一員であるCCL2は、最初は、走化性の、そして単球/マクロファージを活性化する因子として同定された。後の研究は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、及び好中球の機能に影響を与えることもできることを示した。更なる探求は、CCL2が、Th1サイトカイン、インターロイキン−12(「LI−12])及びインターフェロン−γ(「IFN−γ」)が存在する場合、CD8+細胞毒性Tリンパ球(「CTL」)活性の最も強力な活性化因子であることを見出した。このことは、CCL2系とIFN−γ系との正の双方向性相互作用により説明することができる。サイトカイン又はケモカインのいずれかの不在は、Th1の分極、後の特定の腫瘍免疫性の発生を妨げる場合がある。別のCCケモカインであるCCL−4でも、インビボで樹状細胞を動員及び拡張し、プラスミドDNAワクチンの免疫原性を強化することが示されている。最近、ケモカインが、ナイーブCD8+T細胞をCD4+T細胞−樹状細胞相互作用の部位に導くことにより免疫性を増強し、記憶CD8+T細胞の発生を促進することが示されている。本発明のカチオン性脂質複合体により刺激することができるケモカインの幾つかの例は、CCL−2、CCL−3及びCCL−4である。本発明のカチオン性脂質複合体により刺激することができるサイトカインの幾つかの例は、IL−2、IL−8、IL−12及びIFN−γである。本発明者たちは、本発明のカチオン性脂質複合体が、本明細書に開示されたものに加えて、ケモカイン及びサイトカインを刺激できることを考慮する。
【0027】
<脂質>
本発明のキラルカチオン性脂質複合体は、場合により抗原と混合されてもよいリポソームを形成することができ、キラルカチオン性脂質のみ、又は中性脂質と組み合わせたキラルカチオン性脂質を含有することができる。適切なキラルカチオン性脂質種としては、以下に挙げるもののR及びS鏡像異性体が含まれるが、但しこれらに限定されない:3−β〔N−(N,−ジグアニジノスペルミジン)−カルバモイル〕コレステロール(BGSC);3−β〔N,N−ジグアニジノエチル−アミノエタン)−カルバモイル〕コレステロール(BGTC);N,Nテトラ−メチルテトラパルミチルスペルミン(セルフェクチン);N−t−ブチル−N′−テトラデシル−3−テトラデシル−アミノプロピオン−アミジン(CLONフェクチン);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB);1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);2,3−ジオレオイルオキシ−N−〔2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル〕−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート)(DOSPA);1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミル)−プロピルアミド(DOSPER);4−(2,3−ビス−パルミトイルオキシ−プロピル)−1−メチル−1H−イミダゾール(DPIM);N,N,N′,N′−テトラメチル−N,N′−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムヨージド)(Tfx−50);N−1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)又は他のN−(N,N−1−ジアルコキシ)−アルキル−N,N,N−三置換アンモニウム界面活性剤;1,2−ジオレオイル−3−(4′−トリメチルアンモニオ)ブタノール−sn−グリセロール(DOBT)又はトリメチルアンモニウム基がブタノールスペーサーアームを介して二重鎖(DOTB)若しくはコレステリル基(ChOTB)に連結しているコレステリル(4′−トリメチルアンモニア)ブタノエート(ChOTB);DORI(DL−1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)若しくはDORIE(DL−1,2−O−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)(DORIE)又はWO93/03709に開示されているこれらの類似体;1,2−ジオレオイル−3−スクシニル−sn−グリセロールコリンエステル(DOSC);コレステリルヘミスクシネートエステル(ChOSC);ジオクタデシルアミドグルシルスペルミン(DOGS)及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンスペルミン(DPPES)又は米国特許第5,283,185号に開示されているカチオン性脂質、コレステリル−3β−カルボキシル−アミド−エチレントリメチルアンモニウムヨージド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリルカルボキシレートヨージド、コレステリル−3−O−カルボキシアミドエチレンアミン、コレステリル−3−β−オキシスクシンアミド−エチレントリメチルアンモニウムヨージド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートヨージド、2−(2−トリメチルアンモニオ)−エチルメチルアミノエチル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートヨージド、3−β−N−(N′,N′−ジメチルアミノエタン)カルバモイルコレステロール(DC−chol)及び3−β−N−(ポリエチレンイミン)−カルバモイルコレステロールのようなリポポリアミン;O,O′−ジミリスチル−N−リシルアスパルテート(DMKE);O,O′−ジミリスチル−N−リシル−グルタメート(DMKD);1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);1,2−ジラウロリル−sn−グレセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC);1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC);1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC);1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC);1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);ジオレオイルジメチルアミノプロパン(DODAP);1,2−パルミトイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DPTAP);1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);1,2−ミリストイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP);並びにナトリウムドデシルスルフェート(SDS)。本発明は、本明細書に開示されているカチオン性脂質の構造変異体及び誘導体の使用を考慮する。
【0028】
本発明の特定の態様は、以下の式:
【化1】

〔式中、Rは第四級アンモニウム基であり、Yは、炭化水素鎖、エステル、ケトン、及びペプチドから選択され、Cはキラル炭素であり、R及びRは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、リンジエステル、及びこれらの組み合わせから独立して選択される〕により表される構造を有する、非ステロイド性のキラルカチオン性脂質を含む。DOTAP、DMTAP、DSTAP、DPTAP、DPEPC、DSEPC、DMEPC、DLEPC、DOEPC、DMKE、DMKD、DOSPA、DOTMAが、この一般構造を有する脂質の例である。
【0029】
一つの実施態様において、本発明のキラルカチオン性脂質は、親油性基とアミノ基の間の結合が水溶液において安定している脂質である。したがって、本発明の複合体の特質は、保存の際のこれらの安定性(すなわち、小さい直径を維持し、配合後に生物学的活性を経時的に保持するこれらの能力)である。カチオン性脂質に使用されるそのような結合には、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びカルボニル結合が含まれる。当業者は、2つ以上のカチオン性脂質種を含有するリポソームを使用して本発明の複合体を生成できることを、容易に理解する。例えば、リシル−ホスファチジルエタノールアミン及びβ−アラニルコレステロールエステルの2つのカチオン性脂質種を含むリポソームが、特定の薬剤送達用途のために開示されている〔Brunette, E. et al., Nucl. Acids Res., 20: 1151 (1992)〕。
【0030】
本発明の使用に適したキラルカチオン性脂質リポソームを考慮し、場合により抗原と混合するときに、本発明の方法は、上記に引用されたカチオン性脂質の使用のみに限定されず、むしろ、カチオン性リポソームが生成され、得られたカチオン性電荷密度が免疫応答を活性化及び誘導するのに十分である限り、任意の脂質組成物が使用できることが、更に理解されるべきである。
【0031】
したがって、本発明の複合体は、キラルカチオン性脂質に加えて、他の脂質を含有することができる。これらの脂質としては、リソホスファチジルコリン(1−オレオイルリソホスファチジルコリン)を一例とするリソ脂質、コレステロール又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を含む中性リン脂質、並びにTween-80及びPEG-PEを例とする、ポリエチレングリコール部分を含有する多様な親油性界面活性剤、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明のキラルカチオン性脂質複合体は、形成された複合体の実効電荷が正である及び/又は複合体の表面が正に帯電されている限り、カチオン性脂質のみならず負荷電脂質を含有することもできる。本発明の負荷電脂質は、生理学的pH若しくはほぼ生理学的pHで負の実効電荷を有する脂質種の少なくとも1つを含むものである。適切な負荷電脂質種には、CHEMS(コレステリルヘミスクシネート)、NGPE(N−グルタリルホスファチジルエタノールアミン)、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジン酸、又は同様のリン脂質類似体、が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の薬剤送達複合体を含む脂質の生成に使用されるリポソームを生成する方法は、当業者に知られている。リポソーム調製の方法論の総説は、Liposome Technology (CFC Press New York 1984); Liposomes by Ostro (Marcel Dekker, 1987); Methods Biochem Anal. 33:337-462 (1988)及び米国特許第5,283,185号において見出すことができる。そのような方法には、凍結融解抽出及び超音波処理が含まれる。単層リポソーム(平均直径が約200nm未満)及び多層リポソーム(平均直径が約300nm超)の両方を、本発明の複合体を生成する出発成分として使用することができる。
【0034】
本発明のカチオン性脂質複合体の生成に利用されるカチオン性リポソームにおいて、キラルカチオン性脂質は、リポソーム中に、総リポソーム脂質のうちの約10モル%〜約100モル%、又は約20モル%〜約80モル%の割合で存在する。中性脂質は、リポソームに含まれる場合、総リポソーム脂質の約0モル%〜約90モル%、又は20モル%〜約80モル%若しくは40モル%〜80モル%の濃度で存在することができる。負荷電脂質は、リポソームに含まれる場合、総リポソーム脂質の約0モル%〜約49モル%、又は0モル%〜約40モル%の濃度で存在することができる。一つの実施態様において、リポソームは、キラルカチオン性と中性の脂質を約2:8〜約6:4の比で含有する。
【0035】
本発明の複合体は、複合体を特定の組織若しくは細胞型に向かわせる標的因子として機能する、修飾された脂質、タンパク質、ポリカチオン、又は受容体リガンドを含有してもよいことが、さらに理解される。標的因子の例には、アシアロ糖タンパク質、インスリン、低密度リポタンパク質(LDL)、葉酸塩、並びに、細胞表面分子に対するモノクローナル及びポリクローナル抗体、が含まれるが、これらに限定されない。更に、複合体の循環中での半減期を変更するため、ポリエチレングリコール部分を含有する親油性界面活性剤を組み込むことによって、正荷電表面を立体的に遮蔽することができる。
【0036】
カチオン性脂質複合体を、スクロース勾配から収集してからすぐに、等張スクロース又はデキストロース溶液中に保存してもよいし、これらを凍結乾燥し、使用前に等張溶液で再構築してもよい。一つの実施態様において、カチオン性脂質複合体は溶液中に保存される。本発明のカチオン性脂質複合体の安定性は、保存中のカチオン性脂質複合体の経時的な物理的安定性及び生物学的活性を決定する特定のアッセイにより測定される。カチオン性脂質複合体の物理的安定性の測定は、例えば電子顕微鏡法、ゲル濾過クロマトグラフィーを含む、当業者に既知の方法により、又は例えば実施例に記載されているCoulter N4SD粒径分析器を使用する準弾性光散乱により、カチオン性脂質複合体の直径及び電荷を決定することによって行われる。カチオン性脂質複合体の物理的安定性は、保存カチオン性脂質複合体の直径が、カチオン性脂質複合体が精製された時点に決定されたカチオン性脂質複合体の直径よりも100%超又は50%以下又は30%以下増加しない場合、保存において「実質的に不変」である。
【0037】
キラルカチオン性脂質は、純粋な又は実質的に純粋な形態で投与されることも可能であるが、医薬組成物、製剤、又は調合剤として存在することが好ましい。本発明のキラルカチオン性脂質複合体を使用する医薬製剤は、例えばリン酸緩衝食塩水、等張食塩水、又は酢酸塩若しくはHepesといった低イオン強度緩衝液のような、生理学的に適合する滅菌緩衝液中のカチオン性脂質複合体を含むことができる(例示的なpHは約3.0〜約8.0の範囲である)。キラルカチオン性脂質複合体は、エアロゾル剤として、又は腫瘍内、動脈内、静脈内、気管内、腹腔内、皮下及び筋肉内投与用の液剤として、投与することができる。
【0038】
本発明の製剤は、当該技術に既知の任意の安定剤を組み込むことができる。例示的な安定剤は、コレステロール、及び、リポソーム二重層を硬化するのを助けることができる及び二重層の分解又は不安定化を防止することができる他のステロールである。また、ポリエチレングリコール、多糖及び単糖のような作用物質をリポソームに組み込んで、リポソーム表面を改質し、血液成分との相互作用に起因する不安定化を防止することができる。他の例示的な安定剤は、タンパク質、多糖、無機酸又は有機酸であり、それ単独でも混合物としてでも使用することができる。
【0039】
多数の製剤方法を用いて、免疫刺激の持続時間を制御、変更又は延長することができる。制御放出調合剤は、カチオン性脂質を封入又は閉じ込めて、ゆっくりと放出する、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ(乳酸)及びヒドロゲルのような、ポリマー複合体の使用によって達成することができる。同様のポリマーを使用して、リポソームを吸着することもできる。刺激剤の放出プロフィールを変えるために、リポソームをエマルジョン製剤の中に含有させることができる。あるいは、リポソームの表面を、リポソーム及びエマルジョンの循環時間又は半減期を増やすことができるような、ポリエチレングリコール又は他のポリマーのような化合物及び糖のような他の物質で被覆することにより、刺激剤が血液循環に存在する持続時間を増やすことができる。
【0040】
経口調合剤が必要な場合、キラルカチオン性脂質を、医薬担体、例えば、とりわけスクロース、ラクトース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はアラビアゴムのような、当該技術において既知の典型的な医薬担体と組み合わせることができる。全身への送達のために、カチオン性脂質をカプセル剤又は錠剤に封入することもできる。
【0041】
本発明のキラルカチオン性脂質の投与の目的は、予防のためであっても治療のためであってもよい。予防のために提供される場合、カチオン性脂質は、病気のあらゆる兆候又は症状の前に提供される。治療のために提供される場合、カチオン性脂質は、疾患の発症時又は発症後に提供される。免疫刺激剤の治療投与は、疾患を軽減する又は治癒するために役立つ。両方の目的において、カチオン性脂質を追加的な治療剤又は抗原と共に投与することができる。カチオン性脂質が追加的な治療剤又は抗原と共に投与される場合、予防又は治療効果を、特定の疾患に対して生じることができる。
【0042】
本発明の製剤は、獣医用及びヒト用の両方とも、上記に記載されたように、キラルカチオン性脂質を、単独で含んでも、R及びS鏡像体の混合物として含んでも、または場合により抗原若しくは薬剤分子のような1つ以上の治療成分と共に含んでもよい。製剤は単位投与形態で都合よく存在することができ、製薬技術において既知のあらゆる方法により調製することができる。
【0043】
<抗原>
一つの実施態様において、キラルカチオン性脂質は、他の免疫調節物質の産生を含む多様な免疫応答を上げる又は下げるため、及び疾患と闘う免疫応答を増進するため、任意の追加の作用物質を用いることなく投与される。別の実施態様において、キラルカチオン性脂質は、1つの抗原又は複数の抗原と組み合わせて投与される。この場合、目的は、カチオン性脂質と組み合わせて送達される抗原に特異的な免疫応答を生じさせることである。生じる応答には、特定の細胞毒性T細胞、記憶T細胞、又は抗原に関連する特定の疾患の予防若しくは治療応答をもたらすB細胞を含めることができる。抗原は、任意の腫瘍関連抗原若しくは微生物抗原又は当業者に既知の他の任意の抗原であることができる。
【0044】
本明細書で使用されるとき、「腫瘍関連抗原」とは、腫瘍又は癌細胞に関連し、主要組織適合性複合体(「MHC」)分子の構成中で抗原提示細胞の表面に発現した場合、免疫応答(体液性及び/又は細胞性)を誘発することができるような、分子又は化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNA)である。腫瘍関連抗原には、自己抗原、並びに、癌と特異的に関連しない場合もあるが、いずれにしても動物に投与されたときに腫瘍又は癌細胞に対して免疫応答を増強する及び/又は腫瘍又は癌細胞の増殖を低減するような、他の抗原が含まれる。より具体的な実施態様が本明細書において提供される。
【0045】
本明細書で使用されるとき、「微生物抗原」は、微生物の抗原であり、感染性ウイルス、感染性細菌、感染性寄生虫、及び感染性真菌が含まれるが、これらに限定されない。微生物抗原は、無処置のままの微生物、及びその天然分離物、フラグメント、又は誘導体であってもよいし、天然の微生物抗原と同一又は同様であって、好ましくは対応する微生物(天然の微生物抗原が由来する微生物)に特異的な免疫応答を誘発するような合成化合物であってもよい。好ましい実施態様において、ある化合物が天然の微生物抗原と同様の免疫応答(体液性及び/又は細胞性)を誘発する場合、その化合物は天然の微生物抗原と同様である。天然の微生物抗原と同様である化合物又は抗体は、例えば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNAのように、当業者によく知られている。天然の微生物抗原と同様である化合物の別の非限定的な例は、多糖抗原のペプチド模倣体である。より具体的な実施態様が本明細書において提供される。
【0046】
用語「抗原」は、更に、本明細書に記載されているような既知の抗原又は野生型抗原の、ペプチド又はタンパク質類似体を包含することが意図される。類似体は、野生型抗原よりも可溶性であってもよいし、より安定していてもよく、また、抗原をより免疫学的に活性にする変異又は修飾を含むことができる。抗原を任意の方法で修飾することができ、例えば、脂質又は糖部分を付加すること、ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列を変異させること、DNA又はRNA配列を変異させること、又は当業者に既知の他の任意の修飾 によって修飾することができる。抗原は、当業者に既知の標準的方法を使用して修飾することができる。
【0047】
また、本発明の組成物及び方法に有用である別のものとして、所望の抗原のアミノ酸配列に相同性のあるアミノ酸配列を有するペプチド又はタンパク質があり、この場合、相同抗原は、対応する腫瘍、微生物又は感染細胞に免疫応答を誘発する。
【0048】
一つの実施態様において、カチオン性脂質複合体中の抗原は、腫瘍を予防又は治療するワクチンを形成するための、腫瘍又は癌に関連する抗原、すなわち腫瘍関連抗原を含む。このように、一つの実施態様において、本発明の腫瘍又は癌ワクチンは、更に、少なくとも1つの腫瘍関連抗原の少なくとも1つのエピトープを含む。別の好ましい実施態様において、本発明の腫瘍又は癌ワクチンは、更に、1つ以上の癌関連抗原からの複数のエピトープを含む。本発明のカチオン性脂質複合体及び方法に有用である腫瘍関連抗原は、本来的に免疫原性であってもよいし、非免疫原性又は僅かに免疫原性であってもよい。本明細書において示されているように、腫瘍関連自己抗原ですら、治療効果のための本願ワクチン中で有利に用いることができるが、これは、本願組成物がそのような抗原の免疫耐性を打破することができるからである。例示的な抗原には、合成、組み換え、外来、又は相同抗原が含まれるが、これらに限定されず、抗原材料には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA、及びDNAが含まれうるが、これらに限定されない。そのようなワクチンの例には、腫瘍関連抗原との複合体におけるカチオン性脂質を使用して、乳癌、頭部及び頸部癌、黒色腫、子宮頸癌、肺癌、前立腺癌、腸癌、又は当該技術において既知の他の任意の癌を治療又は予防するものが挙げられるが、これらに限定されない。抗原を、リポソーム中に封入することなく、カチオン性脂質と共に配合することも可能である。したがって本発明のカチオン性脂質複合体を、癌を治療又は予防する方法に使用してもよい。そのような場合、免疫化される哺乳動物には、封入された抗原を有するリポソームを含有する医薬製剤を注射することができる。
【0049】
本明細書に使用するのに適している腫瘍関連抗原には、天然の分子及び修飾された分子の両方が含まれ、それらは、単一の腫瘍型を指示するものであっても、幾つかの腫瘍型で共有されるものであっても、及び/又は通常の細胞と比較して腫瘍細胞に独占的に発現若しくは過剰に発現されるものであってもよい。タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド及びリポペプチドに加えて、炭水化物、ガングリオシド、糖脂質、及びムチンについても、それらの発現の腫瘍特異的パターンが確認されている。癌ワクチンに使用される例示的な腫瘍関連抗原には、腫瘍遺伝子のタンパク質産物、腫瘍抑制遺伝子、腫瘍細胞に特有の突然変異又は再配列を有する他の遺伝子、再活性化胎児遺伝子産物、腫瘍胎児性抗原、組織特異的(だが腫瘍特異的ではない)分化抗原、増殖因子受容体、細胞表面炭水化物残基、外来性ウイルスタンパク質、及び多数の他の自己タンパク質が含まれる。
【0050】
腫瘍関連抗原の特定の実施態様としては、例えば、Ras p21癌原遺伝子、腫瘍抑制因子p53及びHER−2/neu、並びにBCR−abl腫瘍遺伝子、またCDK4、MUM1、カスパーゼ8及びベータカテニンのタンパク質産物のような、変異した又は修飾された抗原;ガレクチン4、ガレクチン9、炭酸脱水酵素、アルドラーゼA、PRAME、Her2/neu、ErbB−2及びKSAのような、過剰発現する抗原;アルファフェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)のような腫瘍胎児性抗原;癌胎児性抗原(CEA)のような自己抗原、並びに、Mart 1/Melan A、gp100、gp75、チロシナーゼ、TRP1及びTRP2のようなメラノサイト分化抗原;PSA、PAP、PSMA、PSM−P1及びPSM−P2のような前立腺関連抗原;MAGE 1、MAGE 3、MAGE 4、GAGE 1、GAGE 2、BAGE、RAGEのような再活性化した胎児遺伝子産物、並びにNY−ESO1、SSX2及びSCPlのような他の精巣癌抗原;Muc−1及びMuc−2のようなムチン;GM2、GD2及びGD3のようなガングリオシド、ルイス(y)及びグロボ−Hのような中性糖脂質及び糖タンパク質;並びに、Tn、Thompson-Friedenreich抗原(TF)及びsTnのような糖タンパク質、が挙げられる。また、本明細書における腫瘍関連抗原として更に含まれるものとしては、腫瘍細胞の全細胞及び溶解産物、並びにそれらのうちの免疫原性部分や、B細胞リンパ腫に対して使用されるBリンパ球のモノクローナル増殖に対して発現する免疫グロブリンイディオタイプがある。
【0051】
腫瘍関連抗原及びそれらの対応する腫瘍細胞標的には、癌腫の抗原として、例えばサイトケラチン、特にサイトケラチン8、18及び19が含まれる。上皮膜抗原(EMA)、ヒト胚抗原(HEA−125)、ヒト乳脂肪球、MBr1、MBr8、Ber−EP4、17−1A、C26及びT16も、既知の癌腫抗原である。デスミン及び筋肉特異的アクチンは、筋原性腫瘍の抗原である。胎盤アルカリホスファターゼ、ベータ−ヒト絨毛性ゴナドトロピン及びアルファ−フェトプロテインは、絨毛性及び胚細胞性腫瘍の抗原である。前立腺特異的抗原は、前立腺癌の抗原、結腸腺癌の癌胎児性抗原である。HMB−45は、黒色腫の抗原である。子宮頸癌では、有用な抗原をヒトパピローマウイルスでコードすることができる。クロモグラニン−A及びシナプトフィジンは、神経内分泌及び神経外胚葉性腫瘍の抗原である。特に興味深いものは、壊死領域を有する固形腫瘍塊を形成する侵襲性腫瘍である。そのような壊死細胞の溶解産物は、抗原提示細胞のための抗原の豊富な供給源であり、したがって、本願の治療には、従来の化学療法及び/又は放射線治療と一緒にした有利な使用を見出すことができる。
【0052】
一つの実施態様において、ヒトパピローマウイルスHPV抗原が使用される。腫瘍関連抗原として使用される特定のHPV抗原の1つは、HPVサブタイプ16E7である。HPV E抗原−カチオン性脂質複合体は、子宮頸癌の予防及び治療に有効である。加えて、抗原活性を有するが、腫瘍形成活性を有さない遺伝子操作E7タンパク質、すなわちE7mタンパク質は、有効な腫瘍関連抗原である。E7m−カチオン性脂質複合体は、細胞免疫を誘発して、確立された腫瘍の完全な退縮を引き起こし、したがって、強力な抗子宮頸癌ワクチンとして有用である。
【0053】
腫瘍関連抗原は、当該技術において周知の方法により調製することができる。例えば、これらの抗原は、癌細胞の粗抽出物を調製すること(例えば、 Cohen et al, Cancer Res., 54:1055 (1994)に記載されている)、抗原を部分的に精製すること、組み換え技術、又は既知の抗原のデノボ合成、により、癌細胞から調製することができる。抗原は、被験者における発現及び免疫化被験者の免疫系への提示に適した形態の抗原性ペプチドをコードする核酸の形態であってもよい。更に、抗原は、完全抗原であってもよいし、少なくとも1つのエピトープを含む、完全抗原のフラグメントであってもよい。
【0054】
特定の癌の素因をつくることが知られている病原体から誘導された抗体も、本発明の癌ワクチンに有利に含めることができる。世界中の癌症例の16%近くが感染性病原体によるものであると推定され、多数の一般的な悪性腫瘍は、特定のウイルス遺伝子産物の発現により特徴付けられる。したがって、癌を引き起こすことに関与する病原体からの1つ以上の抗原を含めることは、宿主免疫応答の拡大を助けることができ、癌ワクチンの予防及び治療効果を増強することができる。本明細書において提供される癌ワクチンに使用するのに特に興味深い病原体には、B型肝炎ウイルス(肝細胞癌)、C型肝炎ウイルス(肝癌)、Epstein Banウイルス(EBV)(バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌、免疫抑制された個人におけるPTLD)、HTLVL(成人T細胞白血病)、腫瘍形成性ヒトパピローマウイルス型16、18、33、45(成人子宮頸癌)、及びヘリコバクター・ピロリ菌(B細胞胃リンパ腫)が含まれる。哺乳動物、より詳細にはヒトにおいて抗原として機能する、他の医療的に関連する微生物は、文献、例えばC. G. A Thomas, Medical Microbiology, Bailliere Tindall, Great Britain 1983において広範囲にわたって記載されており、その内容は全て参照として本明細書に組み込まれる。
【0055】
別の実施態様において、カチオン性脂質複合体の抗原は、病原体に由来する又は関連する抗原、すなわち微生物抗原を含む。このように、一つの実施態様において、本発明の病原体ワクチンは、更に、少なくとも1つの微生物抗原の少なくとも1つのエピトープを含む。本願ワクチンにより標的にされうる病原体には、ウイルス、細菌、寄生虫、及び真菌が含まれるが、これらに限定されない。別の実施態様において、本発明の病原体ワクチンは、更に、1つ以上の微生物抗原からの複数のエピトープを含む。
【0056】
カチオン性脂質複合体及び方法において有用である微生物抗原は、本来的に免疫原性であってもよいし、非免疫原性又は僅かに免疫原性であってもよい。例示的な抗原には、合成、組み換え、外来又は相同抗原が含まれるが、これらに限定されず、抗原材料には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及びDNAが含まれうるが、これらに限定されない。
【0057】
例示的なウイルス病原体には、哺乳動物、より詳細にはヒトに感染するウイルスが含まれるが、これに限定されない。ウイルスの例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:レトロウイルス科(例えば、ヒト免疫不全ウイルス)、例としてはHIV−1(HTLV−III、LAV若しくはHTLV−III/LAV又はHIV−IIIとも呼ばれる)及び他の分離物、例としてはHIV−LP;ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カリシウイルス科(例えば、胃腸炎を引き起こす菌株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(例えば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コノナウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コノナウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えば、エボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、 呼吸器合胞体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルス);ブニヤウイルス科(例えば、ハンタンウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルス及びナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例えば、レオウイルス、オリビウイルス及びロタウイルス);ビルナウイルス科; ヘパドナウイルス科(B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポーバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(大部分のアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(単純ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイスル(CMV)、ヘルペスウイルス); ポックスウイルス科(痘瘡ウイルス、ワクチニアウイルス、ポックスウイルス):イリドウイルス科(例えば、アフリカブタ熱ウイルス);並びに未分類ウイルス(例えば、海綿状脳症の病原菌、デルタ肝炎の病原体(B型肝炎の欠陥サテライトであると考えられている)、非A、非B肝炎の病原体(クラス1=内部伝染;クラス2=非経口伝染(すなち、C型肝炎);ノーウォーク及び関連するウイルス、並びにアストロウイルス)。
【0058】
また、グラム陰性及びグラム陽性菌を、本願組成物及び方法により、脊椎動物において標的にすることができる。そのようなグラム陽性菌には、パスツレラ種、スタフィロコッカス種及びストレプトコッカス種が含まれるが、これらに限定されない。グラム陰性菌には、エシェリキア・コリ、 シュードモナス種及びサルモネラ種が含まれるが、これらに限定されない。感染性細菌の特定の例には、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ヘリコバクター・ピロリ、ボレラ・ブルグドルフェリ、レジオネラ・ニューモフィラ、マイコバクテリア種(例えば、M.ツベルクローシス、M.アビウム、M.イントラセルラーレ、M.カンサイ、M.ゴルドナエ)、スタフィロコッカス・アウレウス、ナイセリア・ゴノレア、ナイセリア・メニンギティディス、リステリア・モノサイトゲネス、ストレプトコッカス・ピオゲネス(A群ストレプトコッカス)、ストレプトコッカス・アガラクチア(B群ストレプトコッカス)、ストレプトコッカス(ビリダンス群)、ストレプトコッカス・フェカリス、ストレプトコッカス・ボビス、ストレプトコッカス(嫌気性種)、ストレプトコッカス・ニューモニエ、病原性カンピロバクター種、エンテロコッカス種、 ヘモフィルス・インフルエンザエ、バチルス・アントラシス、コリネバクテリウム・ジフテリエ、コリネバクテリウム種、エリシペロトリクス・ルシオパシアエ、クロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・テタニ、エンテロバクター・アエロゲネス、クレブシエラ・ニューモニエ、パスツレラ・マルトシダ、バクテロイデス種、フソバクテリウム・ヌクレアタム、ストレプトバチルス・モニリフォルミス、トレポネーマ・パリジウム、トレポネーマ・ペルテニュー、レプトスピラ、リケッチア、及びアクチノミセス・イスラエリイ。
【0059】
本願組成物の微生物抗原の供給源として有用な細菌病原体のポリペプチドとしては、例えば、鉄調節外膜タンパク質(「IROMP」)、外膜タンパク質(「OMP」)、せつ腫症を引き起こすアエロモナス・サルモニシダのAタンパク質、細菌性腎疾患(「BKD」)を引き起こすレニバクテリウム・サルモニナルムのp57タンパク質、主要表面関連抗原(「msa」)、表面発現細胞毒素(「mpr」)、表面発現溶血素(「ish」)及びエルシニア症の鞭毛抗原;細胞外タンパク質(「ECP」)、鉄調節外膜タンパク質(「IROMP」)及びパスツレラ症の構造タンパク質;ビブロシス・アングイラルム及びV.オルダリのOMP及び鞭毛タンパク質;エドワルドシエロシス・イクタルリ及びE.タルダの鞭毛タンパク質、OMPタンパク質、aroA及びpurA;イクチオフチリウスの表面抗原;サイトファーガ・コルムナリの構造及び調節タンパク質;並びにリケッチアの構造及び調節タンパク質、が挙げられるが、これらに限定されない。そのような抗原を単離してもよいし、組み換え技術により若しくは当該技術で既知の他の任意の方法により調製してもよい。
【0060】
病原体の例には、哺乳動物、より詳細にはヒトに感染する真菌が更に挙げられるが、これに限定されない。真菌の例には、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ヒストプラズマ・カプスラーツム、コクシジオイデス・イミチス、ブラストミセス・デルマチチジス、クラミジア・トラコマティス及び カンジダ・アルビカンスが挙げられるが、これらに限定されない。感染性寄生虫の例には、熱帯熱マラリア原虫、 四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫及び三日熱マラリア原虫のようなマラリア原虫が挙げられる。他の感染性生物(例えば、原生生物)には、トキソプラズマ原虫が含まれる。寄生虫病原体のポリペプチドには、イクチオフチリウスの表面抗原が含まれるが、これに限定されない。
【0061】
哺乳動物、より詳細にはヒトにおいて抗原として機能する、他の医療的に関連する微生物は、文献(例えばC. G. A Thomas, Medical Microbiology, Bailliere Tindall, Great Britain 1983を参照すること)において広範囲にわたって記載されている。本発明の組成物及び方法は、ヒトの感染症及びヒトの病原体の治療に加えて、非ヒト哺乳動物の感染を治療するのにも有用である。非ヒト哺乳動物の治療用の多くのワクチンが、Bennett, K. Compendium of Veterinary Products, 3rd ed. North American Compendiums, Inc., 1995に開示されているおり、WO02/069369(その開示は全体が参照として本明細書に明確に組み込まれる)も参照すること。
【0062】
例示的な非ヒト病原体としては、マウス乳癌ウイルス(「MMTV」)、ラウス肉腫ウイルス(「RSV」)、トリ白血病ウイルス(「ALV」)、トリ骨髄芽球症ウイルス(「AMV」)、ネズミ白血病ウイルス(「MLV」)、ネコ白血病ウイルス(「FeLV」)、ネズミ肉腫ウイルス(「MSV」)、テナガザル白血病ウイルス(「GALV」)、脾臓壊死ウイルス(「SNV」)、細網内皮症ウイルス(「RV」)、サル肉腫ウイルス(「SSV」)、メーソンファイザーサルウィルス(「MPMV」)、1型サルレトロウイルス(「SRV−1」)、HIV−1、HIV−2、SIV、ビスナウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(「FIV」)及びウマ伝染性貧血ウイルス(「EIAV」)のようなレンチウイルス、HTLV−I、HTLV−II、サルT細胞白血病ウイル(「STLV」)及びウシ白血病ウイルス(「BLV」)のようなT細胞白血病ウイルス、並びに、ヒト泡沫状ウイルス(「HFV」)、サル泡沫状ウイルス(「SFV」)及びウシ泡沫状ウイルス(「BFV」)のような泡沫状ウイルス、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
幾つかの実施態様において、感染性病原体を参照して本明細書で使用されるとき、「治療」、「治療する」及び「治療している」とは、病原体の感染に対する被験者の耐性を増加する又は被験者が病原体に感染する可能性を減少するような、予防的な治療、並びに/或いは、感染と戦うため、例えば感染を低減する若しくは排除する又は感染が悪化するのを防止するための、患者が感染した後の治療、を意味する。
【0064】
微生物抗原は、当該技術において周知の方法により調製することができる。例えば、これらの抗原は、粗抽出物を調製すること、又は抗原を部分的に精製することにより、ウイルス及び細菌細胞から直接調製することもできるし、あるいは、組み換え技術により又は既知の抗原のデノボ合成により調製することもできる。抗原は、被験者における発現及び免疫化被験者の免疫系への提示に適した形態の抗原性ペプチドをコードする核酸の形態であってもよい。更に、抗原は、完全抗原であってもよいし、少なくとも1つのエピトープを含む、完全抗原のフラグメントであってもよい。
【0065】
キラルカチオン性脂質小胞への抗原の組み込みを向上させる目的、及び、免疫系への細胞の送達も向上させる目的のため、抗原分子の抗原性を維持しながらカチオン性脂質の疎水性アシル鎖中での抗原の可溶性を向上させるために、抗原を脂質鎖と結合させることができる。脂質付加抗原は、リポタンパク質、又はリポペプチド、及びこれらの組み合わせであることができる。脂質付加抗原は、脂質と抗原との間に結合したリンカーを有することができ、例えば、N末端α又はε−パルミトイルリシンは、ジペプチドSer−Serリンカーを介して抗原に連結していることができる。米国特許出願第12/049,957号は、DOTAP/E7−リポペプチド複合体が、DOTAP/E7製剤と比較して、インビボにおいて増強された機能的抗原特異的CD8Tリンパ球応答を示し、したがって、優れた抗腫瘍効力を提供したことを開示している。
【0066】
本発明は以下の実施例を考慮すると更に理解される。
【0067】
〔実施例〕
<カチオン性脂質の鏡像異性体による免疫系の効果的な刺激>
1.細胞株及びペプチド
TC−1細胞は、HPV16 E6及びE7腫瘍遺伝子と活性化H−rasでで形質転換された、C57BL/6マウス肺内皮細胞である。細胞を、10%ウシ胎児血清及び100U/mlのペニシリン及び100mg/mlのストレプトマイシンを補充したRPMI培地(Carlsbad, CAのInvitrogenにより販売)において増殖させた。HPV16 E7タンパク質(アミノ酸11〜20、YMLDLQPETT〔配列番号1〕)のMHCクラスI拘束性ペプチドを、Pittsburgh Peptide Synthesis Facilityにおいて、Advanced ChemTech200型ペプチド合成機を使用した固相合成により合成し、HPLCにより精製した。
【0068】
2.脂質/抗原複合体の調製及び物理的特性の決定
DOTAPの鏡像異性体は、Merck AG(EPROVA), Switzerlandから供給された。他の脂質は、全て、Avanti Polar Lipids(Alabaster, AL)から購入した。小型単層DOTAPリポソームは、薄膜水和、続く押出しにより調製した。クロロホルム中の脂質を、ガラス管の中で窒素流により薄層として乾燥した。薄膜を2〜3時間真空乾燥し、次に、細胞培養等級水(Walkersville, MDのCambrexにより販売)、又はE7ペプチドを含有する緩衝液(そのような緩衝液は当業者に周知である)によって、1mLあたり0.7mgの脂質及び0.1mgのE7(モル比=11:1)の最終濃度になるように再水和した。脂質分散体を、孔径0.4、0.2及び0.1μmのポリカーボネート膜を通して連続的に押し出した。閉じ込められていないペプチドは除去されなかった。リポソームを、使用するまで4℃で保存した。E7ペプチドのリポソームとの会合は、リポソームと結合したペプチドの率を測定することにより決定した。簡潔には、R−DOTAP/E7、S−DOTAP/E7又はRS−DOTAP/E7複合体の非結合E7ペプチドを、Microcon(登録商標)遠心分離濾過装置(Millipore, Bedford, MA)により分離し、非結合ペプチドの濃度を、Micro BCA(商標)Protein Assay Kit(Pierce, Rockford, IL)により測定した。ペプチド会合の効率を、非結合ペプチド百分率として決定した。当業者に周知の一般的なリポソーム調製に使用される他の方法を使用することもできる。
【0069】
3.統計分析
データは、少なくとも3つの独立した実験の平均±SDとして表される。両側スチューデントt検定を使用して、平均における統計的に有意な差を評価した。有意性は、p<0.05に設定した。
【0070】
4.カチオン性脂質/E7複合体の個別のR及びS鏡像異性体は、DOATPラセミ混合物と同様に、ヒト樹状細胞を活性化する
カチオン性リポソームを上記に記載されたように調製した。製剤に使用されるE7抗原は、HLA−A0201で拘束された同定済みヒトE7ペプチドである〔HPV−16 E7、アミノ酸11〜20、YMLDLQPETT(配列番号1)〕。ペプチドは、University of Pittsburgh, Molecular Medicine Institute, Pittsburgh, PAにおいて合成された。ヒトHLA−A2ヒト樹状細胞は、Lonza(Walkersville, MD)から得た。凍結クリオバイアルを融解し、樹状細胞を、12ウエル組織培養皿において、50マイクログラム/mlのIL−4及びGM−CSFを補充したLGM−3培地(Walkersville, MDのLonzaにより市販されている)により、培地2mlに125,000細胞/cmの初期平板培養密度で、37℃・5%COにて培養した。細胞を培養で3日間増殖させると、顕微鏡検査では、接着した細胞及び円形になった細胞の混合物が認められた。
【0071】
細胞を新たな用量の50マイクログラム/mlのIL−4及びGM−CSFにより3日目に処理し(全てのウエル)、試験ウエルを、インターロイキン1−ベータ(「IL−β」)、インターロイキン6(「IL−6」)及びTNF−αの混合物により10ng/ml、プロスタグランジンE2(「PGE−2」)により10μg/ml(活性化の陽性対照)、処理無し(陰性活性化対照)、S−DOTAP/E7により2.5、10及び40マイクロモル最終濃度及びR−DOTAP/E7により2.5、10及び40マイクロモル最終濃度で処理した。処理した樹状細胞を、培養液中に24時間維持してから、細胞表面マーカーの染色とフローサイトメトリーでの分析のために採取した。採取した細胞を血球計でカウントし、表面マーカーの標識のため、以下の抗体結合体10μlを、各試料に順に加えた:CD80−FITC、CD83−APC及びCD86−PE(BD Biosciences)。続いて、表面標識細胞をBD FACxcaliberフローサイトメーターを使用したフローサイトメトリーによって分析し、活性化により産生された同時刺激樹状細胞マーカー分子CD80、CD83及びCD86をモニタリングした。図2、3及び4により分かるように、カチオン性脂質/E7複合体の両方の鏡像異性体により処理された初代ヒト樹状細胞は、カチオン性脂質のラセミ混合物(RS−DOTAP)で観察されたもの及び米国特許出願第12/049,957号(本出願の譲渡人に譲渡された)に報告されたものと同様に、T細胞への抗原提示の成功のために評価及び必要とされる樹状細胞活性化の3つの同時刺激マーカーの全ての発現を上方制御した。
【0072】
5.個別のR及びS鏡像異性体を含有するカチオン性脂質/E7複合体は、ヒト樹状細胞を活性化してケモカイン及びサイトカイン産生を誘発する効力が異なる
ヒトHLA−A2樹状細胞(Lonza, Walkersville, MD)を上記に記載したように試験し、培養で増殖させた。3日目に、40マイクロモルのDOTAP/E7複合体により、又は強力な免疫刺激物質であるリポ多糖(LPS)の50マイクロモル濃度(陽性対照)により、細胞を処理した。アッセイウエルから培地を取り出し、微量遠心管により1300rpmで5分間遠心分離して、非結合樹状細胞をペレット化した。上澄みを取り出し、1mlあたり10マイクロリットルのCalbiochem(La Jolla, CA)のプロテアーゼインヒビターカクテルセットI(カタログ番号539131)で処理し、分析するまで凍結保存した。試料を、Searchlight Protein Array Multiplex ELISAアッセイ〔Pierce Biotechnology(Woburn, MA)〕によりケモカイン及びサイトカイン発現について分析した。
【0073】
細胞性免疫応答に必須であることが知られている、選択されたケモカインのCCL3、CCL4、CCL5及びCCL19の産生を評価し、IL−2、IL−8及びIL−12の産生を評価した(図5〜11、ここでは、R−DOTAP/E7及びS−DOTAP/E7の有する、CCL3、CCL4、CCL5、CCL19、IL−2、IL−8及びIL−12の産生を誘発する能力を例示している)。同図は、DOTAPの個別の鏡像異性体を含有するDOTAP/E7複合体が、ヒト樹状細胞によるサイトカイン及びケモカイン産生を誘発することを例示する。しかし、両方の鏡像異性体は、免疫系を異なる程度で活性化し、R−鏡像異性体がより高い効力を示す。
【0074】
6.DOTAPのラセミ混合物の異なる用量でDOTAP/E7組成物により処理されたマウスにおけるTC−1 HPV陽性腫瘍の増殖の動態
図12では、0日目に、HP−V陽性腫瘍の増殖を誘発するために、マウスにTC−1細胞を皮下注射した。DOTAP/E7組成物は、DOTAPのラセミ混合物を含んでいた。6日目に、10μgのE7ペプチドを含有するDOTAP/E7組成物をマウスの腹部の両側の皮下に与えた。複合体中のDOTAP脂質濃度は、3〜600nmolの範囲で異なる値(3、15、30、75、150、300及び600nmol)にした。23日目において、低用量のDOTAP(15nmol)は、未処理対照と比較して部分的な腫瘍阻害効果を示し(P<0.05)、一方、30、150又は300nmolのDOTAPは、増強された効力を示した(P<0.01)。75nmolのDOTAPは、最も有意な腫瘍退縮効果を示した(P<0.001)。ここでも、高用量のDOTAP(600nmol)を与えたマウスは抗腫瘍活性を示さず、高用量のDOTAPリポソームが免疫応答に負の調節を誘導したかもしれないことが確認された。加えて、100nmol用量のDOTAPを有するがE7ペプチドを有さないリポソームは、腫瘍増殖の有意な阻害を示さず、抗腫瘍効果が抗原特異的であることを示した。更に、アニオン性脂質である1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DOPG)のリポソームは、抗原と共に150nmolで投与されるても腫瘍増殖を有意に阻害できなかった。
【0075】
7.R及びS−DOTAPの異なる用量でR−DOTAP/E7及びS−DOTAP/E7組成物により処理されたマウスにおけるTC−1 HPV陽性腫瘍増殖の動態
図13及び14では、0日目に、HPV陽性腫瘍の増殖を誘発するために、マウスにTC−1細胞を皮下注射した。6日目に、20μgのE7ペプチドを含有するR及びS−DOTAP/E7組成物を、マウスの腹部の両側の皮下に与えた。複合体中のR又はS−DOTAP脂質濃度は、3〜600nmolの範囲で異なる値(3、15、30、75、100、125、150、300及び600nmol)にした。DOTAPのラセミ混合物(図12)と異なり、S−DOTAP複合体は、腫瘍増殖を阻害する能力を示さず、腫瘍退縮は観察されなかった(図13)。しかし、用量応答効果は観察され、23日目には、S−DOTAP用量の600nmolは、未処理対照と比較して最も遅い腫瘍増殖を誘導した(P<0.05)。図14を参照すると、R−DOTAP及び抗原を含有する複合体の抗腫瘍効果は、ラセミ混合物(図12)において観察された効果と同様であった。23日目には、75〜150nmol用量のR−DOTAPは、未処理対照と比較して部分的な腫瘍阻害効果を示し(P<0.001)、一方、300nmolのR−DOTAPは、最も有意な腫瘍退縮効力を示した(P<0.0001)。ここでも、高用量のR−DOTAP(600nmol)を与えたマウスは有意な抗腫瘍活性を示さず、高用量のR−DOTAPリポソームが免疫応答に負の調節を誘導したかもしれないことが確認された。E7ペプチドのみは、腫瘍増殖の阻害を何も示さなかった(図示されず)。図15は、多様なカチオン性脂質/E7抗原複合体、DOTAP、S−DOTAP3、及びR−DOTAPと20μgの抗原、並びにDOTAPと10μgの抗原、の腫瘍退縮効力の脂質用量応答曲線を示す。
【0076】
8.S−DOTAP及びR−DOTAP組成物によるT細胞増殖の誘発
本出願者たちは以前に、米国仮出願第60/983,799号(本出願の譲渡人に譲渡された)において、DOTAP/E7がヒトTリンパ球と直接相互作用して、クローン増殖及びT細胞活性化をもたらすことを示した。これらの研究は、DOTAPのラセミ混合物がT細胞のクローン増殖を刺激する能力を検査した。これらの研究において、HLA−A2の健康な提供者から得た濃縮ヒトリンパ球を、媒質、DOTAPのみ、ペプチドのみ、又はDOTAP/E7で、直接刺激した。刺激を7日の間隔を置いて3回繰り返した。第3刺激の3日後、DOTAP又はDOTAP/E7で処理したリンパ球は、クローン増殖がなかった培地対照とは対照的に、培養液中においてT細胞コロニーの広範な増殖を示した。増殖したT細胞は、有意なCTL活性も示した。
【0077】
これらの研究において、DOTAPにより仲介されるT細胞活性化は、T細胞におけるERKリン酸化によっても更に確認された。同時刺激分子CD86のヒトTリンパ球におけるDOTAP誘発発現も観察された。これらの結果は、DOTAPが、MAPキナーゼ仲介細胞増殖を介してT細胞活性化に直接影響を与えることを示唆した。
【0078】
本研究において、DOTAPのR及びS鏡像体によるヒトT細胞増殖の誘発が、Lonza, MAから得た精製T細胞を使用して、調査され確認された。R−DOTAPはS−DOTAPより多くのT細胞増殖を誘発し、DOTAPラセミ混合物の活性と同様であった。
【0079】
<考察>
米国特許第7,303,881号に記載されているように、広範な部類のカチオン性脂質は、抗原と共に強力な免疫刺激物質として作用して、疾患の治療において抗原特異的免疫応答を生じることができる。例えば、米国特許第7,303,881号は、DC2.4樹状細胞上での同時刺激分子CD80/CD86の発現がカチオン性脂質によって刺激されることによって示されているように、カチオン性脂質から構成されるリポソームが樹状細胞を活性化することを開示する(図14A及びA4B)。米国特許第7,303,881号の図14Aに示されているように、異なるカチオン性リポソームによる、DC2.4細胞のCD80/CD86の発現を刺激する能力は、大きく異なる。ポリカチオン性脂質である2,3−ジオレオイルオキシ−N−〔2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル〕−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)と中性脂質であるジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)との3:1(w/w)リポソーム製剤であるリポフェクタミン(登録商標)、並びに、O,O′−ジミリスチル−N−リシルアスパラテート(DMKE)及びO,O′−ジミリスチル−N−リシルグルタメート(DMKD)から調製されるリポソームは、DC2.4細胞によるCD80/CD86の発現を強く刺激する。
【0080】
米国特許第7,303,881号において更に開示されているように、DC2.4細胞上でのCD80の発現を刺激する能力は、異なるカチオン性脂質ごとに異なっている。脂質の親水性頭部及び親油性尾部は、両方ともこの能力に対して有意な効果を有する。例えば、エチルホスホコリン(EPC)頭部基を有するDXEPC脂質は、一般に、トリメチルアンモニウムプロパン(TAP)頭部基を有するDXTAP脂質よりも強力であると思われる。1つの特定の頭部基構造を有する脂質のうち、より短いアシル鎖(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC−12:0)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC−14:0))、又は不飽和アシル鎖(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC−18:1))を有する脂質は、より長いアシル鎖(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC−16:0))又は飽和アシル鎖(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC−16:0))を有するものよりも強力であると思われる。しかし、これらのデータは、複数のカチオン性脂質が樹状細胞の活性化を刺激できることを示した。米国特許出願第12/049,957号に報告されている研究は、カチオン性脂質が免疫刺激物質として作用する機構を強調している。
【0081】
上記の研究のデータは、カチオン性脂質は、免疫系のAPSへの抗原の効率的な標的及び送達ビヒクルであるばかりでなく、低用量組成物範囲で強力なアジュバントとしても機能し、MAPキナーゼ依存性シグナル伝達経路の活性化を介して免疫系機能に直接影響を与え、その結果として、サイトカイン及びケモカインを含む免疫系調節分子を産生する、という観察をもたらした。製剤の免疫刺激能力に対するカチオン性脂質の明白な用量応答効果が示されている。脂質/抗原複合体を摂取すると、粒子は、主に、主要な抗原提示専門細胞である樹状細胞に取り込まれることが示された。樹状細胞活性化の開始及び流入領域リンパ節への遊走は、示されているように、抗原特異的TC−1腫瘍に対する免疫応答を促進する。機能性CD8Tリンパ球は、DOTAP/E7注射の摂取時にマウスにおいて生じ、腫瘍微環境における浸潤性T細胞数の増加によって、腫瘍サイズは減少し、増強されたアポトーシスを示した。得られたベル型(最適用量を上回る及び下回ると活性が減少する)のカチオン性脂質用量応答曲線は、非常に低い用量で活性を示し、カチオン性脂質のアジュバント又は免疫刺激物質としての活性は、EC50が注射1回あたり約15nmolの低さでも非常に強力であることを示した。高用量のカチオン性脂質は、免疫刺激活性を排除した。本出願者たちは、例えばオボアルブミンのような抗原がカチオン性リポソームに組み込まれ、単回皮下注射により投与される場合、抗原に対する効果的な抗体が産生されることも示した。カチオン性リポソームは、また、同時刺激分子CD80及びCD83の発現を誘発し、ヒト樹状細胞を活性化することができる。カチオン性脂質及びカチオン性脂質/抗原複合体は、最適用量組成において、免疫系の強力な活性化因子であり、樹状細胞への効果的な送達に加えて、疾患の予防及び治療に有用な、簡単で安全で非常に効率的な免疫治療を提供することが明らかである。
【0082】
免疫刺激の構造の理解に基づいて、更なる試験を実施して、カチオン性脂質のキラリティーの効果及びカチオン性脂質の免疫刺激能力を評価した。これに関して、DOTAPの純粋な合成R及びS鏡像異性体を利用し、慣用的に利用されているラセミ混合物と比較した。DOTAPのR及びS鏡像異性体は、両方とも、樹状細胞の活性化及び成熟に関してラセミDOTAPと同様の能力を有することを示した。これらの3つの脂質は全て樹状細胞を誘発して、同時刺激分子CD80、CD83及びCD86を発現させた。
【0083】
疾患に対して細胞性免疫応答を誘発することができる免疫刺激物質の重要な特徴は、重要なケモカイン及びサイトカインの産生を誘発する能力である。実施例に報告されているように、ケモカイン及びサイトカインの産生を誘発する能力において有意な差がDOTAPのR及びS異性体の間に観察された。R−DOTAPは、S−DOTAPよりも強力な免疫活性化因子であることが観察された。全ての場合において、R−DOTAPの効力は、DOTPAラセミ混合物と同等又はそれを超えていた。
【0084】
サイトカイン誘発のインビトロ効力がインビボ治療効能に転換できるかを決定するために、3つの製剤、R−DOTAP/E7、S−DOTAP/E7、及びDOTAP/E7(ラセミ混合物)を、腫瘍担持マウスにおいてHPV−E7陽性腫瘍を消滅させる能力について評価した。各製剤を複数の脂質用量で評価した。図12〜15に示されているように、R−DOTAP及びDOTAP含有製剤は、両方ともベル型脂質用量応答を示し、強力なE7特異的活性は、特定の最適用量範囲内で腫瘍退縮をもたらした。S−DOTAP含有製剤は、観察されたいずれの条件下でも腫瘍退縮を誘発しなかったが、高脂質製剤は、腫瘍増殖を遅らせた。
【0085】
したがって、DOTAPのR鏡像異性体が、DOTAPの観察されたアジュバント効果の大部分を担っていることが明白である。しかし、両方の鏡像異性体ともに、成熟をもたらす樹状細胞の強力な活性化因子である。
【0086】
上記に報告された研究は、キラル脂質又はキラル脂質の混合物から構成されるカチオン性脂質の特定の特有の組成物及び用途を同定し、これらを利用して、幾つかの衰弱性疾患のための簡単で費用効果の高い、切望されている免疫療法を開発することができる。
【0087】
本発明の範囲を逸脱することなく上記記述の態様及び例示的実施態様に多様な変化を加えることができるので、上記に記載に含有されている全ての事項が例示的であり、限定的な意味で解釈されるべきでないことが意図される。このため、実施例は主にカチオン性脂質であるDOTAPの鏡像異性体について考察したが、当業者は、このカチオン性脂質は単に例示されたものであり、本方法及び機構が他のカチオン性脂質にも適用可能であることを認識する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキソビボにおいて免疫系の細胞を活性化するのに十分な用量の、又は被験者の免疫系を活性化して対象における免疫応答を誘発するのに十分な用量の、少なくとも1つのキラルカチオン性脂質を含む、組成物。
【請求項2】
キラルカチオン性脂質が、下記式:
【化1】

〔式中、Rは第四級アンモニウム基であり、Yは、炭化水素鎖、エステル、ケトン、及びペプチドから選択されるスペーサーであり、Cはキラル炭素であり、R及びRは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、リンジエステル、及びこれらの組み合わせから独立して選択される〕
により表される構造を有する非ステロイド性のカチオン性脂質を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
キラルカチオン性脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
カチオン性脂質/抗原複合体を形成する少なくとも1つの抗原を更に含み、該カチオン性脂質/抗原複合体が、抗原特異的効果又は免疫応答を刺激する、請求項1記載の組成物
【請求項5】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの抗原が、脂質付加抗原、又は疎水性を増加するように修飾されている抗原を含み、該抗原と付加された疎水性基との間にアミノ酸リンカー配列を含有することができる、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、増加した疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されているタンパク質又はペプチド、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの抗原が、母体タンパク質に存在する配列と異なるアミノ酸配列を有するように該抗原を導くアミノ酸配列に共有結合している少なくとも1つの抗原を含む、請求項4記載の組成物。
【請求項9】
エキソビボで免疫細胞を活性化する、又は被験者における免疫応答を誘発する方法であって、該細胞を活性化するのに十分な用量の、又は被験者における免疫応答を誘発するのに十分な用量の、少なくとも1つのキラルカチオン性脂質を被験者に投与することを含む、方法。
【請求項10】
カチオン性脂質が、下記式:
【化2】

〔式中、Rは第四級アンモニウム基であり、Yは、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、Cはキラル炭素であり、R及びRは、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、リンジエステル、及びこれらの組み合わせから独立して選択される〕
により表される構造を有する非ステロイド性のカチオン性脂質を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
キラルカチオン性脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
カチオン性脂質/抗原複合体を形成する少なくとも1つの抗原を更に含み、該カチオン性脂質/抗原複合体が、抗原特異的免疫応答を刺激する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの抗原が、脂質付加抗原、又は疎水性を増加するように修飾されている抗原を含み、該抗原と付加された疎水性基との間にアミノ酸リンカー配列を含有することができる、請求項12記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、増加した疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されているタンパク質又はペプチド、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項12記載の方法。
【請求項16】
T細胞をキラルカチオン性脂質又はカチオン性脂質/抗原複合体で処理することによって、T細胞の増殖を誘発する方法であって、該カチオン性脂質がキラル脂質又はキラル脂質の混合物から構成される、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2011−518170(P2011−518170A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505132(P2011−505132)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/040500
【国際公開番号】WO2009/129227
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(509263191)ピーディーエス バイオテクノロジー コーポレイション (2)
【氏名又は名称原語表記】PDS BIOTECHNOLOGY CORPORATION
【住所又は居所原語表記】500 Industrial Drive,Suite A Lawrenceburg,IN 47906−47025(US).
【Fターム(参考)】