説明

カップリングコイル、および、これを備えたアーク溶接機

【課題】出力電流が大きいアーク溶接機に用いることができる、二次コイルの直径を小さくしたカップリングコイルを提供する。
【解決手段】カップリングコイル1は、正面視ロの字形状のコア13の一方の脚部13aに一次コイル11が巻回され、他方の脚部13bに二次コイル12が巻回されている。二次コイル12には電源装置からアーク溶接用の電力が入力され、一次コイル11にはアーク放電開始時に高周波電圧が入力され、その高周波電圧が高電圧に昇圧されて二次コイル12の電圧に重畳される。二次コイル12は、金属条からなる二次巻線を絶縁シートとともにコア13の脚部13bにロール状に巻回して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波発生方式によりアーク放電をスタートさせるアーク溶接機、および、そのアーク溶接機に用いられる高周波入力用のカップリングコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放電現象を利用して金属の溶接を行うアーク溶接機がある。アーク溶接機は、母材と電極との間でアーク放電を発生させ、アーク放電による熱で母材を溶融して溶接を行う。アーク放電の発生開始時には、母材と電極との間に所定以上の電界強度を生じさせて、絶縁破壊を起こす必要がある。絶縁破壊のための方法として、アーク溶接機の起動時に、高周波発生装置で生成した高周波電圧を母材と電極との間に印加する高周波発生方式が知られている。
【0003】
図8は、高周波発生方式のアーク溶接機の一例を説明するための図である。アーク溶接機100は、アーク放電のための電力を供給する電源装置200、アーク放電の発生開始時に高周波電圧を発生させる高周波発生装置300、および、高周波発生装置300が供給する高周波電圧を電源装置200が供給する直流電圧に重畳するためのカップリングコイル400を備えている。
【0004】
アーク溶接機100は、アーク放電開始時に、電源装置200を起動させて母材500と電極600との間に低電圧の直流電圧(例えば、数十[V]の電圧)を印加し、さらに高周波発生装置300を起動させてこの直流電圧に高電圧(例えば、数千〜数万[V]の電圧)の高周波電圧を重畳させることで、母材500と電極600との間に絶縁破壊を生じさせる。
【0005】
図9は、従来のカップリングコイルの一例を説明するための図である。カップリングコイル400は、高周波発生装置300の一対の出力端子が接続される一次コイル401と、電源装置200の一方の出力端子と電極600との間に接続される二次コイル402と、一次コイル401および二次コイル402が形成されるコア403とを有する。カップリングコイル400は、一次コイル401に入力される高周波電圧を、一次コイル401と二次コイル402との巻数比に応じた高電圧の高周波電圧に昇圧して、二次コイル402側に出力する。高周波発生装置300が発生する高周波電圧は、カップリングコイル400によって昇圧され、電源装置200から出力される直流電圧に重畳される。直流電圧に非常に高い高周波電圧が重畳されることにより、母材500と電極600との間の絶縁が破壊され、アーク放電が発生する。これにより、母材500と電極600との間に電流経路が形成され、電源装置200から溶接用の直流電力が供給されることになる。
【0006】
アーク放電が発生した後は母材500と電極600との間に高周波電圧を印加する必要がないので、高周波発生装置300は停止され、電源装置200が供給する直流電力のみによりアーク放電が継続し、その発熱により母材500を溶融して溶接が行われる。高周波発生装置300が停止されると、母材500と電極600との間の電位差は数十Vに低下するので、アーク溶接中は母材500と電極600との間に数百Aの高電流が流れる。例えば、アーク溶接機100の出力電流が400Aの場合、電源装置200と電極600とを接続する接続線には400Aの電流が流れる。
【0007】
したがって、カップリングコイル400の二次コイル402を形成する二次巻線402aも、400A以上の電流を流すことができる線材を用いる必要がある。また、大容量の線材を使用した場合、発熱量が大きいので、アーク溶接機100の定格使用率をできるだけ大きくするために、二次巻線402aの構造を可及的に温度上昇を抑制する構造にする必要もある。そこで、図9の例では、二次巻線402aとして、断面積が大きく、抵抗率が低い素材の電線(一般に銅線)を用い、その電線をコア403の脚部(図9においては上側の脚部)に所定の間隔を設けて螺旋状に巻いた構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平5−46014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、二次巻線402aの断面積を大きくした場合、カップリングコイル400のサイズが大きなものとなってしまうという問題があった。例えば、二次巻線402aの素材を銅とする場合、400Aの電流を流すためには、直径を10mm以上とする必要があり、絶縁被覆も含めると直径は13mm以上となる。銅はアルミなどと比べると可撓性が低く、直径を大きくしたことにより可撓性がさらに低下する。したがって、当該二次巻線402aをコア403に密着させて巻回することができず、二次コイル402の直径は大きくなる。一方、二次巻線402aの素材をアルミとした場合、アルミの抵抗率は銅の抵抗率の約1.6倍なので、直径を銅の場合の約1.6倍とする必要がある。アルミは銅より可撓性が高いが、直径を大きくしたことによる可撓性の低下のため、当該二次巻線402aをコア403に巻きつけた二次コイル402の直径はさらに大きくなるとともに、螺旋状に巻かれた二次巻線402aの長さも長くなる。
【0010】
また、二次コイル402における二次巻線402aとコア403との間隔が大きくなるとともに、放熱を考慮して螺旋のピッチも設ける必要があるので、漏れ磁束が多くなり、二次巻線402a側に誘起される高周波電圧が低くなる。したがって、二次巻線402a側に誘起される高周波電圧を所定の高電圧とするために、巻回数を大きくする必要がある。二次コイル402の直径が大きくなることと、巻回数を大きくする必要のために、二次コイル402が大きなものとなり、これを含むカップリングコイル400全体が大きなものとなる。
【0011】
なお、図9の例では、正面視ロの字型のコア403を用いたカップリングコイル400を示したが、同一のボビンに一次コイルと二次コイルを螺旋状に巻き付け、ボビンの内部に鉄心を挿入する構成も提案されている(特許文献1参照)。この構成では、一次コイルと二次コイルが同軸上に配置されるので、一次コイルと二次コイルが並列に配置される図9の例よりも同図の高さ方向におけるサイズをコンパクトにすることができるが、一次コイルに二次コイルの発熱に対する耐熱構造を設ける必要がある。したがって、カップリングコイル全体としては、ボビンの径方向や長さ方向にサイズが大きくなり、小型化およびコンパクト化において一定の限界が生じる点は図9の例と同様である。
【0012】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、出力電流が大きいアーク溶接機に用いることができる、二次コイルの直径を小さくしたカップリングコイルを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0014】
本発明の第1の側面によって提供されるカップリングコイルは、電源装置からアーク放電を用いた処理用の電力が入力される二次巻線とこの二次巻線に磁気結合され、前記アーク放電を発生させるための高周波電圧が入力される一次巻線とを備え、前記高周波電圧を昇圧して前記電源装置から前記二次巻線に印加される電圧に重畳するカップリングコイルであって、前記二次巻線が金属条であり、絶縁シートとともに前記コアにロール状に巻回されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記金属条は銅条である。また、他の好ましい実施の形態においては、前記二次巻線にはリード端子用の電線が固着されており、前記電線は平編銅線である。
【0016】
更に、本発明の好ましい実施の形態においては、前記一次巻線および前記二次巻線は、正面視ロの字形状の強磁磁性体からなるコアの脚部に巻回されている。また、前記一次巻線および前記二次巻線は、棒形状の強磁磁性体からなるコアに巻回されている。前記一次巻線および二次巻線は、前記コアの同じ位置に巻回されているとよい。
【0017】
本発明に係るカップリングコイルによれば、金属条である二次巻線は可撓性が高いため、例えば、コアに巻回した場合、当該コアに密着させて巻回することができる。したがって、同じ断面積の金属線を螺旋状に同じ回数巻回した場合より、二次巻線がロール状に巻回された二次コイルの直径を小さくすることができる。また、二次巻線がコアに密着して巻回されているので、漏れ磁束が少なくなり、二次巻線側に誘起される高周波電圧の低下を抑制することができる。したがって、同じ断面積の金属線を螺旋状に巻回した場合より、二次巻線の巻回数を小さくすることができる。これにより、同じ断面積の金属線を螺旋状に巻回した場合と比べて、二次コイルを小さくすることができる。
【0018】
また、二次巻線の可撓性が高いので、コアの断面周長が小さい場合でも、二次巻線を密着させて巻回することができる。したがって、二次コイルの直径をさらに小さくすることができる。二次コイルを小さくすることができるので、コア全体の大きさも小さくすることができ、カップリングコイル全体を小さくすることができる。また、コアの小型化によってコストが削減され、二次コイルに使用される金属材料の量も削減することができる。
【0019】
コアを棒形状した場合は、正面視ロの字形状のコアに比べてコアの小型化が可能になり、カップリングコイルをより小さくすることができる。また、一次巻線および二次巻線をコアの同じ位置に巻回した場合は、一次巻線と二次巻線との結合を高くすることができるので、二次巻線側に誘起される高周波電圧の低下を抑制することができ、二次巻線の巻回数を抑制することができる。
【0020】
本発明の第2の側面によって提供されるアーク溶接機は、本発明の第1の側面によって提供されるカップリングコイルを備えていることを特徴とする。
【0021】
この構成によると、カップリングコイルが小型化されるので、アーク溶接機も小型化することができる。
【0022】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るカップリングコイルの第1実施形態の一例を説明するための図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面斜視図である。
【図3】二次コイルの分解図である。
【図4】本発明に係るカップリングコイルの第2実施形態の一例を説明するための図である。
【図5】一次コイルと二次コイルとを一体的に形成する方法を説明するための図である。
【図6】本発明に係るカップリングコイルの第3実施形態の一例を説明するための図である。
【図7】本発明に係るカップリングコイルの第4実施形態の一例を説明するための図である。
【図8】従来のアーク溶接機の一例を説明するための図である。
【図9】従来のカップリングコイルの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1および図2は、本発明に係るカップリングコイルの第1実施形態の一例を説明するための図である。図1はカップリングコイル1の斜視図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。図1に示すように、カップリングコイル1は、一次コイル11、二次コイル12、コア13を備えている。カップリングコイル1は、高周波発生装置300より生成される高周波電圧を昇圧して、母材500と電極600との間に印加される直流電圧に重畳させるものである(図8参照)。なお、図1および図2において、二次コイル12の巻回数は、作図の便宜上、実際のものよりも簡略化して記載しており、後述する図4、図6、図7においても同様である。
【0026】
カップリングコイル1は、周知の内鉄形の変圧器と同様の構造を有している。コア13は、正面視ロの字形状のフェライトであり、一方の脚部(図1においては下側の脚部)が一次コイル11を形成するための一次巻線巻回部13aとされ、一次巻線巻回部13aに対向する脚部(図1においては上側の脚部)が二次コイル12を形成するための二次巻線巻回部13bとされている。コア13は、一次コイル11からなる一次電流回路と二次コイル12からなる二次電流回路とを電磁誘導により結合する磁気回路を構成し、一次コイル11に供給された電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、効率よく二次コイル12に伝達する機能を果たす。すなわち、コア13は、一次コイル11に流れる電流により発生する磁束の通路を形成し、その磁束を効率よく二次コイル12のコイル面に鎖交させて当該二次コイル12に電圧を誘起させる。コア13の素材は、フェライトに限定されず、ケイ素鋼板などの他の磁性材料でもよく、磁性材料を積層したものでもよい。飽和磁束密度および透磁率が大きく、鉄損が少ないものが適している。また、本実施形態では、コア13は、断面が矩形状となるものを用いているが、断面が円形状や楕円形状となるものでも構わない。なお、断面直径が小さい場合は断面が円形状などであっても、可撓性が低い二次巻線を密着して巻回することができず、本発明の課題が生じる。
【0027】
一次コイル11は、コア13に巻回される一次巻線11aからなり、コア13の一次巻線巻回部13aに形成されている。一次巻線11aは、高周波発生装置300の一対の出力端子に接続されており、高周波発生装置300によって高周波交流電流が流される(図8参照)。高周波発生装置300から流れる電流は数mA程度なので、一次巻線11aには導体部分が直径0.5mm程度の絶縁被覆付き銅線が用いられている。なお、一次巻線11aに用いられる電線の材質および線径はこれに限られるものではない。高周波発生装置300からカップリングコイル1を介してアーク溶接機100に供給される高周波は、母材500と電極600との間に絶縁破壊を起こさせるための高電圧(数千〜数万[V]の電圧)を印加するためのもので、高い電力は必要としないので、一次巻線11aの材質や線径は高周波発生装置300から出力される電力量に応じて適宜選定すればよい。
【0028】
一次コイル11は、コア13の一次巻線巻回部13aに一次巻線11aを螺旋状に2回巻回することで形成されている。なお、一次コイル11の巻回数および巻回方向は限定されない。
【0029】
二次コイル12は、コア13の二次巻線巻回部13bに形成されている。図2に示すように、二次コイル12は、二次巻線121、2本の電線122a,122b、絶縁シート123を備えている。二次コイル12は、二次巻線121と絶縁シート123とを、二次巻線巻回部13bにロール状に8回巻回することで形成されている。なお、二次コイル12の巻回数および巻回方向は限定されない。二次コイル12の巻回数は、一次コイル11に印加される電圧と二次コイル12が重畳すべき電圧との関係および一次コイル11の巻回数により決定される。本実施形態では、アーク放電のスタート電圧をおよそ8000Vの高電圧とし、一次コイル11に印加する高周波電圧をおよそ2000Vとしているので、その2000Vの電圧を4倍に昇圧するために、二次巻線121を8回巻回している。
【0030】
二次巻線121は、銅のインゴットを塑性加工により薄い帯状にした銅条からなる。図3は、二次コイル12を形成する前の二次巻線121を説明するための分解斜視図である。本実施形態においては、二次巻線121として、厚さ寸法(図3における上下方向の寸法)が1.2mm、幅寸法(図3における左下から右上の方向の寸法)が70mm、長さ寸法(図3における左上から右下の方向の寸法)が約1410mmの銅条を用いている。
【0031】
なお、本実施形態では、二次巻線121として銅条を用いているが、これに限られない。例えばアルミニウムや銀などの抵抗率が低い金属を帯状に塑性加工した金属条であってもよい。また、銅条の寸法は、巻回されるコア13の二次巻線巻回部13bの各寸法、巻回数、および流れる電流に応じて、適宜決定すればよい。本実施形態においては、二次巻線巻回部13bの図1における左右方向寸法Lから幅寸法を70mmとし、400Aの電流を流せる断面積(約84mm2)となるように厚さ寸法を1.2mmとしている。また、二次巻線巻回部13b(図2における二次巻線巻回部13bの断面長方形の周長120mm)周りに絶縁シート123とともに8回巻回するために、長さ寸法を約1410mmとしている。
【0032】
2本の電線122a,122bは、それぞれ絶縁被覆付き平編銅線であり、一方端部の絶縁被覆が除去されて、二次巻線121の一方の面(図3における上側面)の長手方向の両端部に固着されている。電線122a,122bを平編銅線としているのは、二次巻線121に溶接により固着しやすいからであり、電線122a,122bを固着した後の二次巻線121をコア13の二次巻線巻回部13bに巻回したときにコア13と二次巻線121との間隔が大きくならないようにするためである(図2参照)。また、電線122a,122bは、二次コイル12のリード線として機能するので、平編銅線とすることでリード線に柔軟性を持たせるためでもある。なお、電線122a,122bは平編銅線に限定されないが、通常の銅線とする場合には、固着方法を工夫する必要があり、巻回したときのコア13と二次巻線121との間隔が大きくならない工夫もする必要がある。
【0033】
本実施形態では、電線122a,122bが固着された面を内側として、二次巻線121をコア13の二次巻線巻回部13bに巻回しているが(図2参照)、当該面を外側として巻回してもよい。また、電線122aと電線122bとを、それぞれ二次巻線121の互いに異なる面に固着してもよい。また、電線122aと電線122bとを、それぞれ二次巻線121の長手方向の両端面に固着しても良い。この場合、巻回したときに電線122aおよび電線122bがコア13と二次巻線121との間に位置しないので、コア13と二次巻線121との間隔を小さくすることができる。
【0034】
本実施形態において、電線122a,122bを二次巻線121の幅方向(図3における左下から右上の方向)の全体に固着させているのは、固着の強度を高めるためと、二次巻線121の全体に均等に電流が流れるようにするためである。なお、電線122a,122bと二次巻線121との固着面の面積が小さい場合、固着面の抵抗値が高くなり発熱によって溶断される可能性があるので、固着面の面積が二次巻線121の長手方向に直交する断面積(以下、単に、「二次巻線121の断面積」という。)より大きくなるようにすべきである。
【0035】
本実施形態では、アーク溶接が行われているときには電線122a,122bに、例えば、400Aの高電流が流れるので導体部分の断面積を84mm2としているが、電線122a,122bの断面積、直径、材質、種類は流れる電流に合わせて適宜決定すればよい。
【0036】
電線122aの他方端部はアーク溶接機100の電源装置200に接続され、電線122bの他方端部はアーク溶接機100の電極600に接続されている(図8参照)。したがって、電源装置200から、電線122a、二次巻線121、電線122bを介して電極600に至る電流経路が形成されている。カップリングコイル1は、アーク溶接機100の起動時に、電源装置200から母材500と電極600との間に印加される直流電圧に、高周波発生装置300から供給される高周波電圧を昇圧して重畳する。また、アーク溶接機100の溶接動作時には、カップリングコイル1の二次コイル12は、電源装置200から出力される電流の経路となる。
【0037】
絶縁シート123は、図2に示すように、二次巻線121をコア13の二次巻線巻回部13bに巻回したときに二次巻線121がショートすることを防ぐためのものであり、二次巻線121とともに二次巻線巻回部13bに巻回されるものである。本実施形態では、絶縁シート123としてアラミド樹脂のシートを用いているが、これに限られず、ポリイミド樹脂や耐熱塩化ビニル樹脂などの樹脂性シートでもよく、ファイバー紙などでもよい。
【0038】
次に、カップリングコイル1の作用について説明する。
【0039】
本実施形態においては、二次巻線121として銅条を使用している。当該銅条は、厚さ寸法が1.2mmであり可撓性が高いため、コア13の二次巻線巻回部13bに密着させて巻回することができる。したがって、同じ断面積の銅線を螺旋状に同じ回数巻回した場合より、二次コイル12の直径を小さくすることができる。また、本実施形態では、銅条の二次巻線121を二次巻線巻回部13bに密着してロール状に巻回するので、銅線の螺旋巻における隙間が生じないので、螺旋巻よりも漏れ磁束が少なくなり、二次巻線121側に供給される高周波電圧の低下を抑制することができる。したがって、同じ断面積の銅線を螺旋状に巻回した場合より、二次巻線121の巻回数を小さくすることができる。これにより、同じ断面積の銅線を螺旋状に巻回した場合と比べて、二次コイル12を小さくすることができる。
【0040】
なお、図1では、コア13の中央の開口部分を大きく描いているが、実際の製品では、この開口部分は一次コイル11と二次コイル12とが接しない程度に狭くすることができるので、コア13のサイズが図9の例よりもコンパクトになり、その分、磁気回路もコンパクトになるので、漏れ磁束を低減させることができる。すなわち、一次コイル11と二次コイル12との相互インダクタンスを大きくでき、カップリングを良好にすることができる。
【0041】
また、二次巻線121の可撓性が高いので、コア13の二次巻線巻回部13bが細い(断面周長が小さい)場合でも、二次巻線121を二次巻線巻回部13bに密着させて巻回することができる。したがって、二次コイル12の直径をさらに小さくすることができる。
【0042】
二次コイル12を小さくすることができるので、コア13全体の大きさも小さくすることができ、カップリングコイル1全体を小さくすることができる。また、カップリングコイル1を備えるアーク溶接機100も小型化することができる。
【0043】
また、コア13の小型化によって二次コイル12に使用される銅材の量も削減され、カップリングコイル1のコストを削減することができる。
【0044】
上記第1実施形態では、一次コイル11と二次コイル12とをそれぞれコア13の対向する脚部に形成した場合について説明したが、それぞれ隣り合う脚部に形成してもよい。また、一次コイル11と二次コイル12とをコア13の同じ脚部に形成してもよい。この場合は、図4に示すように、二次コイル12の周りに一次巻線11aを巻回することで、一次コイル11と二次コイル12の脚部における巻回位置を同じにするとよい。
【0045】
図4において、図1に示したカップリングコイル1と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図4に示す第2実施形態に係るカップリングコイル1’は、二次コイル12の周りに一次巻線11aを巻回することで、一次コイル11と二次コイル12とをコア13の同じ位置に形成した点で第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態に係るカップリングコイル1’においては、二次巻線121に流れる大電流による発熱によって一次巻線11aが溶断されないように、一次巻線11aを第1実施形態のものよりも耐熱温度の高い電線にしたり、二次巻線121を第1実施形態のものよりも断面積を大きくして抵抗値を小さくしたりするようにしている。
【0046】
第2実施形態においても、二次巻線121の可撓性が高いことにより、二次コイル12の直径を小さくすることができ、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、二次巻線121の上に一次巻線11aを巻回しているので、漏れ磁束を削減することができる。
【0047】
なお、一次巻線11aと二次巻線121の巻き方として、図4とは逆に、コア13に先に一次巻線11aを巻回し、その上から二次巻線121を巻回するようにしてもよい。また、コア13に巻回される二次巻線121の間に一次巻線11aを巻回して、一次コイル11と二次コイル12とを一体的に形成するようにしてもよい。
【0048】
図5は、コア13に巻回される二次巻線121の間に一次巻線11aを巻回して一次コイル11と二次コイル12とを一体的に形成する方法を説明するための図である。
【0049】
図5においては、二次巻線121を巻回したときに内側となる面の一部に絶縁シート124が配置され、その上に一次巻線11aが二次巻線121を幅方向に横切るように配置されている。図5に示す二次巻線121を絶縁シート124とともにコア13に巻回することにより、一次コイル11と二次コイル12とを一体的に形成することができる。このとき、一次巻線11aの配置の仕方を調節することにより、一次巻線11aの巻回数を調節することができる。
【0050】
第1,第2実施形態では、正面視ロの字形状のコア13を用いた場合について説明したが、コアの形状は限定されない。例えば、コアを棒形状のものとしてもよい。
【0051】
図6は、本発明に係るカップリングコイルの第3実施形態の一例を説明するための図である。なお、同図において、図1に示したカップリングコイル1と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。カップリングコイル1”は、コア13'を棒形状とした点で、図1に示す第1実施形態と異なる。また、二次コイル12における発熱を考慮して、一次コイル11と二次コイル12をコア13’に並べて配置している。
【0052】
第3実施形態においても、二次巻線121の可撓性が高いことにより、二次コイル12の直径を小さくすることができ、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、コア13'が棒形状であるので、図6における上下方向の大きさを小さくすることができる。
【0053】
第3実施形態では、二次コイル12における発熱を考慮して、一次コイル11と二次コイル12をコア13’に並べて配置しているが、上述したように、一次巻線11aや二次巻線121に二次コイル12の発熱対策を施していれば、図7に示すように、二次コイル12に重ねて一次巻線11aを巻回するようにしてもよい。
【0054】
図7において、図6に示したカップリングコイル1”と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。図7に示す第4実施形態に係るカップリングコイル1'''は、二次コイル12の周りに一次巻線11aを巻回することで、一次コイル11と二次コイル12とをコア13’の同じ位置に形成した点で第3実施形態と異なる。なお、第4実施形態に係るカップリングコイル1'''においても、二次巻線121に流れる大電流による発熱によって一次巻線11aが溶断されないように、一次巻線11aを第3実施形態のものよりも耐熱温度の高い電線にしたり、二次巻線121を第3実施形態のものよりも断面積を大きくして抵抗値を小さくしたりするようにしている。
【0055】
第4実施形態においても、第2実施形態や第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、二次巻線121の上に一次巻線11aを巻回しているので、第3実施形態よりも一次コイル11と二次コイル12とのカップリングを良好にすることができる。さらに、コア13'の長さ(図7における左右方向の寸法)を短くすることができ、カップリングコイル1'''の全体的な形状をコンパクトにすることができる。
【0056】
なお、第4実施形態においても、第2実施形態で言及したように、図7とは逆に、コイル13’に先に一次巻線11aを巻回し、その上から二次巻線121を巻回するようにしてもよい。また、コア13’に巻回される二次巻線121の間に一次巻線11aを巻回して、一次コイル11と二次コイル12とを一体的に形成するようにしてもよい。
【0057】
また、第3,第4実施形態では、一次巻線11aと二次巻線121を強磁性体からなるコア13’に直接巻回した構造を示したが、一次巻線11aと二次巻線121を筒状のボビンに巻回し、そのボビンにケイ素鋼などの強磁性体の棒部材を挿入した構造としてもよい。
【0058】
なお、上記実施形態では、電源装置200から溶接用の電流として直流電流を流す場合について説明したが、これに限られない。溶接用の電流として、パルス電流を流す場合でも本発明を適用することができるし、交流電源から交流電流を流す場合でも本発明を適用することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、本発明をアーク溶接機に適用した場合について説明したが、これに限られない。本発明は、放電現象を利用する装置において、アーク発生の開始方式が高周波発生方式であるものすべてに適用することができる。例えば、プラズマ切断機やプラズマ処理装置、放電加工機などにも適用することができる。
【0060】
本発明に係るカップリングコイルは、上述した第1乃至第4実施形態およびその変形例に限定されるものではない。本発明に係るカップリングコイルの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0061】
1,1',1”,1''',400 カップリングコイル
11 一次コイル
11a 一次巻線
12 二次コイル
121 二次巻線
122a,122b 電線
123,124 絶縁シート
13,13’ コア
13a 一次巻線巻回部
13b 二次巻線巻回部
100 アーク溶接機
200 電源装置
300 高周波発生装置
500 母材
600 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置からアーク放電を用いた処理用の電力が入力される二次巻線とこの二次巻線に磁気結合され、前記アーク放電を発生させるための高周波電圧が入力される一次巻線とを備え、前記高周波電圧を昇圧して前記電源装置から前記二次巻線に印加される電圧に重畳するカップリングコイルであって、
前記二次巻線が金属条であり、絶縁シートとともに前記コアにロール状に巻回されていることを特徴とするカップリングコイル。
【請求項2】
前記金属条は銅条である、請求項1に記載のカップリングコイル。
【請求項3】
前記二次巻線にはリード端子用の電線が固着されており、前記電線は平編銅線である、請求項1又は2に記載のカップリングコイル。
【請求項4】
前記一次巻線および前記二次巻線は、正面視ロの字形状の強磁磁性体からなるコアの脚部に巻回されている、請求項1または2に記載のカップリングコイル。
【請求項5】
前記一次巻線および前記二次巻線は、棒形状の強磁磁性体からなるコアに巻回されている、請求項1または2に記載のカップリングコイル。
【請求項6】
前記一次巻線および二次巻線は、前記コアの同じ位置に巻回されている、請求項4又は5のいずれかに記載のカップリングコイル。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のカップリングコイルを備えていることを特徴とするアーク溶接機。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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