説明

カップ粘度計

【課題】作業者の個人差による測定誤差を小さくし、高い精度で液体の粘度を測定することができるカップ粘度計を提供する。
【解決手段】底部にオリフィス孔1aが設けられ上側が開放されてなるカップ状容器1と、そのカップ状容器1を手で吊り下げるための支持部2とを備えたカップ粘度計において、カップ状容器1におけるオリフィス孔1aを内側から閉じることができる棒状の栓部材3と、ばね9の押圧力により栓部材3を常時閉状態に保持する押圧手段と、手による操作時のみ栓部材3を開状態に切り替える開閉レバー4とを設けた構成とする。カップ状容器1を液体中から引き上げた後に、開閉レバー4を操作して栓部材3をオリフィス孔1aから抜くとオリフィス孔1aからの液体の流出が開始する。開閉動作と同時にストップウォッチ等の手段を用いての時間計測を開始することで、個人差による不確実さが低減され、測定の精度を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の粘度を測定する技術分野に属し、詳しくは、液体の粘度を簡易に測定できるカップ粘度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体の粘度を測定する手段の中でも構成が比較的簡単なものとして、上側が開放されたカップ状容器の底部にオリフィス孔を設け、上部にはカップ状容器を手で吊り下げるためのループ状把手を取り付けたカップ粘度計(ザーンカップ)が広く利用されている。
【0003】
このカップ粘度計の使用方法の概略は次のようである。まず、把手を手で保持しつつ液体中にカップ状容器を浸漬し、カップ状容器の内部を液体で満たした後にこれを引き上げ、オリフィス孔から液体の流出が開始すると同時にストップウォッチを作動させる。そして、流出が途切れる時点でストップウォッチを停止させ、その間の所要時間を計測する。この流出の所要時間が同じであれば、粘度も概ね同じであるとされ、塗料と有機溶剤の混合比の調整等に用いられている。
【0004】
【非特許文献1】日本印刷学会編、「印刷工学便覧」、第1版、技報堂出版、1983年5月1日、p.711
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、液体の粘度測定に関する他の方法で公知のものとしては、容器内部に配置した回転子との間に液体を満たし、回転子を回転させた際に液体を仲介して外側容器に掛かる力を計測し、液体粘度に換算することで測定するといったものがある。これらに比較してカップ粘度計を用いた粘度測定は、精度面で劣る場合が多いが、単純構造による頑丈さや操作・取扱いの容易さ、価格の安さといった面で優れており、塗料を使用する現場等での比較的高い精度は必要としないような簡易な調整に多く利用されている。
【0006】
カップ粘度計による測定精度が比較的劣る原因としては、カップ状容器を浸漬した後の引上げ速さ、流出開始時点と終了時点の判断、ストップウォッチのボタン操作タイミング等における個人差が直接影響することが挙げられる。特に、同粘度の塗料を複数の作業者が作製する場合等に、個々の作業者が作製するときに計測された所要時間は同じでも、作製されたものの実際の粘度は大きくばらつくという場合がある。前記したように、カップ粘度計は比較的高い精度を必要としない場合に使用されるが、その一方で、上記の利点はそのままに精度向上を実現することが望まれている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作業者の個人差による測定誤差を小さくし、高い精度で液体の粘度を測定することができるカップ粘度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明のカップ粘度計は、底部にオリフィス孔が設けられ上側が開放されてなるカップ状容器と、そのカップ状容器を手で吊り下げるための支持部とを備えたカップ粘度計において、カップ状容器におけるオリフィス孔を内側から閉じることができる棒状の栓部材と、ばねの押圧力により栓部材を常時閉状態に保持する押圧手段と、手による操作時のみ栓部材を開状態に切り替える開閉レバーとを設けたことを特徴としている。
【0009】
そして、上記のカップ粘度計において、押圧手段と開閉レバーを支持部に設けた構成とすることが好ましい。またその場合に、開閉レバーは、支持部に取り付けられたガイド部材に案内されて移動可能であるように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカップ粘度計は、液体中にカップ状容器を浸漬して液体を満たし、カップ状容器を液体中から引き上げた後に、開閉レバーを操作して栓部材をオリフィス孔から抜くとオリフィス孔からの液体の流出が開始することから、開動作と同時にストップウォッチ等の手段を用いての時間計測を開始することで、カップ状容器を浸漬した後の引上げ速さ、流出開始時点の判断とストップウォッチ等のボタン操作のタイミングの関係といった個人差による不確実さが低減され、測定の精度を向上させることが可能となる。また、押圧手段と開閉レバーを支持部に設けることで、支持部を持った手でそのまま開閉レバーを操作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は本発明に係るカップ粘度計の一例を示す正面図、図2は図1のカップ粘度計を半断面状態で示す側面図である。
【0013】
このカップ粘度計は、従来のカップ粘度計と同じく、底部にオリフィス孔1aが設けられ上側が開放されてなるカップ状容器1と、そのカップ状容器1を手で吊り下げるための支持部2とを備えている。支持部2は、カップ状容器1の上部両側面に跨がるように取り付けられたループ形状のもので、いわゆる把手として機能するものである。
【0014】
本発明に係るカップ粘度計では、そのカップ状容器1におけるオリフィス孔1aを内側から閉じることができる棒状の栓部材3が設けられている。図3は栓部材を斜め下方から見た状態で示す一部破断斜視図である。栓部材3は、オリフィス孔1aを塞いでいる間の液体の漏れ出しを防ぐために、下側が直径の大きい方となる異なる2つの円柱3a,3bを軸方向に重ねた形状とし、その下端にオリフィス孔1aに突き刺さる先端部3cを設けている。この先端部3cの径はオリフィス孔1aの径と同じで、高さ(長さ)はカップ状容器1の厚みと同じであり、その上部はオリフィス孔1aの径に対して直径が1mm程度大きく、またカップ状容器1の底面に接する面には、カップ状容器1の曲面と同等なR加工もしくはテーパー加工が施されている。
【0015】
また、栓部材3の材質は、カップ粘度計が有機溶剤等を含有する液体を対象とすることが多いことに鑑み、耐溶剤性があり液体が付着しにくい硬質樹脂製(例えば「テフロン(登録商標)」)とすることが好ましい。
【0016】
一方、支持部2にはその上端に開閉レバー4を案内するガイド部材5が取り付けられている。開閉レバー4は、一端に把持部を形成するとともに他端に連結部を有する棒状のもので、第1のリンク6と第2のリンク7からなるリンク機構を介して栓部材3の上端に接続されている。第1のリンク6は、支持部2に横方向に取り付けられたヒンジピン8に対し真ん中で回動自在に取り付けられ、その第1のリンク6の端部とガイド部材5との間には引きばね9が張設されており、開閉レバー4はその引きばね9の中を通って第1のリンク6に接続されている。そして、第1のリンク6はもう一方の端部が第2のリンク7に接続されており、第2のリンク7に接続された栓部材3は、支持部2に取り付けられたガイド部材10にその上部を案内されている。
【0017】
このように、把手となる支持部2には、栓部材3を常時閉状態に保持する押圧手段と開閉レバー4とが設けられた状態になっている。そして、栓部材3は、支持部2の上端に取り付けられたガイド部材5に案内される開閉レバー4を操作することで上下し、カップ状容器1のオリフィス孔1aに対する開閉動作を行うことができる。
【0018】
このカップ粘度計は、栓部材3及びその上下機構を付加した全体を手で保持することから、支持部2、開閉レバー4、リンク6,7、ヒンジピン8等の構成部材については、基本的に軽量かつ必要な強度が得られさえすれば、鋼材、アルミ、エンプラ等の任意の材料が採用可能である。
【0019】
図1のカップ粘度計は、計測対象の液体中にカップ状容器1を浸漬して引き上げてから開閉レバー4を操作するまでは、オリフィス孔1aは栓部材3により塞がれているためにカップ状容器1の液体は流出しない。そして、開閉レバー5を操作することで、図4に示すように、栓部材3が上方に移動し、その結果オリフィス孔1aが開放されてカップ状容器1からの液体の流出が開始する。
【0020】
液体流出の所要時間を計測する際は、開閉レバー4の操作とストップウォッチを作動させる操作とを一人の作業者がそれぞれ左右の手で同時に行うようにする。これは、タイムラグがないようにして両方の操作を行うことを理想としているからであり、この左右の手で同時に行うやり方は、カップ引上げ動作後に液体流出を確認して初めてストップウォッチを作動させる従来方法に比較して正確でありはるかに容易である。また、上記のレバー操作とストップウォッチ作動を左右の手で同時に行うという操作は、複数の作業者間においても共通の認識を得ることが容易であり、個人差の低減を可能とするものである。
【0021】
実際に液体流出の所要時間を計測した際の、従来方法と本発明による方法でのばらつきは以下のとおりである。
【0022】
〔従来方法〕
・塗料A(流出所要時間:約17.5秒)
ばらつきレンジは作業者4人の平均で0.41秒であり、作業者4人の計測結果の最大と最小の差は1.71秒であった。
・塗料B(流出所要時間:約15.5秒)
ばらつきレンジは作業者4人の平均で0.40秒であり、作業者4人の計測結果の最大と最小の差は1.26秒であった。
【0023】
〔本発明による方法〕
・塗料C(流出所要時間:約11.8秒)
ばらつきレンジは作業者5人の平均で0.18秒であり、作業者5人の計測結果の最大と最小の差は0.35秒であった。
【0024】
このように、従来方法で対象とした液体よりも測定値のばらつきが大きくなる粘度の低い液体について計測したところ、本発明の方法によれば、作業者の人数を増やしてもばらつきは小さくなることが確認できた。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明によるカップ粘度計は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るカップ粘度計の一例を示す正面図である。
【図2】図1のカップ粘度計を半断面状態で示す側面図である。
【図3】栓部材を斜め下方から見た状態で示す一部破断斜視図である。
【図4】図1に示すカップ粘度計をその蓋部材が開いた状態を図2に対応して示す側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 カップ状容器
1a オリフィス孔
2 支持部
3 栓部材
3a,3b 円柱
3c 先端部
4 開閉レバー
5 ガイド部材
6 第1のリンク
7 第2のリンク
8 ヒンジピン
9 引きばね
10 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部にオリフィス孔が設けられ上側が開放されてなるカップ状容器と、そのカップ状容器を手で吊り下げるための支持部とを備えたカップ粘度計において、カップ状容器におけるオリフィス孔を内側から閉じることができる棒状の栓部材と、ばねの押圧力により栓部材を常時閉状態に保持する押圧手段と、手による操作時のみ栓部材を開状態に切り替える開閉レバーとを設けたことを特徴とするカップ粘度計。
【請求項2】
押圧手段と開閉レバーを支持部に設けたことを特徴とする請求項1に記載のカップ粘度計。
【請求項3】
開閉レバーは、支持部に取り付けられたガイド部材に案内されて移動可能であることを特徴とする請求項2に記載のカップ粘度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229338(P2009−229338A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77018(P2008−77018)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)