説明

カップ部を有する衣類

【課題】発汗と蒸れの発生を低減、防止すると共にバストの保形性や造形性を確保できるカップ部を有する衣類を提供する。
【解決手段】少なくともカップ部2と土台部3とを有し、前記カップ部と土台部の境界に位置するバージスラインに沿った上縁側にメッシュ帯部6を設け、該メッシュ帯部を介して前記カップ部と土台部とを連結し、前記メッシュ帯部の通気抵抗A、前記土台部の通気抵抗B、前記カップ部の通気抵抗Cの関係をA<B<Cとし、部位に応じて通気抵抗を変えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラジャー等のカップ部を有する衣類に関し、特に、装着時において蒸れ発生を抑制できる通気性を付与するものである。
【背景技術】
【0002】
夏季や過剰暖房の雰囲気下において、ブラジャーやブラスリップ等の着用時、蒸れや発汗を生じやすい。この蒸れや発汗を低減、防止するため、ブラジャー等の衣類全体の素材あるいはカップ部の素材を通気性素材で形成する場合が多い。
しかしながら、カップ全体やブラジャー全体を通気性に優れた素材で形成した場合、保形性や造形性が低下し、ブラジャーとしての機能を十分に発揮させることが出来なくなりやすい。一方、蒸れや汗をかきやすい夏季はアウターが薄着となるため、特に、バストをブラジャーでしっかりと保持する機能が要求され、通気性と相反する保形性の要求が強い。
【0003】
部分的に通気性を高めたものとして、従来、実開昭62−15510号(特許文献1)において、図6(A)に示すような、乳首に当たる位置に露出用穴101をあけると共に、該露出用穴101の下部で乳首露出穴とバスト下側周縁のバージスラインとの間のカップ部内の下部領域に、多数の通気穴102をあけたブラジャー100、図6(B)のカップ部内の下部領域に多数の通気穴102のみ設けたブラジャーが提案されている。
【0004】
本発明者は、ブラジャー着用時における発汗についての調査を行った。調査は、上半身にブラジャーのみを着用した複数人のモニターを、室温33℃、湿度70%の条件下の環境実験室で静止させ、発汗させた。
該調査の結果、ブラジャー着用時に、胸部からの発汗は全体的に発生するものではなく、発汗量は部位によって差があることが判明した。即ち、発汗量が最も多い1位の部位はカップ部と土台部との境界のワイヤー取付部分に当たるバスト下周縁のバージスラインに沿った部分であった。次に、発汗量が多い2位の部位はブラジャー土台部が密着するバスト下部であった。カップ部が密着するバスト表面からの発汗量は3位であった。
【0005】
前記特許文献1の乳首に当たる部分に露出用穴101を設けることは、前記調査の結果からは通気性の点で効果は余りなく、逆に、乳首が露出することで、乳首の形状が外観に響きブラジャーとしての機能がなくなる。また、カップ部の下側部に設けた多数の通気穴102も、前記発汗量の調査で第3位のバスト表面に当たる位置であるため、発汗抑制の点で余り効果がなく、逆にカップ部下側部に多数の通気穴102を設けるとバストを下部から押し上げる機能が損なわれ、バストの保形性や造形性の機能が損なわれる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭62−15510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記ブラジャー着用時における発汗量の調査の結果に基づいて、発汗抑制に最も効果がある部位の通気性を高め、かつ、ブラジャーの機能であるバストの保形性や造形性も確保し、特に、夏季等において蒸れや汗の発生を低減し、爽やかな着用感を有するブラジャー等のカップ部を有する衣類を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、少なくともカップ部と土台部とを有し、
前記カップ部と土台部の境界に位置するバージスラインに沿った上縁側にメッシュ帯部を設け、該メッシュ帯部を介して前記カップ部と土台部とを連結し、
前記メッシュ帯部の通気抵抗A、前記土台部の通気抵抗B、前記カップ部の通気抵抗Cの関係をA<B<Cとし、部位に応じて通気抵抗を変えていることを特徴とするカップ部を有する衣類を提供している。
【0009】
ブラジャー等のカップ部を有する衣類では、通常、カップ部と土台部との境界となるバージスラインに沿った部位にはワイヤーが装着され、バージスラインに沿ったカップ部の下縁がワイヤー装着部に直接縫着されている。
前記した調査によれば、ワイヤー装着部は最も発汗量が多い部位で、ワイヤーにより湿気が溜められ、蒸れが生じる箇所である。よって、本発明では、最も発汗量が多い部位で、かつ、ワイヤーにより湿気が溜められる部位に沿って、通気抵抗が最も小さいメッシュ帯部を設けることにより、効果的に発汗を押さえ又は発汗量を低減し、かつ、湿気が溜められないようにして、蒸れ感が生じないようにしている。
【0010】
さらに、通気抵抗を前記のように、メッシュ帯部の通気抵抗A<土台部の通気抵抗B<カップ部の通気抵抗Cとし、前記調査で発汗量が多い順に通気抵抗を小さくして通気性を高め、発汗が抑制または低減でき、蒸れの少ない爽やかな着用感を有するものとしている。
前記のように、最も通気抵抗を小さくしている部位はメッシュ帯部として空孔をもうけることにより通気抵抗は略0として通気性を高めている。
土台部とカップ部とは、土台部の通気性をカップ部の通気性より高めている。そのため、例えば、通気性が相違する素材を用いて形成し、または、通気抵抗のレベルを相違させた同一素材を用いて形成している。あるいは、通気抵抗が同一の素材を用いて土台部とカップ部を形成すると共にカップ部は該素材に他の保形用素材を重ねて形成している。
前記土台部とカップ部とは、例えば、通気レベルを相違させたダブルラッセル等で形成することが好ましい。
【0011】
前記バージスラインに沿って設けるメッシュ帯部は幅が1.0cm以下0.3cm以上、好ましくは0.3cm〜0.7cm程度となるようにメッシュテープを取り付けて形成している。該メッシュ帯部に縫着するカップ部には特許文献1のような通気穴を設けていない。
前記メッシュ帯部のメッシュは、1mm×1mm〜3mm×3mmとすることが好ましい。
この比較的細幅のメッシュ帯部を設けるだけで、バージスラインに沿った部位の通気性を局部的に高めて、バージスラインに沿った部位の発汗を防止、抑制することができる。かつ、メッシュ帯部は保形性が低いがその幅を前記のように1.0cm以下と細くしているため、カップ部によるバストの保形性および造形性を阻害せず、ブラジャーの機能が損なわれない。
【0012】
前記メッシュ帯部と土台部との連結部に沿ってワイヤーを取り付けてもよい。
ワイヤーを取り付けることにより、バージスラインを明確に出来ると共にバストの下垂を低減できる。かつ、ワイヤーの取り付けにより締付感が生じて発汗が促進されても、該ワイヤー取付部位に沿ってメッシュ部を存在させて通気性を高めているため、ワイヤー取付部位の発汗を抑制することができる。かつ、ワイヤーにより湿気が溜まっても該湿気をメッシュ帯部から発散することができる。
また、前記ワイヤーを取り付けなくとも良く、その場合はワイヤーに変えて布テープをワイヤー取り付け位置に縫着することが好ましい。該布テープとしてはバージスラインの曲線に沿った曲線として予め形成されている布テープが好適に用いられる。
さらに、前記布テープに代えて、ワイヤーを挿入していないワイヤーループをワイヤー取り付け位置に縫着してもよい。
【0013】
本発明のカップ部を有する衣類は、ブラジャーが最も好適であるが、ブラスリップ、ボデイスーツ、水着等にも適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
前記のように、本発明のブラジャー等のカップ部を有する衣類では、カップ部と土台部との境界のバージスラインの上縁に沿って細幅のメッシュ帯部を配置しているため、最も発汗が発生し易く且つ発汗量の多い部位の通気性を局部的に高めることができ、発汗や蒸れの発生が防止または低減できる爽やかな着用感とすることができる。かつ、カップ部は下部を含めた全体に通気穴を設けていないため、カップ部によるバストの保形性や造形性を維持でき、シャキとした着用感を与えることができる。即ち、通気性と保形性・造形性とを両立でき、爽やかでシャキとした特に夏向きのブラジャーとして好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態のブラジャーの正面図である。
【図2】前記第1実施形態のブラジャーの肌側となる背面図である。
【図3】第2実施形態のブラジャーの正面図である。
【図4】前記第2実施形態のブラジャーの肌側となる背面図である。
【図5】(A)は第3実施形態のブラジャーの背面図、(B)は使用する布テープを示す図面である。
【図6】(A)(B)は従来例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1、図2に第1実施形態のブラジャー1を示す。
ブラジャー1は左右一対のカップ部2(2A、2B)と、土台部3と、左右一対のバック部4(4A、4B)と、左右一対の肩紐5(5A、5B)とからなる。
【0017】
前記土台部3の左右端は左右脇線ラインよりも前身頃側に寄った位置とする一方、左右一対のバック部4A、4Bは脇線ラインを越えて前身頃側へ延在させ、土台部3の左右端とバック部4とを前身頃側で縫着している。
土台部3には、その中央部3aを挟む左右両側の上縁にバージスラインに沿った円弧部3b、3cを設け、かつ、該土台部3の左右に連続する左右一対のバック部4A、4Bの上縁に円弧部3b、3cにそれぞれ連続する円弧部4c、4dを設けている。
【0018】
前記バージスラインに沿って設けた土台部3の円弧部3bとバック部4Aの円弧部4cにカップ部2Aをメッシュ帯部6Aを介して連結している。同様に土台部3の円弧部3cとバック部4Bの円弧部4dにカップ部2Bをメッシュ帯部6Bを介して連結している。
【0019】
このように、前記左右一対のカップ部2A、2Bの下端縁と、土台部3およびバック部4の前身頃側上縁部とを左右一対のメッシュ帯部6(6A、6B)を介在させて連結している。該メッシュ帯部6A、6Bは縫い代部を含めて幅1.5cm程度のメッシュテープの上縁とカップ部2A,2Bの下縁とを縫着すると共に、メッシュテープの下縁と土台部3およびバック部4の上縁とを縫着することにより、幅0.5mm程度に形成される。
【0020】
前記メッシュ帯部6の下縁と縫着する土台部3およびバック部4の前身頃側の上縁にはワイヤー7A、7Bをワイヤーループ8A、8Bに収容して縫着している。これにより、ワイヤー7の取付部位に沿った上縁にメッシュ帯部6を位置させている。
かつ、メッシュ帯部6の上縁と縫着するカップ部2A、2Bの下縁に沿ってテープ9A、9Bを縫着し、カップ部2A、2Bのバージスラインに沿った下周縁をしっかりと保持している。
【0021】
前記メッシュ帯部6を形成するメッシュテープは、本実施形態ではナイロン73.3%、ポリウレタン26.7%の混紡糸を2mm×2mmの空孔をあけて編成したメッシュテープからなる。メッシュ帯部6の通気抵抗Aは略0である。なお、通気抵抗はKES法により測定し、単位はKpa・S/mである。
【0022】
前記土台部3および左右のカップ部2A、2Bの素材は特に限定されないが、土台部3の通気抵抗Bは前記メッシュ帯部6の通気抵抗Aより大きく、カップ部2A、2Bの通気抵抗Cより小さく設定している。即ち、メッシュ帯部6の通気抵抗A<土台部3の通気抵抗B<カップ部2の通気抵抗Cとしている。
【0023】
本実施形態では、土台部3およびカップ部2(2A、2B)はいずれもポリエステル100%のダブルラッセルで形成しているが、通気抵抗のレベルを変えて、土台部3のダブルラッセルの通気抵抗をカップ部2のダブルラッセルの通気抵抗より小さくしている。
具体的には、土台部3の通気抵抗Bは0.0782Kpa・S/mであり、カップ部2の通気抵抗Cは0.0799Kpa・S/mである。
【0024】
バック部4(4A、4B)はレース生地で形成し、土台部3およびカップ部2の素材より通気抵抗を小さくしている。即ち、バスト下部で身体に締め付けて取り付ける土台部3およびバック部4の通気抵抗はカップ部2よりも小さくして通気性に優れたものとしている。このように、前記調査で発汗量が第2位の部位の通気性を高めている。
【0025】
前記のように、左右のバストの表面に密着させる前記左右カップ部2(2A、2B)の本体生地は、土台部3やバック部4より通気抵抗が大きく、通気穴の無い生地(ダブルラッセル)で形成し、バストの保形性や造形性を損なわないようにしている。
該カップ部2の本体生地は、下部、上部、脇側部に分割すると共にこれらを縫着して膨出部を形成している。該ダブルラッセルからなる本体生地の外面側にレース生地を取り付けると共に肌側の内面にポリエステル100%の編成糸からなるメッシュからなるパッド受けを取り付けてもよい。
【0026】
前記構成としたブラジャー1は、発汗量が第1位であるバスト下周縁のバージスラインに沿った位置に、メッシュ帯部6を設けて、局部的に通気性を高めているため、夏季や高温条件下でブラジャーを着用した場合の発汗を抑制、防止でき、爽やかな着用感を付与できる。
かつ、バージスラインに沿って細幅のメッシュ帯部6を設けているだけで、バストを保持するカップ部2には通気穴を設けていないため、バストの保形性や造形性が損なわれず、バストとしっかりと保持でき、シャキとした着用感を付与することができる。
また、土台部3およびバック部4はブラジャー1を身体にしっかりと固定するために、身体に比較的強く巻き付けられるため、発汗量が第2位となるが、土台部3の通気抵抗はカップ部2の通気抵抗よりも小さくし、該土台部3よりバック部4の通気抵抗を更に小さくしているため、該バスト下部での締付部分からの発汗も抑制、防止することができる。
【0027】
図3および図4に第2実施形態のブラジャーを示す。
第2実施形態のブラジャー10は、土台部3の左右端を左右脇線ラインまで延在させている点を第1実施形態のブラジャー1と相違させている。
よって、カップ部2(2A、2B)の下縁全長を土台部3の上縁に設けた左右一対の円弧部3b、3cにメッシュ帯部6(6A、6B)を介して連結している。
【0028】
土台部3は、ナイロン75%、ポリウレタン25%のラッセルレースに、ナイロン100%のマーキゼットをラミネートした二重構造としている。メッシュ帯部6およびカップ部2の素材は第1実施形態と同様としている。
該第2実施形態においても、メッシュ帯部6の通気抵抗A<土台部3の通気抵抗B<カップ部2の通気抵抗Cとしている。
他の構成および作用効果は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0029】
図5(A)(B)に第3実施形態を示す。
第3実施形態では、ワイヤーを取り付けずにノンワイヤーのブラジャーとしており、他の構成は第2実施形態と同様としている。
第2実施形態で取り付けていたワイヤーに代えて布テープ17A、17Bを土台布3の上縁のバージスラインに沿った円弧部3b、3cに縫着している。これら左右一対の布テープ17A、17Bは、直線状の布テープを円弧形状に曲げて縫着しているのではなく、図5(B)に示すように、円弧部3b、3cの形状に沿った円弧形状に作成時に賦形したものである。よって、布テープ17A、17Bを土台部3の円弧部3b、3cに無理なく沿わせて縫着することができる。
他の構成は前記第2実施形態と同様とし、同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
本第3実施形態では、カップ部2A、2Bと土台部3との間に幅1センチ以下のメッシュ帯部6A、6Bが介在し、該メッシュ帯部6A、6Bを挟んでカップ部2A、2Bの下縁にテープ9A、9B、土台部3の上縁の布テープ17A、17Bを配置しているため、メッシュ帯部でバージスラインの通気性を確保すると共に、上下のテープでバージスラインが明確になるようにバストを保持でき、ノンワイヤーでありながら補整機能も優れたものとしている。
【0031】
なお、第3実施形態の布テープ17A、17Bにかえて、ワイヤーを挿入していないワイヤーループを取りつけてもよい。
【0032】
本発明は前記実施形態に限定されず、土台部、カップ部の素材は前記素材に限定されない。また、ブラジャー以外のブラスリップ、ボデイスーツ、水着等のカップ部を有する衣類全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ブラジャー
2(2A、2B) カップ部
3 土台部
4(4A、4B) バック部
6(6A、6B) メッシュ帯部
7A、7B ワイヤー
9A、9B テープ
17A、17B 布テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカップ部と土台部とを有し、前記カップ部と土台部の境界に位置するバージスラインに沿った上縁側にメッシュ帯部を設け、該メッシュ帯部を介して前記カップ部と土台部とを連結し、前記メッシュ帯部の通気抵抗A、前記土台部の通気抵抗B、前記カップ部の通気抵抗Cの関係をA<B<Cとし、部位に応じて通気抵抗を変えていることを特徴とするカップ部を有する衣類。
【請求項2】
前記バージスラインに沿って設けるメッシュ帯部は幅が1.0cm以下0.3cm以上である請求項1に記載のカップ部を有する衣類。
【請求項3】
前記メッシュ帯部と土台部との連結部に沿ってワイヤーを取り付けている請求項1または請求項2に記載のカップ部を有する衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−99176(P2011−99176A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254440(P2009−254440)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(306033379)株式会社ワコール (116)
【Fターム(参考)】