説明

カテーテル手術シミュレータ

【課題】 血管等の体腔を再現した立体モデルにおいて、カテーテル手術時の透視手術映像を再現することを目的とする。
【解決手段】 立体モデルに近接する透光性液体に、該立体モデルを浸漬することで実質的に該立体モデルの周囲形状ならびに腔所形状を見えないようにして、この状態を撮像することで、手術時の透視映像を再現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はカテーテル手術シミュレータに関する。
【技術背景】
【0002】
本発明者らは、被検体の血管などの体腔を再現したブロック状の立体モデルを提案している(特許文献1、非特許文献1)。この立体モデルは被検体の断層像データに基づき血管などの体腔モデルを積層造形し、該体腔モデルの周囲を立体モデル成形材料で囲繞して該立体モデル成形材料を硬化させ、その後体腔モデルを除去することにより得られる。
立体モデル成形材料としてシリコーンゴムなどのエラストマー材料を採用することにより、立体モデルの腔所(血管などを再現したもの)へ液体を送り込んだり、またカテーテルを挿入したりしたときの当該腔所の動的変形を観察することができる。
また、膜状の立体モデル(非特許文献2)を提案している。
また、ゲル状の基材で構成した立体モデルを提案している(非特許文献3)
【0003】
【特許文献1】 WO 03/096308
【非特許文献1】 脳血管内腔を再現した手術試行用医療モデル、第20回ロボット学会学術講演会予稿集、2002
【非特許文献2】 脳血管内手術を対象とした生体情報に基づく手術シミュレータに関する研究、ロボティクス・メカトロニクス講演会予稿集、2003
【非特許文献3】 脳血管内腔を再現した手術シミュレーション用立体モデル 第12回日本コンピュータ外科学会大会予稿集,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のモデルによれば、カテーテルや液体の挿入シミュレーションに対して、体腔を再現した腔所部分の動的な変形を目視により直接観察することができる。しかしながえら、実際の手術では、X線などを利用した透視映像を確認しながらカテーテルや液体の挿入が行われるため、目視による観察像は、手術シミュレーションに際して観察される透視像と形態が大きく異なる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記課題を解決するべくなされたものであり、次のように構成される。
少なくとも体腔を再現した腔所の周囲領域が弾性材料で形成され、カテーテルの挿入が可能な透光性の立体モデルの周囲と腔所内部を、当該立体モデルに近い屈折率を有する透光性液体で満たすことによって、該立体モデルの外観形状を実質的に見えないようにして、実際の手術時と同様な透視映像を生成する透視観測装置であって、
立体モデルに近接する屈折率を備えた透光性液体と、
該透光性液体を保持するための容器と、
前記立体モデルを撮像するための撮像装置と、を備え、
前記立体モデルへ挿入されたカテーテルや液体を目視可能とした、ことを特徴とするカテーテル手術シミュレータ。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された立体モデルの透視観測装置によれば、カテーテルや液体の挿入シミュレーションにおいて、立体モデルの周囲形状ならびに腔所形状を実質的に見えないようにでき、実際の手術時に利用される透視撮像像と同様な像を生成することができる。これによって、手術時と同様な透視映像を観察しながらの手術シミュレーションが可能になる。
また、立体モデルの周囲領域に加えられた応力を、光弾性効果を利用して可視化し、その応力情報を、上記の透視映像に付加的にオーバーレイ呈示することもでき、これによって、カテーテル挿入シミュレーションを応力面からも評価可能な環境を構築することが可能になる。
【0007】
ここで、立体モデルの周囲、あるいは腔所領域、あるいはその両方を満たす液体として、グリセリンと水の混合液体を用いることができる。この混合液は、体液(特に血液)と近い粘性と、高い透光性性を備える他、生体にも無害であり、カテーテルや液体の挿入シミュレーションに際して、腔所部分やカテーテルの動的な変形をよりリアルに再現し、鮮明かつ安全に観察することが可能になる。
なお、立体モデルの構成材料として、屈折率が高い材料(屈折率がおよそ1.5以上)を適用する場合には、αモノブロムナフタリンと流動パラフィンの混合液を使用して、立体モデルの屈折率に近い液体を生成することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、発明の各構成要素を詳細に説明する。
(立体モデル形成材料)
立体モデルの腔所領域に挿入したカテーテルや液体の状態を観察するには、立体モデルにおいて、少なくとも内部観察が必要な部位を透光性材料で形成する。
かかる透光性材料として、例えば、シリコーンゴム(シリコーンエラストマー)や熱硬化性のポリウレタンエラストマ等のエラストマの他、シリコーンハイドロゲルやPVAハイドロゲルやゼラチンなどのゲルや、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせて使用することができる。
カテーテルや液体を立体モデルの腔所へ挿入したとき、体腔を再現した腔所領域の変形を再現するためには、少なくとも当該周囲領域が弾性変形可能な材料で形成される必要がある。かかる材料としてゼラチン(動物性かんてん)を挙げることができる。また、植物性かんてんやカラギーナン、ローカストビーンガムのような多糖類のゲル化剤を採用することもできる。
【0009】
(立体モデルの形成方法)
立体モデルにおいて腔所は被検体の断層像データに基づき形成された血管などの体腔を再現したものとすることができる。
ここに、被検体は人体の全体若しくは一部を対象とするが、動物や植物を断層撮像の対象とすることができる。また、死体を除くものではない。
断層像データは積層造形を実行するための基礎となるデータをいう。一般的に、X線CT装置、MRI装置、超音波装置などによって得られた断層撮像データから三次元形状データを構築し、当該三次元形状データを二次元に分解して断層像データとする。
以下、断層像データ生成の一例を説明する。
【0010】
ここでは、体軸方向に平行移動しながら等間隔に撮像することによって得られた複数の二次元画像を入力データ(断層撮像データ)として使用する場合について説明するが、他の撮像方法によって得られた二次元画像、或いは三次元画像を入力画像とする場合でも同様な処理を行うことによって腔所の三次元形状データを得ることができる。入力された各二次元画像は、まず撮像時の撮像間隔に基づいて正確に積層される。次に、各二次元画像上に、画像濃度値に関しての閾値を指定することにより、体腔モデルの対象とする腔所領域のみを各二次元画像中より抽出し、一方で他の領域を積層された二次元画像中より削除する。これにより腔所領域に相当する部分の三次元形状が二次元画像を積層した形で与えられ、この各二次元画像の輪郭線を三次元的に補間し、三次元曲面として再構成することにより対象とする腔所の三次元形状データが生成される。尚、この場合は濃度値に関しての閾値を指定することによって、まず入力画像中より腔所領域の抽出を行ったが、この方法とは別に、腔所表面を与える特定濃度値を指定することによって入力画像中より腔所表面の抽出し、三次元補間することによって直接的に三次元曲面を生成することも可能である。また、閾値指定による領域抽出(或いは特定濃度値指定による表面抽出)を行った後に入力画像の積層を行ってもよい。また、三次元曲面の生成はポリゴン近似によって行ってもよい。
【0011】
尚、前記三次元形状データには、該三次元形状データの生成中、或いは生成後において、形状の修正や変更を施すことが可能である。例えば、断層撮像データ中には存在しない構造を付加することや、サポートと呼ばれる支持構造を付加することや、或いは断層撮像データ中の構造を一部除去することや、腔所の形状を変更することなどが可能であり、これによって、立体モデルの内部に形成される腔所の形状を自由に修正或いは変更することができる。さらには、腔所の内部に非積層造形領域を設けることも可能であり、後に説明する内部を中空の構造とし、非積層造形領域を設けた体腔モデルを作製する場合には、そのような非積層造形領域を腔所の内部に設けた三次元形状データを生成しておく。尚、これらの処理は、積層造形システム、或いは積層造形システムに対応したソフトウェアにおいて行ってもよい。
【0012】
次に、生成した腔所の三次元形状データを、必要に応じて体腔モデルの積層造形に使用する積層造形システムに対応した形式に変換し、使用する積層造形システム、或いは使用する積層造形システムに対応したソフトウェアへと送る。
積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)では、積層造形時の体腔モデルの配置や積層方向などの各種設定項目の設定を行うと同時に、積層造形中における形状保持などの目的で、サポート(支持構造)をサポートが必要な箇所に付加する(必要なければ付加する必要はない)。最後に、このようにして得られた造形用データを積層造形時の造形厚さに基づいてスライスすることによって、積層造形に直接利用されるスライスデータ(断層像データ)を生成する。尚、上記の手順とは逆に、スライスデータの生成を行った後にサポートの付加を行ってもよい。また、スライスデータが使用する積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)によって自動的に生成される場合には、この手順を省略することができる。但し、この場合でも積層造形厚さの設定を行っても良い。サポートの付加についても同様であり、積層造形システム(或いは積層造形システムに対応したソフトウェア)によってサポートが自動的に生成される場合には、手動で生成する必要はない(手動で生成してもよい)。
【0013】
上記の例では、断層撮像データから三次元形状データを構築しているが、データとして最初から三次元形状データが与えられた場合もこれを二次元に分解して次の積層造形工程に用いる断層像データを得ることができる。
【0014】
この発明では血管などの体腔を対象としており、ここに体腔とは諸器官(骨格、筋、循環器、呼吸器、消化器、泌尿生殖器、内分泌器、神経、感覚器など)に存在する腔所、並びに、これらの諸器官や体壁などの幾何学的配置によって構成される腔所を指す。したがって、心臓の内腔、胃の内腔、腸の内腔、子宮の内腔、血管の内腔、尿管の内腔などの諸器官の内腔や、口腔、鼻腔、口峡、中耳腔、体腔、関節腔、囲心腔などが「体腔」に含まれる。
【0015】
上記の断層像データから上記体腔モデルを形成する。
形成の方法は特に限定されるものではないが、積層造形が好ましい。ここに積層造詣とは、断層像データに基づき薄い層を形成し、これを順次繰り返すことにより所望の造形を得ることをいう。
積層造形された体腔モデルは後の工程で分解除去されなければならない。除去を容易にするため、積層造形に用いる材料を低い融点の材料とするか、若しくは溶剤に容易に溶解する材料とすることが好ましい。かかる材料としては低融点の熱硬化性樹脂若しくはワックス等を用いることができる。いわゆる光造形法(積層造形に含まれる)において汎用される光硬化性樹脂においてもその分解が容易であれば、これを用いることができる。
【0016】
前記体腔モデルは、次の工程において立体モデル成形材料で囲繞する際に外部から付加される圧力等の外力に耐え得る強度を有する範囲であれば、その内部を中空構造とし薄肉化することができる。これによって、積層造形に所要される時間や造形に伴うコストが低減されるだけでなく、後の溶出行程において体腔モデルの溶出を簡素化できる。
具体的な積層造形の方式として、例えば粉末焼結方式、溶融樹脂噴出方式、溶融樹脂押出方式等を挙げることができる。
【0017】
尚、積層造形によって作製された体腔モデルには、積層造形の後に、表面研磨や、表面コーティングの付加など各種の加工(除去加工及び付加加工)を加えることが可能であり、これによって体腔モデルの形状を修正或いは変更することが可能である。これらの加工の一環として、体腔モデルの作製にあたって、積層造形後の除去が必要なサポートを付加した場合には、サポートの除去を行っておく。
体腔モデルの表面を他の材料でコーティングすることにより、体腔モデルの材料の一部の成分又は全部の成分が立体モデル成形材料中に拡散することを防止することができる。その他、体腔モデルの表面を物理的に処理(熱処理、高周波処理等)、若しくは化学的に処理することにより、当該拡散を防止することもできる。
【0018】
表面処理することにより体腔モデルの表面の段差を円滑化することが好ましい。これにより、立体モデルの内腔表面が円滑になり、より実際の血管等の体腔内表面を再現できることとなる。表面処理の方法として、体腔モデルの表面を溶剤に接触させること、加熱して表面を溶融すること、コーティングすること及びこれらを併用することが挙げられる。
【0019】
体腔モデルの一部又は全部を立体モデル成形材料で囲繞してこれを硬化する。体腔モデルを除去することにより立体モデルが形成される。
【0020】
(他の立体モデル)
立体モデルを多層構造とすることもできる。即ち、
血管などの体腔を再現した腔所をその内部に有する膜状モデルと、該膜状モデルを囲繞する基材から立体モデルを形成する。
このように構成された立体モデルでは、生体血管の有する膜状構造と血管周囲の軟組織の構造が物理特性も含めて個別に再現される。これにより、柔軟性を有する膜状構造の血管のモデルが、血管周囲組織の粘弾性特性を有する基材に埋設された状態となる。このため、医療器具や流体の挿入シミュレーションに際して、立体モデル内部の膜状構造の血管モデルが基材内で生体内における血管と同様に柔軟に変形することができ、生体血管の変形特性を再現するのに好適なものとなる。
ここに、膜状モデルは、既述の体腔モデルの表面へ膜状モデル成形材料を薄く積層し、これを硬化して得られる。
膜状モデルの成形材料は光弾性効果を示す等方性材料であれば特に限定されず、例えば、シリコーンゴム(シリコーンエラストマ)や熱硬化性のポリウレタンエラストマ等のエラストマの他、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、シリコーンハイドロゲルやPVAハイドロゲルなどのゲルを単独で、或いは複数組み合わせて使用することができる。これらの材料を塗布、吹き付け、若しくはディッピング等の方法で体腔モデルの表面へ薄く積層し、その後周知の方法で加硫若しくは硬化させる。
膜状モデルの対象を脳血管モデルとするときには、透光性でかつ生体組織に近い弾力性及び柔軟性を備える材料を採用することが好ましい。かかる材料としてシリコーンゴムを挙げることができる。また、シリコーンゴムは生体組織と同等の接触特性を有するので、カテーテル等の医療器具を挿入し手術の試行に適したものとなる。
膜状モデル形成材料を複数層から形成することができる。その厚みも任意に設定できる。
【0021】
基材は生体組織に類似した物理特性を有する透光性材料とすることが好ましい。
ここに、生体組織とは膜状モデルが再現した血管等を囲繞する柔軟な組織である。かかる柔軟性(物理特性)を再現する材料として、実施例ではシリコーンゲル及びグリセリンゲルを用いた。ゼラチン、かんてん、多糖類のゲルなどを用いることもできる。なお、ケーシングに気密性を確保できれば高粘度の液体を基材として用いることもできる。
基材の材料としてゲルを用いた場合、物理特性の異なる複数の材料を用いて基材をより生体組織に近づけることができる。
膜状モデルの動的な挙動を観察するため、基材は透光性とすることが好ましい。膜状モデルと基材との境界を明確にするため、膜状モデル若しくは基材の少なくとも一方を着色することができる。また、膜状モデルの動的挙動をより正確に観察できるように、膜状モデルの材料の屈折率と基材の材料の屈折率とを実質的に等しくすることが好ましい。
膜状モデルの全部が当該基材内に埋設される必要はない。即ち、膜状モデル一部は空隙部内に位置していてもよい(図3参照)。また、膜状モデルの一部はソリッド基材(生体組織と非類似の物理特性を有する)内にあってもよい。
基材は弾性を有するものとする。好ましくは、縦弾性係数が2.0kPa〜100kPaの低弾性とする。更に好ましくは、基材は充分な伸びを有する。これにより、膜状モデルが大きく変形しても、膜状モデルから基材が剥離することがない。例えば、無負荷時を1として、膜状モデルに対する接着性を確保した状態で引っ張ったときに基材は無付加時の2〜15倍の伸び率を有することが好ましい。ここで伸び率とは、基材が元に戻ることの出来る最大変形量を指す。また、荷重を加えて変形させた基材から荷重を除去したときに基材が元に戻る速度は比較的緩やかであることが好ましい。例えば、粘弾性パラメータである損失係数tanδ(1Hz時)は0.2〜2.0とすることができる。
これにより、血管等の周囲に存在する組織と同等若しくは近い特性を基材が持ち、膜状モデルの変形がより実際に近い環境で行われることとなる。即ち、カテーテル等の挿入感をリアルに再現可能となる。
基材は膜状モデルに対して密着性を有するものとする。これにより、膜状モデルへカテーテル等を挿入して膜状モデルを変形させも基材と膜状モデルとの間にズレの生じることがない。両者の間にズレが生じると、膜状モデルにかかる応力に変化が生じるので、例えばカテーテルの挿入シミュレーションをする場合に支障をきたし、その挿入時に違和感を生じるおそれがある。
膜状モデルとして脳血管モデルを対象としたとき、基材と膜状モデルとの密着性(接着強度)は1kPa〜20kPaとすることが好ましい。
かかる基材として実施例ではシリコーンゲル及びグリセリンゲルを用いているが、その材質が特に限定されるものではない。なお、ケーシングに気密性を確保できれば高粘度の液体を基材として用いることもできる。これは特に、弾性を有さない生体組織に囲まれる血管を再現した膜状モデルに対する基材として好適である。これら複数種類の流動体を混合し、さらにはこれらへ接着性の薬剤を混合することにより、好適な基材を調製することもできる。
基材の材料としてゲルを用いた場合、物理特性の異なる複数の材料を用いて基材をより生体組織に近づけることができる。
膜状モデルの動的な挙動を観察するため、基材は透光性とすることが好ましい。膜状モデルと基材との境界を明確にするため、膜状モデル若しくは基材の少なくとも一方を着色することができる。また、膜状モデルの動的挙動をより正確に観察できるように、膜状モデルの材料の屈折率と基材の材料の屈折率とを実質的に等しくすることが好ましい。
膜状モデルの全部が当該基材内に埋設される必要はない。即ち、膜状モデル一部は空隙部内に位置していてもよい(図4参照)。また、膜状モデルの一部はソリッド基材(生体組織と非類似の物理特性を有する)内又は流体内にあってもよい。
【0022】
ケーシングは基材を収容するものであり任意の形状をとることができる。膜状モデルの動的挙動を観察できるように全体若しくはその一部が透光性材料で形成される。かかるケーシングは透光性の合成樹脂(アクリル板等)やガラス板で形成することができる。
ケーシングには膜状モデルの腔所に連通する穴が空けられている。この穴からカテーテルを挿入することができる。
立体モデルは全体として透光性であることが好ましい。カテーテルの挿入状態を観察する点からいえば、少なくともその膜状モデルの内部が視認できればよい。
ケーシングと膜状モデルとの間には充分な距離を設ける。これにより、弾性を有する基材に充分なマージン(厚さ)が確保され、カテーテル挿入等により膜状モデルへ外力がかけられたときその外力に応じて膜状モデルは自由に変形できることとなる。なお、このマージンは立体モデルの対象、用途等に応じて任意に選択できるものであるが、例えば膜状モデルの膜厚の10倍〜100倍以上とすることが好ましい。
【0023】
体腔モデルを膜状モデルで被覆した状態の中子をケーシング中にセットし、該ケーシングへ基材材料を注入し、ゲル化する。
その後、体腔モデルを除去すると膜状モデルが基材中に残された状態となる。
体腔モデルの除去の方法は体腔モデルの造形材料に応じて適宜選択され、立体モデルの他の材料に影響の出ない限り、特に限定されない。
体腔モデルを除去する方法として、(a)加熱により溶融する加熱溶融法、(b)溶剤により溶解する溶剤溶解法、(c)加熱による溶融と溶剤による溶解とを併用するハイブリッド法等を採用することができる。これらの方法により体腔モデルを選択的に流動化し、立体モデルの外部へ溶出してこれを除去する。
【0024】
体腔モデルの材料の成分の一部が膜状モデルの内部へと拡散し、膜状モデルに曇りが生じて、その視認性が低下するおそれがある。この曇りを除去するため、体腔モデルを除去した後に試料を再度加熱することが好ましい。この加熱は体腔モデル除去の途中で実行することもできる。
【0025】
立体モデルは、また、次のようにして形成することもできる。
体腔モデルを中子としてゲル状の基材へ埋設し、当該体腔モデルを除去する。これにより、基材中に体腔を再現した腔所が形成される。その後、腔所の周壁へ膜状モデルの形成材料を付着させ重合若しくは加硫等により硬化する。膜状モデル形成材料を基材の腔所へ流すこと、若しくは基材を膜状モデル形成材料にディッピングすることにより、膜状モデル形成材料を基材の体腔周壁へ付着させることができる。
【0026】
また、当該腔所の周壁へ膜状モデル形成材料を付着する代わりに当該腔所の周壁を親水化処理することができる。これにより、立体モデルの腔所へ水若しくは水溶液を充填したとき周壁に水膜が形成され、カテーテルの挿入抵抗が緩和される。即ち、この水膜が膜状モデルに対応することとなる。
当該腔所の周壁を疎水化処理(親油化処理)した場合も同様に、腔所へ油を充填したとき周壁に油膜が形成され、カテーテルの挿入抵抗が緩和される。即ち、この油膜が膜状モデルに対応する。
【0027】
腔所の周壁は周知の方法で親水化若しくは疎水化される。例えば基材としてシリコーンゲルを採用した場合、界面活性剤等の極性基を有する膜を当該周壁に形成することによりその腔所の周壁を親水化することができる。同様に、オイルやワックス等の油性膜を腔所の周壁に形成することによりその腔所の周壁を疎水化することができる。
【0028】
体腔モデルの基体をシリコーンゴム等の透光性ゲル材料で形成し、体腔部の周壁を当該ゲル材料より光弾性係数の高い材料で全体的に若しくは部分的に被覆することができる。光弾性係数の高い材料を基材内へ埋設することもできる。高い光弾性係数を有する材料により光弾性効果が強調されることとなる。なお、光弾性係数の高い材料としてエポキシ樹脂などを挙げることができる。エポキシ樹脂の薄膜はカテーテルの挿入によって容易に変形するので、これを用いることにより光弾性効果を明確に観察することができる。
【0029】
ケーシングは基材を収容するものであり任意の形状をとることができる。膜状モデルの動的挙動を観察できるように全体若しくはその一部が透光性材抖で形成される。かかるケーシングは透光性の合成樹脂(アクリル板等)やガラス板で形成することができる。
ケーシングには膜状モデルの腔所に連通する穴が空けられている。この穴からカテーテルを挿入することができる。
立体モデルは全体として透光性であることが好ましい。カテーテルの挿入状態を観察する点からいえば、少なくともその膜状モデルの内部が視認できればよい。
【0030】
(透視撮像)
カテーテル血管内治療法などの手術法においては、手術領域をX線の照射などにより透視撮像することによって身体内をリアルタイムで撮像し、これによって、術野を観察しながらカテーテルや液体を体腔内に挿入して治療を行う。透視撮像では、骨や臓器や体腔などの3次元的な身体構造が、2次元のモノクロ画像(映像)としてオペレータに呈示されるため、術野領域の3次元形状や大きさを直接知るすることができない。
このような透視映像を確認しながら手術を行うことが、低侵襲手術のひとつであるカテーテル手術の大きな特徴である。すなわち、開腹手術や開頭手術のように身体を切り開く手術法とは異なり、患部領域を直接目視できない、また患部領域を直接触れることができないため、患者に対する侵襲は最小限に抑えられるが、手術を実施するオペレータにとっては、治療遂行する上で大きな困難が伴う。
したがって、本発明の構成要素である立体モデルの腔所内部にカテーテルや液体を挿入して手術シミュレーションを実施する場合に、目視によって直接的に立体モデルを観察したのでは、本手術に伴う極めて肝要な部分の再現を欠損しており、シミュレーション環境として不十分である。
【0031】
本発明の立体モデルは透光性材料で構成される(支持構造やその他附帯構造を除く)。従って、該立体モデルの構成材料と同一の屈折率を備えた透光性液体を用意し、該透光性液体にこの立体モデルを浸漬することによって、該立体モデルの周囲形状ならびに腔所形状を実質的に見えなくすることができる。そして、この状態の像を撮像装置により撮像して、ディスプレイ等の表示装置に投影することによって、手術時の透視映像に近い像を得ることができる。
係る透光性液体としては、水とグリセリンの混合液体や、αモノブロムナフタリンと流動パラフィンの混合液体などを利用できる。
【0032】
ここで、実際の身体では、体腔内部に存在する体液(血液など)のX線透過率と、体腔の周囲に存在する組織のX線透過率が近接する場合が多いため、単にX線撮像を行ったのみでは、体腔領域の形状を撮像(可視化)することはできない。また反対に、このようなX線透視映像には、体腔領域以外の非関心領域、例えば骨や臓器などが多数撮像(可視化)されている。
このように、単純に透視撮像を行ったのみでは、関心領域である体腔領域が撮像されず、非関心領域ばかりが撮像された像、すなわち手術を実行する上で大変見にくい像しか得られない。この問題を解消するために、カテーテル手術では、体腔領域を選択的かつ明瞭に撮像するためのテクニック、一例として、差分撮像法(DSA法)やロードマップ法が存在する。
従って、本発明の立体モデルを利用して、これらの撮影テクニックにより得られる透視手術映像を再現することで、立体モデルを目視により観察する場合と比較して、リアリティの高い手術シミュレーション環境を構築することができる。
以下、これらの撮影テクニックを再現するための本発明の内容について詳述する。
【0033】
上記の差分撮像法(DSA法)は、カテーテルや造影剤(体腔領域を可視化するための薬剤)を体腔内に挿入する前後でそれぞれ透視撮像を実施して2つの透視画像を取得し、その後、各透視画像について差分演算(引き算演算)を実行することによって、これら2つの透視画像間で変化が合った部分、すなわちカテーテルが挿入された部分や腔所の造影が行われた部分を選択的に可視化し、画像化する方法である。これによって、骨や周辺臓器などの非関心領域を画像中から排除し、関心領域であるカテーテルや体腔領域を選択的に可視化した、手術に集中するのに好適な画像を生成することができる。
【0034】
本発明では、以下の方法により、この差分撮像法を再現する。
すなわち、立体モデル1001の周囲の全てあるいは一部と、該立体モデルの腔所領域XXを、該立体モデルと同一の(あるいはそれに近接する)屈折率を備えた透光性液体で満たすことによって、該立体モデルの周囲形状と腔所領域の形状を実質的に見えないようにした後、この状態の像を撮像装置により取得して、第1の透視画像を得る。
次に、該立体モデルの内部にカテーテルや染料を挿入し、上記撮像装置によって、第一の透視画像と同じ視点から再度撮像を行って第2の透視画像を得る。
最後に、得られた上記第1の画像と上記第2の画像について差分演算処理を実施することで、2つの画像間で変化があった領域、すなわちカテーテルや染料が挿入された領域だけを選択的に可視化して、他領域を除去でき、実際の手術時と同様な差分像を得ることができる。
その後、カテーテル挿入シミュレーションの進行とともに、上記第2の像を更新して、上記第1の画像との差分演算処理をリアルタイムで実行することで、関心領域、すなわちカテーテルや染料による可視化領域だけが選択的に可視化された映像(画像ではなく映像)を得ることができる。このような映像は、実際の手術中に得られる差分映像(DSA像)を良好に再現する。
【0035】
一方、ロードマップ法は、造影剤の注入によって体腔領域の形状を瞬間的に可視化し、得られた画像を、その後の手術映像にオーバーレイ表示することによって、体腔領域の位置や形状を確認しながら、カテーテル操作を行うためのテクニックである。ここで、造影剤を瞬間的にのみ注入するのは、造影剤の副作用に起因している。すなわち、術中に常時造影剤を投与することができない制約に基づいている。
【0036】
本発明では、以下の方法によって、このロードマップ法を再現する。
すなわち、先の差分法と同様に、立体モデル1002の周囲の全てあるいは一部と、該立体モデルの腔所領域を、該立体モデルと同一の(あるいはそれに近接する)屈折率を備えた透光性液体で満たすことによって、該立体モデルの周囲形状と腔所領域の形状を実質的に見えないようにした後、この状態の像を撮像装置により取得して、第1の透視画像を得る。
次に、造影剤に見立てた染料を立体モデル1001の腔所領域に注入した後に、第1の透視画像と同じ視点から上記撮像装置により撮像を行って、第2の透視画像を得る。
そして、このようにして得た第1の画像と第2の画像間で差分演算処理を実施することにより、画像間で変化があった領域、すなわち、染料が注入された腔所領域XXを選択的に可視化した第3の像を生成する。この第3の像をモノクロ階調化し、場合によっては階調の反転処理を実施することによってロードマップ像を生成する。
このロードマップ像を、撮像装置によって得られるその後の撮影像(手術映像)にオーバーレイ表示することによって、実際の手術時と同様なロードマップ映像を得る。
尚、より厳密にロードマップ法を再現するためには、上記の方法によってロードマップ画像を得た後に、[0055]にて詳述した差分処理を実施することで、カテーテルだけが選択的に可視化された差分映像を生成し、当該映像に上記のロードマップ画像をオーバーレイ表示する。これによって、より現実に即した手術映像(ロードマップ映像)を得ることができる。
【0037】
(光弾性効果)
光弾性効果とは、透光性材料において内部応力が生じると、一時的に複屈折性をおび、最大主応力と最小主応力の方向で屈折率が異なるため、入射光が2つの平面偏光に分かれて進むことをいう。当該2つの波の位相差により干渉縞が生じ、この干渉縞を観察することにより透光材材料の内部応力の状態を知ることができる。
この光弾性効果を生じさせるには、図1に示すように、光源からの光を第1の偏光板(偏光フィルタ)に通して偏光させ、立体モデルにこの直線偏光を通す。立体モデルにおいて内部応力が生じていると内部応力に強さに応じて複屈折が生じ、最大主応力(acosφsinωt)と最小主応力(acosφsin(ωt−A))が生成する。これらの光は速度が異なるため位相差を生じ、第2の偏光板(偏光フィルタ)を通して観察すると、干渉縞が現れる。なお、この第2の偏光板の偏光方向は第1の偏光板の変更方向と実質的に直交している。
一対の偏光板に間に立体モデルを介在させ、立体モデルを透過する光に生じる光弾性効果を観察する方法として、直交ニコル法、平行ニコル法、鋭敏色法等が知られている。また、偏光板と立体モデルとの間に一対の1/4波長板(1/4波長フィルタ)を介在させることにより光弾性効果を検出する方法として、円偏光法やセナルモン法等が知られている。
【0038】
このように、光弾性効果を用いることのより、立体モデルの腔所へカテーテルを挿入したときの腔所の周囲領域の応力変化を観察することが可能となる。しかしながら、カテーテル自体は何ら光弾性効果を生じさせないので、周囲領域の応力変化にともなう光弾性効果とともにその位置及び状態を観察することができなかった。
そこでこの発明では、光源側の第1の偏光フィルタと観察者側の第2の変更フィルタとの中へ位相シフトフィルタを介在させることにより、カテーテル自体の位置及び状態を観察可能とした。即ち、位相シフトフィルタを存在させることにより、第1の偏光フィルタを透過した光の一部が第2の偏光フィルタを透過し、バックグランド光を構成する。ここに、立体モデル中にカテーテルが存在すると、それが影となって現れてその位置、状態及び動作が観察される。即ち、カテーテルとカテーテルにより生じた光弾性効果を同時に観察可能となる。
【0039】
位相シフトフィルタとしては、第1の偏光フィルタを透過した光を1波長若しくは2波長シフトさせるものを用いることができる。光弾性効果の感度が向上するからである。
この発明では、観察者側の第2の偏光フィルタからバックグランド光を取り出すことができれば、複数枚の波長シフトフィルタを用いてもよい。なお、円偏光法やセナルモン法等においては1/4波長板が用いられているが、これらの方法においてはバックグランド光を第2の変更フィルタから取り出すことができないので、カテーテルの観察は不可能である。
【0040】
以上の方法により観察される光弾性効果を、[0054]以降で詳述した方法により得られる擬似的な透視再現映像上にオーバーレイ表示することによって、実際の手術に即した透視映像に、さらにカテーテル挿入時の立体モデル周囲の応力情報を付与することができる。これによって、現実に即した透視映像を確認しながらカテーテル挿入シミュレーションを行いつつ、かつそのシミュレーション過程を応力面からも評価できる効果的な手術シミュレーション環境を構築できる。
手術時に体腔の周囲壁面にかかる応力が一定値を越えた場合に組織も損傷を生じる。本発明によれば、オペレータは、立体モデルにかかっている応力の強さを確認しながら、手術シミュレーションをリアルタイムでかつ直感的に把握できるため、術中の危険を効果的に学習することなどが可能となる。
【実施例】
【0041】
(第1実施例)
立体モデル化の対象とする脳血管及び患部である脳動脈の形状に関する三次元データを得るため、撮像領域の血管内部へ造影剤を投与しながら、患者の頭部に対して、0.35×0.35×0.5mmの空間分解能を持つヘリカルスキャン方式のX線CT装置により撮像を行った。撮像により得られた三次元データは、3次元CADソフトへの受け渡しのため、体軸方向に等間隔に配列された500枚の512×512の解像度をもつ256階調の二次元画像(断層撮像データ)に再構成した後、各二次元画像に対応する画像データを撮像方向に一致する順序で前記X線CT装置に内蔵されたドライブにより5.25インチ光磁気ディスクへ保存した。
【0042】
次に、パーソナルコンピュータに外部接続した5.25インチ光磁気ドライブによって、前記画像データをコンピュータ内部の記憶装置へ取り込み、この画像データから、市販の三次元CADソフトを利用して、積層造形に必要とされるSTL形式(三次元曲面を三角形パッチの集合体として表現する形式)の三次元形状データを生成した。この変換では、入力された二次元画像を撮像間隔に基づいて積層することによって、濃度値をスカラー量とする三次元のスカラー場を構築し、そのスカラー場上に血管内表面を与える特定の濃度値を指定することによって、アイソサーフェス(特定スカラー値の境界面)として血管内腔の三次元形状データを構築した後、構築されたアイソサーフェスに対して三角形ポリゴン近似のレンダリングが行われる。
なお、この段階で、三次元形状データに付加データを加え、体腔モデル22(図2参照)の端部からガイド部13を膨出させた(図3参照)。このガイド部13は中空柱状の部材である。中空部31を備えることにより、積層造形時間の短縮を図っている。このガイド部13の先端は拡径されており、この部分が立体モデル表面に表出して、大径な開口部15(図1参照)を形成することとなる。
【0043】
生成したSTL形式の三次元形状データを、次に溶融樹脂噴出方式の積層造形システムへと転送し、造形システム内でのモデルの配置や積層方向、積層厚さを決定すると同時にモデルに対してサポートを付加した。
このようにして生成された積層造形用のデータをコンピュータ上で所定の積層造形厚さ(13μm)にスライスして多数のスライスデータを生成した。そして、このようにして得られた各スライスデータに基づいて、p−トルエンスルホンアミドとp−エチルベンゼンスルホンアミドを主成分とした造形材料(融点:約100度、アセトンに容易に溶解)を加熱により溶融して噴出することにより、各スライスデータに一致する形状を有する指定厚さの樹脂硬化層を一面ずつ積層形成することよって積層造形を行った。最終層の形成の後にサポートを除去することによって、脳血管内腔領域の積層造形モデル(体腔モデル22)を作成した。
更に、この体腔モデル22の表面を処理して円滑にする。
【0044】
この体腔モデル12の全表面へシリコーンゴム層12をほぼ1mmの厚さに形成した(図1参照)。このシリコーンゴム層12は、体腔モデル22をシリコーンゴム槽へディッピングし取出した体腔モデルを回転させながら乾燥させることにより得られる。このシリコーンゴム層が膜状モデルとなる。
この実施例では、体腔モデル22の全表面をシリコーンゴム層12で被覆したが、体腔モデル22の所望の部分を部分的にシリコーンゴム層12で被覆することも可能である。
【0045】
体腔モデルをシリコーンゴム層からなる膜状モデルで被覆してなる中子を直方体のケーシングにセットする。このケーシングは透光性なアクリル板からなる。ケーシング内に基材の材料を注入して、これをゲル化する。
基材の材料として、2液混合型のシリコーンゲルを用いた。このシリコーンゲルは透光性かつ弾性を有しており、かつ血管周囲の軟組織に極めて近い物理特性を有している。縮合重合型のシリコーンゲルを用いることもできる。このように基材は、透光性、弾性を備えるとともに、膜状モデルに対する密着性を備えるものとする。
【0046】
基材22の材料の物理特性は、膜状モデルの対象である血管等の周囲の組織の物理特性に適合するように、調整される。
なお、この実施例では針入度、流動性、粘着性、応力緩和性などを指標にして、最終的にはオペレータの手触り(カテーテルの挿入感覚)によりその物理特性を生体組織に近づけるようにしている。
シリコーンゲルの場合、そのポリマーの骨格を調製することはもとより、シリコーンオイルを配合することにより当該物理特性を調整することができる。
【0047】
シリコーンゲルの外に、グリセリンゲルを用いることもできる。このグリセリンゲルは次のようにして得られる。即ち、ゼラチンを水に浸漬して、これにグリセリンと石炭酸を加え、加熱溶解する。温度が高い間に濾過し、中子に影響の出ない温度になったらケーシング内に注入し、放冷する。
【0048】
その後、中子11内の体腔モデルを除去する。除去の方法としてハイブリット法を採用した。即ち、試料を加熱して開口部から体腔モデルの材料を外部へ流出させ、更に、空洞部へアセトンを注入して体腔モデルの材料を溶解除去する。
その後、試料を120℃に設定された恒温層内で約1時間加熱して、膜状モデル(シリコーンゴム層15)の曇りをとった。
【0049】
このようにして得られた立体モデルは、図5に示すように、シリコーンゲルからなる基材22中に膜状モデル15が埋設された構成となる。シリコーンゲルが生体組織に近い物理特性を有するので、膜状モデルは血管と同等の動的挙動を示こととなる。
【0050】
他の実施形態の立体モデルとして、上記立体モデルから膜状モデルを省略したものを挙げることができる。
【0051】
図6はこの発明の実施例のカテーテル手術シミュレータ1000の構成を示す。
この実施例のカテーテル手術シミュレータ1001は、容器1003、本発明の立体モデル1002と近い屈折率を備えた透光性液体1001、撮像装置1004から大略構成される。
透光性液体1001には、グリセリンと水の混合液体を利用することができる。その他、αモノブロムナフタリンと流動パラフィンの混合液体などを利用することもできる。いずれの場合でも、各液体の混合比率を、結果として得られる混合液体の屈折率が立体モデルに近似するように調整する必要がある。
前記容器1003の内部あるいは一部を透光性液体1001で満たし、さらに該透光性液体1001中に、立体モデル1002の周囲領域の一部あるいは全てを浸すことによって、該立体モデルの周囲形状を実質的に見えないようにすることができる。この状態にある前記立体モデルを、撮像装置1004により撮像することによって、実際の手術中に利用される透視映像に近い像を得ることができる。
【0052】
この実施例では、容器1003の外部に撮像装置1004を配置したが、撮像装置1004のレンズ部分が容器1003の内部に含まれるように配置することも可能である。容器1003の表面において光が乱反射するので、このように配置することによって、透視映像の質を高めることができる場合があるからである。
さらに、撮像装置のレンズ部分に防水処理を施して、同レンズ部分を、容器1003の内部の透光性液体1001に浸るように配置することも可能である。容器1003の表面や立体モデル1002の表面で光が乱反射するので、このように配置することによって、透視映像の質をさらに高めることができる場合があるからである。
【0053】
受光部1008は、CCD等からなる撮像装置1004と当該撮像装置1004で撮像した疑似的な透視画像を処理する画像合成装置1005、ならびに画像合成部1005の合成結果を出力するディスプレイ1006およびプリンタ1007を備えてなる。
画像合成装置1005では、手術シミュレーションの進行に応じて以下記載の3種類の処理を実施した(図X参照)。これらの各処理によれば、手術時の透視映像を良好に再現でき、この再現映像を確認しながらカテーテル手術シミュレーションを行うことで、立体モデル1002を目視により直接観察する場合と比較して、大変リアルな手術シミュレーションが可能であった
【0054】
第1番目の処理は、手術中に得られる通常状態の透視像を再現するための処理である。
この処理では、立体モデル1002の周囲の全てあるいは一部を、透光性液体1001で浸した状態の画像を取り込み(ステップ1−1)、モノクロ階調化を行った(ステップ1−2)。ここで、モノクロ階調化には、白と黒とその中間色の組み合わせ用いたが、他に、赤と青とその中間色の組み合わせなど他の色彩を使用することもできるし、モノクロ階調像に他の色彩や文字などを含ませるなどして、画像中の特定領域を強調表示してもよい。但し、いずれの場合でも、実際の透視映像が色調を再現することが好ましい。
【0055】
第2番目の処理は、実際の手術で利用される差分像(非関心領域を画像処理によって消失させた像)を再現するための処理である。 この処理では、立体モデル1002の周囲の全てあるいは一部を、透光性液体1001で浸した状態の画像をバックグランド画像として取り込み(ステップ2−1)、カテーテルや液体を挿入した後、再び同じ視点から画像を取り込む(ステップ2−2)。そして、これら各画像間で差分演算(引き算演算)を実施することによって、これら画像間で変化があった領域のみを選択的に可視化し、他の領域を画像中から除去する(ステップ2−3)。最後にモノクロ階調化を行う(ステップ2−4)ことによって、手術時と同様な差分画像を構築した。そして、ステップ2−2からステップ2−4を連続的に撮像し、得られた各像と、ステップ2−1で得られたバックグランド画像とをリアルタイムに差分処理することによって、手術時と同様な差分透視映像を得た。
以下、上記第2の方法の具体的な使用例を説明する。一例として、立体モデルの内部にカテーテルを挿入する事前に前記のバックグラウンド画像を得ておいて、カテーテルを挿入した後に、残りの処理(ステップ2−2からステップ2−4)を反復して連続実行することで、カテーテルだけを選択的に可視化した差分透視映像を得た。これにより、カテーテルの操作に集中して手術シミュレーションを行うことが可能であった。
他の例としては、内腔部分を透光性液体1001で満たすことで、該内腔部分が実質的に見えない状態の画像をバックグラウンド画像として得ておいて、染料を該内腔部分に注入した後に、残りの処理(ステップ2−2からステップ2−4)を実行することで、内腔部分だけを選択的に可視化した透視像を得た。これによって、手術時と同様なDSA(Digital Subtraction Angiography)像を再現した。
なお、ここでは最後にモノクロ階調化処理を行ったが、ステップ2−1とステップ2−2で得られたそれぞれの画像についてモノクロ階調化処理を行った後に、ステップ2−3を実施することもできる。
また、カテーテル手術シミュレーションの途中で撮像装置の視点を移動した場合には、ステップ2−1から処理を再実行実施して、差分映像を再構築した。
【0056】
第3番目の処理は、実際の手術で利用されるロードマップ像(特定時点の血管像を術野映像にオーバーレイ表示した映像)を再現するための方法である。実際の手術では、造影剤を注入しない場合には、体腔領域は透視映像上に可視化されないため、その位置や形状を知ることができない。このため、体腔内に造影剤を注入することによって同領域を可視化し、ロードマップ像と呼ばれる画像を生成する。このロードマップ画像をその後の手術映像上にオーバーレイ表示することで、体腔の位置や形状を確認しながらカテーテルの操作を行える映像を生成する。
本発明の第3の処理では、立体モデル1002の周囲(の一部あるいは全て)と、立体モデル1002の腔所部分(の一部あるいは全て)の双方を透光性液体1001で満たして、立体モデル1002の周囲形状と腔所形状の両方を実質的に見えないようにする。この状態の像をバックグランド画像として取り込む(ステップ3−1)、次に、該腔所領域(の一部あるいは全て)に染料を注入することによって当該腔所部分を可視化し、ステップ3−1と同一の視点から画像を取得する(ステップ3−2)。そして、これら各画像間で差分演算(引き算演算)を実施することによって、立体モデルの腔所部分だけが選択的に可視化された画像を生成する(ステップ3−3)。この画像をモノクロ階調化することによって(階調の反転処理を併せて実施しても良い)、ロードマップ像を生成した(ステップ3−4)。このロードマップ像を、[0054]前記の第1番目の処理により得られた透視映像、あるいは、[0055]前記の第2番目の処理により得られた差分映像にオーバーレイ表示することで(ステップ3−5)、実際の手術時と同様なロードマップ映像を再現した。このロードマップ映像を利用して、特定の瞬間における腔所の位置を視認しながら、カテーテルの挿入シミュレーションを実施した。
尚、手術シミュレーションの途中で撮像装置の視点を移動した場合には、ステップ3−1から処理を再実行実施して、ロードマップ映像を再構築した。
【0057】
図7には他の実施例のカテーテル手術シミュレータ60を示す。
この実施例のカテーテル手術シミュレータ60は、光源61、一対の偏光板62及び63、1波長板68、図1にも示した立体モデル1002、該立体モデルと同一の屈折率を備えた透光性液体1001、該透光性液体を保持する容器1003、撮像装置71を含む受光部70から大略構成される。
光源61には白色光源を用いることが好ましい。太陽光を光源として用いることもできる。また、単色光源を用いることも可能である。第1の偏光板62及び63は相互に直交した偏光方向を有する。これにより、立体モデル21の内部応力に起因する光弾性効果を第2の偏光板63側において観察することができる。1対の偏光板62及び63の間に1波長板68を介在させることにより、波長530nm近傍の光がバックグランド光として第2の偏光板63を透過するカテーテルのような非透光性部材が影として観察される。なお、1波長板68に代表される波長シフトフィルタは第1の偏光板62と立体モデル21との間に介在させてもよい。
立体モデル21の腔所へカテーテルを挿入したとき、カテーテルと腔所の周壁とが干渉すると、当該腔所周壁に応力が生じそこに光弾性効果(干渉縞)が現れる。また、コイル塞栓時の動脈瘤の変形に伴う当該動脈瘤周囲領域の応力状態も光弾性効果からシミュレートすることができる。
【0058】
この実施例では光源61、第1の偏光板62、立体モデル21及び第2の偏光板63を直線上に配置させたが、第2の偏光板63を偏移して(即ち、直線上からずらして)配置することができる。立体モデル21の腔所において光が乱反射するので、腔所の形状においては第2の偏光板63を偏移して配置したほうが、光弾性効果をより鮮明に観察できる場合があるからである。
【0059】
受光部70は、CCD等からなる撮像装置71と当該撮像装置71で撮像した光弾性効果の画像を処理する画像処理装置70、並びに画像処理部70の処理結果を出力するディスプレイ75及びプリンタ77を備えてなる。
画像処理装置73では次のような処理が行われる。
まず、立体モデル1002へ何ら外力を加えていない初期状態の画像をバックグラウンド画像として取り込む(ステップ1)。ここで、立体モデル1002が高い光弾性係数の材料で形成されている場合には、自重で光弾性効果を生じている場合がある。このため、光源61から光を照射し、更に外力を加えたとき(例えばカテーテルを挿入したとき)の光弾性効果による干渉縞画像を取り込んだ後(ステップ3)、これからバックグランド画像を差分処理する(ステップ5)することによって、自重による光弾性効果を取り除く。
【0060】
次に、立体モデル21が高い光弾性係数の材料で形成されている場合には、内部応力の如何によっては細かい干渉縞が繰返しパターンで現れ、応力の認識が煩雑となる。このため、画像処理装置73は単位面積あたりの当該パターンの数をカウントすることによって、当該内部応力を数値化する(ステップ7)。
【0061】
次に、第2の偏光板63を介して得られる画像に対して[0054]以降に記載した3つの画像処理法を適用することで、手術時の透視映像を再現し、この透視映像の内、内部応力の生じた部分に当該数値に対応した色をオーバーレイ表示する(ステップ9)。これによって、カテーテルの挿入シミュレーションに際して、実際と同様な手術映像を確認しながら、術中の状態を応力面からも認識できる環境を構築した。
この実施例では受光部70により観察される干渉縞を画像処理した後に、前記の透視映像にオーバーレイ表示しているが、画像処理を実施することなく、撮像装置71により得られた応力可視化像を上記の透視映像上に直接オーバーレイ表示することも有用である。
【0062】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】 図1はこの発明の実施例の立体モデルを示す。
【図2】 図2は実施例の中子を示す斜視図である。
【図3】 図3はガイド部を示す斜視図である。
【図4】 図4は他の実施例の立体モデルを示す。
【図5】 図5は他の実施例の立体モデルを示す。
【図6】 図6はこの発明の実施例のカテーテル手術シミュレータの構成を示す模式図である。
【図7】 図7は他の発明の実施例のカテーテル手術シミュレータの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
13 中子
22 体腔モデル
12 シリコーンゴム層(膜状モデル)
11 立体モデル
1000、60 カテーテル手術シミュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも体腔を再現した腔所の周囲領域が弾性材料で形成され、カテーテルの挿入が可能な透光性の立体モデルを利用して、透視像を生成するカテーテル手術シミュレータであって、
前記の立体モデルと、
該立体モデルに近似する屈折率を備えた透光性液体と、
該透光性液体を保持するための容器と、
前記立体モデルを観察するための撮像装置と、を備え、
前記立体モデルへ挿入されたカテーテルを透視撮影できる、ことを特徴とするカテーテル手術シミュレータ。
【請求項2】
前記透光性液体は、グリセリンと水の混合液体であることを特徴とする請求項1記載のカテーテル手術シミュレータ。
【請求項3】
少なくとも体腔を再現した腔所の周囲領域が弾性材料で形成され、カテーテルの挿入が可能な透光性の立体モデルを利用して、透視像を生成する請求項1記載のカテーテル手術シミュレータであって、
偏光フィルタと
該偏光フィルタの内側に配置される位相シフトフィルタと、をさらに備え
前記立体モデルへ挿入されたカテーテルを透視撮影できるとともに、該立体モデルの腔所の周囲領域を通過する光に生じた光弾性効果を検出する手段を備える、ことを特徴とするカテーテル手術シミュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−70847(P2008−70847A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279272(P2006−279272)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(502213612)
【Fターム(参考)】