説明

カバーを有する横編機

【課題】 必要な部品点数を削減し、簡単な構成で円滑な開閉が可能となるカバーを有する横編機を提供する。
【解決手段】 前面カバー2は、上縁側をホルダー20によって保持される。上面走行体30は、前端付近に走行軸31を備える。走行軸31には、紙面に垂直な方向となる中心軸線方向の両側に、歯車部32aおよび走行ローラ部32bを一体化した走行輪32が固定される。上面走行体30の後端付近にも、走行ローラ33が設けられ、支持レール10で前後に走行可能な状態で支持される。支持レール10には、歯車部32aの歯と噛合する刻みも設けられる。走行軸31には、ホルダー20も、旋回変位が可能な状態で支持される。ホルダー20と上面走行体30との連結に蝶番構造となる部品を用いる必要はなく、部品点数を削減し、簡単な構成で円滑な開閉が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針床や糸道レールを少なくとも前面から覆う閉状態と、前面を開放する開状態とを切換え可能な、カバーを有する横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、針床、針床に沿って往復走行するキャリッジ、針床の上方に架設される糸道レール、糸道レールに沿って移動するヤーンキャリア、などの主要部分の少なくとも前面側を、カバーで覆う状態で、編地の編成を可能にしている。主要部分をカバーで覆うことで、作業者の身体が可動部分に触れないようにして安全性を確保し、異物の侵入や塵埃の飛散を防止し、騒音の低減を図ることができる(たとえば、特許文献1参照)。カバーは透明であり、閉じている状態でも横編機の動作状態を監視することはできる。ただし、メンテナンス作業の必要時などには、少なくとも横編機の前面側はカバーを除く必要がある。特許文献1には、前面を覆うカバーの上縁を、上面の前縁付近で旋回自在に支持し、前面を覆うカバーを開くと、支持する部分を後退させてカバーを上面に収納することが可能な、カバーを有する横編機の構成が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示される構成では、横編機の上部に、前後方向に延びるようにガイドレールを設け、カバー支持部をガイドレールに沿って走行可能に支持する。カバー支持部は、幅方向にわたって延びるベースを有し、ベースの両側端付近には、前方に延びる二本のカバー支持腕がそれぞれ固定される。カバー支持腕の前端には、ブロックを取付け、ブロックに支持される軸で、カバーの上縁を保持するカバー取付部材を、揺動自在に支持する。ブロックおよび軸は、カバー取付部材に対して旋回支持を行う蝶番構造を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−51575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で、ベースやカバー支持腕を含むカバー支持部は、ガイドレールに沿って上面を前後に往復走行する、上面走行体と考えることができる。このような、上面走行体の前縁に蝶番構造で旋回支持する開閉式のカバーを有する横編機では、幅方向の複数箇所で蝶番構造をそれぞれ形成するための専用部品が必要となり、部品点数が増えて、製造原価が上昇する。
【0006】
本発明の目的は、必要な部品点数を削減し、簡単な構成で円滑な開閉が可能となるカバーを有する横編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、閉状態で横編機の前面を覆う前面カバーと上面の前端まで進出する上面走行体とを備え、
上面走行体の前端側に前面カバーの上端側が旋回自在に連結されており、
開状態では上面走行体が後退して前面カバーを上面に引込み可能な、
カバーを有する横編機において、
上面走行体の前端付近で回転自在に支持され、横編機の幅方向に延びる走行軸と、
走行軸に、間隔をあけて取付けられる二つの走行輪と、
横編機の上部で、二つの支走行輪の間隔に対応する間隔をあけて、少なくとも前端が閉状態で走行輪が前進する位置、後端が開状態で走行輪が後退する位置までの間に延びて並設され、走行輪を介して、上面走行体を前後方向に走行可能に支持する二つの支持レールと、
前面カバーの上端側を保持し、走行軸で旋回可能に支持されるホルダーとを、
含むことを特徴とするカバーを有する横編機である。
【0008】
また本発明で、前記二つの支持レールには、前記前後方向に、一定のピッチで刻みが形成されており、
前記走行輪の外周は、支持レールの刻みに合う歯を有する、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明で、前記ホルダーは、前記閉状態で、前記上面走行体の前端部分の上を覆い、前記開状態で先端が前記前面カバーが開く際のストッパとなる上面部を有する、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記支持レールの前端側には、前記閉状態で上面の前端まで進出する上面走行体の走行軸よりも前方かつ上方となるように張出す位置に、ローラが設けられ、
ローラは、
前記閉状態と閉状態から前記開状態への移行時に、前記ホルダーを下方から支持し、
開状態で前記前面カバーを上面に引込む際には、前面カバーを下方から支持する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、閉状態で、上面走行体は横編機の上面の前端まで進出可能であり、上面走行体の前端側に前面カバーの上端側が連結されて、横編機の前面を覆う。上面走行体は、前端付近で回転自在に支持される走行軸に、間隔をあけて取付けられる二つの走行輪が二つの支持レールで走行可能に支持される。前面カバーの上端側を保持するホルダーは、走行軸で旋回変位可能に支持されるので、ホルダーと上面走行体との連結に蝶番構造となる部品を用いる必要はなく、部品点数を削減し、簡単な構成で円滑な開閉が可能となる。
【0012】
また本発明によれば、二本の支持レールには一定のピッチで刻みが形成されている。走行輪の外周は刻みに合う歯を有し、二つの走行輪間は走行軸に取付けられているので、上面走行体の両側では、走行輪と支持レールとの間で滑ることはなく、走行距離を同一にすることができ、上面走行体が横編機の上面で行う前後の走行を円滑に行うことができる。
【0013】
また本発明によれば、閉状態ではホルダの上面部が上面走行体の前端部分の上を覆い、開状態で上面部の先端が前面カバーを開く際にストッパとなって、前面カバーが開きすぎないようにすることができる。
【0014】
また本発明によれば、前面カバーを開閉し、開いた前面カバーを横編機の上面に引込む際に、ローラで支持するので、円滑な開閉と引込みとを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施例であるカバーを有する横編機1の主要部分の構成を簡略化して示す右側面図である。
【図2】図2は、図1のカバーを有する横編機1の上面前端付近の構成を示す部分的な右側面図である。
【図3】図3は、図1のカバーを有する横編機1の上面右端付近の構成を、図1のホルダー20を省略して示す部分的な正面図である。
【図4】図4は、図1のカバーを有する横編機1の上面右端付近の構成を、上面走行体30とその支持部分とに分離して示す部分的な平面断面図である。
【図5】図5は、ホルダー20の閉状態と開状態とを示す右側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図5で、本発明の一実施例としてのカバーを有する横編機1の構成について説明する。本実施例で、先に説明してある部分と対応する部分に同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例であるカバーを有する横編機1について、右側面側の主要部分の構成を簡略化して示す。左側面側も、基本的に同等の構成を有する。図の左右方向が前後方向となり、紙面に垂直な方向が幅方向となる。カバーを有する横編機1は、前面側に透明な合成樹脂製の前面カバー2を有する。実線は前面カバー2の閉状態を示し、二点鎖線は前面カバー2の開状態を示す。前面カバー2は、閉状態と開状態との間を、矢符2Aで示すような旋回変位で移行する。開状態では、前面カバー2を、カバーを有する横編機1の上面に、矢符2Bで示すような進退変位で、引込ませたり引出したりすることができる。カバーを有する横編機1は、上面の前側にも透明な合成樹脂製の上面カバー3を有する。上面カバー3は、開状態の前面カバー2と連動して、矢符2Bの方向に進退する。閉状態で、前面カバー2および上面カバー3は、横編機本体4の前面と上面の前側とを覆う。横編機本体4の右側面は、右側面上カバー5および右側面下カバー6で覆われる。
【0018】
横編機本体4の背面側には、幅方向の両側に、ブラケット7が設けられる。ブラケット7の上部間には糸立台が取付けられ、編糸をコーンに巻いた状態で、複数、立てておくことができる。ブラケット7の上部には、支持部7aも設けられる。支持部7aには、支持ねじ8,9で支持レール10が取付けられる。支持レール10は、横編機本体4の上部の両側方に、前端から後端付近まで延びる長さを有する。
【0019】
前面カバー2は、上縁側をホルダー20によって保持される。前面カバー2の下縁側には、取手21が設けられる。作業者は、カバーを有する横編機1の前面側に立ち、取手21を持って、前面カバー2の開閉操作を行うことができる。
【0020】
上面カバー3は、支持レール10に沿って前後に走行可能な上面走行体30に取付けられる。上面走行体30は、前端付近に走行軸31を備える。走行軸31には、紙面に垂直な方向となる軸線方向の両側に、走行輪32が固定される。走行輪32は、幅方向の内側に歯車部32a、外側に走行ローラ部32bが一体となるように形成されている。上面走行体30の後端付近にも、走行ローラ33が設けられる。走行ローラ部32bおよび走行ローラ33は、支持レール10で前後に走行可能な状態で支持される。支持レール10には、歯車部32aの歯と噛合する刻みも設けられる。走行軸31には、前面カバー2の上縁側を保持するホルダー20も、旋回変位が可能な状態で支持される。
【0021】
図2は、図1のカバーを有する横編機1の上面前端付近の構成を、右側面上カバー5を省略して示す。支持レール10の下部の前側には、支持枠11が固定される。支持枠11の前端には、ローラ支持部11aが設けられ、支持レール10の前端よりも前方かつ上方に張出した位置に、支持ローラ12を回転可能な状態で支持する。支持レール10に対して走行可能な上面走行体30は、走行軸31および走行ローラ33を、支持枠34で支持する。走行軸31を支持枠34で支持する部分には、軸受35が設けられる。軸受35は、支持枠34に対して固定され、走行軸31を回転可能な状態で支持する。上面カバー3は、取付ねじ36,37で、支持枠34で支持される取付板38に取付けられる。
【0022】
ホルダー20は、アルミニウムなどの金属押出し材で一体に形成され、前面部20a、上面部20bおよび支持部20cを含む断面形状を有する。ホルダー20は、切削加工や合成樹脂の成型、あるいは部材の組合せで形成することもできる。前面部20aの先端には、取付部20dが設けられ、前面カバー2の上端部を取付ねじ22で締付けて保持することができる。閉状態で、上面部20bは、上面走行体30の前端部分の上を覆う。上面部20bの先端は、開状態で支持枠34の底面に当接するストッパ部20eとなる。支持部20cの先端は、走行軸収納部20fとなり、内部に走行軸31を挿通させて収納することができる。走行軸収納部20fの内径は、走行軸31の外径よりも大きい。走行軸31の外周と走行軸収納部20fの内周との間には、軸受35の軸受部35aが挿入される。軸受部35aは管状で、内周側は走行軸31の外周、外周側は走行軸収納部20fの内周との間にそれぞれ隙間を有し、走行軸31の回転やホルダー20の旋回が可能な状態となっている。
【0023】
図3は、図1のカバーを有する横編機1の上面右端付近の構成を、図1のホルダー20を省略して示す。走行輪32は、上面左端付近にも設けられるので、走行軸31の中心軸線31aの方向に間隔をあけて二つ設けられ、それぞれ走行軸31に対して固定される。走行軸31が上面走行体30の支持枠34を挿通する部分には、軸受35の軸受部35aが挿入される。したがって、共通の走行軸31の中心軸線31aまわりに、走行輪32は回転可能であり、ホルダー20は旋回可能である。
【0024】
走行輪32の歯車部32aの外周に一定の角度おきに設けられる歯は、支持レール10の下面に一定のピッチで設けられる角孔10aと噛合う。支持レール10で角孔10aが形成されている部分よりも外側方になる部分は走行ローラ部32bを支持する。上面走行体30の後縁側に設けられる走行ローラ33も同様に支持レール10で支持される。支持レール10の側面部分には、支持枠11が固定される。支持枠11は、支持レール10の前方に張出すローラ支持部11aを有し、閉状態で上面の前端まで進出する上面走行体30の走行軸31よりも前方かつ上方となる位置で、支持ローラ12を、中心軸線12aまわりに回転自在な状態で支持する。
【0025】
なお、走行輪32では、別体の歯車と走行ローラとを組合わせてもよい。また、歯車のみを走行輪として使用してもよい。走行輪32に歯車を含むことによって、以下に示すようにして直進性を確保することができる。
【0026】
図4は、図1のカバーを有する横編機1の上面右端付近の構成を、上面走行体30とその支持部分とに分離して示す。支持レール10には、一定のピッチで刻みとなる角孔10aが形成されている。角孔10aのピッチは、走行輪32の歯車部32aで歯が設けられている角度ピッチに対応し、走行軸31の両側の走行輪32を滑らずに同一の走行距離で並進させ、上面走行体30を直進させることができる。刻みは、角孔10aばかりではなく、ラックなどの歯形であってもよい。走行軸31を回転可能に支持する軸受35は、固定部35bに設ける突起35cを上面走行体30の支持枠34の側面に設ける孔に挿入し、回り止めにしている。
【0027】
図5は、前面カバー2の閉状態を(a)で、開状態を(b)でそれぞれ簡略化して示す。ホルダー20の前面部20aの下面側は、一定の半径Rを有する円弧状に形成される。この円弧の中心位置は走行軸収納部20fの中心に一致するので、走行軸31を走行軸収納部20fに収納すれば、前面部20aの下面側の円弧の中心位置は中心軸線31a上となる。図1の矢符2Aに示す前面カバー2の開閉は、中心軸線31aまわりの旋回変位となるので、ホルダー20の前面部20aを下方から支持ローラ12で支持しながら、円滑に行うことができる。また、図1の矢符2Bに示す前面カバー2の進退時は、(b)に示すように、支持ローラ12で前面カバー2を下方から支持することができる。支持ローラ12の中心軸線12aの位置が移動しないのに対して、前面カバー2、ホルダー20および走行軸31は、左右への移動で円滑な進退が可能となる。支持ローラ12が設けられる位置は、図4に示すように、ホルダー20に対して側端寄りの位置となる。取付ねじ22による前面カバー2の取付けを、支持ローラ12よりも幅方向の内側で行えば、支持ローラ12はホルダー20と前面カバー2との間を円滑に移動することができる。
【0028】
以上で説明した実施例では、横編機本体4の上面の前部にも可動式の上面カバー3を設けるようにしているけれども、たとえば上面の全体を糸立台などで固定して覆い、可動式のカバーは前面カバー2のみにすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 カバーを有する横編機
2 前面カバー
3 上面カバー
10 支持レール
10a 角孔
11 支持枠
12 支持ローラ
20 ホルダー
20b 上面部
20e ストッパ部
20f 走行軸収納部
30 上面走行体
31 走行軸
32 走行輪
32a 歯車部
32b 走行ローラ部
35 軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉状態で横編機の前面を覆う前面カバーと上面の前端まで進出する上面走行体とを備え、
上面走行体の前端側に前面カバーの上端側が旋回自在に連結されており、
開状態では上面走行体が後退して前面カバーを上面に引込み可能な、
カバーを有する横編機において、
上面走行体の前端付近で回転自在に支持され、横編機の幅方向に延びる走行軸と、
走行軸に、間隔をあけて取付けられる二つの走行輪と、
横編機の上部で、二つの走行輪の間隔に対応する間隔をあけて、少なくとも前端が閉状態で走行輪が前進する位置、後端が開状態で走行輪が後退する位置までの間に延びて並設され、走行輪を介して、上面走行体を前後方向に走行可能に支持する二つの支持レールと、
前面カバーの上端側を保持し、走行軸で旋回可能に支持されるホルダーとを、
含むことを特徴とするカバーを有する横編機。
【請求項2】
前記二つの支持レールには、前記前後方向に、一定のピッチで刻みが形成されており、
前記走行輪の外周は、支持レールの刻みに合う歯を有する、
ことを特徴とする請求項1記載のカバーを有する横編機。
【請求項3】
前記ホルダーは、前記閉状態で、前記上面走行体の前端部分の上を覆い、前記開状態で先端が前記前面カバーが開く際のストッパとなる上面部を有する、
ことを特徴とする請求項1または2記載のカバーを有する横編機。
【請求項4】
前記支持レールの前端側には、前記閉状態で上面の前端まで進出する上面走行体の走行軸よりも前方かつ上方となるように張出す位置に、ローラが設けられ、
ローラは、
前記閉状態と閉状態から前記開状態への移行時に、前記ホルダーを下方から支持し、
開状態で前記前面カバーを上面に引込む際には、前面カバーを下方から支持する、
ことを特徴とする請求項1または2記載のカバーを有する横編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117096(P2011−117096A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274753(P2009−274753)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】