説明

カプロラクタムの調製方法

本発明は、(i)硫酸と(ii)SOと(iii)カプロラクタムとを含む反応混合物にシクロヘキサノンオキシムを供給することによりシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位させてカプロラクタムを調製する方法に関する。反応混合物のSO含有量は9〜20重量%であり、かつ(nSO3+nH2SO4)/ncapとして定義される反応混合物のモル比Mは1〜1.4であり、ここで、nSO3=反応混合物中のmol単位のSO量、nH2SO4=反応混合物中のmol単位のHSO量、ncap=反応混合物中のmol単位のカプロラクタム量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)硫酸と(ii)SOと(iii)カプロラクタムとを含む反応混合物にシクロヘキサノンオキシムを供給することによりシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位させてカプロラクタムを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムは、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転位により調製可能である。そのようなベックマン転位は、カプロラクタムと硫酸とSOとを含む反応混合物にシクロヘキサノンオキシムを混合することにより行いうる。そのような方法では、硫酸およびSOは、シクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムへの転化用の触媒である。そのような転化は、瞬時に起こることが知られている。
【0003】
そのような方法については、たとえば、米国特許第3914217号明細書に記載されている。米国特許第3914217号明細書に記載されているような方法によれば、ベックマン転位は、逐次的に三段階で行われる。シクロヘキサノンオキシムは、硫酸+SO対カプロラクタム重量比およびSO含有量を特定の範囲内に有する循環転位混合物を含有する各段階に供給される。第1の段階の循環転位混合物は、1.33〜1.80の硫酸+SO対カプロラクタム重量比(1.55〜2.17のモル比)および2〜14重量%のSO含有量を有し、第2の段階の循環転位混合物は、1.14〜1.31の硫酸+SO対カプロラクタム重量比(1.32〜1.55のモル比)および少なくとも0.82重量%、好ましくは0.82〜6.5重量%のSO含有量を有し、そして第3の段階の循環転位混合物は、1.00〜1.13の硫酸+SO対カプロラクタム重量比(1.15〜1.33のモル比)および少なくとも0.4重量%、好ましくは0.4〜4重量%のSO含有量を有する。カプロラクタムと硫酸と場合により残留三酸化硫黄とを本質的に含有する第3の転位段階で得られる反応混合物は、アンモニアと水と溶媒(たとえばトルエン)と共に反応器系に送られる。硫酸およびSOは、硫酸およびSOを硫酸アンモニウムに転化することにより中和され、それと同時に、カプロラクタムは、この系で形成される硫酸アンモニウム溶液から抽出される。
【0004】
種々の値のモル比Mで転位を行いうることが知られている。このことは、とくに、さらなる段階に進むごとに反応混合物のモル比Mが減少するいわゆる多段階転位の場合にあてはまる。
【0005】
しかしながら、たとえば米国特許第3914217号明細書に記載されているような方法では、低モル比で行ったときでも、カプロラクタムの収率は依然として低いことが判明している。
【0006】
本明細書中で使用する場合、反応混合物のモル比Mは、(nSO3+nH2SO4)/ncapとして定義される。ここで、nSO3=反応混合物中のmol単位のSOの量(1molのSOは80gに対応する)、nH2SO4=反応混合物中のmol単位のHSOの量(1molのHSOは98gに対応する)、およびncap=反応混合物中のmol単位のカプロラクタムの量(1molのカプロラクタムは113gに対応する)である。本明細書中で使用する場合、SO含有量(重量%)とは、硫酸とSOとカプロラクタムとを含む反応混合物の全量(g)に対するSOの量(g)を意味する。SOとは、反応混合物中でその状態で分析されうるSOを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低モル比で行ったときにカプロラクタムの収率の向上を伴うシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位によるカプロラクタムの調製方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、反応混合物のSO含有量を9〜20重量%にすることによりかつ(nSO3+nH2SO4)/ncapとして定義される反応混合物のモル比Mを1〜1.4にすることにより達成される。ここで、
SO3=反応混合物中のmol単位のSOの量、
H2SO4=反応混合物中のmol単位のHSOの量、
cap=反応混合物中のmol単位のカプロラクタムの量である。
【0009】
本発明に係る方法によりシクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムへの転位の収率が向上することを見いだした。後続の中和時、より少ない硫酸アンモニウムが生成されるようになるという理由で、低モル比で行うことは有利である。
【0010】
本発明に係る方法では、副生物がより少量で生成されたので、得られるカプロラクタムの品質が向上した。
【0011】
驚くべきことに、SOが多量であるにもかかわらず、カプロラクタムの品質が悪影響を受けないことも判明した。
【0012】
本明細書中で使用する場合、SO含有量(重量%)は、硫酸とSOとカプロラクタムとを含む反応混合物の重量を基準にして与えられる。
【0013】
本発明によれば、シクロヘキサノンオキシムは、1〜1.4のモル比と、9〜20重量%のSO含有量、好ましくは10重量%超のSO、より好ましくは12重量%超のSOかつ好ましくは18重量%未満のSOと、を有して硫酸とSOとカプロラクタムとを含む反応混合物に導入される。好ましくは、反応混合物のモル比Mは、1.15〜1.4であり、そして反応混合物のSO含有量は、9〜20重量%、好ましくは10重量%超、より好ましくは12重量%超かつ好ましくは18重量%未満である。本明細書中で使用する場合、M、SOの濃度、および反応混合物の温度に対する値は、とくに、シクロヘキサノンオキシムを反応混合物中に供給した後で得られる反応混合物における値を意味する。MおよびSO含有量に対する値は、任意の好適な方法で得ることが可能である。好ましい実施形態では、本方法は連続法であり、該方法は、好ましくは、反応混合物を循環状態に保持することと、硫酸とSOとを含む混合物(たとえば発煙硫酸(oleum))またはカプロラクタムと硫酸とSOとを含む反応混合物を循環反応混合物に供給することと、循環反応混合物の一部分を取り出すことと、を含む。硫酸とSOとを含む混合物の量、そのSO含有量、循環反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの量、および循環反応混合物に供給されるオキシムの水含有量は、反応混合物のMおよびSO含有量が好ましい値を有するように選択可能である。発煙硫酸は、任意の好適なSO濃度、たとえば18〜35重量%のSOを有しうる。
【0014】
好ましくは、シクロヘキサノンオキシムは、2重量%未満、より好ましくは1重量%未満、好ましくは0.2重量%未満、さらにより好ましくは0.1重量%未満の水含有量を有する反応混合物に導入される。大量のSOの添加を必要とすることなく、9重量%超のSO含有量を有する反応混合物を得る効果的な方法が提供されるという理由で、そのような低い水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを供給することは有利である。そのような水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを添加することにより、大量のSOの添加を必要とすることなく、低モル比でかつそれと同時に高SO含有量でベックマン転位を行うことが可能になる。後続の中和時に硫酸アンモニウムの量が増大されることなく(同一のモル比)、カプロラクタムの収率が向上するようになるという理由で、低モル比かつ高SO含有量でベックマン転位を行うことは有利である。このほか、そのような低モル比で多量のSOを用いると、得られるカプロラクタムの品質が向上するようになる。
【0015】
1〜1.4のモル比および9〜20重量%のSO含有量を有する反応混合物中でベックマン転位を行うときの温度は、任意の好適な値を有しうる。好ましくは、温度は70〜130℃であり、より好ましくは、温度は80〜120℃である。
【0016】
好ましい実施形態では、転位は、好ましくはさらなる段階に進むごとに反応混合物のモル比Mが減少するように逐次的に結合された複数の段階で行われる(これ以降では多段階転位と記す)。好ましくは、転位は、逐次的に結合された少なくとも2つの、より好ましくは少なくとも3つの段階で行われる。これらの各段階にシクロヘキサノンオキシムが仕込まれるが、所要の発煙硫酸は好ましくはすべて第1の段階に仕込まれる。有利には、シクロヘキサノンオキシムは、段階が進むにつれて量が減少するように各段階に供給される。さらなる段階に進むごとにモル比を減少させれば、さらなる段階に進むごとにカプロラクタムの収率が減少するので、これは有利である。段階ごとに量を減少させてシクロヘキサノンオキシムを各段階に供給すると、同等量の硫酸アンモニウムの副生物の生成を伴って全体としてカプロラクタムの高収率が保持されるようになる。多段階転位では、好ましくは、各段階のベックマン転位は、シクロヘキサノンオキシムと、それとは別に、発煙硫酸(第1の段階)と、それぞれ前の段階(もしあれば)から取り出された量の循環反応混合物と、を循環反応混合物に連続的に供給することにより、かつシクロヘキサノンオキシムの量と、発煙硫酸(第1の段階)の量と、それぞれ前の段階(もしあれば)から取り出されて循環反応混合物に導入された循環反応混合物の量と、に相当する量の循環反応混合物を連続的に取り出すことにより、かつ次の段階(もしあれば)に該量を連続的に供給することにより、カプロラクタムと硫酸とSOとを含む循環反応混合物中で行われる。多段階転位の最終段階では、好ましくは、シクロヘキサノンオキシムの量と、前の段階から取り出されて最終段階の循環反応混合物に導入された循環反応混合物の量と、に相当する循環反応混合物の一部分を取り出して、該一部分からカプロラクタムを回収する。好ましくは、発煙硫酸は、多段階転位の少なくとも最終段階で循環反応混合物のモル比Mを1〜1.4に保持するのに十分な量で第1の段階の循環反応混合物に連続的に導入される。多段階転位の最終段階を低モル比にすると後続の中和時に少量の硫酸アンモニウムが生成されるようになり、それと同時に、そのような低モル比で多量のSOを用いるとカプロラクタムの収率が向上するようになるうえに得られるカプロラクタムの品質も向上するようになるという理由で、多段階転位のとくに最終段階をそのような低モル比かつ高SO含有量で行うことは有利である。
【0017】
本発明の好ましい一実施形態では、転位は、逐次的に結合された2つの段階で行われる。この実施形態では、カプロラクタムは、好ましくは、
a)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第1の反応混合物中に(i)発煙硫酸と(ii)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
b)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第2の反応混合物中に(iii)第1の反応混合物の一部分と(iv)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、ここで、第2の反応混合物のモル比Mは1.0〜1.4であり、かつ第2の反応混合物のSO含有量は9〜20重量%である、
c)第2の反応混合物の一部分を取り出してそれからカプロラクタムを回収することと、
を含む連続法により得られる。好ましくは、第1および第2の反応混合物は、循環状態に保持される。
【0018】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、転位は、逐次的に結合された3つの段階で行われる。この実施形態では、カプロラクタムは、
a)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第1の反応混合物中に(i)発煙硫酸と(ii)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
b)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第2の反応混合物中に(iii)第1の反応混合物の一部分と(iv)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
c)第2の反応混合物の一部分を取り出すことと、
d)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第3の反応混合物中に(v)第2の反応混合物の一部分と(vi)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、ここで、第3の反応混合物のモル比Mは1.0〜1.4であり、かつ第3の反応混合物のSO含有量は9〜20重量%である、
e)第3の反応混合物の一部分を取り出してそれからカプロラクタムを回収することと、
を含む連続法により得られる。好ましくは、第1、第2、および第3の反応混合物は、循環状態に保持される。
【0019】
第2または第3の循環転位混合物が1.0〜1.4のモル比Mおよび9〜20重量%のSO含有量を有する二段階または三段階の転位を行う効果的な方法は、2重量%未満の水含有量、好ましくは1重量%未満の水、好ましくは0.2重量%未満の水、さらにより好ましくは0.1重量%未満の水を有するシクロヘキサノンオキシムを該転位混合物に導入することであることが判明した。2重量%未満の水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを使用することは 、そのような少量の水を有するシクロヘキサノンオキシムを使用すれば大量のSOを添加しなくとも高SO含有量と組み合わせてそのような低モル比を得られるようになるので有利である。大量のSOを添加することは、高SO濃度の発煙硫酸(HSO/SO混合物)を適用しなければならなくなるか(これは、経済的観点からみても、発煙硫酸の発煙する危険性が増大する点でも、発煙硫酸の流動性が減少する点でも、不利である)または比較的低濃度のSOを含む発煙硫酸を用いたとしても依然として単位量のオキシムあたり大量の発煙硫酸を転位混合物に供給しなければならなくなるか(これにより、後続の中和時に多量の副生物(硫酸アンモニウム)が生成することになる)のいずれかの理由で不利である。そのような低い水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを導入することは、プロセスに添加される所与の量のSOに対してカプロラクタムのより高い収率を得られるようになるか、またはカプロラクタムの所与の収率を得るのにより少量のSOの添加ですむようになるかのいずれかの理由で有利である。これに加えて、そのような低い水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを導入することは、プロセスに添加される所与の量のSOに対して得られるカプロラクタムの向上した品質を得られるようになるか、またはカプロラクタムの所与の品質を得るのにより少量のSOの添加ですむようになるかのいずれかの理由で有利である。
【0020】
2重量%未満の水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを得る一方法は、たとえば不活性ガスを用いて高い水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを乾燥させる方法である。2重量%未満の水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを得る好ましい方法は、
a)有機溶媒中に溶解されたシクロヘキサノンオキシムを含む有機媒体を調製することと、
b)該有機媒体からシクロヘキサノンオキシムを蒸留により分離することと、
によりシクロヘキサノンオキシムを得る方法である。
【0021】
有機溶媒中に溶解されたシクロヘキサノンオキシムを含む有機媒体の調製は、好ましくは、シクロヘキサノンオキシムに対する溶媒でもある有機溶媒中のシクロヘキサノンの溶液のストリームをヒドロキシルアンモニウムのリン酸緩衝水溶液のストリームに反応ゾーン内で向流状態で接触させることと、該有機溶媒中に溶解されたシクロヘキサノンオキシムを含む有機媒体を反応ゾーンから取り出すことと、により行われる。シクロヘキサノンオキシムの調製方法で使用するのにとくに好適な有機溶媒は、トルエンおよびベンゼンである。好ましくは、有機溶媒としてトルエンを使用する。リン酸緩衝水性反応媒体は、好ましくは、ヒドロキシルアンモニウム合成ゾーンとシクロヘキサノンオキシム合成ゾーンとの間で連続的に再循環される。ヒドロキシルアンモニウム合成ゾーンでは、硝酸イオンまたは一酸化窒素を水素で接触還元することによりヒドロキシルアンモニウムが生成される。シクロヘキサノンオキシム合成ゾーンでは、ヒドロキシルアンモニウム合成ゾーンで生成されたヒドロキシルアンモニウムがシクロヘキサノンと反応してシクロヘキサノンオキシムを生成する。次に、水性反応媒体からシクロヘキサノンオキシムを分離することが可能であり、水性反応媒体はヒドロキシルアンモニウム合成ゾーンに再循環される。生成されたシクロヘキサノンオキシムを該有機溶媒中に溶解して含む有機媒体を反応ゾーンから取り出し、そして蒸留することにより、たとえば、2重量%未満、1重量%未満、0.2重量%未満、またはさらには0.1重量%未満の水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを回収することが可能である。
【0022】
有機媒体は、一般的には、シクロヘキサノンオキシムと該有機溶媒と場合によりシクロヘキサノンとを含む。有機媒体がシクロヘキサノンを含む場合、有機媒体中のシクロヘキサノンの濃度は、0.1重量%超、好ましくは0.5重量%超、最も好ましくは1重量%超でありうる。有機媒体中のシクロヘキサノンの濃度は、10重量%未満、好ましくは5重量%未満でありうる。有機媒体中のシクロヘキサノンオキシムの濃度は、5重量%超、好ましくは10重量%超、より好ましくは25重量%超でありうるとともに、60重量%未満、好ましくは50重量%未満でありうる。有機媒体中の有機溶媒の濃度は、40重量%超、好ましくは50重量%超でありうるとともに、95重量%未満、好ましくは90重量%未満でありうる。
【0023】
2重量%未満の水含有量を有するシクロヘキサノンオキシムを得る前記好ましい方法では、該有機媒体からのシクロヘキサノンオキシムの分離は、蒸留により行われる。蒸留は、任意の好適な方法で行いうる。蒸留は、任意の好適なカラムまたはカラムの組合せを用いて行いうる。一実施形態では、蒸留による分離は、有機媒体を蒸留して留出物(オーバーヘッド生成物)として有機溶媒およびボトム生成物としてシクロヘキサノンオキシムを得ることを含む。たとえばボトム生成物として得られるシクロヘキサノンオキシムは、たとえば、2重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満の水を含みうる。そしてこれを反応混合物に供給しうる。蒸留は、任意の好適な温度、たとえば35〜115℃、好ましくは50〜100℃で、かつ任意の好適な圧力、たとえば0.006〜0.020MPa、好ましくは0.012〜0.020MPaで、行いうる。本明細書中で使用する場合、温度とは、蒸留が行われるカラムの上端の温度を意味する。本明細書中で使用する場合、圧力とは、蒸留が行われるカラムの上端の圧力を意味する。蒸留の実施例については、英国特許出願公開第1303739号明細書および欧州特許出願公開第5291号明細書に記載されている。
【0024】
多段階転位では、モル比Mは、好ましくは反応混合物ごとに異なる。第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物のモル比Mは、本明細書中で使用する場合、それぞれ、M(1)、M(2)、およびM(3)と記される。第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物のSO濃度は、本明細書中で使用する場合、CSO3(1)、CSO3(2)、およびCSO3(3)と記される。第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物の温度は、本明細書中で使用する場合、それぞれ、T(1)、T(2)、およびT(3)と記される。本明細書中で使用する場合、M、SO濃度、および温度に対する値は、とくに、シクロヘキサノンオキシムを反応混合物中に供給した後で得られる反応混合物における値を意味する。
【0025】
MおよびSO濃度に対する好ましい値は、適正量の水と共にシクロヘキサノンオキシムを適正量でさまざまな段階に供給することにより、かつ適切なSO濃度の発煙硫酸を適正量で適用することにより、得ることが可能である。
【0026】
好ましくは、M(2)はM(1)未満である。好ましくは、M(3)はM(2)未満である。
【0027】
好ましい実施形態では、M(1)は、1.2〜2.2、好ましくは1.4〜1.9、より好ましくは1.5〜1.8である。好ましくは、CSO3(1)は、好ましくは9〜20重量%、より好ましくは10重量%超、さらにより好ましくは12重量%超である。CSO3(1)に対する値を増大させることは、第2の反応混合物に発煙硫酸を供給しなくとも第2の反応混合物のCSO3(2)を高く保持しうるという利点を有する。CSO3(1)は、好ましくは18重量%未満、さらにより好ましくは17重量%未満である。好ましくは、T(1)は、70〜130℃、より好ましくは70〜120℃である。
【0028】
好ましい実施形態では、二段階転位のM(2)は、1.0〜1.4、好ましくは1.2〜1.4であり、三段階転位のM(2)は、1.0〜1.6、好ましくは1.2〜1.4である。好ましくは、CSO3(2)は、9〜20重量%、より好ましくは10重量%超、より好ましくは12重量%超である。M(2)を上述の範囲内にしてCSO3(2)の濃度を増大させたところ、驚くべきことに、収率が著しく高くなることが判明した。CSO3(2)は、好ましくは18重量%未満、さらにより好ましくは16重量%未満である。好ましくは、T(2)は、70〜130℃、より好ましくは80〜120℃である。
【0029】
好ましい実施形態では、M(3)は、1.0〜1.4、好ましくは1.0〜1.3である。好ましくは、CSO3(3)は、9〜18重量%、好ましくは10重量%超、より好ましくは11重量%超である。M(3)を上述の範囲内にしてCSO3(3)の濃度を増大させたところ、驚くべきことに、収率が著しく高くなることが判明した。CSO3(3)は、好ましくは17重量%未満、さらにより好ましくは16重量%未満である。好ましくは、T(3)は、70〜130℃、より好ましくは80〜120℃である。
【0030】
好ましくは、そのような多段転位では、転位は、好ましくはさらなる段階に進むごとに反応混合物のモル比Mが減少するように逐次的に結合された複数の段階で行われる。好ましくは、転位は、逐次的に結合された少なくとも2つの段階、より好ましくは少なくとも3つの段階で行われる。発煙硫酸は、任意の好適な方法で反応混合物に供給しうる。好ましくは、適用される発煙硫酸はすべて、第1の反応混合物に供給され、一方、好ましくは、シクロヘキサノンオキシムは、第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物に供給される。好ましくは、第1の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの量は、第2の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの量よりも多く、該当する場合には、好ましくは、第2の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの量は、第3の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの量よりも多い。さらなる段階に進むごとにモル比を減少させれば、さらなる段階に進むごとにカプロラクタムの収率が減少するので、これは有利である。段階ごとに量を減少させてシクロヘキサノンオキシムを各段階に供給すると、同等のより少量の硫酸アンモニウム副生物の生成を伴って全体としてカプロラクタムの全高収率が保持されるようになる。好ましくは、第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの全量の60〜95重量%が第1の反応混合物に供給される。好ましくは、第1、第2、および該当する場合には第3の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの全量の5〜40重量%が第2の反応混合物に供給される。該当する場合には、好ましくは、第1、第2、および第3の反応混合物に供給されるシクロヘキサノンオキシムの全量の2〜15重量%が第3の反応混合物に供給される。
【0031】
好ましくは、1体積部のシクロヘキサノンオキシムが、少なくとも10体積部、より好ましくは少なくとも20体積部の反応混合物に連続的に導入される。
【0032】
シクロヘキサノンオキシムは、好ましくは、液体溶融物の形態で反応混合物に供給される。
【0033】
シクロヘキサノンオキシム(溶融物)およびそれとは別に発煙硫酸は、好ましくは、仕切りを介して導入される。好ましくは、シクロヘキサノンオキシムは、反応混合物と激しく混合される。シクロヘキサノンオキシムを反応混合物と混合するのに好適な方法については、たとえば、米国特許第3601318号および欧州特許出願公開第15617号の各明細書に記載されている。本発明の好ましい実施形態では、シクロヘキサノンオキシムは、図2に示されるような混合装置を用いて反応混合物に混合される。図2では、混合装置は、第1の部分101aでスロート101bに向かって細くなりスロート101bを越えて第2の部分101cで拡がる円筒状管101を含む。管の第2の部分101cは、第2の管102に接続される。スロートには、供給チャンバー104に接続されている開口103が存在する。シクロヘキサノンオキシムは、供給チャンバー104を介して送給され、開口103を介して反応混合物に供給される。混合装置は、独立して開口103を開状態および閉状態にすることのできるクロージャー105を含む。混合装置はまた、管101の出口に対向してバッフル106を含む。管は、壁110とオーバーフロー111と出口112とを有する捕集槽B内に開口する。管102から送出された反応混合物は、捕集槽B内に捕集され、一部分は、ライン112を介して捕集槽Bから送出されてさらに循環され、一部分は、オーバーフロー111を介して送出されて後続の反応混合物に供給されるか、またはカプロラクタムの回収に供される。本発明のより好ましい実施形態では、混合装置は、(i)反応混合物を貫流させうる管と、(ii)管の周囲に配設されたチャネルと、を含み、該チャネルは、管中に開口し、当該プロセスは、反応混合物を管に通すことと、1つ以上の該チャネルを介して反応混合物中にシクロヘキサノンオキシムを供給することと、を含み、反応混合物のReは、>5000、好ましくは10,000超である。ここで、Reは、ρ・V・D/ηにより定義されるレイノルズ数である。ここで、
ρ=管に供給される反応混合物の密度(kg/m単位)
V=反応混合物の速度。Vは、W/Aとして定義される。ここで、Wは、管に供給される反応混合物の流量(m/秒単位)であり、Aは、該チャネルが管中に開口するレベルにおける管の断面積(m単位)である。
D=該チャネルが管中に開口するレベルにおける管の直径(m単位)。
η=管中に供給される反応混合物の粘度(Pa・秒単位)。
【0034】
ベックマン転位(の最終段階)で得られる反応混合物からのカプロラクタムの回収は、公知の方法により行いうる。好ましくは、ベックマン転位(の最終段階)で得られる反応混合物は、水中のアンモニアで中和され、こうして生成された硫酸アンモニウムは、カプロラクタム溶液から除去される。カプロラクタム溶液は、公知の手順により精製しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1は、第1の循環系と第2の循環系と第3の循環系とを含む三段階の転位用の好ましい構成を示している。第1の循環系は、混合装置A1と捕集槽B1とポンプC1と冷却器D1とを含み、第1の反応混合物は、ライン1を介して循環状態に保持される。第2の循環系は、混合装置A2と捕集槽B2とポンプC2と冷却器D2とを含み、第2の反応混合物は、ライン11を介して循環状態に保持される。第3の循環系は、混合装置A3と捕集槽B3とポンプC3と冷却器D3とを含み、第3の反応混合物は、ライン21を介して循環状態に保持される。シクロヘキサノンオキシムおよび発煙硫酸は、それぞれ、ライン2およびライン3を介して第1の反応混合物中に供給される。第1の反応混合物の一部分は、ライン4を介して捕集槽B1から取り出され、第2の反応混合物に供給される。シクロヘキサノンオキシムは、ライン12を介して第2の反応混合物に供給される。第2の反応混合物の一部分は、ライン14を介して捕集槽B2から取り出され、第3の反応混合物に供給される。シクロヘキサノンオキシムは、ライン22を介して第3の反応混合物に供給される。第3の反応混合物の一部分は、ライン24を介して捕集槽B3から取り出される。本方法は、連続的に行われる。
【0036】
図2は、好ましくは、混合装置A1、混合装置A2、および混合装置A3として使用される混合装置を示している。
【実施例】
【0037】
以下の特定の実施例は、開示の残りの部分を単に例示したものであって限定するものではないとみなされる。
【0038】
実施例では、カプロラクタムの収率を次のように決定した。転位の最終段階から送出された反応混合物からサンプルを採取した。収率(反応混合物に供給されたシクロヘキサノンオキシムの単位量あたりの生成されたカプロラクタムの量)を次のように決定した。15gのKSOおよび0.7gのHgOに加えてさらに濃硫酸(20ml、96重量%)を、各サンプルの第1の部分(0.2g)に添加した。得られた酸性混合物の窒素含有量をケルダール法により決定し、それからサンプルの第1の部分の窒素のモル濃度(TN)を計算した。各サンプルの第2の部分をクロロホルムで抽出する。この方法は、カプロラクタムがクロロホルム相に進入するという事実に基づく。不純物は水相中に残る。抽出された水性相の窒素含有量をケルダール法で分析し、それからサンプルの第2の部分の窒素のモル濃度(RN)を計算した。収率は、次のように計算される。
【数1】

【0039】
得られたカプロラクタムの品質規格として使用される290nmの吸光度(E290)を、次のように決定した。転位の最終段階から送出された反応混合物をアンモニアで中和し、得られたカプロラクタム含有水性相を分離した。1cmキュベットを用いて、分離されたカプロラクタム含有水性相の吸光度を290nmの波長で測定した(70重量%のカプロラクタム水溶液で算出した)。
【0040】
実施例I−V
実験装置として、タービン型攪拌機を備えた0.5リットルバッフル付き反応器を用いて、カプロラクタムと硫酸と三酸化硫黄とを含む反応混合物にシクロヘキサノンオキシム(100ppm未満の水を含有する)および発煙硫酸を連続的に添加し、反応混合物を連続的に取り出す。取り出される反応混合物の量は、反応混合物に導入されるシクロヘキサノンオキシムおよび発煙硫酸の量に相当する。シクロヘキサノンオキシムを反応混合物と激しく混合した。各実験で、反応混合物のモル比Mを約1.2に保持した。実験が行われた温度は、95℃であった。さまざまなSO含有量を有する発煙硫酸を用いて、反応混合物のSO含有量(SO%)を5%から15%まで変化させた。結果を表Iに示す。以下の表Iは、所与のモル比で、反応混合物中のSO量を増大させたときに、カプロラクタムの収率が増大し、品質が向上することを示している。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例VI−X
実施例I−Vを反復したが、実験が行われた温度が75℃であった点が異なっていた。結果を表IIに示す。以下の表IIは、所与のモル比で、反応混合物中のSO量を増大させたときに、カプロラクタムの収率が増大し、品質が向上することを示している。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例XI
図1および2に示されるような構成を使用した。転位系の第1の段階に、100ppm未満の水を含有するオキシムを7.1トン/時で供給し(2)、29重量%のSOを含有する発煙硫酸を9.8トン/時で第1の段階に供給する(3)。冷却器(D1)を横切って400トン/時の速度で第1の反応混合物を循環させてその温度を77℃まで低下させることにより、ポンプ槽(C1)内の温度を102℃に保持する。51mmのスロート直径(101b)を有する混合装置(A1)を通してオキシムを、循環する第1の反応混合物中に混合する。混合装置は、16本のチャネル(直径3mm)を備えていた。8本のチャネル(チャネルのうちの8本は閉状態位置にある)を介してシクロヘキサノンオキシムを供給した。スロートにおける循環混合物の速度は40m/秒であり、シクロヘキサノンオキシムが循環反応混合物に供給される速度は41m/秒である。同等な供給源のオキシムが1.9トン/時で添加(12)される転位系の第2の段階に、反応器送出物(4)を送る。転位系の第2および第3の段階では、第1の段階で使用されるのと同様であるが第2および第3の段階ではより低いスループットになるように寸法が適合化されている混合装置(それぞれA2およびA3)を通してオキシムを、循環する第2および第3の反応混合物中に混合する。循環速度は150トン/時であり、冷却器(D2)の出口温度は72℃であり、反応器は86℃で動作する。最後に、オキシムが1.1トン/時で添加(22)される転位系の第3の段階に反応器送出物(14)を送る。100トン/時の循環速度および76℃の冷却器(D3)出口温度により、動作温度を再び86℃に制御する。第1、第2、および第3の反応混合物の各モル比Mは、それぞれ1.70、1.35、および1.20である。第1、第2、および第3の反応混合物の各SO含有量は、それぞれ16.7、15.0、および14.3重量%であった。先に記載の方法を用いて、各転位反応器の送出物の収率を決定した。これらの収率は全収率であり、第2および第3の段階の収率は計算により決定される。三段階転位系の全収率は、99.5%であった。第3の段階の収率は、98.9%であった。290nmの吸光度(先に記載したように決定した)は、0.365であった。
【0045】
比較実験A
実施例XIを反復したが、4.5重量%の水を有するシクロヘキサノンオキシムを使用した点および29重量%のSOを含有する発煙硫酸を9.3トン/時で使用した点が異なっていた。類似の発煙硫酸対オキシム消費量比になるようにすべく、3つの各段階で測定されるモル比が実施例XIで得られる値に近いか、またはそれと同等であるように発煙硫酸供給物を調整した。第3の反応混合物のモル比Mは、1.20である。第1、第2、および第3の反応混合物の各SO含有量は、それぞれ、7.9、4.9、および3.4重量%であった。各転位反応器の送出物の収率を決定した。これらの収率は全収率であり、第2および第3の段階の収率は、計算により決定される。三段階転位系の全収率は、99.3%であった。第3の段階の収率は、98.3%であった。290nmの吸光度(先に記載したように決定した)は、1.036であった。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)硫酸と(ii)SOと(iii)カプロラクタムとを含む反応混合物にシクロヘキサノンオキシムを供給することによりシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位させてカプロラクタムを調製する方法であって、該反応混合物のSO含有量が9〜20重量%であり、かつ(nSO3+nH2SO4)/ncapとして定義される該反応混合物のモル比Mが1〜1.4であり、ここで、
SO3=反応混合物中のmol単位のSO
H2SO4=反応混合物中のmol単位のHSO
cap=反応混合物中のmol単位のカプロラクタム量である、方法。
【請求項2】
前記反応混合物のモル比Mが1.15〜1.4であり、かつ前記反応混合物のSO含有量が10〜18重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カプロラクタムが多段階転位で調製され、少なくとも最終段階の反応混合物が1〜1.4のモル比Mおよび9〜20重量%のSO含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、
a)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第1の反応混合物中に(i)発煙硫酸と(ii)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
b)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第2の反応混合物中に(iii)該第1の反応混合物の一部分と(iv)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、ここで、該第2の反応混合物のモル比Mは1.0〜1.4であり、かつ該第2の反応混合物のSO含有量は9〜20重量%である、
c)該第2の反応混合物の一部分を取り出すことと、
を含む連続法である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、
a)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第1の反応混合物中に(i)発煙硫酸と(ii)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
b)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第2の反応混合物中に(iii)該第1の反応混合物の一部分と(iv)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、
b)該第2の反応混合物の一部分を取り出すことと、
d)カプロラクタムと硫酸とSOとを含む第3の反応混合物中に(v)該第2の反応混合物の一部分と(vi)シクロヘキサノンオキシムとを供給することと、ここで、該第3の反応混合物のモル比Mは1.0〜1.4であり、かつ該第3の反応混合物のSO含有量は9〜20重量%である、
e)該第3の反応混合物の一部分を取り出すことと、
を含む連続法である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記シクロヘキサノンオキシムが2重量%未満の水含有量を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シクロヘキサノンオキシムが重量基準で1重量%未満の水含有量を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記シクロヘキサノンオキシムが、
a)有機溶媒中に溶解されたシクロヘキサノンオキシムを含む有機媒体を調製することと、
c)該有機媒体からシクロヘキサノンオキシムを蒸留することにより分離することと、
により得られる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−520445(P2007−520445A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529862(P2006−529862)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005340
【国際公開番号】WO2004/103963
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】