説明

カプロラクタムを含む有機相の洗浄

本発明は、カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する方法であって、不連続相である前記有機相を連続相である水相で洗浄することによって不純物を抽出するステップを含み、有機相の流れ(m/時間)に対する水相の流れ(m/時間)の比は0.05以下である方法に関する。さらに、本発明は、本発明の方法を使用することができるカプロラクタム生成プラントに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する方法に関する。本発明はさらに、プラントにおける流から不純物を除去するための特定の洗浄塔を使用するカプロラクタムプラントにも関する。
【0002】
国際公開第2002/070475号パンフレットには、有機溶媒に溶解しているカプロラクタムを含む溶液からカプロラクタムを回収する方法が記載されており、前記方法は、a)溶液を水またはアルカリ性水溶液で洗浄し、カプロラクタムと有機溶媒とを含む洗浄された溶液ならびに洗浄残渣を得るステップと、b)洗浄された溶液から有機溶媒を蒸発させ、カプロラクタム生成物を得るステップと、c)場合によっては、カプロラクタム生成物を水素添加するステップと、d)場合によっては、カプロラクタム生成物から水を蒸発させるステップと、e)カプロラクタム生成物を蒸留して、カプロラクタムおよび蒸留残渣を回収するステップと、f)水の存在下で、蒸留残渣を有機溶媒で抽出して、(i)有機溶媒に溶解しているカプロラクタムを含む抽出物および(ii)水性溶出液を得るステップと、g)抽出物をステップa)またはb)に再循環させるステップとを含む。
【0003】
国際公開第2002/070475号パンフレットにおいては、有機溶媒中のカプロラクタムを洗浄するための装置として、充填塔、すなわち脈動充填塔しか記載されていない。
【0004】
カプロラクタムを含む処理済みの生成物中に、相当量の含硫黄不純物が保持される可能性があると経験したので、充填塔の使用は不利であることがわかった。したがって、特に大直径の塔において適用されるとき、洗浄性能が不十分である。この機能不全は、本発明者らの考えでは、使用される極度に低いフィード比と共に国際公開第2002/070475号パンフレットにおける流体力学的概念の選択に明確に関連しており、その比は、洗浄液体によるカプロラクタムの実質的な損失および/またはこのようなカプロラクタムの損失量を洗浄液体から回収するための手間のかかる追加のステップを回避するために適用される(または実際には適用される必要がある)。ここで述べるフィード比とは、洗浄液体、一般には塔にフィードされる(アルカリ性)水の量(m/h)と洗浄対象の有機相の量(m/h)との比である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する新規方法を提供する。
【0006】
特に、本発明の目的は、抽出の結果として、有機相からのカプロラクタムの損失が小さいこのような方法を提供することである。
【0007】
特に、本発明の目的は、不純物、特に含硫黄化合物を含む不純物を有機相から抽出する方法であって、水を少ししか必要としない方法を提供することである。
【0008】
特に、本発明の別の目的は、工業規模の塔がどのようなサイズにスケールアップされようと優れた洗浄性能を実現することができる方法を提供することである。
【0009】
さらに、本発明の目的は、カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する方法であって、メンテナンスを少ししか必要としない装置を使用して実施することができる方法を提供することである。
【0010】
したがって、本発明は、具体的には、同時に、非常に低いフィード比の洗浄液体を使用することができ、それでもなおカプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する際に高い洗浄性能を実現するという課題を解決することを目的とする。
【0011】
本発明に従って満たすことができる1つまたは複数の目的は、以下の本明細書の説明および/または特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0012】
今回、本発明の根底にある1つまたは複数の目的は、水相を使用して、特定の方式で、カプロラクタムを含む有機相から不純物、特に含硫黄化合物を抽出することによって満たされることがわかった。
【0013】
したがって、本発明は、カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する方法であって、不連続相である前記有機相を連続相である水相で洗浄することによって不純物を抽出するステップを含み、有機相の流れ(m/時間)に対する水相の流れ(m/時間)の比は0.05以下である方法に関する。
【0014】
一般に使用される洗浄液体は、水、またはカプロラクタムを吸収する可能性がより高いアルカリ性水である。洗浄ステップで使用することができる(好ましくは、アルカリ性)水の量は、大量のカプロラクタムが排出洗浄水中に失われ、または排出洗浄水から再び再生利用されるのを防止するために好ましくは非常に低くすべきである。塔にフィードされる(好ましくは、アルカリ性)水の量と洗浄される有機相の量の比は、以下にフィード比と呼ばれ、当業者によって通常使用される用語でもある。今回、工業プラントにおいて、本発明によるこの比は、優先日まで液液抽出分野における専門家によって実現可能であるものと知られるまたは予想される一般的な範囲をはるかに超えるが、それでもなお優れた不純物除去を実現する0.01までも低くなるように低下させることができる。このような低いフィード比によって一般に引き起こされる難点は、技術水準による塔の内部において、これが、フィード比と同程度の低い相比として反映されるという結果である。本明細書では、相比という用語は、塔の内部における水相と有機相の実際の比を反映するものである。本発明によって必要とされる特別規定がなければ、この相比は、カプロラクタムを含む有機相の洗浄のこの特定の場合に前記のように極度に低いフィード比に近いはずである。本発明は、同時に、非常に低いフィード比の洗浄液体を使用することができ、それでもなおカプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する際に高い洗浄性能を実現するという課題を解決することを目的とする。
【0015】
発明者らは、本発明の塔と先行技術方法で使用されるものとの本質的な差異は、塔におけるホールドアップが、先行技術条件に比べて実質的に増大されることによるものであると考える。国際公開第2002/070475号パンフレットに記載される塔には、実際には塔の内部における洗浄液体のホールドアップを劇的に増加させる規定はないことに有留意すべきである。ホールドアップは、洗浄液体によって占められる、利用可能なカラム体積の部分である。国際公開第2002/070475号パンフレットの塔において、このホールドアップは、フィード比0.01に近くなる(国際公開第2002/070475号パンフレットにおいて、この比は0.001〜0.05であると言われている))が、これは、必要とされる洗浄操作の効率を考えると、当業者が今まで常に低すぎると考えていたものである。したがって、国際公開第2002/070475号パンフレットにおける洗浄液体は、塔に分散相として存在し、すなわち塔を下方に通過する液滴として分散されている。国際公開第2002/070475号パンフレットにおけるこの水相は不連続相と呼ばれることもあり、その中で有機相は連続相と呼ばれることがある。さらに、正しいサイズの液滴形成も同様に保証しながら大きい塔面積(直径>2m)にわたって小さい水流(この場合、1m/時間)の平均分布を実現することは、今まで主に不可能であると考えられていた。この難点以外に、本発明の優先日において、当業者には、このような液滴の分散液は、洗浄液体の入口地点(塔へのフィード)で満足に作製されたときでさえ、実質的な不均等分布が起こることなく塔の充填高さ全体にわたって維持されることはできないと考えられた。さらに、脈動充填塔の使用によって、(パルス発生器が必要であるので)設置が比較的複雑でかつ比較的メンテナンス集約的になる。
【0016】
したがって、本発明の流体力学的概念では、有機相は塔において分散相であり、(アルカリ性)水相を通過する液滴の形で分布され、水相は本発明においてv連続相である。
【0017】
さらに、本発明は、カプロラクタム生成プラントであって、カプロラクタムを生成する反応域;前記反応域の下流に、前記反応域から出てくるカプロラクタム流を中和する中和域;中和域の下流に、中和されたカプロラクタム流からカプロラクタムを有機相に抽出する第1の抽出域;および第1の抽出域の下流に、カプロラクタムを含む有機相を水相で洗浄する第2の抽出域を備えており、第2の抽出域は、下降管を装備した網目板型洗浄塔を備えており、塔において、水相は連続相として存在し、有機相は分散相として存在するカプロラクタム生成プラントに関する。
【0018】
さらに、本発明は、カプロラクタムを含む有機相から1種または複数の含硫黄化合物を除去するための下降管を装備した網目板型洗浄塔の使用に関する。
【0019】
驚くべきことに、本発明によって、不純物の申し分のない、またはさらには改善された除去が0.05以下の比など、低いフィード比でも可能になる。したがって、水を少ししか必要としないという利点に加えて、これによって、有機相からのカプロラクタムの損失を低減し、したがって高濃度のカプロラクタムを含む精製された有機相を提供することが有利であることがわかった。
【0020】
さらに、本発明の方法において、水の飛沫同伴を回避することができ、あるいは少なくとも、この飛沫同伴の結果として実質的な問題が回避され、または少なくとも改善されるような低いレベルに保持することができる。
【0021】
不純物としては、塩、着色化合物、および有機酸の群から選択される1種または複数の物質を挙げることができる。
【0022】
特に、本発明による方法を使用して、1種または複数の無機含硫黄化合物(スルフェート、スルファイトなど)を抽出することができる。特に、スルフェートは、カプロラクタム流の中和ステップの結果として存在することができる。本発明による抽出に先立って、有機相のスルフェート濃度は、例えば約50ppm以上(重量による、スルフェートとして測定)、特に約100ppm以上とすることができる。特に、カプロラクタムを含む有機相のその後の処理における望ましくない汚れを回避するためには、約5ppm未満のスルフェート濃度が望ましい。
【0023】
本発明による抽出によって、無機含硫黄化合物を除去して、5ppm未満の全無機含硫黄化合物(重量による、化合物として測定)、3ppm未満の全無機含硫黄化合物、またはさらには1ppm以下の全無機含硫黄化合物しか含有しない有機相を得ることが可能であることがわかった。特に、スルフェート濃度は、3ppm未満、またはさらには1ppm未満とすることができる。
【0024】
発明者らは、1種または複数の有機含硫黄化合物は、カプロラクタムを含む有機相中に存在できることがさらにわかった。このような有機化合物の例はスルホン酸である。抽出に先立って、有機相中の有機含硫黄化合物の全濃度は、10ppm超(重量による、硫黄元素として測定)、例えば約50ppm以上とすることができる。過剰量の有機含硫黄化合物が存在すると、有機相の処理のさらに下流で、例えばカプロラクタムのその後の精製で問題になる可能性があるので望ましくない。例えば、過剰量の有機含硫黄化合物は汚れを生じ、かつ/または精製効率を妨げる可能性があると考えられる。
【0025】
本発明による方法において、望むなら、有機硫黄を十分に除去することは好適である。例えば、数十ppmの有機硫黄を含む有機相から例えば出発して、10ppm未満、またはさらには5ppm未満の全有機含硫黄化合物しか含まない有機相を得ることは実行可能である。
【0026】
このような有効な除去が実行可能であるのに、有機相からのカプロラクタムの損失が小さいことは特に驚くべきことである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の方法で使用され、または本発明のプラントの存在することができる網目板型洗浄塔を示す。図1に関する詳細については、本明細書の以下にあるこの図の別の考察を参照のこと。
【図2】図2はそれぞれ、2Aで、セグメント、下降管、および鎮静域を含む、使用される網目板の断面略図を示し;2Bで、A−Aの断面によって示された網目板のセグメントのジョイントを示し;2Cで、網目板セグメントの穿孔の詳細を示す。
【0028】
本明細書では、「または」という用語は、別段の指定のない限り「および/または」を意味する。
【0029】
本明細書では、「1つ(a)」または「1つ(an)」という用語は、別段の指定のない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0030】
「ppm」を記載するとき、重量に基づいた100万当たりの部として表す濃度を意味する。無機含硫黄化合物の場合、値は、全化合物(またはスルフェートなど、イオン(塩の場合))の重量に基づくものである。濃度は、クロマトグラフィー、特にイオン種(スルフェートなど)にはイオン交換クロマトグラフィーによって決定することができる。有機含硫黄化合物の場合、濃度は、化合物中の硫黄元素の重量に基づくものであり、要素解析により、かつイオンクロマトグラフィーで検出される硫黄イオン濃度の補正を考慮に入れることにより決定することができる。
【0031】
単数の「名詞」(例えば、化合物、添加剤など)を記載するとき、別段の指定のない限り、その複数は包含されることになっている。
【0032】
発明者らは、水または水溶液を連続相として使用し、有機相を不連続相として使用して、大量の水を必要とすることなく、有機相を水相で洗浄して、不純物を除去することが可能であることを理解した。発明者らは、抽出が実施される抽出ユニットにおいて水相の実質的なホールドアップをもたらす条件を選択することによってこれを行うことができるとわかった。抽出は、特に抽出ユニットで実施することができ、ホールドアップは少なくとも0.2であり、特に少なくとも0.4であり、さらに特に少なくとも0.45である。通常、ホールドアップは0.9以下、特に0.75以下、さらに特に0.6以下である。
【0033】
驚くべきことに、発明者らは、ホールドアップが以上に示したように高い実施形態において、低いフィード比(先に定義した通りである:有機相のフィード速度(m/時間)に対する水またはアルカリ性水のフィード速度(m/時間))を使用して、本発明の方法を実施することが可能であることがさらにわかった。特に、本発明の方法を、フィード比が0.05以下であるのに、抽出ユニットにおけるホールドアップはかなりより高く、例えば少なくとも約0.2、または少なくとも約0.4である連続プロセスで実施することが可能であることがわかった。
【0034】
カプロラクタムの大きな損失を回避し、水の使用を少なくするには、フィード比は0.05以下、特に0.04以下、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.02以下である。特に、フィード比が約0.01である方法において、良好な結果が得られた。フィード比は、通常少なくとも0.001、特に少なくとも0.002、さらに特に少なくとも0.004である。
【0035】
特に、まず有機相を水相に分散し、その後(水相に分散された)有機相の液滴を合体させることを繰り返すプロセスで、良好な結果が実現された。このような分散および合体を所望の回数、通常少なくとも4回、好ましくは少なくとも6回、または少なくとも8回繰り返すことができる。通常、分散および合体を15回以下、特に12回以下繰り返す。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、下降管を装備した網目板型洗浄塔が使用される。特に、このような塔を使用して、水相中に有機相液滴の分散液を形成し、前記液滴を合体させることを繰り返すことができる。網目板型洗浄塔は、不純物を有機相から除去し、特に1種もしくは複数の無機含硫黄化合物および/または1種もしくは複数の有機含硫黄化合物を除去するのに特に適していることがわかった。このような塔は、処理する有機相の体積当たり少量の水を必要とするという点で特に有利であることがさらにわかった。さらに、このような塔の使用を含むプロセスは、塔において許容できないフラッディングのリスク(有機相の一般的流れ方向に反対する水相中の有機相液滴の動き)が低いという点で確固としている。さらに、塔の操作は脈動充填塔に比べて比較的メンテナンスがしやすい。さらに、比較的小さい塔は、申し分ない結果にとって十分であり得る。
【0037】
網目板洗浄塔は、互いに上に配置されたいくつかの網目板を含む棚段塔である。棚板は、複数の孔を含み、使用時にその孔を通って有機相が流れる。
【0038】
本発明の好ましい方法において、有機相がその孔を通って噴出される。これは、有機相を水相に分散させるのに有利である。
【0039】
有機相が(棚板の孔を通って)水相中に噴出される速度は、水相に分散する有機相の平均液滴サイズに影響を及ぼす。一般に、速度が高くなると、平均液滴サイズが小さくなり、液滴から不純物を速く除去することができるようになるが、液滴が再び合体するのにかかる時間も長くなる。通常、水相中に流れる有機相の速度は、20cm/秒を超え、特に30cm/秒以上である。本発明の有利な実施形態において、有機相は水相中に少なくとも40cm/秒、特に少なくとも50cm/秒の速度で噴出される。本発明の有利な実施形態において、有機相は、80cm/秒以下、特に70cm/秒以下の速度で噴出される。
【0040】
網目板洗浄塔は、一般に当技術分野において公知である。図1は、網目板洗浄塔1を概略的に示す。ここでは、水相より低い比重を有する有機相が洗浄される。ここでは、水相は塔1中に上部棚板2aの上でフィードされ、有機相は上部棚板2aの孔3を通して押し出され、水相と混合されて、水相中有機相の混合物A層が形成する。この混合されたA層の上に、洗浄された有機相のB層(カプロラクタムを含む)が形成され、塔から水相用の入口の上に位置する出口から出てくる。水相は、下降管4aを通って次の棚板2b(上部棚板の下)に向けて下流に移動する。下降管は、好ましくは確実に、その下端が棚板2bの水相中に十分に浸っているように設計されている。このようにすると、有機相の下降管を通るショートカットが防止される。通常、下降管を下方に通る分散された有機相流は実質的な量ではない。さらなる用心として、バッフルを下降管の周囲に取り付けてもよい。有機相の正味下流移動の回避は、水相の十分に低いダウンフロー速度(< 0.3mm/秒)によって実現される(有機相液滴の上方移動を可能にする)。これは、本発明の方法における有機相の流量に比べて低い水の流量の結果として一般に実現される。さらに、下降管の直径が大きくなると、その他の点では同じ条件下で下流速度(cm/秒)が低下することになる。
【0041】
下降管4aから出てくる水相は、棚板2bの孔を通して押し出された有機相と混合される。
【0042】
この方法は、各棚板(2c、2d、...2n)の上で起こり、2枚の棚板間の空間はそれぞれ、抽出域を形成し、有機相の液滴は水相中に分散され、A’層が形成され、再び合体させて、有機層B’をA’層の上に形成する。
【0043】
最下棚板2nの下で、抽出に使用される水相(不純物を含む)が、典型的には塔1の底部でA”層を形成する。水相A”は、典型的には塔1の底部に位置するまたは近い出口を経て塔から出て行く。これによって、水相に分散された有機相は合体することが可能になり(水より低い比重を有するので上方へ流れる)。(カプロラクタムおよび不純物を含む)有機相は、通常、底部において水層A”を超えるレベルで塔中に導入され、最下棚板の下で、B”層を形成する。
【0044】
当業者が理解することになるように、有機相が水相より高い比重を有する場合、網目板洗浄塔を使用することができ、通常、水相は底部経由でフィードされ、有機相は上部経由でフィードされる。
【0045】
通常、網目板洗浄塔は、少なくとも4枚の多孔板(網目板)を備える。望むなら、多数の棚板が存在してもよい。一般に、棚板の数が多くなると、その他の点では同じ条件下で1種または複数の不純物の除去がより完全になる。他方では、棚板の数が多くなると、塔が高くなり、または棚板間の距離が小さくなるであろう。有利な不純物除去では、棚板の数は、好ましくは少なくとも6枚または少なくとも8枚である。特に、カプロラクタムを含む有機相から有機含硫黄化合物(単数または複数)の形の不純物を非常に低いレベル(例えば、約1ppm以下)にまで除去する場合、少なくとも10枚の棚板を備えた塔を設けることが有利であり得る。上限はクリティカルではない。塔の高さを考慮すると、棚板の数は、通常15枚以下、特に12枚以下である。
【0046】
棚板それぞれの穿孔の幾何形状は、非常にクリティカルというわけではないが、液滴のサイズおよびその棚板上の水相領域全体におよぶ液滴の平均分布のサイズを決定する。孔の直径は、好適には少なくとも1mmである。原理的には、直径はより小さくてもよいが、孔が小さくなると、目詰まりのリスクが高くなる。有機相が棚板の孔を通って(前記棚板上に位置する)水相中に噴出されることが望ましいことを考慮すると、孔の直径は好ましくは3mm以下である。孔のピッチは少なくとも15mmであるが、通常は40mm以下、好ましくは25mmである。
【0047】
さらに、当業者に公知であるように、機械的理由により選択される棚板用シートメタルの厚さも液滴形成に影響を及ぼし、あるいはドリル加工、パンチ加工、またはレーザー加工のようなシートに穿孔するのに使用される技法も、液滴形成に何らかの影響を与える可能性がある。さらに、棚板アセンブリの気密性は、噴出に必要とされる利用可能な圧力低下に影響を及ぼすことになる。各棚板には、好ましくは鎮静域(図2Aを参照のこと)として壁側にブラインドセクションを備えて、棚板上の水の循環全体の制御を可能にする。この水相の移動も、水層の上の合体有機層に伝播することがある。この理由のため、好ましくは棚板には、その底側にバッフル(砕波装置)が取り付けられている。
【0048】
プラントスケールの塔において、棚板は最も好適に棚板セグメントから組み立てられ、ジョイントによって一緒に連結される(図2BにおけるA−Aの断面を参照のこと)。このアセンブリも、好ましくは十分な機械的強度および剛性を実現するのに何らかの追加の措置も使用する。機械的強度と砕波の両方の要求は、好ましくは適切な形状の棚板セグメントを選択することによって組み合わされる。セグメントの重なった縁部は、最も好ましくはその底部においてU字状(水平U字状)である。図2A〜2Cにおいて、組合わせ網目板の概略図および砕波装置が設けられているセグメントを連結する方式を示す。
【0049】
次の棚板との距離は、広い制限内で選択することができる。実際には、距離は通常少なくとも0.5mである。少なくとも0.6m、特に少なくとも0.65mの距離など、比較的大きい距離は、有機相の塔への流れの起こり得る一時的変動の有害作用を代償するのに役立つという点で有利である。一方、距離が大きくなると、所与の数の棚板について必要とされる塔の高さが高くなる。その点から見て、棚板間の距離は通常1.0以下、特に0.8m以下、または約0.75m以下である。
【0050】
カプロラクタムを含む有機相は、通常芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、C〜C10脂肪族アルコール、およびC〜C10脂環式アルコールの群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。例は、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トリクロロエタン、および4−メチル−2−ペンタノールであり、それらの混合物が含まれる。水を非常に少ししか使用せずに無機および/または有機の含硫黄化合物など、不純物をベンゼンから効率的に抽出することができるので、ベンゼンは好ましい溶媒である。トルエンは低毒性であるため、好ましい溶媒である。さらに、トルエンは、有機相における水の飛沫同伴に関連した実質的な問題を回避するのに特に有用である。
【0051】
本発明の方法において処理される有機相は、特にベックマン転位を経由してカプロラクタムを調製する方法において生成される流とすることができる。このような方法は、例えばUllmann’s encyclopedia of Industrial Chemistry、例えば第7版(2005年)から当技術分野において一般に公知である。
【0052】
有機相中のカプロラクタムの濃度は、それ自体が公知の生成方法によって提供される濃度とすることができる。
【0053】
特に、カプロラクタムは、(全有機相に対して)少なくとも15重量%のカプロラクタム、さらに特に少なくとも22重量%のカプロラクタムの濃度で存在することができる。カプロラクタム濃度は、通常35重量%未満のカプロラクタム、特に30重量%以下のカプロラクタム、さらに特に28重量%以下のカプロラクタムである。
【0054】
抽出に使用される水相は、水または水を主成分として含む水性液体、すなわち含水率が全重量に基づいて50重量%を超える液体である。通常、水相の含水率は、少なくとも95重量%、特に少なくとも98重量%である。上限は、1種または複数のオプションによる追加成分の存在によって決まる。含水率は、特に100重量%までとすることができ、または追加成分が存在する場合、99.5重量%以下または99重量%以下とすることができる。水に加えて、1種または複数の他の溶媒および/またはpH調整剤など、不純物の水相への親和性を増大させるのに役立つことができる1種または複数の添加剤が存在してもよい。このような添加剤は、好ましくはカプロラクタムの水相への親和性が増大されず、またはより小さい程度に少なくとも増大されるように選択される。
【0055】
特に、カプロラクタムを含む有機相から不純物を除去する場合、水相のpHがアルカリ性であることは有利である。したがって、このような実施形態において、好ましくは塩基は水相中に存在する。塩基は、特に無機塩基、さらに特にKOHまたはNaOHなど、アルカリ金属水酸化物とすることができる。このような水酸化物または別の塩は、水相における有機相の分散性に積極的に貢献することができると考えられる。さらに、アルカリ金属水酸化物の使用は、不純物を除去する効力にプラスの効果を及ぼすことがわかった。特に、水酸化物は不純物と反応して、水相への親和性がより高い化合物を生成することができる。
【0056】
塩基が存在する場合、塩基、特に1種または複数のアルカリ金属水酸化物の全濃度は、通常少なくとも0.5重量%、特に少なくとも1.0重量%である。塩基、特に1種または複数のアルカリ金属水酸化物の全濃度は、水相の全重量に基づいて通常2重量%以下である。
【0057】
特定の実施形態において、水相を用いた処理が行われる抽出ユニットへ導かれる有機相の流れは、抽出ユニットへの抽出にかけられた有機相をリサイクルする規定を含むことによって制御され、その規定は、リサイクルされた流れを調整する制御因子を含む。この規定を使用して、抽出ユニットに提供された新鮮な有機相の流れ(方法の上流から、特にカプロラクタムが生成された反応域からの流)の変動を代償することができる。新鮮な有機相が一時的に低下した場合に、抽出ユニットへの全流れを本質的に一定に保持するために、リサイクルされた流れをそれに応じて増加させることができる。これは、望ましいホールドアップを維持することを考えると有利である。さらに、これは、特に網目板型洗浄塔が使用される場合にフラッディングのリスクを低下させるのに貢献することができる。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、不純物が抽出されたカプロラクタムを含む有機相の一部分を抽出プロセスにリサイクルする。したがって、本発明の好ましいプラントにおいて、抽出域に、洗浄塔から出てきたカプロラクタムを含む有機相の一部分を洗浄塔に戻すことを制御することができるループが設けられている。
【0059】
逆相操作は、一般に最初に小さい洗浄液体流れによる空の塔の充填(低流量下で、時間を要する)が必要とされ、次に棚板が定常状態に近づくと再び排出するという手間のかかる始動手順を必要とする。しかし、入ってくる有機相の水圧によって水相を上部の棚板に輸送することがそれまでにできるように固定することができるためには、本発明の塔では、降水管と下の棚板との間の空間を小さい相による最小限の充填が最初に必要とされるだけである。
【0060】
水相を使用して抽出した後、カプロラクタムを含む有機相は、それ自体公知の方式でさらに処理することができる。これらのステップの1つまたは複数は、国際公開第02/070475号パンフレットにさらに詳細に記載されているステップまたはそれ自体公知の別のプロセスに基づくものであってもよい。
【0061】
次に、下記の実施例で本発明を説明する。
【0062】
[実施例]
8枚の網目板を取り付けたガラス胴体の塔を使用して、カプロラクタムプラントから抜き取られた有機相(ベンゼン中カプロラクタム)流を洗浄した。未洗浄流は、平均して110ppmの硫酸アンモニウム(イオン交換クロマトグラフィーで決定)および21ppmの有機硫黄(硫黄元素として、要素解析によって測定)を含有した。
【0063】
棚板距離は50cmであり、孔の直径は2.5mmであり、棚板1枚当たりの孔の数は55個であり、棚板の直径は20cmであった。
【0064】
有機相をフィードする前に、塔を水で充填した。
【0065】
360l/時間の流量で、プラントからの有機相を塔の底部にフィードした。1.5重量%の腐食剤を含有する洗浄水流れを3.6l/時間の速度で上部棚板にフィードした。
【0066】
各棚板の下の有機相層の蓄積は、底部から塔を出て行く水相の放出によって制御した。
【0067】
塔にわたって層の定常状態プロファイルに鎮静した後、洗浄試行を2日間継続した。
【0068】
有機相のフィードおよび出口流の試料を4時間毎に採取し、分析した。洗浄後に、硫酸アンモニウムの平均濃度は、抽出前の有機相中110ppmの硫酸アンモニウムから抽出後の1ppm未満の硫酸アンモニウムへと低下したことが明らかになった。有機硫黄含有量は、21ppmから0.3ppm未満へと低下した(S元素として、0.3ppmは使用された技法における検出限界である)。
【0069】
[比較例]
抽出塔(10m、1インチのラシヒ充填リングで充填)を使用して、前の実施例と同じプラントに由来する有機相を洗浄した。この塔には、塔の内部の液体を振幅15mmおよび周波数0.5/秒に律動的に送るための脈動装置機構を装備した。
【0070】
最初に、塔を有機相で充填した。有機相にわたるこの水の均等分散を実現するために、フォーク型の分配器を介して、有機相フィードは充填物床の下に位置し、洗浄水フィードはこの床の上で行われた。有機相対洗浄水の比はこの場合も100:1であり、ベンゼンラクタム相の空塔流速を実施例1における塔と同一に保持した。洗浄水には、濃度1.5%の腐食剤が含まれていた。
【0071】
底部における界面レベルは、洗浄水を塔底部から放出することによって制御した。
【0072】
試行を2日間継続して、定常状態に到達することが可能となり、4時間毎に分析した。
【0073】
フィード有機相中の硫酸アンモニウムの平均濃度(抽出前)は102ppmであった。洗浄された有機相においては、平均濃度は55ppmであった。フィード有機相中の有機硫黄の平均濃度(抽出前)は(S元素として)24ppmであった。洗浄された有機相においては、平均濃度は(S元素として)22ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプロラクタムを含む有機相から不純物を抽出する方法であって、不連続相である前記有機相を連続相である水相で洗浄することによって前記不純物を抽出するステップを含み、前記有機相の流れ(m/時間)に対する前記水相の流れ(m/時間)の比は0.05以下である方法。
【請求項2】
前記有機相の流れ(m/時間)に対する前記水相の流れ(m/時間)の比が、0.001〜0.04、特に0.002〜0.03、さらに特に0.004〜0.02である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出が抽出ユニットにおいて実施され、前記抽出ユニットにおいて、前記有機相の体積に対する前記水相の体積の比が、0.2〜0.9、特に0.4〜0.75、さらに特に0.45〜0.6である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機相を前記水相中に分散して、水相中有機相分散液を生成するステップと、前記分散された有機相を合体させるステップとを繰り返す、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出が、下降管を装備した網目板型洗浄塔で実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水相が、1種または複数のアルカリ金属水酸化物を、前記水相の全重量に基づいて全濃度0.5〜2重量%で含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機相が、ベックマン転位で調製されたカプロラクタムを含む有機相である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
カプロラクタム生成プラントであって、カプロラクタムを生成する反応域;前記反応域の下流に、前記反応域から出てくる前記カプロラクタム流を中和する中和域;前記中和域の下流に、前記中和されたカプロラクタム流からカプロラクタムを有機相に抽出する第1の抽出域;および前記第1の抽出域の下流に、カプロラクタムを含む前記有機相を水相で洗浄する第2の抽出域を備えており、前記第2の抽出域は、下降管を装備した網目板型洗浄塔を備えており、前記塔において、前記水相は前記連続相として存在し、前記有機相は前記分散相として存在する、カプロラクタム生成プラント。
【請求項9】
前記網目板型洗浄塔が6〜12枚の網目板を備えている、請求項8に記載のカプロラクタム生成プラント。
【請求項10】
前記抽出域に、前記洗浄塔から出てきた前記カプロラクタムを含む有機相の一部分を前記洗浄塔に戻すことを制御することができるループが設けられている、請求項8または9に記載のカプロラクタム生成プラント。
【請求項11】
カプロラクタムを含む有機相から1種または複数の含硫黄化合物を除去するための下降管を装備した網目板型洗浄塔の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公表番号】特表2012−501996(P2012−501996A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525528(P2011−525528)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061307
【国際公開番号】WO2010/026147
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】