説明

カボスジャムの製造方法

【課題】未成熟カボスの果皮の主に緑色皮肉を原料にしてカボスジャムを製造する場合、未成熟カボス果皮の特徴であるモスグリーン色を長期に保色しそれを生かし且つ緑色皮肉が苦く硬く凹凸していてもそれをジャムとして透明感のあるエメラルドグリーンで、張り、まろやかさ、しなやかさを備えた風味のある物に変身させた素晴らしいジャムに処理する方法を提供する。
【解決手段】未成熟カボスの果皮の緑色皮肉を銅鍋に水と入れ重曹を添加して煮る第一加熱処理と、第一加熱処理物を銅鍋で水のみで煮る第二加熱処理と、その第二加熱処理物をミンチングして乾燥し又はそのまま銅鍋に水と入れ重曹を添加して煮る第三加熱処理と、その第三加熱処理物を水のみで煮る第四加熱処理と、その第四加熱処理物を濾具で濾し濾上物と濾下物に分け、少なくとも濾上物を甘味料と未成熟カボス果肉汁、ペクチン、その他添加物と混合しホウロウ鍋等で煮る第五加熱処理とからなるカボスジャムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未成熟カボスの緑色皮肉を利用したジャムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、モスグリーンをしたマリモのように美しい未成熟カボスの果皮を原料にしたカボスジャムの製造方法を提供するものである。
未成熟柑橘類の果皮でジャムをつくる方法は、特開平6−78695号公報(特許文献1)にて紹介のように「未成熟柑橘類を水洗いし、二つ割りにし果汁と果皮に分け、果皮のみをクエン酸溶液(発色剤溶液)の鍋に入れて煮て、溶液を変えながらこの作業を3〜4回行い、果皮の色が緑色になったところで水気を切り、果皮をジューサーで砕き、果汁を加えて鍋にいれ煮つめて、水分の量が半分になったところで砂糖を入れた、緑色のジャムの製造方法」がある。
【0003】
この緑色のジャムの製造方法により未成熟カボスの果皮でジャムを作ると次の問題がある。
1.未成熟カボス果皮では、特徴有るモスグリーン色が保持され難く短期間で退色し、褐色化し風味が悪くなり緑色ジャムの原料としては利用できない。
2.褐色化防止として銅鍋で重曹などのアルカリ水溶液で煮ることは一般に公知であるが未成熟カボス果皮は、苦味が強く表面が凸凹で硬く緑色の表層の下層にある白身がスポンジ状である独特の性状に対して適用する具体的なジャム製造方法は未開発状態である。
3.未成熟カボスの果皮は表層の緑色皮肉とその下層のスポンジ状の白身皮肉からなり、緑色皮肉は、硬く凹凸しているためこの果皮をジューサーで砕くだけではジャムとしては食感がザラザラと甚だ悪く、又白身皮肉はスポンジ状のため細粒化が極めて困難であり且つ風味が極めて悪く除去する必要がある。
【特許文献1】特開平6−78695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、未成熟カボスの前記特質の果皮を原料にしてカボスジャムを製造する場合、未成熟カボス果皮の特徴であるモスグリーン色を長期に保色しそれを生かした風味のあるジャムに処理すること、及び苦く硬く凹凸している緑色皮肉に多少の白身皮肉が付着していてもそれを製造過程で除去しジャムとしてのしなやかさやまろやかさのある食感に優れた品質のものに処理する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴とする手段は「未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を剥き、銅鍋に前記緑色皮肉と水を入れ重曹を添加して煮る第一加熱処理を行い、その第一加熱処理物を水切りし銅鍋に入れてそのまま水煮する第二加熱処理を行い、その第二加熱処理物を水切りした後ミンチングしてミンチ緑色皮肉としこれをそのまま又は乾燥して銅鍋に水と入れ重曹を添加して煮る第三加熱処理を行い、その第三加熱処理物を水切りしこれを銅鍋に入れてそのまま水煮する第四加熱処理を行い、その第四加熱処理物を水切りして濾具で濾し濾上物と濾下物に分け、少なくとも濾上物をペクチンと甘味料その他の添加物と混合しステンレス鍋又はホウロウ鍋で煮る第五加熱処理をすることを特徴とするカボスジャムの製造方法。」である。
【発明の効果】
【0006】
前記構成とした本発明で製造したカボスジャムは、次記する作用効果により未成熟カボス果皮の特徴であるモスグリーン色を長期に保色しそれを生かした風味のあるジャムに処理すること、及び苦く硬く凹凸している緑色皮肉に多少の白身皮肉が付着していてもそれを除去し緑色皮肉をジャム原料として透明感のあるエメラルドグリーンとし、しなやかさやまろやかさのある食感に優れた品質のものに処理するものである。
これにより食感にあふれた優れた風味ある緑色ジャムとしてそのまま価値ある商品として提供される。またお菓子などに有利に活用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
未成熟カボス果皮の緑色皮肉の緑色色素クロロフィルは、単なる加熱処理や常温での酵素反応では配位しているマグネシウムを失い褐色化してしまう。
本発明は、銅鍋で煮る前処理として未成熟カボス果皮の好ましくは白身皮肉を除く緑色皮肉を剥き、それをそのまま銅鍋で前記の第一加熱処理により煮ることにより、灰汁出しをして苦味等を抜くとともに加熱処理物のpHの低下を抑え、銅鍋からの銅イオンの濃度を制限しつつ緑色皮肉からのマグネシウムを失うことなく緑色色素クロロフィルの緑色を確実に保持しそれを維持するものである。そして第一加熱処理でどろどろになった煮汁を排出し、この後、銅鍋で第二加熱処理により緑色皮肉から重曹成分の一部を水洗いして落とし、残存灰汁とぬめりと臭みを取りジャムの素材としての風味を醸し出すと同時に緑色を更に長期に保色維持することを可能にするものである。
【0008】
次に、この第二加熱処理物を水切りした後ミンチングして緑色皮肉ミンチにすることにより、緑色皮肉を微細に潰すことなく2.0mm粒以下近傍の好ましいジャム原料としての大きさにすると共に、硬く凹凸の緑色皮肉の皮繊維部分を擂り潰してジャムの素材として透明感と、しなやかさのあるエメラルドグリーンの肉質にする。更に若干混入の白身皮肉を緑色皮肉から分離し又は分離し易くし以後の加熱処理で分離除去することを有利に可能にする。そしてこの緑色皮肉ミンチを乾燥し又はそのまま、水に浸し前記第三加熱処理を行うことにより、緑色を更に長期に安定維持することを可能にすると共に、緑色皮肉ミンチに混入の白身皮肉を分離浮上させて或いは水きり時に濾して除去し、緑色皮肉の純度を高めその肉部をジャムとしての張りとしなやかさに優れた食感にするものである。
【0009】
次に、前記第三加熱処理物を水切りしこれを銅鍋に水と入れてそのまま煮る第四加熱処理を行うことにより、灰汁と添加した重曹成分の殆どを洗い落として残存臭みを無くし且つジャムとして透明感のあるぷりぷりとした粒とし新鮮な緑色をたたえた風味を更に高めるものである。
【0010】
次に、その第四加熱処理物を濾具で水切りして濾すことを一回以上行って濾し分けし、その濾上物及び又は濾下物は、カボス果汁やペクチン、甘味料等及びその他添加物と混合しステンレス鍋又はホウロウ鍋で煮る前記第五加熱処理をすることにより果汁やペクチンによりジャムが酸性になっても緑色を確実に維持することができると共に同時に殺菌処理をするものである。
このようにして製造した緑色皮肉のカボスジャムは、長期間その新鮮な緑色とぷりぷりの張りを維持し食感にあふれ風味の優れたジャムとしてそのまま価値ある商品として提供される。またお菓子などに有利に活用することができるものである。
【0011】
而して、本発明において未成熟カボスの果皮の皮剥きは、果皮の白身皮肉を除く緑色皮肉のみが好ましい。しかし白身皮肉の一部の混入は免れない場合が多いため、前記第二加熱処理物のミンチングにより白身皮肉を緑色皮肉から効率よく分離して又は分離し易くし、第三加熱処理などの際にこの白身皮肉を効率よく確実に分離浮上させ又は水きり時に濾し上げて除去することが出来る。
本発明の前記第一加熱処理において、沸騰時の重曹添加は一回又は2回以上に分けて添加してよい。またこの第一加熱処理は必要に応じて一回以上を行う。
本発明の前記第二加熱処理物のミンチングは、筒内に回転スクリューを内装したスクリュー式の押出挽器などのように一般に挽肉製造に使用する挽器でよい。
本発明の前記第三加熱処理において、沸騰時の重曹添加は緑色皮肉の柔らかさを見ながら一回又は2回以上に分けて添加してよい。またこの第三加熱処理は必要に応じて一回以上を行う。
本発明の前記第四加熱処理は必要に応じて一回以上を行う。
本発明の第四加熱処理物の濾し処理において、ジャムの原料は濾し上物を利用することが好ましいが、濾下物は濾し上物と合わせてジャムの原料にしてよく、又漉し餡(こしあん)としてジャム以外の原料に供給することもできる。
【0012】
本発明において、銅鍋内において前記第一と第三加熱処理で重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加して最終的に得る重曹水溶液の好ましい濃度範囲は緑色保持効果がある1.0〜6.9%W/V%である。1.0W/V%未満にすると緑色保持効果が薄れ且つ灰汁出し効果も少ない。又6.9%W/V%を超えると緑色保持効果が薄れる。
本発明において、銅鍋とは、鍋の全部又は少なくとも内壁面の一部又は全部が銅金属又は銅と亜鉛との合金などで露出形成したものを言う。
本発明において、第四加熱処理物を濾す濾具とは、網目が1.5〜4mmの濾具が好ましい。
本発明の第五加熱処理において濾し物と混合するものは砂糖、水あめ、蜂蜜等の甘味料、カボスの果肉汁や市販製のペクチン等を利用することができる。またその他の添加物例えば、各種リキュール等を好みの趨勢に合わせて適宜添加することができる。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例を以下に詳細に説明する。
カボスジャムの原料とする未成熟カボスの果皮の緑色皮肉の加熱処理工程の条件を表1〜表5に紹介し、これで得た弾力性ある透明感あふれたエメラルドグリーンの緑色皮肉粒を用いてカボスジャムを製造する具体的条件例を表6に紹介し、表7にその結果のカボスジャム品質を記載した。

表1には、緑色皮肉の第一加熱処理工程の条件を記載し、表2には、緑色皮肉の第二加熱処理工程とミンチング工程を記載し、表3には、緑色皮肉の第三加熱処理工程の条件を記載し、表4には、緑色皮肉の第三加熱処理工程後の水切り濾し条件とその結果を記載し、表5には緑色皮肉の第四加熱処理工程の条件を記載し、表6には、緑色皮肉粒を用いたカボスジャム製造の第五加熱処理工程の条件を記載した。但し表6において鍋のSUSはステンレススチール製鍋である。表7には、これらの結果のカボスジャム品質を記載したものである。
尚、表7に示す分析値は、前記第三加熱処理物1gをるつぼに精秤したのち、電気炉100℃で1時間、180℃で2時間、550度で一晩灰化処理し、灰化した試料を塩酸により可溶化し、溶液化した試料をシーケンシャル形プラズマ発光分析装置(島津製作所ICPS−7000)により試料中のCu,Mg,K,Naの測定を行った結果である。
この各表から明らかなように、各例No1〜No8共に製品歩留まりは、表5に記載のように90%以上と高位に安定し、且つ品質は、表7に記載のように非常に良好なカボスジャムを製造することが出来た。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
【表4】

【0018】
【表5】

【0019】
【表6】

【0020】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のカボスジャムの製造方法により製造したカボスジャムは、長期間その緑色と新鮮さを維持し食感に優れた風味あるジャムとしてそのまま価値ある商品として提供される。またお菓子など各種の食料品に有利に活用することができるもので、食品産業に多大な貢献を呈するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を剥き、銅鍋に前記緑色皮肉と水を入れ重曹を添加して煮る第一加熱処理を行い、その第一加熱処理物を水切りし銅鍋に入れてそのまま水煮する第二加熱処理を行い、その第二加熱処理物を水切りした後ミンチングしてミンチ緑色皮肉としこれをそのまま又は乾燥して銅鍋に水と入れ重曹を添加して煮る第三加熱処理を行い、その第三加熱処理物を水切りしこれを銅鍋に入れてそのまま水煮する第四加熱処理を行い、その第四加熱処理物を水切りして濾具で濾し濾上物と濾下物に分け、少なくとも濾上物をペクチンと甘味料その他の添加物と混合しステンレス鍋又はホウロウ鍋で煮る第五加熱処理をすることを特徴とするカボスジャムの製造方法。

【公開番号】特開2009−17856(P2009−17856A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184823(P2007−184823)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】