説明

カラム

【課題】気中の汚染物質をサンプリングするに際して吸収溶液を用いることなく、気中の汚染状態を簡便に、また精度よく評価する方法を提供すること。
【解決手段】平均粒径または断面平均直径が500μm〜1000μmである基材に、吸着剤が保持されてなる充填剤が充填されたカラムであって、当該カラムの空隙容積が5〜100μlである気体吸着用カラム。当該吸着剤は、好適には塩基物質または酸物質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸物質または塩基物質を含む気体吸着用カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ、液晶基板、磁気ディスク等の電子基板(以下、基板と称する。)を製造する環境においては、その製造空間中の酸物質、塩基物質等の汚染物質が基板に吸着する等して、製品の歩留まりの低下や品質の低下が生ずることから、このような基板を製造する工程は、クリーンルームで行われている。そして、各製造過程でのクリーンルームにおける上記の酸物質、塩基物質等による汚染状態を評価することが必要であるところ、その手法としては、例えば、吸引ポンプで吸引したクリーンルーム内の空気を一定の流量で吸収溶液に通し、該空気中の汚染物質を吸収させ、吸収された汚染物質を分析する方法、あるいは、吸引ポンプで吸引したクリーンルーム内の空気を一定の流量でフィルターに通し、該空気中の汚染物質を吸着させ、フィルターから汚染物質を溶媒により脱離させ、脱離された汚染物質を分析する方法などが提案されている(例えば、非特許文献1、2、特許文献1参照。)。
【0003】
近年、クリーンルームには、より高度な洗浄空間の確保が求められており、それに伴って、酸または塩基による汚染状態をより高感度で評価する方法が求められている。
【0004】
【非特許文献1】「付属書1 クリーンルームおよび関連する制御環境空気中の酸性物質の測定方法」,JACA No.35A−2003 クリーンルームおよび関連する制御環境中における分子状汚染物質に関する空気清浄度の表記方法および測定方法指針,社団法人 日本空気清浄協会,平成15年3月1日,p.5−6
【非特許文献2】「付属書2 クリーンルームおよび関連する制御環境空気中の塩基性物質の測定方法」,JACA No.35A−2003 クリーンルームおよび関連する制御環境中における分子状汚染物質に関する空気清浄度の表記方法および測定方法指針,社団法人 日本空気清浄協会,平成15年3月1日,p.7−9
【特許文献1】特開2003−222577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の気体の汚染状態の評価方法では、気中の汚染物質の濃度が低い場合、吸収溶液などを濃縮して分析を行っていたが、濃縮液を全量分析に付すること、すなわち、吸収溶液に吸収された汚染物質を全量分析に付することは難しく、高感度の評価という観点で、十分満足のいくものではなかった。また、吸収溶液を用いた評価方法では、吸収溶液によるクリーンルームの汚染の可能性があった。
【0006】
かかる状況のもと、上記課題に応えるべく鋭意検討した結果、特定のカラムを用いて気中の酸物質や塩基物質などの汚染物質を吸着させ、該カラムに吸着された汚染物質をオンラインで溶媒抽出して分析することにより、気中の汚染物質をサンプリングするに際して吸収溶液を用いることなく、汚染状態を簡便に、また精度よく評価し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、平均粒径または断面平均直径が500μm〜1000μmである基材に、吸着剤が保持されてなる充填剤が充填されたカラムであって、当該カラムの空隙容積が5〜100μlである気体吸着用カラムにかかるものである。
【0008】
また、本発明は、上記カラムに評価対象の気体を通気することにより、該気体に含まれる酸物質または塩基物質をカラム内の充填剤に吸着させ、夫々、吸着された酸物質または塩基物質をオンラインで溶媒抽出して分析する気体の汚染状態の評価方法にかかるものである。
【0009】
また、本発明は、上記カラムに評価対象の気体を通気することにより、該気体に含まれる酸物質をカラム内の充填剤に吸着させ、吸着された酸物質をオンラインで溶媒抽出して分析する気体の汚染状態の評価方法にかかるものである。
【0010】
また、本発明は、上記カラムに評価対象の気体を通気することにより、該気体に含まれる塩基物質をカラム内の充填剤に吸着させ、吸着された塩基物質をオンラインで溶媒抽出して分析する気体の汚染状態の評価方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、酸物質や塩基物質による気体の汚染状態を、高感度で評価することができ、また、吸収溶液を用いることなく評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のカラムは、基材に吸着剤が保持されてなる充填剤が充填されたカラムである。
【0013】
基材の材質としては、ガラス、石英、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等があげられる。好ましくは、ガラスまたは石英である。
【0014】
基材の形状としては、表面積の大きな形状が好ましく、粒子状、繊維状等があげられる。好ましくは、粒子状である。
【0015】
基材の平均粒径または基材の断面平均直径は、通気効率を高める観点から、好ましくは500μm以上であり、より好ましくは600μm以上である。また、捕集効率を高める観点から、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは850μm以下である。なお、このときの測定法はJIS K0069「化学製品のふるい分け試験方法」によるものである。
【0016】
吸着剤としては、塩基物質または酸物質が用いられる。
【0017】
吸着剤として用いられる塩基物質としては、無機塩基および有機塩基をあげることができる。無機塩基としては、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物等をあげることができ、有機塩基としては、アミン、アンモニウム化合物等をあげることができる。
【0018】
吸着剤として用いる塩基物質としては、好ましくは、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アミンおよびアンモニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0019】
該アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等があげられる。該アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ストロンチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等があげられる。該アミンとしては、トリエタノールアミン等があげられる。該アンモニウム化合物としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等があげられる。
【0020】
吸着剤として用いる塩基物質としては、より好ましくは、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0021】
吸着剤として用いられる酸物質としては、無機酸および有機酸をあげることができる。
【0022】
該無機酸としては、硫酸、リン酸等があげられる。該有機酸としては、メタンスルホン酸、マレイン酸、マロン酸等があげられる。
【0023】
吸着剤として用いる酸物質としては、好ましくは、硫酸、リン酸およびメタンスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0024】
吸着剤を基材に保持させる方法としては、吸着剤が固体状の物質の場合は、これを溶媒に溶解して溶液とし、該溶液を基材に塗布するか、または、該溶液に基材を浸漬し、溶媒を乾燥する方法、吸着剤が液状の物質の場合は、そのまま、あるいは、これを溶媒に溶解して溶液とし、該溶液を基材に塗布するか、または基材を浸漬し、溶媒を乾燥する方法等があげられる。
【0025】
また、基材には、吸着剤に加えて保湿剤を塗布していてもよい。該保湿剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールを例示することができる。
【0026】
カラムは、分析の対象となる酸物質・塩基物質の分析に影響を与えない材質からなり、また、10MPa程度の圧力に耐える耐圧性のあるものが好ましい。カラムの材質としては、通常、ステンレス、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが用いられる。また、カラムの形状としては、通常、円筒型のものが使用され、好ましくは、カラムボディ、フリット、スリーブおよびエンドフィッティングからなるカラムであり、例えば、特開2001−249120号公報に記載されたものをあげることができる。
【0027】
カラムの容積は、分析処理量に対応して適切な大きさのものを使用できる。カラム容積は、通常、0.1ml〜0.5mlであり、好ましくは、0.2ml〜0.3mlである。
【0028】
充填剤を充填後のカラムの空隙容積は、5μl〜100μlであり、該空隙容積が小さすぎると、カラムへの気体の通気速度が低くなること、吸引ポンプにより通気を行った場合に吸引ポンプの負荷が高くなることがある。また、該空隙容積が大きすぎると、オンライン抽出の際にカラムからでる気泡により、測定装置の分離カラムが乾燥劣化することがある。カラムの空隙容積は、好ましくは、10μl〜50μlである。なお、該空隙容積には、配管を接続する部位の容積は、例えば、カラムボディ、フリット、スリーブおよびエンドフィッティングからなるカラムの場合、配管と接続するためにエンドフィッティングやカラムボディに設けられた雌ねじ部の容積は含まない。
【0029】
本発明の評価方法では、評価対象となる気体の酸物質や塩基物質の量を評価するに際し、評価対象の気体をカラムに通気することにより、評価対象の気体中に含まれる酸物質や塩基物質がカラム内の充填剤に吸着される。通気は、通常吸引ポンプを用いて行われる。通気速度は、好ましくは0.1〜2L/分である。通気時間は、好ましくは、数分〜24時間である。
【0030】
カラムへの評価対象の気体の通気は、通常、クリーンルームやクリーンブースなどの評価対象の空間で行われる。カラムの輸送は、分析対象物質の汚染の無い栓でカラムの口を密封して、および/または、分析対象物質の汚染の無い密閉容器に収納して行う。
【0031】
評価対象の気体を通気させた後のカラムは、測定装置に接続され、オンラインで溶媒抽出することにより、充填剤から汚染物質が抽出され、該抽出液を全量分析して、気体の汚染状態の評価を行う。ここで、オンラインで溶剤抽出するとは、評価対象の気体を通気させた後のカラムと分析カラムとが同一ラインに直列で接続されていることにより、例えば、分析カラムに抽出液を送液するポンプと分析カラムとの間に、評価対象の気体を通気させた後のカラムを接続することにより、抽出液が該カラムに流入し、該抽出液により抽出された汚染物質を含む抽出液が分析カラムに導入される形態をいう。
【0032】
抽出液の分析は、通常、液体クロマトグラフ法により行われ、イオン交換カラムを用いた陰イオン交換方式、陽イオン交換方式、またはサプレッサーを用いたサプレッサー方式のイオンクロマトグラフ法や、ODSカラムを用いる逆相クロマトグラフ法などがあげられる。
【0033】
オンラインで溶媒抽出し、抽出液の全量を測定装置に送液するための装置としては、送液ポンプと4方バルブとを有する図1に示す構成の装置をあげることができる。気体吸着用カラムを接続していない状態の装置は、図2に示す構成となる。この図2の構成から4方バルブを切り替えて気体吸着用カラムを装置に接続して、図3に示す構成とする。測定時には、4方バルブを切り替えて図1に示す構成とする。
【0034】
分析対象物質の酸物質としては、塩化水素、硝酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、ギ酸、酢酸等の酸そのものの他、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等があげられる。また、分析対象物質の塩基物質としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アルカノールアミン等の塩基そのものの他、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等があげられる。
【0035】
評価対象の空間としては、クリーンルーム、クリーンブースをあげることができる。また、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に定められたEFEM(Equipment Front End Module)、FOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Interface )ポッド等もあげることができる。
【実施例】
【0036】
本発明を、実施例によりさらに詳しく説明する。
【0037】
実施例1
(気体吸着用カラムの準備)
粒径600〜850μmの粒子状の石英砂を内容積0.27mlのステンレス製カラムに充填し、カラム内部に超純水を通液してカラム内部の洗浄を行った。次に、硫酸とグリセリンの混合水溶液をカラム内部に通液し、窒素を通気して溶媒を乾燥し、気体吸着用カラムとした。この気体吸着用カラムの空隙容積は、45μlであった。
【0038】
(実験室の汚染状態の評価)
気体吸着用カラムにガス吸引ポンプを接続し、吸引速度0.5L/分で1時間、実験室内の空気を気体吸着用カラムに通気した。次に、気体吸着用カラムを、イオンクロマトグラフに接続し、気体吸着用カラム内の吸着剤に吸着したアンモニウムをオンラインで溶媒抽出し、イオンクロマトグラフによりアンモニウムイオンの付着量を測定した。分析結果を表1に示す。
【0039】
実施例2
(クリーンブースの汚染状態の評価)
実施例1と同様にして調製した気体吸着用カラムにガス吸引ポンプを接続し、吸引速度0.5L/分で24時間、実験室に設置したクリーンブース内の空気を気体吸着用カラムに通気した。次に、気体吸着用カラムを、イオンクロマトグラフに接続し、気体吸着用カラム内の吸着剤に吸着したアンモニウムをオンラインで溶媒抽出し、イオンクロマトグラフによりアンモニウムイオンの付着量を測定した。分析結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】オンラインで溶媒抽出を行い、抽出液を分析する際の装置の概略図である。
【図2】気体吸着用カラムが接続されていない装置の概略図である。
【図3】気体吸着用カラムを分析装置に接続する際の装置の概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1:溶離液
2:ポンプ
3:4方バルブ
4:分離カラム
5:気体吸着用カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径または断面平均直径が500μm〜1000μmである基材に、吸着剤が保持されてなる充填剤が充填されたカラムであって、当該カラムの空隙容積が5〜100μlであることを特徴とする気体吸着用カラム。
【請求項2】
吸着剤が塩基物質であることを特徴とする請求項1に記載のカラム。
【請求項3】
塩基物質が、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アミンおよびアンモニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載のカラム。
【請求項4】
吸着剤が酸物質であることを特徴とする請求項1に記載のカラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−242401(P2011−242401A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168065(P2011−168065)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【分割の表示】特願2007−177013(P2007−177013)の分割
【原出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)