説明

カルシウムアルミネート

【課題】 その使用により諸性状に支障を及ぼす虞のある凝結遅延剤等の遅延成分を用いることなく、長い可使時間と初期の高い強度発現性を共に得られるカルシウムアルミネート及びこれを含む水硬性組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 CaO・Al23と12CaO・7Al23を有効成分とし、CaO・Al23含有量(D)と12CaO・7Al23含有量(E)の質量比(D/E)が1.5〜15であって、含有する12CaO・7Al23のガラス化率(F)と含有するCaO・Al23のガラス化率(G)の和(G+F)が15〜150%、且つガラス化率の比(F/G)が1〜30であることを特徴とするカルシウムアルミネート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物、コンクリート製品、建築・土木工事等で水硬質の主材やセメント系材料の助剤等に用いられるカルシウムアルミネートに関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウムアルミネートは、例えばアルミナセメントとして耐火物、コンクリート製品又は建築土木工事等の主材に使われたり、助剤や混和成分としてポルトランドセメントなどに併用され、建築・土木材料に用いられる。カルシウムアルミネートは、12CaO・7Al23、CaO・Al23、3CaO・Al23、CaO・2Al23などの化学成分としてCaOとAl23からなる結晶質又はガラス化が進んだ構造のものの他、他の化学成分も加わった4CaO・3Al23・SO3、11CaO・7Al23・CaF2、Na2O・8CaO・3Al23なども広義のカルシウムアルミネートとして扱われている。このうち、2種以上のカルシウムアルミネートを使用する例が知られている。(例えば、特許文献1〜2参照。)構造的にガラス化率が高いカルシウムアルミネートほど水和反応等の活性が高く、初期強度発現性も高くなる。(例えば、特許文献3参照。)実使用に際しては、高い初期強度の発現性のみならず、打設・施工時の作業制約が軽減されることから適度な可使時間が得られること、中・長期強度も安定した発現性を呈すること等の性状がカルシウムアルミネートに望まれる。しかし、カルシウムアルミネートに長い可使時間と高い強度を同時に発現させるのは甚だ困難であり、特に可使時間の確保が難しい。また、組成の異なる2種以上のカルシウムアルミネートを使用しても、その主たる目的は、初期強度発現性に関するものである。(例えば、特許文献4参照。)可使時間の長時間確保のためにカルシウムアルミネート自体を組み合わせで所望の効果を得ることに関しては知られていない。カルシウムアルミネート系材料の可使時間を長くするには、遅延剤を併用すれば可能であることが知られている。(例えば、特許文献5参照。)遅延剤配合量を増すほど可使時間は長くなるが、一方で初期強度は低下する。また分散剤や減水剤を用いる系に遅延剤を併用したカルシウムアルミネート系の水硬性組成物も知られているが(例えば、特許文献6参照。)、分散剤や減水剤による流動性向上作用が阻害されるという問題もあった。更には、適正な可使時間確保のためには施工時の温度に応じて遅延剤配合量を繊細に調整する必要があり、遅延剤併用による影響は安定した強度値を得る上で実施工の問題となっている。
【特許文献1】特開昭54−139637号公報
【特許文献2】特開2005−162568号公報
【特許文献3】特開平10−101390号公報
【特許文献4】特開昭49−32921号公報
【特許文献5】特開2000−16843号公報
【特許文献6】特開平9−255390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、凝結遅延剤等の遅延成分を特に使用しなくても、長い可使時間と高い初期強度発現性を共に得られ、且つ初期〜長期に渡って強度発現値が安定したカルシウムアルミネート及びこれを含む水硬性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、検討を重ねた結果、特定のガラス化率及び含有率の相対的に反応活性の高いカルシウムアルミネートと相対的に反応活性が低いカルシウムアルミネートの二種類のカルシウムアルミネートを特定の含有比率で、かつ特定のガラス化状態にしたものが、初期強度発現性低下原因となる凝結遅延成分を使用せずに、長期に渡って安定した強度発現性が見られ、施工・打設作業を行うに十分な長さの可使時間が確保できるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、CaO・Al23と12CaO・7Al23を有効成分とし、CaO・Al23含有量(D)と12CaO・7Al23含有量(E)の質量比(D/E)が1.5〜15であって、含有する12CaO・7Al23のガラス化率(F)と含有するCaO・Al23のガラス化率(G)の和(G+F)が15〜150%、且つガラス化率の比(F/G)が1〜30であることを特徴とするカルシウムアルミネートである。また本発明は、前記カルシウムアルミネートを含有してなる水硬性組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のカルシウムアルミネートは凝結遅延剤等の遅延成分を用いることなく適度な可使時間を確保できるため、施工・打設作業上の制約が大きく軽減される。また高い初期強度発現性と安定した強度発現状態を中長期に渡って発現できる。さらに、本発明のカルシウムアルミネートは、遅延成分を含まないため減水剤の類と併用しても、カルシウムアルミネート本来の作用が低減されることがなく、適度な流動性を有する水硬性組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のカルシウムアルミネートは、CaO・Al23と12CaO・7Al23を有効成分とする。CaO・Al23と12CaO・7Al23以外の成分の含有は、本発明の効果を実質喪失させない限り制限されるものではない。このような成分として例えば、カルシウムフェライト、カルシウムサルホアルミネート、ビーライト、ゲーレナイト、CaO・2Al23、CaO・6Al23等を挙げることができる。本発明のカルシウムアルミネートは、含有するCaO・Al23と12CaO・7Al23の量が、CaO・Al23(D)と12CaO・7Al23(E)の質量比(D/E)で1.5〜15の関係を充当するものとする。質量比(D/E)が1.5未満では、高活性の12CaO・7Al23の割合が相対的に過多となり、可使時間確保が困難になる。さらに、Al23成分が低含有のカルシウムアルミネートになることから、強度発現の安定性が低下し、例えば中〜長期強度の低下や、環境により強度値のバラツキが大きくなる可能性もあるので好ましくない。また、(D/E)の質量比が15を超えると、12CaO・7Al23より反応活性が低いCaO・Al23が多くなり、高い初期強度発現性が得難くなるので好ましくない。
【0008】
本発明のカルシウムアルミネートは、含有するCaO・Al23と12CaO・7Al23の構造状態として、CaO・Al23のガラス化率(G)、但し、CaO・Al23が複数のガラス化率のCaO・Al23が混在したものからなるときは、ガラス化率毎のCaO・Al23の質量割合を考慮したガラス化率の平均値とする、および12CaO・7Al23のガラス化率(F)、但し、複数のガラス化率の12CaO・7Al23が混在したものからなるときはガラス化率毎の12CaO・7Al23の質量割合を考慮したガラス化率の平均値とする、が、両成分のガラス化率の和(F+G)で15〜150%であって、両成分のガラス化率の比(F/G)が1〜30であることを充当するものとする。また、該ガラス化率の和と比を充当する限り、成分個々のガラス化率を特に制限されない。一般に、結晶質に比べ、ガラス化率が高いものほど水和反応が早く進行し、可使時間を確保し難くなる。ガラス化率の和(F+G)が15%未満では、反応活性が低く、初期強度発現性が低下するので好ましくない。また、ガラス化率の和(F+G)が150%を超えると逆に活性が高くなり過ぎて、所望の可使時間を確保できないことがあるので好ましくない。また、ガラス化率の比(F/G)の値が30を超えると、CaO・Al23よりも反応活性の高い12CaO・7Al23がさらに高い活性のものとなるため、可使時間の確保が困難となるので好ましくない。ガラス化率の比(F/G)が1未満では、強度発現の安定性を欠くため好ましくない。
【0009】
本発明のカルシウムアルミネートの製造方法の一例を示すと、CaO源及びAl23源となるCaO、CaCO3、Al23などの原料をモル比でCaO:Al23が1:1及び12:7となるよう秤量混合し、各混合物は、1500℃以上で大気中で加熱し、当該加熱温度又はそれ以下の所定の温度から急冷することによってガラス化率を調整したCaO・Al23や12CaO・7Al23を得ることができる。ガラス化率は、一般に、加熱溶融せしめた後、高い温度からの急冷ほど、また急冷速度を速くするほど、高くすることができる。加熱は例えばバッチ式キルン、ロータリーキルン、反射炉などが使用できる。急冷は、例えば炉外への取り出し放置、水中急冷、冷却ガス吹付け等で行うことができる。所望のガラス化率のCaO・Al23と12CaO・7Al23を前記の所定質量比となるよう混合すれば得ることができる。これ以外の製造方法として、例えばCaO源及びAl23源の原料を混合し、加熱して得たクリンカにCaO・Al23と12CaO・7Al23を共存生成させたものでも良く、さらに他の方法でも良い。
【0010】
また、本発明は、前記のカルシウムアルミネートを含有してなる水硬性組成物である。本発明の水硬性組成物は、カルシウムアルミネートの含有量やカルシウムアルミネート以外の成分の含有は、本発明の効果を実質的に喪失させない限り、何れのものでも良い。含有成分の例としては、普通、早強、中庸熱、低熱等のポルトランドセメント、白色セメント、エコセメント等の特殊セメント、高炉セメントやフライアッシュセメント等の混合セメント、減水剤、膨張材、収縮低減剤、空気連行剤、保水剤、消泡剤、ポゾラン反応性物質、無機微粉、繊維、ポリマー等のモルタルやコンクリートに使用可能な混和材(剤)、砂、砂利、砕石等の天然骨材や人工骨材などを挙げることができる。また、混練水は含有するカルシウムアルミネート100質量部に対し、15〜100質量部加えるのが好ましいが、特に制限されるものではない。該水硬性組成物の製造方法の一例を示すと、前記のカルシウムアルミネートと必要に応じて所望のセメントや混和材(剤)を市販のミキサに投入し、乾式混合してプレミックス体として用いるか、乾式混合物に水を加えて混練することでモルタル、ペースト或いはコンクリートとして水硬性組成物を得ることができる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここに表す実施例に限定されるものではない。
【0012】
粉末状のCaCO3とAl23をモル比でそれぞれ1:1及び12:7に調合し、乾式混合した。各混合物を、電気炉(大気雰囲気)で約1800℃に加熱し、該温度から加熱物を常温の炉外に取り出し、直ちに冷却用窒素ガスを表面に高速で吹き付ける(冷却方法:A)か、該温度から水中急冷する(冷却方法:B)か、該温度から加熱物を常温の炉外に取り出し、大気雰囲気下で放置放冷する(冷却方法:C)か、該温度で加熱を停止し、加熱物をそのまま炉内に留め自然降温させる(冷却方法:D)かの何れかの冷却方法により冷却物を得た。尚、水中急冷品(B)は水中で概ね1分間留めた後、水中から回収して乾燥させた。各冷却物はボールミル粉砕し、表1に表すガラス化率の異なるCaO・Al23及び12CaO・7Al23を作成した。粉砕は、評価時に粒度の影響が現れないようにするため、同じボールミルで被砕物毎に粉砕時間を調整し、さらに篩などによる分級処理することでブレーン比表面積で5000〜6000cm2/gの範囲に整粒した。
【0013】
尚、CaO・Al23のガラス化率の測定は、他の成分を含まないものでは粉末X線回折(内部標準法)によりCaO・Al23の結晶相の量を求め、残部をガラス相とみなしてガラス化率を算出した。他の成分を含まない12CaO・7Al23のガラス化率の測定も同様の方法で行った。また、CaO・Al23と12CaO・7Al23が共存生成したカルシウムアルミネートの場合は、粉末X線回折によりCaO・Al23及び12CaO・7Al23の結晶生成量を測定した後、これを電気炉で再溶融(1800℃)し、炉内で溶融温度から約100℃以下となるまで12時間以上かけて徐冷することで全相を実質的に結晶化させ、粉末X線回折でCaO・Al23及び12CaO・7Al23の生成量を測定した。この測定値と再溶融前の結晶質CaO・Al23及び結晶質12CaO・7Al23の生成量との差からガラス化率を算出した。
【0014】
【表1】

【0015】
各ガラス化率のCaO・Al23及び12CaO・7Al23を表1の配合量となるよう混合し、CaO・Al23と12CaO・7Al23からなるカルシウムアルミネート(No.1〜11)を作製した。また、参考のため、CaO・Al23と12CaO・7Al23以外の成分を有効成分とするカルシウムアルミネート系材料も市販品又は上記方法に準じて試製し(No.12〜13)、併せて表1に表す。
【0016】
次いで、表1のカルシウムアルミネート(No.1〜13)、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)、ポリカルボン酸系減水剤(商品名「太平洋コアフロー」、太平洋マテリアル社製)、クエン酸(市販試薬)、砂(豊浦標準砂)から選定される材料を、表2に表す配合量となるよう内容積5リットルのホバートミキサ(ホバート社製)に一括投入した。投入材料は、温度約20℃で1分間乾式混合した後、これに表2に表す量の水を加えて湿式混合を1分間行い、混練物を作製した。
【0017】
【表2】

【0018】
湿式混合終了直後の減水剤含有混練物に対し、流動性の評価として20℃でのフロー値を、JIS R 2521「耐火物用アルミナセメントの物理試験方法」に準じた方法で測定した。また、湿式混合終了直後の混練物に対し、JIS R 2521に準じて、約20℃の恒温環境下で凝結及び硬化状況に関する試験を行った。即ち、湿式混合終了直後から凝結開始までの時間を可使時間として測定した。さらに、初期強度発現性評価とし、湿式混合終了直後に内寸4×4×16cmの角柱状型枠に混練物を充填し、成形を行った材齢1日の供試体の圧縮強度を測った。同様に材齢28日の供試体の圧縮強度も長期強度発現性の評価として測定した。ただし、可使時間がおよそ10分以下のものは供試体作製が困難であったことから圧縮強度の測定は行わなかった。以上の評価結果を纏めて表2に表す。さらに、表2に表した本発明品1及び2と参考品12及び15については、混練物調合での製造ロットを各5〜6水準にしてそれぞれ供試体を作製し、材齢1日の圧縮強度の測定から、ロット間の強度値のバラツキを調べることで(ロットによる圧縮強度の最大値と最小値の差/全ロットの圧縮強度平均値で表す。)強度発現値の安定性も評価した。この結果を表3に表す。
【0019】
【表3】

【0020】
表2の評価結果より、本発明のカルシウムアルミネートは、何れも約60分以上という比較的長い可使時間を、初期強度発現性を低下させずに確保することができる。また、長期強度も安定した発現性を呈した。さらに、減水剤を併用した場合でも流動性を低減させる様子は見られなかった。これに対し、従来技術の範疇にあるカルシウムアルミネートに凝結遅延成分を加えたものは、何れも初期強度の発現性の低下が見られた。また、表3より、本発明品は参考品よりもロット間の強度値変動が少なくなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO・Al23と12CaO・7Al23を有効成分とし、CaO・Al23含有量(D)と12CaO・7Al23含有量(E)の質量比(D/E)が1.5〜15であって、含有する12CaO・7Al23のガラス化率(F)と含有するCaO・Al23のガラス化率(G)の和(G+F)が15〜150%、且つガラス化率の比(F/G)が1〜30であることを特徴とするカルシウムアルミネート。
【請求項2】
請求項1記載のカルシウムアルミネートを含有してなる水硬性組成物。

【公開番号】特開2010−52983(P2010−52983A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219731(P2008−219731)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】