説明

カルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法

【課題】水とホエイと乳カルシウム剤を含有するカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する際に、沈殿を生じ難くする。
【解決手段】水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する混合工程を経て、液状のカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する方法であって、前記ホエイ原料の全部または一部が脱塩ホエイであり、該ホエイ原料の無脂乳固形分中に含まれる灰分含有量が0.7質量%以下であることを特徴とするカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳中に含まれるカルシウムは、吸収性が良く、良質のカルシウム供給源として注目されている。しかし、乳からカルシウムを単に分離精製すると、不溶性のリン酸カルシウムとなるため、飲料に配合する際に分散性の悪さが問題となる。
これに対して、特許文献1には、分散性の良い乳カルシウム剤を製造する方法として、乳酸および乳酸イオンを含有する、ホエイを、UF膜又はNF膜処理して透過液を得、該透過液のpHを調整することにより乳カルシウムを沈殿させ、この乳カルシウムを乳蛋白質と混合したものを乳カルシウム剤とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−299281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、上記の製造方法で得られた乳カルシウム剤を水に分散させたときに、良好な分散性が得られることが確認されているが、本発明者等の知見によれば、ホエイを含む液に乳カルシウム剤を配合すると沈殿が生じてしまう場合がある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、水とホエイと乳カルシウム剤を含有するカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する際に、沈殿が生じにくい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意研究した結果、カルシウム強化ホエイ含有組成物を調製する際に、予め脱塩された脱塩ホエイを用いることにより、沈殿を生じ難くできることを見出して、本発明に至った。
すなわち、本発明のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法は、水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する混合工程を経て、液状のカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する方法であって、前記ホエイ原料の全部または一部が脱塩ホエイであり、該ホエイ原料の無脂乳固形分中に含まれる灰分含有量が0.7質量%以下であることを特徴とする。
【0007】
前記乳カルシウム剤が、乳清蛋白質、乳糖、および乳カルシウムを含有し、全固形分に対する乳清蛋白質の含有量が5〜70質量%、カルシウム含有量が3〜15質量%であることが好ましい。
前記乳カルシウム剤が下記の工程を経て得られる乳カルシウム剤であることが好ましい。
ホエイを限外濾過膜(UF膜)処理またはナノフィルトレーション膜(NF膜)処理して透過液を得る工程と、得られた透過液のpHを6.0〜9.0に調整することにより乳カルシウムを沈殿させる工程と、該乳カルシウムと乳蛋白質とを混合する工程とを経て得られる乳カルシウム剤。
【0008】
前記カルシウム強化ホエイ含有組成物中における、蛋白質の含有量が0.4〜3質量%であり、かつ前記乳カルシウム剤に由来するカルシウムの含有量が、組成物100gあたり50〜300mgとなるように配合することが好ましい。
前記混合工程において、水中にホエイ原料を含む液と、水中に乳カルシウム剤を含む液とを混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水とホエイと乳カルシウム剤を含有するカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する際に、沈殿を生じ難くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法は、水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する工程を有する。
【0011】
<ホエイ原料>
ウシ、ヒツジ、ヤギ等の乳を原料として、チーズ、カゼイン、カゼインナトリウム、ヨーグルト等を製造する過程において、凝固させた乳分を取り除いて残る透明な液をホエイと言う。また、凝固した乳分を分離しただけの未処理のホエイに対して、イオン交換処理、電気透析法、膜分離法等を用いて脱塩処理を施したものを脱塩ホエイという。
【0012】
本発明で用いられるホエイ原料は、該ホエイ原料の無脂乳固形分中における灰分含有量が0.7質量%以下であることが必要である。そのために、ホエイ原料の一部または全部として脱塩ホエイを用いる。
通常、未処理のホエイの無脂乳固形分中における灰分含有量は6〜8質量%程度であり、脱塩処理を行うとこれが低減する。灰分含有量の低減幅は、脱塩処理の方法や程度(例えば処理時間など)によって制御できる。
ホエイ原料として、処理条件や形態が異なる複数種の脱塩ホエイを併用してもよく、使用するホエイ原料の全体における無脂乳固形分あたりの灰分含有量が0.7質量%以下となればよい。
特に、ホエイ原料の全部として、無脂乳固形分あたりの灰分含有量が0.7質量%以下となるまで脱塩した脱塩ホエイを用いることが好ましい。かかる脱塩ホエイは市販品から入手可能である。
なお、本明細書における灰分含有量の値は、直接灰化法により測定される値である。
【0013】
ホエイ原料の無脂乳固形分あたりの蛋白質含有量は特に限定されない。
ホエイ原料は脱乳糖処理の有無にかかわらず使用できる。製品の汎用性の点からは、脱乳糖処理されていない脱塩ホエイを用いることが好ましい。脱乳糖処理されていない脱塩ホエイにおける、無脂乳固形分あたりの蛋白質含有量は、通常12〜13質量%程度である。
ホエイ原料の形態は濃縮液でもよく、噴霧乾燥や凍結乾燥等の常法により粉末化されたものでもよい。市販のホエイパウダーを好適に使用できる。
【0014】
<乳カルシウム剤>
本発明において用いられる乳カルシウム剤は、乳由来のカルシウム、すなわち乳カルシウムを含有する組成物である。乳カルシウム剤はカゼインを含まないものが好ましい。乳カルシウム剤は、乳カルシウムの他に、乳清蛋白質および乳糖を含むことが好ましい。
乳カルシウム剤は、液体であっても、粉末等の固体であってもよい。
【0015】
乳カルシウム剤におけるカルシウム含有量は、乳カルシウム剤の全固形分に対して3〜15質量%が好ましく、3〜10質量%がより好ましい。3質量%未満であるとカルシウム強化剤として不適当であり、15質量を超えるとカルシウムの分散性が悪くなる。
なお、本明細書におけるカルシウム含有量は、ICP発光分光分析法により得られる値である。
【0016】
乳カルシウム剤における乳清蛋白質の含有量は、乳カルシウム剤の全固形分に対して5〜70質量%が好ましく、8〜40質量%がより好ましい。5質量%未満であるとカルシウムの分散性が悪くなり、70質量%を超えると好ましくない風味が増大する。
乳カルシウム剤における乳糖の含有量は、乳カルシウム剤の全固形分に対して15〜92質量%が好ましい。
【0017】
乳カルシウム、乳清蛋白質および乳糖を上記の好ましい範囲で含有する乳カルシウム剤は、ホエイを限外濾過膜(UF膜)処理またはナノフィルトレーション膜(NF膜)処理して透過液を得、該透過液のpHを6.0〜9.0に調整することにより乳カルシウムを沈殿させ、該乳カルシウムと乳蛋白質とを混合する方法で製造できる。
かかる乳カルシウム剤は、例えば、上記特許文献1に記載の製造方法で製造することができる。ただしホエイは、前記限外濾過膜(UF膜)処理またはナノフィルトレーション膜(NF膜)処理が可能であり、該処理で得られた透過液のpHを上記の範囲内で高くすることによって乳カルシウムの沈殿を生じるものであればよく、乳酸および乳酸イオンを含有するものに限られない。
【0018】
すなわち、限外濾過膜(UF膜)処理またはナノフィルトレーション膜(NF膜)処理に供するホエイとしては、乳を乳酸発酵させた乳酸ホエイのほか、チーズホエイ、塩酸ホエイ等を用いることができる。また前記透過液のpHを6.0〜9.0に調整して乳カルシウムを沈殿させる工程における、該透過液の温度は30〜80℃が好ましい。pHの調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等のアルカリ溶液を使用すればよい。乳カルシウムと乳蛋白質とを混合する工程においては、透過液中の沈殿を回収して得られるスラリー状の沈殿と、乳蛋白質を含有する水溶液とを混合することが好ましい。乳蛋白質として乳清蛋白質を用いることが好ましい。乳蛋白質を含有する水溶液は、乳清蛋白質および乳糖を含むものが好ましい。例えば、ホエイパウダーの水溶液、蛋白質濃縮ホエイパウダーの水溶液等が用いられる。
【0019】
<水>
本発明で用いられる水は、灰分含有量の含有量が0.1質量%以下である水が好ましく、灰分含有量がほぼゼロである水が好ましい。例えば、脱イオン水、RO水(逆浸透膜で処理した水)等が好適に用いられる。
【0020】
<その他の成分>
本発明のカルシウム強化ホエイ含有組成物には、水、ホエイ原料および乳カルシウム剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、油脂、甘味料、香料、着色料等のその他の成分を任意に含有させることができる。
該その他の成分は、カゼインの含有量が固形分あたり0.7質量%以下であるものが好ましく、カゼインを含まないものがより好ましい。本発明者等の知見によれば、カゼインの存在下で乳カルシウム剤を水に分散させると沈殿を生じやすい。
また、その他の成分は灰分含有量が、固形分あたり0.5質量%以下であるものが好ましく、灰分を含まないものがより好ましい。
カゼインおよび灰分の含有量が上記の好ましい範囲内である成分の例としては、無塩バター、バターオイル等が挙げられる。
【0021】
<混合工程>
水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する混合工程は、
(1)水中にホエイ原料を含む液と、水中に乳カルシウム剤を含む液とを別々に調製し、これらを混合する方法で行ってもよく、
(2)水中にホエイ原料を含む液に、粉末状の乳カルシウム剤を添加する方法で行ってもよく、
(3)水中に乳カルシウム剤を含む液に、粉末状のホエイ原料を添加する方法で行ってもよい。
水中にホエイ原料を含む液は、沈殿が生じていなければよく、ホエイ原料の水溶液でもよく、水分散液でもよい。または液状のホエイ原料の希釈液でもよい。
水中に乳カルシウム剤を含む液は、沈殿が生じていなければよく、ホエイ原料の水溶液でもよく、水分散液でもよい。または液状の乳カルシウム剤の希釈液でもよい。
良好な溶解性が得られやすい点では(1)の方法が好ましい。
その他の成分を用いる場合、前記水中にホエイ原料を含む液、および水中に乳カルシウム剤の一方または両方に予め含有させておいてもよく、水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合した後、この混合液に添加してもよい。沈殿が生成しにくい点からは、その他の成分を、水中にホエイ原料を含む液に含有させておくことが好ましい。
【0022】
ホエイ原料、乳カルシウム剤、およびその他の成分の配合量は、得ようとするカルシウム強化ホエイ含有組成物における、蛋白質の含有率、およびカルシウム剤に由来するカルシウムの含有量に応じて設定するのが好ましい。
本発明のカルシウム強化ホエイ含有組成物における蛋白質の含有量は、該組成物全体に対して3質量%以下が好ましく、1.7質量%以下がより好ましい。3質量%以下であると、加熱殺菌工程を経ても沈殿が生じにくい。該蛋白質含有量の下限値は、風味の点からは0.4質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がより好ましい。
なお、カルシウム強化ホエイ含有組成物における蛋白質の含有量は、ホエイ原料、乳カルシウム剤、およびその他の成分のそれぞれに含まれる蛋白質の合計である。
【0023】
カルシウム強化ホエイ含有組成物における、前記乳カルシウム剤に由来するカルシウムの含有量は、該組成物の100gあたり50〜300mgが好ましく、100〜300mgがより好ましく、100〜250mgがさらに好ましい。50mg以上であると、カルシウム強化の効果が充分に得られやすく、300mg以下であると良好な風味が得られやすい。
【0024】
混合前の、水中にホエイ原料を含む液における、ホエイ原料の含有量は、沈殿を生じることなくホエイ原料が溶解または分散できる量の範囲内で、最終的に、目的とするカルシウム強化ホエイ含有組成物の蛋白質の含有量が得られるように設定される。
乳カルシウム剤との混合前の液および混合後の液のいずれにおいても、ホエイ原料の無脂乳固形分の含有量が、液全体に対して30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。30質量%以下であると、溶解不良が生じにくい。
【0025】
混合前の、水中に乳カルシウム剤を含む液における、乳カルシウム剤の含有量は、沈殿を生じることなく乳カルシウム剤が溶解または分散できる量の範囲内で、最終的に、目的とするカルシウム強化ホエイ含有組成物の蛋白質の含有量、および乳カルシウム剤に由来するカルシウムの含有量が得られるように設定される。
ホエイ原料との混合前の液および混合後の液のいずれにおいても、乳カルシウム剤の固形分の含有量が液全体に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。20質量%以下であると、溶解不良が生じにくい。
【0026】
水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する混合工程における液温は、0℃超、15℃以下が好ましく、5〜10℃がより好ましい。15℃を超えると微生物の増殖の点から好ましくない、0℃以下であると凍結による蛋白質変性のおそれがある。
その他の成分を、水中にホエイ原料を含む液、または水中に乳カルシウム剤の一方または両方に予め含有させる際には、必要に応じて該液を加温してもよい。加温する場合は、蛋白質の変性を生じない温度範囲とすることが好ましく、例えば80℃以下、より好ましくは60℃以下である。
【0027】
こうして、水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合して得られる混合液を、そのまま最終製品のカルシウム強化ホエイ含有組成物としてもよく、該混合液をさらに希釈したものを最終製品のカルシウム強化ホエイ含有組成物としてもよい。希釈する場合は、混合液における各成分の含有量を、目的とする含有量よりも高くしておく。
また必要に応じて、該混合液を加熱殺菌する工程を設けてもよい。殺菌方法は特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。例えばプレート式熱交換器を用いた連続式間接加熱法等が好ましい。殺菌条件は120〜150℃、1〜3秒が好ましい。
【0028】
本発明によれば、水中でホエイ原料と乳カルシウム剤を混合する際に、特にホエイ原料として灰分が高度に除去された脱塩ホエイを用いることによって、沈殿が生じにくいカルシウム強化ホエイ含有組成物組成物が得られる。こうして得られるカルシウム強化ホエイ含有組成物組成物は、後述の実施例にも示されるように、加熱殺菌工程を経ても沈殿を生じにくく、安定性に優れる。
【0029】
本発明の方法で製造されるカルシウム強化ホエイ含有組成物は、カルシウム強化ホエイ飲料として好適である。
カルシウム強化ホエイ飲料とする場合は、飲み易さの点から、最終製品のカルシウム強化ホエイ含有組成物における、ホエイ由来の無脂乳固形分の含有量が、組成物全体に対して5〜8質量%であることが好ましく、6〜8質量%がより好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下において「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。ただし、乳カルシウム剤における含有成分の割合は全固形分を100質量%とした含有率で表し、脱塩ホエイパウダーにおける含有成分の割合は無脂乳固形分を100質量%とした含有率で表す。
【0031】
[調製例1:乳カルシウム剤の調製]
乳酸ホエイ300kgを分画分子量10kDaのUF膜(DK3840C、Desalination社製)で10倍まで濃縮し、透過液270kgを得た。次にこの透過液をRO膜(逆浸透膜)で3倍に濃縮し、濃縮液85kgを得た。この濃縮液を50℃に昇温し、1N水酸化ナトリウムを添加してpH7.0に調整した。1時間後、クラリファイヤーで処理して、沈殿4.4kgを回収した。このようにして得られた沈殿と、乳清蛋白質濃縮物(組成;乳清蛋白質35%、乳糖55%、脂肪2%、灰分5%及び水分3%)の15%水溶液とを、全固形分当りのカルシウム含有量が5%となるように混合し、均質圧500kg/cmで均質処理した後、噴霧乾燥して乳カルシウム剤とした。得られた乳カルシウム剤における乳清蛋白質含有量は28.7%、カルシウム含有量は4.77%であった。
【0032】
[調製例2:乳カルシウム剤の調製]
チーズホエイ200kgを調製例1と同じUF膜で10倍まで濃縮し、透過液180kgを得た。次にこの透過液を50℃に昇温し、1N水酸化ナトリウムを添加してpH7.0に調整した。1時間後、クラリファイヤーで処理して、沈殿2.6kgを回収した。このようにして得られた沈殿と、乳清蛋白質濃縮物(組成;乳清蛋白質12.5%、乳糖76%、脂肪1%、灰分5.5%及び水分5%)の15%水溶液とを、全固形分当りのカルシウム含有量が8.4%となるように混合し、均質圧500kg/cmで均質処理した後、噴霧乾燥して乳カルシウム剤とした。得られた乳カルシウム剤における乳清蛋白質含有量は10%、カルシウム含有量は8.0%であった。
【0033】
[試験例1]
灰分含有量が0.7%の脱塩ホエイパウダーを用いて、カルシウム強化ホエイ含有組成物を調製した。
ホエイ原料として、市販の90%脱塩ホエイパウダー(製品名:DEMINAL−90、DOMO社製、灰分0.7%、蛋白質13%)を用いた。この脱塩ホエイパウダーを脱イオン水に溶解して、無脂乳固形分の含有量が16%と10%の、2種類のホエイ水溶液をそれぞれ調製した。
乳カルシウム剤として、調製例1で得られた乳カルシウム剤(蛋白質28.7%、カルシウム4.77%)を脱イオン水に溶解した。乳カルシウム剤の濃度を変えて7種の乳カルシウム剤水溶液を調製した。
【0034】
表1に示す例1−1〜例1−9の組み合わせで、ホエイ水溶液50質量部と、乳カルシウム剤水溶液50質量部を混合した。
表1には、ホエイ水溶液50質量部中に含まれる無脂乳固形分の量、蛋白質の量、および灰分の量(単位はいずれも質量部)、ならびに乳カルシウム剤水溶液50質量部中に含まれる乳カルシウム剤の量、蛋白質の量、および乳カルシウム剤由来のカルシウムの量(いずれも単位は質量部)を示す。
表2には、得られた混合液における、ホエイ由来の無脂乳固形分の含有量、乳カルシウム剤の含有量、および蛋白質の含有量(いずれも単位は質量%)、該混合液100g中に含まれる乳カルシウム剤由来のカルシウムの量(単位はmg/100g溶液)を示す。
【0035】
混合は、10℃のホエイ水溶液をプロペラ式攪拌装置を用いて、60rpmで攪拌し、その中に10℃の乳カルシウム剤水溶液1kgを10ml/秒の速度で添加した。
得られた混合物(カルシウム強化ホエイ含有組成物)中に生じた沈殿の量(単位:ml/30ml)を以下の方法で測定した。すなわち、容量50mlの遠心管に、混合直後の混合物(カルシウム強化ホエイ含有組成物)30mlを入れ、遠心機(himac CT5DL、日立工機社製)を用いて、回転半径16.2cmで2000rpm、10分間の遠心分離を行い、遠心管の容量目盛により沈殿量を測定する方法で行った(以下、同様。)
また、得られた混合物に対して、保持式殺菌法により75℃、15分の条件で加熱殺菌を行った後に、上記と同様にして沈殿の量を測定した。沈殿量の測定値を表2に示す。
【0036】
(評価)
カルシウム強化ホエイ含有組成物が飲料として用いられる場合、組成物中の沈殿は、飲料をプレート式殺菌機で殺菌する際にプレートへの付着物の原因となりやすい。また飲料の保存中に沈殿が生成するのは好ましくない。これらの点からカルシウム強化ホエイ含有組成物における沈殿量は、0.10ml/30ml以下が望ましい。殺菌後の沈殿量が0.10ml/30ml以下のものを「適」、これを超えるものを「否」と評価して表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
[試験例2]
試験例1における脱塩ホエイパウダーを、灰分含有量が5.0%の脱塩ホエイパウダーに変更したほかは、試験例1と同様にしてカルシウム強化ホエイ含有組成物を調製し、沈殿量の評価を行った。
すなわち、ホエイ原料としては、市販の50%脱塩ホエイパウダー(製品名:DEMINAL−50、DOMO社製、灰分5.0%、蛋白質13%)を用いた。
試験例1と同様に、表3に示す例2−1〜例2−9の組み合わせで、ホエイ水溶液50質量部と、乳カルシウム剤水溶液50質量部を混合し、表4に示す組成の混合液(カルシウム強化ホエイ含有組成物)を得た。
得られた混合物に対して、試験例1と同様にして殺菌前および殺菌後の沈殿量を測定し、評価した。その結果を表4に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表2、4に示されるように、例1−1〜例1−9と、例2−1〜例2−9とは、得られた混合物(カルシウム強化ホエイ含有組成物)の、灰分の含有量は互いに異なるものの、ホエイ由来の無脂乳固形分の含有量、乳カルシウム剤の含有量、蛋白質の含有量、および溶液100g中に含まれる乳カルシウム剤由来のカルシウムの量は、いずれも互いに同じである。
ホエイ原料として、灰分含有量が0.7%の脱塩ホエイパウダーを用いた例1−1〜例1−9は、殺菌前および殺菌後の沈殿量がいずれも少なく「適」であった。
これに対して、灰分含有量が5.0%の脱塩ホエイパウダーを用いた例2−1〜例2−9は、殺菌前の沈殿量は少ないが、殺菌後の沈殿量が多く、評価は「否」であった。
【0043】
[実施例1]
市販の90%脱塩ホエイパウダー(製品名:DEMINAL−90、DOMO社製、灰分0.7%、蛋白質13%)と、無塩バター(森永乳業社製、乳脂肪83.1%、蛋白質0.5%、灰分0.5%)と、調製例1で得られた乳カルシウム剤(蛋白質28.7%、カルシウム4.77%)と脱イオン水とからなるカルシウム強化ホエイ含有飲料を製造した。
出来上がりのカルシウム強化ホエイ含有飲料における、ホエイ由来の無脂乳固形分は8%、無塩バター由来の乳脂肪分は3%、乳カルシウム剤は6.3%、蛋白質の合計の含有量は2.9%、乳カルシウム剤由来のカルシウムの量は300mg/100g溶液とした。
【0044】
具体的には、まず脱塩ホエイパウダーと無塩バターを80℃に加温した脱イオン水中で充分に溶解、混合した後に、10℃以下に冷却してホエイ含有液150kg(ホエイ由来の無脂乳固形分16%、無塩バター由来の乳脂肪分6%)を得た。
これとは別に、乳カルシウム剤を、該乳カルシウム剤由来のカルシウム含有量が600mg/100g溶液となるように、60℃の脱イオン水に溶解して乳カルシウム剤水溶液150kgを得た。
前記で得たホエイ含有液150kgと乳カルシウム剤水溶液150kgとを、液温10℃で混合した後、混合液をプレート式殺菌機(森永エンジニアリング社製)を用いて、75℃、20秒の間接加熱殺菌処理を行って、カルシウム強化ホエイ含有飲料を得た。
殺菌後の液中における沈殿量は0.05ml(測定方法は試験例1と同じ。以下同様。)であり、ほとんど沈殿は生じない。
【0045】
[実施例2]
本例では調製例2で得られた乳カルシウム剤(蛋白質10%、カルシウム8%)を用いた。
出来上がりのカルシウム強化ホエイ含有飲料における、ホエイ由来の無脂乳固形分は5%、無塩バター由来の乳脂肪分は3%、乳カルシウム剤は3.8%、蛋白質の合計の含有量は1.1%、乳カルシウム剤由来のカルシウムの量は300mg/100g溶液とした。
【0046】
具体的には、まず脱塩ホエイパウダーと無塩バターを80℃に加温した脱イオン水中で充分に溶解、混合した後に、10℃以下に冷却してホエイ含有液150kg(ホエイ由来の無脂乳固形分10%、無塩バター由来の乳脂肪分6%)を得た。
これとは別に、乳カルシウム剤を、該乳カルシウム剤由来のカルシウム含有量が600mg/100g溶液となるように、60℃の脱イオン水に溶解して乳カルシウム剤水溶液150kgを得た。
前記で得たホエイ含有液150kgと乳カルシウム剤水溶液150kgとを、液温10℃で混合した後、混合液をプレート式殺菌機(森永エンジニアリング社製)を用いて、130℃、2秒の間接加熱殺菌処理を行って、カルシウム強化ホエイ含有飲料を得た。
殺菌後の液中における沈殿量は0.05mlであった。
【0047】
[実施例3]
実施例2において、混合液の加熱殺菌条件を140℃、2秒に変更したほかは、実施例2と同様にしてカルシウム強化ホエイ含有飲料を製造した。殺菌後の液中における沈殿量は0.05mlであった。
【0048】
[実施例4]
実施例2において、出来上がりのカルシウム強化ホエイ含有飲料における、乳カルシウム剤が3.1%、蛋白質の合計の含有量が1.0%、乳カルシウム剤由来のカルシウムの量が250mg/100g溶液となるように、乳カルシウム剤の使用量を変更した。
したがって、乳カルシウム剤水溶液150kgにおける乳カルシウム剤由来のカルシウム含有量は500mg/100g溶液となる。
そのほかは実施例2と同様にしてカルシウム強化ホエイ含有飲料を製造した。殺菌後の液中における沈殿量は0.05mlであった。
【0049】
[実施例5]
実施例2において、出来上がりのカルシウム強化ホエイ含有飲料における、ホエイ由来の無脂乳固形分が4%、蛋白質の合計の含有量が0.9%となるように、脱塩ホエイパウダーの使用量を変更した。
したがって、ホエイ含有液150kgにおけるホエイ由来の無脂乳固形分は8%となる。
そのほかは実施例2と同様にしてカルシウム強化ホエイ含有飲料を製造した。殺菌後の液中における沈殿量は0.05mlであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中でホエイ原料および乳カルシウム剤を混合する混合工程を経て、液状のカルシウム強化ホエイ含有組成物を製造する方法であって、
前記ホエイ原料の全部または一部が脱塩ホエイであり、該ホエイ原料の無脂乳固形分中に含まれる灰分含有量が0.7質量%以下であることを特徴とするカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法。
【請求項2】
前記乳カルシウム剤が、乳清蛋白質、乳糖、および乳カルシウムを含有し、全固形分に対する乳清蛋白質の含有量が5〜70質量%、カルシウム含有量が3〜15質量%である、請求項1記載のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法。
【請求項3】
前記乳カルシウム剤が下記の工程を経て得られる乳カルシウム剤である、請求項2に記載のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法。
ホエイを限外濾過膜(UF膜)処理またはナノフィルトレーション膜(NF膜)処理して透過液を得る工程と、得られた透過液のpHを6.0〜9.0に調整することにより乳カルシウムを沈殿させる工程と、該乳カルシウムと乳蛋白質とを混合する工程とを経て得られる乳カルシウム剤。
【請求項4】
前記カルシウム強化ホエイ含有組成物中における、蛋白質の含有量が0.4〜3質量%であり、かつ前記乳カルシウム剤に由来するカルシウムの含有量が、組成物100gあたり50〜300mgとなるように配合する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、水中にホエイ原料を含む液と、水中に乳カルシウム剤を含む液とを混合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカルシウム強化ホエイ含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−67148(P2011−67148A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221786(P2009−221786)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】