説明

カルニチンの塩の製造方法

【課題】長期間保存した場合でも固結を生じないカルニチンの塩を提供すること。
【解決手段】(1)カルニチンの塩の湿結晶を、目開き寸法5.6mmの篩を通過する大きさに調製する工程、及び(2)工程(1)で得られたカルニチンの塩の湿結晶を乾燥させる工程を含む、カルニチンの塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルニチンの塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルニチンは脂肪燃焼に必須の成分の一つであり、脂肪代謝促進食品を中心に現在様々な食品に添加されている。しかしながら、その高い吸湿性のため、変性を受けたり、膨潤したり、ペースト状かつ粘着質となったりし易く、取り扱いが非常に困難である。また、安定性が不十分なために、極微量のトリメチルアミンが放出され、不快な魚臭を与えることがある。
【0003】
このように、カルニチンは貯蔵及び加工処理において多くの問題を含んでいる。そこで、このような問題を解決するために吸湿性の低い塩としてカルニチンフマル酸塩が開発された。
【0004】
一方、粉体の固結防止方法としては、例えば、特許文献1〜3に記載されている方法が知られている。特許文献1では炭酸カルシウム、二酸化珪素等の固結防止剤を混合し、固結を防止する方法が提案されている。また、特許文献2では、固結は吸湿、放湿現象の繰り返しにより大きく助長されることから、水分を通さない袋に包装し、乾燥剤を介在させる方法が提案されている。特許文献3では、包装する前に攪拌処理を施すことによる固結防止法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2517862号公報
【特許文献2】特開昭59−84765号公報
【特許文献3】特開昭61−15726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、前述のように吸湿性の低い塩として開発されたカルニチンフマル酸塩においても、長期保存によって固結し、使用に際して粉砕・整粒を要することがあるなどの不便な点があることを見出した。更に、その防止策として一般的な粉体の固結防止方法(例えば、特許文献1〜3に記載されている方法)を適用したが、固結しないカルニチンの塩が得られなかった。
【0007】
すなわち、本発明の主な目的は、長期間保存した場合でも固結を生じないカルニチンの塩を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カルニチンの塩を製造する際に、特定の粒子径に調製した後に乾燥を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)カルニチンの塩の湿結晶を、目開き寸法5.6mmの篩を通過する大きさに調整する工程、及び(2)工程(1)で得られたカルニチンの塩の湿結晶を乾燥させる工程を含む、カルニチンの塩の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な操作により、長期間保存した場合でも固結を生じないカルニチンの塩を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)カルニチンの塩
本発明で使用するカルニチンの塩の種類は、本発明の方法で固結が生じないようになるものであれば限定されない。カルニチンの物性が大きく改善される点から、有機酸の塩が好ましい。有機酸の中でも、フマル酸の塩がより好ましい。カルニチンの吸湿性が大きく改善されるからである。
【0012】
本発明で使用するカルニチンフマル酸塩は、市販のものを使用することもできるし、公知の方法で製造することもできる。例えば、(a)カルニチン分子内塩と有機酸の混合物に質量%で6〜8%となるように水を加え、上記混合物を攪拌しながら100〜120℃で加熱溶解したものを完全に固化するまで冷却し、粉砕して所望の粒子サイズの塩を得る方法(特表2002−540094号公報)、(b)カルニチン分子内塩とペースト状又は半溶液状のスラリーを得るための最小限の水とを混合し、カルニチンと等モル有機酸を加え、得られる反応混合液をよく攪拌し、その後、相対湿度50%又はそれ以下の大気中に静置して固化・脱水を行うか又は乾燥により固化・脱水し、得られた固化物を粉砕して果粒状または粉末状の塩を得る方法(特表2001−513096号公報)、(c)
室温(15〜25℃)でフマル酸を含む低級アルキルアルコール溶液中にカルニチンとフマル酸をそれぞれ交互に添加する方法を挙げることができる。これらの中でも、不純物の生成が抑制され高純度のカルニチンフマル酸塩が得られるので、(c)の方法が好ましい。
【0013】
上記カルニチンフマル酸塩の光学活性の種類は限定されない。例えば、光学的に純粋なL体又はR体のカルニチンフマル酸塩、ラセミ体のカルニチンフマル酸塩、光学活性に偏りがある(L体又はR体のどちらかがもう一方よりも多く含まれる)カルニチンフマル酸塩を使用することができる。好ましくは、L−カルニチンフマル酸塩である。
【0014】
また、本発明においては、上記カルニチンフマル酸塩だけでなく、カルニチンフマル酸塩の誘導体も使用することができる。当該誘導体の種類は限定されず、例えば、カルニチン、あるいはフマル酸のカルボキシル基がエステルを形成したもの、フマル酸のフリーのカルボキシル基が陽イオンで塩化されたもの、カルニチンの水酸基がエステルを形成したものを挙げることができ、これらの中でも、アセチルカルニチンのフマル酸塩、プロピオニルカルニチンのフマル酸塩等が好ましい。
【0015】
更に、保存等により固結したカルニチンフマル酸を使用(再利用)することもできる。
【0016】
(2)本発明のカルニチンの塩の製造
本発明では、このようなカルニチンの塩を下記の工程に供することにより、長期に保存した場合でも固結を生じないカルニチン又はその塩を得ることができる。本発明において固結を生じないとは、固結し難くなった状態又は固結を生じないことをいう。例えば、外気からの吸湿をできる限りシャットアウトした状態で保管した場合に、6ヶ月以上、好ましくは9ヶ月以上固結しない状態をいう。
【0017】
(2−1)カルニチンの塩の湿結晶を特定の大きさに調製する工程
本発明において湿結晶とは、乾燥工程前の溶媒を含有した状態のカルニチンの塩の結晶、あるいは乾燥途中で未だ溶媒が残存している状態のカルニチンの塩の結晶をいう。
【0018】
当該湿結晶の含液率は限定されず、篩(メッシュ)を通過させる前後において結晶を形成している(維持している)程度の含液率以下とするのが好ましい。含液率の調整は、例えば遠心分離の程度を調整したり、遠心分離後の湿結晶を軽く乾燥させたりすることにより行うことができる。
【0019】
例えば、結晶中の含液率は0.001〜60質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.005〜50質量%、更に好ましくは0.01〜30質量%の範囲である。0.001質量%以上の場合は、長期保存に供した場合に結晶が固結する可能性が高くなるからである。また、60質量%以下とすることにより、結晶を形成したままの状態を保つことができ乾燥に長時間を要さないからである。
【0020】
また、溶媒の種類も限定されず、水、アルコール、有機溶媒又はそれらを組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明では、当該湿結晶を特定の目開き寸法以下の篩を通過する大きさに調製する。目開き寸法は、5.6mm(3.5メッシュ)、好ましくは2.8mm(6.5メッシュ)、より好ましくは1.7mm(10メッシュ)である。目開き寸法は、日本工業規格JIS Z8801−1982「標準ふるい」に依る。乾燥前に湿結晶を目開き寸法5.6mmの篩を通過する大きさに調製することにより、長期間保管しても、カルニチンの塩の固結を防ぐことができるからである。
【0022】
固液分離後の湿結晶(ケーク)をかき取り機等でかき取った結晶が、目開き寸法5.6mmの篩を通過する大きさであった場合は、粒子径の調製を省略することができる。粒子径を調製する場合は、その方法は限定されず、必ずしも篩を通す必要はない。例えば、乳鉢で粉砕してもよいし、機械的に粉砕機等で粉末化してもよいし、当該目開き寸法の篩を通してもよい。
【0023】
粉砕機の機構別の種類としては、(イ)ロール式粉砕機(ロール回転型、ローラー転動型)、(ロ)高速回転衝撃式粉砕機(ハンマー型、回転円盤型、軸流型、アニュラー型)、(ハ)容器駆動式の媒体式粉砕機(転動ミル、振動ミル、遊星ミル、遠心流動層ミル)、(ニ)攪拌式の媒体式粉砕機(塔型、攪拌槽型、流通管型、アキュラー型)、(ホ)気流式粉砕機(衝突型、粒子磨砕型)、(ヘ)せん断・磨砕式粉砕機(圧縮せん断型、高速回転せん断型)などが挙げられ、塊の大きさや固さに応じ適宜選択すればよい。
【0024】
大きさを調製した湿結晶の確認は、例えばレーザー回析法など公知の方法で粒子のサイズを測定してもよいし、当該目開き寸法の篩を通してもよい。
【0025】
(2−2)乾燥する工程
次に、粒子径が調製された結晶について乾燥を行う。その方法は限定されず、コニカルドライヤー、棚段乾燥機など公知の方法で行うことができる。
【0026】
乾燥時の温度は乾燥が確実に行われ、且つカルニチンの塩が融解しない温度範囲で実施すればよい。例えば30℃〜130℃とすることが好ましく、より好ましくは40℃〜100℃、更に好ましくは50℃〜80℃の範囲である。乾燥温度を30℃以上とすることにより、30℃における水の蒸気圧が約3.99kPa(30mmHg)であることから、溶媒に水が含まれている場合にも乾燥が効率的に行えるためである。また、130℃以下とするのは、カルニチンの塩が融解しないようにするためである。
【0027】
本発明においては、更に減圧下の条件で乾燥させることもできる。減圧度は、溶媒の種類に応じて、乾燥温度に応じた溶媒の蒸気圧を勘案して設定すればよい。例えば、13.3kPa(100mmHg)以下とすることが好ましく、より好ましくは7.98kPa(60mmHg)以下、更に好ましくは3.99kPa(30mmHg)以下の範囲である。
【0028】
このようにして得られたカルニチンフマル酸塩は、必要に応じて透湿性が非常に低いアルミパウチ等に充填することにより、長期保管しても固結を防止することができる。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
フマル酸(29.8kg,0.257kmol)を95質量%エタノール650kgに20℃で添加し、15分間攪拌した。次いで、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加し、10分間攪拌し、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加後10分間攪拌した(カルニチン分子内塩を2回に分割して添加した。)。
【0030】
次に、このようにして得られた溶液に、フマル酸(29.8kg,0.257kmol)を添加して15分間攪拌した後、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加して10分間攪拌し、更に、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加して10分間攪拌した(カルニチン分子内塩を2回に分割して添加した。)。
【0031】
続いて、そこに、フマル酸(29.8kg,0.257kmol)を添加して15分間攪拌した後、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加して10分間攪拌し、更に、カルニチン分子内塩(20.7kg,0.128kmol)を添加して10分間攪拌した(カルニチン分子内塩を2回に分割して添加した。)。
【0032】
このようにしてカルニチンフマル酸塩を生成した後、遠心分離により固液分離を行い、目開き寸法1.7mmの篩を通過させた湿結晶120kg(全量)について、真空乾燥(0.4kPa、60℃、10.5時間)を実施した。乾燥後の結晶を0.007g/24hrのアルミパウチに充填後、熱溶着を施して密封した。1年10ヶ月保管した状態でも固結は認められなかった。
【0033】
<実施例2>
実施例1と同様にしてカルニチンフマル酸塩を生成し、遠心分離により固液分離を行った。その後、カルニチンフマル酸塩の湿結晶30g(全量)を乳鉢で十分に粉砕して目開き寸法5.6mmの篩を通過させ、真空乾燥(0.7kPa、70℃、8時間)を実施した。乾燥後の結晶を透湿度0.007g/24hrのアルミパウチに充填後、熱溶着を施して密封した。室温で10ヶ月間保管した状態でも固結は認められなかった。
【0034】
<比較例1>
実施例1と同様にしてカルニチンフマル酸塩を生成した。その後、遠心分離により固液分離を行い、乾燥前の湿結晶の粒度が目開き寸法5.6mmの篩上に残る大きさのカルニチンフマル酸塩10kgを含む120kgについて真空乾燥(0.4kPa、60℃、11時間)を実施した。乾燥後の結晶を透湿度0.007g/24hrのアルミパウチに充填後、熱溶着を施して密封した。4ヵ月間保管した状態で固結が認められた。
【0035】
<実施例3>
比較例1で固結したカルニチンフマル酸塩を粉砕機で粉砕し、目開き寸法2.5mmの篩を通過させた湿結晶50kg(全量)を、棚段乾燥機で真空乾燥(0.4kPa、60℃、90時間)を実施した。乾燥後の結晶を透湿度0.007g/24hrのアルミパウチに充填後、熱溶着を施して密封した。室温で9ヶ月間保管した状態でも固結は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、カルニチンの塩の製造方法。
(1)カルニチンの塩の湿結晶を、目開き寸法5.6mmの篩を通過する大きさに調製する工程
(2)工程(1)で得られたカルニチンの塩の湿結晶を乾燥させる工程
【請求項2】
カルニチンの塩がカルニチンフマル酸塩である請求項1記載の方法。
【請求項3】
30〜130℃で乾燥を行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
13.3kPa以下の減圧下で乾燥を行う、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−92036(P2012−92036A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240040(P2010−240040)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】