説明

カルニチン塩及びpH調整剤配合組成物

【課題】カルニチン塩に特有の酸味が緩和されて、コーヒーやお茶などの飲料や料理とともに摂取できるカルニチン塩配合飲用組成物を提供する。
【解決手段】カルニチン塩およびpH調整剤を含有する飲用組成物であって、カルニチン塩の濃度が0.55g/Lになるように水に溶解したときの水溶液のpHが5以上となるようにpH調整剤を含有することを特徴とする飲用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルニチン塩を含有する組成物に関する。特に本発明は、カルニチン塩に特有の酸味を緩和することで、お茶やコーヒーなどの嗜好食品や料理に、その味や風味に悪影響を与えることなく添加することができるカルニチン塩配合組成物に関する。また、本発明はカルニチン塩に特有の酸味を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルニチン(4-hydroxy-3-trimethylaminobutyric acid)は、生体の脂質代謝に関与するヒドロキシアミノ酸である。かかる成分は、肉食により補給されるほか、生体内でL-リシンとL-メチオニンから生合成されるため、成長期や出産期以外は基本的に補給する必要はないが、加齢に従って、また現代の多忙な生活の中で産生量が減り不足がちになっている。かかるカルニチンの不足は、肥満や疲労を起こす原因になっているといわれている。
【0003】
最近では、L-カルニチンの肥満抑制効果、特に脂肪燃焼促進効果が解明され、ダイエット素材として使われている。また、L-カルニチンは疲労回復にも高い効果を発揮し、現に米国の医療現場では疲労回復用としても使用されている。かかるL-カルニチンは、それ自体吸湿性が高く使用しにくいため、通常は、酒石酸塩やフマル酸塩などの塩の形態で使用されている。
【0004】
しかし、カルニチンの塩は一般に酸味が強いことが知られている。かかるカルニチン塩の酸味は、これを固形製剤の形態で使用する場合や清涼飲料水に配合して使用する場合は特に問題にならず、逆にカルニチン塩の酸味によって清涼飲料水の風味が爽やかになるといった有利な面が利用されているのが現状である。しかし、緑茶や烏龍茶などのお茶やコーヒーなどの飲料との併用は難しく、カルニチン塩を配合することによってかかる飲料の風味を著しく損なう結果となる。また、カルニチン塩は、特有の酸味ゆえに、料理全般に広く用いることは難しい。このため、カルニチン塩を、料理に配合したりお茶に添加するなど日常の食事の中で摂取することはなされていない。
【0005】
また、カルニチン塩の酸味は、嫌味がなく、比較的爽やかな酸味であるため、これを他の成分に由来する嫌味(例えば、収斂味など)を低減するためのマスキング剤として使用する例はあるものの(特許文献1など参照)、逆にこの酸味をマスキングしようと試みられたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−306847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カルニチン塩に特有の酸味が緩和されて、コーヒーやお茶などの飲料や料理とともに摂取できるカルニチン塩配合組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、カルニチン塩に特有の酸味をマスキングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決を目指して検討を重ねていたところ、カルニチン塩を水に溶解したときの水溶液のpHが5以上になるような割合で、カルニチン塩にpH調整剤を組み合わせて用いることにより、カルニチン塩が固有に有する酸味が抑制されることを見出し、かかる割合でpH調整剤を配合したカルニチン塩の組成物(固体組成物、液体組成物)は、お茶やコーヒーなどの飲料と併用しても、また料理に添加して使用しても、飲料や料理の風味に悪影響を与えることなく、日常の食生活の中でカルニチンを手軽に摂取できることを確認した。
【0009】
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を包含するものである:
(1)カルニチン塩及びpH調整剤配合組成物
(1-1)カルニチン塩およびpH調整剤を含有する固体組成物であって、カルニチン塩の濃度が0.55g/Lになるように水に溶解したときの水溶液のpHが5以上となるように、pH調整剤を含有することを特徴とする固体組成物。
(1-2)前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(1-1)に記載する固体組成物。
(1-3)前記水溶液のpHが5〜8である、(1-1)または(1-2)に記載する固体組成物。
(1-4)前記カルニチン塩が、カルニチンの酒石酸塩またはフマル酸塩である(1-1)〜(1-3)のいずれか一項に記載する固体組成物。
(1-5)粉末の形状を有する、(1-1)〜(1-4)のいずれか一項に記載する固体組成物。
(1-6)食品である(1-1)〜(1-5)のいずれか一項に記載する固体組成物。
(1-7)(1-1)〜(1-6)のいずれか一項に記載する固体組成物を溶媒に溶解または分散して調製される液状組成物。
【0010】
(2)カルニチン塩の酸味抑制方法
(2-1)カルニチン塩の酸味抑制方法であって、カルニチン塩の濃度が0.55g/Lになるように水に溶解させたときの水溶液のpHが5以上となるような割合で、pH調整剤をカルニチン塩と組み合わせて用いることを特徴とする方法。
(2-2)前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、(2-1)に記載する方法。
(2-3)前記水溶液のpHが5〜8である、(2-1)または(2-2)に記載する方法。
(2-4)前記カルニチン塩が、カルニチンの酒石酸塩またはフマル酸塩である(2-1)〜(2-3)のいずれか一項に記載する方法。
(2-5)カルニチン塩を含む組成物の酸味抑制方法である、(2-1)〜(2-4)のいずれか一項に記載する方法。
(2-6)カルニチン塩を含む組成物が食品である(2-5)に記載する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルニチン塩に特有の酸味が緩和されて、コーヒーやお茶などの飲料や料理の味に影響を与えず、これらの飲料や料理とともに摂取できるカルニチン塩配合組成物を提供することができる。また本発明によれば、カルニチン塩に特有の酸味をマスキングすることができ、特にpH5〜8の範囲になるような割合でpH調整剤を用いることによりカルニチン塩特有の酸味だけでなく、塩味、苦味および甘味といった雑味の発現を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)カルニチン塩及びpH調整剤配合組成物
本発明の組成物は、カルニチン塩に加えて、pH調整剤が特定の割合で配合されていることを特徴とする。
【0013】
ここで本発明が用いるカルニチン塩はカルニチンの酸塩であり、具体的には硝酸や塩酸などの無機酸との塩;酒石酸やフマル酸などの有機酸との塩を例示することができる。好ましくは、カルニチンの酒石酸塩やフマル酸塩などの、カルニチンの有機酸塩である。
【0014】
本発明で用いられるpH調整剤としては、一般に食品に使用できるpH調整剤であればよく、制限はされないが、具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、L-酒石酸水素カリウム、L-酒石酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、DL-酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、炭酸カリウム、乳酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、およびDL-リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。カルニチン塩が有する酸味を抑制し緩和するという目的からは、これらのpH調整剤のいずれをも使用することができるが、なかでも酸味抑制効果が高いpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0015】
なお、上記pH調整剤は、いずれもカルニチン塩と併用することによってカルニチン塩が有する酸味を抑制し緩和する効果を発揮するが、pH調整剤の種類によってはカルニチン塩と併用することで塩味や苦味が生じるものがある。カルニチン塩との併用によってかかる不都合な味(本発明では「雑味」ともいう)が生じないか、または生じても僅かであるpH調整剤として、好ましくは炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムを挙げることができる。より好ましくは炭酸水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムである。
【0016】
これらのpH調整剤は、カルニチン塩を、その濃度が0.55g/Lとなるように水に溶解したときに当該水溶液のpHが5以上、好ましくは5〜9、より好ましくは5〜8の範囲になるような割合で用いられる。pHが5以上、特にpH5〜9になるような割合で上記pH調整剤を用いることによりカルニチン塩特有の酸味が抑制され、またpH5〜8の範囲になるような割合で上記pH調整剤を用いることによりカルニチン塩特有の酸味だけでなく、塩味、苦味および甘味といった雑味の発現をも抑えることができる。
【0017】
特に、炭酸水素ナトリウムまたはリン酸水素二ナトリウムを、pH6〜7の範囲になるような割合で用いることにより、本発明において特に好適な、酸味、塩味、苦味および甘味といった味発現が抑制された、無味な組成物を調製することができる。
【0018】
なお、本発明の目的を達成する限り、上記pH調整剤は、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0019】
本発明の組成物中のカルニチン塩とpH調整剤との配合割合は、カルニチン塩濃度が0.55g/Lとなるように水に溶解したときの水溶液のpHが上記pH条件を満たす範囲であればよく、カルニチン塩の種類やpH調整剤の種類に応じて適宜調整することができる。
【0020】
例えば、カルニチン塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、後述する実験例1の表1に示すように、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する炭酸水素ナトリウムの割合を約35〜370重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5.5〜8.3の範囲にすることができ、約35〜250重量部とすることにより上記水溶液のpHを約5.5〜8の範囲にすることができ、また約45〜100重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0021】
また、カルニチン塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として炭酸ナトリウムを用いる場合、同様に後述する実験例1の表1に示すように、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する炭酸ナトリウムの割合を約25〜40重量部とすることによって上記水溶液のpHを約6〜9の範囲にすることができ、約25〜33重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0022】
また、カルニチン塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤としてリン酸水素ナトリウムを用いる場合、後述する実験例1の表1に示すように、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するリン酸水素ナトリウムの割合を約50〜550重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5〜8の範囲にすることができ、約50〜320重量部とすることにより上記水溶液のpHを約5〜7.7の範囲にすることができ、また約65〜100重量部とすることにより上記水溶液のpHを約6〜7の範囲にすることができる。
【0023】
さらに、カルニチン塩としてL-カルニチン酒石酸塩を、またpH調整剤として水酸化ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する水酸化ナトリウムの割合を約15重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤としてクエン酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するクエン酸ナトリウムの割合を約255重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤としてリン酸水素2カリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するリン酸水素2カリウムの割合を約200重量部とすることによって上記水溶液のpHを約7に調整することができ;pH調整剤として酢酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対する酢酸ナトリウムの割合を約2700重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5.5に調整することができ;pH調整剤としてL-アスコルビン酸ナトリウムを用いる場合、カルニチン酒石酸塩100重量部に対するL-アスコルビン酸ナトリウムの割合を約2700重量部とすることによって上記水溶液のpHを約5に調整することができる。
【0024】
なお、上記は目安であって、具体的な配合割合は、カルニチン塩を0.55g/L濃度で含有する水溶液のpHが5以上になるように(好ましくはpH5〜9、より好ましくはpH5〜8、特に好ましくはpH6〜7)、そのpHをpHメーターで測定しながらpH調整剤を配合し、その結果、決定したpH調整剤の配合量とカルニチン塩の配合量との割合から決めることができる。
【0025】
本発明の組成物は、その形態を特に制限されるものではない。例えば、カルニチン塩とpH調整剤を含有する粉末状や顆粒状の組成物であってもよいし、これらを一定の形態に成形した丸剤または錠剤の形態を有するものであってもよい。なお、これらの固体組成物は、カルニチン塩とpH調整剤からなるものであってもよいが、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を配合することもできる。かかる成分としては、無味であることが好ましく、例えば難消化性デキストリン等の食物繊維;ロイシン、イソロイシンおよびバリン等の分岐鎖アミノ酸(BCAA)、ならびにアラニンやプロリン等のアミノ酸類;ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、β−カロテン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、葉酸等のビタミン類;亜鉛、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅等のミネラル類;大豆イソフラボン、コラーゲン、ヒアルロン酸、セラミド、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラビノース、乳酸菌、コエンザイムQ10、αリポ酸、ブドウ種子、カフェイン、カプサイシン、ニガウリ、ギムネマ、グァバ、ショウガ、ガルシニア、白インゲン豆、甘草、ウコン、ニンニク、シソ、高麗人参、プルーン、ゲニポシド酸、アスペルロサイド、クロロゲン酸、オウクビン、プロアントシアニジン、アントシアニジン、ハス胚芽、スターフルーツ、カテキン類、マカ等を好適に例示することができる。
【0026】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、粉末化、顆粒化、丸剤化、錠剤化などの製剤化にあたって必要な担体または添加剤を配合することもできる。かかる成分としては、好ましくは食品に配合して使用されるものであって無味の成分である。制限はされないが、担体としては、例えばゼラチンやグリセリンなどを;また添加剤としては、例えば甘味料(ハチミツ、トレハロース、砂糖、黒糖、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、L-アラビノース、D-キシリトール、D-リボースなどが含まれる)や、賦形剤(粉末還元麦芽糖、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン、デンプン、微粒二酸化ケイ素、グリセリン脂肪酸エステル、ミツロウ、サフラワー油などが含まれる)などを挙げることができる。
【0027】
また、本発明の組成物は、液状を有する組成物であってもよい。かかる液状組成物は、上記の固体組成物を溶媒(好ましくは水、エタノールまたは含水エタノール)に溶解または分散して調製されるものであってもよく、例えば上記の固体組成物を料理水、飲料水、発砲水、清涼飲料水(例えば、コーヒー飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶やブレンド茶等の茶飲料など)、飲料、ドリンク剤、ゼリー飲料、またはアルコール飲料などに、溶解または分散して調製されるものが含まれる。
【0028】
また本発明の液状組成物には、本発明の固体組成物を溶媒に溶解させたものだけではなく、最終組成物中にカルニチン塩とpH調整剤が配合されているものであって、カルニチン塩濃度が0.55g/Lになるように溶媒に溶解させた場合に、そのpHが5以上、好ましくはpH5〜9、より好ましくはpH5〜8、さらに好ましくはpH6〜7になるものも含まれる。
【0029】
(2)カルニチン塩の酸味抑制方法
本発明は、カルニチン塩に特有の酸味の発現を抑制する方法(マスキング方法)に関する。当該方法は、カルニチン塩を、0.55g/L濃度になるように水に溶解させたときの水溶液のpHが5以上となるような割合で、pH調整剤をカルニチン塩と組み合わせて用いることによって行うことができる。
【0030】
ここで対象とするカルニチン塩は、前述するようにカルニチンの酸塩であり、具体的には硝酸や塩酸などの無機酸との塩;酒石酸やフマル酸などの有機酸との塩を例示することができる。好ましくは、カルニチンの酒石酸塩やフマル酸塩などの、カルニチンの有機酸塩である。
【0031】
本発明で用いられるpH調整剤としては、それを配合することで組成物のpHを調整することのできるものであればよく、制限はされないが、具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、L-酒石酸水素カリウム、L-酒石酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、DL-酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸ナトリウム、炭酸カリウム、乳酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、およびDL-リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。カルニチン塩が有する酸味を抑制し緩和するという本発明の目的からは、これらのpH調整剤のいずれをも使用することができるが、なかでも酸味抑制効果が高いpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0032】
なお、前述するように、pH調整剤の種類によってはカルニチン塩と併用することで塩味や苦味が生じるものがある。カルニチン塩との併用によってかかる不都合な味(雑味)が生じないか、または生じても僅かであるpH調整剤として、好ましくは炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびL-アスコルビン酸ナトリウムを挙げることができる。より好ましくは炭酸水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムである。従って、これらのpH調整剤を用いる場合、本発明の方法は、カルニチン塩の酸味抑制方法であると同時に、塩味、苦味または甘味などの雑味の発現抑制方法として位置づけることができる。
【0033】
これらのpH調整剤は、カルニチン塩を、その濃度が0.55g/Lとなるように水に溶解したときに当該水溶液のpHが5以上、好ましくは5〜9、より好ましくは5〜8の範囲になるような割合で用いられる。pHが5以上、特にpH5〜9になるような割合で上記pH調整剤を用いることによりカルニチン塩特有の酸味が抑制され、またpH5〜8の範囲になるような割合で上記pH調整剤を用いることによりカルニチン塩特有の酸味だけでなく、塩味、苦味および甘味といった雑味の発現をも抑えることができる。特に、炭酸水素ナトリウムまたはリン酸水素二ナトリウムを、pH6〜7の範囲になるような割合で用いることにより、本発明において特に好適な、酸味がマスキングされ、且つ塩味、苦味および甘味といった雑味発現が抑制された、無味な組成物を調製することができる。
【0034】
なお、本発明の目的を達成する限り、上記pH調整剤は、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0035】
本発明の方法において、カルニチン塩とpH調整剤を併用する割合は、カルニチン塩濃度が0.55g/Lとなるように水に溶解したときの水溶液のpHが上記pH条件を満たす範囲であればよく、カルニチン塩の種類やpH調整剤の種類に応じて適宜調整することができる。幾つかの例については(1)で述べた通りであり、これを目安に適宜調整することができる。具体的な割合は、カルニチン塩を0.55g/L濃度で含有する水溶液のpHが5以上になるように(好ましくはpH5〜9、より好ましくはpH5〜8、特に好ましくはpH6〜7)、そのpHをpHメーターで測定しながらpH調整剤を配合し、その結果、決定したpH調整剤の配合量とカルニチン塩の配合量との割合から決めることができる。
【0036】
斯くしてカルニチン塩特有の酸味を抑制することができ、またpH調整剤を選択することによって雑味の発現をも抑制することができるが、かかる本発明の方法は、カルニチン塩を含有する組成物の酸味抑制方法、特にカルニチン塩を含有する食品のカルニチン塩に起因する酸味抑制方法として応用することができる。
【0037】
ここで対象とするカルニチン塩を含有する組成物としては、カルニチン塩を含有する食品であって、カルニチン塩に由来する酸味が食品の味や風味の点から好ましくないものを、好適に挙げることができる。より具体的には、カルニチン塩に由来する酸味が食品の味や風味の点から好ましくない料理水、飲料水、発泡水、清涼飲料水(例えば、コーヒー飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、紅茶飲料、緑茶やブレンド茶等の茶飲料など)、飲料、ドリンク剤、ゼリー飲料、またはアルコール飲料、スープ、牛乳を挙げることができる。より好ましくはコーヒー飲料や緑茶やブレンド茶等の茶飲料である。
【実施例】
【0038】
以下、実験例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」を意味するものとする。
【0039】
実験例1
(1)酸味の評価
L−カルニチン塩として、L−カルニチン酒石酸塩を用いて、これに各種のpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウム、グルコン酸カリウム、乳酸ナトリウム)を、表1に示す処方に従って組み合わせて用いて、L−カルニチン酒石酸塩の酸味の低減効果を評価した。
【0040】
具体的には、被験組成物(表1参照:実施例1〜24、比較例1〜11)を下記の方法に従って調製し、モニター被験者10名に各組成物を飲んでもらい、酸味の程度を下記に示す4段階で評価してもらった。
【0041】
<被験組成物の調製方法>
1.0.55g/Lのカルニチン酒石酸塩水溶液を調製する。
2.1で調製したカルニチン酒石酸塩水溶液を用いて、各種pH調整剤を5g/L濃度となるように溶解して、pH調整剤の水溶液を調製する。
3.1で調製したカルニチン酒石酸塩水溶液100mlに対して、pHメーターでpHを測定しながら、2で調製したpH調整剤の水溶液を徐々に添加し、特定のpH値になるように調整する。
【0042】
<味評価方法>
モニター被験者(10名)に、各被験組成物を飲んでもらい、酸味について下記の4段階で評価してもらった。
4点(◎):酸味を感じない
3点(○):酸味をほとんど感じない
2点(△):酸味を感じる
1点(×):酸味を強く感じる。
【0043】
結果を表1に示す。なお、評価項目(酸味評価)は、モニター被験者の平均点数を四捨五入した結果を、上記基準に従って示している〔◎(4点)、○(3点)、△(2点)、×(1点)〕。
【0044】
【表1】

【0045】
カルニチン酒石酸塩と各濃度のpH調整剤を含有する水溶液をpH5以上、特にpH5〜9に調整した場合、表1に示すように、カルニチン塩の酸味が緩和された。一方、この水溶液のpHが5未満の場合は、比較例1〜11で示すようにカルニチン塩の酸味が感じられた。
【0046】
(2)酸味、塩味、甘味、苦味の総合評価
上記結果から、酸味の評価が3点以上(○または◎)である被験組成物(実施例1〜24)を対象として、酸味に加えて塩味、甘味、苦味、ならびに味総合評価についても、モニター被験者(10名)に下記の基準に従って4段階で評価してもらった。
4点(◎):味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じない
3点(○):味(酸味、塩味、甘味、または苦味)をほとんど感じない
2点(△):味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じる
1点(×):味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を強く感じる。
【0047】
結果を表2に示す。なお、表中の味評価の項目は、各味についてモニター被験者の平均点数を四捨五入した結果を、上記基準に従って示したものである〔◎(4点)、○(3点)、△(2点)、×(1点)〕。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、カルニチン酒石酸塩とpH調整剤を含有する水溶液をpH8以下に調整し、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはL−アスコルビン酸ナトリウムを使用した場合は(実施例1〜5、9〜10、12〜18、20、21、23及び24)、酸味は勿論、それ以外の塩味、甘味及び苦味も感じられず、味の総合評価としては非常に好ましいものとなった。とりわけ、炭酸水素ナトリウムまたはリン酸水素二ナトリウムを用いてpHを6〜7の間に調整することにより、水溶液の雑味が完全に消失した。
【0050】
(1)と(2)の結果を総合的に判断すると、カルニチン酒石酸塩の水溶液(0.55g/L)に、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはL−アスコルビン酸ナトリウムを、pHが5〜8の間になるように、配合することにより、カルニチン酒石酸塩の水溶液の味を無味に近づけることができることがわかる。
【0051】
なお、表1および2に記載する組成物(実施例1〜24)は、カルニチン酒石酸塩と各種pH調整剤を含有する水溶液(液状組成物)であるが、さらに、この処方に従ってカルニチン酒石酸塩(粉末状)と表1に記載する各種のpH調整剤(粉末)を、表1に記載する重量比で混合して、本発明の粉末状組成物(実施例1’〜24’)を調製した。
【0052】
実験例2
表3に示した処方に従って、L−カルニチン酒石酸塩(粉末)とpH調整剤として炭酸水素ナトリウム(粉末)を混合し、得られた粉末組成物(実施例25〜28)を、それぞれコーヒー(Blendy(登録商標)、味の素ゼネラルフーズ(株)製)1L(pH5.11)に溶解した。また、比較のため、L−カルニチン酒石酸塩(粉末)を0.55g/Lとなるようにコーヒーに溶解して、このコーヒー飲料を比較例12とした。各コーヒー飲料のpHを測定するとともに、モニター被験者10名に各コーヒー飲料を飲んでもらい、酸味、塩味、甘味および苦味の程度を、下記に示す基準に従って4段階で評価してもらった。
【0053】
<評価基準>
4点(◎):コーヒー以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じない
3点(○):コーヒー以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)をほとんど感じない
2点(△):コーヒー以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じる
1点(×):コーヒー以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を強く感じる。
【0054】
結果を表3に示す。なお、表中の味評価の項目は、各味についてモニター被験者の平均点数を四捨五入した結果を、上記基準に従って示したものである〔◎(4点)、○(3点)、△(2点)、×(1点)〕。
【0055】
【表3】

【0056】
コーヒーはもともと酸性であることから、L−カルニチン酒石酸塩を溶解することによる酸味はそれほど感じないと考えられたが、比較例12の結果からわかるように、コーヒーにL−カルニチン酒石酸塩を溶解した場合のコーヒー飲料のpHは5未満であり、コーヒーの風味に強く影響するほど酸味が感じられた。これに対して、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を配合した粉末組成物(実施例25〜28)をコーヒーに溶解して調製したコーヒー飲料(pH5以上)は、L−カルニチン酒石酸塩由来の酸味を抑えることができ、かつ、コーヒー本来の味も損なわれていなかった。
【0057】
実験例3
表4に示した処方に従って、L−カルニチン酒石酸塩(粉末)とpH調整剤として炭酸水素ナトリウム(粉末)を混合し、得られた粉末組成物(実施例29〜32)を、それぞれ煎茶(新茶人(登録商標)、味の素ゼネラルフーズ(株)製)1L(pH6.54)に溶解した。また、比較のため、L−カルニチン酒石酸塩(粉末)を0.55g/Lとなるようにコーヒーに溶解して、このコーヒー飲料を比較例13とした。各コーヒー飲料のpHを測定するとともに、モニター被験者10名に各コーヒー飲料を飲んでもらい、酸味、塩味、甘味および苦味の程度を、下記に示す基準に従って4段階で評価してもらった。
【0058】
<評価基準>
4点(◎):お茶以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じない
3点(○):お茶以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)をほとんど感じない
2点(△):お茶以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を感じる
1点(×):お茶以外の味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を強く感じる。
【0059】
結果を表4に示す。なお、表中の味評価の項目は、各味についてモニター被験者の平均点数を四捨五入した結果を、上記基準に従って示したものである〔◎(4点)、○(3点)、△(2点)、×(1点)〕。
【0060】
【表4】

【0061】
比較例13の結果からわかるように、煎茶にL−カルニチン酒石酸塩を溶解した場合の茶飲料のpHは5未満であり、煎茶の風味に強く影響するほど酸味が感じられた。これに対して、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を配合した粉末組成物(実施例29〜32)を煎茶に溶解して調製した茶飲料(pH5以上)は、L−カルニチン酒石酸塩由来の酸味を抑えることができ、かつ、煎茶本来の味も損なわれていなかった。
【0062】
実験例4
表5に示した処方に従って、L−カルニチン酒石酸塩(粉末)とpH調整剤として炭酸水素ナトリウム(粉末)を混合して粉末組成物(実施例33〜39)を調製した。表5には、これを1Lの飲料水に溶解して調製した水溶液のpH値、およびその味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を実験例1に示す基準に従って評価した結果を、併せて示す。
【0063】
【表5】

【0064】
その後、これらの水溶液を、カルニチン酒石酸塩の濃度が0.55g/Lになるように、飲料水で希釈した。得られた希釈水溶液のpHおよび味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を評価したところ、いずれもpHは6.82であり、またその味(酸味、塩味、甘味、または苦味)もすべて「◎」であった。
【0065】
さらに、この希釈水溶液を再び飲料水で希釈して、カルニチン酒石酸塩の濃度が0.275g/Lまたは0.138g/Lとなるように調整し、pHおよび味(酸味、塩味、甘味、または苦味)を評価したところ、それぞれpHは6.61、6.69であり、またその味(酸味、塩味、甘味、または苦味)もすべて「◎」であった。
【0066】
処方例1〜52
表6に従って、各種成分を混合して粉末組成物を調製し、次いで、これを1Lの飲料水に溶解して液状組成物(pH6.5)とした。
【0067】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチン塩およびpH調整剤を含有する飲用組成物であって、カルニチン塩の濃度が0.55g/Lになるように水に溶解したときの水溶液のpHが5以上となるように、pH調整剤を含有することを特徴とする飲用組成物。
【請求項2】
前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびL-アスコルビン酸ナトリウムからなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である、請求項1に記載する飲用組成物。
【請求項3】
前記水溶液のpHが5〜8である、請求項1または2に記載する飲用組成物。
【請求項4】
前記カルニチン塩が、酸塩である請求項1〜3のいずれか一項に記載にする飲用組成物。
【請求項5】
前記カルニチン塩が、カルニチンの酒石酸塩またはフマル酸塩である請求項4に記載する飲用組成物。
【請求項6】
液状である請求項1〜5のいずれか一項に記載する飲用組成物。
【請求項7】
カルニチン塩およびpH調整剤を含有する固体組成物を溶媒に溶解または分散する工程を有する、pH5以上の飲用組成物の調製方法であって、固体組成物は、カルニチン塩の濃度が0.55g/Lになるように水に溶解したときの水溶液のpHが5以上となるようにpH調整剤を含有することを特徴とする、飲用組成物の調製方法。

【公開番号】特開2012−135322(P2012−135322A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96590(P2012−96590)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【分割の表示】特願2006−352579(P2006−352579)の分割
【原出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】